説明

鋳造性及び耐食性に優れた無鉛快削性黄銅

【課題】
鉛(Pb)を含まず、かつ切削性、鋳造性、耐食性、機械特性等に優れた黄銅の提供。
【解決手段】
Cuを62wt%以上75wt%以下、Biを0.3wt%以上1.5wt%以下、S nを0.1wt%以上0.5wt%以下、Pを0.15wt%以上0.5wt%以下、 Alを0.1wt%以上1.0wt%以下、Bを0.0005wt%以上0.0035 wt%以下、Siを0.5wt%以上1.0wt%以下、見かけのZn含有量が37. 5%以上40.0%以下を満足する量、そして残部が実質的にZnと不可避不純物から なる黄銅とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛を含まない、いわゆる鉛フリーの黄銅に関し、さらに詳しくは鉛を含まないため水栓金具等に好ましく用いられる、切削性、鋳造性、耐食性、機械特性等に優れた鋳造用黄銅に関する。
【背景技術】
【0002】
水栓金具は一般に黄銅や青銅を材料として製造されており、その切削性を向上させるために鉛(Pb)が黄銅では2〜3wt%、青銅では4〜6wt%程度添加されている。しかしながら、近年、Pbの人体や環境に与える影響が懸念されるようになり、各国でPbに関する規制の動きが活発化している。例えば、米国カリフォルニア州では、2010年1月より、給水栓のPb含有量を0.25wt%以下とする規制が発効した。また、Pbの浸出量についても将来的には5ppm程度までの規制がなされるであろうと言われている。米国以外の国であっても、その規制の動きは顕著であり、これらPb含有量またはPb浸出量の規制に対応した材料の開発が求められている。
【0003】
ビスマス(Bi)は、黄銅においてPbと類似の挙動を示すことから、Pbに代えてBi添加した黄銅が提案されている(例えば、特許文献1)。また、Biを添加した系において、その切削性を改善するためホウ素(B)、ニッケル(Ni)等を添加することが開示されている(例えば、特許文献2)。さらに、Biを添加した系において、鉄(Fe)を添加することで結晶を微細化できるとの知見が開示されている(例えば、特許文献3)。しかしながら、これら従来技術が開示する系は、その鋳造性、とりわけ鋳造時の割れにおいて改善の余地を残すものであった。よって、Pbを含まず、かつ鋳造性、切削性、機械特性等に優れた黄銅への希求が依然として存在しているといえる。
【0004】
また、水栓金具は水回りで使用するため、基本特性の一つに耐食性を保持することがあげられる。耐食性を保持するために、Snを0.2%〜4%、Pを0.001〜0.5%の範囲で添加するなどして、脱亜鉛腐食と選択腐食を防止した黄銅が提案されている(例えば、特許文献4)。また、Sn、Al、Sb、Niなどを添加して、耐脱亜鉛腐食性能を高めた黄銅が提案されている(特許文献5)。しかしながら、耐食性向上元素として添加している、これらの元素は鋳造割れの感受性を高めたり、ヒケ性能が低下したりするなど鋳造性と密接に関連している。このため、特に銅合金を腐食しやすい低pH,高遊離炭酸濃度を含む環境でも問題なく使用できる優れた耐食性を有し、かつ鋳造性をも保持した従来技術はほとんどみられないの実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−310133号公報
【特許文献2】特開2005−290475号公報
【特許文献3】特開2001−59123号公報
【特許文献4】特開2001−64742号公報
【特許文献5】特許第2793041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明らは、今般、Pbに代えてBiを添加した黄銅において、耐食性向上効果のあるSn、PおよびAlを鋳造性を損なわない範囲で添加することで優れた耐食性を発現させ、かつ切削性、機械特性等にも優れる黄銅が得られるとの知見を得た。本発明は係る知見に基づくものである。
従って、本発明は、Pbを含まず、かつ切削性、鋳造性、耐食性、機械特性等に優れた黄銅の提供をその目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そして、本発明による黄銅は、
Cuを62wt%以上75wt%以下、
Biを0.3wt%以上1.5wt%以下、
Snを0.1wt%以上0.5wt%以下
Pを0.15wt%以上0.5wt%以下
Alを0.1wt%以上1.0wt%以下
Bを0.0005wt%以上0.0035wt%以下
Siを0.5wt%以上1.0wt%以下
見かけのZn含有量が37.5%以上40.0%以下
そして
残部が実質的にZnと不可避不純物からなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、Pbを含まず、かつ切削性、鋳造性、耐食性、機械特性等に優れた黄銅を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】鋳造割れ性を評価する、両端拘束型試験法に使用した金型1の形状を示す図である。
【図2】ヒケ試験を評価する、試験片の断面図を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
定義
本発明において、「不可避不純物」とは、特に断らない限り、0.1wt%未満の量の元素を意味する。但し、Sb、As、Mg、Se、Te、Fe、Co、Zr、Cr、およびTiについては不可避不純物に包含されるが、その量は本明細書において別途それぞれ定められる量の添加が許容される。この不可避不純物の量は、好ましくは0.05wt%未満である。
α相・β相
本発明による黄銅は、α相とβ相との合計比率が95%以上、好ましくは98%以上とされる。α相とβ相を主体とした結晶組織とすることで、良好な鋳造性を有する黄銅が実現できる。また、本発明にあっては、初晶α相のデンドライト晶出は避けることが好ましく、熱処理を施してβ相の比率を低減することで、さらに優れた耐食性を得ることができる。なお、本発明において、α相とβ相との合計比率は、結晶断面における面積比を基準とするものであり、例えば光学顕微鏡で撮影した結晶組織写真を画像処理して、α相とβ相との合計面積比率として求めることが出来る。
【0011】
Bi
本発明による黄銅は、Biを0.3wt%以上1.5wt%以下の範囲で含む。Biは、黄銅においてPbと類似の挙動を示すことから、Pbに代わりそれと同等の切削性を付与する。本発明において、良好な切削性を得るためにはBiは0.3wt%以上とされる。他方、Biが過剰であると、Biの凝集が生じる傾向にあり、その凝集した部分が鋳造割れの起点となるおそれがある。また耐食性向上元素の添加により、鋳造割れ感受性が高まることから、本発明においては、その上限は1.5wt%とされる。本発明の好ましい態様によれば、Biの好ましい下限値は0.5wt%以上であり、切削性を考慮すると、より好ましくは1.0wt%である。
【0012】
なお、本発明によれば、Pbを全く含まなくとも良好な切削性が実現される。Pbは全く含まれないことが好ましく、仮に含まれていたとしても、それは不可避不純物としての存在が許容されるに止まる。具体的には、人体や環境への配慮から0.5wt%以下、好ましくは0.1wt%以下とされる。
【0013】
BおよびSi
本発明において、Bは結晶(とりわけ初晶β相)の微細化を促進し、その結果、Biが微細分散され、鋳造時の割れを有効に防止できる。また、Siはβ相中に固溶し、鋳造割れの起点となるBiとβ相との界面の破断を緩和する作用を有していると推測される。また、本発明による黄銅は、この微細化の結果、機械的特性についても良好な性能を示す。
【0014】
Bは添加量が多いと、Fe、Cr等と金属間化合物を形成し、ハードスポットを形成して、鋳造後の成形品の表面加工時に不具合を生じる恐れがある。従って、本発明のごとく、表面に平滑性を求めるような場合では、Bの添加量を小さくするかおよび/またはFe、Cr等の含有量を小さくすることが好ましく、具体的にはBは、0.0025wt%以下、より好ましくは0.0015wt%以下とされ、Fe、Cr等は、0.1wt%より少なくすることが好ましい。
【0015】
また、Siは、後記するように、Guilletが提唱したZn当量が10であり、添加量が増えれば増えるほど、見かけ上のZn含有量が増え、結晶組織中にγ相やκ相といった異相が析出してしまうおそれがある。また多く固溶することで耐食性が低下する。そこで、本発明の一つの態様によれば、Siの添加量は1.0wt%以下とされ、好ましくは上限が0.8wt%以下である。
【0016】
本明細書において、見かけ上のZn含有量とは、Guilletが提唱した以下の式により算出される量を意味する。この式は、Zn以外の添加元素は、Znの添加と同じ傾向を示すという考え方に基づく。
見かけ上のZn含有量(%)=[(B+tq)/(A+B+tq)]×100
式中、A=Cuwt%、B=Znwt%、tは、添加元素のZn当量、qは、添加元素の添加量wt%を意味する。そして、各元素のZn当量は、Si=10、Al=6、Sn=2、Pb=1、Fe=0.9、Mn=0.5、Ni=−1.3である。BiのZn当量は未だ明確に規定されていないが、本明細書にあっては、文献等を考慮して0.6として計算する。また、それ以外の元素は、添加量が微量であり、Zn当量の値へ及ぼす影響も小さいため「1」とした。
【0017】
Cu、Zn、およびその他成分
本発明による黄銅は、銅(Cu)を62wt%以上75wt%以下含んでなる。Cuが上記範囲を上回ると、初晶α相のデンドライト晶出によるクラックの発生が懸念される。また、Cuが上記範囲を下回ると、α相の影響は受けがたくなるが、黄銅として性能の低下が懸念される。本発明の好ましい態様によれば、Cuの好ましい下限は62wt%であり、好ましい上限は70wt%である。
【0018】
なお、見かけ上のZn含有量が37.5〜40%にして、結晶相をα+β相比率95%以上に調整できれば、Cu分を上記範囲の上限部分でも利用できるため、Cu分の上限が多くなっている。
【0019】
本発明による黄銅は、上述の成分からなる部分の残部は実質的に亜鉛(Zn)からなる。本発明による黄銅は、黄銅の特性を改質するために種々の添加成分を含むことが可能である。また、本発明にあっては不可避不純物の存在を排除するものではないが、それらは出来るだけ少ないものとされることが好ましい。
【0020】
本発明の一つの態様によれば、Snを耐食性の向上のために添加するが、本発明による黄銅においては、鋳造割れやヒケを発生させやすくするおそれがある。Sn添加による耐食性の向上を得るためにはSnを0.1wt%以上を添加し、他方、過剰なSnは鋳造割れやヒケを生じさせるおそれがあることから、その上限は好ましくは0.5wt%以下である。Pと共存することで、耐食性の効果は飛躍的に向上するため、より少量のSnで優れた耐食性を付与することができるため、鋳造性能の改善が可能となる。
【0021】
また、本発明の一つの態様によれば、Pを耐食性向上のために添加するが、本発明による黄銅においては、Sn同様に鋳造割れやヒケを発生させやすくするおそれがある。P添加による耐食性の向上を効果的に得るにはPを0.15wt%以上を添加し、他方、過剰なP添加は鋳造割れやヒケに加え、耐圧性能や粒界腐食を生じさせるおそれがあることから、その上限は好ましくは0.5wt%以下である。
【0022】
さらに、本発明の一つの態様によれば、Alを耐食性向上のために添加するが、本発明による黄銅においては、鋳造割れやヒケを発生させやすくするおそれがある。Al添加による耐食性の向上を効果的に得るにはAlを0.1wt%以上を添加し、他方、過剰なAl添加は鋳造割れやヒケを生じさせるおそれがあることや、Pと共存した場合にはAl−P化合物を形成して機械特性を損なう恐れがあるため、その上限は好ましくは1.0wt%以下である。
【0023】
また、本発明の別の態様によれば、Alを耐食性向上以外にも湯流れ性や鋳肌性状の向上のために添加することができる。Al添加による耐食性、湯流れ性、鋳肌性状の向上をより効果的に得るためには、好ましくはAlを0.3wt%以上を添加する。
【0024】
本発明による黄銅では、強度向上のためにMnを添加すると、MnとSiの金属間化合物が生成してSiが消費されるため、鋳造割れを生じるおそれがある。Mnを利用しない場合には、鋳造割れ性への影響を抑えるために、その上限を0.3wt%未満とする。
【0025】
本発明による黄銅には、その他の成分、例えば微量の添加で耐食性向上に寄与するSb、微細化剤として、鋳造割れ性を改善し、強度の向上が期待できるFeなども目的に応じて添加元素を選択して添加しても良い。
【0026】
用途
本発明による黄銅は、Pbを含まず、一方でその切削性、鋳造性、耐食性、機械特性はPbを含む黄銅と同等またはそれ以上の性能を有することから、水栓金具材料に好ましく用いられる。具体的には、給水金具、排水金具、バルブなどの材料として好ましく用いられる。
【0027】
製造方法
本発明による黄銅を材料とする成型品は、その良好な鋳造性から、金型鋳造、砂型鋳造のいずれによっても製造可能であるが、金型鋳造においてその良好な鋳造性の効果をより享受できる。また、本発明による黄銅は、その切削性においても良好であるから、鋳造後に切削加工されてもよい。また、本発明による黄銅は、連続鋳造後に押し出しで成形される切削用棒材や鍛造用棒材、さらに抽伸により成形される線材とされてもよい。
本発明による黄銅は鋳造後、450〜550℃の温度で、30分以上3時間以下保持することで耐食性に劣るβ相を低減することができ、優れた耐食性能を発現させることができる。
【実施例】
【0028】
本発明を以下の実施例によって更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
評価試験
以下の実施例における各評価試験の詳細は以下の通りとした。
【0029】
(1)鋳造割れ性試験
鋳造割れ性を両端拘束型試験法により評価した。使用した金型1の形状は図1に示される通りであった。図1において、中央部に断熱材2を設け、中央部の冷却が、両端拘束部3よりも遅れるようにし、また拘束端距離(2L)は100mm、断熱材長さ(2l)は70mmとした。
試験は、拘束部が急冷されて両端が拘束され、その状態でさらに中央部で凝固が進むようにし、発生した凝固収縮応力により、最終凝固部となる試験片中央部で割れが生じるか否かを調べることにより行った。
その結果、割れなしの場合を◎、部分的に割れを生じたが、破断するまでには至らなかった場合を○、割れが発生し破断した場合を×と判定した。
【0030】
(2)ヒケ試験
図2には、ヒケ試験を示す試験片の断面図である。テーターモールド金型に材料を鋳込み、作製したテーターモールド試験片1を底面から65mmの高さで切り揃え、内ヒケ部分2に水3を充填し、その水3の重量を電子天秤で測定することで内ヒケ容積を算出した(内ヒケ部分に充填した水の重量=内ヒケ容積)。その後、材料を図2のように切断機で半割し、65mmで切り揃えた試験片1の上面から内ヒケ部2の最下部までの長さをノギスを用いて測定することで内ヒケ深さ4出した。黄銅鋳物3種(JIS CAC203)の内ヒケ容積、内ヒケ深さ4を100として、試験材の内ヒケ性能を指数化した。
ヒケ深さ指数=CAC203の内ヒケ深さ/試験材の内ヒケ深さ×100
ヒケ容積指数=CAC203の内ヒケ容積/試験材の内ヒケ容積×100
その結果、ヒケ深さ指数が85%以上を◎、70以上85%未満を○、70%未満を×と判定した。またヒケ容積指数についてもヒケ容積指数が85%以上を◎、70以上85%未満を○、70%未満を×と判定した。
【0031】
(3)切削性試験
直径35mm、長さ100mmの鋳塊を金型鋳造で作製し、外径部を旋削加工して切削性を評価した。具体的には、切削性は、黄銅鋳物3種(JIS CAC203)に対する切削抵抗指数で評価した。切削条件は、周速80〜175m/min、送り量0.07〜0.14mm/rev.、切り込み量0.25〜1mmとし、切削抵抗指数は下記式で算出した。
切削抵抗指数(%)=CAC203の切削抵抗/試験材の切削抵抗×100
その結果、切削抵抗指数が70%以上を◎、50以上70%未満を○、50%未満を×と判定した
【0032】
(4)機械特性試験
直径35mm、長さ100mmの鋳塊を金型鋳造で作製し、JIS Z 2201 14A号試験片に機械加工して引張試験を行った。すなわち、0.2%耐力、引張強さ、破断伸びを測定し、0.2%耐力が100N/mm2以上、引張強さが245N/mm2以上、破断伸びが15%以上を判定基準とした。3項目全てを満足する場合を◎、2項目を満足する場合を○、1項目以下しか満足できない場合を×と判定した。
(5)耐食性試験
金型鋳造で作製した直径35mm、長さ100mmの鋳塊を得て、530℃で2時間保持後空冷した材料を試験片として、日本伸銅協会技術標準 JBMA T−303−2007に準じて試験を行った。
最大侵食深さが100μm以下を◎、100μmを超えて300μm以下を○、300μmを超えるものを×と判定した。
(6)結晶相比率の測定
光学顕微鏡で撮影した結晶組織写真を画像処理し、α相及びβ相の面積比率を求めた。
【0033】
下記の表に記載の組成の黄銅を鋳造した。すなわち、電気Cu、電気Zn、電気Bi、電気Pb、電気Sn、Cu−30%Ni母合金、電気Al、Cu−15%Si母合金、Cu−2%B母合金、Cu−30%Mn母合金、Cu−10%Cr母合金、Cu−15%P母合金、Cu−10%Fe母合金等を原料として、高周波溶解炉で成分調整しながら溶解し、まず、両端拘束試験金型に鋳造して鋳造割れ性を評価した。
引き続き、円筒形金型に鋳造して直径35mm、長さ100mmの鋳塊を作製し、鋳塊を供試材として切削性および機械特性、耐食性の評価、結晶相比率の測定を行った。
その評価結果は以下の表に示される通りであった。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】

【0036】
【表3】

【0037】
【表4】

【0038】
【表5】

【0039】
【表6】

【0040】
【表7】

【0041】
【表8】

【0042】
【表9】

【0043】
例1〜4
Cu/Zn=60/40の黄銅にPbを2%添加した黄銅では、鋳造割れは発生しない。しかし、快削成分のPbの代替としてBiを添加すると鋳造割れが発生した。BiはPbと同様に切削性を改善するが、著しく鋳造割れが発生しやすい。
【0044】
例5〜9
Cu/Zn=60/40の黄銅をベースにSn、Ni、Sb、P、Alなどを添加して優れた耐食性を発現させた例であるが、これらの元素は添加するほど鋳造性を低下させてしまう元素であるため、実施例の範囲ではいずれの材料でも鋳造割れが発生した。
【0045】
例10〜15
Biを添加した黄銅における鋳造割れは、BとSiの添加で防止することができるが、例10のようにCuが75wt%を超えると鋳造割れが発生しやすくなる。一方、Cuは60wt%まで低くしても鋳造割れの発生は認められないが、Znが増えることでβ相の比率が増大し、伸びの低下と耐食性の低下が見られた。従って、良好な鋳造割れ性と優れた耐食性を得るためにはCuを75wt%以下とし、また良好な機械特性も同時に得るためにはCuを62wt%以上とする。
【0046】
例16〜24
BとSiの添加量を高くすると鋳造割れを防止する効果がより高まる。しかし、過剰にBを添加しすぎると、材料が硬質かつ脆くなり、Fe、Cr等と金属間化合物を形成し、ハードスポットを形成して、鋳造後の成形品の表面加工時に不具合を生じる恐れがある。従って、本発明のごとく、表面に平滑性を求めるような場合では、Bの添加量を小さくするかおよび/またはFe、Cr等の含有量を小さくすることが好ましく、具体的にはBは、0.0025wt%以下、より好ましくは0.0015wt%以下とされ、Fe、Cr等は、0.1wt%より少なくすることが好ましい。
【0047】
例25〜30
Biは添加量が多いほど切削性が向上し、0.3wt%以上の添加で効果が得られた。ただし高価な元素であるため、過剰に添加すると材料コストが高くなることから、4wt%以下に抑えることが好ましい。また、Biは鋳造割れ発生の起点となるため、添加量によって鋳造割れの発生しやすさが変化する。添加量が多くなるほど鋳造割れが発生する危険性が高くなるため、割れを防止するためにはBとSi添加量を増加させることが好ましい。本発明において、良好な切削性を得るためにはBiは0.3wt%以上とされる。他方、Biが過剰であると、Biの凝集が生じる傾向にあり、その凝集した部分が鋳造割れの起点となるおそれがある。また耐食性向上元素の添加により、鋳造割れ感受性が高まることから、その上限は1.5wt%とされる。
【0048】
例31〜35
例31〜35は、見かけのZn当量を37.5〜40%とすることで良好な鋳造性と優れた耐食性を得ることができることを示している。耐食性向上元素としてSnやPが添加されている場合、Zn当量が37.5%未満になると、初晶α相のデンドライトが発生し、鋳造割れが発生しやすくなる。一方、Zn当量が40%を超えるとβ相の比率が増大し、優れた耐食性保持が困難となる。
【0049】
例36〜37
Sn添加による耐食性の向上を得るためにはSnを0.1wt%以上を添加し、他方、過剰なSnは鋳造割れやヒケを生じさせるおそれがあることから、その上限は0.5wt%以下であることが好ましい。
【0050】
例38〜43
Pを耐食性向上のために添加するが、過剰な添加はSn同様に鋳造割れやヒケを発生させやすくするおそれがある。P添加による耐食性の向上を効果的に得るにはPを0.15wt%以上を添加し、他方、過剰なP添加は鋳造割れやヒケに加え、耐圧性能や粒界腐食を生じさせるおそれがあることから、その上限は好ましくは0.5wt%以下である。
SnとPが共存することで、耐食性の効果は飛躍的に向上するため、より少量のPで優れた耐食性を付与することができるため、鋳造性能の改善が可能となる。
【0051】
例44〜46
Al添加による耐食性の向上を効果的に得るにはAlを0.1wt%以上を添加し、他方、過剰なAl添加は鋳造割れやヒケを生じさせるおそれがあることや、Pと共存した場合にはAl−P化合物を形成して機械特性を損なう恐れがあるため、その上限は好ましくは1.0wt%以下である。
【0052】
例47〜51
これらの例は、不可避的不純物が存在し、鋳造割れを抑制するBとSiの添加量、耐食性を向上するSn、P、Alなどの添加量を最適化することで鋳造性、切削性、耐食性、機械特性をバランスよく保つことができる例である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cuを62wt%以上75wt%以下、
Biを0.3wt%以上1.5wt%以下、
Pを0.15wt%以上0.5wt%以下
Alを0.1wt%以上1.0wt%以下
Bを0.0005wt%以上0.0035wt%以下
Siを0.5wt%以上1.0wt%以下
そして
残部が実質的にZnと不可避不純物からなることを特徴とする耐食性黄銅。
【請求項2】
Cuを62wt%以上75wt%以下、
Biを0.3wt%以上1.5wt%以下、
Snを0.1wt%以上0.5wt%以下
Pを0.15wt%以上0.5wt%以下
Alを0.1wt%以上1.0wt%以下
Bを0.0005wt%以上0.0035wt%以下
Siを0.5wt%以上1.0wt%以下
そして
残部が実質的にZnと不可避不純物からなることを特徴とする耐食性黄銅。
【請求項3】
Cuを62wt%以上75wt%以下、
Biを0.3wt%以上1.5wt%以下、
Snを0.1wt%以上0.5wt%以下
Pを0.15wt%以上0.5wt%以下
Alを0.1wt%以上1.0wt%以下
Bを0.0005wt%以上0.0035wt%以下
Siを0.5wt%以上1.0wt%以下
見かけのZn含有量が37.5%以上40.0%以下
そして
残部が実質的にZnと不可避不純物からなることを特徴とする耐食性黄銅。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の黄銅に対して、Mnを0.3wt%未満の量添加されたことを特徴とする、黄銅。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の黄銅からなる、水栓金具。
【請求項6】
金型鋳造により製造された、請求項5に記載の水栓金具。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2010−242184(P2010−242184A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−93376(P2009−93376)
【出願日】平成21年4月7日(2009.4.7)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)