説明

鋳造末期における鋳型内電磁撹拌装置の制御方法

【課題】鋳造末期の鋳片の品質を向上させる。
【解決手段】鋳造速度が一定である定常域sの後に鋳造速度を減速する減速域dにおいて、定常域sの印加強度Bに対する減速域dの印加強度Bの比率Xが、[(20/T)×t+100]≦X≦180を満たすようにする。ここで、Tは、減速開始から鋳造終了までの減速域dの時間[min.]であり、tは、減速開始からの経過時間[min.]である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳型内電磁撹拌装置を用いた鋳造において、鋳造末期に印加強度を制御する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電磁力により鋳型内の溶鋼を撹拌させる鋳型内電磁撹拌装置を用いた鋳造が行われている。溶鋼を撹拌させることにより、凝固界面に捕捉される気泡またはアルミナ系介在物を洗い流し、鋳片品質を向上させるととともに、鋳型内の溶鋼温度の均一化及びメニスカス近傍の溶鋼温度の低下抑止が図られる。ここで、鋳造末期は、タンディッシュ内の溶鋼面上に浮上している介在物やスラグを巻込んで鋳造する可能性がある。そこで、特許文献1では、鋳造末期に、印加強度(磁束密度)を低下させ、撹拌力を弱めることにより、鋳型内での介在物やスラグの巻き込みを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭59−229266号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、タンディッシュ内の介在物やスラグが鋳型へ流出すると、溶鋼の清浄度が悪化し、介在物等が凝固界面に捕捉されやすくなる。介在物等が凝固界面から洗い流されることなく鋳片内に混入すると、鋳片の品質が低下してしまう。特に、鋳造末期は、タンディッシュから鋳型内へ介在物やスラグが流出し易い。このような時期に、特許文献1のように撹拌力を弱めてしまうと、介在物等の量が多いにもかかわらず、これらを洗浄する効果が弱いため、鋳片内に取り込まれる介在物等が多くなる。その結果、鋳造末期における鋳片の品質が低下する。
【0005】
また、特許文献1のように鋳造末期に撹拌力を弱めると、メニスカス近傍の溶鋼温度の低下を抑えることができないため、鋳型内の溶鋼表面が凝固しやすい。その結果、ディッケルの生成や溶鋼中の気泡及び介在物の取り込みが生じ、鋳造末期における鋳片の品質低下を招く。
【0006】
そこで、本発明は、鋳造末期の鋳片の品質を向上させることができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、鋳造速度が一定である定常域の後に鋳造速度を減速させる減速域において、前記定常域の印加強度Bに対する前記減速域の印加強度Bの比率Xが下記(1)式を満たすことを特徴とする鋳造末期における鋳型内電磁撹拌装置の制御方法である。
[(20/T)×t+100]≦X≦180・・・(1)
但し、Tは、鋳造速度の減速開始から鋳造終了までの時間[min.]
tは、鋳造速度の減速開始からの経過時間[min.]
tは、時間tにおける、定常域の印加強度Bに対する減速域の印加強度Bの比率[%]
【0008】
本発明によると、比率Xが所定の範囲内になるように、減速域の印加強度Bを制御することにより、鋳造末期において、凝固界面の洗浄効果を向上させることができるとともに、メニスカス近傍の溶鋼温度の低下を抑止できる。これにより、鋳片へのスラグの混入及び気泡や介在物の取り込みを防止できるため、鋳造末期の鋳片の品質を向上させることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、鋳造末期において、鋳片へのスラグの混入及び溶鋼中の気泡や介在物の取り込みを防止できるため、鋳造末期の鋳片の品質を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】(a)は本実施形態の連続鋳造機の一部の構成を示す断面模式図であり、(b)は(a)のIB−IB線に沿った断面図である。
【図2】(a)は鋳造速度と鋳造時間との関係を示す図であり、(b)は比率Xと鋳造時間との関係を示す図である。
【図3】比率Xと時間割合t/Tとの関係を示す図である。
【図4】実験条件(鋳造速度と鋳造時間との関係)を示す図である。
【図5】実験条件(鋳型の平面図)を示す図である。
【図6】実験結果(実施例)を示す図である。
【図7】実験結果(実施例)を示す図である。
【図8】実験結果(実施例)を示す図である。
【図9】実験結果(実施例)を示す図である。
【図10】実験結果(比較例)を示す図である。
【図11】実験結果(比較例)を示す図である。
【図12】実験結果(比較例)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0012】
図1に示すように、連続鋳造機100は、取鍋から供給される溶鋼を収容するタンディッシュ1と、タンディッシュ1の底部に取り付けられた浸漬ノズル2と、浸漬ノズル2の下部が配置された鋳型3と、鋳型3の外側に配置された鋳型内電磁撹拌装置4とを備えている。また、鋳型3内の溶鋼5上にモールドパウダー6が浮遊している。図1(b)に示すように、鋳型3は、平面視において略矩形状に形成されている。
【0013】
鋳型内電磁撹拌装置4は、鋳型3を挟んで互いに反対側に配置された1対のモータ4a,4bを有する。図1(b)に示すように、モータ4a,4bは、鋳型3の長辺に沿って設けられている。鋳型3内の溶鋼5は、主に、鋳型内電磁撹拌装置4により発生した電磁力と、浸漬ノズル2からの吐出流とによって流動する。図1(b)に示す矢印は、溶鋼5の流れ(一例)を示している。
【0014】
ところで、鋳造開始後、鋳造速度が操業上の所定の速度に達すると、この速度を維持した後、鋳造末期に減速する(図2(a)参照)。本実施形態では、鋳造速度が所定の速度に維持されている時期を「定常域s」と呼び、その後、鋳造速度を減速した時期を「減速域d」と呼ぶ。「減速域d」は、減速開始(「定常域s」終了時)から鋳造終了までであり、タンディッシュ1内の溶鋼量が規定量以下となった時点から減速を開始する。なお、図2,3では、鋳造初期を省略している。
【0015】
そして、本実施形態では、図2(b)に示すように、「減速域d」において、比率Xが所定の範囲内になるように、鋳型内電磁撹拌装置4の印加強度Bを制御して、溶鋼5の撹拌力を増大させることにより、凝固界面の洗浄効果を向上させるとともに、溶鋼5の温度低下を抑止する。ここで、比率Xとは、定常域sの印加強度Bに対する減速域dの印加強度Bの比率である。以下では、「減速域d」の印加強度Bの制御方法について、図3を参照しつつ、詳細に説明する。
【0016】
(比率Xの下限)
図1(a)において、鋳型3内の溶鋼5の撹拌力が小さい場合、凝固界面の洗浄力が弱いため、凝固界面に捕捉される介在物(スラグ)や気泡を十分に洗い流すことができない(図1(a)の凝固シェル7に付着した介在物や気泡8参照)。また、溶鋼5に供給される熱量が少ないため、溶鋼5の表面が凝固しやすい。ここで、上記「介在物」とは、取鍋から鋳型3へ流出したスラグや溶鋼5中の酸化物等を示す。また、「気泡」とは、溶鋼5中から浮上したものであり、浸漬ノズル2や浸漬ノズル2の上部に連結した上ノズルから吹き込まれるArガスによるものである。
【0017】
そこで、「減速域d」の『「定常域sの印加強度B」に対する「減速域dの印加強度B」の比率X』[%]が下記(A)式を満たすようにする。
[(20/T)×t+100]≦X・・・(A)
ここで、Tは、減速開始から鋳造終了までの時間(減速域dの時間)[min.]であり、タンディッシュ内に残存した溶鋼量等から算出される。
また、tは、減速開始からの経過時間[min.]であり、0≦t≦Tである。
さらに、Xtは、時間tにおける、「定常域sの印加強度B」に対する「減速域dの印加強度B」の比率[%]であり、下記(B)式で表される。
t=(B/B)×100・・・(B)
【0018】
上記(A)式において、Xの下限(X=(20/T)×t+100)は、図3に示すように、減速開始から鋳造終了まで比率Xを漸増させるとともに、鋳造終了時の比率Xを減速開始時の比率Xより20%増大させたものである。
【0019】
(比率Xの上限)
図1(a)において、鋳型3内の溶鋼5の撹拌力が大きすぎる場合、溶鋼表面が大きく変動し、溶鋼5上のモールドパウダー6が溶鋼5内に巻き込まれる。そこで、「減速域d」の『「定常域sの印加強度B」に対する「減速域dの印加強度B」の比率X』[%]が下記(C)式を満たすようにする。
≦180・・・(C)
【0020】
上記(C)式において、Xの上限(X=180)は、図3に示すように、減速開始から鋳造終了までの全域で比率Xが180%である場合を示す。
【0021】
以上から、鋳造末期の「減速域d」において、『「定常域sの印加強度B」に対する「減速域dの印加強度B」の比率X』[%]が下記(1)式を満たすように、減速域dの印加強度Bを制御する(図3参照)。図3では、下記(1)式を満たす領域を、領域Rとしている。
[(20/T)×t+100]≦X≦180・・・(1)
【0022】
ここで、本実施形態の操業条件を説明する。なお、下記の条件は一例であり、変更可能なものである。
・定常域sの鋳造速度(図2(a)に示すV
0.60[m/min.]以上2.3[m/min.]以下
・モールドパウダー
粘度:0.05Pa・s以上0.24Pa・s以下
・浸漬ノズル
吐出孔の角度が15°以上35°以下である2孔式ノズル
・溶鋼過熱度
10℃以上30℃以下
溶鋼過熱度は、「タンディッシュ内の溶鋼温度(測定温度)−凝固温度」から求められる。ここで、タンディッシュ内の溶鋼温度(測定温度)は、タンディッシュ内の底部に形成された注入孔の直上において、溶鋼表面から100mm以上200mm以下の深さまでバッチ測温棒を浸漬させて測定した温度である。
・鋼種
炭素含有量が0.01[mass%]以上1.05[mass%]以下
酸素含有量が0.0003[mass%]以上0.0010[mass%]以下
ここで、上記「酸素含有量」とは、鋼中に溶存した酸素の量(フリー酸素量)であり、介在物中の酸素量を含んでいない。したがって、上記「酸素含有量」は、フリー酸素量と介在物中の酸素量とを含めたトータル酸素量と異なる。
【0023】
また、本実施形態の鋳型内電磁撹拌装置4の制御方法は、下記の連続鋳造機等を用いた連続鋳造に適用することができる。
・(厚み)230mm×(幅)800mm以上1800mm以下のスラブを鋳造可能なスラブ連続鋳造機
・(厚み)380mm×(幅)600mmのブルームを鋳造可能なブルーム連続鋳造機
【0024】
以上に述べたように、本実施形態では、比率Xが上記(A)式を満たすように、減速域dの印加強度Bを制御することにより、溶鋼5の撹拌力を確保できる。これにより、凝固界面の洗浄効果を向上させることができるため、凝固界面に付着した介在物や気泡を十分に洗い流すことができる。よって、これらが鋳片に混入することを防止できる。また、溶鋼5へ十分な熱量を供給できるため、メニスカス近傍の溶鋼5の温度低下を抑止できる。これにより、溶鋼5表面の凝固を防止できるため、ディッケルの生成や溶鋼中の気泡及び介在物の取り込みを防止できる。
【0025】
また、比率Xが上記(C)式を満たすように、減速域dの印加強度Bを制御することにより、溶鋼5の湯面変動を抑えることができるため、モールドパウダー6の巻き込みを防止できる。
【0026】
このように、鋳造末期の減速域dにおいて、比率Xが(1)式を満たすように、減速域dの印加強度Bを制御することにより、鋳造末期における、凝固界面の洗浄効果を向上させることができるとともに、メニスカス近傍の溶鋼5の温度低下を防止できる。よって、鋳片に介在物や気泡が混入することを防止できるため、鋳造末期における鋳片の品質を向上させることができる。
【実施例】
【0027】
次に、本発明の実施例及び比較例を説明する。
【0028】
(実施例(実験番号1〜16),比較例(実験番号17〜28))
「減速域d」の『「定常域sの印加強度B」に対する「減速域dの印加強度B」の比率X』[%]を変えたときの鋳型内でのディッケルの生成の有無及び鋳片の欠陥の有無を調べた。
【0029】
表1には、実験条件と評価結果とを示しており、実験条件として、時間tにおける比率Xの一例を示している。また、図4,5には、実験条件を示し、図6〜12には、評価結果(比率Xと鋳造末期の時間割合t/Tとの関係)を示している。ここで、図6〜12の「鋳造末期」は「減速域d」を示す。なお、図10の「上限」は(1)式の上限(X=180)であり、図10〜12の「下限」は(1)式の下限(X=(20/T)×t+100)である。また、図6〜12では、鋳造初期及び定常域sを省略している。
【0030】
以下に、表1に示す実験条件及び評価結果を説明する。なお、表1に示す鋳型上部内寸の短辺Dは鋳片の厚みに相当し、長辺Wは鋳片の幅に相当する(図5参照)。また、本実施例及び比較例では、本実施形態で例示した操業条件(モールドパウダー、浸漬ノズル及び連続鋳造機等)と同じ条件で操業した。
【0031】
[実験条件]
<減速域dの鋳造速度>
減速域dの鋳造速度を、図4に示す下記の4つのパターンで変化させた。
パターン1:減速域dで鋳造速度を階段状に3回減速する。
パターン2:減速域dで鋳造速度を階段状に4回減速する。
パターン3:減速域dで鋳造速度を階段状に5回減速する。
パターン4:減速域dの全域で鋳造速度を漸減させる。
表1の「減速パターン」の欄には、図4に示すパターン番号を示している。なお、図4では、主に減速域dの鋳造速度を示し、鋳造初期及び定常域sの一部を省略している。
また、表1の「減速度(平均減速量)」の欄には、減速域dにおける単位時間当たりの平均減速量を示している(下記式参照)。

<減速域dの時間T(減速開始から鋳造終了までの時間)>
減速開始時にタンディッシュ内に残存した溶鋼量から時間Tを算出した。本実施例及び比較例では、溶鋼量が50ton以下になってから減速を開始した。図4に示すT,T,T,Tは、それぞれ、減速パターン1,2,3,4の時間Tである。また、図4では、パターン3,4の減速開始時が同時である場合を図示しているが、本実施例及び比較例にはパターン3,4の減速開始時が同時でない場合も含まれる。同様に、図3では、パターン1〜3(4)の減速開始時がそれぞれ異なる場合を図示しているが、本実施例及び比較例にはパターン1〜4の減速開始時が同時である場合も含まれる。
<磁束密度>
鋳型内のメニスカス位置(溶鋼表面)で測定した複数の磁束密度の平均磁束密度を算出した。図5に示すように、鋳型の対向する2つの長辺からそれぞれ10mm離れた位置において、鋳型の一方の短辺から1/4W,1/2W,3/4Wだけ離れた位置(合計6箇所)で磁束密度を測定した。表1には、これらの平均磁束密度を示している。
【0032】
[評価結果]
<ディッケルの生成>
溶鋼上にディッケルが生成している場合、鋳型内の溶鋼に検知棒を挿入すると、ディッケルによる反力(荷重)が検知棒に作用する。そこで、本実施例及び比較例では、減速域dにおいて、鉄線からなる検知棒を鋳型内の溶鋼に挿入し、抵抗なく検知棒を溶鋼内に挿入できたとき、溶鋼上にディッケルが生成していないと評価して、表1,2に「○」を示した。ここで、抵抗なく検知棒を溶鋼内に挿入できたときとは、ディッケルによる反力(荷重)が0.2kgf未満のときである。一方、検知棒を鋳型内の溶鋼に挿入し、0.2kgf以上の荷重を受けたときは、溶鋼上にディッケルが生成していると評価して、表1,2に「×」を示した。また、上記では、検知棒の挿入位置を、鋳型の短辺から1/2Wだけ離れた位置とした。なお、上述したディッケルの生成の評価は、特開平2−41740号公報に記載されたディッケル生成状況検出装置を用いた方法を参考にして行っている。
<表皮下欠陥の発生>
鋳片表層部におけるピンホール欠陥やモールドパウダー及び介在物等による欠陥の有無を調べた。鋳片表面をガス溶削(スカーフ)により表面処理(手入れ)し、鋳片表面から深さ1mm以上の欠陥が発生していなかったときに、製品不良が発生しないと評価して、表1に「○」を示した。一方、鋳片表面から深さ1mm以上の欠陥が発生していたときは、上記欠陥により、その後の圧延工程でヘゲ等の製品不良が発生すると評価して、表1に「×」を示した(出典:Steel Times(incorporating IRON & STEEL), APRIL 1989, VOL217, NO 4 ,p.180,図1)。
【0033】
【表1】

【0034】
表1及び図5〜11から、実施例(実験番号1〜16)では、減速域dの全域で比率Xが(1)式を満たす領域Rの範囲内にあり(図3参照)、このとき、ディッケルの生成を防止できるとともに、製品不良の発生を防止できることがわかった。一方、比較例(実験番号17〜28)では、減速域dで比率Xが、(1)式を満たさず領域Rの範囲外にあり、ディッケルの生成や製品不良の発生が生じることがわかった。
【0035】
比較例の実験番号17,18では、比率Xが(1)式の上限を超え(X>180[%])、溶鋼の撹拌力が大きかったため、溶鋼上のモールドパウダーが溶鋼内に巻き込まれて表皮下欠陥が生じたと考えられる。
【0036】
また、比較例の実験番号19〜28では、比率Xtが(1)式の下限より小さい場合があり(X<(20/T)×t+100)、溶鋼の撹拌力が小さかった。そのため、メニスカス近傍の溶鋼温度の低下を抑止できず、ディッケルが生成したと考えられる。また、凝固界面に付着した介在物や気泡を十分に洗い流すことができなかったため、凝固シェルに介在物や気泡が捕捉され、表皮下欠陥が生じたと考えられる。
【0037】
ここで、比率Xの下限について、実験番号1(実施例)と実験番号19(比較例)とを比較して説明する。
【0038】
実験番号1では、減速開始から鋳造終了まで比率Xを漸増させ、鋳造終了時の比率Xを鋳造開始時の比率Xより20%増大させたところ(X=(20/T)×t+100[%])、本発明の効果が得られた。これに対して、実験番号19では、減速開始から鋳造終了まで比率Xを漸増させ、鋳造終了時の比率Xを鋳造開始時の比率Xより10%増大させたところ(X=(10/T)×t+100[%])、本発明の効果が得られなかった。したがって、比率Xの下限をX=(20/T)×t+100とすることにより、本発明の効果が得られることがわかった。
【0039】
次に、比率Xの上限について、実験番号16(実施例)と実験番号18(比較例)とを比較して説明する。
【0040】
実験番号16では、減速域dの全域で比率Xを180[%]にしたところ(X=180)、本発明の効果が得られた。これに対して、実験番号18では、減速域dの全域で比率Xを186[%]にしたところ(X=186)、本発明の効果が得られなかった。したがって、比率Xの上限を180[%]とすることにより、本発明の効果が得られることがわかった。
【0041】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態及び実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能なものである。
【0042】
例えば、図2(b)に比率Xと鋳造時間との関係の一例を示したが、比率Xと鋳造時間との関係は、比率Xが(1)式を満たす限り変更可能である。また、本実施形態及び実施例(図2(b)及び図6〜12)では、減速域dの全域で、比率Xが増加する場合や比率Xが一定である場合について説明したが、比率Xは、上記に示す場合に限られない。例えば、減速域dの途中まで比率Xを増加させ、その後、比率Xを減少させてもよい。また、減速域dの途中まで比率Xを一定に維持し、その後、比率Xを減少させてもよい。
【0043】
また、図2(a)及び図4では、減速域dの全域で鋳造速度を漸減させる場合を示し、図4では、減速域dで鋳造速度を階段状に3〜5回減速する場合について示したが、減速域dの鋳造速度は図2(a)及び図4に示すものに限られない。例えば、減速域dの途中まで鋳造速度を漸減させ、その後、鋳造速度を一定にしてもよい。また、減速域dにおいて、鋳造速度を階段状に1回又は2回だけ減速させてもよい。
【0044】
さらに、鋳造初期の鋳造速度及び印加強度や、定常域sの鋳造速度及び印加強度は、減速域dのXが(1)式を満たす限り変更可能である。
【0045】
また、本発明の鋳型内電磁撹拌装置の制御方法は、鋳片の形状や鋼種に制限されず、様々な形状の鋳片(スラブ、ブルーム、ビレット等)や様々な鋼種の鋳造に適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明を利用すれば、鋳造末期の鋳片の品質を向上させることができる。
【符号の説明】
【0047】
1 タンディッシュ
2 浸漬ノズル
3 鋳型
4 鋳型内電磁撹拌装置
4a,4b モータ
5 溶鋼
6 モールドパウダー
7 凝固シェル
d 減速域
s 定常域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳造速度が一定である定常域の後に鋳造速度を減速させる減速域において、
前記定常域の印加強度Bに対する前記減速域の印加強度Bの比率Xが下記(1)式を満たすことを特徴とする、鋳造末期における鋳型内電磁撹拌装置の制御方法。
[(20/T)×t+100]≦X≦180・・・(1)
但し、Tは、鋳造速度の減速開始から鋳造終了までの時間[min.]
tは、鋳造速度の減速開始からの経過時間[min.]
tは、時間tにおける、定常域の印加強度Bに対する減速域の印加強度Bの比率[%]

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−94835(P2013−94835A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−241331(P2011−241331)
【出願日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】