説明

鋳造条件判定方法及び判定装置

【課題】製品あるいは金型毎に行われる解析の負荷を低減し、熟練度が低い作業者であっても、良品を得ることができる鋳造条件を短時間で設定することができるダイカストマシン用の鋳造条件判定方法及び判定装置を提供する。
【解決手段】ダイカストマシンの鋳造条件の設定において、CAEを利用した、給湯から射出に至るプランジャスリーブ内の溶湯挙動解析結果から求められた良品鋳造条件又は不良品鋳造条件を、鋳造条件記憶部にデータベースとして予め記憶させて、ダイカストマシンの鋳造条件を構成する複数の設定項目の設定値が入力され、入力設定値として表示されるとともに、前記入力設定値が、鋳造条件比較部により前記鋳造条件記憶部に記憶させた前記データベースと比較され、前記良品鋳造条件に適合しない前記入力設定値、又は、前記不良品鋳造条件に適合する前記入力設定値に対して警告が発せられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイカストマシンの鋳造条件の設定における鋳造条件判定方法及び判定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ダイカストマシンを使用した鋳造においては、良品を得るために、給湯量(鋳込み重量)、射出低速速度、射出高速速度、射出速度切換位置、昇圧時間、鋳造圧力、型締力、各種タイマー値などの複数の設定項目から構成される鋳造条件を適切にダイカストマシンに入力し設定する必要がある。
【0003】
従来、これら鋳造条件のダイカストマシンへの設定は、鋳造現場において、作業者がとりあえず設定した鋳造条件に基づいて実際に鋳造して製品を確認し、鋳造条件の、不良要因を解決可能と推測される設定項目の設定値、あるいは、より良品を得られると推測される設定項目の設定値を入力し直した後、再び鋳造して製品を確認するという作業の繰り返しによって行われている。そのため、ひとつの製品あるいは金型に対応する、良品が得られる鋳造条件を設定するのに時間が掛かるという問題がある。また、鋳造された製品を確認して、鋳造条件のどの項目をどのくらい変更するとどのような状況が改善され良品が得られるかという判断は、作業者の経験や勘に依存する部分が大きく、作業者の熟練度が低い場合は、良品が得られる鋳造条件の設定に多くの時間が必要であったり、時間の制約から、製品の品質が要求品質を満たす鋳造条件が設定できなかったり、設定できたとしても、良品率が上がらず製品の製造コストが高くなったりするといった問題もある。
【0004】
特許文献1には、マンマシンインターフェースによるデータ入力部によって金型データ、製品データなどの各種既知データが入力され、鋳造条件演算部がデータ入力部によって入力された金型データ、製品データなどにより各種鋳造条件値を予め定義された計算式により算出し、その各種鋳造条件値が画面表示部に画面表示されると共に鋳造条件設定部にダイカストマシンにおける鋳造条件値として自動設定される鋳造条件設定装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−58115号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の鋳造条件設定装置によれば、作業者によってデータ入力部から入力された金型データや製品データなどの各種既知データから、予め定義された計算式を使用して、各種鋳造条件値が鋳造条件演算部により演算され、演算された各種鋳造条件が鋳造条件設定部により自動設定される。また、予め定義された計算式にはパラメータ設定された修正項係数が含まれ、ユーザ各自の経験則やノーハウを計算式に加味することができる。更に、鋳造条件設定値はマンマシンインターフェース部により変更可能であり、変更された鋳造条件設定値と鋳造条件演算部により演算された鋳造条件値とを比較して変更された鋳造条件設定値が鋳造条件値に対して所定値以上異なっている場合にはアラーム出力を行う鋳造条件設定値適否判別部を有している。
【0007】
しかしながら、特許文献1の鋳造条件設定装置は、関数電卓やパソコンの表計算ソフトなどで容易に演算できるような計算式を予め計算式データメモリに記憶させておき、入力値に基づくこれらの計算式による各種鋳造条件値の演算と、演算によって求められた演算値のダイカストマシンへの入力及び設定とを自動化したに過ぎない。また、予め定義された計算式にはパラメータ設定される修正項係数が含まれ、ユーザ各自の経験則やノーハウを計算式に加味することができるとされている。しかしながら、ユーザ各自の経験則やノーハウを計算式に加味するための修正項係数は、各種鋳造条件値を求める計算式に単独で乗算されるだけなので各演算値を増減する効果しかない。ましてや、各種既知データや、既知データから演算された演算値など、その鋳造条件を構成する互いに関連する各設定項目に係るユーザ各自の経験則やノーハウを的確に鋳造条件に加味することは困難であると言わざるを得ない。
【0008】
更に、鋳造条件設定値を作業者が変更した場合、変更された鋳造条件設定値と鋳造条件演算部により演算された鋳造条件値とを比較して、変更された鋳造条件設定値が鋳造条件値に対して所定値以上異なっている場合にはアラーム出力を行う鋳造条件設定値適否判別部を有しているとされている。しかしながら、初めて鋳造する製品あるいは金型で、比較対象となる鋳造条件設定値がない状態においては、鋳造条件設定値の変更が適切でない場合のアラーム出力を行うことはできない。それ以前に、鋳造条件として入力される各種既知データがダイカストマシンの仕様上適切かどうかの判定や、これら各種既知データや、既知データから演算された演算値がユーザ各自の経験則やノーハウに照らして適切かどうかの判定もできない。また、新たに入力する設定値に関する推奨値や適正値などの情報を作業者に提供することもできない。
【0009】
また、前述したように、特許文献1の鋳造条件設定装置においては、金型厚さ、製品肉厚、製品重量、鋳込重量、投影面積、ゲート断面積、プランジャチップ径、充填ストローク、空打ちストローク、ビスケット厚さなどのデータから、各種鋳造条件値が予め定義された計算式により演算され、これら鋳造条件値がダイカストマシンに自動設定されるとしている。しかしながら、これら鋳造条件値は、予め定義された計算式により演算されたものなので、計算式では演算することが困難な、給湯から射出に至るプランジャスリーブ内の溶湯挙動解析や、金型に溶湯(溶融金属)が充填される際の溶湯挙動解析や充填後の製品の金型内での溶湯凝固解析などからしか予測することができない、プランジャスリーブ内や金型内で発生する各種製品不良要因を回避できるものではない。よって、特許文献1の鋳造条件設定装置により自動設定される鋳造条件は、鋳造可能な鋳造条件であっても、良品を得られる鋳造条件にはなり得ず、実際の鋳造現場においては、これらのデータから演算された鋳造条件に基づき、実際に鋳造して製品を確認し、作業者の経験や勘により、各種鋳造条件値の、不良要因を解決可能と推測される設定項目の設定値、あるいは、より良品を得られると推測される設定項目の設定値を入力し直した後、再び鋳造して製品を確認するという作業が必要である。また、その作業において、作業者の経験や勘に依存することなく論理的に鋳造条件を設定するための作業者への案内などもない。
【0010】
以上述べたように、特許文献1の鋳造条件設定装置であっても、熟練度が低い作業者が、鋳造条件が設定されていない新しい製品や金型の鋳造条件を、論理的に設定することは難しく、特許文献1の鋳造条件設定装置により自動設定された鋳造条件であっても、作業者が実際に鋳造して製品を確認し、鋳造条件の、不良要因を解決可能と推測される設定項目の設定値、あるいは、より良品を得られると推測される設定項目の設定値を入力し直した後、再び鋳造して製品を確認するという作業は依然必要であり、また、その作業において、作業者の経験や勘に依存することなく論理的に鋳造条件を設定するための作業者への案内などもない。よって、作業者の経験や勘に依存することなく論理的に鋳造条件を設定でき、併せて鋳造条件の設定に要する時間を従来に比して短縮でき、ダイカストマシンの稼働率を向上できる、という特許文献1に記載されている効果を奏することは難しいと言わざるを得ない。
【0011】
ここで、上記のような、作業者の経験や勘により、良品を得ることができる鋳造条件を設定する作業に要する時間を短縮するために、CAEを利用した、金型内の溶湯挙動解析や製品の凝固解析を行い、適切と思われる鋳造条件を求めたり、修正すべき鋳造条件の設定項目や設定値を絞り込んだりすることが行われている。近年、コンピュータや解析ソフトウエアの技術進歩により、解析の専門家に依頼しなくても、汎用のパソコンと市販の解析ソフトウエアとを使用して、これらの解析を鋳造業者自身が行うことも可能になり、良品が得られる鋳造条件を設定していく作業に活用している鋳造現場もある。
【0012】
しかしながら、これらの解析には金型のキャドデータ(図面データ)が必要であり、また、製品あるいは金型毎に、都度、解析を行う必要がある。すなわち、ある程度整備されたコンピュータ使用環境と、コンピュータシステムと鋳造技術との両方の知識を有する人材とが必要であり、これら使用環境を整備する費用や人材の観点から、すべての鋳造業者がこのような解析を導入することは難しい。更に、近年の鋳造現場では、多種少量生産化による金型数の増加、あるいは金型構造の複雑化も顕著であり、その反面、鋳造現場からの人離れや作業者の高齢化などで、鋳造に熟練した作業者を必要人数確保することが難しくなっている。このような鋳造現場においては、製品あるいは金型毎に行われる解析の負荷を低減し、熟練度の低い作業者であっても、良品を得ることができる鋳造条件を短時間で設定することができる鋳造条件判定方法やその判定装置が切望されている。
【0013】
本発明は、上記したような問題点に鑑みてなされたもので、製品あるいは金型毎に行われる解析の負荷を低減し、熟練度が低い作業者であっても、良品を得ることができる鋳造条件を短時間で設定することができるダイカストマシン用の鋳造条件判定方法及び判定装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の上記目的は、請求項1に示すように、ダイカストマシンの鋳造条件の設定において、
CAEを利用した、給湯から射出に至るプランジャスリーブ内の溶湯挙動解析結果から求められた良品鋳造条件又は不良品鋳造条件を、鋳造条件記憶部にデータベースとして予め記憶させて、
ダイカストマシンの鋳造条件を構成する複数の設定項目の設定値が、鋳造条件入力部から入力され、鋳造条件表示部に入力設定値として表示されるとともに、
前記入力設定値が、鋳造条件比較部により前記鋳造条件記憶部に記憶させた前記データベースと比較され、
前記良品鋳造条件に適合しない前記入力設定値、又は、前記不良品鋳造条件に適合する前記入力設定値に対して警告が発せられることを特徴とする鋳造条件判定方法によって達成される。
【0015】
すなわち、予め鋳造条件記憶部に記憶させた良品鋳造条件又は不良品鋳造条件のデータベースが、CAEを利用した、給湯から射出に至るプランジャスリーブ内の溶湯挙動解析結果から求められているので、これらのデータベースに基づく鋳造条件であれば、計算式から演算された鋳造条件では回避することができない、プランジャスリーブ内での製品の不良要因の発生を回避できる。更に、入力設定値がこれらのデータベースと比較され、不適切な入力設定値に対して警告が発せられるので、熟練度が低い作業員であっても、初めての製品あるいは金型で、鋳造条件がまだ設定されていない場合であっても、適切な鋳造条件を設定することができる。更に、データベースが良品鋳造条件だけでなく不良品鋳造条件も含むように構成されれば、入力設定値とデータベースとの比較がより確実に行われる。
【0016】
更に、請求項2に示すように、前記データベースが、
前記溶湯挙動解析結果から確認されるプランジャスリーブ内での、
1)溶湯の分流子端への乗り上げ現象
2)プランジャスリーブ内壁と溶湯の境界面における溶湯温度の凝固層形成温度までの低下現象
3)溶湯温度の所定温度までの低下現象
4)溶湯への空気の巻き込み現象
5)溶湯の空気接触面における酸化膜形成現象
の少なくともいずれかひとつの現象の発生を、不良品の発生と判定する判定基準から求められた良品鋳造条件又は不良品鋳造条件のデータベースであることを特徴とする請求項1記載の鋳造条件判定方法が好ましい。
【0017】
すなわち、不良品の発生と判定する判定基準を、プランジャスリーブ内で発生する現象として明確にしたので、同じ解析ソフトウエアを使用すれば、解析結果の良品鋳造条件又は不良品鋳造条件への反映を、解析者の経験や力量に依存せずに行うことができる。
【0018】
また、請求項3に示すように、前記データベースが、基準値と該基準値に対する上下の許容範囲とで規定される数値範囲、あるいは、上限値と下限値とで規定される数値範囲のいずれかで定義された適正値又は不適正値からなる設定項目を含むとともに、
ひとつの前記入力設定値が入力される度に、前記入力設定値に対応する設定項目の前記適正値又は前記不適正値が、前記鋳造条件比較部により前記データベースから選択され、前記入力設定値と比較可能に、前記鋳造条件表示部に表示されることを特徴とする請求項1乃至請求項2記載の鋳造条件判定方法であってもよい。
【0019】
鋳造条件には、プランジャスリーブ内径のように、選択できる設定値が決まっている設定項目もあれば、給湯量のように、ある数値範囲の中で設定値が任意で選択される設定項目もある。前者であれば、入力設定値と、入力設定値に対応する設定項目の適正値又は不適正値とを鋳造条件表示部で同時に比較することができる。後者であれば、入力設定値が、対応する設定項目の適正値又は不適正値の数値範囲のどの位置であるかが明確になる。いずれの場合も、入力設定値が不適正値と判定された場合、表示されたその入力設定値に対応する適正値又は不適正値と比較しながら、適切な入力設定値を再入力することができるので、適切な鋳造条件を設定することができる。また、データベースの各設定項目の適正値又は不適正値を、基準値とその基準値に対する上限下限の許容範囲とで規定される範囲で定義すれば、鋳造条件表示部を確認した際に、それぞれの鋳造条件の基準値とその許容範囲とが明確になる。また、上限値と下限値とで規定される範囲で定義すれば、表示項目が少ないので鋳造条件表示部が見やすくなる。各設定項目をいずれの定義で表示させるかは、ユーザや作業者が適宜選択できるようにされることが好ましい。
【0020】
次に、請求項4に示すように、ひとつの前記入力設定値が入力される度に、まだ入力されていない未入力設定値に対応する設定項目の前記適正値又は前記不適正値が前記データベースから選択可能かどうか、前記鋳造条件比較部により判定され、選択可能な場合に、前記未入力設定値の入力後の表示と比較可能に、前記鋳造条件表示部に表示されることを特徴とする請求項1乃至請求項3記載の鋳造条件判定方法であってもよい。
【0021】
鋳造条件のように、互いに影響を及ぼす複数の設定項目から構成される条件は、各設定項目の設定値の組み合わせであるから、入力された設定項目数が増えると残りの未入力設定値に対応する項目の適正値又は不適正値を特定できる場合がある。ひとつの入力設定値が入力される度に、残りの未入力設定値に対応する設定項目の適正値又は不適正値が、データベースから選択可能かどうか判定され、選択可能な場合に鋳造条件表示部に表示されれば、熟練度が低い作業員であっても未入力設定値の決定及び入力が容易である。
【0022】
次に、請求項5に示すように、前記数値範囲で定義された前記適正値又は前記不適正値からなるひとつの設定項目を、前記数値範囲の分割により複数に分割させた設定項目を前記データベースが含むとともに、
ひとつの前記入力設定値が入力される度に、入力された前記入力設定値と、既に入力されている入力済み設定値とが、ひとつの鋳造条件として前記鋳造条件比較部により前記データベースと比較され、
前記良品鋳造条件に適合しない前記入力設定値及び前記入力済み設定値、又は、前記不良品鋳造条件に適合する前記入力設定値及び前記入力済み設定値に対して警告が発せられることを特徴とする請求項3乃至請求項4記載の鋳造条件判定方法であってもよい。
【0023】
鋳造条件は、互いに影響を及ぼす複数の設定項目の設定値の組み合わせであるから、数値範囲を有する設定項目の適正値又は不適正値の数値範囲をひとつに限定すると、その数値範囲の大きさによって、影響を受ける他の項目の数値範囲が過大になり、不適切な数値範囲を含んだり、逆に数値範囲が極端に狭くなったり、全く無くなったりする場合がある。よって、このような鋳造条件の特性を考慮し、適切なデータベースを構築するために、数値範囲で定義された適正値又は不適正値からなるひとつの設定項目を、前記数値範囲の分割により複数に分割させた設定項目を含むようにデータベースが構成されてもよい。
【0024】
これにより、同じ設定項目でも、その数値範囲内の異なる入力設定値に対して、対応する他の設定項目の適正値又は不適正値の数値範囲も変わる。すなわち、数値範囲の分割を前提に、ひとつの設定項目の適用可能な適正値又は不適正値の分割させた数値範囲を合わせた合計数値範囲を分割前より広くするとともに、鋳造条件として選択される設定項目の適正値又は不適正値の分割させた数値範囲を分割前より狭くすることができる。これは、良品鋳造条件又は不良品鋳造条件の数値範囲で定義された適正値又は不適正値からなる設定項目の数値範囲がより適切に絞り込まれるとともに、鋳造条件のバリエーションが増えることに他ならない。また、ひとつの入力設定値が入力される度に、入力設定値と入力済み設定値とを合わせたものが、ひとつの鋳造条件として前記鋳造条件比較部によりデータベースと比較されるので、入力設定値だけでなく、入力済み設定値もその適正値又は不適正値の数値範囲が都度見直される。その結果、入力時は適正値と判定された入力済み設定値であっても、入力された設定項目数の増加に伴い、不適正値と判定されれば警告が発せられるので、熟練度が低い作業員であってもより適切な鋳造条件を設定することができる。
【0025】
次に、請求項6に示すように、ひとつの前記入力設定値が入力される度に、前記入力済み設定値に対応する項目の前記適正値又は前記不適正値が、前記鋳造条件比較部により前記データベースから選択され、前記入力済み設定値の表示と比較可能に、前記鋳造条件表示部に表示されることを特徴とする請求項5記載の鋳造条件判定方法が好ましい。
【0026】
すなわち、ひとつの入力設定値が入力される度に、入力設定値だけでなく入力済み設定値も、対応する設定項目の適正値又は不適正値の数値範囲が都度見直され、入力済み設定値と比較可能に表示されるので、入力済み設定値が、対応する設定項目の適正値又は不適正値の数値範囲のどの位置であるかが明確になるとともに、入力済み設定値が不適正値と判定された場合、表示されたその入力済み設定値に対応する適正値又は不適正値と比較しながら、適切な入力設定値を再入力することができる。更には、入力済み設定値の適正値又は不適正値の表示が変更された場合、入力された入力設定値の設定項目が他の設定項目をどのくらい変更させるかという各設定項目の他の設定項目への影響度が、熟練度の低い作業者にも理解し易く、より適切な鋳造条件の設定に役立つ。
【0027】
また、本発明の上記目的は、請求項7に示すように、ダイカストマシンの鋳造条件の設定において、
CAEを利用した、ダイカストマシンの給湯から射出に至るプランジャスリーブ内の溶湯挙動解析結果から求められた良品鋳造条件又は不良品鋳造条件を、データベースとして予め記憶させた鋳造条件記憶部と、
鋳造条件が入力される鋳造条件入力部と、
入力された鋳造条件が表示される鋳造条件表示部と、
前記入力された鋳造条件が、前記鋳造条件記憶部に記憶させた前記良品鋳造条件又は前記不良品鋳造条件の前記データベースと比較される鋳造条件比較部と、
を備えたことを特徴とする鋳造条件判定装置によって達成される。
【0028】
このような鋳造条件判定装置によって、請求項1記載の鋳造条件判定方法が可能となる。
【発明の効果】
【0029】
本発明に係る鋳造条件判定方法は、ダイカストマシンの鋳造条件の設定において、
CAEを利用した、給湯から射出に至るプランジャスリーブ内の溶湯挙動解析結果から求められた良品鋳造条件又は不良品鋳造条件を、鋳造条件記憶部にデータベースとして予め記憶させて、
ダイカストマシンの鋳造条件を構成する複数の設定項目の設定値が、鋳造条件入力部から入力され、鋳造条件表示部に入力設定値として表示されるとともに、
前記入力設定値が、鋳造条件比較部により前記鋳造条件記憶部に記憶させた前記データベースと比較され、
前記良品鋳造条件に適合しない前記入力設定値、又は、前記不良品鋳造条件に適合する前記入力設定値に対して警告が発せられるので、製品あるいは金型毎に行われる解析の負荷を低減し、熟練度が低い作業者であっても、良品を得ることができる鋳造条件を短時間で設定することができる。
【0030】
また、本発明に係る鋳造条件判定装置は、ダイカストマシンの鋳造条件の設定において、
CAEを利用した、ダイカストマシンの給湯から射出に至るプランジャスリーブ内の溶湯挙動解析結果から求められた良品鋳造条件又は不良品鋳造条件を、データベースとして予め記憶させた鋳造条件記憶部と、
鋳造条件が入力される鋳造条件入力部と、
入力された鋳造条件が表示される鋳造条件表示部と、
前記入力された鋳造条件が、前記鋳造条件記憶部に記憶させた前記良品鋳造条件又は前記不良品鋳造条件の前記データベースと比較される鋳造条件比較部と、
を備えたことを特徴とする鋳造条件判定装置としたので、製品あるいは金型毎に行われる解析の負荷を低減し、熟練度が低い作業者であっても、良品を得ることができる鋳造条件を短時間で設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施例1の鋳造条件判定装置に係るブロック線図である。
【図2】本発明の実施例1の鋳造条件判定方法における、給湯から射出に至るプランジャスリーブ内溶湯挙動解析方法に係るフローチャート図である。
【図3】図2のフローチャート図における、溶湯の分流子端への乗り上げ現象に係る概念図である。
【図4】図2のフローチャート図における、プランジャスリーブ内壁と溶湯の境界面における溶湯温度の凝固層形成温度までの低下現象に係る概念図である。
【図5】図3のフローチャート図における、溶湯への空気の巻き込み現象に係る概念図である。
【図6】図3のフローチャート図における、溶湯の空気接触部面における酸化膜形成現象に係る概念図である。
【図7】本発明の実施例1の鋳造条件判定方法に係るフローチャート図である。
【図8】本発明の実施例2の鋳造条件判定方法に係るフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明を実施するための形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
【実施例1】
【0033】
図1乃至図7を参照しながら本発明の実施例1を説明する。図1は本発明の実施例1の鋳造条件判定装置に係るブロック線図である。図2は本発明の実施例1の鋳造条件判定方法における、給湯から射出に至るプランジャスリーブ内溶湯挙動解析方法に係るフローチャート図である。図3は図2のフローチャート図における、溶湯の分流子端への乗り上げ現象に係る概念図である。図3(a)はプランジャチップ31の前進に伴い、プランジャスリーブ32内に給湯された溶湯41が波立ち、その先端部41aが分流子(ビスケット部)端41bに乗り上げた状態、図3(b)はプランジャスリーブ32内の溶湯41の波立ちの戻りにより、分流子端41bに乗り上げた先端部41aがそのまま凝固した状態、図3(c)は凝固した先端部41aが、プランジャチップ31の前進に伴い、製品部分に混入した状態を示す。図4は図2のフローチャート図における、プランジャスリーブ内壁と溶湯の境界面における溶湯温度の凝固層形成温度までの低下現象に係る概念図である。図4(a)はプランジャスリーブ32内に給湯された溶湯41が、プランジャスリーブ32の内壁境界面において凝固層41eを発生させた状態、図4(b)は図4(a)のX−X矢視における断面図である。図5は図2のフローチャート図における、溶湯への空気の巻き込み現象に係る概念図である。図5(a)はプランジャチップ31の前進に伴い、プランジャスリーブ32内に給湯された溶湯41が波立っている状態、図5(b)はプランジャスリーブ32内の溶湯41の波立ちにより、プランジャスリーブ31内の空気41fが溶湯41へ巻き込まれようとしている状態、図5(c)はプランジャチップ31の前進に伴い、溶湯41に巻き込まれた空気41fが、製品部分に混入されていく状態を示す。図6は、図3のフローチャート図における、溶湯の空気接触面における酸化膜形成現象に係る概念図である。図6(a)はプランジャスリーブ32内に給湯された溶湯41の空気接触面において酸化膜41gを発生させた状態、図6(b)は図6(a)のX−X矢視における断面図である。図7は本発明の実施例1の鋳造条件判定方法に係るフローチャート図である。
【0034】
最初に、鋳造条件判定装置の構成について説明する。図1に示すブロック線図の一点鎖線で囲まれる範囲が鋳造条件判定装置5である。鋳造条件判定装置5は、鋳造条件入力部11、鋳造条件比較部23、鋳造条件記憶部19、鋳造条件表示部13の4要素を備えている。鋳造条件判定装置5は、鋳造条件比較部23を経由して、ダイカストマシン1を制御するダイカストマシン制御部3と接続される。ダイカストマシン制御部3は、鋳造条件比較部23より伝達された鋳造条件に基づいてダイカストマシン1を制御する。
【0035】
鋳造条件入力部11は鋳造条件判定装置5の操作部を兼ね、鋳造条件の入力・修正だけでなく、登録済み鋳造条件の呼び出しや、良品鋳造条件及び不良品鋳造条件のデータベースの入力・修正や、鋳造条件表示部13の表示設定もできるように構成されている。具体的には、キーボードやタッチパネルなどの手入力手段とパソコンなどからの直接データ入出力を可能とする入出力ポートなどの電気的入出力手段とから構成される。良品鋳造条件及び不良品鋳造条件のデータベースなどの比較的大容量データは、パソコンなどで作成したデータを入出力ポートなどの電気的入出力手段から直接入力し、鋳造現場における諸修正はキーボードやタッチパネルなどの手入力手段から行う。データベースや登録済み鋳造条件は定期的にパソコンなどでダウンロードして、最新バックアップデータとして管理されることが好ましい。また、タッチパネルなどの表示機能も備えた手入力手段が選択された場合、後述する鋳造条件表示部13の機能を共有させてもよい。
【0036】
鋳造条件比較部23は鋳造条件入力部11からの入力設定値を鋳造条件記憶部19に伝達するとともに、入力設定値と、データベースの対応する設定項目の適正値又は不適正値との比較を行う。また、比較結果の鋳造条件表示部13への伝達や、登録済み鋳造条件の呼び出しへの対応も行なわれる。更に、未入力設定値に対応する設定項目の適正値又は不適正値の選択可否判定や、入力済み設定値と、対応する設定項目の適正値又は不適正値との比較を行わせてもよい。具体的には、プロセッシングユニットなどの電気的演算手段で構成される。
【0037】
鋳造条件記憶部19は、良品鋳造条件又は不良品鋳造条件のデータベースや、製品あるいは金型毎の登録済み鋳造条件や、設定中の鋳造条件などが記憶されており、入力設定値に対応する適正値又は不適正値の提供や、登録済み鋳造条件の呼び出しに対応する登録済み鋳造条件の提供も行われる。未入力設定値や入力済み設定値に対応する適正値又は不適正値の提供を行わせてもよい。具体的には、ハードディスクや各種メモリーカード及び対応するカードスロットなどの電気的記憶手段から構成される。
【0038】
鋳造条件表示部13は、鋳造条件比較部23からの指示に基づき、各種鋳造条件の入力設定値が設定項目毎に表示される。また、入力設定値の表示と比較可能に、良品鋳造条件又は不良品鋳造条件のデータベースから、対応する適正値又は不適正値が表示されるようにしてもよい。更には、未入力設定値や入力済み設定値に対応する適正値又は不適正値が表示されるようにしてもよい。具体的には、機械式カウンター(数値表示器)や、液晶パネル式やLEDパネル式の電気式カウンターや、液晶パネルなどの数値表示手段で構成される。作業者の視認性などを考慮すると、表示デザインの自由度が高い液晶パネルなどが好ましい。鋳造条件比較部23からの指示に基づき、不適正な入力設定値や入力済み設定値が明確になるように、該当する設定値の表示を点滅させる、あるいは表示色を変えるなどの動画要素を取り入れた警告表示や、警告内容を示すメッセージ表示などがあれば、作業者に注意をより促すことができる。また、前述したように、鋳造条件入力部11がタッチパネルなどの表示機能も備えた手入力手段の場合は、鋳造条件表示部13の機能を鋳造条件入力部11に共有させてもよい。
【0039】
次に、CAEを利用した、給湯から射出に至るプランジャスリーブ内の溶湯挙動解析について説明する。この解析は、計算式では演算することが困難な、給湯から射出に至るプランジャスリーブ内での不良品要因の発生を回避できる鋳造条件を求めるために行うものである。予め、鋳造条件を構成する複数の設定項目の各設定値を適宜変更して種々のパターンの解析を行い、得られた解析結果を、後述する判定基準に基づいて評価することにより、これら解析結果を良品鋳造条件又は不良品鋳造条件に反映させることができる。そして、この良品鋳造条件又は不良品鋳造条件を、各設定項目の設定値の組み合わせのデータベースとして、鋳造条件判定装置5の鋳造条件記憶部19に予め記憶させておくことにより、鋳造現場において、このデータベースを、入力される入力設定値、あるいは入力された入力済み設定値が適正値であるかどうかを判定する判定基準と位置づけるものである。
【0040】
この解析に使用するソフトウエアは、各種市販されている鋳造用金型内溶湯挙動解析ソフトで、プランジャスリーブ内の溶湯挙動解析機能を有するものから適宜選択されればよい。一例を挙げると、茨城日立情報サービス株式会社製”ADSTEFAN(登録商標)”(アドステファン)などである。解析に使用するコンピュータは、高性能であることが好ましいが、使用する解析ソフトで指定された仕様を満たすものであればよく、市販されているパソコンで対応可能である。また、市販されている解析ソフトを使用するため、解析方法そのものに特殊な内容は含まれていない。よって、図2のフローチャート図及び、図2に係る図3乃至図6の各種現象を示す概念図を使用してこの解析の概要を説明する。
【0041】
まず、図2に示すように、解析モデルを構築する。解析の対象は、横型ダイカストマシンの給湯から射出に至るプランジャスリーブ内の溶湯挙動であり、解析範囲は、プランジャスリーブへの給湯装置による溶湯の給湯開始から射出充填完了(射出速度制御から射出圧力制御切換)までの間である。よって、構築する解析モデルは、プランジャスリーブ・プランジャチップと分流子(ビスケット)部が対象となる。分流子部に連続するゲート入口部及び金型内部は、この解析の対象外なので解析モデルの構築には不要である。
【0042】
まず、この解析モデル構築には、これら対象部位の図面データ(キャドデータ)が必要である。プランジャスリーブ・プランジャチップについては、通常、ダイカストマシンの付属品として、ひとつのダイカストマシンに対するそのサイズや形状のバリエーションがダイカストマシンメーカーにより標準仕様が決まっており、客先から特殊なサイズや形状の指定がない限り、このバリエーションの中から客先が選択したものを、ダイカストマシンメーカーが手配あるいは製作し、客先にダイカストマシンの付属品として納入する。よって、ダイカストマシンメーカーであれば、これらの図面データの入手は容易である。次に、分流子部は、金型側の部位であり、金型メーカーから図面データを入手する必要がある。しかしながら、分流子部の内径はプランジャスリーブの内径と同じであり、分流子部の厚みはプランジャスリーブの内径及びダイカストマシンの装置サイズから標準的な厚みが決まっている。また、後述する溶湯の分流子端への乗り上げ現象の解析には、分流子端部の高さの情報があればよく、この高さは単なる解析のための設定項目である。よって、ダイカストマシンメーカーであれば、これらプランジャスリーブ・プランジャチップ及び分流子部を対象とする解析モデルの構築は容易である。
【0043】
次に、解析条件を入力する。構築した解析モデルに対して必要な入力項目は、給湯量(鋳込み重量)、給湯速度(ラドル傾転速度)、射出遅延時間(給湯完了から射出開始までの時間)、射出低速速度、射出高速速度、射出速度切換位置、溶解保持炉内の溶湯温度などであり、基本的な鋳造条件の設定項目をすべて含む。これら解析条件の入力に際して、まず、スリーブ充填率が適正かどうか判定される。スリーブ充填率とは、プランジャスリーブの内容積に対する給湯された溶湯の体積の比であり、他の解析条件にもよるが、通常、30〜60%の範囲から対応する適正値が決定される。スリーブ充填率に対して、射出低速速度や射出高速速度や射出速度切換位置の設定値が適切でない場合、プランジャスリーブ内の溶湯に空気を巻き込んだり、スリーブ充填率が低すぎる場合、プランジャスリーブ内の溶湯が急激に冷却されるため、凝固層や酸化膜を形成したりして、いずれの場合も製品の不良要因となる。よって、無駄な解析を回避するため、スリーブ充填率が適正かどうか、入力された解析条件が解析ソフトによって判定された後、スリーブ充填率が適正な場合に解析が実行される。スリーブ充填率が適正かどうかの判定基準は、解析ソフト内で設定可能なので、解析者が解析の対象となるプランジャスリーブやそれが取り付けられるダイカストマシンに適合した判定基準を適宜設定すればよい。よって、ダイカストマシンメーカーであれば、これら解析条件の入力は容易である。
【0044】
次に、解析結果を出力する。解析結果は各種解析ソフトによって様々な出力形態が選択可能である。その中でも、解析結果の評価が容易な3Dアニメーションでの出力形態が好ましい。
【0045】
次に、解析結果を評価する。評価するのは、製品に混入して不良要因となり得る、凝固片や酸化膜及び溶湯内への空気の巻き込みが発生するか、である。本願発明においては、これら不良要因に係る以下の5つの現象に着目して判定基準とした。その現象とは以下に挙げる、
プランジャスリーブ内で発生する、
1)溶湯の分流子端への乗り上げ現象
2)プランジャスリーブ内壁と溶湯の境界面における溶湯温度の凝固層形成温度までの低下現象
3)溶湯温度の所定温度までの低下現象
4)溶湯への空気の巻き込み現象
5)溶湯の空気接触面における酸化膜形成現象
の5つの現象である。以下に、上記5つの現象とそれぞれの判定基準について説明する。
【0046】
上記1)の現象について図3を使用して説明する。図3は、図2のフローチャート図における、溶湯の分流子端への乗り上げ現象に係る概念図である。図3(a)に示すように、プランジャスリーブ32の給湯孔32a(開口部)から図示しない給湯装置によって給湯された溶湯41はプランジャスリーブ32内で波立っている。給湯が完了し、射出遅延時間経過後、プランジャチップ31が矢印31cで示す方向に前進を開始するが、スリーブ充填率に対して射出低速前進速度が速すぎる場合、溶湯41の波立ちが増幅(41c)され、その先端部41aが分流子(ビスケット部)端41bに乗り上げる。ここで、符号33は固定プラテン、34は固定金型、36は可動金型、35は固定金型34と可動金型36の分割面(パーティングライン)を示す。
【0047】
次に、図3(b)に示すように、溶湯41の波立ちの戻り(41d)により、分流子端41bに乗り上げた先端部41aだけが取り残されそのまま凝固する。そして、図3(c)に示すように、凝固した先端部41aが、プランジャチップ31の前進に伴い、製品部分に混入する。このように先端部41aが凝固片として製品に混入すると、先端部41aとその周囲が完全に一体化しないので、混入位置が製品表面であれば、製品の外観不良や強度低下の要因となる。混入位置が製品内部であれば強度低下の要因となり、強度を必要とする製品においては重大欠陥となる。よって、上記1)の現象の発生をもって不良品の発生と判定する。
【0048】
ここで、上記1)の現象は、横型ダイカストマシンにのみ適用される判定基準であり、竪型ダイカストマシンの給湯から射出に至るプランジャスリーブ内の溶湯挙動解析において適用されないことは言うまでもない。
【0049】
上記2)の現象について図4を使用して説明する。図4は、図2のフローチャート図における、プランジャスリーブ内壁と溶湯の境界面における溶湯温度の凝固層形成温度までの低下現象に係る概念図である。運転の立ち上げ時など、プランジャスリーブ32が十分に予熱されていないなどの要因で、給湯された溶湯41のプランジャスリーブ32との境界面付近の温度が、凝固層形成温度まで急激に低下したりすると、図4(a)及び図4(b)に示すように、プランジャスリーブ32の内壁境界面において凝固層41eが発生する。発生した凝固層41eが、プランジャチップ31の前進に伴い、凝固片となって製品に混入する。この凝固片の製品への混入がもたらす問題は前述したとおりである。よって、上記2)の現象の発生をもって不良品の発生と判定する。
【0050】
上記3)の現象について説明する。上記3)の現象に係る図はないが、他図と同じ要素の番号はそのまま引用する。給湯された溶湯41の温度が何らかの要因で基準値より低く、プランジャスリーブ32に給湯された時点で所定温度まで低下した場合、例えプランジャスリーブ32が十分に予熱されていたとしても、溶湯41の流動性が低下して金型末端まで充填されないことが予測される。金型末端まで十分に充填されない場合、成形品の形状や外観の不良を招くのはもちろん、充填途中の部位が先に凝固し末端まで射出充填圧が十分に掛からないことによる製品末端部の強度低下の要因となり重大欠陥となる。よって、上記3)の現象の発生をもって不良品の発生と判定する。
【0051】
上記4)の現象について図5を使用して説明する。図5は、図2のフローチャート図における、溶湯への空気の巻き込み現象に係る概念図である。図5(a)に示すように、プランジャスリーブ32の給湯孔32a(開口部)から図示しない給湯装置によって給湯された溶湯41はプランジャスリーブ32内で波立っている(41c)。給湯が完了し、射出遅延時間経過後、プランジャチップ31が矢印31cで示す方向に前進を開始するが、スリーブ充填率に対して射出低速前進速度が速すぎる場合、図5(b)に示すように、溶湯41の波立ちにより、プランジャスリーブ31内の空気41fが溶湯41へ巻き込まれる。そして、図5(c)に示すように、プランジャチップ31の前進に伴い、溶湯41に巻き込まれた空気41fが、製品部分に混入していく。このように空気41fが製品に混入すると、凝固片が混入した場合と同様に、混入位置が製品表面であれば、製品の外観不良や強度低下の要因となる。混入位置が製品内部であれば強度低下の要因となり、強度を必要とする製品においては重大欠陥となる。よって、上記4)の現象の発生をもって不良品の発生と判定する。
【0052】
上記5)の現象について図6を使用して説明する。図6は、図3のフローチャート図における、溶湯の空気接触部面における酸化膜形成現象に係る概念図である。給湯速度が遅かったり、射出遅延時間が長すぎたりして、プランジャスリーブ32に給湯された溶湯41が、基準値を超える時間、空気にさらされた場合、図6(a)及び図6(b)に示すように、溶湯41の空気接触面において酸化膜41gが発生する。発生した酸化膜41gが、プランジャチップ31の前進に伴い製品に混入する。この酸化膜の製品への混入がもたらす問題は前述した凝固片の製品への混入がもたらす問題と同じである。よって、上記5)の現象の発生をもって不良品の発生と判定する。
【0053】
出願人のこのような溶湯挙動解析や実鋳造の経験によれば、射出時において、プランジャスリーブ内で発生するほとんどの製品の不良要因は、上記5つの現象の発生によるものと考えてよい。よってこれら5つの現象の内、少なくともひとつが発生した場合、不良品の発生と判定し、そのときの解析条件の各設定項目の数値を不良品鋳造条件に反映し、ひとつも発生しない場合、同様に良品鋳造条件に反映する。このようにして、プランジャスリーブ、給湯量、射出関連などの各種解析条件を適宜変更して繰り返し解析を行い、これら解析結果を良品鋳造条件又は不良品鋳造条件のデータベースに反映させることにより、計算式から演算することが困難な、射出時のプランジャスリーブ内での製品の不良要因の発生が回避可能な鋳造条件のデータベースを構築することができる。
【0054】
ここで、金型内の溶湯挙動解析結果や製品凝固解析結果ではなく、プランジャスリーブ内の溶湯挙動解析結果を良品鋳造条件又は不良品鋳造条件に反映する理由を説明する。
【0055】
ダイカストマシンを使用した鋳造における製品の不良要因は、大きく分けて、射出時にプランジャスリーブ内で発生するものと、金型内で発生するものとがある。これら製品の不良要因が、計算式では演算することが困難であり、製品あるいは金型毎に行う解析からしか予測できないことは前述したとおりである。しかしながら、まずひとつめの理由は、金型内の溶湯挙動解析や製品凝固解析をするまでもなく、給湯から射出に至るプランジャスリーブ内で製品の不良要因、例えば、凝固片や酸化膜や空気の巻き込みなどが発生すれば、この凝固片や酸化膜や空気が製品内に混入されるので不良品の発生はほぼ確実であるという点である。次に、金型内形状は、製品の数だけ種類がありかつ複雑であるのに対して、プランジャスリーブ内形状は、種類が少なくかつ単純であるという点である。これにより、対象となる解析モデルの構築が容易で、その解析モデルの単純さから、ひとつの解析条件に基づく解析に要する時間が少なくて済む。加えて、1種類の横型ダイカストマシンに標準で採用されるプランジャスリーブは通常2〜3種類程度で、その横型ダイカストマシンで鋳造する製品あるいは金型の種類に比べれば圧倒的に少ない。よって、プランジャスリーブの種類毎に、様々な解析条件を組み合わせて溶湯挙動解析するのに必要な時間が短縮でき、良品鋳造条件又は不良品鋳造条件に反映する解析結果のデータ容量が少なくなる。その結果、その解析結果を反映した良品鋳造条件又は不良品鋳造条件のデータベースもデータ容量が少ないため、汎用性が高いデータベースとして鋳造条件記憶部に予め記憶させることが可能となる。
【0056】
これに対して、金型内で発生する製品の不良要因は、金型内の溶湯挙動解析結果や製品凝固解析結果からしか予測できないため、鋳造する製品あるいは金型毎に、都度、金型内の溶湯挙動解析や製品の凝固解析を行い、その解析結果から良品を得ることができる鋳造条件を求めざるを得ない。しかしながら、プランジャスリーブとは異なり、将来に亘って鋳造する可能性のあるすべての製品あるいは金型についてこのような解析を予め行い、その解析結果を良品鋳造条件又は不良品鋳造条件に反映させたデータベースを作成することは、現実的に困難である。
【0057】
また、金型内で発生する不良要因は、金型内のオーバーフロー、ランナー、加熱・冷却媒体流路の形状や配置、加熱・冷却制御などの金型側の設計及び設定項目で回避されることが好ましい。なぜなら、このような金型内で発生する製品の不良要因を、横型ダイカストマシン側で制御可能な設定項目で防止しようとすれば、ダイカストマシン側で設定する鋳造条件に無理が生じ、適正な鋳造条件から逸脱してしまう設定項目が発生する可能性があるからである。
【0058】
このように、給湯から射出に至るプランジャスリーブ内の溶湯挙動解析結果は、計算式から演算することが困難な、プランジャスリーブ内での各種不良要因の発生を回避できる上、金型内の溶湯挙動解析結果と異なり汎用性が高いので、これらの解析結果を反映した良品鋳造条件又は不良品鋳造条件のデータベースは、良品が得られるより適切な鋳造条件の判定基準と位置づける上で十分に意義がある。また、このデータベースに基づいて設定された鋳造条件は、プランジャスリーブ内で発生する製品の不良要因のほとんどを回避できるので、その鋳造条件によって鋳造された製品が不良品であった場合は、その不良要因が金型側で発生した可能性が非常に高いことが明確である。よって、その場合は、作業者は金型側の設定項目の検討に集中することができ、良品を得ることができる鋳造条件の設定に要する時間を短縮することができる。
【0059】
次に、図1及び図7を使用して鋳造条件判定方法について説明する。図1は、本発明の実施例1の鋳造条件判定装置に係るブロック線図である。図7は、本発明の実施例1の鋳造条件判定方法に係るフローチャート図である。
【0060】
最初に、鋳造条件記憶部19に予め記憶させた良品鋳造条件又は不良品鋳造条件のデータベースについて説明する。このデータベースの鋳造条件は、その個々が、給湯から射出に至るプランジャスリーブ内の溶湯挙動解析において、選択できる設定値が決まっている設定項目については選択できる設定値毎に、ある数値範囲の中で設定値が任意で選択される設定項目については、ひとつの設定項目のばらつきを許容できるひとつの数値範囲毎に組み合わせた鋳造条件に基づき解析され、それら解析結果を前述した判定基準により評価して求められた鋳造条件である。また、この鋳造条件は、解析結果に基づいた良品鋳造条件及び、解析結果に基づいた不良品鋳造条件の両方からなる鋳造条件であってもよい。具体的には、プランジャスリーブ内容積に対する給湯量から得られるスリーブ充填率が適正値(範囲)又は不適正値(範囲)を満たす給湯量を基準に、ひとつの数値範囲で規定される適正給湯量に対して、他の設定項目、例えば、射出低速速度、射出高速速度、射出速度切換位置、昇圧時間、鋳造圧力、型締力、各種タイマー値などの各設定項目の適正値(範囲)又は不適正値(範囲)が組み合わされた鋳造条件である。
【0061】
図7に示すように、まず、登録済み鋳造条件かどうかを選択する。新しい製品あるいは新しい金型である場合、鋳造条件入力部11から新しい製品/金型番号を入力する。鋳造条件入力部11から入力された製品/金型番号を、鋳造条件記憶部19の登録済鋳造条件の製品/金型番号と比較して新規鋳造条件の入力か登録済み鋳造条件かどうか判定させるフローでもよい。
【0062】
次に、鋳造条件を設定項目毎に設定していく。設定項目は鋳造条件入力部11に表示されており、入力順序は問わない。例えば、プランジャスリーブ内径(プランジャチップ外径)とプランジャスリーブ長さと給湯量が入力されたとする。各設定項目の入力の度、それら入力設定値が適正値又は不適正値かどうか、鋳造条件比較部23が鋳造条件記憶部19のデータベースの対応する適正値又は不適正値との比較を行う。前述したように、プランジャスリーブ内径と長さは標準仕様が決まっているため、選択できる設定値が決まっている設定項目の適正値として、これら仕様(寸法:例えば、内径φ90mmとφ100mm、長さ400mmなど)がデータベースに記憶されている。よって、作業者が誤って、別のダイカストマシンの異なるプランジャスリーブ内径や長さを入力すると、鋳造条件比較部23が不適正値と判断して、鋳造条件表示部13に入力設定値が不適正値として表示されると同時に、鋳造条件表示部13の該当する入力設定値の表示を点滅させる、あるいは警告メッセージを表示させるなどで警告を発して作業者に作業者に注意を促す。音声発生部を設ける、あるいはダイカストマシンの音声発生部を活用するなどして、警告音や音声メッセージによる警告を併用して、より効果的に作業者に注意を促すようにしてもよい。また、前述したような、選択できる設定値が決まっている設定項目については、入力設定値の表示と比較可能にその入力設定値に対応する適正値又は不適正値が表示されると、このような入力ミスを未然に防止することができる。
【0063】
プランジャスリーブ内径及び長さの入力設定値により、プランジャスリーブ内容積が特定される。これに給湯量が入力されると、スリーブ充填率が特定される。また、スリーブ充填率が入力されると、給湯量が特定される。(厳密に言えば、他の設定項目が必要な場合があるが、説明を簡単にするためにこのように仮定する。)すなわち、プランジャスリーブ内径及び長さという設定項目に対して、データベース上では、給湯量の適正値又は不適正値は、プランジャスリーブ内径及び長さに対応するスリーブ充填率の適正値又は不適正値から決定され、スリーブ充填率の適正値は、プランジャスリーブ内径及び長さに対応する給湯量の適正値又は不適正値から決定されるという相互関係にある。給湯量もスリーブ充填率も、ある数値範囲の中で設定値が任意で選択される設定項目なので、いずれか一方の入力設定値を入力すると、鋳造条件比較部23により、それらの相互関係から特定されるデータベース上の他方の適正値又は不適正値から決定される適正値又は不適正値と比較され、一方の入力設定値が対応する適正値範囲に入っていなければ、(あるいは不適正値に入っていれば)前述したように警告が発せられる。この場合、いずれかの入力設定値を修正する必要があるが、各入力設定値と比較可能にその入力設定値に対応する適正値又は不適正値の基準値及び許容範囲、あるいは、上限値及び下限値が表示されると、作業者による、許容範囲を超えた誤入力を防止することができる。
【0064】
このようにして、入力設定値が不適正値であれば、入力設定値を不適正値として鋳造条件表示部13に表示し、警告を発するとともに、入力設定値と比較可能に、対応する適正値又は不適正値を表示し、作業者に再入力を促す。入力設定値が適正値であれば、入力設定値が適正値として鋳造条件表示部13に表示されるとともに、鋳造条件比較部23により、鋳造条件記憶部23に仮保存されている設定中の鋳造条件と、データベースの対応する鋳造条件とが比較される。未入力設定値に対応する設定項目の適正値又は不適正値が選択可能であれば、鋳造条件表示部13に表示され、作業者に未入力設定値の入力を案内する。また、入力設定値の入力の度、鋳造条件比較部23により鋳造条件記憶部19に仮保存されている設定中の鋳造条件と、データベースの対応する鋳造条件とが比較され、設定が完了したかどうかが確認される。設定完了後には、作業者に設定の修正の要否が確認され、修正する場合は、上記フローが繰り返され、修正しない場合は、最初に入力された製品/金型番号により、設定された鋳造条件が鋳造条件記憶部19に記憶(登録)されると同時に、新しい鋳造条件をダイカストマシン制御部3に伝達する。以降は、ダイカストマシン1とダイカストマシン制御部3での操作・制御となる。
【0065】
このように、入力設定値が入力される毎に、入力設定値に対応するデータベースの適正値又は不適正値と比較され、その結果、適正でない入力設定値に対して警告が発せられる。よって、熟練度が低い作業員であっても、初めて鋳造する製品あるいは金型であっても、良品を得ることができる鋳造条件を短時間で設定することができる。
【0066】
一度記憶(登録)された鋳造条件は、製品/金型番号で呼び出すことができ、鋳造条件の再設定が容易である。また、同じ製品でも、改良の有無などで金型が複数個あり、それぞれで鋳造条件が異なる場合や、ひとつの金型でも、季節によって鋳造条件が異なる場合でも、それぞれを別々の製品/金型番号で管理することで、きめ細かい鋳造条件管理が可能である。
【0067】
また、図7のフローによれば、警告を受けた設定項目の入力設定値が必ず修正入力されるフローになっている。熟練度が低い作業者が鋳造条件を設定するには、不適切な入力設定値の入力を防止するためにこのようなフローの方が好ましい。しかしながら、熟練度が高い作業者が、客先の意向に応じて最上の鋳造条件を追求する場合や、研究開発部門で、研究者が極端な入力設定値を含む鋳造条件に基づく製品の状態を調査する場合を鑑み、不適正値の入力を許容する特殊な設定モード(例えば、トライモード、開発モードなど)を鋳造条件設定時、あるいは警告発生毎に選択可能としてもよい。更には、この特殊設定モードで得られた特殊な良品鋳造条件を鋳造条件記憶部19のデータベースに適宜、鋳造条件入力部11から追加入力できるように構成されることが好ましい。ただし、この特殊設定モードにおいても、不適正値の入力に対する警告発信と、安全やダイカストマシンの仕様を越えるような入力設定値の設定を困難にする安全装置とが必要なことは言うまでもない。
【実施例2】
【0068】
図1及び図8を参照しながら本発明の実施例2を説明する。図1は本発明の実施例1の鋳造条件判定装置に係るブロック線図である。図8は、本発明の実施例2の鋳造条件判定方法に係るフローチャートである。実施例2においても、鋳造条件判定装置の構成は図1に示すブロック線図の装置構成と同じである。実施例2の実施例1との相違点は、鋳造条件判定方法における、鋳造条件記憶部19に記憶させた良品鋳造条件又は不良品鋳造条件のデータベースの構成と、このデータベースの構成を利用して、入力設定値だけでなく、入力設定値も含めた入力済み設定値を設定中の鋳造条件として、データベースの鋳造条件と比較することにより、入力済み設定値の対応する適正値又は不適正値の数値範囲を絞り込むその2点である。それ以外の点については、実施例1の鋳造条件判定方法と同じなので、相違点についてのみ説明する。
【0069】
図8は、本発明の実施例2の鋳造条件判定方法に係るフローチャート図である。最初に、図8中には表記されない、鋳造条件記憶部19に記憶させた良品鋳造条件又は不良品鋳造条件のデータベースの構成の相違点について説明する。先に説明したように、鋳造条件は、互いに影響を及ぼす複数の設定項目の設定値の組み合わせであるから、数値範囲を有する設定項目の適正値又は不適正値の数値範囲をひとつに限定すると、その数値範囲の大きさによって、影響を受ける他の項目の数値範囲が過大になり、不適切な数値範囲を含んだり、逆に数値範囲が極端に狭くなったり、全く無くなったりする場合がある。実施例1では、良品鋳造条件又は不良品鋳造条件のデータベースの適正値又は不適正値の数値範囲を、ひとつの設定項目のばらつきを許容できるひとつの数値範囲とした場合を想定しているため、不適切な範囲を含まないように、関連する項目の適正値範囲が所定幅で存在するように鋳造条件が構成される。そのため、構成されたひとつの良品鋳造条件は、各設定項目の数値範囲が、比較的狭い範囲に限定された、いわゆるチャンピョンデータになりがちである。
【0070】
もちろん、チャンピョンデータで構成された鋳造条件のデータベースであっても、熟練度の低い作業員でも良品を得ることができる鋳造条件を短時間で設定することができる。しかしながら、製品の品質を更に良くするためにある設定項目の入力設定値を修正しようとした場合に、その修正幅が対応する適正値の数値範囲を超えてしまい、(あるいは不適正値の数値範囲に入り)修正できないといった場合が考えられる。すなわち、A設定項目の入力設定値が、対応する適正値の数値範囲の上限を少し超えた数値であっても、B及びC設定項目の入力設定値を、対応する適正値の数値範囲の下限を少し超えた数値とすれば鋳造可能であったり、むしろその条件の方が良品を得られることができたりするという場合も考えられる。このような場合であっても、データベースの鋳造条件を修正すれば対応は可能であるが、データベースの鋳造条件そのものを都度修正することは、データベースの信頼性を低下させることにもなりかねず、頻繁なデータベースの鋳造条件の修正は回避されことが好ましい。
【0071】
よって、実施例2では、このような鋳造条件の特性を考慮し、より適切なデータベースを構築するために、データベースが、数値範囲で定義された適正値又は不適正値からなるひとつの設定項目を、前記数値範囲の分割により複数に分割させた設定項目を含み、その分割させた設定項目それぞれに対して、他の設定項目も異なる数値範囲が選択されるように構成される。
【0072】
例えば、データベースのあるひとつの鋳造条件において、スリーブ充填率の適正値の数値範囲の上限及び下限を所定量拡大して、拡大した数値範囲を4分割したとする。その結果、分割されたそれぞれの数値範囲は、分割される前の数値範囲よりも狭くなる。その4分割した数値範囲の上限側(基準値よりスリーブ充填率高/給湯量多め)の入力設定値に対して、同じ鋳造条件の他の設定項目を考えると、射出低速速度の適正値は、従来の適正値の上限を所定量超えた範囲まで速くすることができたり、射出速度切換位置の適正値は、従来の適正値の上限を所定量超えた範囲まで金型から離すことができたりする。また、データベースの別の鋳造条件において、各種タイマー値に含まれる射出遅延時間(給湯完了から射出開始までの時間)の適正値の数値範囲の上限及び下限を所定量拡大して、拡大した数値範囲を3分割したとする。前述したように、分割されたそれぞれの数値範囲は、分割される前の数値範囲よりも狭くなる。その3分割した上限側で、従来の適正値を所定量超えた数値の入力設定値に対して、同じ鋳造条件の他の設定項目を考えると、射出低速速度の適正値は、従来の上限を所定量超えた範囲まで早くすることができる。これは、プランジャスリーブに溶湯が給湯されてから射出までの時間が長くなることで、給湯により発生する溶湯の波立ちが整流されるからである。同様の効果は、給湯速度を遅くしても得ることができる。
【0073】
このように、数値範囲で定義された適正値又は不適正値からなる設定項目については、ひとつの設定項目でもその数値範囲の分割により複数に分割させることにより、数値範囲の分割を前提に、ひとつの設定項目の適用可能な適正値又は不適正値の分割させた数値範囲を合わせた合計数値範囲を分割前より広くするとともに、鋳造条件として選択される設定項目の適正値又は不適正値の分割させた数値範囲を分割前より狭くすることができる。これは、良品鋳造条件又は不良品鋳造条件の数値範囲で定義された適正値又は不適正値からなる設定項目の数値範囲がより適切に絞り込まれるとともに、鋳造条件のバリエーションが増えることに他ならない。このような良品鋳造条件又は不良品鋳造条件のデータベースが、後述する鋳造条件判定方法の実施例1との相違点の前提となる。
【0074】
次に、図8中に表記される、鋳造条件判定方法の実施例1との相違点を説明する。図8中の一点鎖線で囲まれた範囲が、実施例1の鋳造条件判定方法との相違点である。ある入力設定値の入力に対して、その入力設定値が適正値かどうか、鋳造条件比較部23により鋳造条件記憶部19の対応する設定項目の適正値又は不適正値と比較される点は実施例1と同様である。その入力設定値が適正値と判定されると、次に、実施例2においては、その入力設定値と、鋳造条件記憶部19に仮保存されている入力済み設定値とがひとつの設定中の鋳造条件として、同じく鋳造条件記憶部19に記憶されている良品鋳造条件又は不良品鋳造条件のデータベースの個々の鋳造条件と比較される。その結果、設定中の鋳造条件が、完全にデータベースのある良品鋳造条件を満足していれば、又は、すべての設定値を満足する不良品鋳造条件がなければ、入力設定値及び入力済み設定値のすべてが適正値と判定され、次のステップに移行する。入力設定値と入力済み設定値のいずれかが良品鋳造条件を満足しない、又は、不良品鋳造条件を満足していれば、不適正値と判定された入力設定値あるいは入力済み設定値のいずれか該当する設定値が作業者にわかるように、鋳造条件表示部13に表示の点滅などで警告が発せられ、同時に対応する適正値又は不適正値が比較可能に表示される。警告が発せられた場合、作業者は、不適正値と判定された設定項目の入力設定値及び入力済み設定値を、比較可能に表示された対応する適正値又は不適正値に従って、鋳造条件入力部11から再入力すればよい。このようにして、作業者は、設定項目数の増加に伴って鋳造条件判定装置5から発せられる警告と、該当する入力済み設定値と比較可能に再表示される、数値範囲が絞りこまれた適正値又は不適正値とに従い、入力設定値だけでなく、入力済み設定値についても、その数値範囲を絞り込むことができ、より適切な鋳造条件を設定することができる。
【0075】
実施例1において、未入力設定値に対応する設定項目の適正値又は不適正値がデータベースから選択可能かどうか鋳造条件比較部23により判定されるステップは、実施例2においても、前述した設定中の鋳造条件とデータベースとの比較の後、同様に行われ、選択可能であれば、鋳造条件表示部13に表示され、作業者に未入力設定値の入力を案内する。このステップは入力設定値が入力される度に行われるので、入力時において適正値であった入力済み設定値が不適切値と判定され、入力設定値が再入力された場合に、この未入力設定値に対応する設定項目の適正値又は不適正値も変更の必要がある場合は、この表示も変更される。よって、作業者は未入力設定値についても、より絞り込まれた未入力設定値に対応する設定項目の適正値又は不適正値と比較しながら、適切な入力設定値を入力することができる。実施例1と同様に、不適正値の入力を許容する特殊な設定モードを設けてもよい。
【0076】
以上述べたように、本発明の鋳造条件判定方法及び判定装置によって、熟練度の低い作業者であっても、適切な鋳造条件を設定することができる。また、本発明の鋳造条件判定方法及び判定装置により設定された鋳造条件は、計算式により演算された鋳造条件より、良品が得られる鋳造条件となる。更に、実鋳造により製品を鋳造し、作業者の経験や勘により、各種鋳造条件値の、不良要因を解決可能と推測される設定項目、あるいは、より良品を得られると推測される設定項目を入力し直すという作業を繰り返し行う必要が生じたとしても、入力設定値が入力される度に、入力済み設定値や未入力設定値に対応する設定項目の適正値又は不適正値が見直され、再表示されるので、変更した設定項目がどの設定項目をどのくらい変更させるかという各設定項目の他の設定項目への影響度が、熟練度の低い作業者にも理解し易く適切な鋳造条件の入力に役立つので、その繰り返し作業を減少させることができる。更には、その不良要因が金型側で発生した可能性が非常に高いので、作業者は金型側の設定項目の検討に集中することができる。その結果、熟練度が低い作業者であっても、良品を得ることができる鋳造条件を短時間で設定することができる。
【0077】
本発明は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、上記の実施の形態に限定されることなく色々な形で実施できる。例えば、鋳造条件判定装置に備えられる4要素は、実施例1において、互いに共有できる機能を共有してもよいことを説明している。また、図1に示す鋳造条件判定装置5の鋳造条件表示部13の機能をダイカストマシン制御部3の表示機能に共有させてもよい。更に、鋳造条件判定装置5の機能そのものをダイカストマシン制御部3に共有させてもよい。他には、鋳造条件判定装置5の構成や機能を鑑み、鋳造条件判定装置5のすべての機能をデスクトップコンピュータやノートパソコンで実行できるようにして、それぞれの制御対象となるダイカストマシン横に防水・防塵カバーなどを備えた状態で設置してもよい。あるいは、元々、複数のダイカストマシンの制御を主制御装置と通信させることにより、一括管理している鋳造現場においては、このような鋳造条件判定装置5のすべての機能を実行可能なコンピュータを用意し、その主制御装置と接続させてもよい。これらのような構成であれば、既設のダイカストマシンにおいても改造なしで本願発明の鋳造条件判定方法を実行することができる。また、上記の実施の形態は、横型ダイカストマシンでの鋳造条件判定方法に係る内容になっているが、竪型ダイカストマシンに関しても、その構造上、除外可能な、不良品の発生と判定する判定基準”1)溶湯の分流子端への乗り上げ現象”を除外すれば、横型ダイカストマシンと同様に適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明に係る鋳造条件判定方法及び判定装置により、金型や製品毎に行われる解析の負荷を低減し、熟練度が低い作業者であっても、良品を得ることができる鋳造条件を短時間で設定することができる。この効果は、出願人のようなダイカストマシンメーカーが、このような鋳造条件判定方法を行うことができる判定装置や、鋳造条件判定機能を有するダイカストマシンを提供することで、整備されたコンピュータ使用環境や、コンピュータシステムと鋳造技術との両方の知識を有する人材を確保できない鋳造現場や、人離れや作業者の高齢化などで、鋳造に熟練した作業者を必要人数確保することが難しい鋳造現場においても奏することが可能であり、鋳造業関係者にとって産業上利用価値が極めて高い。
【符号の説明】
【0079】
5 鋳造条件判定装置
11 鋳造条件入力部
13 鋳造条件表示部
19 鋳造条件記憶部
23 鋳造条件比較部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイカストマシンの鋳造条件の設定において、
CAEを利用した、給湯から射出に至るプランジャスリーブ内の溶湯挙動解析結果から求められた良品鋳造条件又は不良品鋳造条件を、鋳造条件記憶部にデータベースとして予め記憶させて、
ダイカストマシンの鋳造条件を構成する複数の設定項目の設定値が、鋳造条件入力部から入力され、鋳造条件表示部に入力設定値として表示されるとともに、
前記入力設定値が、鋳造条件比較部により前記鋳造条件記憶部に記憶させた前記データベースと比較され、
前記良品鋳造条件に適合しない前記入力設定値、又は、前記不良品鋳造条件に適合する前記入力設定値に対して警告が発せられることを特徴とする鋳造条件判定方法。
【請求項2】
前記データベースが、
前記溶湯挙動解析結果から確認されるプランジャスリーブ内での、
1)溶湯の分流子端への乗り上げ現象
2)プランジャスリーブ内壁と溶湯の境界面における溶湯温度の凝固層形成温度までの低下現象
3)溶湯温度の所定温度までの低下現象
4)溶湯への空気の巻き込み現象
5)溶湯の空気接触面における酸化膜形成現象
の少なくともいずれかひとつの現象の発生を、不良品の発生と判定する判定基準から求められた良品鋳造条件又は不良品鋳造条件のデータベースであることを特徴とする請求項1記載の鋳造条件判定方法。
【請求項3】
前記データベースが、基準値と該基準値に対する上下の許容範囲とで規定される数値範囲、あるいは、上限値と下限値とで規定される数値範囲のいずれかで定義された適正値又は不適正値からなる設定項目を含むとともに、
ひとつの前記入力設定値が入力される度に、前記入力設定値に対応する設定項目の前記適正値又は前記不適正値が、前記鋳造条件比較部により前記データベースから選択され、前記入力設定値と比較可能に、前記鋳造条件表示部に表示されることを特徴とする請求項1乃至請求項2記載の鋳造条件判定方法。
【請求項4】
ひとつの前記入力設定値が入力される度に、まだ入力されていない未入力設定値に対応する設定項目の前記適正値又は前記不適正値が前記データベースから選択可能かどうか、前記鋳造条件比較部により判定され、選択可能な場合に、前記未入力設定値の入力後の表示と比較可能に、前記鋳造条件表示部に表示されることを特徴とする請求項1乃至請求項3記載の鋳造条件判定方法。
【請求項5】
前記数値範囲で定義された前記適正値又は前記不適正値からなるひとつの設定項目を、前記数値範囲の分割により複数に分割させた設定項目を前記データベースが含むとともに、
ひとつの前記入力設定値が入力される度に、入力された前記入力設定値と、既に入力されている入力済み設定値とが、ひとつの鋳造条件として前記鋳造条件比較部により前記データベースと比較され、
前記良品鋳造条件に適合しない前記入力設定値及び前記入力済み設定値、又は、前記不良品鋳造条件に適合する前記入力設定値及び前記入力済み設定値に対して警告が発せられることを特徴とする請求項3乃至請求項4記載の鋳造条件判定方法。
【請求項6】
ひとつの前記入力設定値が入力される度に、前記入力済み設定値に対応する項目の前記適正値又は前記不適正値が、前記鋳造条件比較部により前記データベースから選択され、前記入力済み設定値の表示と比較可能に、前記鋳造条件表示部に表示されることを特徴とする請求項5記載の鋳造条件判定方法。
【請求項7】
ダイカストマシンの鋳造条件の設定において、
CAEを利用した、ダイカストマシンの給湯から射出に至るプランジャスリーブ内の溶湯挙動解析結果から求められた良品鋳造条件又は不良品鋳造条件を、データベースとして予め記憶させた鋳造条件記憶部と、
鋳造条件が入力される鋳造条件入力部と、
入力された鋳造条件が表示される鋳造条件表示部と、
前記入力された鋳造条件が、前記鋳造条件記憶部に記憶させた前記良品鋳造条件又は前記不良品鋳造条件の前記データベースと比較される鋳造条件比較部と、
を備えたことを特徴とする鋳造条件判定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−206788(P2011−206788A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−74942(P2010−74942)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(300041192)宇部興産機械株式会社 (268)