説明

鋳造用金合金及びその製造方法

【課題】メタルセラミック修復用材料であって審美性が改善された金合金を提供する。
【解決手段】Pt及びPdの少なくとも1種を5〜50mass%、Geを0.8〜5mass%含み、残部がAuからなり、合金表面が白色酸化物層で覆われていることを特徴とする鋳造用金合金。白色酸化物層は金合金に対して大気熱処理を施すことで形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳造用金合金及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科治療において修復物作製に用いられる歯科用合金は、精密鋳造により所望の形状付与が可能であり、歯牙との適合に優れる長所を備える反面、色調が金属色であるため、白色のレジン材料やセラミック材料に比べて、審美性が劣っている。
【0003】
歯科用金合金の審美性を補うために、臨床ではメタルセラミック修復が用いられる。メタルセラミック修復では、鋳造によって作製した金属フレーム上に、セラミック粉末からなる歯科用陶材を築盛、乾燥、焼成して修復物を製作する。陶材は天然歯に近い色調を有するため、金属を用いても審美的に優れた修復物とすることができる。
【0004】
金属フレームは、歯科用陶材築盛前に熱処理して歯科用陶材との接合を確実にするため、合金表面に酸化物層を形成させる。酸化物層は、セラミック層の下地となり、その色調は、セラミック層の色調に反映される。酸化物色調が黒色又は濃い灰色の場合は、セラミックの色調が暗くなり、審美的に好ましくない。さらに、陶材築盛前に濃い酸化物色調を隠すための前処理が必要となるため、陶材築盛に大変な労力を要する。こうした理由から、明るいグレー色の酸化物色調を呈する歯科用合金が望まれている。
【0005】
特許文献1には、30〜50wt%のAuと30〜50wt%のPdと5〜30wt%のAgと0.01〜1.0wt%のRuと、陶材の緑色化及び変色を防止するのに十分な量のSi、B、Ge及びそれらの混合物から成るから選ばれる1員とから成る歯科用合金が開示されている。当該技術は、Agの含有量を10wt%程度に抑え、かつSi、B、Ge及びそれらの混合物を添加することで、陶材焼成時の陶材の着色や変色が抑えられる。しかし、当該技術に記載された好ましいとされる成分系の合金では、デギャッシング後の酸化物色調は黒く濃化してしまうため、陶材築盛後の陶材と合金の界面にブラックマージンと呼ばれる黒い線が現れてしまい、容易に除去できず審美性を損なうため、改善されたとは言えない。
【0006】
また特許文献2には、Ag45〜60重量%、Pd30〜45重量%、Au0〜5重量%、Pt0〜5重量%、Ge0〜3重量%、Cu0〜3重量%、Ga0〜7重量%、Co0〜5重量%、Mo0〜1重量%、Ru0〜1重量%、Re0〜1重量%、Ir0〜1重量%及びIn、Sn及びZnのそれぞれ0〜6重量%からなるが、この場合、成分全体で100%になり、In0〜1重量%の含量の場合に、同時にSnの含量が1〜6重量%であり、Znの含量が2〜6重量%であるか又はIn3〜6重量%の含量の場合に、同時にSnの含量が0〜4重量%であり、Znの含量が4〜6重量%であることによって特徴付けられる銀パラジウム合金の、約16.5μm/mKの熱膨張率を有する低融点歯科用セラミックでマスキング可能な義歯の製造のための使用される合金が開示されている。当該技術は、低溶陶材の黄変及び緑変防止を目的に発明された合金であり、Ga、Sn及びZnをAgPd系合金に複合添加することで黒い色調の酸化被膜が形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭61−44140号公報
【特許文献2】特表2001−518812号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のような従来技術の問題点に鑑み、本発明の目的は、メタルセラミック修復用材料であって審美性が改善された金合金とその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を達成するために鋭意研究を重ねた結果、鋳造用金合金の組成とその製法を次のようにすることにより、発明を完成するに至った。
【0010】
本発明の金合金は、Pt及びPdの少なくとも1種を5〜50mass%、Geを0.8〜5mass%含み、残部がAuからなり、合金表面が白色酸化物層で覆われていることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の金合金は、Pt及びPdの少なくとも1種を5〜50mass%、Geを0.8〜5mass%含み、第1元素群、第2元素群及びAgの少なくとも1種を更に含み、残部がAuからなり、合金表面が白色酸化物層で覆われていることを特徴とする。第1元素群は、In、Sn及びZnの少なくとも1種で構成する。第2元素群は、Ir、Ru、Rh及びReの少なくとも1種で構成する。第1元素群を含む場合には、その含有量を0.1〜5mass%とする。第2元素群を含む場合には、その含有量を0.1〜1mass%とする。Agを含む場合には、その含有量を0.1〜15mass%とする。
【0012】
また、上記金合金の製造方法は、金合金に対して大気熱処理を施して合金表面を覆う白色酸化物層を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の金合金によれば、大気熱処理によって白色酸化物が形成するので、陶材の色調再現に優れ、陶材築盛後の従来合金に見られたブラックマージンは解消され、審美的に優れた歯科メタルセラミック修復用の金合金を提供することが可能である。
【0014】
次に、本発明における鋳造用金合金の成分限定の理由を述べる。
【0015】
まず、本発明の金合金は、AuPtGe系、AuPdGe系及びそれらの混合物からなる析出相と、Au、Pt及びPdの少なくとも1種からなるマトリクスとから構成される。そして、金合金を大気中で熱処理することによって、Geを含んだ析出相が酸化し、酸化ゲルマニウムからなる白色酸化物層が合金表面を覆うように形成される。その析出相の構成に必要なPt及び/又はPdの添加量は、5mass%未満であると析出相が形成されない。一方で、50mass%を超えると合金の液相点が高くなり、鋳造用として使用するには不適である。
【0016】
次に、Geの添加量について、0.8mass%より少ないと合金中で析出相の形成が促されず、大気中で熱処理しても白色化しない。また、5mass%を超えると合金全体が脆くなってしまう。
【0017】
第1元素群であるIn、Sn及びZnの1種又は2種以上の添加は、合金の強度向上に寄与する。添加量の合計が5mass%を超えると合金全体が脆くなるほか、合金表面に白色酸化物層が形成しなくなる。
【0018】
第2元素群であるIr、Ru、Rh及びReの1種又は2種以上の添加は、合金中の結晶粒微細化に寄与する。添加量の合計が0.1mass%未満ではその効果はなく、1mass%を超えると偏析する恐れがある。
【0019】
Agの添加は、合金の液相点を下げ、熱膨張係数向上に寄与する。0.1mass%未満では、液相点の低下や熱膨張係数向上に効果はなく、15mass%を超えて添加するとマトリクス中で白色化しなくなる。より好ましくは、Agの添加量を0.1〜10mass%にするとよい。
【0020】
本発明の金合金の合金表面を白色酸化物で覆う方法としては、熱処理は大気中で実施しなければならず、アルゴン、窒素又は真空などの不活性雰囲気下の熱処理では白色酸化物層の形成は認められない。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の金合金の第1の形態は、Pt及びPdの少なくとも1種を合計で5〜50mass%、Geを0.8〜5mass含み、残部がAuからなり、合金表面部分は白色酸化物層で被覆されることを特徴とする鋳造用金合金である。
【0022】
本発明の金合金の第2の形態は、上記特徴に加えて、第1元素群と第2元素群とAgの少なくとも1種を更に含むことを特徴とする鋳造用金合金である。「第1元素群」は、In、Sn及びZnの少なくとも1種から構成する。「第2元素群」は、Ir、Ru、Rh及びReの少なくとも1種から構成する。第1元素群を含む場合には、その添加量を合計で0.1〜5mass%とする。第2元素群を含む場合には、その添加量を合計で0.1〜1mass%とする。Agを含む場合には、その添加量を0.1〜15mass%とする。
【0023】
上記組成の金合金に対し大気熱処理を施すことにより、合金表面を被覆する白色酸化物が形成される。
第1の形態の合金が有する白色酸化物層は、ゲルマニウム酸化物から形成される。
第2の形態の合金が有する白色酸化物層は、ゲルマニウム酸化物及びインジウム酸化物、亜鉛酸化物及び錫酸化物の少なくとも1種から形成される。
【0024】
上記金合金は、歯科用金属としてメタルセラミック修復に用いるのに好適であるが、一般の鋳造用金合金としても使用可能となる。
【実施例】
【0025】
本発明の実施例の組成及び比較例の組成を表1に示す。
【0026】
(金合金の作製)
合計50gとなるように各成分の原材料を秤量し、アルゴンアーク溶解法にて溶解・混合した。このインゴットは、概ね30%の加工率で冷間圧延し、アルゴン中1000℃、1時間熱処理して焼鈍した。同様の圧延、焼鈍を繰返し厚さ0.5mmの圧延板とした。
【0027】
(試験)
溶融範囲(固相点-液相点)は、圧延板より試験片を切り出し、示差熱分析装置にて合金の溶融が開始及び終了する温度をそれぞれ固相点及び液相点とし、測定した。
【0028】
硬さは、圧延板を歯科精密鋳造により厚さ1.2×幅15×長さ10mmに鋳造し、大気中1000℃、10分間の熱処理後、樹脂包埋、粗研磨、バフ研磨を経て鏡面の試験片とし、マイクロビッカース硬さ試験機を用いて荷重200gf、10秒の条件で測定した。硬さの評価は、次の判定によった。200HV以上は、十分に強度が優れているとして◎、150HV以上、200HV未満は○、100HV以上、150HV未満は、やや強度に劣るとして△、100HV未満は×とした。
【0029】
熱膨張係数は、圧延板を歯科精密鋳造により直径4×長さ25mmに鋳造し、大気中930℃、15分間の熱処理後、最終的に直径3.5×長さ20mmに成形して、熱機械分析装置を用いて昇温速度5℃毎分の測定条件で測定し、50℃〜500℃の平均熱膨張係数を算出した。
【0030】
陶材焼付性は、圧延材を歯科精密鋳造により、厚さ0.6×幅8×長さ30mmに鋳造し、アルミナブラストを用いてメタル調整後大気中1000℃で10分間熱処理した後、市販のオペーク陶材及びボディ陶材の順に築盛、焼成し、最終的にグレーズ処理を行った。作製した焼付試験片の裏側に直径10mmの金属棒を押し当て、陶材を破折するまで折り曲げた。更に、試験片をまっすぐに直し、焼付面に破折して付着している陶材の状態を観察し、評価した。残存陶材が焼付面に多数見られた場合は、非常に優れているとして◎、残存陶材が筋状に数本認められる場合は、焼付性に優れているとして○、残存陶材が筋状に1本以上認められる場合は、△、全く残存していない場合には、実用不可として×とした。
【0031】
酸化物色調は、圧延板を歯科精密鋳造により、厚さ1.2×幅15×長さ10mmに鋳造し、アルミナブラストを用いてメタル調整後、大気中1000℃、10分間の熱処理後に外観色調を目視よって判定し、次の通り評価した。白色酸化物が合金表面に均一に見られる場合は、優れているとして○、白色酸化物が局所的に認められる場合は△、白色酸化物が全く認められない場合は、従来品と比べて変わらないとして×とした。
【0032】
(結果)
実施例の合金の硬さは、153〜326HVと比較例の合金よりも大きく、高い強度を示した。熱膨張係数は13.2〜14.4×10-6K-1であり、市販の陶材を使用した陶材焼付性試験においても問題は認められなかった。実施例の合金の酸化物色調は、大気熱処理によって酸化ゲルマニウムからなる酸化物を形成し、十分白色化した。
【0033】
比較例1及び比較例2の合金は、陶材焼付性が良好であったが、硬さが低く、強度面で劣った。一方、比較例3及び比較例4の合金は、硬さが140HV程度であったが、陶材焼付性は不十分であった。比較例の合金の酸化物色調は、大気熱処理によっていずれも白色化しなかった。
【0034】
上記の実験的検証によって、本発明の合金はいずれも強度に優れ、白色の酸化物層を形成することが明らかとなった。
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
Pt及びPdの少なくとも1種を5〜50mass%、Geを0.8〜5mass%含み、残部がAuからなり、合金表面が白色酸化物層で覆われていることを特徴とする鋳造用金合金。
【請求項2】
第1元素群、第2元素群及びAgの少なくとも1種を更に含み、
前記第1元素群をIn、Sn及びZnの少なくとも1種で構成したものを0.1〜5mass%、
前記第2元素群をIr、Ru、Rh及びReの少なくとも1種で構成したものを0.1〜1mass%、
前記Agを0.1〜15mass%とすることを特徴とする請求項1記載の鋳造用金合金。
【請求項3】
歯科メタルセラミック修復に用いることを特徴とする請求項1又は2記載の鋳造用金合金。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の金合金の製造方法であって、
金合金に対して大気熱処理を施して合金表面を覆う白色酸化物層を形成することを特徴とする鋳造用金合金の製造方法。

【公開番号】特開2012−233237(P2012−233237A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−103129(P2011−103129)
【出願日】平成23年5月2日(2011.5.2)
【出願人】(000198709)石福金属興業株式会社 (55)
【Fターム(参考)】