説明

鋳鉄の特性に対して影響を与える方法及び酸素センサ

本発明は、鋳鉄融成物にマグネシウムを添加して鋳鉄の特性に対して影響を与える方法であって、鋳鉄融成物の含有酸素量を測定し、凡そ1420℃の温度下に当該酸素量が凡そ0.005〜0.2ppmとなるまでマグネシウムを添加する方法と、固体電解質型チューブを含む電気化学的測定用セルを使用して鋳鉄融成物中の含有酸素量を測定するためのセンサとに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳鉄融成物にマグネシウムを添加することにより鉄の特性に対して影響を与える方法に関する。本発明は更に、鋳鉄融成物中の含有酸素量を、固体電解質型チューブを含む電気化学的測定用セルを使用して測定するセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、鋳鉄融成物中の含有遊離マグネシウム量は、マグネシウム処理鋳鉄内に球状グラファイト又はバーミキュラグラファイトが形成される決定因子と考えられている。現在、ダクタイル鋳鉄の特性は、分光分析資料を活用してマグネシウム、即ち、遊離マグネシウムと結合マグネシウムとの総含有量を決定することにより調整している。しかしながら、この方法は、含有遊離マグネシウム量が不明でしかも酸素活量に関する情報を何ら得られない点で十分なものとは言えない。含有遊離マグネシウム量と平衡する酸素活量はグラファイト形成上の決定因子なのである。所謂ダクタイル鋳鉄とは、ねずみ鋳鉄(普通鋳鉄)をノジュール形成添加物で処理して鋳鉄中のグラファイトカーボンの主要部を所謂ノジュールグラファイト又は球状グラファイト化したものである。鋳鉄の機械的特性はノジュールグラファイトの形状、寸法、粒子数により影響されることから、これらのパラメータについて分析する必要がある。視覚分析法は、部分的に自動化した場合でさえ複雑又は主観的なものとなる。この点に関し、例えば、US5,675,097号、DE19928456A1号に記載される既知の測定法では、鋳鉄中のグラファイトの空間構造を酸素定量法を基にして決定するので視覚分析法における欠点は生じない。従って、反応が高速化し、製造における特有の影響により収率が増大し、又はそうした反応の速さや高い収率の夫々が、鋳造時の廃棄物量を減少させる。鋳鉄の品質はうまく制御され得る。
鋳鉄のマグネシウム処理による成果は、例えば、白色固体化サンプルの金属組織分析又は分光分析、又は更に熱分析により実証され得る。
【0003】
一般に、純マグネシウム又はマグネシウム合金は鋳鉄の球状形態化を促進させるために使用する。添加されたマグネシウムの一部は鉄から酸素と硫黄とを抽出し、残余のマグネシウム分が所謂遊離マグネシウムとして酸素活量を制御する。融成物中の含有遊離マグネシウム量は鋳鉄の球状化率の決定因子である。融成物中の遊離マグネシウム分は酸素活量が増大する間に減少し、それが鋳鉄の構造及び機械的特性に対して影響を与える。
融成物の酸素活量を決定する既知のセンサは、例えばDE10310387B3号に開示される。この特許文献に開示されるセンサは、固体電解質型チューブの外面上に、例えば、鉄融成物中の硫黄、シリコン、又は炭素の濃度を測定できるようにするための、ジルコン酸カルシウムとフッ化物との混合物のコーティングを有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】US5,675,097
【特許文献2】DE19928456A1
【特許文献3】DE10310387B3
【特許文献4】US5,675,097
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
鋳鉄の機械的特性に対し、既に液相下において影響を与える方法と、この方法を調節するためのセンサとであって、従来法及び従来センサに勝る方法及びセンサを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記問題は本件出願に添付する請求項の内、独立形式請求項に記載した発明の特徴部分により解決される。有益な実施例は従属項に記載される。本発明の方法は、鋳鉄融成物の含有酸素量を測定し、測定した含有酸素量を、参照温度としての凡そ1420℃の温度下に凡そ0.005〜0.2ppmになるまで、鋳鉄融成物にマグネシウムを添加することを特徴とする。含有酸素量は、これまでマグネシウム量の測定において可能であったよりもずっと精密に測定されるので(マグネシウムは融成物中に遊離マグネシウム及び結合マグネシウムとして存在するために精密な分析はできなかった)、鋳鉄の機械的特性を一段と精密に決定することができる。当業者は、低含有酸素量下での少量の大型粒子と、高含有酸素量下での多数の小型粒子とを検出可能であり且つそれらの間の相関を利用することができる。かくして、US5,675,097号に既述されるように、鋳鉄の機械的特性、例えば引張強度、伸び量、変形抵抗、に関する相関付けが可能となる。驚くべきことに、鋳鉄の伸び量は含有酸素量が0.1ppmよりも少ない、好ましくは0.08〜0.1ppmの間になるまでマグネシウムを添加したときに最大となることが示された。含有酸素量がもっと少なく又は多くなると鋳鉄の伸び量は再び減少する。所望の含有酸素量とするには鋳鉄融成物に凡そ200〜750ppmのマグネシウムを添加するのが有益である。
【0007】
本発明に従うセンサは、固体電解質型チューブの外面上に二酸化ジルコニウム層を被着させたことを特徴とするものである。詳しくは、二酸化ジルコニウム層を酸化カルシウム、酸化イットリウム、及び又は酸化マグネシウムにより安定化させ得る。二酸化ジルコニウム層は、30重量パーセントまでの酸化カルシウム、25重量パーセントまでの酸化マグネシウム、及び又は52重量パーセントまでの酸化イットリウムにより安定化するのが有益であり、詳しくは、4〜6重量パーセントの酸化カルシウムにより安定化するのが有益である。センサの二酸化ジルコニウム層はプラズマ噴霧により形成するのが有益であり、厚さが凡そ30〜50μm、詳しくは凡そ40μmであることが好ましい。二酸化ジルコニウム層を設ける固体電解質型チューブは、凡そ2重量パーセントの酸化マグネシウムにより安定化され得る酸化ジルコニウムチューブであることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
鋳鉄の機械的特性に対し、既に液相下において影響を与える方法と、この方法を調節するためのセンサとであって、従来法及び従来センサに勝る方法及びセンサが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、グラファイト粒子数と含有酸素量(酸素活量aO)との間の相関図である。
【図2】図2は、伸び量及び含有酸素量との間の相関図である。
【図3】図3は、本発明に従うセンサヘッドを通しての断面図である。
【図4】図4は、他の実施例におけるセンサを通しての部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の1実施例を図面を参照して説明する。
図1には、含有酸素量(酸素活量aO)の増大に伴いグラファイト粒子数が増大する状況が示される。かくして、グラファイト粒子数はマグネシウムを添加して含有酸素量を調節することで調整され得る。従って、鋳鉄は融成物状態において既にその特性に対する特有の影響を受ける。球状化率は酸素活量が凡そ0.10及び0.12ppm(1420℃で有効)の間にある場合に最大となり、0.10ppm以下に低下すると減少する。これは、過剰のマグネシウム分は球状化率に悪影響を及ぼすという、鋳造プラクティスにおいて知られている体験談と一致する。
【0011】
図2は、鋳鉄の伸び量と酸素活量との相関図である。伸び量は酸素活量が凡そ0.08ppmのときに最大となることが示される。酸素活量がもっと少ないときは、伸び量は、恐らくは球状化率がずっと小さいことにより、若干少なくなる。仮に酸素活量が最適値を上回ると伸び量は徐々に減少する。グラフでは、マグネシウムを添加して鋳鉄融成物中の含有酸素量を調節することで鋳鉄の伸び量に対する影響を与え得ることが示される。
【0012】
図3には本発明に従うセンサが示される。金属チューブ1の内部の充填砂3内に電線2(Cu/CuNi/導体)を配置し、接続片4を介して電線をランス又はその他のホルダに接続し、更に分析器ユニットに接続し、電線2の他端を、熱電対5及び電気化学的測定用セル6に接続する。電気化学的測定用セル6は、固体電解質型チューブ(ZrO2セル)を有し、このチューブは外部シースとしてのスチール製の雷属性防壁(ショックシールド)を有する。ZrO2セルはその外面上に、5重量パーセントの酸化カルシウムにより安定化した二酸化ジルコニウム層を有する。二酸化ジルコニウム層の厚さは凡そ40μmである。固体電解質型チューブは基本的に知られたものであるのでその詳細については図示されない。
【0013】
熱電対5を、熱電対シール用セメント7内に然るべく固定する。電気化学的測定用セル6もセメント8内に同じく固定し、センサ内に設けたその端部を、電気接点を通したシール用プラグ9で閉鎖する。2つのセンサ素子、即ち熱電対5及び電気化学的測定用セル6をプラスチック製クリップ10で連結する。金属チューブ1の内部に、断熱材11を貫いて電線を通し、センサの金属チューブの浸漬端の外側には、金属チューブ1を保護する砂胴部12を設ける。
【0014】
図4には類似構成が示され、センサがキャリヤチューブ13内で接触している。キャリヤチューブ13は段ボール製であり、砂胴部12に面する正面側を鋳物砂又はセメントで形成した飛沫保護チューブ14で包囲している。搬送中や、融成物への浸漬中にセンサ素子5、6を保護するため、これらのセンサ素子は、融成物への浸漬中に溶融して又は浸漬後に夫々溶融してセンサ素子5、6を露呈させる金属キャップ15で先に覆っておく。
以上、本発明を実施例を参照して説明したが、本発明の内で種々の変更をなし得ることを理解されたい。
【符号の説明】
【0015】
1 金属チューブ
2 電線
3 充填砂
4 接続片
5 熱電対
6 電気化学的測定用セル
7 熱電対シール用セメント
8 セメント
9 シール用プラグ
10 プラスチック製クリップ
11 断熱材
12 砂胴部
13 キャリヤチューブ
14 飛沫保護チューブ
15 金属キャップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳鉄融成物にマグネシウムを添加することにより鋳鉄の特性に対して影響を与える方法であって、
鋳鉄融成物の含有酸素量を測定し、凡そ1420℃の温度下に含有酸素量が凡そ0.005〜0.2ppmとなるまでマグネシウムを添加する方法。
【請求項2】
含有酸素量が0.1ppmよりも小さい、好ましくは0.08〜0.1ppmの間になるまでマグネシウムを添加する請求項1の方法。
【請求項3】
凡そ200〜750ppmのマグネシウムを添加する請求項1又は2の方法。
【請求項4】
固体電解質型チューブを含む電気化学的測定用セルを使用して鋳鉄融成物中の含有酸素量を測定するためのセンサであって、該固体電解質型チューブの、外側に面した表面上に二酸化ジルコニウム層を被着したセンサ。
【請求項5】
二酸化ジルコニウム層を、酸化カルシウム、酸化イットリウム、及び又は酸化マグネシウムによって安定化した請求項4のセンサ。
【請求項6】
二酸化ジルコニウム層を、30重量パーセントまでの酸化カルシウム、または25重量パーセントまでの酸化マグネシウム、又は52重量パーセントまでの酸化イットリウムを使用して安定化した請求項5のセンサ。
【請求項7】
二酸化ジルコニウム層を、凡そ4〜6重量パーセントの酸化カルシウムによって安定化した請求項6のセンサ。
【請求項8】
二酸化ジルコニウム層をプラズマ噴霧により被着した請求項4〜7の何れかのセンサ。
【請求項9】
二酸化ジルコニウム層の厚さが凡そ30〜50μm、詳しくは凡そ40μmである請求項4〜8の何れかのセンサ。
【請求項10】
固体電解質型チューブを二酸化ジルコニウムチューブとして設計した請求項4〜9の何れかのセンサ。
【請求項11】
二酸化ジルコニウムチューブを、凡そ2重量パーセントの酸化マグネシウムを使用して安定化した請求項10のセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−516469(P2010−516469A)
【公表日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−545861(P2009−545861)
【出願日】平成20年1月14日(2008.1.14)
【国際出願番号】PCT/EP2008/000226
【国際公開番号】WO2008/089894
【国際公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【出願人】(598083577)ヘレーウス エレクトロ−ナイト インターナシヨナル エヌ ヴイ (37)
【氏名又は名称原語表記】Heraeus Electro−Nite International N.V.
【住所又は居所原語表記】Centrum Zuid 1105, B−3530 Houthalen,Belgium
【Fターム(参考)】