説明

鋳鉄へのアルカリ性亜鉛系めっき方法

【課題】 アルカリ性亜鉛系めっき浴を用いて鋳鉄へ亜鉛系めっきを施す。
【解決手段】 めっき浴を亜鉛イオンと水酸化アルカリを含むアルカリ性亜鉛系めっき浴とし、陽極の一部又は全部を不溶性陽極とし、陽極以外から亜鉛イオンの一部又は全部を供給し、並びに連続的又は断続的に、めっき液を流動若しくは振動させ、及び/又は被めっき物を揺動、振動若しくは回転させる鋳鉄への亜鉛系めっき方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ性亜鉛系めっき浴を用いて鋳鉄へ亜鉛系めっきを施すための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋳鉄への電気亜鉛系めっきは、自動車用ブレーキ部品、建材用配管ジョイント部品、などの分野で必要とされている技術であり、一般には酸性亜鉛系めっき浴(塩化アンモニウム浴、塩化カリウム浴、硫酸浴など)を用いて行われており、実用的なレベルでアルカリ性亜鉛系めっき浴からめっきを行っている例は殆どない。これは、従来アルカリ性亜鉛系めっき浴から、鋳鉄にめっきしようとすると、大部分の電流は水の電気分解に費やされ、亜鉛は高電流密度部にわずかに電着するだけで、殆ど電着しないためである。
しかしながら、酸性亜鉛系めっき浴は廃水処理性が悪く処理コストがかさむこと、酸性亜鉛系めっき浴からのめっきでは被めっき物の部位によりめっき膜厚が大きく異なること、被めっき物の不めっき部分(内面、凹部、孔、穴など)が錆びやすいことなどがあり、更に新たな問題として、環境対応として亜鉛めっき上に施す3価クロメート皮膜の耐食性がアルカリ浴からめっきを施したものより劣ることなどから、鋳鉄への亜鉛系めっきもアルカリ性めっき浴の要望が出てきた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
アルカリ性亜鉛系めっき浴から鋳鉄にめっきを施そうとすると、通常のめっき電流密度(1〜3A/dm2程度)では殆ど又は全く亜鉛電着が起こらない。数倍の高電流密度負荷を与えると一部に亜鉛電着が得られる程度で、しかも、得られた電着亜鉛は粗めっきであり実用的な平滑性が得られない。
これまでの亜鉛めっきに関する特許文献やその他の技術文献などからは、アルカリ浴から鋳鉄への亜鉛めっきのこのような現象を解決しようとする試みは見出せない。
そこで本発明は、アルカリ浴から亜鉛を電着させ、その電着亜鉛を粗めっきではなく平滑なめっき皮膜にすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らはこの課題を解決するために鋭意研究の結果、アルカリ性亜鉛系めっき浴から鋳鉄にめっきしようとすると、めっき液と被めっき物の界面で水の電気分解による水素ガスの連続的多量発生があり、この水素ガスが被めっき物を覆い、該界面への亜鉛イオンの供給を遮断し、めっき電着が極度に阻害されていることが大きな要因であることを見い出した。
そこで、めっき液と被めっき物の界面(以下「電着面」という。)への亜鉛イオン供給を遮断している水素ガスを該界面から物理的手段で引き離し(以下「水素ガス除去」という。)、電着面への亜鉛イオン供給を促進することにより亜鉛の電着が容易になると考え、連続的又は断続的に、めっき液の流動若しくは振動及び/又は被めっき物の揺動、振動若しくは回転などを行ったところ、該界面に付着した水素ガスが除去されて被めっき物界面への亜鉛イオン供給が促進され、容易に亜鉛めっきの電着を行うことができた。
【0005】
しかしながら、従来の可溶性亜鉛を陽極とするアルカリ性亜鉛系めっき浴ではめっき液の流動や処理物の揺動などにより水素ガス除去を行うと、亜鉛陽極表面に付着しているか又はめっき槽の下部に沈降している陽極スライムがめっき液に浮遊してめっき液を汚し、めっき皮膜に付着して不良めっきとなる。一般鉄鋼品へのアルカリ性亜鉛めっきでも陽極亜鉛にアノードバック(布製の袋)をつけているものが多いが、鋳鉄へのめっきの場合は一般鉄製品のめっきに比べて数倍〜数十倍も陽極電流密度が高くなるため、陽極スライムの発生が多く、布袋のはげしい目づまりを起こし通電性が悪くなり、めっき浴の管理が困難であり実用に耐えない。
本発明者らは、このような陽極スライムによるめっき液の汚れを避けるために陽極の一部又は全部に陽極スライムの発生しない不溶性陽極を採用し、亜鉛イオン供給を陽極以外から行うこととした。これにより陽極スライムによる弊害が低減又は除去され、めっき液の流動若しくは振動、又は被処理物の揺動、振動若しくは回転などの強弱、方向などを自由に変化させて被めっき物表面の水素ガス除去を行うことができるようになり、アルカリ浴亜鉛系めっきから鋳鉄に容易に電着させることが可能となった。
【0006】
また、めっき浴の亜鉛イオン濃度を高くすることやめっき浴温度を高くすることにより電着を促進することができるが、この促進効果は水素ガス除去を行うことで顕著となり、水素ガス除去を行わない場合には僅かである。
【0007】
このようにして、アルカリ性めっき浴から鋳鉄に電着させることが可能となったが、従来のアルカリ性亜鉛系めっき浴への添加剤(光沢剤)、例えばイミダゾール又はポリアルキレンポリアミンなどの脂肪族アミンとエピハロヒドリンの反応物などを主体にした添加剤を使用すると、粗めっき(樹皮状めっき、一般に「ヤケ」という)になりやすいことやめっき液温度30℃以上で添加剤が変質することなどの課題が生じた。
本発明者らはめっき浴への添加剤(光沢剤)として構造式:
【化1】

(式中、a及びbは2〜4の整数であり、
mは0〜6の整数であり、
nは1以上の整数であり、
Xは有機又は無機イオンの残査であり、
Yは硫黄又は酸素原子である。)
をもつ化合物を用いることで、この課題が解決できることを見い出だした。
【0008】
これにより、アルカリ性亜鉛系めっき浴から鋳鉄へのめっき電着が可能になったが、更に新たな課題として、鋳鉄の「す」の中にめっき処理工程中に入ったアルカリ液が、めっき後の数時間〜数日間に表面ににじみ出て亜鉛めっき表面のクロメートなどの化成皮膜を変色させたり、腐食したりするなどの問題が生じた。この問題解決手段としてアルカリ性亜鉛系めっきを行った被めっき物(鋳鉄)をめっき後の洗浄工程で例えば湯洗と水洗などの温度差を繰り返し、被めっき物の膨張収縮を利用して「す」の中のアルカリ液を洗い出すことにより解決した。
【0009】
このように、鋳鉄にアルカリ浴から亜鉛系めっきを施すことは、これまでに実用化の経験がないだけに被めっき物表面に亜鉛系めっきを単に電着させるだけでなく様々な課題が発生したが、本発明者らはこれら課題を次々と解決して実用性のあるアルカリ性亜鉛系めっき方法を確立し本発明に至った。
【発明の効果】
【0010】
本発明を用いることにより、これまで困難とされてきた、アルカリ性めっき浴から鋳鉄への亜鉛の電着が可能となり、更にその電着亜鉛を粗めっきではなく平滑なめっき皮膜にすることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
次に、本発明を詳しく説明する。
アルカリ性の亜鉛系めっき浴から鋳鉄にめっきを施すための手段として、電着面に発生する水素ガスを電着面から物理的にできるだけ早く連続的又は断続的に引き離す水素ガス除去を行うことが本発明の側面の一つである。
【0012】
水素ガス除去手段として行うめっき液の流動は、めっき液のかくはん、噴流、槽内流などにより行うことができる。
めっき液の流動方法は特に限定するものではないが、具体例としては、スクリューかくはん、処理物下部からのエアーかくはん、めっき槽下部又は側面からのめっき液の液中吐出、めっき槽内のめっき液の一方向へ流れ(槽内流)、めっき槽下部又は側面からの超音波などがあり、これらの二種以上を組み合わせることで効果は増大する。
【0013】
めっき液の振動には超音波振動、低周波振動などにより行うことができる。被めっき物を揺動する方向は特に制限されるものではないが、例えば上下方向、前後方向、左右方向などが可能であり、被めっき物をバイブレータなどにより振動させたり、被めっき物を回転させながらめっきすることも有効である。また、これらの手段を二種以上組み合わせることで効果は増大する。
なお、従来でもバレルめっき方式(回転めっき)のように被めっき物を回転させる方法が知られているが、バレルめっき方式では、回転速度が遅く(約5rpm)被めっき物界面の水素ガス除去がほとんどなされないことから、本発明とは本質的に異なる方法である。更にはバレルめっきは給電方法の制約から陰極電流密度が低く、仮に、陰極電流密度を高くしてもこれに耐える光沢剤が無く、本発明の課題を解決することは到底できない。
【0014】
処理物の形状や有効めっき面の品質要求が異なるため、好ましい流動方法、揺動方法を特に限定することは難しいが、めっき液の流動及び振動は方向性があり、処理物全面への均一な水素ガス除去効果は得られないため、例えば「槽内流」と「めっき液のめっき液断続吐出」を組み合わせ、さらに、「処理物を揺動または回転」するなど、二種以上を組み合わせて補完し合うことで出来るだけ均一に水素ガス除去を行うことが好ましい。
【0015】
電着面の水素ガス除去は、亜鉛陽極表面やめっき槽底部の陽極スライムなどの汚れを舞い上げてめっき浴に浮遊しめっき不良の原因となる。この陽極スライム浮遊の悪影響を避けるために本発明では陽極の一部又は全部を不溶性の陽極にするものであり、全部を不溶性陽極にするのが好ましい。
不溶性陽極を使用することによる亜鉛系めっき浴の亜鉛イオンの不足はめっき槽とは別に亜鉛溶解槽を設けて、めっき液をめっき槽と亜鉛溶解槽の間で循環させ供給するのが望ましい。
亜鉛溶解槽での亜鉛溶解方法には、めっき液中で金属亜鉛と亜鉛より貴な金属とを接触させて亜鉛を溶解させるもの、更に外部からの電圧を加え亜鉛溶解を促進するもの、金属亜鉛と異種金属を揺動、回転などで共ズレさせる方法などいくつかの提案がなされているが、本発明ではこの溶解方法について特に限定するものでない。一般的には溶解槽中の鉄かごに亜鉛板を入れ亜鉛イオンをめっき液に供給し、供給されためっき液を(好ましくは濾過機を通して)めっき槽に戻す方法がある。
亜鉛溶解槽の設置場所がない場合などには、めっき槽内で開いているスペースに亜鉛の入った鉄かごをめっき浴に浸漬するなどして異種金属の接触による亜鉛溶解で亜鉛イオンを溶解しめっき浴に供給することもできる。当該手段だと亜鉛イオン供給が十分でない場合には陽極の一部を可溶性の亜鉛陽極とし補うこともできる。しかしこの方法は鋳鉄へのめっきは高電流密度のめっきであるため陽極酸化がはげしく起こり電流が流れ難くなり、陰極の電流分布にも悪影響を起こすため、できるだけ避けた方がよい。めっき槽内で亜鉛を溶解させる場合には、溶解させる亜鉛と陰極(被めっき物)との間にアノードバック又はそれに準じた亜鉛イオン透過性の隔膜を装着するなどの方法により、陽極スライムをめっき浴に浮遊させないことが重要である。
【0016】
また、本発明である陰極の水素ガス除去と不溶性陽極の採用は、本来の目的であるめっき電着促進及び陽極スライムの悪影響回避ばかりでなく、鋳鉄のめっきに必要な高電流密度のめっき作業に伴う高い浴電圧を大幅に低下させる効果があり、省エネ対策にも有効である。特に、上記水素ガス除去手段は陰極の電着面の水素ガス除去だけでなく陽極面の酸素ガスを除去する効果もあり、めっき浴の電気抵抗が低下するため、めっき浴電圧を大幅に下げることができる。また不溶性陽極素材に加工しやすい金属、例えば鉄鋼板を使用して陽極に凹凸を設けて陽極面積を増加さることで電圧を更に低下させることが可能である。電圧が下がることにより発生する水素量も低減できると考えられる。
【0017】
本発明で使用できる不溶性陽極の材料は亜鉛系めっきに悪影響がなければ特に指定するものでないが、一般的には鉄、ニッケル、コバルト、チタン、カーボンなどアルカリ性めっき浴にて陽極電解で溶解しないものが使用でき、鉄上のニッケルめっき、コバルトめっきなどの不溶性導電物めっきあるいはチタン上の酸化イリジウムコーティングなどの不溶性導電物コーティング物なども使用できる。
【0018】
前述の通り、アルカリ性浴を用いた鋳鉄へ亜鉛系めっきを施す際には水素ガス除去手段を設けることが電着を促進させるのに効果的であるが、さらに電着を容易にする要因として、めっき浴の亜鉛イオン濃度とめっき浴の温度があり、めっき浴中の亜鉛イオン濃度が高いほど、そしてめっき浴温度が高いほど電着面への亜鉛イオンの供給は多くなり、電着しやすくなる。そして、この電着促進効果は陰極の水素ガス除去と併用することで大幅に上昇する。しかし濃度、温度を高くすると、強いアルカリ性のめっき浴のため添加剤の変質を起こしやすくなるなどの弊害も生じる。
例えば、従来から一般的なアルカリ亜鉛めっき浴に使用されている添加剤、即ちイミダゾール又はポリアルキレンポリアミンなどの脂肪族アミンとエピハロヒドリンの反応物を主体とする添加剤を鋳鉄へのアルカリ性亜鉛系めっきに用いると、高電流密度めっき作業(4〜40A/dm2)であるために亜鉛イオン濃度15g/L程度でも被めっき物の高電流密度部が樹皮状の粗めっき(ヤケ)となり、亜鉛イオン濃度を高くすると更に悪化することが分かった。また、めっき浴の苛性ソーダ濃度140g/Lにおいてめっき浴温度を30℃以上にすると添加剤が変質を起こして光沢作用効果が失われるなどの欠点があることが分かった。このように従来の添加剤を用いることは実用上問題があることが分かった。
【0019】
本発明者らは、高亜鉛イオン濃度でも樹皮状の粗めっき(ヤケ)とならないばかりか、高温度のめっき浴で変質の少ない新規添加剤を求めて検討したところ、めっき液の苛性ソーダ濃度90g/L〜160g/Lにおいて亜鉛イオン濃度10〜65g/L、めっき浴温度15〜70℃の広い範囲に対応できる添加剤として構造式:
【化2】

(式中、a及びbは2〜4の整数であり、
mは0〜6の整数であり、
nは1以上の整数であり、
Xは有機又は無機イオンの残査であり、
Yは硫黄又は酸素原子である。)
をもつ化合物が有効であることを見い出した。
この化合物の構造式において、nは重合度を示し平均6程度が最適であり、小さいと高電流密度部が粗めっきとなりやすく、大きいと電流効率が低下し電着しにくい傾向にある。
Yは硫黄又は酸素であり、硫黄の場合は特に光沢性に優れ、酸素の場合は電着物の二次加工性に優れている。またa及びbは2〜4であるが、小さい方が低電流密度部の光沢が良く、電着速度も速い。また大きい方が均一電着性に優れ、高電流密度部が粗めっきになりにくいため、被めっき物の用途、要求度に応じて選択できる。または、パラメーターの異なるこれらの化合物を組み合わせることにより複数の効果を同時に発現することもできる。
【0020】
めっき液中の添加剤濃度は0.5g/L〜20g/Lであるが、めっき安定性と経済性を考慮すると1g/L〜4g/Lが好ましい。
この添加剤により、従来の添加剤が分解してしまうめっき液条件である、苛性ソーダ濃度140g/L以上、温度30℃以上のめっき液でのめっき条件が可能になり、具体的には、添加剤2g/L、苛性ソーダ濃度150g/L、亜鉛イオン濃度55g/L、めっき浴温度50℃、陰極電流密度15A/dm2の条件によるめっきにより酸性亜鉛めっきに勝る速度での鋳鉄へのアルカリ性亜鉛めっきを実現した。
本発明のめっき浴濃度を詳しく説明すると、苛性ソーダ濃度はめっき液の電導性を保持すると共に亜鉛イオンの溶解性を高めるもので、亜鉛イオン濃度が高くなるほど苛性ソーダ濃度も高くする必要がある。本発明では90g/L〜160g/Lであるが、一般的には亜鉛イオン濃度10g/Lで苛性ソーダ濃度100g/L程度、亜鉛濃度25g/Lで苛性ソーダ濃度140g/L程度、亜鉛濃度50g/Lで150g/L程度であり、亜鉛濃度はめっき電着速度、均一電着性、高電流密度部の粗めっき(ヤケ)などに最も影響する要因であり、被めっき物の材質、形状、めっき要求度に応じて適切に選定され、維持させるものであり、本発明の亜鉛濃度は10g/L〜65g/Lであり、通常はめっき電着速度を重視するため亜鉛濃度は高い方(30g/L以上)を選択するのが一般的である。しかし、被めっき物の用途によってはめっき皮膜厚さの上限が限定されるなどからめっき速度を犠牲にして亜鉛濃度を低くすることも可能である。
【0021】
めっき液温度は亜鉛濃度と類似した傾向を示し、温度が高いほどめっき速度が速くなり、均一電着性が低下し、高電流部の粗めっきも起こりやすい。従って、被めっき物の要求に応じためっきを行うためには、亜鉛濃度を急に変化させることは出来ないので、めっき液温度で調整することが可能となる。本発明のめっき温度は15℃〜70℃であり、一般的には40℃〜50℃程度が適当であるが、被めっき物の要求によっては20℃のめっきも可能である。
また、陰極電流密度は4A/dm2〜40A/dm2で使用でき、被めっき物の要求度に応じて、亜鉛濃度、めっき液温度と共に選定できるが、一般的には10A/dm2〜25A/dm2である。高速めっきを目的とする場合は、強いめっき液の流動、高亜鉛イオン濃度、高めっき液温度のもとで、30A/dm2以上の高電流密度も可能である。
【0022】
鋳鉄には「す」と呼ばれる液体の浸透可能な孔があり、亜鉛めっきのアルカリ性脱脂(界面活性剤含有)、酸性除錆、めっきなどの処理工程でこの「す」の中に入った処理薬品が数日かけてにじみ出し、亜鉛めっきの最終工程であるクロメート化成皮膜の耐食性低下と変色などを起こす。これを避けるためにめっき後の洗浄工程で温度差を与え、これによる鋳鉄の膨張と収縮を利用して「す」の中の薬品を除去することができる。温度差を与える手段としては例えば湯洗と水洗をシャワーや浸漬により行う方法が挙げられる。洗浄時間は長くする必要はなく、各温度ごとに一工程5〜10秒以上あればよい。低温(高温)洗浄から高温(低温)洗浄への温度変化を1回と数えて、温度変化は2回以上繰り返し行うことが好ましい。低温洗浄と高温洗浄の温度差は大きいほどよい。また、この洗浄工程に超音波を併用することも有効であるが、温度差を与えることで効果はさらに増大する。
【0023】
なお、本発明でいうアルカリ性亜鉛系めっきとは、アルカリ性ジンケート亜鉛めっき、アルカリ性亜鉛合金めっき(亜鉛−鉄、亜鉛−鉄−コバルト、亜鉛−コバルト、亜鉛−ニッケルなど)であり、亜鉛系合金めっきにおいては水素ガス除去、亜鉛イオン濃度変更、めっき液温度変更が合金比に影響するので、あらためてめっき条件を設定する必要がある。
【0024】
これまで鋳鉄への亜鉛系めっきは酸性浴により行われていたが、本発明によりアルカリ性浴からの亜鉛系めっきの実用的利用が可能になる。アルカリ性浴は酸性浴に比べて廃水処理が容易で環境に優しいめっき浴であり、更には酸性浴よりも高い耐食性を有することや均一電着性・皮膜物性などの利点を活かして、これまで以上に高い品質の鋳鉄の亜鉛系めっき品を提供することが可能になる。
【実施例】
【0025】
本発明を以下実施例にて説明するが、これらは本発明及びその利点をより良く理解するために提供するものであり、発明が限定されることを意図しない。
【0026】
めっき試験
次記のめっき条件で実施例及び比較例について鋳鉄への亜鉛めっきを施した。結果は表1に示す。

被処理物 :球状黒鉛鋳鉄の平板(100mm×100mm×8mm)
めっきの前処理:アルカリ脱脂→水洗→塩酸酸洗→水洗→アルカリ中和→めっき
(めっきの前処理としては一般的なものとした。)
本発明の添加剤:
添加剤(1) 構造式a=2 b=3 Y=O 2g/L
添加剤(2) 構造式a=3 b=3 Y=S 2g/L
従来の添加剤 :
添加剤(3) JASCO H−1218(日本表面化学製)6ml/L (アルカリ性亜鉛系めっき用光沢剤としてイミダゾール、脂肪族アミン及びエピクロルヒドリンの反応物を主体とする水溶液)
めっき浴組成 :亜鉛イオン 20g/L、55g/L、
苛性ソーダ 150g/L、
めっき浴温度 :25℃,50℃
陽極 :鉄板
極間距離 :10〜15cm(陰極揺動により変動)
陰極揺動 :陽極方向へ振幅4〜5cm 60往復/分
めっき時間 :10分
めっき膜厚測定位置:
A:陽極側から見て右上角から対角方向へ15mm内側の被めっき物表面(陽極側)
B:被めっき物表面(陽極側)中央部
C:被めっき物裏面中央部
判定基準 ◎:実用的に十分満足できる
○:満足できる
△:被めっき物の要求度によっては実用できる
×:実用できない
【0027】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳鉄への亜鉛系めっき方法であって、めっき浴を亜鉛イオンと水酸化アルカリを含むアルカリ性亜鉛系めっき浴とし、陽極の一部又は全部を不溶性陽極とし、陽極以外から亜鉛イオンの一部又は全部を供給し、並びに連続的又は断続的に、めっき液を流動若しくは振動させ、及び/又は被めっき物を揺動、振動若しくは回転させることを特徴とするめっき方法。
【請求項2】
めっき槽とこれとは別に設けた亜鉛溶解槽との間でめっき液を循環させることにより、めっき槽に亜鉛イオンを供給することを特徴とする請求項1に記載の鋳鉄へのめっき方法。
【請求項3】
めっき浴の苛性ソーダ濃度が90g/L〜160g/Lであり、及び/又は亜鉛イオン濃度が10〜65g/Lであり、及び/又はめっき浴の温度が15〜70℃であり、及び/又は陰極電流密度が4A/dm2〜40A/dm2である請求項1又は2に記載の鋳鉄へのめっき方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のめっき方法に使用する、以下の構造式で表される化合物の一種以上を含むめっき浴への添加剤。
【化1】

(式中、a、b:2〜4の整数
m :0〜6の整数
n :1以上の整数
X :有機又は無機イオンの残査
Y :硫黄又は酸素)
【請求項5】
めっき浴への添加剤として請求項4に記載の添加剤を用いる請求項1〜3のいずれか一項に記載の鋳鉄へのめっき方法。
【請求項6】
請求項1〜3又は5のいずれか一項に記載のめっき方法にてめっきした後に、被めっき物に温度変化を2回以上与えて洗浄する工程を更に含む鋳鉄へのめっき方法。
【請求項7】
請求項1〜3、5又は6のいずれか一項に記載のめっき方法を用いてめっきを施した鋳鉄の亜鉛系めっき品。

【公開番号】特開2006−57165(P2006−57165A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−242688(P2004−242688)
【出願日】平成16年8月23日(2004.8.23)
【出願人】(000232656)日本表面化学株式会社 (29)
【Fターム(参考)】