説明

鋳鉄管の塗装方法

【課題】内面塗装済みの鋳鉄管を、管内面の美観を損ねることなく、適正温度で外面塗装できるようにすることである。
【解決手段】内面塗装を施された鋳鉄管1を温水で予熱したあとに、内面をローラブラシ13で掃除してから、外面塗装を少なくとも1回施すことにより、予熱時に温水から管内面に付着、残留する異物をブラシ掃除によって除去するようにし、内面塗装済みの鋳鉄管を、管内面の美観を損ねることなく、適正温度で外面塗装できるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内面塗装済の鋳鉄管の外面に外面塗装を施す鋳鉄管の塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、水道管等の鋳鉄管では、使用時の長期通水に対する耐久性が求められる内面には、エポキシ樹脂粉末塗料等の粉体塗料を用いた塗装が施され、使用時の周囲の地下水等に対する耐食性や、ハンドリング時の耐衝撃性、可撓性が求められる外面には、有機溶剤型塗料や水系エマルション塗料等の液体塗料を用いた塗装が施されている(例えば、特許文献1参照)。この液体塗料を用いた外面の塗装は、一次塗装と二次塗装の2回に分けて行われることもある。また、受口部の内面は、外面と同様に、液体塗料を用いた塗装が施されている。
【0003】
このような鋳鉄管のように、内面と外面に異なる種類の塗料を用いる塗装工程では、内面塗装に用いる粉体塗料の適正温度が160〜200℃程度と高く、外面塗装に用いる液体塗料の適正温度が60〜80℃程度と、これよりも低いことから、適正温度の低い液体塗料が変質しないように、先に内面塗装を行い、こののち外面塗装を行うようにしている。特許文献1に記載されたものでは、先に行う適正温度の高い内面塗装での余熱を利用して、再加熱することなく、後の外面塗装を適正温度で行うようにしている。
【0004】
一方、鋳鉄管外面の塗装方法としては、鋳鉄管の外面を、温水浸漬、熱風吹付け、赤外線照射等の手段によって予熱し、この予熱によって液体塗料の塗膜を短時間で乾燥させる方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−253433号公報
【特許文献2】特開平8−141498号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された鋳鉄管の塗装方法は、塗装工程での熱ロスを少なくできるとともに、全体の塗工時間を短縮することができるが、塗装作業場の配置や他の塗装品のスケジューリング等の事情によって、内面塗装後すぐに外面塗装を行うことができず、内面塗装された鋳鉄管の温度が室温まで下がってしまうことがある。
【0007】
このような場合には、特許文献2に記載された鋳鉄管外面の塗装方法のように、鋳鉄管の外面を予熱すれば、液体塗料による外面塗装を適正温度で行って、塗膜を短時間で乾燥することができる。この外面の予熱手段としては、内面塗装済みの鋳鉄管を温水浸漬する方法が、最も短時間で鋳鉄管の外面を深部まで効率よく予熱することができ、かつ、予熱コストも低い。
【0008】
しかしながら、内面塗装済みの鋳鉄管を温水浸漬すると、温水中の異物が塗装済みの内面に付着、残留するため、管内面の美観を損ねる問題がある。特に、エポキシ樹脂粉末塗料で内面塗装された管内面は非常に美麗であり、異物が残留すると美観の悪さがよく目立つ。
【0009】
そこで、本発明の課題は、内面塗装済みの鋳鉄管を、管内面の美観を損ねることなく、適正温度で外面塗装できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明は、鋳鉄管の内面に内面塗装を施したあとに、少なくとも外面を含むように外面塗装を施す鋳鉄管の塗装方法において、前記内面塗装を施された鋳鉄管を温水で予熱したあとに、前記内面をブラシで掃除してから、前記外面塗装を少なくとも1回施す方法を採用した。
【0011】
すなわち、内面塗装を施された鋳鉄管を温水で予熱したあとに、内面をブラシで掃除してから、外面塗装を少なくとも1回施すことにより、予熱時に温水から管内面に付着、残留する異物をブラシ掃除によって除去するようにし、内面塗装済みの鋳鉄管を、管内面の美観を損ねることなく、適正温度で外面塗装できるようにした。
【0012】
前記予熱は、前記鋳鉄管を温水に浸漬するものとすることにより、鋳鉄管の外面を深部まで短時間で効率よく予熱することができる。
【0013】
前記内面をブラシで掃除する際に、前記内面に洗浄水を流すことにより、ブラシで鋳鉄管の内面から除去した異物を流し去ることができる。
【0014】
前記洗浄水として、前記鋳鉄管を予熱した温水を使用することにより、予熱された鋳鉄管の温度低下を簡便に防止することができる。
【0015】
前記温水をろ過して使用することにより、温水中の異物が鋳鉄管の内面に付着するのを防止することができる。
【0016】
前記鋳鉄管が直管である場合は、前記ブラシで掃除する際に、前記鋳鉄管を水平方向で傾けて回転させることにより、異物を含む洗浄後の洗浄水を速やかに管外へ流出させ、異物の再付着を防止することができる。
【0017】
前記ブラシを、高速回転する環状のローラブラシとすることにより、鋳鉄管の内面に付着、残留する異物を短時間で効率よく除去することができる。
【0018】
前記ローラブラシを、複数の環状のブラシユニットを軸方向に同心に重ね、隣接するブラシユニット同士を回転方向で噛み合わせて一体化したものとすることにより、鋳鉄管の内面の広い面積を一度に掃除することができる。
【0019】
上述した鋳鉄管の各塗装方法は、前記内面塗装が、エポキシ樹脂粉末塗料を用いたものである場合に好適である。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る鋳鉄管の塗装方法は、内面塗装を施された鋳鉄管を温水で予熱したあとに、内面をブラシで掃除してから、外面塗装を施すようにしたので、内面塗装済みの鋳鉄管を、管内面の美観を損ねることなく、適正温度で外面塗装することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る鋳鉄管の塗装方法を適用した鋳鉄管を示す縦断面図
【図2】本発明に係る鋳鉄管の塗装方法の工程を示すフローチャート
【図3】図2の温水槽での予熱工程を示す正面図
【図4】図2の内面掃除工程を示す正面図
【図5】図4のV−V線に沿った断面図
【図6】図4のローラブラシを示す正面図
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面に基づき、本発明の実施形態を説明する。図1は、本発明に係る塗装方法を適用した鋳鉄管1を示す。この鋳鉄管1は水道用の直管であり、両端部に受口部1aと挿口部1bが設けられており、受口部1aを除く内面に、粉体塗料を用いた塗装が施され、外面と受口部1aの内面には、液体塗料を用いた一次塗装と二次塗装が施される。内面塗装の粉体塗料にはエポキシ樹脂粉末塗料が用いられ、外面塗装の一次塗装には水系エマルション塗料が、二次塗装には有機溶剤型塗料が用いられる。
【0023】
図2は、前記鋳鉄管1を塗装する工程を示すフローチャートである。まず、鋳鉄管1は加熱炉で200℃程度に予熱され、160〜200℃の温度範囲で、エポキシ樹脂粉末塗料を用いた内面塗装が、受口部1aを除く直部の内面に施される。こののち、内面塗装時の余熱を利用して、60〜80℃の温度範囲で、水系エマルション塗料を用いた外面一次塗装が外面と受口部1aに施され、室温近くまで冷却される。
【0024】
つぎに、前記内面塗装と外面一次塗装を施された内面塗装済の鋳鉄管1は、後述する予熱工程で温水槽10に浸漬されて、80〜90℃に予熱されたのち、後述する内面掃除工程で内面をブラシ掃除される。最後に、60〜80℃の温度範囲で、有機溶剤型塗料を用いた外面二次塗装が施され、塗工が完了する。なお、フローチャートには表示しないが、外面二次塗装は、まず、受口部1aと挿口部1bを除く直部の外面に施され、こののち、有機溶剤型塗料のスプレノズルを交換して、受口部1aの内外面と挿口部1bの外面に施される。
【0025】
図3は、前記内面塗装済の鋳鉄管1を温水槽5で予熱する予熱工程を示す。鋳鉄管1は温水槽5に浸漬され、80〜90℃に予熱される。
【0026】
図4および図5は、前記内面塗装済の鋳鉄管1の内面をブラシ掃除する内面掃除工程を示す。この内面掃除工程では、鋳鉄管1が水平方向で傾けて2対の回転ローラ11に載置され、下向き傾斜側の挿口部1b側から、回転軸12の先端側に装着された環状のローラブラシ13が挿入されるようになっており、回転ローラ11で鋳鉄管1を低速回転させながら、ローラブラシ13を高速回転させて、鋳鉄管1の内面をブラシ掃除する。
【0027】
前記ローラブラシ13を装着した回転軸12は、鋳鉄管1の長手方向に走行する走行台車14に片持ち支持され、モータ15で回転駆動される。走行台車14は、鋳鉄管1の傾きと等しい傾斜で敷設されたレール16上を走行し、レール16と平行に片持ち支持された回転軸12は、先端側のローラブラシ13を鋳鉄管1の下側に来る内面に沿わせて管内に挿入される。したがって、低速回転する鋳鉄管1は、下側に来る位置で内面の周方向を順次ブラシ掃除されるとともに、走行台車14の後退移動によって、内面の長手方向を奥側から下向きに傾斜した手前側へ順次ブラシ掃除される。
【0028】
図6に示すように、前記ローラブラシ13は、複数の環状のブラシユニット13aを軸方向に同心に重ねて、その両側をセットカラー13bで緩まないように締め付けたものであり、図示は省略するが、隣接するブラシユニット13a同士は回転方向で噛み合わされて一体化されている。
【0029】
前記ローラブラシ13を装着した回転軸12の外側には、ローラブラシ13の先端側と後端側ですべり軸受17aを介してブラケット17に支持された洗浄水配管18が取付けられている。洗浄水配管18の先端にはフレキシブルチューブ18aが取付けられ、その先端から洗浄水がブラシ掃除された鋳鉄管1の内面に向けて流出するようになっている。フレキシブルチューブ18aは、鋳鉄管1の内面を手前側へ後退移動するローラブラシ13の後側から追随して移動するので、ブラシ掃除で内面から除去された異物を効率よく洗浄水で流し取ることができる。また、異物を流し取った洗浄水は、下向きに傾斜する鋳鉄管1の手前側の挿口部1bから速やかに管外へ流出する。
【0030】
前記洗浄水には、前記鋳鉄管1を予熱した温水槽10の温水をろ過して使用している。したがって、温水槽10で予熱された鋳鉄管1の洗浄水による温度低下を防止できるとともに、温水槽10の温水に混入する異物の内面への付着を防止することができる。
【0031】
また、前記回転軸12は中空とされており、その内部に供給される圧縮エアが、回転軸12の先端部に設けられたノズル19から洗浄水で洗われた鋳鉄管1の内面に吹付けられ、内面に付着する洗浄水を除去して乾燥するようになっている。
【0032】
上述した実施形態では、外面塗装を一次塗装と二次塗装の2回に分けて行い、二次塗装のみを内面掃除後に行うようにしたが、一次塗装も内面掃除後に行うようにすることもできる。また、外面塗装を1回のみとし、内面掃除後に行うこともできる。
【0033】
また、上述した実施形態では、塗装される鋳鉄管を直管としたが、本発明に係る鋳鉄管の塗装方法は、エルボ管等の曲管にも適用することができる。
【符号の説明】
【0034】
1 鋳鉄管
1a 受口部
1b 挿口部
10 温水槽
11 回転ローラ
12 回転軸
13 ローラブラシ
13a ブラシユニット
13b セットカラー
14 走行台車
15 モータ
16 レール
17 ブラケット
17a すべり軸受
18 洗浄水配管
18a フレキシブルチューブ
19 ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳鉄管の内面に内面塗装を施したあとに、少なくとも外面を含むように外面塗装を施す鋳鉄管の塗装方法において、前記内面塗装を施された鋳鉄管を温水で予熱したあとに、前記内面をブラシで掃除してから、前記外面塗装を少なくとも1回施すようにしたことを特徴とする鋳鉄管の塗装方法。
【請求項2】
前記予熱が、前記鋳鉄管を温水に浸漬するものである請求項1に記載の鋳鉄管の塗装方法。
【請求項3】
前記内面をブラシで掃除する際に、前記内面に洗浄水を流すようにした請求項1または2に記載の鋳鉄管の塗装方法。
【請求項4】
前記洗浄水として、前記鋳鉄管を予熱した温水を使用するようにした請求項3に記載の鋳鉄管の塗装方法。
【請求項5】
前記温水をろ過して使用するようにした請求項4に記載の鋳鉄管の塗装方法。
【請求項6】
前記鋳鉄管を直管とし、前記ブラシで掃除する際に、前記鋳鉄管を水平方向で傾けて回転させるようにした請求項3乃至5のいずれかに記載の鋳鉄管の塗装方法。
【請求項7】
前記ブラシを、高速回転する環状のローラブラシとした請求項1乃至6のいずれかに記載の鋳鉄管の塗装方法。
【請求項8】
前記ローラブラシを、複数の環状のブラシユニットを軸方向に同心に重ね、隣接するブラシユニット同士を回転方向で噛み合わせて一体化したものとした請求項7に記載の鋳鉄管の塗装方法。
【請求項9】
前記内面塗装が、エポキシ樹脂粉末塗料を用いたものである請求項1乃至8のいずれかに記載の鋳鉄管の塗装方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−223695(P2012−223695A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−92808(P2011−92808)
【出願日】平成23年4月19日(2011.4.19)
【出願人】(000142595)株式会社栗本鐵工所 (566)
【Fターム(参考)】