説明

鋳鉄管の防食方法および防食処理された鋳鉄管

【課題】耐腐食性や耐候性を損なうことなく外面塗装の工程を省略し、安定した品質を有し、溶剤臭を生じない鋳鉄管の防食方法および防食処理された鋳鉄管を提供する。
【解決手段】鋳鉄管の防食方法は、(1)鋳鉄管の外面に、亜鉛、亜鉛−アルミニウム擬合金または亜鉛−アルミニウム合金を溶射し、溶射被膜層を形成する工程、(2)前記鋳鉄管を加熱し、前記鋳鉄管の内面に、エポキシ樹脂粉体塗料を塗装して内面塗膜層を形成する工程、および(3)前記(2)工程の後、その余熱を利用して、前記溶射被膜層の表面に、固形分として、(A)エポキシエステル樹脂1〜15重量部と、(B)アクリル系樹脂エマルジョン5〜30重量部と、(C)アクリル系樹脂ディスパージョン55〜94重量部とからなり、(A)、(B)および(C)の合計が100重量部であり、かつ(D)顔料体積濃度が35〜45%の顔料を含む水性塗料を塗装して外面塗膜層を形成する工程からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳鉄管の防食方法および防食処理された鋳鉄管に関し、さらに詳しくは、水道管やガス管として使用する鋳鉄管の、錆の発生や劣化を防ぐための防食方法および防食処理された鋳鉄管に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から上下水道管などには鋳鉄管が用いられている。このような鋳鉄管の内面には、長期の通水に対して高い腐食性や耐久性を維持するためにエポキシ樹脂粉体塗装やモルタルライニングが施される。エポキシ樹脂粉体塗装は、鋳鉄管をその表面温度が200℃程度になるように加熱し、常温で固形のエポキシ樹脂を主成分とする粉体塗料を鋳鉄管内面に塗装し、熱によって該塗料を硬化させるものである。モルタルライニングは、骨材として珪砂などを使用したセメントモルタルを鋳鉄管の内面に被覆するものであり、その内表面はシールコートによって保護される。
【0003】
また、鋳鉄管の外面には、地中に埋設する水道管の腐食を防止するために、日本ダクタイル鉄管協会規格JDPA Z 2010「ダクタイル鋳鉄管合成樹脂塗装」に規定されている亜鉛系プライマーによる溶射被膜層を形成し、溶射被膜層の上塗り塗料として、たとえば日本水道協会規格JWWA K 139「水道用ダクタイル鋳鉄管合成樹脂塗料」の基準を満たす塗料を塗装して塗膜層を形成することが行われている。
【0004】
管内面にエポキシ樹脂粉体塗装を行う場合の鋳鉄管の防食方法について説明すると、おおむね以下のとおりである。(1)まず、鋳鉄管の外面に、亜鉛、亜鉛−アルミニウム擬合金または亜鉛−アルミニウム合金を溶射し、溶射被膜層を形成する。(2)次に、鋳鉄管をその表面温度が200℃程度になるようにガス炉で加熱し、鋳鉄管の内面に、エポキシ樹脂粉体塗料を塗装して内面塗膜層を形成する。(3)内面塗膜層を形成するときの余熱を利用して、50〜80℃で溶射被膜層の外面に水性塗料による一次塗装を行い、第1外面塗膜層を形成する。(4)さらに常温で、溶剤系塗料による二次塗装を行い、第2外面塗膜層を形成する。
【0005】
また、管内面にモルタルライニング層を形成する場合の鋳鉄管の防食方法は、おおむね以下のとおりである。(1)まず、鋳鉄管の外面に、亜鉛、亜鉛−アルミニウム擬合金または亜鉛−アルミニウム合金を溶射し、溶射被膜層を形成する。(2)次に、鋳鉄管を50〜80℃の温水に浸漬し、温水から引き上げた後、溶射被膜層の外面に水性塗料による一次塗装を行い、第1外面塗膜層を形成する。(3)鋳鉄管の内面にモルタルライニング層を形成し、蒸気養生する。(4)モルタルライニング層を形成した後、鋳鉄管を50〜80℃の温水に浸漬し、温水から引き上げた後、モルタルライニング層の表面にシールコートを塗装し、内面塗膜層を形成する。(5)常温で、溶射被膜層の外面に溶剤系塗料による二次塗装を行い、第2外面塗膜層を形成する。
【0006】
上述した従来の防食方法は特許文献1に開示されている。また、上記一次塗装に用いる水性塗料としては、たとえば特許文献2に示す塗料組成物があげられ、また、二次塗装用の溶剤系塗料としては、たとえば特許文献3に示す塗料組成物があげられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−273660号公報
【特許文献2】特許第2913454号公報
【特許文献3】特開2000−281961号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
鋳鉄管の外面が充分な防食性を有するためには、従来の方法では水性塗料による一次塗装を行い、その上にさらに、溶剤系塗料による二次塗装を行わなければならず、鋳鉄管の外面の防食処理に少なくとも2工程が必要である。工程を簡略化するために二次塗装を省略し、水性塗料からなる一次塗装のみにすると、塗膜の耐候性が低いために塗膜表面が紫外線によって劣化し、白く変色するという問題が生じ、耐腐食性も低下する。
【0009】
また、水性塗料による一次塗装は、温水やガス炉などの熱を利用する塗装であるため、乾燥が迅速で、塗膜の品質も安定するが、溶剤系塗料による二次塗装は通常、常温乾燥であるため、気温や湿度によって乾燥がばらつき、均一かつ安定した塗膜が得られないことがあり、品質管理が容易でない。さらに最近、日本水道協会規格JWWA K 139「水道用ダクタイル鋳鉄管合成樹脂塗料」が改正され、トルエン、キシレンなどによる溶剤臭に対する規制が厳しくなってきていることから、溶剤の使用量が低く、環境負荷の少ない鋳鉄管の防食方法が望まれている。
【0010】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、防食性に優れ、外面塗装の工程を省略することができ、塗膜品質が安定し、溶剤臭がほとんどせず、環境負荷が小さい鋳鉄管の防食方法および防食処理された鋳鉄管を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の鋳鉄管の防食方法は、(1)鋳鉄管の外面に、亜鉛、亜鉛−アルミニウム擬合金または亜鉛−アルミニウム合金を溶射し、溶射被膜層を形成する工程、(2)前記鋳鉄管を加熱し、前記鋳鉄管の内面に、エポキシ樹脂粉体塗料を塗装して内面塗膜層を形成する工程、および(3)前記(2)工程の後、その余熱を利用して、前記溶射被膜層の表面に、固形分として、(A)エポキシエステル樹脂1〜15重量部と、(B)アクリル系樹脂エマルジョン5〜30重量部と、(C)アクリル系樹脂ディスパージョン55〜94重量部とからなり、(A)、(B)および(C)の合計が100重量部であり、かつ(D)顔料体積濃度が35〜45%の顔料を含む水性塗料を塗装して外面塗膜層を形成する工程からなることを特徴としている。
【0012】
本発明の鋳鉄管の防食方法は、(1)鋳鉄管の外面に、亜鉛、亜鉛−アルミニウム擬合金または亜鉛−アルミニウム合金を溶射し、溶射被膜層を形成する工程、(2)前記鋳鉄管の内面にモルタルライニング層を形成し、蒸気養生する工程、(3)前記(2)工程の後、前記鋳鉄管を加温し、前記モルタルライニング層の表面にアクリル樹脂塗料を塗装して内面塗膜層を形成する工程、および(4)前記(3)工程の後、その余熱を利用して、前記溶射被膜層の外面に、固形分として、(A)エポキシエステル樹脂1〜15重量部と、(B)アクリル系樹脂エマルジョン5〜30重量部と、(C)アクリル系樹脂ディスパージョン55〜94重量部とからなり、(A)、(B)および(C)の合計が100重量部であり、かつ(D)顔料体積濃度が35〜45%の顔料を含む水性塗料を塗装して外面塗膜層を形成する工程からなることを特徴としている。
【0013】
また、顔料(D)が、2〜20重量%の防錆顔料を含有することが好ましい。
【0014】
また、前記顔料体積濃度が35〜40%であることが好ましい。
【0015】
本発明の防食処理された鋳鉄管は、上記防食方法によって製造されたことを特徴としている。
【0016】
本発明の防食処理された鋳鉄管は、鋳鉄管と、前記鋳鉄管の外面に形成された、亜鉛、亜鉛−アルミニウム擬合金または亜鉛−アルミニウム合金からなる溶射被膜層と、前記溶射被膜層の外面に、固形分として、(A)エポキシエステル樹脂1〜15重量部と、(B)アクリル系樹脂エマルジョン5〜30重量部と、(C)アクリル系樹脂ディスパージョン55〜94重量部とからなり、かつ(D)顔料体積濃度が35〜45%の顔料を含む水性塗料を塗装して形成された外面塗膜層とからなることを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
本発明の鋳鉄管の防食方法によれば、鋳鉄管は耐腐食性、耐候性、耐水性などの防食性に優れ、また、密着性など防食塗装に求められる諸機能を損なうことなく、鋳鉄管の外面塗膜層の形成工程を省略することができる。これによって、作業の省力化、防食処理の迅速化、さらにはコストを低減することができる。また、本発明の外面塗膜層の形成は、前工程の余熱を利用しているため、別途の乾燥工程や乾燥時間を必要とせず、塗膜は迅速かつ均一に形成され、品質が安定する。さらに本発明の防食方法では、溶剤系塗料を使用しないため、溶剤臭がほとんどせず、溶剤による環境負荷を低減することができる。
【0018】
また、本発明の防食処理された鋳鉄管は、外面塗膜層が1層であるにもかかわらず、防食性に優れ、安定した品質を有し、溶剤臭がほとんどなく、環境負荷が小さい。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の防食方法に用いる鋳鉄管は、上下水道管やガス管などに広く用いられているものである。鋳鉄管は埋設環境で使用されることが多いため、高い耐腐食性や耐候性、耐久性を有する必要があり、管外面には防食処理が施される。なお、防食および防食性とは、鋳鉄管の腐食および劣化を防ぐものすべてを含み、それらの長期間にわたる耐久性も含む概念である。本発明においては、防食および防食性は主として耐腐食性および耐候性を含む意味で用いるが、これに限定されるものではない。
【0020】
<管内面にエポキシ樹脂粉体塗装を行う場合の防食方法>
[溶射被膜層の形成]
本発明では、鋳鉄管に防食性を付与するため、第1工程として、鋳鉄管の外面に、亜鉛、亜鉛−アルミニウム擬合金または亜鉛−アルミニウム合金を溶射し、溶射被膜層を形成する。この工程の前に、必要に応じて管外面にブラスト処理、清掃などの素地調整を行うことが好ましい。なお、亜鉛−アルミニウム擬合金とは、溶射された亜鉛とアルミニウムとが不規則に重なり合い、外見的に亜鉛−アルミニウム合金を形成しているものをいう。亜鉛−アルミニウム擬合金および亜鉛−アルミニウム合金における亜鉛とアルミニウムとの重量比率は特に限定されるものではないが、耐腐食性に優れるという理由から、好ましくは95:5〜40:60である。
【0021】
溶射方法は特に限定されるものではないが、たとえばガス溶射法やアーク溶射法、プラズマ溶射法があげられる。より具体的には、回転しながら管軸方向に移送される鋳鉄管に、固定した溶射ガンにより亜鉛、亜鉛−アルミニウム擬合金または亜鉛−アルミニウム合金を溶射する方法、回転させた鋳鉄管に、溶射ガンを移動させながら亜鉛を溶射する方法があげられる。
【0022】
溶射被膜層の厚さは、日本ダクタイル鉄管協会規格のJDPA Z 2010−2009「ダクタイル鋳鉄管合成樹脂塗装」において、亜鉛溶射の場合、防食性の観点から130g/m2以上にするよう定められており、これは厚さ20μmに相当する。また、厚さは密着性を考慮して300g/m2以下が好ましく、260g/m2以下がより好ましい。亜鉛−アルミニウム擬合金または亜鉛−アルミニウム合金を溶射する場合、防食性の観点から130〜600g/m2の範囲であればよく、200〜500g/m2の範囲が好ましく、250〜450g/m2の範囲がより好ましい。
【0023】
[内面塗膜層の形成]
溶射被膜層を形成した後、管内面の防食性を付与するため、第2工程として、鋳鉄管を加熱し、鋳鉄管の内面に、エポキシ樹脂粉体塗料を塗装して内面塗膜層を形成する。この工程の前に、必要に応じて管内面を研磨、清掃などの素地調整を行うことが好ましい。
【0024】
鋳鉄管は、塗装されるエポキシ樹脂粉体塗料を溶融し、硬化させるために塗装前に加熱される。加熱方法は特に限定されるものではないが、たとえばガス炉や電気炉などの加熱炉を用いて行われる。鋳鉄管の加熱温度は、使用するエポキシ樹脂粉体塗料の種類や硬化時間などによって任意に決定されるものであるため特に限定されるものではないが、樹脂を溶融させ、樹脂と硬化剤とを架橋反応させるため、鋳鉄管の表面温度は好ましくは150℃以上であり、より好ましくは170〜270℃である。
【0025】
管内面に塗装されるエポキシ樹脂粉体塗料は、常温で固形のエポキシ樹脂、該エポキシ樹脂用の硬化剤、さらに必要に応じて各種顔料、添加剤などを含有する。エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂などのビスフェノール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、環式脂肪族エポキシ樹脂、グリシジルアミン型樹脂、複素環式エポキシ樹脂、多官能型エポキシ樹脂などがあげられる。また、エポキシ樹脂の軟化点は特に限定されるものではないが、好ましくは60〜150℃であり、エポキシ当量も特に限定されるものではないが、好ましくは400〜3000である。軟化点が60℃未満またはエポキシ当量が400未満では、粉体塗料が貯蔵中に固まる傾向があり、軟化点が150℃を超え、またはエポキシ当量が3000を超えると、溶融粘度が高くなるため、塗面が平滑になりにくい傾向があり、ピンホールなどが生じやすい傾向がある。
【0026】
粉体塗料用のエポキシ樹脂に用いる硬化剤は、通常使用される硬化剤であれば特に限定されるものではないが、たとえばイミダゾール系化合物、イミダゾリン系化合物、ジシアンジアミド、酸無水物、ポリカルボン酸ヒドラジドおよびその誘導体、フェノール樹脂およびその誘導体などがあげられる。なかでも、イミダゾール系化合物、イミダゾリン系化合物またはポリカルボン酸ヒドラジドおよびその誘導体を単独または併用して用いることが塗膜の防食性、可撓性、密着性および強度が著しく良好となる点から好ましい。
【0027】
エポキシ樹脂粉体塗料には、酸化チタン、酸化鉄、カーボンブラック、フタロシアニンブルー、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、シリカ、タルクなどの各種顔料や、充填剤、分散剤、表面調整剤などの各種添加剤を必要に応じて配合することができる。顔料および充填剤の添加量は、塗膜を厚膜化できるという理由から、塗料中に好ましくは20〜50重量%、より好ましくは30〜45重量%である。エポキシ樹脂粉体塗料の製造方法は特に限定されず、たとえばドライブレンド法や熱溶融錬合法により製造することができる。
【0028】
エポキシ樹脂粉体塗料の塗装方法は特に限定されるものではなく、たとえばスプレー塗装などにより塗装することができる。より具体的には、鋳鉄管内面にスプレーノズルを挿入し、管軸方向に移動させながら、鋳鉄管を回転させてスプレー塗装する方法や、鋳鉄管を回転させ、管内部に粉体塗料を気体とともに過剰送入し、管内面に融着させ、余剰の粉体塗料を除去する方法などによって粉体塗料を塗装する。エポキシ樹脂粉体塗料を塗装することによって形成される内面塗膜層の厚さは、好ましくは300μm、より好ましくは400〜700μmである。厚さが300μm未満では管内面の防食性が低下する傾向がある。
【0029】
[外面塗膜層の形成]
内面塗膜層を形成した後、第3工程として、その余熱を利用して、鋳鉄管の外面の溶射被膜層の表面に、水性塗料を塗装して外面塗膜層を形成する。水性塗料は、エポキシエステル樹脂(A)とアクリル系樹脂エマルジョン(B)とアクリル系樹脂ディスパージョン(C)と顔料(D)とを含む。(A)、(B)および(C)成分はいずれも水性分散体であり、これらの成分を後述する所定の比率で水性塗料中に配合することで、鋳鉄管は耐腐食性や耐候性に優れ、また、密着性など防食塗装に求められる諸機能を損なうことなく、外面塗膜層を1コートで形成することができる。つまり、水性塗料による一次塗装と、溶剤系塗料による二次塗装の2段階塗装を必要とした従来の防食方法と比べて、外面塗膜層の形成工程を省略することができる。
【0030】
また、外面塗膜層の形成は、内面塗膜層を形成するときの余熱を利用して行うため、内面塗膜層を形成した後、連続して行うことが好ましい。内面塗膜層の形成工程と外面塗膜層の形成工程との間隔は特に限定されるものではないが、自然冷却の場合、内面塗膜層の形成工程の後、通常30分〜3時間以内の間隔、より好ましくは1〜2時間以内の間隔で連続して外面塗膜層の形成を行う。このときの鋳鉄管の表面温度は好ましくは50〜80℃であり、より好ましくは70〜80℃である。50℃未満では塗膜が乾燥しにくい傾向があり、80℃を超えると塗料中の水分が沸く傾向がある。また、外面塗膜層の形成に用いる水性塗料は乾燥が迅速であることから、鋳鉄管の防食塗装の所要時間を短縮することができる。
【0031】
エポキシエステル樹脂(A)は、耐腐食性を向上させるために水性分散体として水性塗料に配合される。エポキシエステル樹脂(A)は、不飽和脂肪酸変性エポキシエステル樹脂(a1)、末端カルボキシル基含有構造を有するビニル単量体およびその他のビニル単量体を塊状重合させて得られるビニル変性エポキシエステル樹脂(a2)を主成分とし、このビニル変性エポキシエステル樹脂(a2)を中和して得られるビニル変性エポキシエステル樹脂中和物(a3)の水性分散体である。詳細については後述する。
【0032】
エポキシエステル樹脂(A)の水性分散体の固形分濃度は特に限定されるものではないが、作業性を考慮して通常は15〜70重量%であり、より好ましくは25〜60重量%であり、最も好ましくは35〜50重量%である。
【0033】
エポキシエステル樹脂(A)の配合量は、固形分として、水性塗料の(A)、(B)および(C)成分100重量部中に1〜15重量部であり、好ましくは3〜12重量部であり、より好ましくは5〜10重量部である。配合量が1重量部未満では耐腐食性が低下する傾向があり、15重量部を超えるとアクリル系樹脂成分が相対的に少なくなり、良好な塗膜が形成されない傾向がある。
【0034】
アクリル系樹脂エマルジョン(B)は、耐腐食性および乾燥性に優れた塗膜を形成するために水性塗料に配合される。アクリル系樹脂エマルジョン(B)は、強制乳化型の(メタ)アクリル重合体(b)の水性樹脂分散体を主成分とするものである。強制乳化型とは、乳化剤を用いて強制的に乳化したもので、樹脂部分は基本的に自己乳化力を有しないものを意味し、本発明においてエマルジョンは強制乳化型の分散体という意味で用いる。詳細については後述する。
【0035】
アクリル系樹脂エマルジョン(B)の固形分濃度は特に限定されるものではないが、作業性を考慮して通常は15〜70重量%の範囲内であり、より好ましくは25〜60重量%であり、最も好ましくは35〜50重量%である。
【0036】
アクリル系樹脂エマルジョン(B)の配合量は、固形分として、水性塗料の(A)、(B)および(C)成分100重量部中に5〜30重量部であり、好ましくは8〜25重量部であり、より好ましくは10〜20重量部である。配合量が5重量部未満では乾燥性が低下する傾向があり、30重量部を超えると後述するアクリル系樹脂ディスパージョン(C)が相対的に少なくなり、耐腐食性と耐候性が低下する傾向がある。
【0037】
アクリル系樹脂ディスパージョン(C)は、耐腐食性と耐候性に優れた塗膜を形成するために水性塗料に配合される。アクリル系樹脂ディスパージョン(C)は、自己乳化型のビニル系重合体の水性樹脂分散体(c1)を主成分とし、常圧下の沸点が130〜220℃の範囲内で、かつ20℃での水の溶解度が100以上の有機溶剤(c2)をアクリル系樹脂ディスパージョン(C)中に15重量%以下含有する自己乳化型の水性分散体である。自己乳化型とは、樹脂骨格に何らかの親水性基を化学的に導入し、樹脂自体が乳化能を有することを意味し、本発明においてディスパージョンは自己乳化型の分散体という意味で用いる。詳細については後述する。
【0038】
アクリル系樹脂ディスパージョン(C)の固形分濃度は特に限定されるものではないが、作業性を考慮して通常は15〜70重量%の範囲内であり、より好ましくは25〜60重量%であり、最も好ましくは35〜50重量%である。
【0039】
アクリル系樹脂ディスパージョン(C)の配合量は、固形分として、水性塗料の(A)、(B)および(C)成分100重量部中に55〜94重量部であり、好ましくは73〜89重量部であり、より好ましくは75〜85重量部である。配合量が55重量部未満では良好な塗膜が形成されない傾向があり、94重量部を超えるとエポキシエステル樹脂(A)やアクリル系樹脂エマルジョン(B)が相対的に少なくなり、耐腐食性や耐久性が低下する傾向がある。
【0040】
水性塗料に用いる顔料(D)は、主として強度と乾燥性のバランスに優れた塗膜を形成するためのものであり、後述する体質顔料や防錆顔料などの各種顔料を使用することができる。
【0041】
水性塗料中の顔料(D)の配合量は、顔料体積濃度(以下、PVCという)で35〜45%であり、好ましくは35〜40%である。PVCが35%未満では塗膜に粘着性が残りやすく、乾燥しにくい傾向があり、45%を超えると塗膜の耐腐食性が低下する傾向がある。なお、PVCとは、pigment volume concentrationの略称であり、PVC(%)=顔料/(樹脂+顔料)×100で算出される顔料の体積比率である。樹脂と顔料との合計体積は、通常、分散体中の不揮発分容積を用いる。
【0042】
水性塗料の塗装方法は特に限定されるものではなく、スプレーや刷毛、ローラーによって塗装することができる。水性塗料を塗装することによって形成される外面塗膜層の厚さは、日本ダクタイル鉄管協会規格のJDPA Z 2010−2009「ダクタイル鋳鉄管合成樹脂塗装」において、所定の耐腐食性と耐久性を得るために溶射被膜層との合計を100μm以上としなければならないことが定められている。したがって、外面塗膜層の厚さはこの基準を満たすものであれば特に限定されず、たとえば溶射被膜層の厚さが20μmの場合、外面塗膜層の厚さは80μm以上であり、防食性と付着性を考慮して好ましくは100μm〜200μmである。
【0043】
<管内面にモルタルライニング層を形成する場合の防食方法>
本発明の鋳鉄管の防食方法は、管内面にエポキシ樹脂粉体塗装を行う場合だけでなく、モルタルライニング層を形成する場合にも適用することができる。以下、管内面にモルタルライニング層を形成する場合の防食方法について説明する。なお、溶射被膜層の形成については、すでに説明した内容と基本的に同じであるため、説明は繰り返さない。
【0044】
[モルタルライニング層の形成]
第1工程として溶射被膜層を形成した後、管内面の防食性を付与するため、第2工程として、鋳鉄管の内面にモルタルライニング層を形成し、蒸気養生する。この工程の前に、必要に応じて管内面を研磨、清掃などの素地調整を行うことが好ましい。モルタルライニング層の形成は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。たとえば珪砂などの骨材を含むセメント材料を、内面ライニング装置を管軸方向に移動させながら、管内面にモルタルライニングを形成し、蒸気養生する方法があげられる。モルタルライニング層の厚さはJIS A 5314「ダクタイル鋳鉄管モルタルライニング」において口径ごとに規定されている。
【0045】
[内面塗膜層の形成]
蒸気養生した後、第3工程として、鋳鉄管を加温し、モルタルライニング層の表面にシールコートと呼ばれるアクリル系重合体を塗装して内面塗膜層を形成する。この塗装はモルタルライニングを保護し、pH上昇を抑制するなどの目的で行われるものである。この工程の前に、必要に応じて管内面を研磨、清掃などの素地調整を行うことが好ましい。
【0046】
塗装されるシールコートを硬化し、乾燥させるために、塗装前に鋳鉄管を加温する。加温方法は特に限定されるものではないが、たとえば鋳鉄管を温水浸漬することがあげられる。鋳鉄管の加温温度は50〜80℃であり、より好ましくは70〜80℃である。50℃未満では塗膜の乾燥に時間がかかり、また、後述する外面塗膜層を形成するための温度が不足する傾向があり、80℃を超えると仕上がりが悪くなる。
【0047】
シールコートには、JIS A 5314 6.4に規定される材料が用いられ、シールコートの塗装方法はJIS A 5314 7.5に規定される方法が用いられ、その塗布量は約100g/m2である。
【0048】
[外面塗膜層の形成]
内面塗膜層を形成した後、第4工程として、その余熱を利用して、鋳鉄管の外面の溶射被膜層の表面に、水性塗料を塗装して外面塗膜層を形成する。水性塗料、その塗装方法、および得られる塗膜の膜厚は、管内面にエポキシ樹脂粉体塗装を行う場合と基本的に同じであるため、説明は繰り返さない。
【0049】
また、外面塗膜層の形成は、内面塗膜層を形成するときの余熱を利用して行うため、内面塗膜層を形成した後、連続して行われることが好ましい。内面塗膜層の形成工程と外面塗膜層の形成工程との間隔は特に限定されるものではないが、自然冷却の場合、内面塗膜層の形成工程の後、通常15分以内の間隔、より好ましくは10以内の間隔で連続して外面塗膜層の形成を行う。このときの鋳鉄管の表面温度は好ましくは50〜80℃であり、より好ましくは70〜80℃である。50℃未満では塗膜が乾燥しにくい傾向があり、80℃を超えると塗料中の水分が沸く傾向がある。
【0050】
[水性塗料]
(エポキシエステル樹脂(A))
本発明に用いるエポキシエステル樹脂(A)は、水性塗料に耐腐食性を付与する成分であり、不飽和脂肪酸変性エポキシエステル樹脂(a1)、一般式(I)
【化1】

(nは1〜10の整数であり、R1は炭素数2〜18のアルキレン基を示す。)で示される末端カルボキシル基含有構造を有するビニル単量体およびその他のビニル単量体を塊状重合させて得られるビニル変性エポキシエステル樹脂(a2)と、塩基性化合物とからなり、水を用いてビニル変性エポキシエステル樹脂(a2)中のカルボキシル基の一部または全部を塩基性化合物によって中和し、この中和で得られるビニル変性エポキシエステル樹脂中和物(a3)を水に分散することによって得られるものである。
【0051】
不飽和脂肪酸変性エポキシエステル樹脂(a1)としては、たとえばエポキシ樹脂が有するエポキシ基および/または水酸基と、不飽和脂肪酸が有するカルボキシル基とを反応させて得られる不飽和脂肪酸変性エポキシエステル樹脂があげられる。
【0052】
不飽和脂肪酸変性エポキシエステル樹脂(a1)の調製に用いる前記エポキシ樹脂としては、たとえばビスフェノール型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ポリエチレングリコール系エポキシ樹脂、エポキシ化ポリブタジエン樹脂などがあげられる。これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。なかでも、耐腐食性に優れる塗膜を形成できるという理由からビスフェノール型エポキシ樹脂を使用することが好ましい。
【0053】
前記ビスフェノール型エポキシ樹脂としては、たとえば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂があげられ、なかでも、耐腐食性に優れる塗膜を形成できるという理由からビスフェノールA型エポキシ樹脂を使用することが好ましい。
【0054】
前記ビスフェノールA型エポキシ樹脂としては、たとえばエピクロン850、1050、3050、4050、7050、HM−091、HM−101(以上、いずれもDIC(株)製)などがあげられる。前記ビスフェノールF型エポキシ樹脂としては、たとえばエピクロン830(DIC(株)製)などがあげられる。
【0055】
前記脂環式エポキシ樹脂としては、たとえばユノックス201、289(以上、いずれも米国ユニオンカーバイド社製)などがあげられる。前記フェノールノボラック型エポキシ樹脂としては、たとえばエピクロンN−740、775(以上、いずれもDIC(株)製)などがあげられる。前記ポリエチレングリコール系エポキシ樹脂としては、たとえばエピコート812(オランダ国シェル社製)、エポライト40E、200E、400E(以上、いずれも(株)共栄社製)などがあげられる。前記エポキシ化ポリブタジエン樹脂としては、たとえばBF−1000((株)ADEKA製)などがあげられる。
【0056】
前記エポキシ樹脂としては、常温での造膜性に優れる水性塗料が得られることから、400〜1,000(g/当量)のエポキシ当量を有するものを使用することが好ましく、400〜600のエポキシ当量を有することがより好ましい。
【0057】
前記エポキシ樹脂由来の構造は、ビニル変性エポキシエステル樹脂(a2)中に、好ましくは15〜75重量%含まれ、より好ましくは25〜60重量%含まれる。これによって、造膜性に優れ、耐腐食性に優れた塗膜を形成できる。
【0058】
前記エポキシ樹脂と反応する不飽和脂肪酸としては、たとえばオレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エレオステアリン酸、リシノール酸、桐油脂肪酸、亜麻仁油脂肪酸、脱水ひまし油脂肪酸、ひまし油脂肪酸、トール油脂肪酸、綿実油脂肪酸、大豆油脂肪酸、オリーブ油脂肪酸、サフラワー油脂肪酸、米糠油脂肪酸などの脂肪酸などがあげられる。なかでも、ヨウ素価120〜200の大豆油脂肪酸、脱水ひまし油脂肪酸などの半乾性油、乾性油を使用することが、後述するビニル単量体を、不飽和脂肪酸の有する不飽和結合に効率よくグラフト重合させることができるため好ましい。
【0059】
前記不飽和脂肪酸に由来する構造は、前記ビニル変性エポキシエステル樹脂中に、好ましくは15〜50重量%含まれ、より好ましくは15〜40重量%含まれ、最も好ましくは20〜35重量%含まれる。これによって、常温における塗膜の乾燥性、顔料分散性および得られる塗膜の耐腐食性を向上させることができる。
【0060】
前記不飽和脂肪酸の使用の際には、目的の範囲内でその他のカルボン酸を併用することができる。前記その他のカルボン酸としては、たとえばオクチル酸、ウラリル酸、ステアリン酸、水添ヤシ油脂肪酸、ヤシ油脂肪酸、パーム油脂肪酸などの飽和脂肪酸や、(無水)フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、(無水)トリメリット酸、(無水)ピロメリット酸、テトラクロル(無水)フタル酸、1,1−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、テトラヒドロ(無水)フタル酸、(無水)ヘット酸、(無水)ハイミック酸(日立化成化学工業(株)の登録商標)、水添(無水)トリメリット酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、(無水)マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、オクテン酸、イソノナン酸、安息香酸、p−tert−安息香酸、イソオクタン酸、イソデカン酸、シクロヘキサン酸、アクリル酸、メタクリル酸などがあげられる。
【0061】
不飽和脂肪酸変性エポキシエステル樹脂(a1)は、たとえば前記エポキシ樹脂と前記不飽和脂肪酸とを、必要に応じてエステル化触媒の存在下で、150〜250℃に加熱して脱水し、前記エポキシ樹脂が有するエポキシ基や2級の水酸基と前記不飽和脂肪酸が有するカルボキシル基とをエステル化反応させることで製造できる。
【0062】
不飽和脂肪酸変性エポキシエステル樹脂(a1)を製造する際に、エーテル化反応などの副反応を抑制したい場合は、たとえばジメチルベンジルアミン、トリエチルアミンなどを用いることが好ましい。
【0063】
なお、前記エポキシ樹脂と前記不飽和脂肪酸とを反応させる際には、多価アルコールを併用することができる。前記多価アルコールとしては、たとえばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,6−ヘキサメチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、トリエチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、水添ビスフェノールA、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ソルビトールなどがあげられる。
【0064】
前記多価アルコールを使用する場合は、前記エポキシ樹脂と前記不飽和脂肪酸と前記多価アルコールとを混合しエステル化反応させることで、不飽和脂肪酸変性エポキシエステル樹脂(a1)を製造することができる。
【0065】
得られた不飽和脂肪酸変性エポキシエステル樹脂(a1)の重量平均分子量としては、塊状重合時のゲル化を抑制でき、かつ、水分散安定性に優れるという理由から3,000〜15,000であることが好ましい。
【0066】
また、不飽和脂肪酸変性エポキシエステル樹脂(a1)の油長は、塊状重合時に高粘度化、水分散樹脂粒子の粗大化、起泡性の高まりなどの問題が発生しにくいことから、15〜60重量%であることが好ましい。
【0067】
次に、不飽和脂肪酸変性エポキシエステル樹脂(a1)、一般式(I)で示される末端カルボキシル基含有構造を有するビニル単量体およびその他のビニル単量体を塊状重合させて得られるビニル変性エポキシエステル樹脂(a2)について説明する。
【0068】
一般式(I)で示される末端カルボキシル基含有構造を有するビニル単量体としては、たとえば2−メタクリロキシエチルサクシニクアシッド、2−メタクリロキシエチルヘキサハイドロフタレート、2−メタクリロキシエチルグルタレート、ω−カルボキシポリカプロラクトンメタクリレートなどがあげられる。
【0069】
一般式(I)で示される末端カルボキシル基含有構造を有するビニル単量体は、たとえば、(i)ヒドロキシカルボン酸とカルボキシル基を有するラジカル重合性不飽和化合物とを反応させる方法、(ii)カルボキシル基を有するラジカル重合性不飽和化合物とε−カプロラクトンとを酸触媒の存在下で反応させる方法などにより製造できる。前記(ii)の方法としては、たとえばカルボキシル基を有するラジカル重合性不飽和化合物とε−カプロラクトンとを、酸触媒の存在下で混合、撹拌し、40〜150℃で反応させる方法があげられる。
【0070】
前記(ii)の方法で使用できるカルボキシル基を有するラジカル重合性不飽和化合物としては、たとえばアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸などがあげられる。酸触媒としては、たとえばp−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、塩化アルミニウム、塩化第二錫などがあげられる。酸性触媒は、前記カルボキシル基を有するラジカル重合性不飽和化合物100重量部に対して、1〜20重量部の範囲で使用することが好ましい。
【0071】
前記方法で得られる、一般式(I)で示される末端カルボキシル基含有構造を有するビニル単量体は、得られる塗膜の乾燥性が良好なことから、1分子中にε−カプロラクトン由来の構造単位を平均1〜10個有することが好ましく、平均1〜5個有することがより好ましい。その具体例としては、1分子中のε−カプロラクトン単位の平均数が2のアロニクスM−5300(東亜合成化学工業(株)製)があげられる。
【0072】
ビニル変性エポキシエステル樹脂(a2)中における一般式(I)で示される末端カルボキシル基含有構造の重量割合は、好ましくは0.5〜30重量%であり、より好ましくは2〜17重量%である。これによって、ビニル変性エポキシエステル樹脂中和物(a3)と顔料の分散安定性に優れ、良好な耐腐食性を有すると共に、塊状重合時のゲル化を抑制することができる。
【0073】
ビニル変性エポキシエステル樹脂(a2)は、前記ビニル単量体およびその他のビニル重合体部分に、一般式(I)で示される末端カルボキシル基含有構造であって、一部または全部が塩基性化合物で中和されている構造の他に、一般式(II)
【化2】

(mは3〜90の整数であり、R2は炭素数2〜4のアルキレン基、R3は水素原子またはメチル基である。)で示されるポリアルキレンオキサイド構造を有するものが好ましい。
【0074】
一般式(II)で示されるポリアルキレンオキサイド構造は、不飽和脂肪酸変性エポキシエステル樹脂(a1)が有する不飽和結合の一部または全部に、一般式(I)で示される末端カルボキシル基含有構造を有するビニル単量体およびその他のビニル単量体を重合させる際に、前記その他のビニル単量体の一部または全部として一般式(II)で示されるポリアルキレンオキサイド構造を有するビニル単量体を用いることで、前記ビニル重合体部分に導入することができる。
【0075】
一般式(II)で示されるポリアルキレンオキサイド構造を有するビニル単量体としては、たとえば水酸基含有ビニル単量体にエチレンオキサイドやプロピレンオキサイドなどのアルキレンオキサイドを付加反応させて得られるものがあげられ、たとえばメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートなどがあげられる。
【0076】
一般式(II)中のmは好ましくは10〜100の整数であり、より好ましくは10〜30の整数である。これによって、ビニル変性エポキシエステル樹脂中和物(a3)と顔料の分散安定性に優れ、耐食性の良好な塗膜が得られる。
【0077】
ビニル変性エポキシエステル樹脂(a2)中における一般式(II)で示されるポリアルキレンオキサイド構造の重量割合は、好ましくは0.5〜10重量%であり、より好ましくは2〜5重量%である。これによって、ビニル変性エポキシエステル樹脂(a2)と顔料の分散安定性に優れ、耐腐食性の良好な塗膜を形成できると共に、塊状重合時のゲル化を抑制することができる。
【0078】
前記その他のビニル単量体としては、一般式(II)で示されるポリアルキレンオキサイド構造を有するビニル単量体以外に、たとえば(メタ)アクリル酸、2−カルボキシエチルアクリレート、クロトン酸、ビニル酢酸、アジピン酸モノビニル、セバシン酸モノビニル、イタコン酸モノメチル、マレイン酸モノメチル、フマル酸モノメチル、コハク酸モノ(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)、フタル酸モノ(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)、ヘキサヒドロフタル酸モノ(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)、ソルビン酸などの不飽和二重結合を有するモノカルボン酸;イタコン酸、マレイン酸、フマル酸などの不飽和二重結合を有するジカルボン酸;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、iso−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、ドコサニル(メタ)アクリレート、シクロペンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ボルニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、シクロアルキル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート;スチレン、p−tert−ブチルスチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエンなどの芳香族ビニル化合物;2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、4−メトキシブチル(メタ)アクリレートなどのω−アルコキシアルキル(メタ)アクリレート;N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミドなどの3級アミド基含有ビニル系単量体;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどの水酸基を含有する(メタ)アクリレート;2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル、6−ヒドロキシヘキシルビニルエーテルなどの水酸基含有ビニルエーテル;N−メチロール(メタ)アクリルアミド、;N−メチルアミノエチル(メタ)アクリレートなどの二級アミノ基含有ビニル系単量体;ビニルアセトアセテート、2−アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレートなどの活性メチレン基を有するビニル単量体;ビニルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランなどの加水分解性シリル基を有するビニル系単量体;トリメチルシリル(メタ)アクリレートなどのシリルエステル基を含有するビニル系単量体;グリシジル(メタ)アクリレート、メチルグリシジル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート、グリシジルビニルエーテル、アリルグリシジルエーテルなどのエポキシ基を含有するビニル系単量体;2−イソシアナートプロペン、2−イソシアナートエチルビニルエーテル、2−イソシアナートエチルメタアクリレート、m−イソプロペニル−α,α−ジメチルベンジルイソシアネートなどのイソシアネート基を含有するビニル系単量体などがあげられる。これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。また、前記その他のビニル単量体としては、たとえば前記水酸基を有するビニル単量体とε−カプロラクトンとを付加反応させたものも使用することができる。
【0079】
前記塊状重合によるビニル変性エポキシエステル樹脂(a2)の合成は、通常、ラジカル重合開始剤の存在下、合成原料である不飽和脂肪酸変性エポキシエステル樹脂(a1)と、合成により得られるビニル変性エポキシエステル樹脂(a2)がいずれも溶融して攪拌可能となる温度で行う。前記ラジカル重合開始剤としては、各種のラジカル重合開始剤が使用できるが、なかでも未反応のビニル単量体が残存しにくいことから、1時間半減期が100℃以上のラジカル重合開始剤が好ましい。
【0080】
さらに、前記ラジカル重合開始剤としては、架橋効率ε(n−ペンタデカン中でラジカル重合開始剤を15分半減期温度で分解させた時に生成するn−ペンタデカンダイマーのモル数を測定し、ラジカル重合開始剤1モルに対する生成割合を算出したもの(モル%))が30モル%以上の水素引抜き性の強いラジカル重合開始剤であることが好ましい。これによって、未反応のビニル単量体が残存しにくく、得られるビニル変性エポキシエステル樹脂(a2)の中和および水分散後の樹脂粒子が粗大化して水分散安定性が低下するのを防止できる。
【0081】
1時間半減期100℃以上、架橋効率30モル%以上のラジカル重合開始剤としては、たとえばtert−ブチルパーオキシベンゾエート、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルカーボネート、tert−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、tert−アミルパーオキシベンゾエート、ジ−tert−ブチルパーオキサイドなどがあげられ、これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。前記ラジカル重合開始剤は、前記ビニル単量体の合計量100重量部に対して、0.1〜10重量部の範囲内で使用することが好ましい。
【0082】
前記塊状重合の際には、必要に応じて連鎖移動剤を使用することができる。連鎖移動剤としては、たとえばn−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタンなどのアルキルメルカプタン;ベンジルメルカプタン、ドデシルベンジルメルカプタンなどの芳香族メルカプタン;チオリンゴ酸などのチオカルボン酸またはそれらの塩、アルキルエステルなどがあげられる。
【0083】
ビニル変性エポキシエステル樹脂(a2)の合成の際の塊状重合温度は、塊状重合時の攪拌制御が比較的容易で、不飽和脂肪酸変性エポキシエステル樹脂(a1)と、前記ビニル単量体との反応が進行しやすいことから、100〜200℃であることが好ましく、100〜150℃であることがより好ましい。前記塊状重合は、常圧においても重合可能であるが、密閉容器内で加圧重合を行うことが好ましい。常圧下での塊状重合は、重合温度が100〜140℃では重合時に高粘度化し易く、重合温度が140〜200℃では前記ビニル単量体が揮発しやすい。
【0084】
ビニル変性エポキシエステル樹脂(a2)の重量平均分子量は、好ましくは8,000〜100,000である。これによって、ビニル変性エポキシエステル樹脂(a2)は、水中に安定して分散し、耐水性および耐腐食性に優れた塗膜を形成できる。
【0085】
ビニル変性エポキシエステル樹脂(a2)の酸価は、好ましくは5〜100(mgKOH/g)であり、より好ましくは15〜40であり、最も好ましくは20〜35である。これによって、顔料分散性、耐食性および耐水性に優れた塗膜を形成できる。
【0086】
次に、得られたビニル変性エポキシエステル樹脂(a2)に含有されているカルボキシル基の一部または全部の塩基性化合物での中和と、水との混合による分散について説明する。
【0087】
ビニル変性エポキシエステル樹脂(a2)の中和に用いる前記塩基性化合物としては、たとえばメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、2−アミノエタノール、2−ジメチルアミノエタノール、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド、テトラ−n−ブチルアンモニウムハイドロオキサイド、トリメチルベンジルアンモニウムハイドロオキサイドなどがあげられる。これら塩基性化合物は、アンモニア水などのように水溶液として使用することもできる。また、ビニル変性エポキシエステル樹脂中和物(a3)を含有する水性塗料が塗膜を形成した際に揮発して塗膜中に残留せず、耐水性および耐腐食性に優れた塗膜を形成ができることから、揮発性の塩基性化合物やその水溶液、たとえばアンモニア水、トリエチルアミン、2−ジメチルアミノエタノールを用いることが好ましい。
【0088】
ビニル変性エポキシエステル樹脂中和物(a3)を水中に分散させる方法としては、たとえば、(i)不飽和脂肪酸変性エポキシエステル樹脂(a1)と、前記ビニル単量体を塊状重合して得られるビニル変性エポキシエステル樹脂(a2)の溶融物を、塩基性化合物と混合して、好ましくは80〜125℃で混合してビニル変性エポキシエステル樹脂中和物(a3)の溶融物とした後、水と混合して、好ましくは90℃以下、より好ましくは50〜90℃で混合してビニル変性エポキシエステル樹脂中和物(a3)を水に分散させる方法、(ii)前記(i)と同様に中和して得られるビニル変性エポキシエステル樹脂中和物(a3)を、沸点90℃以下の有機溶剤、好ましくは沸点50〜90℃の有機溶剤に溶解した後、好ましくは90℃以下、より好ましくは50〜90℃で溶解した後、水と混合して、好ましくは90℃以下、より好ましくは50〜90℃で水と混合してビニル変性エポキシエステル樹脂中和物(a3)を水に分散させた後、有機溶剤の一部または全部を減圧除去する方法などがあげられる。前記(i)の分散方法では、ハレルホモジナイザー、スタティックミキサー、ソノレーター、ディスパー、ミクサーなどにより常圧で機械的剪断力をかける分散方法や、マイクロフルイダイザーや、キャビトロンでの加圧化で機械的剪断力をかける分散方法が好ましい。
【0089】
ビニル変性エポキシエステル樹脂(a2)は、中和される前では、一般式(I)で示される末端カルボキシル基含有構造中のカルボキシル基などの酸基を有する。そのため、ビニル変性エポキシエステル樹脂(a2)の酸価が、15〜40(mgKOH/g)程度と低い場合でも、有機溶剤の含有量が極めて少ない、または、全く含まない水性媒体中に安定して分散することができ、顔料も安定して分散させることができる。また、このような低酸価のビニル変性エポキシエステル樹脂(a2)の中和物(a3)を含有する水性塗料を用いることにより、得られる塗膜の耐腐食性および耐水性を向上させることができる。なお、中和前のビニル変性エポキシエステル樹脂(a2)の酸価は必要に応じて選択でき、15〜40以外の酸価であっても良い。酸価は好ましくは10〜60であり、より好ましくは10〜40であり、最も好ましくは20〜30である。
【0090】
また、ビニル変性エポキシエステル樹脂(a2)の水中への分散に際しては、ビニル変性エポキシエステル樹脂(a2)や顔料の分散安定性を向上させるために、目的の範囲内で乳化剤を使用することができる。乳化剤としては、たとえばポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン共重合体などのノニオン系乳化剤、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩などのアニオン系乳化剤、4級アンモニウム塩などのカチオン系乳化剤などがあげられる。乳化剤は、得られる塗膜の耐水性および耐腐食性を低下させないためにも、できるだけ使用しないことが好ましい。
【0091】
本発明の製造方法により得られるエポキシエステル樹脂(A)は、水性媒体中にビニル変性エポキシエステル樹脂中和物(a3)の粒子が分散したものであり、この粒子の粒子径は40〜300nmであることが好ましく、80〜200nmであることがより好ましい。なお、粒子径は、マイクロトラック粒度分析計(マイクロトラック9340−UPA、日機装(株)製)で求めた値である。
【0092】
上述したようなエポキシエステル樹脂(A)の具体例としては、ウォーターゾールEFD−5560(DIC(株)製)があげられる。
【0093】
(アクリル系樹脂エマルジョン(B))
本発明に用いるアクリル系樹脂エマルジョン(B)は、強制乳化型の(メタ)アクリル重合体(b)の水性樹脂分散体を主成分とするものである。(メタ)アクリル重合体(b)は、単独重合体であっても良く、また2種以上の重合体の混合物であっても良い。また、アクリル系樹脂エマルジョン(B)が2種以上の重合体の混合物である場合、2種以上の(メタ)アクリル重合体(b)の水性エマルジョンを混合したものであっても良く、その配合比率は特に制限されるものではなく、自由に設定される。
【0094】
(メタ)アクリル重合体(b)は、(メタ)アクリル系単量体のみからなるアクリル重合体に限定されるものではなく、主たる重合単位としてスチレン単量体単位を有するスチレン−アクリル系重合体であっても良い。
【0095】
(メタ)アクリル重合体(b)としては、たとえば炭素数1〜10のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル系単量体単位20〜100重量%と、スチレン系単量体単位0〜80重量%と、これらと共重合可能なビニル系単量体単位0〜30重量%とからなる(メタ)アクリル重合体があげられる。(メタ)アクリル酸エステル系単量体単位の配合量は、好ましくは40〜95重量%であり、より好ましくは60〜90重量%である。スチレン系単量体単位の配合量は、好ましくは5〜60重量%であり、より好ましくは10〜40重量%である。これらと共重合可能なビニル系単量体単位の配合量は、好ましくは0〜15重量%であり、より好ましくは0〜10重量%である。
【0096】
(メタ)アクリル重合体(b)に用いる(メタ)アクリル系単量体としては、たとえば(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸オクタデシルなどの炭素原子数1〜10のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル系単量体;(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、その無水物、フマル酸、イタコン酸、不飽和ジカルボン酸モノアルキルエステル(たとえばマレイン酸モノメチル、フマル酸モノエチル、イタコン酸モノノルマルブチル)などのカルボキシル基含有ビニル系単量体があげられる。これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0097】
(メタ)アクリル重合体(b)に用いるスチレン系単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、クロルスチレン、2,4―ジブロモスチレンなどがあげられる。
【0098】
(メタ)アクリル重合体(b)に用いる(メタ)アクリル系単量体やスチレン系単量体と共重合可能な単量体としては、たとえば酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル;塩化ビニリデン、臭化ビニリデンなどのビニリデンハライド;(メタ)アクリロニトリル;(メタ)アクリル酸グリシジル;(メタ)アクリルアミド、Nーメチロール(メタ)アクリルアミド、ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、ジアセトンアクリルミドなどがあげられる。
【0099】
(メタ)アクリル重合体(b)の合成方法は特に限定されるものではなく、乳化重合などの公知の重合方法を用いることができる。アクリル系樹脂エマルジョン(B)の調製方法としては、たとえば単量体、乳化剤、重合開始剤などの混合物(単量体プレミックス)を、予め所定量の水の入った反応容器の中に一括して仕込み、単量体混合物を乳化重合させて、反応が終了した後、反応物を冷却し、中和して目的とする水性アクリルエマルジョンを得る。
【0100】
上記反応で用いる乳化剤は、アクリル系樹脂エマルジョン(B)を水に強制的に乳化させるための必須の成分である。その具体例としては、たとえば脂肪酸石鹸、ロジン酸石鹸、アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ジアルキルアリールスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩などのアニオン系重合乳化剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、オキシエチレンオキシプロピレンブロックコポリマーなどのノニオン系重合乳化剤などがあげられる。これらの乳化剤は単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。ノニオン系およびアニオン系の併用、および陽イオン界面活性剤、両イオン界面活性剤などの使用も可能である。乳化剤の使用量は、乳化重合に供する重合性モノマーの全量100重量部に対して、0.3〜3重量部が好ましい。
【0101】
乳化重合反応で使用する重合開始剤としては、たとえば過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素などの水性触媒;tert−ブチルハイドパ−オキサイド、クメンハイドロパ−オキサイドなどの油性触媒があげられる。重合開始剤の使用量は、乳化重合に供する重合性単量体の100重量部に対して、0.1〜0.7重量部が好ましい。
【0102】
また、乳化重合反応では、分子量を調整するために重合時に連鎖移動剤や重合停止剤などの分子量調整剤、重合率調整剤を適宜使用することができる。さらに冷却による反応中断により分子量のコントロールを行っても良い。連鎖移動剤としては、たとえばt−ドデシルメルカプタン、n−トデシルメルカプタン、オクチルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン、n−ヘキシルメルカプタンなどのメルカプタン、ターピノーレン、t−テルピネン、α−メチルスチレンダイマー、エチルキサントゲンジスルフィド、ジイソプロピルキサントゲンスルフィド、アミノフェニルスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィドなどがあげられ、これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。連鎖移動剤の使用量は、乳化重合に供する重合性単量体の全量100重量部に対して1.0重量部以下が好ましい。
【0103】
また、重合停止剤としては、たとえばハイドロキノン(フェノール)、アミン系硫黄、硫酸ヒドロキシルアミン、アンモニア、苛性ソーダ、苛性カリなどがあげられ、またその他重合停止効果のあるものが使用できる。これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。その使用量は重合禁止剤の種類および単量体との反応性比により異なる。乳化重合反応においては、前記乳化剤、連鎖移動剤および重合開始剤のほか、必要に応じて各種電解質、pH調製剤などの添加剤を併用しても良い。
【0104】
上述したようなアクリル系樹脂エマルジョン(B)の具体例としては、ボンコートEC−740EF(DIC(株)製)があげられる。
【0105】
(アクリル系樹脂ディスパージョン(C))
水性塗料に用いるアクリル系樹脂ディスパージョン(C)は、自己水分散能を有するビニル系重合体の水性樹脂分散体(c1)と、常圧下の沸点が130〜220℃の範囲内で、かつ20℃での水の溶解度が100以上の有機溶剤(c2)とを含有する自己乳化型の水性分散体である。自己乳化型とは、樹脂骨格に何らかの親水性基を化学的に導入し、樹脂自体が乳化能を有することを意味する。
【0106】
アクリル系樹脂ディスパージョン(C)に用いるビニル系重合体の水性樹脂分散体(c1)は、非官能性の(メタ)アクリル酸エステルおよび/または芳香族ビニル系単量体と、ポリエチレングリコール基を有する単官能性不飽和単量体と、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸とを含有する。
【0107】
水性樹脂分散体(c1)に用いる非官能性の(メタ)アクリル酸エステルは、得られる塗膜の耐水性、耐薬品性および耐候性を向上するための成分であり、炭素数が4〜12の炭化水素基を有する。炭素数が12を超えると得られる塗膜の基材付着性が低下する傾向がある。
【0108】
前記(メタ)アクリル酸エステルとしては、たとえばn−ブチル(メタ)アクリレート、iso−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートなどがあげられる。これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0109】
前記芳香族ビニル系単量体としては、たとえばスチレン、ビニルトルエン、p−tert−ブチルスチレンなどがあげられ、塗膜の耐薬品性などを向上させるために、必要に応じて使用される。芳香族ビニル系単量体の全単量体中の含有量は、得られる塗膜の諸物性のバランスを考慮して好ましくは40重量%未満である。(メタ)アクリル酸エステルおよび/または芳香族ビニル系単量体の含有量は、全重合性不飽和単量体中で65重量%以上である。
【0110】
ポリエチレングリコール基を有する単官能性不飽和単量体は、水性樹脂分散体(c1)の親水性、水分散性、顔料分散性および保水性を向上させ、得られる塗膜の表面乾燥性を遅らせる成分である。前記単官能性不飽和単量体としては、たとえばポリエチレングリコールのモノ(メタ)アクリレート、その末端水酸基をメトキシ基やエトキシ基などのアルコキシル基とした化合物があげられる。具体例としては、ブレンマーPME400、PME4000、AE350、PE350(以上、いずれも日油(株)社製)、NKエステルM−90G、M−230G(以上、いずれも新中村化学工業(株)社製)、NFバイソマーS−10W、S−20W、MPEG350MA、PEM6E(以上、いずれも第一工業製薬(株)社製)があげられる。ポリエチレングリコールの分子量は特に限定されるものではないが、好ましくはエチレンオキサイド付加物が3〜50モルである。3モル未満では親水性、顔料分散性および保水性を向上させる効果が低い傾向があり、50モルを超えると得られる塗膜の基材付着性が低下する傾向がある。
【0111】
前記α,β−エチレン性不飽和カルボン酸は、親水性、水分散安定性および顔料分散性を向上させ、得られる塗膜の基材付着性を付与するための成分であり、たとえば(メタ)アクリル酸や、クロトン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸などの不飽和ジカルボン酸;これらジカルボン酸のモノアルコール・エステルなどがあげられる。これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0112】
前記ポリエチレングリコール基を有する単官能性不飽和単量体と、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸との使用量は、得られる塗膜の耐水性および耐アルカリ性を考慮して、全単量体中に好ましくは3〜6重量%である。3重量%未満では樹脂の水分散性が低下する傾向があり、6重量%を超えると得られる塗膜の親水性が高くなり、耐水性が低下する傾向がある。
【0113】
また、ポリエチレングリコール基を有する単官能性不飽和単量体/α,β−エチレン性不飽和カルボン酸の重量比は、1〜5の範囲内であることが好ましい。前記重量比が1未満では得られる塗料の保水性が不足する傾向があり、重量比が5を超えると樹脂の顔料分散性や、得られる塗料の基材付着性が低下する傾向がある。
【0114】
水性樹脂分散体(c1)の固形分酸価は特に限定されるものではないが、塗膜の耐水性、耐アルカリ性および基材付着性の観点から、好ましくは3〜18mgKOH/gであり、より好ましくは6〜15mgKOH/gである。
【0115】
その他、共重合可能な重合性不飽和単量体としては、たとえばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、iso−プロピル(メタ)アクリレートなどの炭素数が3以下のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル;酢酸ビニル、安息香酸ビニル、ベオバ(オランダ国シェル社製のバーサチック酸ビニルエステルの商品名)などのビニルエステル;パーフルオロシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジ−パーフルオロシクロヘキシルフマレートなどのパーフルオロアルキル基含有単量体;(メタ)アクリロニトリルなどのシアノ基含有単量体;エチレン、プロピレン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニルなどの(ハロゲン化)オレフィン;グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミドなどのアミド結合含有単量体;(メタ)アクリロイロキシアルキルアッシドフォスフェート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、アルコキシ化ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ジ−2−ヒドロキシエチルフマレート、分子量が250未満のポリエチレングリコール基を有するポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、シクロヘキシルジメタノールモノ(メタ)アクリレートなどがあげられる。具体例としては、プラクセルFM、FEモノマー(以上、いずれもダイセル化学工業(株)製のε−カプロラクトン付加モノマーの商品名)があげられる。
【0116】
これらの共重合性不飽和単量体は、得られる塗膜の硬さや顔料分散性および基材付着性の向上を目的として、全単量体中に32重量%以下の量で使用される。
【0117】
水性樹脂分散体(c1)の分子量は、得られる塗膜の耐久性と造膜性とのバランスや、水性樹脂分散体の粘度を考慮してゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーによるポリスチレン換算分子量に基づいて数平均分子量が8,000〜20,000であり、好ましくは15,000〜50,000である。
【0118】
また、水性樹脂分散体(c1)の重合方法は特に限定されるものではないが、後述する水溶性の有機溶剤(c2)の存在下で溶液重合させ、水中に分散させるか、有機溶剤(c2)と水との共存下で分散重合させることが好ましい。
【0119】
水性樹脂分散体(c1)のガラス転移温度(Tg)は特に限定されるものではなく、得られる塗膜の耐汚染性、耐水性および靱性を考慮して、非架橋系塗料の場合の理論Tgは、好ましくは40〜80℃であり、ポリイソシアネート化合物併用型の架橋系塗料の場合の理論Tgは、好ましくは10〜60℃である。
【0120】
水性樹脂分散体(c1)中のカルボキシル基は、塗料の安定性および顔料分散性の観点から揮発性の塩基性物質で中和されることが好ましい。前記塩基性物質としては、たとえばアンモニア、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノールなどがあげられる。
【0121】
アクリル系樹脂ディスパージョン(C)に用いる有機溶剤(c2)は、アクリル系樹脂ディスパージョン(C)を水相に分配させるものである。有機溶剤(c2)は、水性樹脂分散体(c1)の造膜性を向上させると共に、塗膜の乾燥時に塗膜表面の乾燥を遅らせ、さらに水と混合させることによって、得られる塗料の表面張力を下げて、顔料の分散性や、塗料の基材に対する濡れ性を向上させ、塗装作業性および塗膜の基材付着性を向上させる。
【0122】
有機溶剤(c2)の親水性は、20℃での水の溶解度が100以上である。水の溶解度が100未満では塗膜表面の乾燥が早まる傾向がある。また、有機溶剤(c2)の沸点は、常圧において130〜220℃である。沸点が130℃未満では塗膜の乾燥過程で水と共に揮散しやすく塗膜の平滑性が得られなくなる傾向があり、沸点が220℃を超えると塗膜に有機溶剤(c2)が残存しやすい傾向がある。
【0123】
有機溶剤(c2)としては、たとえば3−メトキシブタノール、3−メトキシ−3−メチルブタノール、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノ(n−もしくはiso−)プロピルエーテル、エチレングリコールモノ(n−、iso−またはtert−)ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ(n−またはiso−)プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ(n−、iso−またはtert−)ブチルエーテル、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、エチレングリコールメチルエーテルアセテートなどがあげられる。これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0124】
有機溶剤(c2)の使用量としては、水性樹脂分散体(c1)の固形分100重量部に対して、20重量部以上使用することが好ましい。20重量部未満では有機溶剤(c2)の使用の効果が充分ではないからである。アクリル系樹脂ディスパージョン(C)中の有機溶剤(c2)の含有量は、塗料の引火燃焼などの諸災害防止や、環境汚染防止対策などの観点から15重量%以下であり、好ましくは12重量%以下である。15重量%を超えると乾燥性が低下する傾向があり、環境負荷が大きくなる傾向がある。なお、アクリル系樹脂ディスパージョン(C)中には、有機溶剤(c2)以外の有機溶剤をその目的に応じて併用することができる。
【0125】
水性樹脂分散体(c1)は、水酸基を導入してポリイソシアネート系架橋剤と組み合わせる架橋系塗料とすることが、耐候性、耐水性、耐汚染性および耐溶剤性を向上させることができる点で好ましい。水性樹脂分散体(c1)中への水酸基の導入方法としては、水酸基含有の重合性単量体を共重合させる方法が好ましい。
【0126】
また、ポリイソシアネート系架橋系塗料を調製するために用いるポリイソシアネート化合物としては、たとえばトリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサンジイソシアネートなどの脂環式ジイソシアネート;イソホロンジイソシアネート、メチルシクロヘキサン−2,4(または2,6)−ジイソシアネート、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルジイソシアネート)、1,3−(イソシアネートメチル)シクロヘキサンなどの脂環式系イソシアネート;上記ジイソシアネートと、エチレングリコール、ポリエーテルポリオール(ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリカプロラクトンポリオールなど)、トリメチロールエタンまたはトリメチロールプロパンなどの多価アルコール、イソシアネート基と反応する官能基を有する低分子ポリエステル樹脂、アクリル系共重合体、これらと水との付加物;ビュレット体などがあげられる。
【0127】
その具体例としては、バーノックD−750、D−800、DN−950、DN−901S(以上、いずれもDIC(株)製)があげられる。また、これらの化合物を乳化分散させて使用することができる。さらに、水溶性または水分散性を有するポリイソシアネート化合物、たとえばBAYHYDUR LS−2980、LS−2032(以上、いずれもドイツ国バイエル社製)、アクアネート100、110、200または210(以上、いずれも日本ポリウレタン工業(株)製)などの水性ポリイソシアネート化合物を使用することができる。
【0128】
上記ポリイソシアネート架橋系の場合には、水性樹脂分散体(c1)の固形分の水酸基価は、塗膜の諸物性を考慮して30〜120であり、好ましくは50〜100である。
【0129】
ポリイソシアネート化合物(c−3)と、水性樹脂分散体(c1)との配合比としては、NCO基/OH基なる当量比で0.5〜2であり、好ましくは0.8〜1.3である。
【0130】
上述したようなアクリル系樹脂ディスパージョン(C)の具体例としては、ウォーターゾールACD−1110(DIC(株)製)があげられる。
【0131】
(顔料(D))
本発明に用いる顔料(D)は、主として強度と乾燥性のバランスに優れた塗膜を形成するために水性塗料に配合される。顔料(D)としては、二酸化チタン、酸化鉄、カーボンブラック、シアニンブルー、シアニングリーンなどの着色顔料;炭酸カルシウム、タルク、硫酸バリウム、クレーなどの体質顔料などがあげられる。これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0132】
また、顔料(D)は、リン酸亜鉛、リン酸カルシウム、リン酸アルミニウム、リンモリブデン酸アルミニウムなどの防錆顔料を用いることが好ましい。なかでも防錆性能に優れるリン酸亜鉛およびリン酸カルシウムを用いることが好ましい。リン酸亜鉛の具体例としては、LFボウセイP−W−2、LFボウセイD−1、LFボウセイD−2、LFボウセイZP−S1、LFボウセイZP−HS、LFボウセイP−WF(以上、いずれもキクチカラー(株)製)や、EXPERT NP−500、EXPERT NP−520、EXPERT NP−530(以上、いずれも東邦顔料工業(株)製)があげられる。リン酸カルシウムの具体例としては、LFボウセイCP−Z(キクチカラー(株)製)、EXPERT NP−1000、EXPERT NP−1007、EXPERT NP−1020C、EXPERT NP−1055C(以上、いずれも東邦顔料工業(株)製)、プロテクスYM−60、プロテクスYM−70(以上、いずれも太平化学産業(株)製)があげられる。
【0133】
顔料(D)中の防錆顔料の含有量は特に限定されないが、好ましくは2〜20重量%であり、より好ましくは5〜20重量%であり、最も好ましくは10〜15重量%である。2重量%未満では防錆性能の向上が得られない傾向があり、20重量%を超えると貯蔵安定性が低下し、経済性も考慮すると適さない。
【0134】
水性塗料には、その他必要に応じてシリコーンや有機高分子からなる消泡剤;シリコーンや有機高分子からなる表面調整剤;アマイドワックス、有機ベントナイトなどからなる粘性調整剤(タレ止め剤);シリカ、アルミナなどからなる艶消し剤;ポリカルボン酸塩などからなる分散剤;ベンゾフェノンなどからなる紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤、フェノール系などの酸化防止剤;ワックスなど、公知の添加剤を用いることができる。これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。これらは水性塗料の固形分中に20重量%未満、好ましくは10重量%未満の配合割合で添加することができる。
【0135】
<防食処理された鋳鉄管>
本発明の防食処理された鋳鉄管は、上述した防食方法によって製造することができるものであり、鋳鉄管と、鋳鉄管の内面に形成された、エポキシ樹脂からなる内面塗膜層と、鋳鉄管の外面に形成された、亜鉛、亜鉛−アルミニウム擬合金または亜鉛−アルミニウム合金からなる溶射被膜層と、溶射被膜層の外面に、固形分として、(A)エポキシエステル樹脂1〜15重量部と、(B)アクリル系樹脂エマルジョン5〜30重量部と、(C)アクリル系樹脂ディスパージョン55〜94重量部とからなり、(A)、(B)および(C)の合計が100重量部であり、かつ(D)顔料体積濃度が35〜45%の顔料を含む水性塗料を塗装して形成された外面塗膜層とからなるものである。
【0136】
また、管内面にエポキシ樹脂からなる内面塗膜層の代わりにモルタルライニング層を形成する場合には、防食処理された鋳鉄管は、鋳鉄管と、鋳鉄管の内面に形成されたモルタルライニング層と、モルタルライニング層の表面に形成された、アクリル樹脂からなる内面塗膜層と、鋳鉄管の外面に形成された、亜鉛、亜鉛−アルミニウム擬合金または亜鉛−アルミニウム合金からなる溶射被膜層と、溶射被膜層の外面に、固形分として、(A)エポキシエステル樹脂1〜15重量部と、(B)アクリル系樹脂エマルジョン5〜30重量部と、(C)アクリル系樹脂ディスパージョン55〜94重量部とからなり、(A)、(B)および(C)の合計が100重量部であり、かつ(D)顔料体積濃度が35〜45%の顔料を含む水性塗料を塗装して形成された外面塗膜層とからなるものである。
【0137】
本発明の防食処理された鋳鉄管によれば、外面塗膜層が1層であるにもかかわらず、乾燥が迅速かつ均一になされていることから、安定した品質を有する。また、耐腐食性、耐候性、耐水性などの防食性に優れる。また、外面塗膜層は水性塗料によるものなので、溶剤臭がほとんどなく、環境負荷が小さい。
【実施例】
【0138】
以下、実施例により本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0139】
はじめに、実施例および比較例で使用した成分を下記に示す。
水性分散体
エポキシエステル樹脂の水性分散体:ウォーターゾールEFD−5560(DIC(株)製)、固形分濃度38%
アクリル系樹脂エマルジョンA:ボンコートEC−740EF(DIC(株)製)、固形分濃度40%
アクリル系樹脂ディスパージョン:ウォーターゾールACD−1110(DIC(株)製)固形分濃度40%
アクリル系樹脂エマルジョンB:クリモトコートWR(大日本塗料(株)製)
溶剤系塗料
アクリル樹脂塗料:クリモトコートAC−1(日本ペイント(株)製)
体質顔料
沈降性硫酸バリウム:土屋カオリン工業(株)製、平均粒径0.5μm
カーボンブラック:商品名:MA100、三菱化学(株)製
タルク
防錆顔料
LFボウセイP−W−2(商品名、キクチカラー(株)製、リン酸亜鉛)
LFボウセイD−1(商品名、キクチカラー(株)製、リン酸亜鉛)
LFボウセイD−2(商品名、キクチカラー(株)製、リン酸亜鉛)
LFボウセイZP−S1(商品名、キクチカラー(株)製、リン酸亜鉛)
LFボウセイZP−HS(商品名、キクチカラー(株)製、リン酸亜鉛)
LFボウセイP−WF(商品名、キクチカラー(株)製、リン酸亜鉛)
EXPERT NP−500(商品名、東邦顔料工業(株)製、リン酸亜鉛)
EXPERT NP−520(商品名、東邦顔料工業(株)製、リン酸亜鉛)
EXPERT NP−530(商品名、東邦顔料工業(株)製、リン酸亜鉛)
LFボウセイCP−Z(商品名、キクチカラー(株)製、リン酸カルシウム)
EXPERT NP−1000(商品名、東邦顔料工業(株)製、リン酸カルシウム)
EXPERT NP−1007(商品名、東邦顔料工業(株)製、リン酸カルシウム)
EXPERT NP−1020C(商品名、東邦顔料工業(株)製、リン酸カルシウム)
EXPERT NP−1055C(商品名、東邦顔料工業(株)製、リン酸カルシウム)
プロテクスYM−60(商品名、太平化学産業(株)製、リン酸カルシウム)
プロテクスYM−70(商品名、太平化学産業(株)製、リン酸カルシウム)
【0140】
実施例1〜11および比較例1〜3
水性分散体および顔料を表1に示す組成で配合し、実施例1〜11および比較例1〜3の水性塗料を製造した。得られた水性塗料を、亜鉛溶射被膜層が形成された鋳鉄材料の試験板の外面に、膜厚が80μmになるようにスプレー塗装し、塗膜が形成された試験板を得た。なお、塗装時の鋳鉄管の表面温度を接触温度計で測定したところ、70〜75℃の範囲内であった。得られた試験板について下記の評価を行った。結果を表1に示す。
【0141】
(乾燥時間)
JIS K 5400−1990に準拠し、得られた塗膜を塗装後1分間隔で指触によって評価した。塗面の中央を指先で軽く触れて指先が汚れない状態になった時間(分)を乾燥時間とした。
【0142】
(耐中性塩水噴霧性)
JIS K 5600−7−1に準拠し、塗膜を形成した試験板を垂直に設置し、試験板に3%食塩水を噴霧し、2000時間後の塗膜の状態を目視によって評価した。
白錆: 塗膜に白錆の発生が見られた。
赤錆: 塗膜に赤錆の発生が見られた。
フクレ: 塗膜の表面に隆起が見られた。
【0143】
(耐アルカリ性)
JWWA K 139に準拠し、塗膜を形成した試験板を水酸化ナトリウム溶液(0.1mol/L)に48時間浸し、試験板を取り出した直後および2時間放置した後の塗膜の状態を目視によって評価した。
変化なし: 試験前と比べて塗膜に変化は見られなかった。
フクレ: 塗膜の表面に隆起が見られた。
【0144】
(耐候性)
得られた試験板を6ヵ月間屋外に曝露し、塗膜の状態を目視によって評価した。
変化なし: 試験前と比べて塗膜に変化は見られなかった。
白化: 塗膜表面が白く変色した。
【0145】
比較例4
アクリル系樹脂エマルジョンBを、亜鉛溶射被膜層が形成された鋳鉄材料の試験板の外面に、膜厚が80μmになるようにスプレー塗装し、塗膜が形成された試験板を得た。なお、塗装時の鋳鉄管の表面温度を接触温度計で測定したところ、70〜75℃の範囲内であった。この試験板について実施例1〜11および比較例1〜3と同様の試験を行った。結果を表1に示す。
【0146】
比較例5
アクリル系樹脂エマルジョンBを、亜鉛溶射被膜層が形成された鋳鉄材料の試験板の外面に、膜厚が60μmになるようにスプレー塗装した。なお、塗装時の鋳鉄管の表面温度を接触温度計で測定したところ、70〜75℃の範囲内であった。塗膜を形成した後、その上に溶剤系塗料を膜厚が20μmになるようにスプレー塗装し、塗膜が形成された試験板を得た。この試験板について実施例1〜11および比較例1〜3と同様の試験を行った。結果を表1に示す。
【0147】
【表1】

【0148】
表1の試験結果から明らかなように、エポキシエステル樹脂の固形分が5重量部および10重量部で、アクリル系樹脂エマルジョンAの固形分が10および20重量部で、アクリル系樹脂ディスパージョンの固形分が70〜85重量部で、PVCが35〜45%の水性塗料からなる塗膜は、乾燥時間がいずれも1分以内と迅速であったことから、鋳鉄管の防食処理の時間を短縮できることがわかる。また、これらは従来のものと比べて同等以上の耐腐食性および耐候性を有したことから、鋳鉄管の外面塗膜層の形成工程を省略できることがわかる。さらに、PVCが35〜40%の水性塗料からなる塗膜は、乾燥性に優れるだけでなく、赤錆やフクレの発生は見られず、耐腐食性および耐久性に優れることがわかる。さらに、防錆顔料を2%添加した実施例8では、防錆顔料を含有しない実施例11と比べて赤錆やフクレが発生せず、耐腐食性が改善されたことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)鋳鉄管の外面に、亜鉛、亜鉛−アルミニウム擬合金または亜鉛−アルミニウム合金を溶射し、溶射被膜層を形成する工程、
(2)前記鋳鉄管を加熱し、前記鋳鉄管の内面に、エポキシ樹脂粉体塗料を塗装して内面塗膜層を形成する工程、および
(3)前記(2)工程の後、その余熱を利用して、前記溶射被膜層の表面に、固形分として、(A)エポキシエステル樹脂1〜15重量部と、(B)アクリル系樹脂エマルジョン5〜30重量部と、(C)アクリル系樹脂ディスパージョン55〜94重量部とからなり、(A)、(B)および(C)の合計が100重量部であり、かつ(D)顔料体積濃度が35〜45%の顔料を含む水性塗料を塗装して外面塗膜層を形成する工程からなることを特徴とする鋳鉄管の防食方法。
【請求項2】
(1)鋳鉄管の外面に、亜鉛、亜鉛−アルミニウム擬合金または亜鉛−アルミニウム合金を溶射し、溶射被膜層を形成する工程、
(2)前記鋳鉄管の内面にモルタルライニング層を形成し、蒸気養生する工程、
(3)前記(2)工程の後、前記鋳鉄管を加温し、前記モルタルライニング層の表面にアクリル樹脂塗料を塗装して内面塗膜層を形成する工程、および
(4)前記(3)工程の後、その余熱を利用して、前記溶射被膜層の外面に、固形分として、(A)エポキシエステル樹脂1〜15重量部と、(B)アクリル系樹脂エマルジョン5〜30重量部と、(C)アクリル系樹脂ディスパージョン55〜94重量部とからなり、(A)、(B)および(C)の合計が100重量部であり、かつ(D)顔料体積濃度が35〜45%の顔料を含む水性塗料を塗装して外面塗膜層を形成する工程からなることを特徴とする鋳鉄管の防食方法。
【請求項3】
前記顔料が、2〜20重量%の防錆顔料を含有することを特徴とする請求項1または2記載の鋳鉄管の防食方法。
【請求項4】
前記顔料体積濃度が35〜40%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の鋳鉄管の防食方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の防食方法によって製造された防食処理された鋳鉄管。
【請求項6】
鋳鉄管と、
前記鋳鉄管の外面に形成された、亜鉛、亜鉛−アルミニウム擬合金または亜鉛−アルミニウム合金からなる溶射被膜層と、
前記溶射被膜層の外面に、固形分として、(A)エポキシエステル樹脂1〜15重量部と、(B)アクリル系樹脂エマルジョン5〜30重量部と、(C)アクリル系樹脂ディスパージョン55〜94重量部とからなり、(A)、(B)および(C)の合計が100重量部であり、かつ(D)顔料体積濃度が35〜45%の顔料を含む水性塗料を塗装して形成された外面塗膜層とからなることを特徴とする防食処理された鋳鉄管。

【公開番号】特開2011−72966(P2011−72966A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−229757(P2009−229757)
【出願日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【出願人】(000142595)株式会社栗本鐵工所 (566)
【Fターム(参考)】