説明

鋼の連続鋳造方法

【課題】溶鋼中に金属元素の適正量を高歩留りで添加し、鋳片内に均一に、かつ安定して分散させ、金属元素の粗大な酸化物の生成を抑制可能な連続鋳造方法を提供する。
【解決手段】取鍋内、タンディッシュ内または鋳型内の溶鋼中に、Bi合金、Sn合金およびTe合金のうちの1種以上を添加する連続鋳造方法であって、Bi合金、Sn合金またはTe合金は、それぞれ、Al、Ca、Si、Mg、Ti、Mnおよび希土類元素のうちの1種以上との合金とし、かつ、該合金中のBi、SnまたはTeの含有率を70質量%以上として添加する鋼の連続鋳造方法である。上記の方法において、Bi合金、Sn合金またはTe合金は、粒状、塊状またはワイヤー状とし、かつ、それらの表面をFeまたはAlにより被覆して溶鋼中に添加することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼の連続鋳造過程において、溶鋼中に金属元素を高い歩留りで添加し、金属元素を鋳片内に均一に、かつ安定して分散させることのできる連続鋳造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶鋼中に金属元素を添加する方法としては、塊状の金属元素を溶鋼の湯面に投入するか、または、金属元素単味で作製したワイヤー、それらの金属元素をアルミニウムや鋼などにより被覆したワイヤー、金属元素を含有する合金で作製したワイヤーにより添加する方法などが採用されている。しかしながら、これらの方法を用いてマグネシウム(Mg)、ビスマス(Bi)、カルシウム(Ca)、希土類元素(REM)、テルル(Te)、鉛(Pb)などのように蒸気圧が高く、融点の低い金属元素を精度良く添加することは困難である。その理由は、蒸気圧が高い金属元素が溶鋼中に添加されると、溶鋼の湯面近傍において、金属元素が気化して大気中に放散されるため、溶鋼中への添加量を制御することが難しく、添加歩留りも低下して、均一に添加することは困難となるからである。
【0003】
また、金属元素が気化する際の体積膨張が大きいことから、金属元素が溶鋼の湯面近傍で気化した場合には、溶鋼の飛散が激しく、操業上の安全の確保が困難となる。さらに、添加金属元素の融点が低い場合には、添加前に溶融金属の輻射熱により軟化あるいは溶融し、所定量を添加することが困難となる。溶鋼よりも密度の小さい金属元素を添加する場合には、添加された金属が溶鋼の表層部のみに偏在し、溶鋼の内部にまで侵入しない。密度の大きな金属元素を添加する場合には、添加位置から溶融金属内部に沈降するのみで、溶鋼全体に均一に混合させることは困難である。
【0004】
近年、製品の機械的特性の向上を目的として、結晶粒の微細化および析出物の微細化が積極的に進められている。結晶粒および析出物の微細化には微小な化合物の晶出または析出による「ピン止め」あるいは「不均質核生成」を生起させるのが有効であり、このためには、金属元素の適正量を適正位置において添加する必要がる。また、快削鋼においては、製品の安全性および製造時の作業環境対策の観点から、Pbに替えてBiの添加が注目されており、今後とも使用の拡大が見込まれている。電磁鋼板においては、磁気的特性を向上させるために結晶粒界にBiなどを濃縮させることが必要である。これらの鋼材には、Biのように融点および沸点が低く、密度の大きな金属元素の添加が行われている。
【0005】
例えば、特許文献1には、取鍋を出てタンディッシュ内溶鋼浴面へ移動中の溶鋼流にBiを添加する方法が開示されている。しかし、Biは沸点が低く、溶鋼流と接触すると爆発的に反応し、蒸気となって雰囲気中に飛散するため、添加歩留りが低く、溶鋼中に均一に添加することができない。その結果、Biが連続鋳造鋳片内に均一に分散しない。
【0006】
また、特許文献2には、取鍋内の溶鋼にランスを用いてインジェクションによりPb、Bi、PbおよびBi含有物質を添加するとともに、取鍋底部のポーラスプラグからガスを噴出させて攪拌する方法が開示されている。同文献で開示された方法においても、融点あるいは沸点の低いPbおよびBiを添加する場合には、これらの金属が溶鋼と接触すると爆発的な反応が生じ、溶鋼中への金属の添加が不均一になるとともに歩留りが低下し、添加金属が連続鋳造鋳片内に均一に分散しない。また、溶鋼中に添加したPbやBiの反応生成物を任意に調整することは難しい。
【0007】
さらに、特許文献3には、Bi含有合金を用いて、溶鋼中に添加する技術が開示されている。そして、同文献には、Biを合金化することにより、溶鋼中に添加した際に、溶鋼との溶解反応を促進し、蒸気圧を低減させてBi含有鋼の製造性を大幅に高められることが示されている。しかしながら、Biを合金化することにより、添加されるBiの含有率が低下するため、その分だけ溶鋼中へのBi含有合金の添加量を増加する必要がある。添加量が増加すると、Bi含有合金が冷材となり、取鍋内、タンディッシュ内、または鋳型内の溶鋼の温度が著しく低下することになり、連続鋳造に支障をきたすのみならず、鋳造操業自体が困難になる場合が生じる。添加量を抑制するにはBi含有合金中のBi含有率を高める必要があるが、同文献に開示された方法における合金中のBi含有率はそれほど高くはなく、Bi含有合金の添加量が多くなることが問題である。
【0008】
ところで、溶鋼中に金属元素を添加する場合には、溶鋼中に溶存している酸素と金属元素とが反応し、粗大な酸化物を形成する。この酸化物が連続鋳造鋳片内に取り込まれ、最終製品である鋼板内などに残存すると、製品の機械的特性や電気的特性を著しく損なうことになる。しかしながら、上記特許文献1、2および3のいずれにおいても、酸化物の生成に関する検討は行われていない。
【0009】
【特許文献1】特開2001−1116号公報(特許請求の範囲、段落[0013]および[0014])
【特許文献2】特開平9−13119号公報(特許請求の範囲、段落[0004]および[0005])
【特許文献3】特開2002−363683号公報
【非特許文献1】「Binary Alloy Phase Diagrams (second edition)」 The Materials International Society、1990、USA、p.129、p.2816、p.3406
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、その課題は、鋼の連続鋳造過程において溶鋼中に金属元素の適正量を高い歩留りで添加し、鋳片内に均一に、かつ安定して分散させることが可能であり、金属元素の粗大な酸化物の生成を抑制可能な連続鋳造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋼の連続鋳造過程において溶鋼中に金属元素の適正量を高歩留りで添加し、鋳片内に均一に、かつ安定して分散させ、金属元素の粗大な酸化物の生成を抑制することが可能な連続鋳造方法について研究を進め、下記の知見を得た。
【0012】
(1)金属元素の合金化による融点上昇および合金中金属元素の濃度上昇
蒸気圧が高い金属元素または融点が低い金属元素を溶鋼中に添加する場合には、それらの添加金属は、溶鋼と接触するかまたは溶融金属からの輻射熱を受けて、溶融または気化する。溶融金属中に添加する以前、あるいは添加した瞬間に金属元素が溶融または気化すると、これらの金属元素を溶鋼中に均一に歩留り良く添加することは困難である。
【0013】
溶鋼中に添加する以前における金属元素の溶融、または添加した瞬間における溶融もしくは気化を抑制するには、添加する金属元素の融点または沸点を高めることが有効である。金属元素の融点または沸点を高めるには、融点を上昇させる金属との合金を作製し、これを溶融金属中に添加すればよい。
【0014】
このとき、溶鋼中に多量の合金を添加すると、合金を溶融させるための所要熱量が増大し、溶鋼の温度を著しく低下させることになる。溶鋼の温度を一定に保つには、合金を添加した際の温度低下分だけ溶鋼の温度を上昇させればよいが、溶鋼温度を上昇させるには多量の熱量を必要とするのみならず、温度を上昇させた分だけ合金添加時の合金の気化が助長され、合金の添加が難しくなる。この問題を解決するには、合金中の金属元素の含有率を高めればよい。
【0015】
(2)金属元素の粗大酸化物の生成抑制
金属元素を溶鋼中に添加すると、金属元素と溶鋼中の酸素とが反応して金属元素の粗大な酸化物が生成し、これが連続鋳造鋳片またはインゴット内に取り込まれ、最終製品内に残存することになる。このような酸化物は製品の欠陥となるため、酸化物の生成を抑制することが不可欠であり、この酸化物の生成抑制が金属元素の均一な添加とともに解決しなければならない課題である。
【0016】
例えば、鋼材の快削性を向上させるために、従来、Pbが添加されてきた。しかし、Pbは人体に悪影響を及ぼすとされ、環境負荷低減の観点からも規制が厳しくなりつつある。このため、Pbと同様に快削性に優れ、人体への悪影響を及ぼさず環境負荷も小さいBiの添加が行われるようになってきた。この場合、快削性を確保するには鋳片内におけるBi酸化物の生成を抑制し、Bi粒子を分散させる必要がある。
【0017】
また、Biは電磁鋼板にも添加される場合がある。変圧器、モーターなどには電磁鋼板が用いられており、電磁鋼板には磁束密度が高く、鉄損が低いという特性が要求される。このため、鋼板中には微細な析出分散相を均一に生成させて、結晶粒の成長を抑制する手法が用いられている。この効果をさらに高めるために、Bi、Sn、Teなどが添加され、これらの元素を結晶粒界に偏析させることにより磁気特性の向上が図られている。これらの技術を確立するには、Biなどの金属元素の酸化物の生成を抑制することが不可欠である。
【0018】
溶鋼中に添加した金属元素の粗大な酸化物の生成を抑制するには、溶鋼中に脱酸力の強い金属を添加すればよい。また、金属元素との合金を作製するには、脱酸を目的とした金属の含有率ができる限り低く、融点の上昇量の大きな金属を選択する必要がある。これにより、溶鋼中への金属元素の合金の添加による溶鋼の温度低下を抑制することができ、合金の添加量も少なくて済み、金属元素の粗大な酸化物の生成を抑制し、溶鋼中への金属元素の添加の際の溶鋼の飛散などを防止することができて、歩留りが向上する。
【0019】
本発明者らは、さらに検討を進め、下記の(a)〜(c)に示す具体的知見を得た。
(a)溶鋼中に添加する金属元素を合金の形態として、溶鋼に添加するのが効果的である。そして、金属元素の合金を作製する際には、例えば、非特許文献1などを参照し、平衡状態図における合金の液相線温度が添加金属元素単体の液相線温度よりも高くなるように合金を作製する必要がある。ただし、溶鋼中に添加する金属元素の合金の液相線温度が溶鋼の温度よりも高いと合金は溶解しないので、金属元素を溶鋼中に添加することができない。
【0020】
そこで、合金の融点が溶鋼の融点よりも低くなるように合金中の金属元素の含有率を変えて融点を調整すればよい。このためには、合金の平衡状態図の液相線温度が添加金属元素の含有率により変化する領域を選択する必要がある。
【0021】
図1に、非特許文献1に記載されたAl−Bi系の平衡状態図を示す。同図によれば、Bi含有率が70質量%以上の領域において、Bi含有率により液相線温度を変化させることができ、Bi単独の場合の融点271℃を1030℃以上にまで高めることができる。
【0022】
図2には、同文献に記載されたTi−Sn系の平衡状態図を示す。Sn含有率が70質量%以上の領域において、Sn含有率により液相線温度を変化させることができ、Sn単独の場合の融点232℃を1490℃程度にまで高めることができる。
【0023】
図3には、同様にして、Nd−Te系の平衡状態図を示す。Te含有率が70質量%以上の領域において、Te含有率により液相線温度を変化させることができ、Te単独の場合の融点450℃を1100℃以上にまで高めることができる。
【0024】
上記の図1、2および3に示されるように、合金中のBi、SnおよびTeの含有率を70質量%以上とすることにより、合金の液相線温度を大きく変化させることができる。したがって、合金中のBi、SnおよびTeの含有率を70質量%以上の高い値とすることにより、合金の添加量を低減させることができ、合金の添加時にこれが冷材となって溶鋼の温度を低下させることを抑制することができる。
【0025】
(b)溶鋼中に添加する金属元素との合金を形成する金属としては、溶鋼中における脱酸能力の高い金属を用いる必要がある。本発明が対象とするBi、SnおよびTeから選ばれた1種以上を含む添加金属元素との合金を作製するに当たっては、脱酸力の強い金属としてAl、Ca、Si、Mg、Ti、Mn、およびNdまたはCeを含む希土類元素から選ばれた1種以上を含む金属を用いるのが適切である。いずれも、酸化物生成に際しての標準生成自由エネルギーの低い金属元素である。
【0026】
(c)鋼の連続鋳造の実操業では、金属元素の合金の添加は、取鍋、タンディッシュまたは鋳型内の溶鋼に対して行うのが適切である。また、これらの合金は、粒状、塊状またはワイヤー状の形態で、連続的に添加することが好ましく、金属添加装置を用いて添加する。添加金属を含有する合金は保管中に酸化したり、また、金属添加装置による溶鋼中への添加の過程で脆性により崩壊する場合がある。上記の酸化または崩壊を防止する観点から添加金属合金はFeまたはAlを用いて被覆することが好ましい。
【0027】
本発明は、上記の知見に基づいて完成されたものであり、その要旨は、下記の(1)および(2)に示す鋼の連続鋳造方法にある。
【0028】
(1)取鍋内、タンディッシュ内または鋳型内の溶鋼中に、Bi合金、Sn合金およびTe合金のうちの1種以上の合金を添加する連続鋳造方法であって、Bi合金、Sn合金またはTe合金は、それぞれ、Al、Ca、Si、Mg、Ti、Mnおよび希土類元素のうちの1種以上との合金とし、かつ、該合金中のBi、SnまたはTeの含有率を70質量%以上として添加することを特徴とする鋼の連続鋳造方法。
【0029】
(2)前記Bi合金、Sn合金またはTe合金は、粒状、塊状またはワイヤー状とし、かつ、それらの表面をFeまたはAlにより被覆して溶鋼中に添加することを特徴とする前記(1)に記載の鋼の連続鋳造方法。
【0030】
本明細書の以下の記載において、鋼組成または合金組成を表す「%」は「質量%」を表すものとする。
【発明の効果】
【0031】
本発明の連続鋳造方法によれば、鋼の連続鋳造過程において溶鋼中に金属元素の適正量を高い歩留りで添加し、鋳片内に均一に、かつ安定して分散させ、金属元素の粗大な酸化物の生成をも抑制することができる。これにより、本発明の方法は、強度および靱性などの機械的特性ならびに電気的特性に優れた鋼製品を製造するための高品質鋳片の製造方法として、連続鋳造分野において大きく貢献できる技術である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明の方法は、前記のとおり、取鍋内、タンディッシュ内または鋳型内の溶鋼中に、Bi合金、Sn合金およびTe合金のうちの1種以上を添加する連続鋳造方法であって、Bi合金、Sn合金またはTe合金は、それぞれ、Al、Ca、Si、Mg、Ti、Mnおよび希土類元素のうちの1種以上との合金とし、かつ、該合金中のBi、SnまたはTeの含有率を70質量%以上として添加することを特徴とする鋼の連続鋳造方法である。
【0033】
下記に、本発明の鋼の連続鋳造方法における好ましい態様とその理由について説明を加える。
【0034】
添加金属の合金をFeまたはAlを用いて被覆するのが好ましいことについては、前記のとおりである。そして、Feにより被覆する場合、その被覆厚さは0.1〜2.0mmとするのが好ましく、また、Alにより被覆する場合は、その被覆厚さは0.5〜3.0mmとするのが好ましい。
【0035】
その理由は、Feによる被覆の場合に被覆厚さが0.1mm未満、または、Alによる被覆の場合に被覆厚さが0.5mm未満であると、機械的衝撃や熱的影響などにより、被覆が破損し、添加金属合金が溶鋼中に供給される以前に軟化溶融または蒸発散逸し、添加金属の適正量を溶鋼中へ供給することが困難となるおそれがあるからである。その上、添加歩留りも低下しやすい。一方、Feによる被覆の場合に被覆厚さが2.0mmを超えて、または、Alによる被覆の場合に3.0mmを超えて厚くなると、溶鋼中における添加金属合金の溶解が遅れ、金属元素を溶鋼中に均一に混合し分散させることが難しくなる。
【0036】
粒状の添加金属合金を被覆する場合には、Alにより被覆する方法が作製コストの面で安価である。この場合、添加金属の合金を溶融Al中に浸漬して合金の表面を被覆するので、添加金属合金の融点がAlの融点より高いことが必要である。また、添加金属合金の粒径は2〜50mmの範囲であることが好ましい。粒径が2mm未満では、目詰まりが発生する場合があり操業面で好ましくなく、一方、粒径が50mmを超えて大きい場合には、合金添加装置が大きくなり設備費が上昇するので好ましくない。
【0037】
添加金属の合金が塊状の場合には、長さが2〜50mmのFe製の管またはAl製の管の内部に金属合金を装填し、管の両端を圧着することにより添加金属合金を被覆することが好ましい。Fe製またはAl製の管の長さが2mm未満であると、目詰まりが発生する場合があり操業面で好ましくなく、一方、上記の管の長さが50mmを超えて長くなると、合金添加装置が大型化し設備費が増大するので好ましくない。
【0038】
添加金属の合金をワイヤー状とする場合には、Fe製の管またはAl製の管の内部に金属合金を装填することにより、合金ワイヤーとする。合金ワイヤー径(ワイヤーを形成するFe製の管またはAl製の管の外径)は2〜20mmの範囲とすることが好ましい。合金ワイヤー径が2mm未満であると、ワイヤーが座屈し供給が難しくなるため好ましくなく、一方、ワイヤー径が20mmを超えて太くなると、合金添加装置が大型化し設備費が増大するので好ましくない。
【0039】
本発明の方法において、添加金属合金の酸化が無視しうる程度に少なく、また、機械的強度の不足、熱的強度の不足、および脆性による崩壊などの問題が起こらない場合には、添加金属を粒状、塊状またはワイヤー状の合金単体として添加することもできる。
【実施例】
【0040】
本発明の連続鋳造方法の効果を確認するため、以下に示す試験を実施して、その結果を評価した。
【0041】
1.連続鋳造条件
溶 鋼:後述する表1に記載の成分組成を有する炭素鋼
溶鋼温度:1580℃
鋳造速度:1.0〜1.8m/分
鋳型サイズ:厚さ240mm×(幅900〜1800mm)
溶鋼量:320トン
添加合金:Al−80%Bi(Al-80Biと記す)、Ti−70%Bi(Ti-70Bi)、
Mg−85%Bi(Mg-85Bi)、Mn−75%Sn(Mn-75Sn)、
Si−85%Te(Si-85Te)、またはNi−55%Bi(Ni-55Bi)
なお、比較例の試験の一部では、添加金属元素を単体で添加した。
添加位置:取鍋、タンディッシュ、または鋳型
添加方法:粒状、塊状、Fe被覆塊状、ワイヤー、Fe被覆ワイヤー、またはAl被
覆ワイヤー供給法
【0042】
表1および表2に、各試験についての鋼組成、添加合金の種類、合金の添加位置、添加方法などの試験条件をまとめて示した。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【0045】
上記の実施例に示すとおり、取鍋、タンディッシュまたは鋳型内の各溶鋼に対して、粒状、塊状、Fe被覆塊状、ワイヤー状、Fe被覆ワイヤー状またはAl被覆ワイヤー状の各形態の合金を添加した。
【0046】
2.試験結果の評価方法
上記の鋳造条件で製造した連続鋳造鋳片内における添加金属元素の歩留り、添加金属元素の含有率分布の均一性、および介在物中の酸化物比率を下記の方法により求め、鋳造操業および鋳片品質を評価した。
【0047】
1)添加金属元素の歩留りおよび含有率分布の均一性
連続鋳造鋳片から切粉を採取し、添加金属元素の分析を行った。分析用の切粉の採取位置は、鋳片厚さ方向1/4の位置で、かつ鋳片幅方向1/2の位置、鋳片幅方向1/4の位置、および鋳片短辺から20mmの位置の3箇所とした。
【0048】
添加金属元素の歩留りは、上記の3箇所の金属元素の平均含有率を求め、金属元素の平均含有率から求めた鋳片中の金属元素の質量を金属元素の添加質量により除して百分率(%)とすることにより求めた。
【0049】
添加金属元素の含有率分布の均一性は、金属元素含有率の偏差を求めることにより評価した。金属元素含有率の偏差は、上記の3箇所における金属元素の含有率の最大値と最小値との差を求め、この値を上記3箇所の金属元素の平均含有率により除して百分率(%)とすることにより求めた。
【0050】
2)酸化物比率
酸化物比率は、鋳片厚さ方向1/4の位置で、かつ鋳片幅方向1/2の位置、鋳片幅方向1/4の位置、および鋳片短辺から20mmの位置の3箇所から10mm角の試料を採取し、観察された酸化物の数を介在物の総数により除して百分率(%)とすることにより求めた。
【0051】
ここで、金属元素の酸化物数の測定は下記の方法により行った。上記の10mm角の試料の1面を粒径1μmのダイアモンド砥粒の研磨剤を用いて、無水アルコールを潤滑剤として鏡面研磨した。この鏡面研磨した試料について、組成分析装置付走査電子顕微鏡(EDX付きSEM)を用いて1000倍の倍率で介在物の観察を行い、金属元素の酸化物の有無を確認した。そして、その結果に基づいて、介在物の総数中に占める添加金属元素の介在物の比率(%)を算出した。
【0052】
3.試験結果
表2に試験条件と併せて、添加金属元素の歩留り、添加金属の含有率の偏差および酸化物の比率を示した。試験番号H1〜H13は、本発明で規定する条件を満足する本発明例についての試験であり、また、試験番号C1〜C5は、本発明で規定する条件を満たさない比較例についての試験である。
【0053】
試験番号H1〜H13の本発明例では、添加金属元素の歩留りは約70%以上と高く、金属元素の鋳片内における含有率分布の偏差も5%以下と小さいことから、添加金属元素は溶鋼中に高歩留りで添加できており、かつ、鋳片内における均一分散を達成できていることが分かる。また、添加金属を溶鋼中における脱酸力の強い金属との合金とし、溶鋼中に添加していることから、金属元素の酸化物比率も、約1%以下であって極めて低く、鋳片の清浄度も良好である。
【0054】
これに対して、試験番号C1〜C5の比較例では、添加金属元素の歩留りが低く、金属元素の含有率分布の偏差も大きい。これは、融点または沸点の低い金属元素を単体で溶鋼中に添加したか、または、合金として添加したものの、合金の融点が高く、溶鋼中に均一に添加し分散させることが困難であったことによる。また、金属元素の酸化物の生成比率も高く、これは、添加金属が合金の形態で添加されなかったか、または、脱酸力の弱い金属との合金として添加されたことによる。上記の結果から、酸化物の生成を抑制するには、添加金属を溶鋼中における脱酸力の強い金属との合金とし、これを溶鋼中に添加することが有効であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の連続鋳造方法によれば、鋼の連続鋳造過程において溶鋼中に金属元素の適正量を高い歩留りで添加し、鋳片内に均一に、かつ安定して分散させ、金属元素の粗大な酸化物の生成をも抑制することができる。これにより、本発明の連続鋳造方法は、強度および靱性などの機械的特性ならびに電気的特性に優れた鋼製品を製造するための高品質鋳片の製造方法として、連続鋳造工程において広範に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】Al−Bi系の平衡状態図である(非特許文献1の129頁)。
【図2】Ti−Sn系の平衡状態図である(非特許文献1の2816頁)。
【図3】Nd−Te系の平衡状態図である(非特許文献1の3406頁)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
取鍋内、タンディッシュ内または鋳型内の溶鋼中に、Bi合金、Sn合金およびTe合金のうちの1種以上の合金を添加する連続鋳造方法であって、Bi合金、Sn合金またはTe合金は、それぞれ、Al、Ca、Si、Mg、Ti、Mnおよび希土類元素のうちの1種以上との合金とし、かつ、該合金中のBi、SnまたはTeの含有率を70質量%以上として添加することを特徴とする鋼の連続鋳造方法。
【請求項2】
前記Bi合金、Sn合金またはTe合金は、粒状、塊状またはワイヤー状とし、かつ、それらの表面をFeまたはAlにより被覆して溶鋼中に添加することを特徴とする請求項1に記載の鋼の連続鋳造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−105007(P2010−105007A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−278031(P2008−278031)
【出願日】平成20年10月29日(2008.10.29)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】