説明

鋼中非金属介在物測定装置用標準試験片

【課題】画像解析装置の定期的な校正や、新規や修理後に装置を立ち上げた際の校正に使用出来る様に、測定結果のばらつきが極力少ない、鋼中非金属介在物測定装置用標準試験片を提供する。
【解決手段】照明光源を使用した光学顕微鏡を用いて鏡面研磨した鋼の表面を観察し、観察した濃淡画像における鋼と非金属介在物との輝度差に基づいて、非金属介在物を識別する鋼中非金属介在物測定装置に用いる標準試験片であり、前記標準試験片は、表面に複数の擬似的な介在物を形成し、平面度が6μm以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼中の非金属介在物を非破壊にて自動測定する為の装置に用いる、標準試験片に関し、大きな荷重が加わり、過酷な環境で使用される軸受用の鋼、特に自動車用軸受用の鋼の測定に好適な標準試験片に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から素早く鋼中の非金属介在物を測定するためには、例えば画像解析装置が、広く利用されていて、その装置の校正方法としては1目盛:100μmで刻まれた定規により、レンズ毎のスケール調整が行われている。しかし、この校正方法はレンズのスケール調整を行うだけであって、連続視野を測定するためのXYステージ・2軸モータの稼動や光源による明るさのちらつきなどの校正を確認することはできなかった。
【0003】
その為、従来は新規装置の立上げや修理などを行った時は、他の正常に動作する装置で測定した試験片を新規(または修理)装置でも測定し、その結果を比較することで装置全体の校正を行うというものであった。
しかしながら、この方法は、試験片作製時の平面度のばらつきや試験片移動中に生じる表面品質劣化(錆・キズなど)により測定結果が一致しにくいことや、結果が一致しない場合の原因を明らかにし難いなど不利な点が多く存在していた。
【0004】
また、例えば、特許文献1には、超音波探傷における鋼製の校正用標準試料及び標準試料の取り扱いについての開示がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−240937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、引用文献1の技術は鋼製の標準試料の欠点を改善するものではあるが、標準試料の長期安定の方策については開示がない。
そこで、本発明は上記のような従来技術が有する問題点を解決し、装置の定期的な校正や、新規や修理後に装置を立ち上げた際の校正に使用出来る様に、測定結果のばらつきが極力少ない鋼中非金属介在物測定装置用標準試験片を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明は次のような構成からなる。すなわち、本願の標準試験片は、照明光源を使用した光学顕微鏡を用いて鏡面研磨した鋼の表面を観察し、観察した濃淡画像における鋼と非金属介在物との輝度差に基づいて、非金属介在物を識別する鋼中非金属介在物測定装置に用いる標準試験片であり、前記標準試験片は、表面に複数の擬似的な介在物を形成し、平面度が6μm以下であることを特徴とする。
【0008】
また、前記複数の擬似的な介在物は、スパッタリング、フォトレジスト、焼付け、の内いずれか一つの方法にて作成することが好ましい。また、前記標準試験片は、シリコンウェハー、または、セラミックスまたは、ステンレス鋼からなることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、測定結果のばらつきが少ない、鋼中非金属介在物測定装置用標準試験片を提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る鋼中非金属介在物測定装置用標準試験片1の一例の斜視図である。
【図2】図1の標準試験片の測定範囲に形成した複数の擬似的な介在物3を図1のA方向から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る鋼中非金属介在物測定装置用標準試験片の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明に係る前記標準試験片1の一実施形態の斜視図であり、前記標準試験片1の上面の点線にて囲った部分が、擬似的介在物を形成する測定範囲2である。また、図1の前記測定範囲2をAから(上から)見た図が、図2であり、複数の擬似的な介在物3を形成している。
前記複数の擬似的な介在物3は、小径の擬似的な介在物を、短時間で多数形成する為、スパッタリング、フォトレジスト、焼付け、の内いずれか一つの方法にて作成することが好ましい。また、前記標準試験片は、長期間保存しても錆が生じないように、劣化し難い素材からなることが好ましく、シリコンウェハー、セラミックス、ステンレス鋼の内のいずれか1つが好適である。特にシリコンウェハーは、純度の高い製品であれば、母材自体の介在物の影響を少なくすることが出来るので好ましい。また、セラミックスは、傷がつき難く長期間使用することが出来るので好ましい。また、ステンレス鋼は、測定頻度の多い軸受用の鋼と濃淡差や輝度差が小さい為、精度良く測定出来る。また、通常、測定面には80個〜1200個の介在物が存在することが多いので、測定精度を確認する為には、擬似介在物の数も80個以上であることが好ましく、1回の測定にて複数の径に対して複数個の介在物を測定して測定精度を確認する為には、250個以上であることがより好ましい。
図2では、素材としてシリコンウェハーを用い、前記標準試験片の平面度は6μm以下であり、直径3μm〜35μmの擬似的な介在物を、24列×17行にて形成している。測定範囲の四隅には、ピント合せの為、直径25μmの擬似的な介在物を配置している。
【0012】
<実施形態1>
次に、試験片の最適な平面度を明らかにする為、母材として高炭素クロム軸受鋼(SUJ2)に焼入れし、経年寸法変化を抑制する為に高温焼戻しを行って、残留オーステナイトを0体積%にした後、表1の様に、平面度が異なる鋼の試験片を準備し、試験片に元からある非金属介在物を測定した後、表1の介在物個数(250個)に満たない数について、擬似的な介在物をスパッタリングにて作成し、画像解析にて試験片に元からある介在物と擬似的に作成した介在物を、まとめて測定した。表1の「ピント合せ位置にある介在物径」とは、測定装置のピント合せに使用する為、測定範囲の4隅に作成した擬似的な介在物の径を表す。また、表1の「測定出来た介在物数のばらつき」とは、試験片を10回測定し、測定出来た介在物数の最大数と最少数の差の数を表す。
【0013】
【表1】

【0014】
表1に示す結果より、標準試験片の平面度が6μm以下であると、測定出来た介在物数のばらつきが58個以下になるので、より精度良く測定出来ることがわかる。これは、平面度が6μm以下であれば、測定範囲のピントが合い易い為、各介在物の径を正確に測定出来る為である。
【0015】
<実施形態2>
次に、測定範囲の4隅のピント合せ位置にある擬似的介在物径の最適な値を明らかにする為、表2の様に、ピント合せ位置にある擬似的介在物径が異なる鋼の試験片を準備し、画像解析にて擬似的な介在物を測定した。
【0016】
【表2】

【0017】
表2に示す結果より、ピント合せ位置にある擬似的介在物径が、直径17μm以上であれば、画像解析結果のばらつきは、小さくなり、直径20〜30μmであれば、画像解析結果のばらつきは、より小さくなることがわかる。これは、ピント合せ位置にある介在物径が大きい方が、ピント合せ時の誤差の割合を小さく出来、かつ、大きすぎない方が小さいものにもピントが合い易くなる為である。
【0018】
<実施形態3>
次に、標準試験片の母材として最適な材質を明らかにする為、表3の様に、異なった材質の試験片を準備した。
【0019】
【表3】

【0020】
表3に示す結果より、実施例23の試験片母材を純度99.9999%のシリコンウェハーにしたことで、擬似介在物以外の介在物が非常に少なくなり、ばらつきの小さい測定を行うことが可能になることがわかる。よって、試験片母材としては、純度の高いシリコンを用いることが好ましい。但し、薄いシリコンウェハーは、割れ易い為、厚みを厚くするか、樹脂等の他部材にて測定面以外を保護することが好ましい。また、セラッミクスを使用する場合にも、衝撃に強いセラミックスを使用するか、樹脂等の他部材にて測定面以外を保護することにより、割れ難くすることが出来る。
【0021】
なお、本実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。例えば、本実施形態においては、高炭素クロム軸受鋼やシリコンウェハーにスパッタリングし、測定した例を説明したが、本発明の標準試験片は、本発明の主旨を外れない限り、他の母材や加工方法を用いることが出来る。
【符号の説明】
【0022】
1 標準試験片
2 擬似的介在物を形成する測定範囲
3 擬似的介在物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
照明光源を使用した光学顕微鏡を用いて鏡面研磨した鋼の表面を観察し、観察した濃淡画像における鋼と非金属介在物との輝度差に基づいて、非金属介在物を識別する鋼中非金属介在物測定装置に用いる標準試験片において、
前記標準試験片は、表面に複数の擬似的な介在物を形成し、平面度が6μm以下であることを特徴とする鋼中非金属介在物測定装置用標準試験片。
【請求項2】
前記複数の擬似的な介在物は、スパッタリング、フォトレジスト、焼付け、の内いずれか1つ方法にて作成したことを特徴とする請求項1に記載の鋼中非金属介在物測定装置用標準試験片。
【請求項3】
前記標準試験片は、シリコンウェハー、セラミックス、ステンレス鋼のいずれか1つからなることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の鋼中非金属介在物測定装置用標準試験片。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−75377(P2011−75377A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−226261(P2009−226261)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】