説明

鋼帯の合否判定方法

【課題】製缶時における非金属介在物に起因した不良発生を確実に防止したうえで、缶用鋼板の歩留りを向上させることができる鋼帯の合否判定方法を提案する。
【解決手段】鋼帯に内在する非金属介在物を探傷し、その探傷結果に基いて鋼帯を合否判定する方法において、上記鋼帯を長手方向および/または幅方向の複数の領域に分割し、それぞれの領域において前記合否判定を行うことを特徴とする鋼帯の合否判定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼帯の合否判定方法に関し、具体的には、DI(Drawing and Ironing)缶やDRD(Draw and Redrawn)缶などの厳しい加工を受ける用途向けの缶用鋼板の素材となる鋼帯に内在する非金属介在物等を探傷し、その結果に基づいて内部品質を精度よく評価し、合否判定する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
DI缶やDRD缶などに用いられる缶用鋼板は、板厚が0.2mm程度と薄いことに加えて、深絞り加工やしごき加工等の過酷な加工を受けるため、その内部品質に対する要求は極めて厳しいものがある。そのため、上記缶用鋼板を製造する場合には、製鋼段階で発生する非金属介在物の量をできる限り低減すべく、数多くの技術開発が行われている。
【0003】
それと同時に、製品品質を保証する観点から、製鋼から最終製品に至るまでのいずれかの製造工程において、非金属介在物や2枚板等の内部欠陥を検査し、不良部分を選別し、除去することが行われている。その方法としては、例えば、非特許文献1には、シートサンプルを磁粉探傷して、製品の出荷判定を行う方法が、また、特許文献1には、漏洩磁束探傷法を用いて素材鋼板の内部品質を評価する方法が、また、特許文献2には、超音波探傷装置を用いて素材鋼板の内部品質を評価する方法が開示されている。
【0004】
ところで、缶用鋼板における非金属介在物等の内部品質の検査は、製造工程が下流側になるほど、鋼板の板厚が薄くなり、長さも長くなって検査面積も増大し、また、製造ラインでの鋼板の通板速度も速くなるため、難しくなる。したがって、内部品質の検査を、広い範囲にわたって精度よく行うには、できるだけ上工程で行うのが好ましい。
【0005】
この観点から、上記従来技術を見ると、磁粉探傷による方法は、冷間圧延後に抜き取り採取されたシートサンプルの評価しかできないため、製品コイルの全幅、全長に亘る品質保証の要求に対しては、十分に応えることができない。
また、漏洩磁束法は、鋼帯の板厚が厚くなると、磁束が表面に漏洩しにくく、板厚0.5mm以上の鋼帯では、精度が劣る傾向にあるが、板厚の薄い鋼帯に対しては十分な精度がある。また、漏洩磁束は、鋼板表面からの距離に反比例して急激に減衰するが、センサーと鋼板の間の距離を厳しく制御することで、精度を高めることが可能である。
【0006】
一方、超音波を用いた介在物の探傷方法は、介在物の検出能が比較的高く、また、板厚による制限が少なく、熱延鋼帯への適用も可能であるため、缶用鋼板の内部品質を評価する上では好ましい方法であると言える。そこで、熱延後の酸洗ライン等に超音波探傷装置を設置し、内部品質の検査を行なうことが積極的に行なわれている(例えば、非特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平08−160006号公報
【特許文献2】特開2004−157113号公報
【非特許文献1】久々湊ら、川崎製鉄技報、vol.12、No.2,1980、p331
【非特許文献2】荒谷ら、JFE技報、No.12(2006年5月),p22
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1に記載された漏洩磁束探傷法あるいは特許文献2や非特許文献2に記載された超音波探傷法によって非金属介在物(以降、単に「介在物」ともいう)等の検査を行なうことにより、ユーザーでの製缶時における介在物に起因した不良は大きく低減しており、優れた効果が得られている。しかし、時として、鋼帯の大部分の介在物は問題とならないレベルであるが、介在物が局所的に集中して発生することがあり、この場合、漏洩磁束探傷法あるいは超音波探傷法の探傷結果に基づいた介在物平均値では、厳しい基準値を満足しないことになり、鋼帯全体を丸々不合格として格落ち処理していた。つまり、格落ち鋼帯の全長、全幅にわたって介在物が多く存在しているわけではないのに、鋼帯全体を格落ち処理していた。このように、従来技術には、不必要に格落ち率を増大させていることがあり、まだ改善の余地が残されていた。
【0008】
そこで、本発明の目的は、上記不具合の原因を解明し、製缶時における非金属介在物に起因した不良発生を確実に防止したうえで、缶用鋼板の歩留りを向上させることができる鋼帯の合否判定方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは、従来技術が抱える上記問題点を解決するため、非金属介在物が多く検出された不良鋼帯の非金属介在物の分布状態を調査した。その結果、探傷方法自体には問題はなく、探傷結果を元に合否判定する処理方法に問題があること、すなわち、従来の鋼帯の内部品質の合否判定は1鋼帯(以降、「コイル」ともいう)単位で行っていたため、介在物の発生している部分が少しでもあると、鋼帯全体を格落ち処理としていたため、いたずらに格落ち率を増大させる原因となっていたことがわかった。そして、この問題を解決するには、1つのコイルを長手方向(圧延方向)および/または幅方向に複数の領域に区分し、それぞれの領域において合否判定を行なうことが有効であることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は、鋼帯に内在する非金属介在物を探傷し、その探傷結果に基いて鋼帯を合否判定する方法において、上記鋼帯を長手方向および/または幅方向の複数の領域に分割し、それぞれの領域において前記合否判定を行うことを特徴とする鋼帯の合否判定方法である。
【0011】
本発明の上記方法は、非金属介在物の探傷を超音波探傷法または漏洩磁束探傷法を用いて行うことを特徴とする。
【0012】
また、本発明の上記方法は、鋼帯の製造履歴に応じて、鋼帯の長手方向および/または合否判定基準を変更することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、1つの鋼帯を長手方向および/または幅方向の複数の領域に分け、それぞれの領域において介在物の合否判定を行うようにしたので、介在物による不良領域を確実に特定し、除去することが可能となる。したがって、本発明の方法を缶用鋼板に適用することにより、ユーザーでの介在物に起因する製缶不良を発生させることなく、缶用鋼板の格落ち率を低減させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
発明者らは、基準値を超える非金属介在物の存在が確認されて格落ち処理された鋼帯と、非金属介在物の検出率が基準内の鋼帯における、非金属介在物のコイル長手方向および幅方向の分布状態を調査した。
図1は、介在物の検出率が基準内のコイルにおける、大きさが5×10−4mm以上の介在物の分布状態を表したものであり、介在物がコイル全長に亘ってほぼ均一に検出されていることがわかる。
【0015】
一方、図2は、介在物の検出率が基準値を超えて検出されたコイルの介在物の分布状況を示したものである。図2から、このコイルは、その大部分は介在物の検査基準を満たすものではあるが、局部的に基準を大きく外れる部分が含まれていること、即ち、1000〜1300mの範囲では、上記図1のコイルより介在物が少ないレベルであるが、1000〜1300mの範囲で、介在物が多発しているので、鋼帯全体として基準値を満たしていないことがわかる。これらのことから、介在物を精度よく検出できているにも拘わらず、合否判定をコイル単位で行なっていたために、不必要に格落ち処理を招いて、格落ち率を増大させていたことが判明した。
【0016】
そこで、本発明では、合否判定方法を、従来の1コイル単位での合否判定に代えて、1つのコイルを長手方向および/または幅方向の複数の領域に分割し、個々の領域ごとに合否判定処理を行うようにした。こうすることで、介在物不良の領域を明確に区分でき、後工程でも容易に除去することができるので、格落ち率を確実に低減することが可能となる。
【0017】
上記分割する領域の長さは、例えば、板厚2.0mm×板幅1000mmの16トンの熱延鋼板(コイル)は、長手(圧延)方向長さが約1000m程度であるので、連続鋳造時に鋳込異常等の履歴がない定常スラブを素材とする熱延鋼帯の場合には、長手方向に100mあるいは50m程度とするのが好ましい。
【0018】
なお、上記分割する領域の大きさを決定するに際しては、製造履歴を考慮することが好ましい。即ち、上記定常スラブ以外の、連続鋳造先端スラブや後端スラブ、あるいは、取鍋交換や幅変更時に鋳造された部分や鋳造中にノズル詰まりや湯面変動等の異常が検知されていた部分を含む非定常スラブを素材とする熱延鋼帯の場合には、上記非定常部に相当する部分の分割領域の長さはさらに短くし、例えば、10m単位で判定を行なうようにするのが好ましい。
【0019】
一方、幅方向の分割は、例えば、両幅端部と中央部に3分割する方法、あるいは両端部をさらに2分した5分割する方法などを採用することができる。
【0020】
また、熱延鋼帯内の上記鋳造時の非定常部分に対応する領域に対しては、上記のように分割する領域の大きさを変えること以外に、合否判定の基準、具体的には介在物検出率の基準値(閾値)を変えることも有効であり、例えば、定常スラブを素材とする熱延鋼帯と比較して、合否判定基準を厳しくすることで、介在物の多発部分の混入を確実に防止し、ユーザーでの介在物起因の製缶不良をなくすことが可能となる。
【0021】
なお、上記介在物の探傷方法としては、超音波探傷法あるいは漏洩磁束探傷法など各種の方法を用いることができるが、超音波探傷法が、探傷精度の点からは最も好ましい。なお、合否判定に用いる閾値としては、介在物の存在密度や存在個数、大きさ等のいずれを用いてもよく、また、それらを組み合わせて用いてもよい。
【実施例】
【0022】
DI缶用の缶用鋼板の素材である熱延鋼帯(板厚2.0mm×板幅1000mm)に対して、酸洗ラインに設置した超音波探傷装置を用いて介在物検査を工程的に1ヶ月間実施し、従来の介在物の合否判定基準を適用した場合と、本発明の合否判定基準を適用した場合における格落ち率を調査した。ここで、従来の合否判定基準は、1コイル単位で合否判定を行なう方法であり、一方、本発明の合否判定基準は、製鋼履歴に異常のない定常部に相当する熱延鋼帯の領域に対しては長手方向50m単位で、また、その他の非定常部に相当する熱延鋼帯の部分に対しては長手方向10m単位で合否判定を行う方法である。
【0023】
本発明の合否判定基準を適用した場合における格落ち率を、従来の判定基準のときの値を100として、表1に示した。この結果から、本発明の介在物の合否判定基準を適用することにより、格落ち率は3%低減し、素材の歩留りが改善されていることがわかる。
【0024】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0025】
上記実施例等においては、缶用鋼板用の素材である熱延鋼板の超音波探傷に、本発明を適用した例を用いて説明したが、本発明の技術は、上記熱延鋼板に限定されるものではなく、一般の冷延鋼板や表面処理鋼板にも適用することができ、また、超音波探傷に限定されるものでもない。さらに、本発明を適用する探傷装置は、上記実施例のように酸洗ラインに設置されたものに限定されるものではなく、例えば熱延や冷延の精整ラインや調質圧延ライン、連続焼鈍設備などに設置されたものに適用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】介在物検出率が基準内の鋼帯(コイル)における介在物の分布を示した図である。
【図2】介在物検出率が基準を外れる鋼帯(コイル)における介在物の分布を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼帯に内在する非金属介在物を探傷し、その探傷結果に基いて鋼帯を合否判定する方法において、上記鋼帯を長手方向および/または幅方向の複数の領域に分割し、それぞれの領域において前記合否判定を行うことを特徴とする鋼帯の合否判定方法。
【請求項2】
非金属介在物の探傷を超音波探傷法または漏洩磁束探傷法を用いて行うことを特徴とする請求項1に記載の鋼帯の合否判定方法。
【請求項3】
鋼帯の製造履歴に応じて、分割する領域の大きさおよび/または合否判定基準を変更することを特徴とする請求項1または2に記載の鋼帯の合否判定方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−25835(P2010−25835A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−189475(P2008−189475)
【出願日】平成20年7月23日(2008.7.23)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】