鋼床版の検査方法、及び鋼床版の検査システム
【課題】鋼床版の破断部位又は亀裂部位を容易に高精度に検査すること。
【解決手段】電磁磁誘導によって鋼床版デッキプレート110を直接加熱する。Uリブ140は電磁誘導加熱されにくいが、鋼床版デッキプレート110から、Uリブ140に熱伝導によって、加熱される。しかし、溶接部位に破断や亀裂がある場合、その破断又は亀裂の箇所からはUリブ140に熱が伝導されない。これにより、破断又は亀裂がある場合と、破断又は亀裂がない場合とで、検査部位の温度分布に違いが発生する。この温度分布の違いによって、破断又は亀裂145を発見することがきる。
【解決手段】電磁磁誘導によって鋼床版デッキプレート110を直接加熱する。Uリブ140は電磁誘導加熱されにくいが、鋼床版デッキプレート110から、Uリブ140に熱伝導によって、加熱される。しかし、溶接部位に破断や亀裂がある場合、その破断又は亀裂の箇所からはUリブ140に熱が伝導されない。これにより、破断又は亀裂がある場合と、破断又は亀裂がない場合とで、検査部位の温度分布に違いが発生する。この温度分布の違いによって、破断又は亀裂145を発見することがきる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼床版の検査方法、及び鋼床版の検査システムに関する。
【背景技術】
【0002】
溶接部位の良否を非破壊で検査する検査方法として、X線透視撮影や超音波断層撮影等による内部観察が知られている。しかしながら、これらの検査方法は、いずれも設備が大規模であり、検査コストが高い。また、これらの検査方法は検査精度に限界があり、一定の大きさよりも小さい欠陥を発見することは困難である。
【0003】
そこで、特許文献1には、検査すべき溶接部位のみを電熱線を有するヒータを当てて局所的に加熱し、赤外線温度検出器で加熱された溶接部位から出る赤外線によって溶接部位近傍の温度分布を測定し、測定結果を予め測定した良品又は不良品の温度分布と比較することで、良否の判定を行なう検査方法が提案されている。
【0004】
また、特許文献2には、溶接された二つの金属製部材の一方を加熱治具で挟持して加熱し、溶接部位を放射温度計により最高温度や温度分布等を測定し、測定した最高温度又は所定温度以上の領域の面積を予め求めておいた比較値と比較し、良否の判定を行なう検査方向が提案されている。
【0005】
なお、ヒータなどを鋼床版に当てて加熱する場合、加熱部位に近いほど高温となる温度分布となるので、温度分布による良否の判定が困難な場合がある。また、検査効率を上げるため加熱部位を大きくすると、高コスト化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平3−60882号公報
【特許文献2】特開2000−131254公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
鋼床版の破断部位又は亀裂部位を容易に高精度に検査することが求められている。
【0008】
本発明は、鋼床版の破断部位又は亀裂部位を容易に高精度に検査することが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明は、鋼床版の検査部位を電磁誘導加熱によって加熱する加熱工程と、前記加熱工程で加熱された前記検査部位の温度分布を測定する測定工程と、測定された前記検査部位の温度分布に基づいて、前記検査部位の破断又は亀裂の有無を判定する判定工程と、を備える。
【0010】
請求項1の発明では、鋼床版の検査部位を電磁誘導加熱で加熱する。加熱された検査部位の温度分布に基づいて、検査部位の破断又は亀裂を判定する。
【0011】
ここで、ヒータなどで鋼床版を加熱した場合、破断部位又は亀裂部位が大きくないと温度分布に大きな違いが発生しない。
【0012】
これに対して電磁誘導加熱は、破断部位又は亀裂部位に電磁誘導による渦電流に乱れが生じるので、破断部位又は亀裂部位の温度分布の変化が大きい。
【0013】
また、電磁誘導によって鋼床版を直接加熱するので(鋼床版自体を発熱させるので)、他の加熱方法と比較し、熱効率が高い。よって、広い範囲を低コストで加熱することができる。
【0014】
このように、電磁誘導加熱で鋼床版を加熱することで、鋼床版の破断部位又は亀裂部位を容易に高精度に検査することができる。
【0015】
請求項2の発明は、前記加熱工程では、前記鋼床版の上面側から電磁誘導加熱し、前記判定工程では、前記鋼床版の上面を構成する鋼床版デッキプレートの下面に溶接接合され前記鋼床版デッキプレートよりも前記電磁誘導加熱されにくい下方側に突出するリブを含む前記検査部位の温度分布に基づいて、前記リブと前記鋼床版デッキプレートとの溶接部位の破断又は亀裂の有無を判定する。
【0016】
請求項2の発明では、鋼床板の上面側から電磁誘加熱すると、電磁誘導によって鋼床版デッキプレートに渦電流が発生し鋼床版デッキプレートが加熱される。
【0017】
しかし、鋼床版デッキプレートの下面に溶接接合されたリブは、鋼床版デッキプレートの電磁シールド作用によって、電磁誘導による渦電流の発生が少ない。また、リブは、上方からの平面視において、渦電流が発生する面積が狭い。よって、リブは鋼床版デッキプレートよりも電磁誘導加熱されにくい。
【0018】
ここで、リブは電磁誘導加熱されにくいが、鋼床版デッキプレートから、リブと鋼床版デッキプレートとの溶接部位を介しての熱伝導によって、リブが加熱される。
【0019】
しかし、溶接部位に破断又は亀裂がある場合、その破断部位又は亀裂部位からはリブに熱伝導されない。これにより、溶接部位に破断又は亀裂がある場合と、破断又は亀裂ない場合とで、検査部位の温度分布に違いが発生する。よって、この温度分布の違いによって、容易に溶接部位の破断又は亀裂を判定することがきる。
【0020】
このように、リブは鋼床版デッキプレートよりも電磁誘導加熱されにくいことを利用し、容易に溶接部位の破断又は亀裂を検査することができる。
【0021】
請求項3の発明は、前記鋼床版の上にはアスファルト舗装体が設けられ、前記加熱工程では、前記アスファルト舗装体の上から、前記鋼床版を電磁誘導加熱し、前記測定工程では、前記鋼床版の下面側から温度分布を測定し、前記検査部位の位置を特定する位置特定工程と、前記位置特定工程によって特定された前記検査部位の位置に基づいて、前記検査部位と前記測定工程における測定位置を対応させる位置対応工程と、を備える。
【0022】
請求項3の発明では、鋼床版の上に設けられたアスファルト舗装体の上から、鋼床版を電磁誘導加熱し、鋼床版の下面側から温度分布を測定して検査する。なお、位置特定工程によって特定された検査部位の位置に基づいて、検査部位と測定位置とを対応させる。よって、アスファルト舗装体を剥がすことなく、鋼床版を検査することができる。
【0023】
請求項4の発明は、前記位置特定工程では、前記鋼床版の上面側からと下面側からの両方から目視にて認識可能な部位に目印をつけて位置を特定する。
【0024】
請求項4の発明では、鋼床版の上面側からと下面側からの両方から目視にて認識可能な目印によって検査部位の位置を特定し、検査部位と測定位置とを対応させる。このように、簡単な方法で検査部位と測定工程における測定位置とを対応させることができる。
【0025】
請求項5の発明は、前記位置特定工程では、前記加熱部位又は前記加熱部位の近傍に設けたGPS受信機を設け位置を特定する。
【0026】
請求項5の発明では、加熱部位又は加熱部位の近傍に設けたGPS受信機によって検査部位の位置を特定し、この検査部位の位置情報に基づいて測定位置を特定する。このように、GPSを利用することで、高精度且つ簡単な方法で検査部位と測定工程における測定位置とを対応させることができる。
【0027】
請求項6の発明は、鋼床版の検査部位を電磁誘導加熱して前記検査部位の温度分布を測定し、測定された前記検査部位の温度分布に基づいて、前記検査部位の破断又は亀裂の有無を判定する鋼床版の検査システムであって、前記鋼床版の前記検査部位を電磁誘導加熱する電磁誘導加熱装置と、前記電磁誘導加熱装置によって加熱された前記鋼床版の前記検査部位の温度分布を測定する測定装置と、を備える鋼床版の検査システム。
【0028】
請求項6の発明では、鋼床版を電磁誘導加熱装置で検査部位を加熱する。加熱された検査部位を測定装置で測定する。そして、測定された温度分布に基づいて、検査部位の破断又は亀裂を判定する。
【0029】
ここで、ヒータなどで鋼床版を加熱した場合、破断部位又は亀裂部位が大きくないと温度分布に大きな違いが発生しない。
【0030】
これに対して電磁誘導加熱は、破断部位又は亀裂部位に電磁誘導による渦電流に乱れが生じるので、破断部位又は亀裂部位の温度分布の変化が大きい。
【0031】
また、電磁誘導によって鋼床版を直接加熱するので(鋼床版自体を発熱させるので)、他の方法と比較し、熱効率が高い。よって、広い範囲を低コストで加熱することができる。
【0032】
更に、電磁誘導装置の出力(コイルに流す電力)を制御することによって、容易に加熱温度を制御することができる。
【0033】
したがって、鋼床版の破断部位又は亀裂部位を容易に高精度に検査することができる。
【発明の効果】
【0034】
請求項1に記載の発明によれば、電磁誘導加熱以外の方法で鋼床版を加熱する方法と比較し、鋼床版の破断部位又は亀裂部位を容易に高精度に検査することができる。
【0035】
請求項2に記載の発明によれば、電磁誘導加熱以外の方法で鋼床版を加熱する方法と比較し、鋼床版の上面を構成する鋼床版デッキプレートの下面とリブとの溶接部位の破断又は亀裂を容易に検査することができる。
【0036】
請求項3に記載の発明によれば、アスファルト舗装体を剥がすことなく、鋼床版を検査することができる。
【0037】
請求項4に記載の発明によれば、簡単な方法で検査部位と測定工程における測定位置とを対応させることができる。
【0038】
請求項5に記載の発明によれば、GPSを利用することで、高精度且つ簡単な方法で検査部位と測定工程における測定位置とを対応させることができる。
【0039】
請求項6に記載の発明によれば、電磁誘導加熱以外の方法で鋼床版を加熱する方法と比較し、鋼床版の破断部位又は亀裂部位を容易に高精度に検査することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の鋼床版の検査システム及び鋼床版の検査方法によって検査を行う鋼床版形式橋梁を一部断面で示す斜視図である。
【図2】本発明の鋼床版の検査システム及び鋼床版の検査方法によって検査を行う鋼床版を下から見た斜視図である。
【図3】図2の要部を拡大した斜視図である。
【図4】(A)は図1に示す図2の鋼床版形式橋梁を構成する鋼床版の幅方向に沿った縦断面を模式的に示す断面図であり、(B)は(A)及び図2、図3のP部近傍の拡大図であり、(C)はP部の拡大図である。
【図5】本発明の第一実施形態に係る鋼床版の検査システムを模式的に示す側面図である。
【図6】電磁誘導コイルユニットを示す、(A)は(B)のA−A線に沿った断面図であり、(B)は平面図である。
【図7】図6の電磁誘導コイルユニットを構成する板材を示す平面図である。
【図8】アスファルト舗装体の剥離を説明する説明図である。
【図9】第一実施形態の検査システム及び検査方法による、(A)は鋼床版デッキプレートの加熱部位を示す斜視図であり、(B)は加熱条件を説明するための説明図である。
【図10】第一実施形態の検査システム及び検査方法による、(A)は測定部位に亀裂が無い場合の温度分布を示し、(B)は10μmの亀裂がある場合の温度分布を示し、(C)は100μmの亀裂がある場合の温度分布を示し、(D)は1000μmの亀裂がある場合の温度測定分布を示す温度分布図である。
【図11】本発明の第二実施形態に係る鋼床版の検査システムを模式的に示す側面図である。
【図12】本発明の第二実施形態に係る鋼床版の検査システムにおける位置特定手段を説明するための正面図である。
【図13】本発明の第二実施形態に係る鋼床版の検査システムにおける位置特定手段を説明するための正面図である。
【図14】第一実施形態の検査システム及び検査方法による、(A)は測定部位に亀裂が無い場合の温度分布を示し、(B)は10μmの亀裂がある場合の温度分布を示し、(C)は100μmの亀裂がある場合の温度分布を示し、(D)は1000μmの亀裂がある場合の温度測定分布を示す温度分布図である。
【図15】本発明の第三実施形態に係る鋼床版の検査システムを模式的に示す側面図である。
【図16】(A)は本発明の第四実施形態に係る鋼床版の検査システム及び検査方法による渦電流の分布状態を模式的に示す説明であり、(B)は電磁誘導コイルの配置を模式的に説明する図である。
【図17】鋼床版デッキプレートに亀裂が無い状態の温度分布を示す温度分布図である。
【図18】鋼床版デッキプレートに亀裂が有る状態の温度分布を示す温度分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
<第一実施形態>
図1〜図10を用いて、本発明の第一実施形態に係る鋼床版の検査システム及び鋼床版の検査方法について説明する。
【0042】
[鋼床版形式橋梁]
図1には、都市内橋梁の代表的形式である鋼床版形式橋梁(高架橋)10が示されている。なお、各図において、車両Sの走行する方向を矢印Xで示し、道路の幅方向を矢印Yで示す。また、鉛直方向を矢印Zで示す。
【0043】
鋼床版形式橋梁10の鋼床版100の上面を構成する鋼床版デッキプレート110の上にアスファルト舗装体120が設けられている。なお、本実施形態においては、アスファルト舗装体120は、厚さ35mmのグースアスファルト124と厚さ40mmのアスファルトコンクリート122がこの順に積層されて構成されている(図8も参照)。
【0044】
図1〜図4に示すように、鋼床版100を構成する鋼床版デッキプレート110の下面110Aには、横リブ130とUリブ140とが溶接接合されている。
【0045】
横リブ130は、幅方向(Y方向)を長手方向として配置されるとともに、走行方向(X方向)に間隔をあけて複数接合されている。
【0046】
Uリブ140は下方側に突出し、幅方向に沿った縦断面が、上方側を開口側として配置されたU字状(溝状)とされている。また、走行方向を長手方向として配置され、且つ幅方向に平行に並んで複数設けられている。
【0047】
そして、図3、図4(B)、図4(C)に示すように、鋼床版デッキプレート110の下面110AとUリブ140の上端部140Aとの接合部位の外側に走行方向に沿って溶接ビード部(溶接痕の盛り上がり)142が形成されている。
【0048】
[鋼床版の検査システム]
図5に示す鋼床版の検査システム500は、鋼床版100を構成する鋼床版デッキプレート110の上から電磁誘導加熱を行い、加熱された検査部位の温度分布に基づいて、破断又は亀裂の有無を測定するシステムとされている。なお、本実施形態では、Uリブ140の接合部位を含む領域(検査部位)を加熱し、加熱された検査部位の温度分布に基づいて、Uリブ140と鋼床版デッキプレート110との溶接部位に形成された溶接ビード部142の破断又は亀裂(図4(C)の亀裂145を参照)の有無を判定する目的で主に使用される
【0049】
図5に示すように、鋼床版の検査システム500は、電磁誘導コイルユニット532と温度測定装置550とを有している。
【0050】
ダンプトラック502の荷台504の後部には、下方に突出する支柱506が固定されている。電磁誘導コイルユニット532は、この支柱506に牽引ワイヤー508によって繋がれ牽引される(電磁誘導コイルユニット532は、ダンプトラック50に牽引される)。なお、牽引方向(ダンプトラック502の前進方向)を矢印Kで示す。
【0051】
図6(B)の電磁誘導コイルユニット532の平面図に示すように、FRP製の箱状のフレーム部材534内の後方には3つの電磁誘導コイル536が等間隔で横方向に並べられ、前方には2つの電磁誘導コイル536が後方の電磁誘導コイル536の配置に対して、略コイル半分の距離をずらして幅方向に並べられている。
【0052】
図6(B)のA−A断面図である図6(A)に示すように、フレーム部材534の底部534A上には、複数の電磁誘導コイル536が固定されている。フレーム部材534の底部534Aは、電磁誘導コイル536のカバー部材として役割を兼ねており、使用時の電磁誘導コイル536の損傷を防止する。
【0053】
なお、固定方法はこれに限定されない。例えば、別の固定方法として、フレーム部材534の対向する内壁間を橋渡しするように設けられた水平材の下面に、フェライト538及び電磁誘導コイル536の保持部材を設けて、フェライト538及び電磁誘導コイル536を水平材に固定してもよい。
【0054】
電磁誘導コイル536の上面には、フェライト538が電磁誘導コイル536の中心に対して放射状に置かれている。
【0055】
なお、本実施形態においては、フェライト538が電磁誘導コイル536の上面を部分的に覆うようにしたが、電磁誘導コイル536の上面、内周面、及び外周面の少なくとも1つの面を部分的に覆ったり、電磁誘導コイル536の上面、内周面、及び外周面の少なくとも1つの面の全部を覆ったりするようにしてもよい。
【0056】
また、図6(B)に示すように、本実施形態においては、電磁誘導コイル536の外形は、平面視において略円形とされている。
【0057】
図7の平面図に示すように、フレーム部材534の鉛直方向の中間層には、フェライト538と略同じ厚さの板材540が略水平に設けられている。板材540には、フェライト538の水平方向の移動を拘束する切抜き部541が形成されている。よって、切抜き部541にフェライト538を置くことによって、所定の位置からフェライト538が水平方向に動くことが防止される。
【0058】
図6(A)に示すように、フレーム部材534の天井部534Bは、取外し可能なFRP製のカバーになっている。これにより、電磁誘導コイル536が高温状態のとき、作業員等がこの電磁誘導コイル536に触れることを防止するとともに、フレーム部材534の外部への放熱を促進することができる。また、天井部534Bを取外すことによって、電磁誘導コイル536のメンテナンスを容易に行うことができる。
【0059】
図6(B)に示すように、フレーム部材534の四隅付近には、車輪544が設けられている。また、電磁誘導コイルユニット532は、幅方向及び進行方向に複数連結可能とされている。
【0060】
なお、フレーム部材534の材料をFRPとしたが、これに限定されない。絶縁性を有し、電磁誘導コイル536及びフェライト538の設置が可能な、箱体としての十分な剛性を確保できる材料であればよく、例えば、合成樹脂パネル材等を用いてもよい。
【0061】
また、図6(A)に示すように、本実施形態においては、補強材543、545によってフレーム部材534の剛性を更に高めている。なお、フレーム部材534の天井部534Bは、絶縁性を有し、熱伝導率の大きい材料を用いることが好ましい。なお、説明の都合上、図6(B)には、天井部534B、板材540、補強材543等の図示が省略されている。
【0062】
図5に示すように、ダンプトラック502の荷台504には、電気ケーブル558を介して電磁誘導コイル536に高周波電力を供給する高周波電力発生装置546と、この高周波電力発生装置546の電源となる発電機548と、が搭載されている。
【0063】
また、鋼床版100の測定部位W(正確には加熱された直後、詳細は後述する)の温度分布を測定する温度測定装置550は、鋼床版100の上方に配置されている。
【0064】
本実施形態では、温度測定装置550は、赤外線サーグラフィ(ビューアー)装置を用いている。赤外線サーモグラフィ装置は、測定部位(対象物)から出ている赤外線放射エネルギーを検出して可視化し、温度測定・温度計測・温度分布等の画像表示を行なう装置とされている。
【0065】
[鋼床版の検査方法]
図4に示すように、車両Sが走行する際の鋼床版デッキプレート110の変形等に起因し、溶接ビード部142が疲労し亀裂145(図4(C)参照)が発生することがある。よって、本実施形態では、この亀裂145を発見する検査方法について説明する(図2〜図4に示すP部も参照)。
【0066】
なお、本実施形態では、アスファルト舗装体120を剥離してから検査を行なう。よって、最初にアスファルト舗装体120の剥離手順について説明する。
【0067】
図8に示すように、アスファルト舗装体120上に電磁誘導コイルユニット532を載せて、ダンプトラック502で牽引する。なお、この電磁誘導コイルユニット532は、検査システム500の電磁誘導コイルユニット532と同じものである。
【0068】
牽引されている電磁誘導コイルユニット532の電磁誘導コイル536(図6参照)に高周波電力発生装置546から電気ケーブル558を介して高周波電力を供給する。これにより、電磁誘導コイルユニット532下方に位置する鋼床版デッキプレート110に電磁誘導による渦電流が発生し、鋼床版デッキプレート110が有する電気抵抗により発熱する。
【0069】
発熱した(加熱された)鋼床版デッキプレート110の上の、アスファルト舗装体120の下層を構成するグースアスファルト124の下面が溶融し、溶融層(図示略)が形成される。
【0070】
加熱開始と共に、ダンプトラック502を前進させて電磁誘導コイルユニット532を牽引し徐々に移動させる。
【0071】
アスファルト舗装体120の下層を構成するグースアスファルト124の下面の溶融層(図示略)に、バックホー564のリッパー560を挿入して、鋼床版デッキプレート110からアスファルト舗装体120を剥がす。
【0072】
つぎに、図5に示すように、アスファルト舗装体120が剥され剥き出しとなった鋼床版デッキプレート110の上面110Bに電磁誘導コイルユニット532を載せて、ダンプトラック502で牽引する。なお、前述したように、この電磁誘導コイルユニット532は、アスファルト舗装体120の剥離工程で使用した電磁誘導コイルユニット532と同じものである。
【0073】
牽引されている電磁誘導コイルユニット532の電磁誘導コイル536(図6参照)に高周波電力発生装置546から電気ケーブル558を介して高周波電力を供給すると、電磁誘導コイルユニット532の下方に位置する鋼床版デッキプレート110に電磁誘導による渦電流が発生し、鋼床版デッキプレート110が有する電気抵抗により発熱する。
【0074】
電磁誘導コイル536(図6参照)によって加熱された加熱部位E(図9も参照)は、Uリブ140の上端部140Aが溶接接合された部位の直上である(図2〜図4のP部参照)。
【0075】
そして、電磁誘導コイルユニット532が牽引され移動すると、温度測定装置550で鋼床版デッキプレート110の電磁誘導加熱された加熱部位Eの温度分布を測定する。
【0076】
よって、本実施形態では、正確には加熱されている状態の鋼床版デッキプレート110の上面110Bの温度分布を測定するのではなく、加熱直後の、冷却されつつある鋼床版デッキプレート110の上面110Bの温度分布を測定することになる。
【0077】
なお、本実施形態の加熱条件は以下である。なお、この条件は一例であって各種条件によって変わることは言うまでもない。
【0078】
発熱領域:直径450mm
Q1=0.6kw
Q2=5.3kw
【0079】
つぎに、温度分布による亀裂145(図4(C)参照)の有無の検査方法(亀裂145の発見方法)について説明する。
鋼床版デッキプレート110を電磁誘導加熱すると、鋼床版デッキプレート110が磁気シールド層として機能することと、Uリブ140の鋼床版デッキプレート110の近傍部が電磁誘導コイル536に対して概ね垂直であるため面積が狭いこと、とにより、Uリブ140は鋼床版デッキプレート110よりも電磁誘導加熱されにくい。
【0080】
Uリブ140の溶接ビード部142(図4(B)、図4(C)参照)に破断や亀裂145がない場合は、鋼床版デッキプレート110の熱がUリブ140に伝達されるため、Uリブ140の温度も上昇する。しかし、破断や亀裂145がある場合は、鋼床版デッキプレート110の熱は、破断や亀裂145した箇所からは、Uリブ140に伝達されない。
【0081】
本実施形態においては、鋼床版デッキプレート110は略円形の電磁誘導コイル536で電磁誘導加熱を行なうので、鋼床版デッキプレート110は略円形状に温度が上昇する(図9(B)を参照)。しかし、溶接接合されたUリブ140に熱が伝達されるため、鋼床版デッキプレート110におけるUリブ140の接合部位の温度が低下する。
【0082】
しかし、破断や亀裂145がある場合は、鋼床版デッキプレート110の熱は、破断や亀裂145した箇所からはUリブ140に伝達されないので、その部位の温度低下が小さくなる(又は温度低下しない)。
【0083】
ここで、図10は、鋼床版デッキプレート110の上面110Bにおける亀裂145(図4(C)参照)の有無及び亀裂145の大きさによる温度分布の違いを示している。なお、ドットが密であるほど(濃いほど)温度が高いことを示している。
【0084】
そして、図10(A)は、亀裂145が無い場合の温度分布である。図10(B)は10μmの亀裂145がある場合、図10(C)は100μmの亀裂145がある場合、図10(D)は1000μmの亀裂145がある場合の温度測定分布を示している。なお、亀裂145の有無及び大きさによる温度分布状態の違いは、図中のR1部を参照。
【0085】
これを見ると判るように、亀裂145のない図10(A)は、溶接接合されたUリブ140に熱が伝達されるため、溶接部位の温度が低下しているのが判る。
【0086】
これに対して、亀裂145がある場合は、亀裂145から熱が伝達されないので、温度低下してないことがわかる。また、亀裂145の大きさによって温度分布形状が異なるので、亀裂145の大きさも判る。
【0087】
なお、本検査例では、亀裂145の大きさが100μm以上であれば、確実に発見できる。また、亀裂145の大きさが10μmであっても、精度は低下するが発見可能である。
【0088】
[作用及び効果]
つぎに本実施形態の作用及び効果について説明する。
ここまで説明したように、本実施形態では、鋼床版の検査部位を電磁誘導加熱で加熱し、検査部位の温度分布に基づいて、検査部位の破断又は亀裂の有無を検査する。
【0089】
このように、電磁誘導によって鋼床版デッキプレート110を直接加熱するので(鋼床版デッキプレート110自体を発熱させるので)、他の加熱方法と比較し、熱効率が高い。よって、広い範囲を低コストで加熱することができる。
【0090】
また、鋼床版デッキプレート110の下面110Aに溶接接合されたUリブ140は、鋼床版デッキプレート110の電磁シールド作用によって、電磁誘導による渦電流の発生が少ない。また、Uリブ140は、上方からの平面視において、渦電流が発生する面積が狭い。よって、Uリブ140は鋼床版デッキプレート110よりも電磁誘導加熱されにくい。
【0091】
このようにUリブ140は電磁誘導加熱されにくいが、鋼床版デッキプレート110から、Uリブ140と鋼床版デッキプレート110との溶接部位(溶接ビード部142)を介しての熱伝導によって、加熱される。
【0092】
しかし、溶接ビード部142に破断や亀裂145がある場合、その破断又は亀裂145の箇所からはUリブ140に熱が伝導されない。これにより、溶接ビード部142に破断又は亀裂145がある場合と、破断又は亀裂145ない場合と、で測定部位Wの温度分布に違いが発生する(図10を参照)。よって、この温度分布の違いによって、容易に溶接ビード部142の破断又は亀裂145を発見することがきる。
【0093】
このように、Uリブ140は鋼床版デッキプレート110よりも電磁誘導加熱されにくいことを利用し、容易に溶接ビード部142の破断又は亀裂145を検査(発見)することができる。つまり、従来よりも高精度且つ簡単に破断又は亀裂箇所を特定することができる。
【0094】
更に、電磁誘導コイルユニット532の出力(電磁誘導コイル536に流す電力)を制御することによって、容易に加熱温度を制御することができる。
【0095】
「その他」
なお、本実施形態では、温度分布の画像を見て破断又は亀裂145の有無を判断したが、これに限定されない。
例えば、予め測定又はコンピュータシミュレーションなど破断又は亀裂のない状態(或いは、破断又は亀裂のある状態)の温度分布と測定結果とを比較することで、良否の判定を行なってもよい。
【0096】
また、本実施形態では、Uリブ140の接合部位の破断又は亀裂を検査したが、これに限定されない。横リブ130(図1など参照)の接合部位の破断又は亀裂の検査も同様に行なうことができる。
【0097】
<第二実施形態>
図11〜図14を用いて、本発明の第二実施形態に係る鋼床版の検査システム及び鋼床版の検査方法について説明する。なお、第二実施形態と同一の部材には、同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0098】
[鋼床版の検査システム]
図11に示すように、電磁誘導コイルユニット532及び温度測定装置550等は第一実施形態と同様とされている。
【0099】
第一実施形形態では、鋼床版デッキプレート110の上側に温度測定装置550が配置されていた(図5参照)。これに対して本実施形態では、図11に示すように温度測定装置550は、鋼床版デッキプレート110の下方に配置されている。
【0100】
また、本実施形態の場合は、測定者は、電磁誘導コイルユニット532で加熱している加熱部位Eが見えないので、加熱部位Eの位置情報を測定者に伝達させる必要がある。
【0101】
つまり、加熱部位Eの位置を特定し、特定された加熱部位Eの位置情報に基づいて、測定部位Wを特定する必要がある。
【0102】
よって、つぎに、加熱部位Eの位置を特定し、特定された加熱部位Eの位置情報に基づいて、測定部位Wを特定する位置特定手段(位置特定方法)について説明する。
【0103】
図11と図12とに示すように、本実施形態では、測定者とは別の作業者が加熱部位Eに対応する路側壁115からマーカー182をロープ180で吊り下げ、測定者はこのマーカー182の位置を見て,加熱部位Eを特定する。なお、本実施形態のように、複数本のUリブ140が接合されている場合は作業開始時に、何番目のUリブ140を加熱するのかを、予め口頭等で伝達しておけばよい。
【0104】
或いは、マーカー182に何番目のUリブ140を加熱中であるかを記載してもよい。(図では3番目であることを示す「3」が、一例として図示されている)
【0105】
また、マーカー182に、発光機能、例えば、LEDランプなどを内蔵し、夜間でも目視しやすくしてもよい。
【0106】
また、マーカー182の発光色が変化するように構成し、発光色の違い(変化)によって、加熱状態や待機状態等の作業のフェーズを示すようにしてもよい。
【0107】
また、マーカー182に送信機を組み込み、作業映像や作業フェーズ等の各種情報を電波で鋼床版100の下の測定者に送信し、測定者は受信装置で情報を受信して、状況の把握ができるようにしてもよい。
【0108】
また、マーカー182は、作業者による手作業による付け替え方式以外の方法、例えば車からのロボットアーム等によって移動してもよい。
【0109】
なお、位置特定手段(位置特定方法)は、この手段(方法)に特定されない。
例えば、図13に示すように、一般的には、鋼床版100は単位構造の繰り返しであるため、繰り返し構造の周期と開始位置が判る目印186を路側壁115に付けておき、この目印186を基準に,Uリブ140の位置を推定してもよい。
【0110】
なお、繰り返し構造でない特別の場所では、目印186に番号やバーコードをプリントしておけば、その番号を頼りに、特定部位を特定することが可能である。なお、目印186以外、例えば、RFID(Radio Frequency IDentification)等を用いてもよい。
【0111】
或いは、図11に示すように、電磁誘導コイルユニット532の上にGPS受信機190を設けて位置を特定し、その特定された位置情報を送信し、測定者がその位置情報を受信機で受信することで、測定部位Wを特定するようにしてもよい。
【0112】
なお、GPS受信機190の位置情報に基づいて、測定位置を特定する方法は、どのような方法であってもよい。例えば、設計図面を参照して対応させてもよいし、測定者もGPS受信機190をもって位置情報を得るようにしてもよい。
【0113】
[鋼床版の検査方法]
本実施形態においても、アスファルト舗装体120を剥離してから検査を行なう。アスファルト舗装体120の剥離手順及び方法は、第一実施形態と同様であるので、説明を省略する。
【0114】
図11に示すように、ダンプトラック502によって牽引されている電磁誘導コイルユニット532の電磁誘導コイル536に高周波電力発生装置546から電気ケーブル58を介して高周波電力を供給し、鋼床版デッキプレート110を電磁誘導加熱する。
【0115】
そして、温度測定装置550で、鋼床版デッキプレート110によって電磁誘導加熱された加熱部位E、すなわち測定部位Wの温度分布を測定する。
【0116】
つぎに、温度分布による亀裂の有無の検査方法(亀裂の発見方法)について説明する。
第一実施形態で説明したように、Uリブ140は鋼床版デッキプレート110よりも電磁誘導加熱されにくい。しかし、鋼床版デッキプレート110の熱がUリブ140に伝達されるため、Uリブ140の温度も上昇する。しかし、溶接ビード部142に破断や亀裂145(図4(C)参照)がある場合は、鋼床版デッキプレート110の熱は、Uリブ140で伝達されない。
【0117】
ここで、図14は、亀裂145(図4(C)参照)の有無及び亀裂145の大きさによる温度分布の違いを示している。なお、ドットが密であるほど(濃いほど)温度が高いことを示している。そして、図14(A)は、亀裂145が無い場合の温度分布である。図10(B)は10μmの亀裂145がある場合、図14(C)は100μmの亀裂145がある場合、図14(D)は1000μmの亀裂145がある場合の温度測定分布を示している。なお、亀裂145の有無及び大きさによる温度分布状態の違いは、図中のR2部を参照。
【0118】
これを見ると判るように、亀裂145のない図14(A)は、溶接接合されたUリブ140に熱が伝達されるため、Uリブ140の温度が上昇しているのが判る。
【0119】
これに対して、亀裂145がある場合は、亀裂145の部位から熱が伝達されないので、Uリブ140が温度上昇してないことがわかる。また、亀裂145の大きさによって温度分布が異なるので、亀裂145の大きさの程度も判る。
【0120】
なお、本検査例では、亀裂145の大きさが100μm以上であれば、確実に発見できる。また、亀裂145の大きさが10μmであっても、精度は低下するが発見可能である。
【0121】
[作用及び効果]
つぎに本実施形態の作用及び効果について説明する。第一実施形態と同様に本実施形態においても、電磁誘導によって鋼床版デッキプレート110を直接加熱するので(鋼床版デッキプレート110自体を発熱させるので)、他の加熱方法と比較し、熱効率が高い。よって、広い範囲を低コストで加熱することができる。
【0122】
また、Uリブ140が鋼床版デッキプレート110よりも電磁誘導加熱されにくいことを利用し、容易に溶接部位の破断又は亀裂を検査することができる。つまり、従来よりも高精度且つ簡単に破断又は亀裂箇所を特定することができる。
【0123】
また、第一実施形態では、加熱された直後の温度分布を測定した。これに対して、本実施形態では加熱部位Eが加熱された状態で、加熱部位E(測定部位W)の温度分布を測定することができるので、より高精度に破断又は亀裂箇所を特定することができる。
【0124】
<第三実施形態>
図15を用いて、本発明の第三実施形態に係る鋼床版の検査システム及び鋼床版の検査方法について説明する。なお、第一実施形態及び第二実施形態と同一の部材には、同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0125】
[鋼床版の検査システム]
第二実実施形形態と同様に、本実施形態においても、図15に示すように温度測定装置550が、鋼床版デッキプレート110の下方に配置されている。
【0126】
また、第二実施形態と同様の方法で、電磁誘導コイルユニット532で加熱している部位が、測定者に特定できるようにする。
【0127】
[鋼床版の検査方法]
本実施形態においては、アスファルト舗装体120の剥離を行なわないで、アスファルト舗装体120の上から、鋼床版デッキプレート110の電磁誘導加熱を行なう。
【0128】
そして、第二実施形態と同様に、温度測定装置550で、鋼床版デッキプレート110の電磁誘導加熱された加熱部位Eの温度分布を測定する。
【0129】
温度分布による亀裂の有無の検査方法(亀裂の発見方法)は、第二実施形態と同様であるので説明を省略する。
【0130】
[作用及び効果]
つぎに本実施形態の作用及び効果について説明する。本実施形態では、アスファルト舗装体120を剥がすことなく、アスファルト舗装体120の上から亀裂145を発見することができる。
【0131】
なお、電磁誘導加熱は、鋼床版デッキプレート110をアスファルト舗装体120の上から加熱することができる。しかし、他の加熱方法、例えば、ヒータによる加熱方式では、鋼床版デッキプレート110をアスファルト舗装体120上から加熱することはできない。
【0132】
<第四実施形態>
図16〜図18を用いて、本発明の第四実施形態に係る鋼床版の検査システム及び鋼床版の検査方法について説明する。なお、第一実施形態〜第三実施形態と同一の部材には、同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0133】
[鋼床版の検査システム]
本実施形態では、Uリブ140や横リブ130(図1参照)の接合部位でなく、鋼床版デッキプレート110の亀裂210(図18を参照)を発見する。
【0134】
なお、本実施形態の鋼床版の検査システム500の構成は、第一実施形態と同様であるので、説明を省略する。
また、図16〜図18は、判りやすく説明するために、電磁誘導コイル536(図6参照)は模式的に図示されている。また、図17と図18は、温度が高い部位ほどドットが密に(濃く)図示されている。
【0135】
[鋼床版の検査方法]
図16(B)に示すように、電磁誘導コイル536が鋼床版デッキプレート110の上に配置されると、図16(A)に示すように、鋼床版デッキプレート110に電磁誘導による渦電流Gが発生し、鋼床版デッキプレート110が発熱する。
鋼床版デッキプレート110に亀裂などが無い場合は、図17に示すように電磁誘導コイル536の直下を中心に加熱され略同心円状の温度分布を示す。
【0136】
しかし、図18に示すように、鋼床版デッキプレート110に亀裂210が有ると渦電流G(図16参照)に乱れが発生し、亀裂210の部位の鋼床版デッキプレート110は発熱しない。これにより、略同心円状だった温度分布に乱れが生じ、亀裂210を発見することができる(図17と図18とを比較参照)。
【0137】
なお、本実施形態は、第一実施形態から第三実施形態と、検査部位と判定方法が異なるだけで、同様の検査方法を適用することができる
【0138】
[作用及び効果]
つぎに本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0139】
ヒータなどで鋼床版デッキプレート110を加熱した場合、温度上昇されないのは亀裂部位210部分のみであり、亀裂210の周囲は加熱され温度上昇する。よって、亀裂210部位が大きくないと温度分布に大きな違いが発生しない。
【0140】
これに対して電磁誘導加熱は、亀裂210の部位に電磁誘導による渦電流Gに乱れが生じ加熱されないので、温度分布の変化が大きい(図16と図17とを比較参照)。よって、鋼床版デッキプレート110の亀裂210を容易に高精度に検査することができる。
【0141】
<その他>
尚、本発明は上記実施形態に限定されない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる態様で実施し得ることは言うまでもない。
【0142】
例えば、上記実施形態では、橋梁の鋼床版デッキプレート上にアスファルト舗装が設けられた道路に対して本発明を適用したが、これに限定されない。電磁誘導コイルの渦電流を流すことが可能な鋼床版が設けられた構造物に広く適用することができる。
【符号の説明】
【0143】
100 鋼床版
110 鋼床版デッキプレート
110A 下面
120 アスファルト舗装体
130 横リブ(リブ)
140 Uリブ(リブ)
145 亀裂
182 マーカー(目印)
180 ロープ
186 目印
190 GPS受信機
500 鋼床版の検査システム
532 電磁誘導加熱ユニット(電磁誘導加熱装置)
550 温度測定装置(測定装置)
E 加熱部位(検査部位)
W 測定部位
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼床版の検査方法、及び鋼床版の検査システムに関する。
【背景技術】
【0002】
溶接部位の良否を非破壊で検査する検査方法として、X線透視撮影や超音波断層撮影等による内部観察が知られている。しかしながら、これらの検査方法は、いずれも設備が大規模であり、検査コストが高い。また、これらの検査方法は検査精度に限界があり、一定の大きさよりも小さい欠陥を発見することは困難である。
【0003】
そこで、特許文献1には、検査すべき溶接部位のみを電熱線を有するヒータを当てて局所的に加熱し、赤外線温度検出器で加熱された溶接部位から出る赤外線によって溶接部位近傍の温度分布を測定し、測定結果を予め測定した良品又は不良品の温度分布と比較することで、良否の判定を行なう検査方法が提案されている。
【0004】
また、特許文献2には、溶接された二つの金属製部材の一方を加熱治具で挟持して加熱し、溶接部位を放射温度計により最高温度や温度分布等を測定し、測定した最高温度又は所定温度以上の領域の面積を予め求めておいた比較値と比較し、良否の判定を行なう検査方向が提案されている。
【0005】
なお、ヒータなどを鋼床版に当てて加熱する場合、加熱部位に近いほど高温となる温度分布となるので、温度分布による良否の判定が困難な場合がある。また、検査効率を上げるため加熱部位を大きくすると、高コスト化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平3−60882号公報
【特許文献2】特開2000−131254公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
鋼床版の破断部位又は亀裂部位を容易に高精度に検査することが求められている。
【0008】
本発明は、鋼床版の破断部位又は亀裂部位を容易に高精度に検査することが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明は、鋼床版の検査部位を電磁誘導加熱によって加熱する加熱工程と、前記加熱工程で加熱された前記検査部位の温度分布を測定する測定工程と、測定された前記検査部位の温度分布に基づいて、前記検査部位の破断又は亀裂の有無を判定する判定工程と、を備える。
【0010】
請求項1の発明では、鋼床版の検査部位を電磁誘導加熱で加熱する。加熱された検査部位の温度分布に基づいて、検査部位の破断又は亀裂を判定する。
【0011】
ここで、ヒータなどで鋼床版を加熱した場合、破断部位又は亀裂部位が大きくないと温度分布に大きな違いが発生しない。
【0012】
これに対して電磁誘導加熱は、破断部位又は亀裂部位に電磁誘導による渦電流に乱れが生じるので、破断部位又は亀裂部位の温度分布の変化が大きい。
【0013】
また、電磁誘導によって鋼床版を直接加熱するので(鋼床版自体を発熱させるので)、他の加熱方法と比較し、熱効率が高い。よって、広い範囲を低コストで加熱することができる。
【0014】
このように、電磁誘導加熱で鋼床版を加熱することで、鋼床版の破断部位又は亀裂部位を容易に高精度に検査することができる。
【0015】
請求項2の発明は、前記加熱工程では、前記鋼床版の上面側から電磁誘導加熱し、前記判定工程では、前記鋼床版の上面を構成する鋼床版デッキプレートの下面に溶接接合され前記鋼床版デッキプレートよりも前記電磁誘導加熱されにくい下方側に突出するリブを含む前記検査部位の温度分布に基づいて、前記リブと前記鋼床版デッキプレートとの溶接部位の破断又は亀裂の有無を判定する。
【0016】
請求項2の発明では、鋼床板の上面側から電磁誘加熱すると、電磁誘導によって鋼床版デッキプレートに渦電流が発生し鋼床版デッキプレートが加熱される。
【0017】
しかし、鋼床版デッキプレートの下面に溶接接合されたリブは、鋼床版デッキプレートの電磁シールド作用によって、電磁誘導による渦電流の発生が少ない。また、リブは、上方からの平面視において、渦電流が発生する面積が狭い。よって、リブは鋼床版デッキプレートよりも電磁誘導加熱されにくい。
【0018】
ここで、リブは電磁誘導加熱されにくいが、鋼床版デッキプレートから、リブと鋼床版デッキプレートとの溶接部位を介しての熱伝導によって、リブが加熱される。
【0019】
しかし、溶接部位に破断又は亀裂がある場合、その破断部位又は亀裂部位からはリブに熱伝導されない。これにより、溶接部位に破断又は亀裂がある場合と、破断又は亀裂ない場合とで、検査部位の温度分布に違いが発生する。よって、この温度分布の違いによって、容易に溶接部位の破断又は亀裂を判定することがきる。
【0020】
このように、リブは鋼床版デッキプレートよりも電磁誘導加熱されにくいことを利用し、容易に溶接部位の破断又は亀裂を検査することができる。
【0021】
請求項3の発明は、前記鋼床版の上にはアスファルト舗装体が設けられ、前記加熱工程では、前記アスファルト舗装体の上から、前記鋼床版を電磁誘導加熱し、前記測定工程では、前記鋼床版の下面側から温度分布を測定し、前記検査部位の位置を特定する位置特定工程と、前記位置特定工程によって特定された前記検査部位の位置に基づいて、前記検査部位と前記測定工程における測定位置を対応させる位置対応工程と、を備える。
【0022】
請求項3の発明では、鋼床版の上に設けられたアスファルト舗装体の上から、鋼床版を電磁誘導加熱し、鋼床版の下面側から温度分布を測定して検査する。なお、位置特定工程によって特定された検査部位の位置に基づいて、検査部位と測定位置とを対応させる。よって、アスファルト舗装体を剥がすことなく、鋼床版を検査することができる。
【0023】
請求項4の発明は、前記位置特定工程では、前記鋼床版の上面側からと下面側からの両方から目視にて認識可能な部位に目印をつけて位置を特定する。
【0024】
請求項4の発明では、鋼床版の上面側からと下面側からの両方から目視にて認識可能な目印によって検査部位の位置を特定し、検査部位と測定位置とを対応させる。このように、簡単な方法で検査部位と測定工程における測定位置とを対応させることができる。
【0025】
請求項5の発明は、前記位置特定工程では、前記加熱部位又は前記加熱部位の近傍に設けたGPS受信機を設け位置を特定する。
【0026】
請求項5の発明では、加熱部位又は加熱部位の近傍に設けたGPS受信機によって検査部位の位置を特定し、この検査部位の位置情報に基づいて測定位置を特定する。このように、GPSを利用することで、高精度且つ簡単な方法で検査部位と測定工程における測定位置とを対応させることができる。
【0027】
請求項6の発明は、鋼床版の検査部位を電磁誘導加熱して前記検査部位の温度分布を測定し、測定された前記検査部位の温度分布に基づいて、前記検査部位の破断又は亀裂の有無を判定する鋼床版の検査システムであって、前記鋼床版の前記検査部位を電磁誘導加熱する電磁誘導加熱装置と、前記電磁誘導加熱装置によって加熱された前記鋼床版の前記検査部位の温度分布を測定する測定装置と、を備える鋼床版の検査システム。
【0028】
請求項6の発明では、鋼床版を電磁誘導加熱装置で検査部位を加熱する。加熱された検査部位を測定装置で測定する。そして、測定された温度分布に基づいて、検査部位の破断又は亀裂を判定する。
【0029】
ここで、ヒータなどで鋼床版を加熱した場合、破断部位又は亀裂部位が大きくないと温度分布に大きな違いが発生しない。
【0030】
これに対して電磁誘導加熱は、破断部位又は亀裂部位に電磁誘導による渦電流に乱れが生じるので、破断部位又は亀裂部位の温度分布の変化が大きい。
【0031】
また、電磁誘導によって鋼床版を直接加熱するので(鋼床版自体を発熱させるので)、他の方法と比較し、熱効率が高い。よって、広い範囲を低コストで加熱することができる。
【0032】
更に、電磁誘導装置の出力(コイルに流す電力)を制御することによって、容易に加熱温度を制御することができる。
【0033】
したがって、鋼床版の破断部位又は亀裂部位を容易に高精度に検査することができる。
【発明の効果】
【0034】
請求項1に記載の発明によれば、電磁誘導加熱以外の方法で鋼床版を加熱する方法と比較し、鋼床版の破断部位又は亀裂部位を容易に高精度に検査することができる。
【0035】
請求項2に記載の発明によれば、電磁誘導加熱以外の方法で鋼床版を加熱する方法と比較し、鋼床版の上面を構成する鋼床版デッキプレートの下面とリブとの溶接部位の破断又は亀裂を容易に検査することができる。
【0036】
請求項3に記載の発明によれば、アスファルト舗装体を剥がすことなく、鋼床版を検査することができる。
【0037】
請求項4に記載の発明によれば、簡単な方法で検査部位と測定工程における測定位置とを対応させることができる。
【0038】
請求項5に記載の発明によれば、GPSを利用することで、高精度且つ簡単な方法で検査部位と測定工程における測定位置とを対応させることができる。
【0039】
請求項6に記載の発明によれば、電磁誘導加熱以外の方法で鋼床版を加熱する方法と比較し、鋼床版の破断部位又は亀裂部位を容易に高精度に検査することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の鋼床版の検査システム及び鋼床版の検査方法によって検査を行う鋼床版形式橋梁を一部断面で示す斜視図である。
【図2】本発明の鋼床版の検査システム及び鋼床版の検査方法によって検査を行う鋼床版を下から見た斜視図である。
【図3】図2の要部を拡大した斜視図である。
【図4】(A)は図1に示す図2の鋼床版形式橋梁を構成する鋼床版の幅方向に沿った縦断面を模式的に示す断面図であり、(B)は(A)及び図2、図3のP部近傍の拡大図であり、(C)はP部の拡大図である。
【図5】本発明の第一実施形態に係る鋼床版の検査システムを模式的に示す側面図である。
【図6】電磁誘導コイルユニットを示す、(A)は(B)のA−A線に沿った断面図であり、(B)は平面図である。
【図7】図6の電磁誘導コイルユニットを構成する板材を示す平面図である。
【図8】アスファルト舗装体の剥離を説明する説明図である。
【図9】第一実施形態の検査システム及び検査方法による、(A)は鋼床版デッキプレートの加熱部位を示す斜視図であり、(B)は加熱条件を説明するための説明図である。
【図10】第一実施形態の検査システム及び検査方法による、(A)は測定部位に亀裂が無い場合の温度分布を示し、(B)は10μmの亀裂がある場合の温度分布を示し、(C)は100μmの亀裂がある場合の温度分布を示し、(D)は1000μmの亀裂がある場合の温度測定分布を示す温度分布図である。
【図11】本発明の第二実施形態に係る鋼床版の検査システムを模式的に示す側面図である。
【図12】本発明の第二実施形態に係る鋼床版の検査システムにおける位置特定手段を説明するための正面図である。
【図13】本発明の第二実施形態に係る鋼床版の検査システムにおける位置特定手段を説明するための正面図である。
【図14】第一実施形態の検査システム及び検査方法による、(A)は測定部位に亀裂が無い場合の温度分布を示し、(B)は10μmの亀裂がある場合の温度分布を示し、(C)は100μmの亀裂がある場合の温度分布を示し、(D)は1000μmの亀裂がある場合の温度測定分布を示す温度分布図である。
【図15】本発明の第三実施形態に係る鋼床版の検査システムを模式的に示す側面図である。
【図16】(A)は本発明の第四実施形態に係る鋼床版の検査システム及び検査方法による渦電流の分布状態を模式的に示す説明であり、(B)は電磁誘導コイルの配置を模式的に説明する図である。
【図17】鋼床版デッキプレートに亀裂が無い状態の温度分布を示す温度分布図である。
【図18】鋼床版デッキプレートに亀裂が有る状態の温度分布を示す温度分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
<第一実施形態>
図1〜図10を用いて、本発明の第一実施形態に係る鋼床版の検査システム及び鋼床版の検査方法について説明する。
【0042】
[鋼床版形式橋梁]
図1には、都市内橋梁の代表的形式である鋼床版形式橋梁(高架橋)10が示されている。なお、各図において、車両Sの走行する方向を矢印Xで示し、道路の幅方向を矢印Yで示す。また、鉛直方向を矢印Zで示す。
【0043】
鋼床版形式橋梁10の鋼床版100の上面を構成する鋼床版デッキプレート110の上にアスファルト舗装体120が設けられている。なお、本実施形態においては、アスファルト舗装体120は、厚さ35mmのグースアスファルト124と厚さ40mmのアスファルトコンクリート122がこの順に積層されて構成されている(図8も参照)。
【0044】
図1〜図4に示すように、鋼床版100を構成する鋼床版デッキプレート110の下面110Aには、横リブ130とUリブ140とが溶接接合されている。
【0045】
横リブ130は、幅方向(Y方向)を長手方向として配置されるとともに、走行方向(X方向)に間隔をあけて複数接合されている。
【0046】
Uリブ140は下方側に突出し、幅方向に沿った縦断面が、上方側を開口側として配置されたU字状(溝状)とされている。また、走行方向を長手方向として配置され、且つ幅方向に平行に並んで複数設けられている。
【0047】
そして、図3、図4(B)、図4(C)に示すように、鋼床版デッキプレート110の下面110AとUリブ140の上端部140Aとの接合部位の外側に走行方向に沿って溶接ビード部(溶接痕の盛り上がり)142が形成されている。
【0048】
[鋼床版の検査システム]
図5に示す鋼床版の検査システム500は、鋼床版100を構成する鋼床版デッキプレート110の上から電磁誘導加熱を行い、加熱された検査部位の温度分布に基づいて、破断又は亀裂の有無を測定するシステムとされている。なお、本実施形態では、Uリブ140の接合部位を含む領域(検査部位)を加熱し、加熱された検査部位の温度分布に基づいて、Uリブ140と鋼床版デッキプレート110との溶接部位に形成された溶接ビード部142の破断又は亀裂(図4(C)の亀裂145を参照)の有無を判定する目的で主に使用される
【0049】
図5に示すように、鋼床版の検査システム500は、電磁誘導コイルユニット532と温度測定装置550とを有している。
【0050】
ダンプトラック502の荷台504の後部には、下方に突出する支柱506が固定されている。電磁誘導コイルユニット532は、この支柱506に牽引ワイヤー508によって繋がれ牽引される(電磁誘導コイルユニット532は、ダンプトラック50に牽引される)。なお、牽引方向(ダンプトラック502の前進方向)を矢印Kで示す。
【0051】
図6(B)の電磁誘導コイルユニット532の平面図に示すように、FRP製の箱状のフレーム部材534内の後方には3つの電磁誘導コイル536が等間隔で横方向に並べられ、前方には2つの電磁誘導コイル536が後方の電磁誘導コイル536の配置に対して、略コイル半分の距離をずらして幅方向に並べられている。
【0052】
図6(B)のA−A断面図である図6(A)に示すように、フレーム部材534の底部534A上には、複数の電磁誘導コイル536が固定されている。フレーム部材534の底部534Aは、電磁誘導コイル536のカバー部材として役割を兼ねており、使用時の電磁誘導コイル536の損傷を防止する。
【0053】
なお、固定方法はこれに限定されない。例えば、別の固定方法として、フレーム部材534の対向する内壁間を橋渡しするように設けられた水平材の下面に、フェライト538及び電磁誘導コイル536の保持部材を設けて、フェライト538及び電磁誘導コイル536を水平材に固定してもよい。
【0054】
電磁誘導コイル536の上面には、フェライト538が電磁誘導コイル536の中心に対して放射状に置かれている。
【0055】
なお、本実施形態においては、フェライト538が電磁誘導コイル536の上面を部分的に覆うようにしたが、電磁誘導コイル536の上面、内周面、及び外周面の少なくとも1つの面を部分的に覆ったり、電磁誘導コイル536の上面、内周面、及び外周面の少なくとも1つの面の全部を覆ったりするようにしてもよい。
【0056】
また、図6(B)に示すように、本実施形態においては、電磁誘導コイル536の外形は、平面視において略円形とされている。
【0057】
図7の平面図に示すように、フレーム部材534の鉛直方向の中間層には、フェライト538と略同じ厚さの板材540が略水平に設けられている。板材540には、フェライト538の水平方向の移動を拘束する切抜き部541が形成されている。よって、切抜き部541にフェライト538を置くことによって、所定の位置からフェライト538が水平方向に動くことが防止される。
【0058】
図6(A)に示すように、フレーム部材534の天井部534Bは、取外し可能なFRP製のカバーになっている。これにより、電磁誘導コイル536が高温状態のとき、作業員等がこの電磁誘導コイル536に触れることを防止するとともに、フレーム部材534の外部への放熱を促進することができる。また、天井部534Bを取外すことによって、電磁誘導コイル536のメンテナンスを容易に行うことができる。
【0059】
図6(B)に示すように、フレーム部材534の四隅付近には、車輪544が設けられている。また、電磁誘導コイルユニット532は、幅方向及び進行方向に複数連結可能とされている。
【0060】
なお、フレーム部材534の材料をFRPとしたが、これに限定されない。絶縁性を有し、電磁誘導コイル536及びフェライト538の設置が可能な、箱体としての十分な剛性を確保できる材料であればよく、例えば、合成樹脂パネル材等を用いてもよい。
【0061】
また、図6(A)に示すように、本実施形態においては、補強材543、545によってフレーム部材534の剛性を更に高めている。なお、フレーム部材534の天井部534Bは、絶縁性を有し、熱伝導率の大きい材料を用いることが好ましい。なお、説明の都合上、図6(B)には、天井部534B、板材540、補強材543等の図示が省略されている。
【0062】
図5に示すように、ダンプトラック502の荷台504には、電気ケーブル558を介して電磁誘導コイル536に高周波電力を供給する高周波電力発生装置546と、この高周波電力発生装置546の電源となる発電機548と、が搭載されている。
【0063】
また、鋼床版100の測定部位W(正確には加熱された直後、詳細は後述する)の温度分布を測定する温度測定装置550は、鋼床版100の上方に配置されている。
【0064】
本実施形態では、温度測定装置550は、赤外線サーグラフィ(ビューアー)装置を用いている。赤外線サーモグラフィ装置は、測定部位(対象物)から出ている赤外線放射エネルギーを検出して可視化し、温度測定・温度計測・温度分布等の画像表示を行なう装置とされている。
【0065】
[鋼床版の検査方法]
図4に示すように、車両Sが走行する際の鋼床版デッキプレート110の変形等に起因し、溶接ビード部142が疲労し亀裂145(図4(C)参照)が発生することがある。よって、本実施形態では、この亀裂145を発見する検査方法について説明する(図2〜図4に示すP部も参照)。
【0066】
なお、本実施形態では、アスファルト舗装体120を剥離してから検査を行なう。よって、最初にアスファルト舗装体120の剥離手順について説明する。
【0067】
図8に示すように、アスファルト舗装体120上に電磁誘導コイルユニット532を載せて、ダンプトラック502で牽引する。なお、この電磁誘導コイルユニット532は、検査システム500の電磁誘導コイルユニット532と同じものである。
【0068】
牽引されている電磁誘導コイルユニット532の電磁誘導コイル536(図6参照)に高周波電力発生装置546から電気ケーブル558を介して高周波電力を供給する。これにより、電磁誘導コイルユニット532下方に位置する鋼床版デッキプレート110に電磁誘導による渦電流が発生し、鋼床版デッキプレート110が有する電気抵抗により発熱する。
【0069】
発熱した(加熱された)鋼床版デッキプレート110の上の、アスファルト舗装体120の下層を構成するグースアスファルト124の下面が溶融し、溶融層(図示略)が形成される。
【0070】
加熱開始と共に、ダンプトラック502を前進させて電磁誘導コイルユニット532を牽引し徐々に移動させる。
【0071】
アスファルト舗装体120の下層を構成するグースアスファルト124の下面の溶融層(図示略)に、バックホー564のリッパー560を挿入して、鋼床版デッキプレート110からアスファルト舗装体120を剥がす。
【0072】
つぎに、図5に示すように、アスファルト舗装体120が剥され剥き出しとなった鋼床版デッキプレート110の上面110Bに電磁誘導コイルユニット532を載せて、ダンプトラック502で牽引する。なお、前述したように、この電磁誘導コイルユニット532は、アスファルト舗装体120の剥離工程で使用した電磁誘導コイルユニット532と同じものである。
【0073】
牽引されている電磁誘導コイルユニット532の電磁誘導コイル536(図6参照)に高周波電力発生装置546から電気ケーブル558を介して高周波電力を供給すると、電磁誘導コイルユニット532の下方に位置する鋼床版デッキプレート110に電磁誘導による渦電流が発生し、鋼床版デッキプレート110が有する電気抵抗により発熱する。
【0074】
電磁誘導コイル536(図6参照)によって加熱された加熱部位E(図9も参照)は、Uリブ140の上端部140Aが溶接接合された部位の直上である(図2〜図4のP部参照)。
【0075】
そして、電磁誘導コイルユニット532が牽引され移動すると、温度測定装置550で鋼床版デッキプレート110の電磁誘導加熱された加熱部位Eの温度分布を測定する。
【0076】
よって、本実施形態では、正確には加熱されている状態の鋼床版デッキプレート110の上面110Bの温度分布を測定するのではなく、加熱直後の、冷却されつつある鋼床版デッキプレート110の上面110Bの温度分布を測定することになる。
【0077】
なお、本実施形態の加熱条件は以下である。なお、この条件は一例であって各種条件によって変わることは言うまでもない。
【0078】
発熱領域:直径450mm
Q1=0.6kw
Q2=5.3kw
【0079】
つぎに、温度分布による亀裂145(図4(C)参照)の有無の検査方法(亀裂145の発見方法)について説明する。
鋼床版デッキプレート110を電磁誘導加熱すると、鋼床版デッキプレート110が磁気シールド層として機能することと、Uリブ140の鋼床版デッキプレート110の近傍部が電磁誘導コイル536に対して概ね垂直であるため面積が狭いこと、とにより、Uリブ140は鋼床版デッキプレート110よりも電磁誘導加熱されにくい。
【0080】
Uリブ140の溶接ビード部142(図4(B)、図4(C)参照)に破断や亀裂145がない場合は、鋼床版デッキプレート110の熱がUリブ140に伝達されるため、Uリブ140の温度も上昇する。しかし、破断や亀裂145がある場合は、鋼床版デッキプレート110の熱は、破断や亀裂145した箇所からは、Uリブ140に伝達されない。
【0081】
本実施形態においては、鋼床版デッキプレート110は略円形の電磁誘導コイル536で電磁誘導加熱を行なうので、鋼床版デッキプレート110は略円形状に温度が上昇する(図9(B)を参照)。しかし、溶接接合されたUリブ140に熱が伝達されるため、鋼床版デッキプレート110におけるUリブ140の接合部位の温度が低下する。
【0082】
しかし、破断や亀裂145がある場合は、鋼床版デッキプレート110の熱は、破断や亀裂145した箇所からはUリブ140に伝達されないので、その部位の温度低下が小さくなる(又は温度低下しない)。
【0083】
ここで、図10は、鋼床版デッキプレート110の上面110Bにおける亀裂145(図4(C)参照)の有無及び亀裂145の大きさによる温度分布の違いを示している。なお、ドットが密であるほど(濃いほど)温度が高いことを示している。
【0084】
そして、図10(A)は、亀裂145が無い場合の温度分布である。図10(B)は10μmの亀裂145がある場合、図10(C)は100μmの亀裂145がある場合、図10(D)は1000μmの亀裂145がある場合の温度測定分布を示している。なお、亀裂145の有無及び大きさによる温度分布状態の違いは、図中のR1部を参照。
【0085】
これを見ると判るように、亀裂145のない図10(A)は、溶接接合されたUリブ140に熱が伝達されるため、溶接部位の温度が低下しているのが判る。
【0086】
これに対して、亀裂145がある場合は、亀裂145から熱が伝達されないので、温度低下してないことがわかる。また、亀裂145の大きさによって温度分布形状が異なるので、亀裂145の大きさも判る。
【0087】
なお、本検査例では、亀裂145の大きさが100μm以上であれば、確実に発見できる。また、亀裂145の大きさが10μmであっても、精度は低下するが発見可能である。
【0088】
[作用及び効果]
つぎに本実施形態の作用及び効果について説明する。
ここまで説明したように、本実施形態では、鋼床版の検査部位を電磁誘導加熱で加熱し、検査部位の温度分布に基づいて、検査部位の破断又は亀裂の有無を検査する。
【0089】
このように、電磁誘導によって鋼床版デッキプレート110を直接加熱するので(鋼床版デッキプレート110自体を発熱させるので)、他の加熱方法と比較し、熱効率が高い。よって、広い範囲を低コストで加熱することができる。
【0090】
また、鋼床版デッキプレート110の下面110Aに溶接接合されたUリブ140は、鋼床版デッキプレート110の電磁シールド作用によって、電磁誘導による渦電流の発生が少ない。また、Uリブ140は、上方からの平面視において、渦電流が発生する面積が狭い。よって、Uリブ140は鋼床版デッキプレート110よりも電磁誘導加熱されにくい。
【0091】
このようにUリブ140は電磁誘導加熱されにくいが、鋼床版デッキプレート110から、Uリブ140と鋼床版デッキプレート110との溶接部位(溶接ビード部142)を介しての熱伝導によって、加熱される。
【0092】
しかし、溶接ビード部142に破断や亀裂145がある場合、その破断又は亀裂145の箇所からはUリブ140に熱が伝導されない。これにより、溶接ビード部142に破断又は亀裂145がある場合と、破断又は亀裂145ない場合と、で測定部位Wの温度分布に違いが発生する(図10を参照)。よって、この温度分布の違いによって、容易に溶接ビード部142の破断又は亀裂145を発見することがきる。
【0093】
このように、Uリブ140は鋼床版デッキプレート110よりも電磁誘導加熱されにくいことを利用し、容易に溶接ビード部142の破断又は亀裂145を検査(発見)することができる。つまり、従来よりも高精度且つ簡単に破断又は亀裂箇所を特定することができる。
【0094】
更に、電磁誘導コイルユニット532の出力(電磁誘導コイル536に流す電力)を制御することによって、容易に加熱温度を制御することができる。
【0095】
「その他」
なお、本実施形態では、温度分布の画像を見て破断又は亀裂145の有無を判断したが、これに限定されない。
例えば、予め測定又はコンピュータシミュレーションなど破断又は亀裂のない状態(或いは、破断又は亀裂のある状態)の温度分布と測定結果とを比較することで、良否の判定を行なってもよい。
【0096】
また、本実施形態では、Uリブ140の接合部位の破断又は亀裂を検査したが、これに限定されない。横リブ130(図1など参照)の接合部位の破断又は亀裂の検査も同様に行なうことができる。
【0097】
<第二実施形態>
図11〜図14を用いて、本発明の第二実施形態に係る鋼床版の検査システム及び鋼床版の検査方法について説明する。なお、第二実施形態と同一の部材には、同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0098】
[鋼床版の検査システム]
図11に示すように、電磁誘導コイルユニット532及び温度測定装置550等は第一実施形態と同様とされている。
【0099】
第一実施形形態では、鋼床版デッキプレート110の上側に温度測定装置550が配置されていた(図5参照)。これに対して本実施形態では、図11に示すように温度測定装置550は、鋼床版デッキプレート110の下方に配置されている。
【0100】
また、本実施形態の場合は、測定者は、電磁誘導コイルユニット532で加熱している加熱部位Eが見えないので、加熱部位Eの位置情報を測定者に伝達させる必要がある。
【0101】
つまり、加熱部位Eの位置を特定し、特定された加熱部位Eの位置情報に基づいて、測定部位Wを特定する必要がある。
【0102】
よって、つぎに、加熱部位Eの位置を特定し、特定された加熱部位Eの位置情報に基づいて、測定部位Wを特定する位置特定手段(位置特定方法)について説明する。
【0103】
図11と図12とに示すように、本実施形態では、測定者とは別の作業者が加熱部位Eに対応する路側壁115からマーカー182をロープ180で吊り下げ、測定者はこのマーカー182の位置を見て,加熱部位Eを特定する。なお、本実施形態のように、複数本のUリブ140が接合されている場合は作業開始時に、何番目のUリブ140を加熱するのかを、予め口頭等で伝達しておけばよい。
【0104】
或いは、マーカー182に何番目のUリブ140を加熱中であるかを記載してもよい。(図では3番目であることを示す「3」が、一例として図示されている)
【0105】
また、マーカー182に、発光機能、例えば、LEDランプなどを内蔵し、夜間でも目視しやすくしてもよい。
【0106】
また、マーカー182の発光色が変化するように構成し、発光色の違い(変化)によって、加熱状態や待機状態等の作業のフェーズを示すようにしてもよい。
【0107】
また、マーカー182に送信機を組み込み、作業映像や作業フェーズ等の各種情報を電波で鋼床版100の下の測定者に送信し、測定者は受信装置で情報を受信して、状況の把握ができるようにしてもよい。
【0108】
また、マーカー182は、作業者による手作業による付け替え方式以外の方法、例えば車からのロボットアーム等によって移動してもよい。
【0109】
なお、位置特定手段(位置特定方法)は、この手段(方法)に特定されない。
例えば、図13に示すように、一般的には、鋼床版100は単位構造の繰り返しであるため、繰り返し構造の周期と開始位置が判る目印186を路側壁115に付けておき、この目印186を基準に,Uリブ140の位置を推定してもよい。
【0110】
なお、繰り返し構造でない特別の場所では、目印186に番号やバーコードをプリントしておけば、その番号を頼りに、特定部位を特定することが可能である。なお、目印186以外、例えば、RFID(Radio Frequency IDentification)等を用いてもよい。
【0111】
或いは、図11に示すように、電磁誘導コイルユニット532の上にGPS受信機190を設けて位置を特定し、その特定された位置情報を送信し、測定者がその位置情報を受信機で受信することで、測定部位Wを特定するようにしてもよい。
【0112】
なお、GPS受信機190の位置情報に基づいて、測定位置を特定する方法は、どのような方法であってもよい。例えば、設計図面を参照して対応させてもよいし、測定者もGPS受信機190をもって位置情報を得るようにしてもよい。
【0113】
[鋼床版の検査方法]
本実施形態においても、アスファルト舗装体120を剥離してから検査を行なう。アスファルト舗装体120の剥離手順及び方法は、第一実施形態と同様であるので、説明を省略する。
【0114】
図11に示すように、ダンプトラック502によって牽引されている電磁誘導コイルユニット532の電磁誘導コイル536に高周波電力発生装置546から電気ケーブル58を介して高周波電力を供給し、鋼床版デッキプレート110を電磁誘導加熱する。
【0115】
そして、温度測定装置550で、鋼床版デッキプレート110によって電磁誘導加熱された加熱部位E、すなわち測定部位Wの温度分布を測定する。
【0116】
つぎに、温度分布による亀裂の有無の検査方法(亀裂の発見方法)について説明する。
第一実施形態で説明したように、Uリブ140は鋼床版デッキプレート110よりも電磁誘導加熱されにくい。しかし、鋼床版デッキプレート110の熱がUリブ140に伝達されるため、Uリブ140の温度も上昇する。しかし、溶接ビード部142に破断や亀裂145(図4(C)参照)がある場合は、鋼床版デッキプレート110の熱は、Uリブ140で伝達されない。
【0117】
ここで、図14は、亀裂145(図4(C)参照)の有無及び亀裂145の大きさによる温度分布の違いを示している。なお、ドットが密であるほど(濃いほど)温度が高いことを示している。そして、図14(A)は、亀裂145が無い場合の温度分布である。図10(B)は10μmの亀裂145がある場合、図14(C)は100μmの亀裂145がある場合、図14(D)は1000μmの亀裂145がある場合の温度測定分布を示している。なお、亀裂145の有無及び大きさによる温度分布状態の違いは、図中のR2部を参照。
【0118】
これを見ると判るように、亀裂145のない図14(A)は、溶接接合されたUリブ140に熱が伝達されるため、Uリブ140の温度が上昇しているのが判る。
【0119】
これに対して、亀裂145がある場合は、亀裂145の部位から熱が伝達されないので、Uリブ140が温度上昇してないことがわかる。また、亀裂145の大きさによって温度分布が異なるので、亀裂145の大きさの程度も判る。
【0120】
なお、本検査例では、亀裂145の大きさが100μm以上であれば、確実に発見できる。また、亀裂145の大きさが10μmであっても、精度は低下するが発見可能である。
【0121】
[作用及び効果]
つぎに本実施形態の作用及び効果について説明する。第一実施形態と同様に本実施形態においても、電磁誘導によって鋼床版デッキプレート110を直接加熱するので(鋼床版デッキプレート110自体を発熱させるので)、他の加熱方法と比較し、熱効率が高い。よって、広い範囲を低コストで加熱することができる。
【0122】
また、Uリブ140が鋼床版デッキプレート110よりも電磁誘導加熱されにくいことを利用し、容易に溶接部位の破断又は亀裂を検査することができる。つまり、従来よりも高精度且つ簡単に破断又は亀裂箇所を特定することができる。
【0123】
また、第一実施形態では、加熱された直後の温度分布を測定した。これに対して、本実施形態では加熱部位Eが加熱された状態で、加熱部位E(測定部位W)の温度分布を測定することができるので、より高精度に破断又は亀裂箇所を特定することができる。
【0124】
<第三実施形態>
図15を用いて、本発明の第三実施形態に係る鋼床版の検査システム及び鋼床版の検査方法について説明する。なお、第一実施形態及び第二実施形態と同一の部材には、同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0125】
[鋼床版の検査システム]
第二実実施形形態と同様に、本実施形態においても、図15に示すように温度測定装置550が、鋼床版デッキプレート110の下方に配置されている。
【0126】
また、第二実施形態と同様の方法で、電磁誘導コイルユニット532で加熱している部位が、測定者に特定できるようにする。
【0127】
[鋼床版の検査方法]
本実施形態においては、アスファルト舗装体120の剥離を行なわないで、アスファルト舗装体120の上から、鋼床版デッキプレート110の電磁誘導加熱を行なう。
【0128】
そして、第二実施形態と同様に、温度測定装置550で、鋼床版デッキプレート110の電磁誘導加熱された加熱部位Eの温度分布を測定する。
【0129】
温度分布による亀裂の有無の検査方法(亀裂の発見方法)は、第二実施形態と同様であるので説明を省略する。
【0130】
[作用及び効果]
つぎに本実施形態の作用及び効果について説明する。本実施形態では、アスファルト舗装体120を剥がすことなく、アスファルト舗装体120の上から亀裂145を発見することができる。
【0131】
なお、電磁誘導加熱は、鋼床版デッキプレート110をアスファルト舗装体120の上から加熱することができる。しかし、他の加熱方法、例えば、ヒータによる加熱方式では、鋼床版デッキプレート110をアスファルト舗装体120上から加熱することはできない。
【0132】
<第四実施形態>
図16〜図18を用いて、本発明の第四実施形態に係る鋼床版の検査システム及び鋼床版の検査方法について説明する。なお、第一実施形態〜第三実施形態と同一の部材には、同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0133】
[鋼床版の検査システム]
本実施形態では、Uリブ140や横リブ130(図1参照)の接合部位でなく、鋼床版デッキプレート110の亀裂210(図18を参照)を発見する。
【0134】
なお、本実施形態の鋼床版の検査システム500の構成は、第一実施形態と同様であるので、説明を省略する。
また、図16〜図18は、判りやすく説明するために、電磁誘導コイル536(図6参照)は模式的に図示されている。また、図17と図18は、温度が高い部位ほどドットが密に(濃く)図示されている。
【0135】
[鋼床版の検査方法]
図16(B)に示すように、電磁誘導コイル536が鋼床版デッキプレート110の上に配置されると、図16(A)に示すように、鋼床版デッキプレート110に電磁誘導による渦電流Gが発生し、鋼床版デッキプレート110が発熱する。
鋼床版デッキプレート110に亀裂などが無い場合は、図17に示すように電磁誘導コイル536の直下を中心に加熱され略同心円状の温度分布を示す。
【0136】
しかし、図18に示すように、鋼床版デッキプレート110に亀裂210が有ると渦電流G(図16参照)に乱れが発生し、亀裂210の部位の鋼床版デッキプレート110は発熱しない。これにより、略同心円状だった温度分布に乱れが生じ、亀裂210を発見することができる(図17と図18とを比較参照)。
【0137】
なお、本実施形態は、第一実施形態から第三実施形態と、検査部位と判定方法が異なるだけで、同様の検査方法を適用することができる
【0138】
[作用及び効果]
つぎに本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0139】
ヒータなどで鋼床版デッキプレート110を加熱した場合、温度上昇されないのは亀裂部位210部分のみであり、亀裂210の周囲は加熱され温度上昇する。よって、亀裂210部位が大きくないと温度分布に大きな違いが発生しない。
【0140】
これに対して電磁誘導加熱は、亀裂210の部位に電磁誘導による渦電流Gに乱れが生じ加熱されないので、温度分布の変化が大きい(図16と図17とを比較参照)。よって、鋼床版デッキプレート110の亀裂210を容易に高精度に検査することができる。
【0141】
<その他>
尚、本発明は上記実施形態に限定されない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる態様で実施し得ることは言うまでもない。
【0142】
例えば、上記実施形態では、橋梁の鋼床版デッキプレート上にアスファルト舗装が設けられた道路に対して本発明を適用したが、これに限定されない。電磁誘導コイルの渦電流を流すことが可能な鋼床版が設けられた構造物に広く適用することができる。
【符号の説明】
【0143】
100 鋼床版
110 鋼床版デッキプレート
110A 下面
120 アスファルト舗装体
130 横リブ(リブ)
140 Uリブ(リブ)
145 亀裂
182 マーカー(目印)
180 ロープ
186 目印
190 GPS受信機
500 鋼床版の検査システム
532 電磁誘導加熱ユニット(電磁誘導加熱装置)
550 温度測定装置(測定装置)
E 加熱部位(検査部位)
W 測定部位
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼床版の検査部位を電磁誘導加熱によって加熱する加熱工程と、
前記加熱工程で加熱された前記検査部位の温度分布を測定する測定工程と、
測定された前記検査部位の温度分布に基づいて、前記検査部位の破断又は亀裂の有無を判定する判定工程と、
を備える鋼床版の検査方法。
【請求項2】
前記加熱工程では、前記鋼床版の上面側から電磁誘導加熱し、
前記判定工程では、前記鋼床版の上面を構成する鋼床版デッキプレートの下面に溶接接合され前記鋼床版デッキプレートよりも前記電磁誘導加熱されにくい下方側に突出するリブを含む前記検査部位の温度分布に基づいて、前記リブと前記鋼床版デッキプレートとの溶接部位の破断又は亀裂の有無を判定する、
を請求項1に記載の鋼床版の検査方法。
【請求項3】
前記鋼床版の上にはアスファルト舗装体が設けられ、
前記加熱工程では、前記アスファルト舗装体の上から、前記鋼床版を電磁誘導加熱し、
前記測定工程では、前記鋼床版の下面側から温度分布を測定し、
前記検査部位の位置を特定する位置特定工程と、
前記位置特定工程によって特定された前記検査部位の位置に基づいて、前記検査部位と前記測定工程における測定位置とを対応させる位置対応工程と、
を備える、
請求項1又は請求項2に記載の鋼床版の検査方法。
【請求項4】
前記位置特定工程では、前記鋼床版の上面側からと下面側からの両方から目視にて認識可能な部位に目印を付けて位置を特定する、
請求項3に記載の鋼床版の検査方法。
【請求項5】
前記位置特定工程では、前記検査部位又は前記検査部位の近傍に設けたGPS受信機を設け位置を特定する、
請求項3に記載の鋼床版の検査方法。
【請求項6】
鋼床版の検査部位を電磁誘導加熱して前記検査部位の温度分布を測定し、測定された前記検査部位の温度分布に基づいて、前記検査部位の破断又は亀裂の有無を判定する鋼床版の検査システムであって、
前記鋼床版の前記検査部位を電磁誘導加熱する電磁誘導加熱装置と、
前記電磁誘導加熱装置によって加熱された前記鋼床版の前記検査部位の温度分布を測定する測定装置と、
を備える鋼床版の検査システム。
【請求項1】
鋼床版の検査部位を電磁誘導加熱によって加熱する加熱工程と、
前記加熱工程で加熱された前記検査部位の温度分布を測定する測定工程と、
測定された前記検査部位の温度分布に基づいて、前記検査部位の破断又は亀裂の有無を判定する判定工程と、
を備える鋼床版の検査方法。
【請求項2】
前記加熱工程では、前記鋼床版の上面側から電磁誘導加熱し、
前記判定工程では、前記鋼床版の上面を構成する鋼床版デッキプレートの下面に溶接接合され前記鋼床版デッキプレートよりも前記電磁誘導加熱されにくい下方側に突出するリブを含む前記検査部位の温度分布に基づいて、前記リブと前記鋼床版デッキプレートとの溶接部位の破断又は亀裂の有無を判定する、
を請求項1に記載の鋼床版の検査方法。
【請求項3】
前記鋼床版の上にはアスファルト舗装体が設けられ、
前記加熱工程では、前記アスファルト舗装体の上から、前記鋼床版を電磁誘導加熱し、
前記測定工程では、前記鋼床版の下面側から温度分布を測定し、
前記検査部位の位置を特定する位置特定工程と、
前記位置特定工程によって特定された前記検査部位の位置に基づいて、前記検査部位と前記測定工程における測定位置とを対応させる位置対応工程と、
を備える、
請求項1又は請求項2に記載の鋼床版の検査方法。
【請求項4】
前記位置特定工程では、前記鋼床版の上面側からと下面側からの両方から目視にて認識可能な部位に目印を付けて位置を特定する、
請求項3に記載の鋼床版の検査方法。
【請求項5】
前記位置特定工程では、前記検査部位又は前記検査部位の近傍に設けたGPS受信機を設け位置を特定する、
請求項3に記載の鋼床版の検査方法。
【請求項6】
鋼床版の検査部位を電磁誘導加熱して前記検査部位の温度分布を測定し、測定された前記検査部位の温度分布に基づいて、前記検査部位の破断又は亀裂の有無を判定する鋼床版の検査システムであって、
前記鋼床版の前記検査部位を電磁誘導加熱する電磁誘導加熱装置と、
前記電磁誘導加熱装置によって加熱された前記鋼床版の前記検査部位の温度分布を測定する測定装置と、
を備える鋼床版の検査システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2011−242362(P2011−242362A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−117022(P2010−117022)
【出願日】平成22年5月21日(2010.5.21)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【出願人】(592182698)株式会社竹中道路 (14)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月21日(2010.5.21)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【出願人】(592182698)株式会社竹中道路 (14)
【Fターム(参考)】
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