説明

鋼床版の溶接部の補修方法及び補修装置

【課題】時間及びコストが掛からない鋼床版の溶接部の補修方法及び補修装置を提供する。
【解決手段】デッキプレート2と閉断面リブ3とが該閉断面リブ3の外側3aからのみ片側溶接されている鋼床版1の溶接部4の補修方法であって、前記溶接部4及びその周辺部を、前記閉断面リブの内側3bからTIGにより溶融して補修することを特徴とする、鋼床版の溶接部の補修方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋梁や高架道路を構成する鋼床版の補修方法及び補修装置に関する。詳細に言えば、デッキプレート(床板)と閉断面リブとからなる鋼床版において、デッキプレートと閉断面リブとの溶接部及びその周辺部を、溶融によって補修する方法及び装置に関する。更に詳細に言えば、補修予定の鋼床版は、デッキプレートと閉断面リブとが閉断面リブの外側からのみ片側溶接されているものに限定される。
【背景技術】
【0002】
従来より、橋梁の床版構造の一つとして、デッキプレートと、これを補剛する閉断面リブとからなる鋼床版が使用されている。図3は、鋼床版を使用した道路橋Bの一部を示すものである。道路橋Bは、鋼床版の下方に主桁や横桁や横リブ等を一体に備えるとともに、鋼床版の上方に舗装Pや高欄を一体に備えて構成されている。図4は、このような鋼床版1の基本的な構造を示したものであって、本図において、2はデッキプレート、3は閉断面リブ、4はデッキプレート2と閉断面リブ3との溶接部を示している。また、図6は、図4の溶接部4付近の拡大図である。
【0003】
デッキプレート2と閉断面リブ3との溶接は、デッキプレート2と閉断面リブとが閉断面リブの外側3aからのみ片側溶接されている。すなわち、閉断面リブの内側3bからは溶接されていない。これは、溶接の容易さに起因しており、閉断面リブの内側3bからの溶接は人による溶接が困難なためである。そして、閉断面リブ3の内側の溶接ルート部4aにはデッキプレート2と閉断面リブ3の端面3cとの間の空隙5が形成された未溶着部が存在している。この空隙5は構造部材の切り欠き効果をもたらし、鋼床版1の応力集中部を形成するとともに溶接欠陥も生じやすくなり、以下に述べる溶接部亀裂の要因となる。なお、本明細書において、「溶接ルート部」とは、溶接開始箇所より奥の場所を言う。
【0004】
このような鋼床版1は、施工から相当の年数が経過すると、図6に示すように、溶接部4において、亀裂Cが、閉断面リブ3の長手方向(図6の紙面を垂直に貫通する方向)に沿って発生する場合がある。このような亀裂Cを放置しておくと、溶接部4が分断されて、閉断面リブ3がデッキプレート2から脱離し、鋼床版1全体の強度が低下してしまうという問題がある。
【0005】
また、溶接部4において、亀裂Dが発生することもある。亀裂Dがデッキプレート2の舗装P側にまで達し、鋼床版1の崩壊を招いてしまうおそれもある。そのため、このような鋼床版1においては、亀裂C、Dの拡大を防止し、鋼床版1の強度を確保するための措置を採ることが必要とされている。
【0006】
この措置として提案された補修方法として、特許文献1に記載された方法があり、これは図7に示すものである。すなわち、補修予定部Rと、補修予定部Rに隣接している閉断面リブの側壁3sとを除去することによって、補修予定部Rに隣接している部分のデッキプレート2と、補修予定部Rに隣接している部分の側壁3sとの間に、開先部Eを形成してから、溶接用の裏当て材7を、開先部Eに側壁3sの内側(図中左側)から固定した後、開先部Eを、側壁3sの外側(図中右側)から溶接する。
【0007】
この補修方法は、閉断面リブの外側において開先部を形成し、そこを溶接するようにしているので、デッキプレートと閉断面リブとの間に、未溶着部のない溶接を行うことができる。そのため、鋼床版において充分な強度を確保して、接合部を補修することができる。そして、この補修方法は、開先部を形成する際に、デッキプレートと閉断面リブとの間の接合部を除去するので、当該補修方法の実施時において、デッキプレートの裏面を観察することができる。そのため、デッキプレートにまで亀裂が達している場合に、当該亀裂の発見及び状況の確認を行うことも可能であるとしている。
【0008】
しかしながら、この補修方法は、現場において補修予定部Rと、補修予定部Rに隣接している閉断面リブの側壁3sとを除去すること、溶接用の裏当て材7を閉断面リブ内側から固定すること、補強部材を除去しなかった閉断面リブへ固定すること等が必要となるため、工事に要する時間が掛かり通行止めや車線規制等を行う必要があり、工事自体の費用も大きい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−197962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、時間及びコストが掛からない鋼床版の溶接部の補修方法及び補修装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に記載の発明によれば、鋼床版の溶接部の補修方法は、
デッキプレート(2)と閉断面リブ(3)とが該閉断面リブ(3)の外側(3a)からのみ片側溶接されている鋼床版(1)の溶接部(4)の補修方法であって、
前記溶接部(4)及びその周辺部を、前記閉断面リブの内側(3b)からTIGにより溶融して補修することを特徴とする。
単に、閉断面リブの内側(3b)からTIGにより溶接部及びその周辺部を溶融することにより、溶接部を補修することが可能となる。これにより、時間及びコストが掛からない鋼床版の溶接部の補修方法を提供することが可能となる。
【0012】
請求項2に記載の発明によれば、鋼床版の溶接部の補修方法は、補修される前記溶接部(4)の溶接ルート部(4a)には前記デッキプレート(2)と前記閉断面リブ(3)の端面(3c)との間の空隙(5)が形成された未溶着部が存在しており、
前記溶接部(4)及びその周辺部の溶融により前記溶接部(4)及びその周辺部が前記空隙(5)内に進入して前記溶接ルート部(4a)に溶着部(6)を形成することを特徴とする。
補修対象となる鋼床版の溶接部及びその周辺部を限定し、更に、溶融による溶接部及びその周辺部の補修前後の形態を明確にしたものである。溶接ルート部近傍に存在する空隙が無くなるため、応力集中部が無くなり、疲労強度が向上する。
【0013】
請求項3に記載の発明によれば、鋼床版の溶接部の補修装置は、デッキプレート(2)と閉断面リブ(3)とが閉断面リブの外側(3a)からのみ片側溶接されている鋼床版(1)の溶接部(4)の補修装置(10)であって、請求項1又は2に記載の鋼床版の溶接部(4)の補修方法を実行可能なTIG溶融手段(9)を搭載し、前記閉断面リブ内を走行することを特徴とする。
閉断面リブの内側(3b)からTIGにより溶融することにより溶接部を補修する装置を記載したものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る補修方法を説明するための溶接補修部の断面図である。
【図2】(a)は本発明に係る補修装置の正面図であり、(b)は本発明に係る補修装置の側面図である。
【図3】道路橋の斜視図である。
【図4】鋼床版の断面図である。
【図5】本発明に係る補修方法を実施しようとする鋼床版の一部を示したものである。
【図6】図4の溶接部付近であるA部の拡大図である。
【図7】従来の補修方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図5は、本発明に係る補修方法を実施しようとする鋼床版1の一部を示したものである。図5において、2はデッキプレート、3は閉断面リブ、4はデッキプレート2と閉断面リブ3との溶接部、また、Rは補修予定部(溶接部4のうち、亀裂等のある補修しようとする部分)を示している。デッキプレート2と閉断面リブ3との溶接は、デッキプレート2と閉断面リブとが閉断面リブの外側3aからのみ溶接されている。すなわち、閉断面リブの内側3bからは溶接されていない(図6参照)。
【0016】
一方、本発明に係る補修方法を実施するための装置10を図2に表す。補修装置10はTIGトーチ(TIG溶融手段)9と台車11と走行用モータ12とを備える。補修装置10の全長は380mmであり全高は240mmであり全幅が200mmである。補修装置10はTIGトーチ9をY方向に自在に移動すること及びθ方向に自在に回転することが可能であり、閉断面リブ3内をX方向(長手方向)に自在に走行することが可能である。
【0017】
次に本発明に係る補修方法を図1に基づいて説明する。補修する前の鋼床版1の溶接部4の状態は、図6に表されている。まず、補修されるべき溶接部4に対して、閉断面リブ3の内側3bから活性フラックス剤を吹き付ける。これは、補修装置10に搭載された吹き付け手段により実行される。そして、図1に示すように、補修されるべき溶接部4に対して、閉断面リブ3の内側3bからTIGトーチの電極9aを近づける。電極9aを所定の位置に設定すれば、トーチ9からイナートガスを噴射しながらタングステン電極9aと鋼床版1との間に大電流を流して溶接部4の溶接ルート部4a近傍を溶融(再溶融)させる。そうすると、溶接部4及びその周辺部の溶融により、溶接部4及びその周辺部が、デッキプレート2と閉断面リブ3の端面3cとの間の空隙5内に進入して溶接ルート部4aに溶着部6を形成する。
そして、溶接ルート部4a近傍を上記のように溶融させながら、補修装置10をX方向に所定速度で走行させる。
【0018】
以上のように、時間及びコストが掛からない鋼床版の溶接部の補修方法及び補修装置を提供することが可能となる。
【符号の説明】
【0019】
1 鋼床版
2 デッキプレート
3 閉断面リブ
4 溶接部
5 空隙
6 溶着部
10 補修装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
デッキプレート(2)と閉断面リブ(3)とが該閉断面リブ(3)の外側(3a)からのみ片側溶接されている鋼床版(1)の溶接部(4)の補修方法であって、
前記溶接部(4)及びその周辺部を、前記閉断面リブ(3)の内側(3b)からTIGにより溶融して補修することを特徴とする、鋼床版の溶接部の補修方法。
【請求項2】
補修される前記溶接部(4)の溶接ルート部(4a)には前記デッキプレート(2)と前記閉断面リブ(3)の端面(3c)との間の空隙(5)が形成された未溶着部が存在しており、
前記溶接部(4)及びその周辺部の溶融により前記溶接部(4)及びその周辺部が前記空隙(5)内に進入して前記溶接ルート部(4a)に溶着部(6)を形成することを特徴とする、請求項1に記載の鋼床版の溶接部の補修方法。
【請求項3】
デッキプレート(2)と閉断面リブ(3)とが閉断面リブの外側(3a)からのみ片側溶接されている鋼床版(1)の溶接部(4)の補修装置(10)であって、
請求項1又は2に記載の鋼床版の溶接部(4)の補修方法を実行可能なTIG溶融手段(9)を搭載し、前記閉断面リブ(3)内を走行することを特徴とする、鋼床版の溶接部の補修装置(10)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−91912(P2013−91912A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−232890(P2011−232890)
【出願日】平成23年10月24日(2011.10.24)
【出願人】(591216473)一般財団法人首都高速道路技術センター (8)
【出願人】(505389695)首都高速道路株式会社 (47)
【出願人】(510106968)首都高メンテナンス東東京株式会社 (6)
【Fターム(参考)】