説明

鋼材のサブマージアーク溶接方法

【課題】UOE鋼管やスパイラル鋼管等の大径鋼管の造管溶接に用いて好適な鋼材のサブマージアーク溶接方法を提供する。
【解決手段】内外面一層溶接を行う鋼板のサブマージアーク溶接方法であって、内面溶接および外面溶接において、鋼板表面で計測したビード幅が(1)式を満たすとともに、鋼板表面から0.4tの深さの位置で測定したビード幅が(2)式を満たすことを特徴とする鋼板のサブマージアーク溶接方法。0.60≦W/t≦0.95(1)W/t≦0.45(2)但し、t:板厚(mm)、W:内面溶接側および外面溶接側の鋼板表面において計測したビード幅(mm)、W:内面溶接側および外面溶接側の鋼板表面から板厚方向に0.4tの位置で測定したビード幅(mm)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼材のサブマージアーク溶接方法に関し、UOE鋼管やスパイラル鋼管等大径鋼管の造管溶接に用いて好適なものに関する。
【背景技術】
【0002】
大径鋼管の造管溶接(シーム溶接)には二電極以上のサブマージアーク溶接が適用され、パイプ生産能率向上の観点から内面側を1パス、外面側を1パスで溶接する両面一層盛り溶接とする、高能率な溶接施工がなされている(例えば特許文献1,2)。
【0003】
両面一層溶接では、内面溶接金属と外面溶接金属が重なり、未溶融部がないように十分な溶け込み深さを確保する必要があるため、1000A以上の大電流を適用して溶接を行うのが一般的であるが、溶接能率と欠陥の抑制を重視して、溶接入熱が高くなりすぎ、溶接部特に熱影響部の靭性が劣化する傾向にある。
【0004】
溶接部の高靭性化には、溶接入熱を低減するのが有効であるが、通常行われているシーム溶接の入熱に対して大幅に入熱を低減させなければ、その靭性向上効果は明確とならず、大幅に入熱を低減させると溶着量も減少するため開先断面積を溶着量減少分に合わせて減らす必要が生じる。そのため、さらなる深溶け込み溶接を行わなければ内外面の溶接金属は重ならず、溶け込み不足が生じる危険性が増大する。
【0005】
従って、溶接部の高靭性化は、投入入熱の大幅な低減と溶け込み深さの増大を両立させなければならず、従来より種々の提案がなされているがその達成は極めて困難である。
【0006】
例えば、上記特許文献2では電極径に応じて電流密度を高め、溶け込み深さを増大させるサブマージアーク溶接方法が提案されているが、最近の仕様に対しては、電流および電流密度が不十分で入熱の大幅な低減と溶け込み深さの増大の両立は困難である。
【0007】
特許文献3には高電流で更なる高電流密度でのサブマージアーク溶接方法が提案されており、アークエネルギーをできるだけ板厚方向に投入することにより、必要な溶け込み深さだけを確保し、鋼材幅方向の母材の溶解を抑制することで過剰な溶接入熱を省いて、入熱低減と深溶け込みの両立が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−138266号公報
【特許文献2】特開平10−109171号公報
【特許文献3】特開2006−272377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献3記載のサブマージアーク溶接方法では、入熱低減と深溶け込みが両立できるものの、鋼板表面でのビード幅が小さくなって鋼板表面から溶け込み先端までほぼ一様なビード幅になりやすく、即ちFusion Line(以下、FL)が板厚方向に直線状となるため板厚方向への脆性破壊が進展しやすくなり、低入熱溶接にもかかわらず靭性値が低くなりやすいという問題があった。更に、このようなビード形状はスラグの巻き込みによる溶接欠陥も起こりやすい。
【0010】
本発明は、鋼材を内外面からサブマージアーク溶接するに際し、低入熱で十分な溶け込みを得ながら内外面両方の溶接熱影響部で優れた靭性が得られる鋼材のサブマージアーク溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、サブマージアーク溶接で種々の溶接条件を用いて鋼材の内外面溶接継手を作製し、ビード形状と溶接熱影響部靭性の関係について検討し、鋼板表層で計測したビード幅、更には溶込み先端近傍でのビード幅と鋼板の板厚との比を適正な範囲に制御することにより、スラグ巻き込みを抑制しつつ、優れたシャルピー衝撃試験結果(切欠き位置:FL)が得られることを見出した。本発明は、上述の知見に基づくものであり、その要旨は以下の通りである。
1.内外面一層溶接を行う鋼板のサブマージアーク溶接方法であって、前記内面溶接および前記外面溶接の両者において、鋼板表面で計測したビード幅が(1)式を満たすとともに、鋼板表面から0.4tの深さの位置で測定したビード幅が(2)式を満たすことを特徴とする鋼板のサブマージアーク溶接方法。
0.60≦W/t≦0.95 (1)
/t≦0.45 (2)
但し、t:板厚(mm)、W:内面溶接側および外面溶接側の鋼板表面において計測したビード幅(mm)、W:内面溶接側および外面溶接側の鋼板表面から板厚方向に0.4tの位置で測定したビード幅(mm)
2.1に記載された溶接方法で作製された溶接継手。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、鋼材の板厚に応じて、十分な溶け込みを得ながら内外面両方の溶接熱影響部で優れた靭性を有する、溶接欠陥のない溶接継手が得られ産業上極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】開先形状を説明する図。
【図2】シャルピー衝撃試験片の採取位置を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る鋼材のサブマージアーク溶接法では、鋼板を内外面1層溶接で溶接する際、内面溶接および外面溶接の両者において、板厚と鋼板表面で計測したビード幅との関係が以下の(1)式を満たすように溶接条件を選定する。
0.60≦W/t≦0.95 (1)
但し、t:板厚(mm)、W:内面溶接および外面溶接の鋼板表面において計測したビード幅(mm)
板厚tと内面溶接および外面溶接の鋼板表面で計測したビード幅Wとの関係が0.60≦W/t≦0.95を満足する場合、スラグの巻き込みが抑制され健全な溶接部が得られる。内面溶接および外面溶接の鋼板表面で計測したビード幅Wとは、表層である外表面におけるビード幅を指す。
【0015】
/t>0.95となる溶接ビードにおいては、母材に与えられる熱量が必然的に大きくなり溶接熱影響部の靭性が劣化する。
【0016】
一方、0.60>W/tとなる溶接ビードにおいては、鋼板表面から溶け込みの先端までほぼ一様なビード幅となりFLが鋼板表面に対して垂直に近い溶け込み形状となるため、板厚方向への脆性破壊が進展しやすくなり靭性値が低くなる。また、スラグの巻き込みによる溶接欠陥も起こりやすい。好適な範囲は0.65〜0.90である。
【0017】
そこで、(1)式の規定に加えて、更に、(2)式を満たすように溶接条件を選定して、FLを鋼板板厚方向に対して傾斜させる。
/t≦0.45 (2)
前記ビード幅Wを計測した鋼板表層から0.4tの深さの位置で測定したビード幅Wを、W/tが0.45以下に規定するので、鋼板表面のビード幅に対して、板厚中央部でのビード幅が狭くなる。好適な範囲としては0.20〜0.40である。
【0018】
本発明を実施する際は、予め、本溶接と同じ板厚の試験材に種々の条件で溶接を行って、入熱と溶け込み形状との関係を求めておき、W、Wが式(1)、式(2)を満足する溶接条件を選定する。なお、内面溶接金属と外面溶接金属が重なるように、先行極に高電流密度の溶接条件を適用することが望ましい。
【0019】
また、本発明は上述した溶接条件を用いた溶接継手である。
【実施例】
【0020】
表1に示す化学成分を有する板厚28.0、33.0、38.1mmの鋼板に図1に示す開先形状の開先加工を施した後、表3に示す溶接条件で内外面1層溶接の4電極サブマージアーク溶接を施して溶接継手を作製した。表2に開先寸法を示す。
【0021】
作製した継手から、鋼板1の内面溶接または外面溶接側の鋼板表面下7mmの位置がシャルピー衝撃試験片2の中心となるようにシャルピー衝撃試験片(JISZ3111に規定する4号試験片)を採取し、JISZ2242の金属材料衝撃試験方法に準拠してシャルピー衝撃試験(切欠き位置:FL,試験温度:−30℃、試験本数:3本)を行い、吸収エネルギー(平均値)を求めた。
【0022】
図2に外面溶接側の場合の、シャルピー衝撃試験片2の採取位置、切欠き位置3および溶接金属4の溶け込み形状におけるW、Wの測定位置を模式的に示す。尚、切欠き位置3:FL5は、ノッチ底における溶接金属と母材(溶接熱影響部)の比率が50%−50%になる位置とした。
【0023】
表4に溶接部の形状、シャルピー衝撃試験結果及び溶接欠陥の有無を示す。条件No.1〜6は本発明例で、内外面溶接とも(1)式および(2)式を満足し、溶接欠陥のない健全なビードを得ながら溶接熱影響部においてきわめて良好な靭性が得られていることが確認された。
【0024】
一方、条件No.7〜11は比較例で、条件No.7は外面溶接がW/t>0.95となり(1)式を満たさず、外面溶接熱影響部のシャルピー衝撃値が低かった。条件No.8は外面溶接がW/t>0.45となり(2)式を満たさず、外面溶接熱影響部のシャルピー衝撃値が低かった。
【0025】
条件No.9、10は内面溶接がW/t<0.60となり、 (1)式を満たさず、内面溶接熱影響部のシャルピー衝撃値が低かった。No.11は外面溶接がW/t<0.60となり、 (1)式を満たさず、外面溶接熱影響部のシャルピー衝撃値が低く、さらにスラグ巻き込みが発生した。
【0026】
【表1】

【0027】
【表2】

【0028】
【表3】

【0029】
【表4】

【符号の説明】
【0030】
1 鋼板
2 シャルピー衝撃試験片
3 切欠き位置
4 溶接金属
5 FL

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内外面一層溶接を行う鋼板のサブマージアーク溶接方法であって、前記内面溶接および前記外面溶接の両者において、鋼板表面で計測したビード幅が(1)式を満たすとともに、鋼板表面から0.4tの深さの位置で測定したビード幅が(2)式を満たすことを特徴とする鋼板のサブマージアーク溶接方法。
0.60≦W/t≦0.95 (1)
/t≦0.45 (2)
但し、t:板厚(mm)、W:内面溶接側および外面溶接側の鋼板表面において計測したビード幅(mm)、W:内面溶接側および外面溶接側の鋼板表面から板厚方向に0.4tの位置で測定したビード幅(mm)
【請求項2】
請求項1に記載された溶接方法で作製された溶接継手。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−274276(P2010−274276A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−127171(P2009−127171)
【出願日】平成21年5月27日(2009.5.27)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】