説明

鋼材の変質検査方法

【課題】 本発明は、鋼材表面に生じた変質を簡易に且つ正確に検査する方法を提供することを課題とする。
【解決手段】 表面に目視可能な変質部分を有する鋼材の変質検査方法であって、
前記鋼材表面に沿わせて、透視可能な薄膜を形成し、前記薄膜の表面に前記鋼材表面の変質部分の輪郭を写し取り、前記薄膜を鋼材からはずして展開し、前記薄膜に写し取られた輪郭で囲まれた部分の面積を測定することを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼材表面に生じた変質を検査する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物中に埋設される鉄筋などの鋼材は、錆などで劣化すると強度が低下して、本来の機能が果せないことになる。
従って、埋設後あるいは事前に鋼材の耐久性を検査するために、鋼材の変質状況を検査することが行なわれている。
【0003】
鋼材の変質状況を検査する方法としては、鋼材表面に生じた錆などによる変質を目視で観察し、かかる変質部分の面積の大小によって劣化の進行度を判断することが行なわれている。
このような変質部分の面積を測定する方法としては、例えば、目視によるスケッチをしたり、トレーシングペーパーやビニールシートなどを鋼材表面に当てて変質部分の輪郭を写し取ったりして、前記スケッチや、写し取った輪郭に囲まれた部分の面積を測定することが挙げられる。
【0004】
しかしながら、目視によるスケッチでは正確に変質部分をスケッチすることは困難である。
また、トレーシングペーパーやビニールシートなどを鋼材に当てる方法では、鋼材とトレーシングペーパーなどが接触している部分では正確に変質部分の輪郭を写し取ることができるが、例えば、コンクリート中に埋設されていた鋼材を取り出して検査する場合等、鋼材が変形している場合には、トレーシングペーパー全体を鋼材表面に密着させることは困難であり、正確に変質部分の面積を測定することは難しい。
【0005】
特に、プレストレストコンクリート鋼材(PC鋼材)などのように、複数の鋼材が撚りをかけられている撚り線を構成する鋼材を検査する場合には、まず、撚り線の撚りをはずして各鋼材をばらばらにしなければならないが、撚られていたことによって各鋼材は通常らせん状に大きく変形している。かかる、鋼材を検査する場合には、トレーシングペーパーを表面に沿わせて、正確に変質部分を写し取ることが不可能である。
そのため、前記撚り線の場合には、撚りをはずすことなく撚り線の外表面の変質部分の面積を測定しており、この場合には、各鋼材の間に生じた変質は検査することができない。
また、撚り線表面は、各鋼材が束ねられているため凹凸が存在しており、撚り線の外表面の変質部分の面積も正確に測定することはできない。
【0006】
さらに、特許文献1および特許文献2に記載されているように、錆などの変質部分をカメラで撮影して、画像データとしてコンピュータなどによって、面積を測定する方法がある。
このようなカメラを用いて鋼材表面の変質部分を撮影するためには、鋼材の周囲を回転しながら撮影することが可能な回転式カメラを用いて、鋼材表面の連続写真を撮影することが必要である。
しかし、正確に変質部分の面積を測定するためには、鋼材表面からカメラまでの距離を一定に保ちながら撮影する必要があり、前記のように鋼材が変形しているような場合には、カメラと鋼材表面の距離が一定にならないため、撮影した写真から変質部分の面積を測定することは困難である。
また、回転式のカメラなど大掛かりな装置が必要であり、簡易に検査をすることができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−343226号公報
【特許文献2】特開平3−125245号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、上記のような従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、鋼材の変質を簡易に且つ正確に検査する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するための手段として、本発明の鋼材の変質検査方法は、表面に目視可能な変質部分を有する鋼材の変質検査方法であって、前記鋼材表面に沿わせて、透視可能な薄膜を形成し、前記薄膜の表面に前記鋼材表面の変質部分の輪郭を写し取り、前記薄膜を鋼材からはずして展開し、前記薄膜に写し取られた輪郭で囲まれた部分の面積を測定することを特徴としている。
【0010】
前記のように、前記透視可能な薄膜を鋼材表面に沿わせて形成し、前記薄膜の表面に鋼材表面の変質部分の輪郭を写し取った後、薄膜を鋼材からはずして展開し、前記輪郭の面積を測定するため、鋼材表面の変質部分の輪郭を正確に写し取ることができ、且つ、取り外した薄膜を展開して広げた状態で前記輪郭に囲まれた部分の面積を測定するため、簡単且つ正確に変質部分の検査ができる。
【0011】
本発明において、前記鋼材表面を、熱収縮性フィルムで被覆し、前記熱収縮性フィルムを熱収縮させることで前記鋼材表面に沿わせて前記薄膜を形成することが好ましい。
【0012】
前記のように熱収縮性フィルムを鋼材表面に被覆させて熱収縮させることによって、鋼材が変形しているような場合でも、薄膜を簡単に鋼材表面に沿わせて形成することができる。
【0013】
本発明において、前記鋼材表面に、塗料を塗布し、前記塗料を硬化させることで前記鋼材表面に沿わせて前記薄膜を形成することが好ましい。
【0014】
前記のように塗料を塗布して、硬化させることによって、鋼材が変形しているような場合でも、薄膜を簡単に鋼材表面に沿わせて形成することができる。
【0015】
本発明において、前記鋼材は、複数の鋼材が束ねられて撚りがかけられてなる撚り線の構成鋼材であることが好ましい。
【0016】
本発明においては、前記のように鋼材表面に沿わせて薄膜を形成するため、特に大きく変形している撚り線の構成鋼材であっても、変質部分を正確に検査することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、鋼材表面に生じた変質を簡易に且つ正確に検査することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態で使用する撚り線を示す斜視図。
【図2】(a)本発明の一実施形態で使用する鋼材を示す斜視図,(b)(a)に熱収縮性フィルムチューブを被せた状態を示す斜視図、(c)(b)の熱収縮性フィルムを熱収縮させた状態を示す斜視図。
【図3】薄膜を鋼材からはずした状態を示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る実施形態について説明する。
まず、本実施形態の鋼材の変質検査方法において、検査される鋼材について説明する。
本実施形態で検査する鋼材は、図1に示すように、複数が束ねられて撚りがかけられている撚り線10を構成している。
前記撚り線10としては、例えば、プレストレストコンクリート鋼材(PC鋼材)として用いられるPC鋼撚り線などが挙げられる。
かかる撚り線10から、図1に示すように撚りをはずして、前記鋼材1を取り外す。
【0020】
前記鋼材1は、撚りがかけられていたことにより、通常は、図2(a)に示すように、大きく波打つようにらせん状に変形している。
また、前記鋼材1表面にはサビなどによる変質部分1aが存在しており、かかる、変質部分1aの面積が大きくなるほど鋼材の劣化が進んでいることになる。
【0021】
次にかかる鋼材1の変質部分1aの面積を測定する。
まず、図2(b)に示すように、前記鋼材1の外周に熱収縮性フィルムからなるチューブ2を装着する。
【0022】
前記熱収縮性フィルムは、熱によって収縮するフィルムであれば特に限定されることはないが、例えば、ポリオレフィン、ポリ塩化ビニルなどの熱収縮性フィルムを用いることが、熱収縮性が良好であるため好ましい。
【0023】
前記熱収縮性フィルムは熱収縮させた後に透明あるいは半透明であることが必要である。
尚、本実施形態でいう透明あるいは半透明とは、前記熱収縮性フィルムを熱収縮させて前記鋼材の表面に沿わせて薄膜を形成した場合に、該薄膜を通して前記鋼材の表面の変質部分の輪郭が透視可能な程度の透明性を有していることをさす。
【0024】
前記熱収縮性フィルムは筒状に形成されたチューブであるため、前記鋼材1をチューブ2の中に挿入することで簡単に前記鋼材1の外周に熱収縮性フィルムを被覆させることができる。
【0025】
前記熱収縮性フィルムがチューブであることは条件でなく、例えばシート状のフィルムを鋼材の周囲に巻き付けることで鋼材表面を熱収縮性フィルムで被覆してもよく、あるいは、袋状に形成されたフィルムの中に鋼材を収容することで鋼材表面を熱収縮性フィルムで被覆してもよい。
【0026】
前記熱収縮性フィルムのチューブで前記鋼材の表面を被覆した状態で、ドライヤーなどの加熱手段によって、前記熱収縮性フィルムを熱収縮させることで、前記熱収縮性フィルムは鋼材表面に沿って密着した薄膜3として形成される(図2(c))。
【0027】
前記薄膜3は、熱収縮性フィルムを熱収縮させることで鋼材表面に密着させることから、鋼材が前記のように変形している場合や、あるいは鋼材表面に凹凸がある場合でも、鋼材表面の形状に沿って形成されることとなる。
【0028】
前記薄膜3を鋼材表面に沿わせて形成する方法としては、前記のような熱収縮性フィルムを用いる代わりに、塗料を塗布することで形成してもよい。
【0029】
前記塗料は、前記鋼材表面に塗布後、乾燥あるいは熱などによって硬化して、硬化後には、塗料を介して前記鋼材の表面の変質部分の輪郭が透視可能な程度の透明性を有するような塗料であれば特に限定されることなく使用できるが、例えば、プラスチック表面を保護するために用いられる表面保護皮膜剤、ニスあるいはアクリル樹脂塗料などが、透明性と剥離性が良好であるため、好ましく用いられる。
【0030】
前記のように塗料を鋼材表面に塗布することによって、鋼材表面の形状に沿って薄膜を形成することができる。
【0031】
次に、前記薄膜3を通して鋼材1の表面のサビによる変質部分1aを透視して、変質部分1aの輪郭を、薄膜3の外面に書き写す。
前記のように薄膜3は、透明または半透明であるため、薄膜3の上からも前記変質部分1aが目視でき、且つ、薄膜3は鋼材表面に沿って密着している状態であるため、薄膜3の上面にペンなどで前記変質部分1aの輪郭をなぞることで、簡単且つ正確に変質部分1aの輪郭がトレースできる。
【0032】
変質部分1aのトレースを終えた後、前記薄膜3を、カッターなどで切りとり鋼材1の表面からはずす。
薄膜3を前記のようなチューブ状の熱収縮性フィルムから形成した場合には、鋼材1の長手方向に切り目を入れて、該切り目から薄膜3を広げることで、簡単に、図3に示すように平面状に展開することができる。
【0033】
このように平面状に展開した薄膜上に書き写された変質部分の輪郭を基に、前記変質部分の面積を測定する。
面積の測定方法としては、例えば、薄膜をスキャナーなどで画像データとしてコンピィータに取り込み、公知の面積測定装置を用いて測定することができる。
面積測定装置としては、画像データ処理用のソフトウエア、例えば、AutoCAD LT2002などのように画像として取り込んだ特定の範囲の面積を測定できるソフトウエアなどが好ましく用いられる。
【0034】
薄膜に書き写された変質部分の輪郭に囲まれた部分の面積を測定することで、鋼材表面のサビなどによる変質部分の面積を測定することができ、鋼材の変質の度合いを検査することができる。
【0035】
尚、上記実施形態では、撚り線の撚りをはずして、鋼材の1本の表面の変質部分の面積を測定したが、例えば、撚り線の表面に、熱収縮性フィルムあるいは塗料によって薄膜を形成して、撚り線全体の表面の変質部分の面積を測定してもよい。
撚り線のように、表面に凹凸が多い鋼材の場合でも、熱収縮性フィルムあるいは塗料によって薄膜を密着させることができるため、正確に表面の変質部分をトレースすることができる。
【符号の説明】
【0036】
1:鋼材、
1a:変質部分、
2:熱収縮性フィルム(チューブ)
3:薄膜、
10:撚り線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に目視可能な変質部分を有する鋼材の変質検査方法であって、
前記鋼材表面に沿わせて、透視可能な薄膜を形成し、前記薄膜の表面に前記鋼材表面の変質部分の輪郭を写し取り、
前記薄膜を鋼材からはずして展開し、前記薄膜に写し取られた輪郭で囲まれた部分の面積を測定することを特徴とする鋼材の変質検査方法。
【請求項2】
前記鋼材表面を、熱収縮性フィルムで被覆し、前記熱収縮性フィルムを熱収縮させることで前記鋼材表面に沿わせて前記薄膜を形成する請求項1に記載の鋼材の変質検査方法。
【請求項3】
前記鋼材表面に、塗料を塗布し、前記塗料を硬化させることで前記鋼材表面に沿わせて前記薄膜を形成する請求項1に記載の鋼材の変質検査方法。
【請求項4】
前記鋼材は、複数の鋼材が束ねられて撚りがかけられてなる撚り線の構成鋼材である請求項1乃至3のいずれか一項に記載の鋼材の変質検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−202829(P2012−202829A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−67809(P2011−67809)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【出願人】(594018267)株式会社中研コンサルタント (10)
【Fターム(参考)】