説明

鋼材の接合構造および鋼矢板の接合構造

【課題】接合部の強度を確保しつつ比較的安価かつ簡便に施工でき、工期やコストを削減することができる鋼材の接合構造および鋼矢板の接合構造を提供する。
【解決手段】一対の鋼矢板である下側鋼矢板2および上側鋼矢板3を、溶接部4を介して接合部材5により長手方向(上下方向)に接合した縦継ぎ接合によって、鋼矢板1が形成されている。そして、接合部材5の被溶接面511が、鋼矢板2,3の端面2A,3Aに傾斜を有して対向するとともに、被溶接面511の端面2A,3Aに投影した厚さ方向の投影寸法hが、鋼矢板2,3の板厚寸法Hよりも大きく形成され、これらの被溶接面511が溶接部4を介して端面2A,3Aに溶接接合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼材の接合構造および鋼矢板の接合構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
土木建築分野においては、長さ寸法や幅寸法の大きな鋼材が構成部材として用いられているが、製造上や運搬上の理由から、鋼材を所定寸法に製造し、運搬してから、現場にて接合するという施工方法が一般的である。
鋼材を用いた構造体としては、例えば、鋼矢板を左右に連結して構築される鋼製連壁があり、土留め壁や地下構造、基礎構造として利用されている。このような鋼製連壁において、地盤への鋼矢板の打ち込み深さが深くなって鋼矢板の長さ寸法が大きくなると、鋼矢板を上下に分けて製造し、現場にて下側の鋼矢板を打設した後に、その上端縁に上側の鋼矢板を接合するという接合構造が用いられる。このような鋼矢板の接合構造としては、上下の鋼矢板の端縁同士を全断面溶接(フルペネ溶接、完全溶込溶接)によって接合することが一般的である。
【0003】
鋼矢板の接合構造としては、非特許文献1にも記載されるように、上下いずれか一方の鋼矢板における接合側の端縁略全長に渡って開先加工を施しておき、下側の鋼矢板を打設してから上側の鋼矢板を建て込んで開先部分を他方の端縁に位置決めした状態で、これらの端縁同士を複数パスにより全断面溶接した構造が一般的である。また、鋼矢板の端縁同士を全断面溶接した後に、上下の鋼矢板のウェブやフランジに渡って補強板を溶接して取り付けることも行われている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「道路土工 仮設構造物工指針」社)日本道路協会、丸善株式会社出版事業部(平成11年3月)発行、第370頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来の接合構造のように、上下の鋼矢板の端縁同士を全断面溶接して接合するものでは、鋼矢板の端縁に開先加工を施す必要があったり、建て込み時に正確な位置決めを行うための治具やガイドが必要になったりし、特に上下の鋼矢板の断面形状誤差が大きい場合は上下鋼矢板間の位置決めが困難になるなど、加工手間や部材コストが増大するとともに、現場施工の手間と時間が掛かって施工効率が低下してしまうという不都合が生じる。
【0006】
本発明の目的は、接合部の強度を確保しつつ比較的安価かつ簡便に施工でき、工期やコストを削減することができる鋼材の接合構造および鋼矢板の接合構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の鋼材の接合構造は、第1鋼材の第1端面と第2鋼材の第2端面とを接合する鋼材の接合構造であって、前記第1端面と前記第2端面との間に設けられる接合部材を介して第1鋼材と第2鋼材とが接合され、前記接合部材は、前記第1端面と前記第2端面のうち少なくとも一方の端面に対向するとともに、前記一方の端面への投影寸法が、当該一方の端面の断面寸法よりも大きく設定された被溶接面を有して形成され、当該被溶接面が溶接部を介して、前記一方の端面に溶接されていることを特徴とする。
【0008】
以上の本発明によれば、第1鋼材の第1端面と、第2鋼材の第2端面との間に接合部材が設けられ、第1端面と第2端面のうち少なくとも一方の端面に対向する接合部材の被溶接面が溶接部を介して当該一方の端面に溶接されるので、鋼材の端面同士を溶接する必要がなく、鋼材への開先加工を不要にでき、鋼材の加工手間や部材コストが削減できる。さらに、一方の端面への被溶接面の投影寸法が、当該一方の端面の断面寸法と比較して大きいので、鋼材の端面同士が位置ずれしても、接合部材に対して全断面を接合することができ、位置決めの手間や時間を削減することができる、その結果、施工効率を向上させることができる。
なお、本発明の接合構造は、鋼材同士を長手方向に縦継ぎするものでもよいし、互いの長手方向が傾斜したものや、直交したものでもよい。また、接合方向は、長手方向に限らず、短手方向、板厚方向などでもよい。さらに、鋼材としては、板状のものに限らず、棒状のものや、管状(筒状)のものでもよい。
【0009】
この際、本発明の鋼材の接合構造では、前記被溶接面は、前記一方の端面に対して、傾斜を有して形成されていることが好ましい。
このような構成によれば、被溶接面が第1端面に対して、傾斜を有しているので、第1端面と第2端面間の距離にずれが生じても、距離に応じて傾斜の奥行き方向に被溶接面の接合位置を調整することで、適切な溶接距離(幅)を確保しつつ第1端面と第2端面との溶接作業が実施でき、位置決めの手間や時間を削減することができる。また、溶接部の断面が三角形状や台形状になることで、溶接作業のための開口を維持しながらも、溶接量を小さくできて、作業効率を向上させることができる。
【0010】
一方、本発明の鋼矢板の接合構造は、一対の鋼矢板を長手方向に接合する鋼矢板の接合構造であって、前記一対の鋼矢板における互いに対向する一対の端面間に設けられる接合部材を介して当該一対の鋼矢板が接合され、前記接合部材は、前記一対の端面のうち少なくとも一方の端面に傾斜を有して対向するとともに、前記一方の端面に投影した厚さ方向の寸法が、前記鋼矢板の板厚寸法よりも大きく設定された被溶接面を有して形成され、当該被溶接面が溶接部を介して、前記一方の端面に溶接されていることを特徴とする。
このような構成によれば、一対の鋼矢板を長手方向に接合するにあたって、鋼矢板の端面の開先加工を不要にできるので、加工手間や部材コストが削減できる。また、鋼矢板の端面が板厚方向に位置ずれしても、接合部材に鋼矢板の全厚を溶接できるので、位置決めの手間や時間を削減することができ、施工効率を向上させることができる。
なお、一対の端面のうち少なくとも一方の端面とは、上側鋼矢板の下側端面でもよいし、下側鋼矢板の上側端面でもよく、さらには対向する両方の端面でもよい。
【0011】
この際、本発明の鋼矢板の接合構造では、前記接合部材は、前記被溶接面から前記一方の端面を有する鋼矢板側に向かって延出するとともに、当該鋼矢板の側面に沿った延出部を備えて形成されていることが好ましい。
このような構成によれば、接合の際、鋼矢板を延出部に沿って配置することで、鋼矢板の厚さ方向の位置決めができ、位置決めの手間や時間をさらに削減できる。また、延出部により鋼矢板の側面側から溶接部が閉じられており、延出部を裏当て金として機能させることができるので、いわゆる溶接流れを防止することができる。
【0012】
また、本発明の鋼矢板の接合構造では、前記鋼矢板は少なくとも各1つ以上のウェブおよびフランジを有して断面屈曲状に形成され、前記接合部材は、前記ウェブおよび前記フランジごとに分割された複数で構成され、各々の接合部材同士が、溶接によって互いに接合されていることが好ましい。
このような構成によれば、接合部材を長尺状に形成し、各ウェブおよびフランジごとに必要な長さに切断するだけで、折り曲げ加工することなく製造でき、製造の手間やコストを削減することができる。また、各々の接合部材同士を溶接によって接合することで、一体の接合部を形成することができ、接合強度や止水性を確保することができる。
【0013】
さらに、本発明の鋼矢板の接合構造では、前記一方の端面と前記被溶接面とが、前記鋼矢板の屈曲状の断面における凸側に向かって開口して設けられていることが好ましい。
ここで、鋼矢板の屈曲状の断面における凸側とは、すなわちウェブおよびフランジにより出隅が形成される側を意味する。このような凸側は空間的制限が少なく、溶接作業時に作業空間が制限されないので、作業性が良好になり、施工効率を向上させることができる。
【発明の効果】
【0014】
以上のような本発明の鋼材の接合構造および鋼矢板の接合構造によれば、接合部材を介して、一対の鋼材や一対の鋼矢板同士を上下の断面形状にずれがあっても全断面溶接で接合できるので、開先加工を不要にできることで工場にて圧延または成形した鋼材や鋼矢板をそのまま現場に搬入できるとともに、接合部の強度を確保しつつ比較的安価かつ簡便に施工でき、工期やコストを削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1実施形態に係る鋼矢板の接合構造を示す分解斜視図である。
【図2】前記鋼矢板の接合構造を示す縦断面図である。
【図3】前記鋼矢板の接合構造を示す横断面図である。
【図4】前記鋼矢板の接合構造を示す縦断面図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係る鋼矢板の接合構造を示す縦断面図である。
【図6】(A)〜(D)は、それぞれ変形例に係る鋼矢板の接合構造を示す縦断面図である。
【図7】(A)〜(B)はそれぞれ変形例に係る鋼矢板の接合構造の変形例を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の各実施形態を図面に基づいて説明する。
なお、第2実施形態において、次の第1実施形態で説明する構成部材と同じ構成部材、および同様な機能を有する構成部材には、第1実施形態の構成部材と同じ符号を付し、それらの説明を省略または簡略化する。
【0017】
〔第1実施形態〕
図1から図3において、本実施形態の接合構造によって接合される鋼矢板1は、一対の鋼矢板である下側鋼矢板2および上側鋼矢板3を、溶接部4を介して接合部材5により長手方向(上下方向)に接合して構築される。すなわち、鋼矢板1は、下側鋼矢板2と上側鋼矢板3とを縦継ぎ接合によって一体に連結することで上下に延びて形成されている。
【0018】
下側鋼矢板2および上側鋼矢板3は、それぞれ断面中央に位置する第1フランジ21,31と、この第1フランジ21,31の両側端縁に連続する一対のウェブ22,32と、これら一対のウェブ22,32の先端縁から第1フランジ21,31と平行かつ外方に延びる一対の第2フランジ23,33と、これら一対の第2フランジ23,33の先端縁に設けられる一対の継手部24,34とを有したハット形鋼矢板である。そして、図示は省略するが、鋼矢板1は、隣り合う鋼矢板1と互いの継手部24,34同士を嵌合させることで連結され、これにより鋼製の壁が左右に連続して形成されるようになっている。
【0019】
接合部材5は、第1フランジ21,31間に配置される第1接合部材51と、一対のウェブ22,32間に配置される一対の第2接合部材52と、第2フランジ23,33間に配置される一対の第3接合部材53とからなり、5つの部材に分割された構成となっている。なお、第2フランジ23,33間に接合部材5を設けなくてもよいし、また、第2フランジ23,33間に渡って補強板などを溶接接合してもよい。第1,第2,第3接合部材51,52,53は、長さ寸法の異なる長尺棒状の部材であり、いずれも、2つの傾斜面を被溶接面511として備えた断面が台形状の部材である。第1接合部材51の長さ寸法は、第1フランジ21,31の長さ寸法にほぼ等しいか若干短く形成され、第2接合部材52の長さ寸法は、ウェブ22,32の長さに等しいか若干短く形成され、第3の接合部材53の長さ寸法は、第2フランジ23,33の長さに等しいか若干短く形成されている。このような第1,第2,第3接合部材51,52,53は、圧延もしくは切削もしくは熱押しもしくは鋳造により所定の断面形状を備える長尺棒状に形成された後、必要な長さ寸法に切断されて製造されている。
【0020】
次に、第1接合部材51を例に接合部材5と鋼矢板2,3との接合構造を説明する。図2に示すように、下側鋼矢板2の上端面2Aに被溶接面511が傾斜を有して対向し、上側鋼矢板の下端面3Aには被溶接面511が傾斜を有して対向するよう配置され、いずれの被溶接面511も溶接部4を介して溶接接合されている。この際、接合部材5は、その被溶接面511が鋼矢板の凸側の面、すなわち、第1フランジ21,31の外側(図3の上側)に向かって傾斜し、被溶接面511と上下端面2A,3Aとの間がそれぞれ開口するよう配置されている。
溶接部4は、この開口部分を埋めるように形成され、この溶接部4により、被溶接面511と下端面3Aおよび上端面2Aがそれぞれ接合されている。
以上の接合構造は、第2接合部材52および第3接合部材53と鋼矢板2,3との接合構造においても同様である。また、隣接する第1接合部材51と第2接合部材52、また第2接合部材52と第3接合部材53とは、互いに上下方向に重ならないようにし、互いに溶接部6を介して接合されている。溶接部6の溶接量が少なくなるよう、また凸面と反対側の凹面からの溶接流れを防止するために、第1接合部材51と第2接合部材52、第2接合部材52と第3接合部材53との端面間は互いにほぼ接するようにすることが好ましい。この際、接合部材5の端面間がきつく接してしまうと接合部材5の設置に支障を来たすため、接合部材5の端面間で数mm程度の余裕を持たせることが好ましい。
【0021】
また、図2にも示すように、接合部材5の被溶接面511の鋼矢板2,3の端面2A,3Aに投影した厚さ方向の投影寸法hは、鋼矢板の断面寸法、すなわち板厚寸法Hよりも大きく形成されている。このような被溶接面を形成することで、図4に示すように、鋼矢板2,3の接合時に、下側鋼矢板2と上側鋼矢板3とが板厚方向にずれた場合でも、鋼矢板2,3の全厚を溶接することが可能になっている。また図示は省略するが、鋼矢板2,3の位置が上下方向にずれた場合でも、この被溶接面との当接位置を被溶接面の傾斜の奥行き方向に調整することで、鋼矢板2,3の全断面を溶接することが可能である。
【0022】
以上のような接合部材5の高さ寸法や傾斜の角度、材質の仕様は、この鋼矢板1の接合構造を用いて施工される鋼製の壁に要求される強度に応じて適宜設定されればよい。接合部材5の強度および溶接性としては、鋼矢板2,3と同等であればよく、適宜設定した所定の設計レベル以上が確保されていればよい。
【0023】
接合部材5の鋼矢板2,3への接合の手順としては、特に限定されるものではないが、上側鋼矢板3の下端面3Aに前述のように第1,第2,第3接合部材51,52,53を取り付けた上で、打設済みの下側鋼矢板2の上端面2Aの端部に第1,第2,第3接合部材51,52,53の被溶接面511を当接させ、上端面2Aと被溶接面511とを溶接してもよい。また、上側鋼矢板3に第1,第2,第3接合部材51,52,53を予め取り付けず、打設済みの下側鋼矢板2の上端面2Aに第1,第2,第3接合部材51,52,53を溶接固定してから、接合部材51,52,53に上側鋼矢板3の下端面3Aを溶接してもよい。ただし、鋼矢板打設時のバイブロハンマーのチャックやドロップハンマーのハンマー等の重機との干渉が起こらないようにするためには、前者のように上側鋼矢板3の下端面3Aに接合部材5を取り付ける方が好ましい。
また、鋼矢板2,3の打設前に鋼矢板2,3を横に寝かせた状態で、鋼矢板2の上端面2Aまたは鋼矢板3の下端面3Aに第1,第2,第3接合部材51,52,53を溶接固定し、その後、一体化した鋼矢板2,3を地盤に打設しても構わない。
【0024】
以上の本実施形態によれば、以下のような効果が得られる。
すなわち、上側鋼矢板3の端面への開先加工を不要にできるので、鋼矢板の加工手間や部材コストが削減できる。また、被溶接面511の鋼矢板2,3の長手方向に直交する面への投影寸法hを、鋼矢板2,3の板厚寸法Hよりも大きく形成したので、下側鋼矢板2と上側鋼矢板3とが板厚方向にずれた場合でも、鋼矢板2,3の全厚を溶接することが可能であり、位置合わせの手間や時間が削減できる。
【0025】
接合部材5を第1フランジ21、ウェブ22および第2フランジ23の各々ごとに分割した構成としたので、長尺棒状に形成した接合部材5を、第1,第2,第3接合部材51,52,53として、必要な長さ寸法に切断するだけで製造でき、製造の手間とコストを削減できる。
また、接合部材5を、その被溶接面511が鋼矢板の凸側の面に向かって傾斜し、開口するよう配置したので、空間的制限の少ない鋼矢板1の凸側の面から、溶接作業を行うことができ、作業効率を向上できる。
【0026】
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態の鋼矢板1の接合構造を図5に基づいて説明する。
第2実施形態の接合構造では、接合部材5の形態が前記第1実施形態と相違するものの、鋼矢板2,3の構造など、他の構成は第1実施形態と同様である。以下、相違点について、詳細に説明する。
【0027】
接合部材5は、鋼矢板2,3の側面に沿った延出部512を備えている。この接合部材5の構造を第1接合部材51を例に説明すると、第1接合部材51は、被溶接面511から鋼矢板2,3に向って延出するとともに、鋼矢板2、3の側面に沿った延出部512を備えている。この延出部512は、鋼矢板2,3の位置決めに際しガイドとして機能し、溶接の際には、裏当て金として機能して、いわゆる溶接流れを防止するものである。鋼矢板2,3を接合する際は、まずこの延出部512を鋼矢板2(3)の側面2B(3B)に当接させた状態で、被溶接面511と対向する上端面2A(下端面3A)を溶接する。ついで、鋼矢板3(2)の側面3B(2B)を延出部512に当接させた上で、被溶接面511を下端面3A(上端面2A)に溶接すれば、板厚方向の位置決めが容易にでき、鋼矢板2,3を板厚方向にずれを生じることなく接合できる。なお、本実施形態においては、第2接合部材52,第3接合部材53もこの第1接合部材5と同様の構造を有し、同様の方法で鋼矢板2,3に接合される。
【0028】
なお、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる他の構成等を含み、以下に示すような変形等も本発明に含まれる。
例えば、前記実施形態ではハット形鋼矢板で構成された下側鋼矢板2および上側鋼矢板3を例示したが、本発明の鋼矢板としては、ハット形鋼矢板に限らず、U形鋼矢板やZ形鋼矢板、I形鋼矢板など他の形態の鋼矢板も利用可能である。また、前記実施形態では、上下二段の鋼矢板同士を縦継ぎする構造を説明したが、上下三段以上の鋼矢板を縦継ぎしてもよい。また、接合部材の取り付け位置としては、前記実施形態のように第1フランジ21,31やウェブ22,32に限定、もしくは縦継位置に必要な設計上の強度,剛性によってはいずれか一箇所のみに取り付けてもよい。ただし、壁体としての止水性および打設時に縦継位置に発生する応力均等分散の観点からは、第1フランジ21,31、ウェブ22,32および第2フランジ23,33の全長に亘って接合部材5を取り付けることが好ましい。
また、接合構造としては、以下の図6および図7に示す接合部材5A〜5Fを用いてもよい。
【0029】
すなわち、図6(A)に示すように、接合部材5Aの断面形状を長方形の部材としてもよい。この場合には、被溶接面511Aを鋼矢板2,3の端面2A,3Aに溶接し接合する。このように断面形状を長方形の部材とする場合は、鋼矢板2,3の板厚寸法よりも幅寸法の大きい長尺板状の部材を、第1フランジ21,31、ウェブ22,32および第2フランジ23,33の寸法に合わせて切断するだけで製造することができ、既存の平板,角材を利用でき低コストで接合部材を形成できる。この場合は上下の鋼矢板2,3別々に凸側および凹側から溶接を行う。
また図6(B)に示すように接合部材5Bの断面形状は台形に限らず、平行四辺形とし、被溶接面511Bを鋼矢板2,3の端面2A,3Aに溶接接合してもよい。さらに、図6(C)に示すように、接合部材5Cの被溶接面511Cは、平面状に限らず、鋼矢板2,3の端面に対し、凹状のカーブを備えていてもよい。
そして、図6(D) の接合部材5Dに示すように、上側鋼矢板3と下側鋼矢板2との被溶接面は、上下面で必ずしも同じ傾斜を有している必要はない。例えば、下側鋼矢板2の上端面2Aと対向する被溶接面511Dは傾斜を有し、上側鋼矢板3の下端面31Aと対向する被溶接面511D’が傾斜を有さず、すなわち、下端面31Aと被溶接面511D’とが平行に形成されていてもよいし、下端面31Aが傾斜を有して形成されていてもよい。被溶接面511D’が材軸(長手方向)と直交して形成されていれば、上側鋼矢板3の下端面31Aに開先加工が施されていても下側鋼矢板2との溶接が困難な場合や、位置合わせが難しい場合などに接合部材5Dを用いて、下端面31Aに被溶接面511D’を溶接し、下側鋼矢板2と上側鋼矢板3とを接合することが可能となる。
【0030】
また、図7(A)に示すように、接合部材5Eが延出部512を有する場合には、被溶接面511Eが鋼矢板2,3の端面2A,3Aに対し、傾斜を有していなくてもよい。
さらに、図7(B)に示すように、鋼矢板2,3のうち一方が、溶接以外の方法で接合部材5Fに接合されてもよい。この接合部材5Fは、被溶接面のうち上側鋼矢板3の下端面3Aに対向配置される面が傾斜を有さない平行面513とされ、この平行面513から鋼矢板3に沿って延出する延出部512を有して形成され、この延出部512が上側鋼矢板3とボルトおよびナットで固定される。すなわち、平行面513を下端面3Aに当接させるとともに、延出部512を鋼矢板の側面3Bに当接させて上側鋼矢板3と固着した上で、被溶接面511Fを下側鋼矢板2の上端面2Aに溶接接合すればよい。
【0031】
その他、本発明を実施するための最良の構成、方法などは、以上の記載で開示されているが、本発明は、これに限定されるものではない。すなわち、本発明は、主に特定の実施形態に関して特に図示され、かつ説明されているが、本発明の技術的思想および目的の範囲から逸脱することなく、以上述べた実施形態に対し、形状、材質、数量、その他の詳細な構成において、当業者が様々な変形を加えることができるものである。
従って、上記に開示した形状、材質などを限定した記載は、本発明の理解を容易にするために例示的に記載したものであり、本発明を限定するものではないから、それらの形状、材質などの限定の一部もしくは全部の限定を外した部材の名称での記載は、本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0032】
1…鋼矢板(鋼材)、2…下側鋼矢板(第1鋼材)、2A…上端面(第1端面)、3…上側鋼矢板(第2鋼材)、3A…下端面(第2端面)、4…溶接部、5,5A,5B,5C,5D,5E,5E,5F…接合部材、511,511A,511B,511C,511D,511E,511F…被溶接面,h…投影寸法,H…板厚寸法(断面寸法)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1鋼材の第1端面と第2鋼材の第2端面とを接合する鋼材の接合構造であって、
前記第1端面と前記第2端面との間に設けられる接合部材を介して第1鋼材と第2鋼材とが接合され、前記接合部材は、前記第1端面と前記第2端面のうち少なくとも一方の端面に対向するとともに、前記一方の端面への投影寸法が、当該一方の端面の断面寸法よりも大きく設定された被溶接面を有して形成され、当該被溶接面が溶接部を介して、前記一方の端面に溶接されていることを特徴とする鋼材の接合構造。
【請求項2】
請求項1に記載の鋼材の接合構造であって、
前記被溶接面は、前記一方の端面に対して、傾斜を有して形成されていることを特徴とする鋼材の接合構造。
【請求項3】
一対の鋼矢板を長手方向に接合する鋼矢板の接合構造であって、
前記一対の鋼矢板における互いに対向する一対の端面間に設けられる接合部材を介して当該一対の鋼矢板が接合され、
前記接合部材は、前記一対の端面のうち少なくとも一方の端面に傾斜を有して対向するとともに、前記一方の端面に投影した厚さ方向の寸法が、前記鋼矢板の板厚寸法よりも大きく設定された被溶接面を有して形成され、当該被溶接面が溶接部を介して、前記一方の端面に溶接されていることを特徴とする鋼矢板の接合構造。
【請求項4】
請求項3に記載の鋼矢板の接合構造であって、
前記接合部材は、前記被溶接面から前記一方の端面を有する鋼矢板側に向かって延出するとともに、当該鋼矢板の側面に沿った延出部を備えて形成されていることを特徴とする鋼矢板の接合構造。
【請求項5】
請求項3または請求項4に記載の鋼矢板の接合構造であって、
前記鋼矢板は少なくとも各1つ以上のウェブおよびフランジを有して断面屈曲状に形成され、
前記接合部材は、前記ウェブおよび前記フランジごとに分割された複数で構成され、各々の接合部材同士が、溶接によって互いに接合されていることを特徴とする鋼矢板の接合構造。
【請求項6】
請求項5に記載の鋼矢板の接合構造であって、
前記一方の端面と前記被溶接面とが前記鋼矢板の屈曲状の断面における凸側に向かって開口して設けられていることを特徴とする鋼矢板の接合構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−36610(P2012−36610A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−176303(P2010−176303)
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】