説明

鋼材の清浄度評価方法

【課題】 鋼材の信頼性の向上及び迅速な操業判断が可能となる介在物の評価方法を提供する。
【解決手段】 鋼材中のミクロ介在物を顕微鏡により検出する工程と、検出された前記各ミクロ介在物の組成を分析して、所定の成分同士の原子数比を求める工程と、鋼材中のマクロ介在物を超音波探傷法により検出する工程と、検出された各マクロ介在物の組成を分析して、所定の成分同士の原子数比を求める工程と、各ミクロ介在物の原子数比からなる数値群の標準偏差、および/または、各マクロ介在物の原子数比からなる数値群の標準偏差、に基づいて鋼材の清浄度を評価する工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼材の清浄度評価方法に関し、特に、マクロ、ミクロ介在物を効率良い方法で検出し、介在物組成も含めた総合的な評価を可能とする鋼材の清浄度評価方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼材中の介在物(非金属介在物)は、鋼材の使用中の不良原因となるものであり、特に、軸受用鋼、機械構造用鋼および同合金鋼などの鋼材においては金属疲労の原因になり易い。介在物は金属疲労の原因となる可能性があるため、製品を検査し、介在物の評価を行うことにより鋼材の清浄度等を明らかにしておく必要がある。
【0003】
介在物には、マクロ介在物とミクロ介在物とがある。マクロ介在物は、存在頻度がミクロ介在物より少なく、顕微鏡法で検出が困難で、例えば100μm程度以上の介在物のことをいう。例えば、15MHz超音波探傷で10kg程度の大体積を探傷することにより検出する介在物である。
【0004】
また、ミクロ介在物は、顕微鏡観察される介在物で、数μmから数十μm程度の介在物のことをいう。ミクロ介在物は、15MHz超音波探傷法では、検出しにくいという特性を有する。
【0005】
鋼材の清浄度の評価方法としては、顕微鏡で観察したミクロ介在物から、ある面積の最大介在物径を極値統計法により予測し、その最大介在物径で評価する方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
また、超音波探傷法を用いることにより、評価重量が数十kg程度の探傷を可能としたマクロ介在物の評価方法がある(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
また、介在物の組成が軸受鋼の寿命に影響を及ぼすため、鋼材の清浄度を評価する場合には介在物の組成を評価する必要があることがわかる(例えば、特許文献3参照)。
【特許文献1】特開平11−194121号公報
【特許文献2】特開2004−37242号公報
【特許文献3】特開2000−328181号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の方法によれば、被検面積が小さく、まれにしか存在しないマクロ介在物を見つけることができない。
【0009】
また、特許文献2に記載の方法では、超音波の特性から、ミクロ介在物を検出することが難しい。高周波の超音波(50MHz以上)を使えば、ミクロ介在物を検出することは可能であるが、探傷に時間がかかり、数十kgの探傷は困難である。
【0010】
また、鋼の清浄度に影響を及ぼす介在物の組成、大きさを評価し、その結果に基づいて、製鋼操業を改善することが必要である。
【0011】
本発明は、このような従来の問題を解決するためになされたもので、介在物の評価において、マクロ介在物及びミクロ介在物を効率良い方法で検出し、介在物組成も含めて総合的に評価することが可能な介在物の評価方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の鋼材の清浄度評価方法は、鋼材中のミクロ介在物を顕微鏡により検出する工程と、検出された前記各ミクロ介在物の組成を分析して、所定の成分同士の原子数比を求める工程と、鋼材中のマクロ介在物を超音波探傷法により検出する工程と、検出された各マクロ介在物の組成を分析して、所定の成分同士の原子数比を求める工程と、各ミクロ介在物の原子数比からなる数値群の標準偏差、および/または、各マクロ介在物の原子数比からなる数値群の標準偏差、に基づいて鋼材の清浄度を評価する工程とを含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明の鋼材の清浄度評価方法によれば、介在物の原子数比からなる数値群の標準偏差から鋼材の良否、操業の良否を判断することができる。これにより、鋼材の信頼性の向上及び迅速な操業判断が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態である鋼材の清浄度評価方法について、図を参照して詳細に説明をする。
【0015】
(ミクロ介在物の評価)
本実施形態の鋼材の清浄度評価方法では、まず、ミクロ介在物について組成の分析を行う。具体的には、顕微鏡によるミクロ介在物評価を行うものである。顕微鏡による介在物評価方法には、JISやASTM−E45に基づく方法や、極値統計法を用いて評価体積を拡大する方法がある。本実施形態の顕微鏡による介在物評価方法では、被検面積が大きく、各視野で最大介在物を検出し、介在物径分布を評価する方法である極値統計法を選択することが好ましい。このような検鏡結果に極値統計法を適用する方法は、広範囲のミクロ介在物サイズをカバーできる方法といえる。
【0016】
本実施形態の顕微鏡による介在物評価方法は、極値統計法の実施要領に基づいて、ミクロ介在物を検出するものである。例えば、100mmの所定の視野の視野中で最大介在物を探し、次に別の視野で最大介在物を探す。この作業を例えば30回、相異なる視野で実施する。極値統計法により、30視野で各視野内の最大ミクロ介在物を30個検出することになる。そして、この30視野における各視野内の最大ミクロ介在物30個の介在物の中から、例えば15個の最大ミクロ介在物を任意に選んで、ミクロ介在物の組成を分析する。
【0017】
ここで、組成の分析は例えばEDS(冷陰極電界放射型電子顕微鏡)を用いることが可能である。EDSは、電子線を分析するべき介在物に当て、介在物からの二次電子を分析するものである。そして、二次電子の分析により、介在物の組成を定量評価することを可能とする装置である。例えば、EDSは、Al=29 atomic%, Ca=14atomic%, O=57atomic%のように各元素の組成比率を分析することが可能である。
【0018】
(マクロ介在物の評価)
次に、本実施形態の鋼材の清浄度評価方法では、マクロ介在物について組成の分析を行う。具体的には、検査対象となる鋼材について超音波探傷法によりマクロ介在物を検出する。
【0019】
清浄度が向上した鋼では、マクロ介在物は、例えば鋼10kg中数個存在する程度であるため、顕微鏡による検出ではマクロ介在物を検出することは困難である。一方、超音波探傷法による検出によれば、出現頻度の低いマクロ介在物の検出において被検体積を稼げるという特徴がある。なお、本実施形態の超音波探傷法は、特に限定されるものではなく、既存の超音波探傷法を適宜選択すればよい。
【0020】
次に、超音波探傷法により検出されたマクロ介在物については、ミクロ介在物と同様に、その介在物の組成を例えばEDS(冷陰極電界放射型電子顕微鏡)により分析し、マクロ介在物の組成を定量評価する。
【0021】
(総合評価)
次に、本実施形態の鋼材の清浄度評価方法では、鋼材の清浄度をマクロ介在物とミクロ介在物との両方から総合的な定量評価を行う。具体的には以下の手順で評価を行う。
【0022】
上述した評価において分析されたマクロ介在物とミクロ介在物の組成から、介在物の主要成分、例えばAlとCaの原子数比(以下、単に、Al/Ca比ともいう。)を各介在物について算出する。次に、Al/Caの原子数比の標準偏差を算出する。例えば、ミクロ介在物20個とマクロ介在物5個の計25個のAl/Caの原子数比の標準偏差を、算出する。
【0023】
ここで、介在物の主要成分としてAlとCaを選択した理由は、介在物の構成成分の中でCaOとAl2O3を主成分とする場合が多いためである。そこで、操業の違いや操業の安定性によってCaOとAl2O3の成分比率が大きく異なるため、操業の特徴を明確に表す主要成分として、AlとCaを選択した。ただし、Oとの組合せも同様である。また、操業の差によって大きく変動する元素がAlとCaであるため、Al/Ca比を用いることで、Alのatomic%、Caのatomic%の2つの数値をAl/Ca比の1つの数値で表現することが可能となる。
【0024】
ここで、Al/Caの原子数比率の標準偏差が大きい場合には、操業が安定していないと判断できる。反対に、Al/Caの原子数比率の標準偏差が小さい場合には、操業安定していると判断することができる。
【0025】
また、他にMgOやAl2O3を多く含む介在物の場合は、MgとAlという組合せを選択してもよい。このように、操業の違いによって大きく変動する組成の元素の原子数比率で整理することにより、介在物の特徴を表現することが可能となる。
【0026】
以上説明したように、本実施形態の鋼材の清浄度評価方法によれば、鋼中の介在物のより広い介在物径のレンジで介在物を検出することが可能となる。ミクロ介在物の検出は極値統計法の要領を用いることにより、鋼の清浄度を代表する介在物を効率的、合理的に検出することが可能となる。
【0027】
また、本実施形態の鋼材の清浄度評価方法によれば、マクロ介在物径とミクロ介在物とのAl/CaやAl/Mgの原子数比の標準偏差で操業を評価することが可能となる。
【0028】
例えば、精錬方法(溶鋼の撹拌方法)を変えた場合には、製品の極値統計による√AREAmaxが同じでも、介在物のAl/Caの原子数比率が変わる場合がある。つまり、マクロ、ミクロの広い介在物径のレンジから介在物を検出し、組成分析とを組み合わせて評価し、どの大きさの介在物の組成が変動したかを評価する総合的な評価基準で見ることにより、操業変化の清浄度への影響を正確に評価することが可能となる。
【実施例】
【0029】
本発明の実施形態の鋼材の清浄度評価方法の実施例について、以下に説明する。ただし、本発明の鋼材の清浄度評価方法は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0030】
評価対象として、SCr420について介在物の評価を行った。
【0031】
(1)ミクロ介在物の分析
EAF(電気炉)、LF(取鍋精錬)、RH(RH脱ガス)、CC(連続鋳造機)の各工程により、ブルームを製造し、このブルームについて、連続加熱、分塊圧延、製品圧延の各工程により、圧延材の中心軸を含む幅10mmで長さ120mmの介在物調査用の試験片を3本作製する。
【0032】
この介在物調査用試験片を焼き入れ後研磨し、顕微鏡法によりミクロ介在物の調査(3000mm2を観察)を行う。観察により検出されたミクロ介在物の中から組成分析を行うために、最大径のものを含む任意の3〜30個程度の酸化物系ミクロ介在物を選択してEDSによる介在物組成分析を行った。
【0033】
(2)マクロ介在物の分析
EAF(電気炉)、LF(取鍋精錬)、RH(RH脱ガス)、CC(連続鋳造機)の各工程により、ブルームを製造し、このブルームについて、連続加熱、分塊圧延、製品圧延の各処理を行い、製品圧延材φ60mmからマクロ介在物調査用の試験片を作製する。
【0034】
この試験片について、15MHz超音波によりマクロ介在物を検出し、マクロ介在物を研磨により鋼材表面に露出させて、EDSによる介在物組成分析を行った。
【0035】
(評価結果)
表1は、各heat1〜5で得られたAl/Ca比について統計的な処理を行い、マクロ介在物とミクロ介在物とのAl/Ca比の平均値Xと標準偏差σとを求めたものと転動疲労寿命試験の結果とを示す表である。
【0036】
【表1】



【0037】
各種操業のテストの結果、測定の誤差等から判断して、Al/Ca比の標準偏差を示すσが、2以下である場合には安定した操業であり、転動疲労寿命も良好な良品と判断できることが判明した。よって、Al/Ca比の標準偏差を示すσが、2以下である場合を、安定した操業が行われており、良品と評価するものである。
【0038】
表1からわかるように、heat1では、σは2以下である。よって、操業が安定していると判断できる。heat2では、σが2より大きいことから操業が安定していないと判断できる。heat3では、σは2以下である。よって、操業は安定していると判断できる。heat4では、σが2より大きい。よって、操業が安定していないと判断することができる。heat5では、σが2より小さい。よって、操業は安定していると判断できる。
【0039】
また、Al/Mg比についても上記Al/Ca比と同様な評価が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼材中のミクロ介在物を顕微鏡により検出する工程と、
検出された前記各ミクロ介在物の組成を分析して、所定の成分同士の原子数比を求める工程と、
前記鋼材中のマクロ介在物を超音波探傷法により検出する工程と、
検出された前記各マクロ介在物の組成を分析して、前記所定の成分同士の原子数比を求める工程と、
前記各ミクロ介在物の原子数比からなる数値群の標準偏差、および/または、前記各マクロ介在物の原子数比からなる数値群の標準偏差、に基づいて前記鋼材の清浄度を評価する工程と、
を含むことを特徴とする記載の鋼材の清浄度評価方法。
【請求項2】
前記鋼材の清浄度を評価する工程において、
前記各ミクロ介在物の原子数比からなる数値群の標準偏差、および/または、前記各マクロ介在物の原子数比からなる数値群の標準偏差が、2以下の場合には良品と判断する
ことを特徴とする請求項1または2に記載の鋼材の清浄度評価方法。
【請求項3】
前記所定の成分同士の原子数比は、AlとCaとの原子数比、又は、AlとMgとの原子数比であることを特徴とする請求項1または2に記載の鋼材の清浄度評価方法。


【公開番号】特開2009−300369(P2009−300369A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−157923(P2008−157923)
【出願日】平成20年6月17日(2008.6.17)
【出願人】(000180070)山陽特殊製鋼株式会社 (601)
【Fターム(参考)】