説明

鋼材の溶接継手構造

【課題】主として超高強度の鋼材の溶接継手部について、低コストかつ予後熱管理や溶接入熱・パス間温度の条件が緩和された軟質継手を提供し、これにより、現場施工に適用可能であり、かつ特別な溶接技術や技能を必要とせずに、溶接部の材料強度から求められる継手強度より高い強度を有する鋼材の溶接継手構造を提供する。
【解決手段】第1の鋼材2と、第2の鋼材3と、継手溶接部4と、継手溶接部4を補強する第1の補強材5と、第2の補強部材6とを備える溶接継手構造1である。継手溶接部4の溶接金属7の材料強度が、第1の鋼材2および第2の鋼材3のいずれの材料強度よりも小さく、第1の補強材5は継手溶接部4の一方の表面4aに溶接金属7を介して接して接合されるとともに第2の補強材6は継手溶接部4の他方の表面4bに接合され、第1の補強材5、第2の補強部材6の材料強度、および、溶接金属7の材料強度が、第1の鋼材2および第2の鋼材3のいずれの材料強度よりも小さい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼材の溶接継手構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、800N〜1000N級の超高強度材が、建築構造物の高層化・大規模化に伴って、建築構造物の柱材として用いられるようになってきた。超高強度材からなる柱材は、断面積の縮小を図ることができるが、溶接継手の性能確保に課題がある。
【0003】
建築構造物に用いられる溶接継手は、一般的に、溶接部の材料強度を母材の材料強度よりも高める、いわゆるオーバーマッチング継手である。しかし、800N〜1000N級の超高強度材からなる柱材の母材強度を上回るオーバーマッチング継手を実現するには、非常に高価な溶接材料を用いることとなる。また、予後熱管理を厳密に行う必要があるため、現場溶接が必要とされる建築構造物への適用は大きく制限される。また、溶接入熱や溶接パス間温度の制限が、低強度の溶接材料より厳しくなるため、作業効率も低下する。
【0004】
一方、溶接部の材料強度を母材の材料強度より低くする、いわゆるアンダーマッチングである軟質継手は、高強度の溶接材料を用いることに比較して、低コストで、かつ予後熱管理や溶接入熱・パス間温度等の条件を緩和した溶接により継手が得られるメリットがあり、例えばペンストック等に実際に用いられたこともある。軟質継手では、溶接部の形状条件によって母材の強度を上回る溶接継手を得られることが、従来から知られている。
【0005】
非特許文献1によれば、軟質継手の強度は、軟質部の相対厚さ(板厚に対する軟質部の厚さの比率)に依存し、相対厚さが小さいほど継手強度は上昇し、母材の引張強度を上回ることが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】佐藤、土井、豊田、軟層を含む溶接継手の静的強度に関する寸法効果、溶接学会誌、第37巻、第11号(1968)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
軟質部の相対厚さを小さくするためには、溶接部の開先寸法を小さくした、いわゆる狭開先溶接とする必要がある。しかし、実際の建築構造物の現場施工では、部材の寸法やその誤差によって、狭開先を厳格に確保することは極めて難しい。
【0008】
仮に狭開先を確保できたとしても、その溶接の実施によって欠陥が少ない健全な溶接継手を得るためには、特別な溶接技能や技術も必要となり、狭開先の溶接継手を安定して確保することは困難である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、第1の鋼材と、第2の鋼材と、第1の鋼材および第2の鋼材の間に存在して第1の鋼材および第2の鋼材を材軸方向へ接続する継手溶接部と、継手溶接部を補強する第1の補強材とを備える鋼材の溶接継手構造であって、継手溶接部の溶接金属の材料強度が、第1の鋼材および第2の鋼材のいずれの材料強度よりも小さいこと、第1の補強材は、継手溶接部の一方の表面に溶接金属を介して接して接合されること、および、第1の補強材の材料強度、および、溶接金属の材料強度が、第1の鋼材および第2の鋼材のいずれの材料強度よりも小さいことを特徴とする鋼材の溶接継手構造である。
【0010】
本発明では、第1の鋼材および第2の鋼材はいずれも鋼管であること、および、第1の補強材はその内面が継手溶接部の外面に当接する環状の外形を有することが望ましい。
本発明では、継手溶接部は、レ形もしくはV形の形状の開先を有することが望ましい。
【0011】
本発明では、さらに、継手溶接部を補強する第2の補強材を備え、第2の補強材は継手溶接部の他方の表面に接して接合されるとともに、第2の補強材の材料強度が第1の鋼材および第2の鋼材のいずれの材料強度よりも小さいことが望ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、例えば、主として超高強度の鋼材同士の溶接継手部について、低コストかつ予後熱管理や溶接入熱・パス間温度の条件が緩和された軟質継手を提供でき、これにより、現場施工に適用可能であり、かつ特別な溶接技術や技能を必要とせずに、溶接部の材料強度から求められる継手強度より高い強度を有する鋼材の溶接継手構造を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明に係る鋼材の溶接継手構造の一例を示す説明図である。
【図2】図2(a)および図2(b)は、本発明に係る鋼管の溶接継手構造の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明を、添付図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明に係る鋼材の溶接継手構造1の一例を示す説明図である。図1に示すように、溶接継手構造1は、第1の鋼材2と、第2の鋼材3と、継手溶接部4と、第1の補強部材5と、第2の補強部材6と備える。
【0015】
[第1の鋼材2、第2の鋼材3]
第1の鋼材2、および第2の鋼材3は、いずれも、800N〜1000N級の超高強度材である。第1の鋼材2、および第2の鋼材3は、いずれも、高層化・大規模化された建築構造物の柱材として用いられる鋼管が例示される。
【0016】
第1の鋼材2、および第2の鋼材3は、一方の表面および他方の表面を有するものであればよく、例えば、薄板や厚板といった板材、鋼管さらには形鋼が例示される。
[継手溶接部4]
継手溶接部4は、第1の鋼材2および第2の鋼材3の間に存在する。継手溶接部4は、第1の鋼材2および第2の鋼材3をそれぞれの材軸方向(図1における上下方向)へ接続する。
【0017】
継手溶接部4は、図1に示すようなレ形の形状の開先、もしくはV形の形状の開先を有することが望ましい。
継手溶接部4の溶接金属の材料強度は、第1の鋼材2および第2の鋼材3のいずれの材料強度よりも小さいことが望ましく、例えば600〜800N級である。これにより、溶接金属のコスト低減を図ることができる。
【0018】
[第1の補強材5]
第1の補強材5は、継手溶接部4の一方の表面4aに溶接金属7を介して接して接合される。これにより、第1の補強材5は溶接継手部4を補強する。
【0019】
第1の補強材5の材料強度は、第1の鋼材2および第2の鋼材3のいずれの材料強度よりも小さく、例えば600〜800N級である。
[第2の補強材6]
第2の補強材6は、本発明では、必要に応じて用いられる。第2の補強材6は、継手溶接部4の他方の表面4bに接して接合される。これにより、第2の補強材6は継手溶接部4を補強する。
【0020】
第2の補強材6の材料強度は、第1の鋼材2および第2の鋼材3のいずれの材料強度よりも小さく、例えば600〜800N級である。
なお、図1における符号8は、溶接のための裏当て金である。
【0021】
本発明の溶接継手構造1は以上のように構成される。
この溶接継手構造1を有する鋼材が、軸方向(図1における上下方向)に漸増する引張力を受けた場合、軟質部である継手溶接部4が最初に塑性化する。
【0022】
この際、ポアソン比分の圧縮ひずみが継手溶接部4の板厚方向に生じようとするが、継手溶接部4の一方の表面4aに第1の補強材5が接合されるとともに他方の表面4bに第2の補強材6が接合されており、溶接継手部4は第1の補強材5および第2の補強材6により拘束されている。
【0023】
このため、継手溶接部4の内部においては3軸引張応力状態となり、溶接継手部4の溶接金属のみかけの軸方向の強度が上昇し、継手溶接部4の材料強度から求められる継手強度より高い強度の継手が実現される。
【0024】
溶接継手部4の第1の補強材5および第2の補強材6は、溶接継手部4に生じる板厚方向のひずみを拘束できればよいので、十分な剛性を有する物であれば接続する第1の鋼材2および第2の鋼材3それぞれの母材強度よりも小さい強度を有するものでもよい。
【0025】
溶接継手部4の一方の表面4aと第1の補強材5との接合、および他方の表面4bと第2の補強材6との接合は、まず溶接継手部4の初層側に関しては第2の補強材6がそのまま裏当て金の役割を担うので、特別な手段を講じて接合を行う必要はない。
【0026】
一方、溶接継手部4の最終層側は、第1の補強材5と接合するための溶接を行なう必要があるが、この溶接金属7の強度は、第1の補強材5と同様に、母材強度より小さいものでよい(もちろん母材強度よりも高いものでもよいが、施工コストが上昇する)。したがって、第1の補強材5、第2の補強材6と溶接継手部4の表裏面4a、4bとを接合する溶接金属も、軟質継手である継手溶接部4と同様に、低コストかつ高効率に形成することが可能になる。
【0027】
図2(a)および図2(b)は、本発明に係る鋼管9の溶接継手構造1の一例を示す説明図である。
図2(a)に示すように、本発明の溶接継手構造1を有する鋼管9に対して、第1の補強材5および第2の補強材6として環状の補強材を用い、周継手溶接部4の表裏面を接合する場合、前述した周継手溶接部4の板厚方向に生じようとするポアソン比分の圧縮ひずみを、第1の補強材5および第2の補強材6が拘束することにより生じる鋼管9の半径方向の応力に対し、環状の第1の補強材5および第2の補強材6に生じる周方向応力が抵抗するため、周継手溶接部4の拘束効果を、板継手に適用した場合よりもさらに高めることができ、継手溶接部4の継手強度をより高めることができる。
【0028】
さらに、図2(b)に示すように、継手溶接部4の開先形状がレ形またはV形の形状を有していれば、溶接継手ルート側の軟質部の相対厚さが小さくなることにより、その拘束効果はいっそう高くなるので、ルート側すなわち継手溶接部4の裏面側(鋼管の場合の内面側)の第2の補強材6を省略することが可能である。この場合には第2の補強材6の代わりに裏当て金10を配置して溶接部の初層を形成すれば、溶接を問題なく行うことができる。
【符号の説明】
【0029】
1 溶接継手構造
2 第1の鋼材
3 第2の鋼材
4 継手溶接部
4a 一方の表面
4b 他方の表面
5 第1の補強部材
6 第2の補強部材
7 溶接金属
8、10 裏当て金
9 鋼管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の鋼材と、第2の鋼材と、前記第1の鋼材および前記第2の鋼材の間に存在して前記第1の鋼材および前記第2の鋼材を材軸方向へ接続する継手溶接部と、前記継手溶接部を補強する第1の補強材とを備える鋼材の溶接継手構造であって、
前記継手溶接部の溶接金属の材料強度が、前記第1の鋼材および前記第2の鋼材のいずれの材料強度よりも小さいこと、
前記第1の補強材は、前記継手溶接部の一方の表面に溶接金属を介して接して接合されること、および
前記第1の補強材の材料強度、および、前記溶接金属の材料強度が、前記第1の鋼材および前記第2の鋼材のいずれの材料強度よりも小さいこと
を特徴とする鋼材の溶接継手構造。
【請求項2】
前記第1の鋼材および前記第2の鋼材はいずれも鋼管であること、および、前記第1の補強材はその内面が前記継手溶接部の外面に当接する環状の外形を有することを特徴とする請求項1に記載された鋼材の溶接継手構造。
【請求項3】
前記継手溶接部は、レ形もしくはV形の形状の開先を有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載された鋼材の溶接継手構造。
【請求項4】
さらに、前記継手溶接部を補強する第2の補強材を備え、該第2の補強材は前記継手溶接部の他方の表面に接して接合されるとともに、該第2の補強材の材料強度が前記第1の鋼材および前記第2の鋼材のいずれの材料強度よりも小さいことを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載された鋼材の溶接継手構造。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−245522(P2011−245522A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−121935(P2010−121935)
【出願日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】