説明

鋼材の防食構造および方法

【課題】鋼材の腐食を恒久的に防止し、かつ施工性に優れた鋼材の防食構造を提供する。
【解決手段】鋼管10を防食作用の異なる第一層16と第二層18により重層的に保護する。第一層16は素地調整された鋼管10に常温亜鉛メッキを施すことにより形成され、犠牲防食作用により鋼管10を腐食から保護する。第二層18は第一層16に塗布した常温液体ガラス塗料が硬化することにより形成され、酸素や水の通過を遮断し、有害微粒子の付着を阻止する物理的な防食作用により鋼管10を腐食から保護するとともに第一層16を経年劣化から保護する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼材の防食に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼材の地中に埋設された部分と地上に露出した部分との境界部一帯は地際部と呼ばれ、他の部分に比べて腐食の進行が早くなっている。その原因としては、地際部には鋼材を伝わって落下してきた雨水や結露などの水分およびこれらに含まれる有害微粒子などが溜まりやすいこと、鋼材の変形により地際部に発生する応力集中が金属疲労の進行を早めること、地上部と埋設部との間の電位差による腐食電流の発生などがあげられる。腐食が進行すると鋼材の負荷能力が著しく低下し、安全管理の上で大変に危険な状態となるため、鋼材には腐食防止のための溶融亜鉛メッキ、電気亜鉛メッキ、エポキシ樹脂系塗装などが施されていることが多い(特許文献1参照)。これらには鋼材に酸化皮膜を形成し、空気や水に含まれる酸素、有害微粒子などの侵入を防ぐという保護皮膜作用がある。しかしこの保護皮膜作用には、皮膜の経年的劣化による腐食の発生、そして腐食箇所に発生する腐食電流によって腐食がさらに進行するという耐久性の問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−37217号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
溶融亜鉛メッキ等には鋼材に酸化皮膜を形成し、空気や水に含まれる酸素、有害微粒子などの侵入を防ぐという保護皮膜作用がある。しかしこの保護皮膜作用には皮膜の経年的劣化による腐食の発生、そして腐食箇所に発生する腐食電流によって腐食がさらに進行するという耐久性の問題がある。本発明は、これらの問題に鑑みてなされたものであり、鋼材を長期間にわたって腐食から保護し得る鋼材の防食構造および方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、素地調整後の鋼材に付着させた金属亜鉛末を含む第一層と、前記第一層を囲繞するガラス膜からなる第二層を含む、鋼材の防食構造を提供する。
【0006】
金属亜鉛末には、鉄よりイオン化傾向の大きい亜鉛が鉄より先に陽極化する犠牲防食作用により、鋼材自体の腐食を抑制する電気化学的な防食作用がある。
【0007】
ガラス皮膜には、高い耐候性、不燃性、耐水性、耐熱性、耐汚染性という特性があり、酸素や水の通過を遮断するとともに有害微粒子の付着を阻止する物理的な防食作用により、鋼材を腐食から保護するとともに第一層を経年劣化から保護する。
【0008】
鋼材は、第一層による電気化学的作用と第二層による物理的作用という重層的な防食作用によって長期間にわたって腐食から保護される。
【0009】
本発明は、素地調整後の鋼材に施した常温亜鉛メッキにより第一層となる亜鉛被膜を形成し、第一層に塗布された常温液体ガラス塗料が硬化することにより第二層となるガラス被膜を形成することができる。常温亜鉛メッキは、溶融亜鉛メッキや電気亜鉛メッキ、亜鉛溶射などと異なり、常温施工が可能であるため、施工に係る費用や工期を低減できるほか、既設の鋼材への施工や既に施されたメッキの補修が簡単に行えるという利点がある。
【0010】
第一層と第二層の間にプライマーを配することにより、ガラス膜の密着性を高めるとともに、鋼材の変形によって引き起こされるガラス膜の破損等の不具合を排除することもできる。またプライマーを配することにより防錆効果が安定し、長期間にわたって防錆効果を維持することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、鋼材を長期間にわたって腐食から保護することが可能になるので、鋼材の寿命の延命と安全性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】鋼管の地際部に施された防食構造を示す模式図
【図2】H鋼に施された防食構造を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1において鋼管10は地盤面12を境に下側が地中に埋設され、上側が地上に露出している。地盤面12を挟んで上下に帯状に広がる部分が地際部14である。地際部14は、金属亜鉛末を含む第一層16と、ガラス膜からなる第二層18によって二重に被覆され、周囲の環境と遮断されている。
【0014】
第一層16は、常温亜鉛メッキ(ZRC)によって施工された亜鉛被膜である。常温亜鉛メッキには、金属亜鉛末を多量に含む塗料(ジンクリッチペイント)の状態で市販されているものを用いることができる。例えば、トモリックテクノロジー株式会社の「トモリック(登録商標)」などを用いることができる。また、MIL規格(米軍の物資調達規格)では、乾燥塗膜中に94%以上の金属亜鉛末を含有するジンクリッチペイントの使用が推奨されていることから、例えば、ローバル株式会社の「エポローバル(登録商標)」であれば、95.9重量%の金属亜鉛末の含有があり、好適である。防食能力は膜厚に比例するが、膜厚80μmを標準膜厚とし、概ね2回のハケ塗りで標準膜厚を達成できる。ハケ塗りのほかにスプレー塗装も可能である。
【0015】
第一層16が犠牲防食作用を奏するためには、金属亜鉛末が鋼管10の素地に接触していなければならないので、常温亜鉛メッキの施工に際しては素地調整(前処理)が必要となる。常温亜鉛メッキの施工対象となる鋼管10は、素地調整により、旧塗膜、錆等の酸化物は完全に除去し、油脂分や水分も除去し、完全に乾燥した清浄な鉄面を表出させる。もし鋼管10に既に亜鉛メッキが施されている場合には、全てのメッキ部分を除去する必要はなく、表面の劣化部分や酸化部分のみを除去し、清浄な亜鉛メッキ面を表出させる。素地調整後は速やかに常温亜鉛メッキの施工を開始する。
【0016】
第二層18は、第一層16に塗布した常温液体ガラス塗料を硬化させてなるガラス被膜である。常温液体ガラス塗料は珪素を主成分とする液状の塗料であり、第一層16に塗布すると珪素が空気中の水分と反応して硬化し、石英ガラスの被膜を形成する。常温液体ガラス塗料は市販のものをそのまま使用することができる。
【0017】
本発明の防食構造は、鋼管10のほかにもL型、H型など様々な形状の鋼材にも適用が可能である。図2はH鋼20に施工した例を示している。H鋼20は基礎コンクリート22にアンカーボルト24によって固定されている。このような複雑な形状の対象物であっても、それぞれ塗料を塗布するだけで第一層26および第二層28を形成し、アンカーボルト24も含めた全ての鋼材に簡単に防食加工を施すことができる。
【符号の説明】
【0018】
10 鋼管
12、30 地盤面
16、26 第一層
18、28 第二層
20 H鋼
24 アンカーボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
素地調整後の鋼材に付着させた金属亜鉛末を含む第一層と、前記第一層を囲繞するガラス被膜からなる第二層を含む、鋼材の防食構造。
【請求項2】
前記第一層が素地調整後の鋼材に施した常温亜鉛メッキにより形成された亜鉛被膜であり、前記第二層が前記第一層に塗布された常温液体ガラス塗料を硬化させてなるガラス被膜である、請求項1に記載の鋼材の防食構造。
【請求項3】
前記第一層と前記第二層の間にプライマーを配した、請求項1または2に記載の鋼材の防食構造。
【請求項4】
素地調整後の鋼材に施した常温亜鉛メッキにより形成された亜鉛被膜と、前記亜鉛被膜を囲繞するガラス被膜の間にプライマーを配する、鋼材の防食方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−107342(P2012−107342A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−40770(P2012−40770)
【出願日】平成24年2月27日(2012.2.27)
【基礎とした実用新案登録】実用新案登録第3165263号
【原出願日】平成22年10月25日(2010.10.25)
【出願人】(509318516)
【Fターム(参考)】