説明

鋼材コーティング用水性分散体及び樹脂コーティングされた鋼材

【課題】コーティングされた鋼材の後加工後であっても防錆性に優れた鋼材コーティング用水性分散体を提供する。
【解決手段】ポリウレタン樹脂(U)及び層状粘土鉱物(C)を含む分散質並びに水性分散媒からなり、下記(1)〜(3)を満たすことを特徴とする、鋼材コーティング用水性分散体。
(1)ポリウレタン樹脂(U)の重量に基づくウレタン基及びウレア基の合計濃度が、1.7〜3.5mmol/gである。
(2)ポリウレタン樹脂(U)と層状粘土鉱物(C)の重量比(C)/(U)が、0.01〜0.1である。
(3)鋼材コーティング用水性分散体を105℃で3時間乾燥して得られる厚さ100±10μmの皮膜が、300〜1,000%の破断伸度及び3.0×10-11cm3・cm/cm2・s・cmHg以下の酸素透過率を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鋼材コーティング用水性分散体及び樹脂コーティングされた鋼材に関し、さらに詳しくはポリウレタン樹脂(U)、層状粘土鉱物(C)及び水性媒体からなる鋼材コーティング用水性分散体、並びに該鋼材コーティング用水性分散体をコーティングして得られる樹脂コーティングされた鋼材に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、家庭用電気製品、建材などに使用する鋼材として、亜鉛メッキ表面処理鋼板が広く用いられている。従来、亜鉛メッキ表面処理鋼板の防錆性を高める目的でクロメート処理が施されていたが、近年の環境に対する意識の高まりによりノンクロム化が検討されている。これまで鋼材等の表面処理剤として水系樹脂材料によるノンクロム化の検討が進められている。
【0003】
水系樹脂材料によるノンクロム化の検討は、特にポリウレタン樹脂を鋼材にコーティングする方法について多くの技術が提案されている。たとえば特許文献1には、耐チッピング性に優れ、光沢保持率の高い防錆用塗料として使用可能なウレタン系水系組成物が、また特許文献2にはクロメート処理と同程度の防錆性を示すウレタン系水系樹脂が提案されている。
【特許文献−1】特開平3−259974号公報
【特許文献−2】特開2004−256790号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、これらの水系ポリウレタン樹脂をコーティングする方法においては、コーティングされた状態の鋼材の防錆性は、クロメート処理と同程度の防錆性を示すものの、コーティング後、更に曲げ加工や絞り加工などの後加工を施した鋼材では防錆性が低下するという問題があり、クロメート処理を施したものと同等の防錆性が得られる水系樹脂材料の開発には至っていない。
本発明は環境上問題があるクロメート処理を行なうことなく、コーティングされた状態の鋼材の防錆性のみでなく、更に後加工された鋼材の防錆性においても優れた鋼材コーティング用水性分散体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明に到達した。すなわち本発明は、
ポリウレタン樹脂(U)、層状粘土鉱物(C)及び水性媒体を含有し、下記(1)〜(3)を満たす鋼材コーティング用水性分散体;該鋼材コーティング用水性分散体、並びに前記ポリウレタン樹脂(U)以外の樹脂、ワックス、酸化防止剤、紫外線吸収剤、防腐剤、凍結防止剤、可塑剤、消泡剤、有機溶剤、架橋剤、顔料、染料、粘弾性調整剤、湿潤剤及び防錆剤からなる群から選ばれる1種以上の添加剤を含有してなる鋼材コーティング用水性塗料組成物;並びに、該鋼材コーティング用水性分散体、又は水性塗料組成物を鋼材にコーティングした後、乾燥して得られる、樹脂コーティングされた鋼材;である。
(1)ポリウレタン樹脂(U)の重量に基づくウレタン基及びウレア基の合計濃度が、1.7〜3.5mmol/gである。
(2)ポリウレタン樹脂(U)と層状粘土鉱物(C)中の無機成分(C0)の重量比(C0)/(U)が、0.01〜0.1である。
(3)鋼材コーティング用水性分散体を105℃で3時間乾燥して得られる厚さ100±10μmの皮膜が、300〜1,000%の破断伸度及び3.0×10−11cm3・cm/cm2・s・cmHg以下の酸素透過率を有する。
【発明の効果】
【0006】
本発明の鋼材コーティング用水性分散体は、鋼材表面に、環境上問題があるクロメート処理を行なうことなく、コーティングされた状態の鋼材の防錆性のみでなく、更に後加工された鋼材の防錆性にも優れる鋼材コーティング用水性分散体である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明におけるポリウレタン樹脂(U)は、ポリイソシアネート成分(a1)、ポリオール成分(a2)、親水基含有活性水素含有成分(a3)、及び必要によりその他の活性水素含有成分(a4)とから構成される。
【0008】
(U)を構成するポリイソシアネート成分(a1)は、脂肪族ポリイソシアネート(a11)及び脂環族ポリイソシアネート(a12)から選ばれる1種以上である。
脂肪族ポリイソシアネート(a11)としては、例えばエチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、1,6,11−ウンデカントリイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート(2,6−ジイソシアナトメチルカプロエート)、ビス(2−イソシアナトエチル)フマレート、ビス(2−イソシアナトエチル)カーボネート、及び2−イソシアナトエチル−2,6−ジイソシアナトヘキサノエートなどが挙げられる。
【0009】
脂環族ポリイソシアネート(a12)としては、例えばイソホロンジイソシアネート(以下、IPDIと略。記)、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート以下、(水添MDIと略記。)、シクヘキシレンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、ビス(2−イソシアナトエチル)−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボキシレート、並びに2,5−及び/又は2,6−ノルボルナンジイソシアネートなどが挙げられる。
脂肪族又は脂環族ポリイソシアネートであれば、芳香族ポリイソシアネートに比べてコーティングされた鋼材が経時で変色しない点で優れている。これらのうちで好ましいものは耐候性の観点から脂環族ポリイソシアネート(a12)である。
【0010】
ポリオール成分(a2)としては、数平均分子量400〜5,000の高分子ポリオール(a21)、及び数平均分子量400未満の低分子ポリオール(a22)が挙げられる。
【0011】
高分子ポリオール(a21)としては、ポリカーボネートジオール(a211)、ポリエステルジオール(a212)及びポリエーテルジオール(a213)などが挙げられる。
【0012】
ポリカーボネートジオール(a211)としては、通常の方法すなわちジオール成分(エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコールなどの単独又は2種以上の混合物など)とエチレンカーボネートを反応させ脱エチレングリコール化による方法、あるいは上記ジオール成分とアリールカーボネート、たとえばジフェニルカーボネートとのエステル交換による方法で得られるものなどが挙げられる。
ポリカーボネートジオール(a211)の具体例としては、炭素数4〜10の直鎖状アルキレン基を有するポリカーボネートジオール(例えば、ポリテトラメチレンカーボネートジオール、ポリペンタメチレンカーボネートジオール、ポリヘキサメチレンカーボネートジオール、ノナンジオールのポリカーボネートジオールなど)、及び炭素数4〜10の分岐状アルキレン基を有するポリカーボネートジオール(例えば、2−メチルブタンジオールのポリカーボネートジオール、2−エチルブタンジオールのポリカーボネートジオール、ネオペンチルグリコールのポリカーボネートジオール、2−メチルペンタンジオールのポリカーボネートジオール、3−メチルペンタンジオールのポリカーボネートジオールなど)、及びこれらの共重合体が挙げられる。
【0013】
ポリエステルジオール(a212)としては、通常の方法すなわちジオール成分(前述と同様のもの)とジカルボン酸成分{脂肪族ジカルボン酸(コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバチン酸など)、芳香族ジカルボン酸(テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸など)などの単独又は2種以上の混合物など}とを反応(縮合)させることによる方法、あるいは、ラクトン(ε−カプロラクトン、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトンなどの単独又は2種以上の混合物など)を開環重合させることによる方法で得られるものなどが挙げられる。
【0014】
ポリエーテルジオール(a213)としては、通常の方法すなわち先に例示したジオール成分などへのアルキレンオキサイド(エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、1,2−、2,3−もしくは1,3−ブチレンオキサイド、テトラヒドロフラン、スチレンオキサイド、α−オレフィンオキサイド、エピクロルヒドリンなどの単独又は2種以上の混合物など)の付加を、無触媒で又は触媒(アルカリ触媒、アミン系触媒、酸性触媒)の存在下(とくにアルキレンオキサイド付加の後半の段階で)に常圧又は加圧下に1段階又は多段階で行なうことによる方法で得られるものなどが挙げられる。なお、アルキレンオキサイドを2種以上用いる場合の付加形態はブロックでもランダムでもよい。
【0015】
高分子ポリオール(a21)のうち、好ましいのは防錆性の観点からポリエステルポリオール(a212)である。(a21)の数平均分子量は通常400〜5,000、好ましくは500〜5,000、とくに好ましは1,000〜3,000である。数平均分子量が400以上であれば処理した樹脂が柔軟で加工後の防錆性の観点で好ましく、5,000以下であれば初期の防錆性の観点で好ましい。〔上記及び以下において数平均分子量はMnと略記し、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下GPC)を用いて、テトラヒドロフランを溶媒として、ポリスチレンを標準として測定されるものである。〕
【0016】
Mn400未満の低分子ポリオール(a22)としては、炭素数2〜15の多価アルコール類[2価アルコール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコールなど);3価アルコール(例えばグリセリン、トリメチロールプロパンなど);これらの多価アルコールのアルキレンオキサイド(エチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイド)の低モル付加物(Mn400未満)など]が挙げられる。
【0017】
親水基含有活性水素含有成分(a3)としては、アニオン性基含有活性水素含有成分(a31)、カチオン性基含有活性水素含有成分(a32)が挙げられる。
(a31)としては例えばカルボキシル基を含有するもの[ジアルキロールアルカン酸(例えば2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロールブタン酸、2,2−ジメチロールヘプタン酸、2,2−ジメチロールオクタン酸)、酒石酸、アミノ酸(例えばグリシン、アラニン、バリン)など]、スルホン酸基含有するもの[3−(2,3−ジヒドロキシプロポキシ)−1−プロパンスルホン酸、スルホイソフタル酸ジ(エチレングリコール)エステルなど]、スルファミン酸基を含有するもの[N,N−ビス(2−ヒドロキシルエチル)スルファミン酸など]及びこれらの塩、例えば第3級アミン類[トリアルキルアミン(例えばトリメチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルエチルアミン、ジエチルオクチルアミンなど)及びモルホリンなどの塩及び/又はアルカリ金属塩(ナトリウム、カリウム及びリチウム塩など)が挙げられる。
(a32)としては例えば3級アミノ基含有ジオール[アルキルジアルカノールアミン(例えばN−メチルジエタノールアミン、N−プロピルジエタノールアミン、N−ブチルジエタノールアミン、N−メチルジプロパノールアミン)及びジアルキルアルカノール(例えばN,N−ジメチルエタノールアミン)]及びこれらの塩、例えばカルボン酸塩など及び4級化剤(硫酸ジメチル、炭酸ジメチル、メチルクロライド、ベンジルクロライドなど)による4級化物が挙げられる。
これらのうちで好ましいものは、アニオン性基含有活性水素含有成分(a31)であり、さらに好ましくは2,2−ジメチロールプロピオン酸及び2,2−ジメチロールブタン酸である。
【0018】
本発明における(U)は、(a1)、(a2)及び(a3)の他に、その他の活性水素含有成分(a4)から構成されていてもよい。
その他の活性水素含有成分(a4)としては、ジイソシアネート成分(a1)と反応しうる、(a2)、(a3)以外の化合物が挙げられる。
【0019】
(a4)としては、高分子ポリオール(a21)と同時に使用される化合物(a41)、鎖伸長剤(a42)及び停止剤(a43)などが挙げられる。
【0020】
(a41)としては、炭素数2〜10のジアミン類(例えばエチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミン、トルエンジアミン、ピペラジンなど)、ポリアルキレンポリアミン類(例えばジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミンなど)、ヒドラジンもしくはその誘導体(二塩基酸ジヒドラジド例えばアジピン酸ジヒドラジドなど)、炭素数2〜10のアミノアルコール類(例えばエタノールアミン、ジエタノールアミン、2−アミノ−2−メチルプロパノール、トリエタノールアミンなど)などが挙げられる。
(a41)の使用量は、(a1)のイソシアネート基の当量に基づいて通常0.2当量以下、好ましくは0.1当量以下である。
【0021】
(a42)としては(a41)で挙げた炭素数2〜10のジアミン類、炭素数2〜10のアミノアルコール類などが挙げられる。
【0022】
(a43)としては、炭素数1〜8のモノアルコール類(メタノール、エタノール、イソプロパノール、セロソルブ類、カルビトール類など)、炭素数1〜10のモノアミン類(モノメチルアミン、モノエチルアミン、モノブチルアミン、ジブチルアミン、モノオクチルアミンなどのモノもしくはジアルキルアミン;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミンなどのモノもしくはジアルカノールアミンなど)が挙げられる。
(a42)及び(a43)の使用量の合計は、(a1)のイソシアネート基の当量に基づいて通常0.8当量以下、好ましくは0.6当量以下であり、(a43)の使用量は、(a1)のイソシアネート基の当量に基づいて通常0.3当量以下、好ましくは0.2当量以下である。
【0023】
(U)を製造する方法としては、例えば、(a1)、(a2)、(a3)、及び必要により(a4)、さらには必要により有機溶剤を仕込み、一段又は多段でポリウレタン樹脂を形成し、必要により(a3)部分を中和して親水化する方法、あるいは(a1)、(a2)、(a3)、及び必要により(a4)、さらには必要により有機溶剤を仕込み、一段又は多段でウレタンプレポリマーを形成し、次いで該プレポリマーに必要により(a3)部分を中和して親水化した後、あるいは親水化しながら、必要により有機溶剤、乳化剤、鎖伸長剤(a42)及び/又は鎖停止剤(a43)を含む水性媒体と通常10℃〜60℃、好ましくは20℃〜50℃で混合・分散して水性分散体となし、イソシアネート基が実質的に無くなるまで反応[水又は(a42)による鎖伸長、及び必要により(a43)による鎖停止]し、必要により有機溶剤を留去することにより製造することができる。
(a42)による鎖伸長及び必要により(a43)による鎖停止を行う場合には、プレポリマーを水性媒体中に分散させた後に、(a42)及び必要により(a43)を加えてプレポリマーと反応させるのが好ましい。
【0024】
ポリウレタン樹脂又はウレタンプレポリマーは、(a1)、(a2)、(a3)、及び必要により(a4)を、イソシアネート基/活性水素含有基 (カルボキシル基、スルホン酸基、スルファミン酸基を除く)の当量比が通常0.9〜3、好ましくは1.1〜2.0となる割合で、ウレタン化反応させることにより形成される。ウレタン化反応は、通常20℃〜150℃、好ましくは60℃〜110℃の反応温度で行われ、反応時間は通常2〜15時間である。ウレタン化反応は、イソシアネート基と実質的に非反応性の有機溶剤の存在下又は非存在下で行うことができる。ポリウレタン樹脂又はウレタンプレポリマーは通常0〜5重量%の遊離イソシアネート基を有する。
【0025】
上記の反応の際に用いる有機溶剤としてはイソシアネート基と実質的に非反応性のもの(例えば、エチルメチルケトン、アセトン等のケトン類、酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジオキサン等)が挙げられる。
【0026】
上記ウレタン化反応においては反応を促進させるため、必要により通常のウレタン化反応に使用される触媒を使用してもよい。触媒には、アミン触媒、たとえばトリエチルアミン、N−エチルモルホリン、トリエチレンジアミン及び米国特許第4524104号明細書に記載のシクロアミジン類[1,8−ジアザ−ビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7(サンアプロ社製造、DBU)など];錫系触媒、たとえばジブチル錫ジラウリレート、ジオクチル錫ジラウリレート及びオクチル酸錫;チタン系触媒、たとえばテトラブチルチタネート;ビスマス系触媒、たとえばトリオクチル酸ビスマス;などが挙げられる。
【0027】
(U)は、乳化剤を添加して乳化剤乳化型の(U)の水性分散体とすることもできるが、鋼材の防錆性の観点から乳化剤はできるだけ少ないことが好ましい。
乳化剤乳化型の(U)の水性分散体を製造する方法には、上記と同様にして、有機溶剤の存在下又は非存在下でプレポリマーを形成し、プレポリマー及び/又は水性媒体に乳化剤を加え、さらに必要に応じて該プレポリマーに塩基性化合物を加え親水化した後、あるいは親水化しながら水性媒体と混合して水性分散体とし反応[鎖伸長、及び必要により鎖停止]を行い必要により有機溶剤を留去する方法などが挙げられる。
乳化剤はプレポリマー、水性媒体のいずれか一方に加えても、双方に加えてもよい。乳化剤がプレポリマーと反応性の場合には水性媒体に加えるのが好ましい。(U)に対する乳化剤の重量割合は、ウレタンプレポリマーの重量に基づいて、通常0〜10重量%、好ましくは0〜3重量%である。
【0028】
乳化剤には、アニオン性、カチオン性、ノニオン性及び両性の界面活性剤 、高分子型乳化分散剤、及びこれらの2種以上の併用が含まれ、例えば米国特許第3929678号及び米国特許第4331447号明細書に記載のものが挙げられる。
これらの乳化剤のうちで好ましいものは、ノニオン性界面活性剤及び高分子型乳化分散剤である。
【0029】
プレポリマー又はプレポリマーの溶剤溶液を水性媒体に乳化分散させる装置の方式は特に限定されず、例えば下記の方式の乳化機が挙げられる:1)錨型撹拌方式、2)回転子−固定子式方式[例えば「エバラマイルダー」(荏原製作所製)]、3)ラインミル方式[例えばラインフローミキサー]、4)静止管混合式[例えばスタティックミキサー]、5)振動式[例えば「VIBRO MIXER」(冷化工業社製)]、6)超音波衝撃式[例えば超音波ホモジナイザー]、7)高圧衝撃式[ 例えばガウリンホモジナイザー(ガウリン社)]、8)膜乳化式[例えば膜乳化モジュール]、及び9)遠心薄膜接触式[例えばフィルミックス]。これらのうち、好ましいのは、2)である。
【0030】
本発明におけるポリウレタン樹脂(U)の重量に基づくウレタン基及びウレア基の合計濃度は、通常1.7〜3.5mmol/g、好ましくは2.0〜3.4mmol/gである。
ウレタン基及びウレア基の合計濃度が1.7mmol/g未満ではコーティングされた状態の防錆性の点で劣り、3.5mmol/gを超えると後加工後の防錆性の点で劣る。
なお、本発明における「ポリウレタン樹脂(U)の重量」とは、樹脂そのものの重量であって、溶剤は含まれない。
本発明におけるウレタン基及びウレア基の合計濃度は次式で計算できる。計算値をもって出来上がったポリウレタン樹脂のウレタン基及びウレア基の合計濃度とみなす。
【0031】
ウレタン基及びウレア基の合計濃度(mmol/g) =
[{仕込みのポリイソシアネート成分(a1)のモル数(mmol)}×2−{水と反応したポリイソシアネート成分(a1)のモル数(mmol)}]/ポリウレタン樹脂(U)の重量(g)
【0032】
なお、(U)の重量はポリウレタン樹脂を構成する(a1)〜(a4)の仕込み重量の合計であり、水と反応したポリイソシアネート成分(a1)のモル数は(a1)の仕込み重量を(a1)の分子量で除して計算できる。
【0033】
本発明における層状粘土鉱物(C)とは、アニオン性を有する層状無機化合物の結晶層間に無機カチオン、又は有機化合物カチオンを有するものである。層状粘土鉱物(C)は、100グラムあたり30〜250ミリ当量のカチオン交換能を持つものが好ましく、さらに好ましくは、100グラムあたり50〜200ミリ当量のカチオン交換能を持つものである。
カチオン交換能が100グラムあたり30ミリ当量以上であると水性分散体中での(C)の分散性がさらに向上しやすく、100グラムあたり250ミリ当量以下であると不純物量が減少することからコーティング塗膜の強度がさらに向上しやすい。
【0034】
層状粘土鉱物(C)の結晶層間に存在する無機カチオンとしては特に限定されず、ナトリウム、カリウム、リチウム、マグネシウム及びカルシウムなどの金属イオンが挙げられる。層状粘土鉱物(C)の結晶層間に存在する有機化合物カチオンとしては、1級アミンイオン、2級アミンイオン、3級アミンイオン、第4級アンモニウムイオン及びホスホニウムイオンなどが挙げられる。
【0035】
層状粘土鉱物(C)の組成の種類のうちで、結晶層間に無機カチオンを有するものとしては、例えば、モンモリロナイト、サポナイト、ヘクトライト、バイデライト、スティブンサイト及びノントロナイトなどのスメクタイト系鉱物、バーミキュライト、ハロイサイト、雲母、合成マイカ、並びに膨潤性マイカ等が挙げられる。
また、結晶層間に有機化合物カチオンを有するものとしては、上記無機カチオンを有するものを前記有機化合物カチオンによってイオン交換したものなどが挙げられる。
層状粘土鉱物(C)のうちで好ましいのは、コーティングされた状態の防錆性の観点から、スメクタイト系鉱物、合成マイカ及びそれらを有機化合物カチオンによってイオン交換したものからなる群から選ばれる1種以上であり、最も好ましいのはモンモリロナイト及びモンモリロナイトを有機化合物カチオンによってイオン交換したものである。
【0036】
層状粘土鉱物(C)のうちで結晶層間に無機カチオンを有する市販品でとしては、「クニピアF」(100g当たりのカチオン交換能115ミリ当量のモンモリロナイト、クニミネ工業(株)製)、「ME−100」(100g当たりのカチオン交換能120ミリ当量の合成マイカ、コープケミカル(株)製)、及び「ビーガムF」(スメクタイト、バンダービルト社製)などが挙げられる。
また、層状粘土鉱物(C)のうちで、結晶層間に有機化合物カチオンを有する市販品としては、「ナノフィル8」(有機化モンモリロナイト:カチオンとしてジメチルジステアリルアンモニウムを有するモンモリロナイト、ズードケミー社製)、及び「ナノフィル9」(有機化モンモリロナイト:カチオンとしてベンジルジメチルステアリルアンモニウムを有するモンモリロナイト、ズードケミー社製)金属などが挙げられる。
【0037】
本発明におけるポリウレタン樹脂(U)と層状粘土鉱物(C)中の無機成分(C0)の重量比(C0)/(U)は、通常0.01〜0.1、得られる皮膜の酸素透過性の観点から、好ましくは0.015〜0.09である。
なお、層状粘土鉱物(C)中の無機成分(C0)の重量%は、結晶層間に存在する有機物を除いた重量%をいう。(C0)の重量%は、(C)を130℃で3時間加熱乾燥した後、air下、550℃で3時間加熱乾燥したときの残さの、(C)を130℃で3時間加熱乾燥した残さに対する重量%である。
なお、上記の市販品における層状粘土鉱物(C)中の無機成分(C0)の割合(重量%)は、「クニピアF」が100重量%、「ME−100」が100重量%、「ビーガムF」が100重量%、「ナノフィル8」が55重量%、「ナノフィル9」が70重量%である。
【0038】
(C0)/(U)を上記範囲にするには、予め(C)中の(C0)の重量%を測定しておき、ポリウレタン樹脂(U)の各原料(溶剤以外の原料)の仕込量の合計に基づいて、(C)の仕込量を設定することにより、上記範囲に設定することができる。
【0039】
本発明におけるポリウレタン樹脂(U)に対する層状粘土鉱物(C)の重量割合は、コーティングされた状態の鋼材の防錆性、後加工を施した後の防錆性の観点から好ましくは0.2〜15%、さらに好ましくは0.5〜8%である。
【0040】
ポリウレタン樹脂(U)及び層状粘土鉱物(C)の水性媒体への分散方法は特に限定されないが、例えば以下の方法が挙げられる。
(1)ポリウレタン樹脂(U)の水性分散体を製造とした後に、(C)の水分散液を混合・分散する方法;
(2)ウレタンプレポリマーを製造した後に、(C)の水分散液と混合・分散する方法;
(3)ポリイソシアネートと(C)を混合しておいて、該混合物を用いてウレタンプレポリマーを製造し、さらに水性分散体とする方法;
【0041】
本発明の水性分散体における(U)の重量平均粒子径は、通常0.01〜0.5μm、好ましくは0.05〜0.2μmである。
本発明の水性分散体における(C)の重量平均粒子径は、通常0.01〜0.5μm、好ましくは0.05〜0.2μmである。
本発明の水性分散体における(U)及び(C)を含めた重量平均粒子径は、通常0.01〜0.5μm、好ましくは0.05〜0.2μmである。
重量平均粒子径は、25℃においてELS8000(大塚電子製)で測定できる。
【0042】
本発明の水性分散体における(U)及び(C)の合計濃度は、好ましくは20〜70重量%、さらに好ましくは30〜60重量%である。
【0043】
本発明において、ポリウレタン樹脂水性分散体を105℃で3時間乾燥して得られる厚さ100±10μmの皮膜の破断伸度は、通常300〜1,000%であり、好ましくは350〜800%である。
破断伸度が300%未満では、後加工後の防錆性が不足し、1,000%を超えるとコーティングされた状態の防錆性において劣る。
破断伸度の測定はJIS K6251に準じてダンベル状3号形で切り抜き後、島津製作所製オートグラフAGS−500Bで引っ張り速度500mm/minで行なうことができる。
【0044】
本発明において、ポリウレタン樹脂水性分散体を105℃で3時間乾燥して得られる厚さ100±10μmの皮膜の酸素透過率は、通常3.0×10−11cm3・cm/cm2・s・cmHg以下、好ましくは2.5×10−11cm3・cm/cm2・s・cmHg以下である。酸素透過率が3.0×10−11cm3・cm/cm2・s・cmHgを超えるとコーティングされた状態の防錆性、後加工後の防錆性が共に劣る。
酸素透過率の測定はJIS K7126に準じてGTRテック社製GTR−30Xで温度23℃、DRY酸素ガスで行なうことができる。
【0045】
本発明の鋼材コーティング用ポリウレタン水性塗料組成物は、前記ポリウレタン樹脂水性分散体、並びに前記ポリウレタン樹脂(U)以外の樹脂、ワックス、酸化防止剤、紫外線吸収剤、防腐剤、凍結防止剤、可塑剤、消泡剤、有機溶剤、架橋剤、顔料、染料、粘弾性調整剤、湿潤剤及び防錆剤からなる群から選ばれる1種以上の添加剤を含有してなる鋼材コーティング用ポリウレタン水性塗料組成物である。
【0046】
ポリウレタン樹脂(U)以外の水性樹脂としてはアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、NBR、SBR、EVA、PVA等が挙げられるが、特に限定されるものではない。
【0047】
ワックスとしては、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックスなどの酸化物、これらにカルボキシル基を付与した誘導体などの変性ワックス、更にエチレンとプロピレンの共重合系ワックス、エチレン系共重合ワックスの酸化ワックスなどが挙げられる。この種のワックスはターポリマー系も含めて多種使用することができる。更にマレイン酸の付加ワックス、脂肪酸エステル系なども例示できる。工業的に好ましいのは、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、変性ワックス、エチレンとプロピレンの共重合系ワックス、エチレン系共重合ワックスであり、これらの酸化物、カルボキシル基を付与した誘導体など、さらに酸価を付与したパラフィン系ワックス、カルナバワックスなどである。酸価のない、又は相溶性のないワックスについては、エマルションが不安定、又はエマルションを塗布した時の塗装外観が劣り、またワックスのブリードなどの現象がおきる。
【0048】
上記の樹脂、ワックスを水性分散体に混合する方法は、特に限定されず、使用目的に応じて適宜、界面活性剤を使用する方法、自己乳化させる方法、さらには機械的な分散方法などがとられる。界面活性剤として通常は上記のアニオン系界面活性剤、非イオン系界面活性剤が用いられるが、これらを併用することもでき、さらに必要に応じカチオン系界面活性剤、両性界面活性剤、反応性界面活性剤なども使用できる。自己乳化する場合は親水基を中和して使用する。
【0049】
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤[2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール(BHT)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)など];硫黄系酸化防止剤[ジラウリル3,3’−チオジプロピオネート(DLTDP)、ジステアリル3,3’−チオジプロピオネート(DSTDP)など];リン系酸化防止剤[トリフェニルホスファイト(TPP)、トリイソデシルホスファイト(TDP)など];アミン系酸化防止剤[オクチル化ジフェニルアミン、N−n−ブチル−p−アミノフェノール、N,N−ジイソプロピル−p−フェニレンジアミンなど]などが挙げられる。
【0050】
紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系(2−ヒドロキシベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノンなど)、サリチレート系(フェニルサリチレート、2,4−ジ−t−ブチルフェニル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエートなど)、ベンゾトリアゾール系[(2’−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾールなど]、アクリル系[エチル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート、メチル−2−カルボメトキシ−3−(パラメトキシベンジル)アクリレートなど]が挙げられる。
【0051】
防腐剤としては、有機4級アンモニウム塩、有機ヨウ素系、臭素系、硫黄系、窒素硫黄系の防腐・防かび剤などが挙げられる。
【0052】
凍結防止剤としてはエチレングリコール、プロピレングリコールなどが挙げられる。
【0053】
可塑剤としてはジオクチルフタレート(DOP)、ジブチルフタレートなどのフタル酸エステル、ジオクチルアジペートなどの脂肪酸エステル 、塩素化パラフィン、ポリプロピレングリコールジメチルエーテルなどのポリエーテル化合物などが挙げられる。
【0054】
消泡剤としては、長鎖アルコール(オクチルアルコールなど)、ソルビタン誘導体(ソルビタンモノオレートなど)、シリコーンオイル(ポリメチルシロキサン、ポリエーテル変性シリコーン、弗素変性シリコーンなど)などが挙げられる。
【0055】
有機溶剤としては炭化水素系(灯油、トルエン、テレピン油、トルエン、ジペンテンなど)、アルコール系(メタノール、エタノール、イソプロパノールブチルアルコールなど)、エステル系(酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸オクチル、酢酸シクロヘキシルなど)、ケトン・エーテル系(メチルアセトン、メチルエチルケトン、アセトン、ジエチルエーテル、ジブチルエーテルなど)などが挙げられる。
【0056】
架橋剤としては、シランカップリング剤、金属架橋剤、カルボジイミド系、オキサゾリン系、エポキシ系、ブロックイソシアネート系、メラミン系、エチレンイミン系、アジリジン系、アルコキシシラン系のもの等が挙げられる。
【0057】
顔料としては、無機顔料及び有機顔料が挙げられる。
無機顔料としては、白色顔料(チタン白、亜鉛華、リトポン、鉛白など)、透明性白色顔料(炭酸カルシウム、硫酸バリウム、珪酸カルシウムなど)、黒色顔料(カーボン黒、動物性黒、黒鉛など)、灰色顔料(亜鉛末、スレート粉など)、赤色顔料(ベンガラ、鉛丹など)、茶色顔料(アンバー、酸化鉄粉、バンダイク茶など)、黄色顔料(黄鉛、黄酸化鉄など)、緑色顔料(クロム緑、酸化クロム、ビリジアンなど)、青色顔料(群青、紺青など)、紫色顔料(マルス紫、淡口コバルト紫など)、金属粉顔料(アルミニウム粉、銅粉、ブロンズ粉など)などが挙げられる。
【0058】
有機顔料としては、天然有機顔料及び合成有機顔料が挙げられる。天然有機顔料としては、コチニール・レーキ、マダー・レーキなどが挙げられる。合成有機顔料としては、ニトロソ顔料(ナフトール・グリンY、ナフトール・グリンBなど)、ニトロ顔料(ナフトール・イエローS、ピグメント・クロリン、リトール・ファスト・イエローGGなど)、顔料色素型アゾ顔料(トルイジン・レッド、ハンサ・イエロー、ナフトールAS−Gなど)、水溶性染料から作るアゾレーキ(ペルシャ・オレンジ、ポンソー2R、ボルドーBなど)、難溶性染料から作るアゾレーキ(リソール・レッド、ボーン・マルーン、レッド・レーキCなど)、塩基性染料から作るレーキ(ファナル・カラーなど)、塩基型の酸性染料から作るレーキ(アシッド・グリーン・レーキ、ピーコック・ブルー・レーキなど)、キサンタン・レーキ(エオシンなど)、アントラキノンレーキ(アリザリン・レーキ、プルプリン・レーキなど)、バット染料からの顔料(インジゴ、アルゴン・イエローなど)、フタロシニアン顔料(フタロシニアン・ ブルー、フタロシニアン・グリーンなど)などが挙げられる。
これらの顔料は、単独又は2種以上を併用して使用される。
【0059】
染料としては、塩基性染料、酸性染料、バット染料などが挙げられる。
【0060】
粘弾性調整剤としては、増粘剤、たとえばセルロース系粘度調整剤(メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロースなど、Mwは通常20,000 以上)、タンパク質系(カゼイン、カゼインソーダ、カゼインアンモニウムなど)、アクリル系(ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸アンモニウムなど、Mwは通常20,000以上)、及びビニル系(ポリビニルアルコールなど、Mwは通常20,000以上)が含まれる。これらのうち、アクリル系、ビニル系が好ましい。
【0061】
湿潤剤としては、多価アルコール(エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなど)などが挙げられる。
【0062】
防錆剤としては無機防錆剤、有機防錆剤が使用できる。
【0063】
無機防錆剤としては、例えばケイ酸ナトリウム、ケイ酸カルシウムなどのケイ酸塩類、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、ポリリン酸ナトリウムなどのリン酸塩類、亜硝酸ナトリウムなどの亜硝酸塩類などがある。具体的には、[さびを防ぐ事典](昭和56年6月30日株式会社産業調査会出版部発行)に記載の腐食抑制剤が使用できる。これらのうち好ましいものはケイ酸塩類、リン酸塩類であり、さらに好ましいものはケイ酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウムである。
【0064】
有機防錆剤としては、例えば、炭素数2〜16の脂肪族又は脂環族アミン類(オクチルアミンなどのアルキルアミン;オレイルアミンなど;シクロヘキシルアミンなどのシクロアルキルアミン);そのEO(1〜2モル)付加物;アルカノールアミン類(モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノプロパノールアミンなど);そのEO(1〜2モル)付加物;脂肪族カルボン酸類(オレイン酸、ステアリン酸など)とアルカリ金属又はアルカリ土類金属との塩;スルフォン酸類(石油スルホネートなど);りん酸エステル類(ラウリルホスフェートなど)などがある。具体的には、[石油製品添加剤](昭和49年8月10日幸書房発行)に記載のさび止め剤が使用できる。又、これらは2種以上を併用してもよい。
【0065】
上記の各添加剤の添加量は、本発明のポリウレタン樹脂水性分散体中の(U)及び(C)の合計100重量部に対して、(U)以外の樹脂は、好ましくは0〜20重量部、さらに好ましくは0〜10重量部であり、ワックス、酸化防止剤、紫外線吸収剤、防腐剤、凍結防止剤、消泡剤、有機溶剤、架橋剤、顔料、染料、粘弾性調整剤、湿潤剤は、好ましくは0〜5重量部、さらに好ましくは0.1〜2重量部、可塑剤、防錆剤は、好ましくは0〜40重量部、さらに好ましくは1〜10重量部である。
【0066】
本発明の樹脂加工コーティングされた鋼材は、上記のポリウレタン樹脂水性分散体又はポリウレタン水性塗料組成物を鋼材にコーティングした後、乾燥して得られるものである。乾燥条件は、室温、もしくは25〜160℃の温度で1分〜7日間である。
【0067】
鋼材にコーティングする方法としては、特に制限されるものではないが、例えば浸せき塗工、ブレードコーター、エアナイフコーター、ロッドコーター、ハイドロバーコーター、トランスファロールコーター、リバースコーター、グラビアコーター、ダイコーター、カーテンコーター、スプレコーター、ロールコーター、スクリーンコーター又はスピンコーターなどによるコーティングが挙げられ、鋼材の一部もしくは全面にコーティングすることが出来る。
本発明の樹脂コーティングされた鋼材は、自動車用、家庭用電気製品、や建材用などとして有用である。
【0068】
<実施例>
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。以下において、「部」は重量部、「%」は重量%を示す。
【0069】
<水性分散体>
実施例1
温度計及び攪拌機を備えた密閉反応槽に数平均分子量(Mnと略記)2,000のポリブチレンアジペート(「サンエスター4620」、三洋化成工業製)788部、シクロヘキサンジメタノール102部、2,2−ジメチロールプロピオン酸(以下、DMPAと略記。)76部、水添MDI680部(2.60mol)及びN−メチルピロリドン550部を仕込み、反応系を窒素ガスで置換したのち、攪拌下90℃で10時間反応させ、末端イソシアネート基ウレタンプレポリマー溶液を得た。得られたプレポリマー溶液を50℃に冷却してトリエチルアミン82部を加えた。水2,700部を該プレポリマー溶液に加えホモミキサーで1分間攪拌して乳化した後、10%のエチレンジアミン水溶液352部を加えて反応させ水性媒体以外の成分の濃度を35%に調整したもの100部に、層状粘土鉱物として「クニピアF」の2%水分散液(「クニピアF」をイオン交換水中に2%の濃度にホモミキサーで80℃、30分の条件で分散したもの;以下、「クニピアF」2%水分散液と略記する)を重量比(C0)/(U)が0.04となるように70部加えて、攪拌下で混合し、ポリウレタン樹脂水性分散体−1を得た。なお、水と反応したポリイソシアネートのモル数は0.33mol、(U)の重量は1,687部であった。ウレタン基及びウレア基の合計濃度は次式で計算した。
(ポリイソシアネートのモル数×2−水と反応したポリイソシアネートのモル数)/(U)の重量=(2.60×2−0.33)/1,687=2.9mmol/g。
【0070】
実施例2
水添MDI1,680部に「ナノフィル8」を重量比(C0)/(U)が0.04となるように107部添加してから温度計及び攪拌機を備えた密閉反応槽に「サンエスター4620」788部、シクロヘキサンジメタノール102部、DMPA76部及びN−メチルピロリドン550部を仕込み、反応系を窒素ガスで置換したのち、攪拌下90℃で10時間反応させ、末端イソシアネート基ウレタンプレポリマー溶液を得た。得られたプレポリマー溶液を50℃に冷却してトリエチルアミン82部を加えた。水2,700部を該プレポリマー溶液に加えホモミキサーで1分間攪拌して乳化した後、10%のエチレンジアミン水溶液352部を加えて反応させ、水性媒体以外の成分の濃度を35%に調整し、水性分散体−2(ウレタン基及びウレア基の合計濃度;2.9mmol/g、(C0)/(U)=0.04)を得た。
【0071】
実施例3
温度計及び攪拌機を備えた密閉反応槽に「サンエスター4620」700部、DMPA45部、IPDI239部及びN−メチルピロリドン328部を仕込み、反応系を窒素ガスで置換したのち、攪拌下90℃で10時間反応させ、末端イソシアネート基ウレタンプレポリマー溶液を得た。得られたプレポリマー溶液を50℃に冷却してトリエチルアミン49部を加えた。水2,700部を該プレポリマー溶液に加えホモミキサーで1分間攪拌して乳化した後、10%のエチレンジアミン水溶液140部を加えて反応させ、水性媒体以外の成分の濃度を35%に調整したもの100部に、「クニピアF」2%水分散液を重量比(C0)/(U)が0.08となるように140部混合し水性分散体−3(ウレタン基及びウレア基の合計濃度;2.0mmol/g、(C0)/(U)=0.08)を得た。
【0072】
実施例4
「サンエスター4620」のかわりにMn2,000のポリヘキサメチレンアジペート(「ニッポラン4073」、日本ポリウレタン製)を用いて、水性媒体以外の成分の濃度を35%に調整したもの100部に「クニピアF」2%水分散液を重量比(C0)/(U)が0.08となるように140部混合したこと以外は実施例1と同様にして水性分散体−4(ウレタン基及びウレア基の合計濃度;2.9mmol/g、(C0)/(U)=0.08)を得た。
【0073】
実施例5
層状無機化合物として「クニピアF」の代わりに「ME−100」を用いたこと以外は実施例1と同様にしてポリウレタン樹脂水性分散体−5(ウレタン基及びウレア基の合計濃度;2.9mmol/g、(C0)/(U)=0.04)を得た。
【0074】
実施例6
「サンエスター4620」のかわりにMn2,000のポリテトラメチレングリコール(「PTMG2000」、三菱化学製)を用いたこと以外は実施例1と同様にして水性分散体−6(ウレタン基及びウレア基の合計濃度;2.9mmol/g、(C0)/(U)=0.04)を得た。
【0075】
実施例7
「サンエスター4620」のかわりにMn2,000のポリヘキサメチレンカーボネートジオール(「ニッポラン980」、日本ポリウレタン製)を用いたこと以外は実施例1と同様にして水性分散体−7(ウレタン基及びウレア基の合計濃度;2.9mmol/g、(C0)/(U)=0.04)を得た。
【0076】
実施例8
温度計及び攪拌機を備えた密閉反応槽に「サンエスター4620」471部、DMPA50部、水添MDI508部及びN−メチルピロリドン365部を仕込み、反応系を窒素ガスで置換したのち、攪拌下90℃で10時間反応させ、末端イソシアネート基ウレタンプレポリマー溶液を得た。得られたプレポリマー溶液を50℃に冷却してトリエチルアミン54部を加えた。水1,500部を該プレポリマー溶液に加えホモミキサーで1分間攪拌して乳化した後、10%のエチレンジアミン水溶液210部を加えて反応させ、水性媒体以外の成分の濃度を35%に調整したもの100部に、「クニピアF」2%水分散液を重量比(C0)/(U)が0.02となるように35部混合し、水性分散体−8(ウレタン基及びウレア基の合計濃度;3.3mmol/g、(C0)/(U)=0.02)を得た。
【0077】
比較例1
温度計及び攪拌機を備えた密閉反応槽に「サンエスター4620」343部、シクロヘキサンジメタノール32部、DMPA44部、水添MDI529部及びN−メチルピロリドン316部を仕込み、反応系を窒素ガスで置換したのち、攪拌下90℃で10時間反応させ、末端イソシアネート基ウレタンプレポリマー溶液を得た。得られたプレポリマー溶液を50℃に冷却してトリエチルアミン48部を加えた。水1,300部を該プレポリマー溶液に加えホモミキサーで1分間攪拌して乳化した後、10%のエチレンジアミン水溶液530部を加えて反応させ、水性媒体以外の成分の濃度を35%に調整したもの100部に、「クニピアF」2%水分散液を重量比(C0)/(U)が0.04となるように70部を攪拌下で混合し水性分散体−9(ウレタン基及びウレア基の合計濃度;3.6mmol/g、(C0)/(U)=0.04)を得た。
【0078】
比較例2
温度計及び攪拌機を備えた密閉反応槽に「サンエスター4620」788部、シクロヘキサンジメタノール102部、DMPA76部、水添MDI680部及びN−メチルピロリドン550部を仕込み、反応系を窒素ガスで置換したのち、攪拌下90℃で10時間反応させ、末端イソシアネート基ウレタンプレポリマー溶液を得た。得られたプレポリマー溶液を50℃に冷却してトリエチルアミン82部を加えた。水2,700部を該プレポリマー溶液に加えホモミキサーで1分間攪拌して乳化した後、10%のエチレンジアミン水溶液352部を加えて反応させ水性媒体以外の成分の濃度を35%に調整し、水性分散体−10(ウレタン基及びウレア基の合計濃度;2.9mmol/g、(C0)/(U)=0)を得た。
【0079】
比較例3
温度計及び攪拌機を備えた密閉反応槽に「サンエスター4620」737部、DMPA24部、水添MDI222部及びN−メチルピロリドン328部を仕込み、反応系を窒素ガスで置換したのち、攪拌下90℃で10時間反応させ、末端イソシアネート基ウレタンプレポリマー溶液を得た。得られたプレポリマー溶液を50℃に冷却してトリエチルアミン26部を加えた。水2,700部を該プレポリマー溶液に加えホモミキサーで1分間攪拌して乳化した後、10%のエチレンジア調整したもの100部に、「クニピアF」2%水分散体を重量比(C0)/(U)が0.08となるように140部を攪拌下で混合し水性分散体−11(ウレタン基及びウレア基の合計濃度;1.6mmol/g、(C0)/(U)=0.08)を得た。
【0080】
実施例1〜8、及び比較例1〜3で得られたポリウレタン樹脂(U)の主原料、層状粘土鉱物の種類、粘土鉱物の添加量、及びフィルムの破断伸度、酸素透過率を表1に示す。
なお、破断伸度、酸素透過率はいずれも前述の測定方法で測定した。
【0081】
【表1】

<樹脂コーティングされた鋼材の製造>
実施例9〜16及び比較例4〜5
実施例1〜8、比較例2又は3で得られたポリウレタン樹脂水性分散体を「ジンコート」(亜鉛メッキ鋼板、10cm×5cm×0.08cm、エンジニアリングテストサービス社製)上に乾燥後の膜厚が5μmとなるようにバーコーターを用いてに塗布した。これを120℃の乾燥機で2分乾燥することにより樹脂コーティングされた鋼材を得た。 各水性分散体をそれぞれ6枚の「ジンコート」にコーティングした。
【0082】
<樹脂コーティングされた鋼材の防錆性の評価試験>
実施例及び比較例で得られた樹脂コーティングされた状態の鋼材(各3枚)について、以下の評価方法で防錆性、及び耐候性について評価した。最も良いものを5点として5段階で評価し、3枚の評価点の算術平均値を評価結果とした。結果を表2に示す。

[防錆性]
JIS Z2371に従い塩水噴霧試験を行い15時間後の外観により評価した。
判定基準:
5点:錆発生面積1%未満。
4点:錆発生面積1%以上30%未満。
3点:錆発生面積30%以上60%未満。
2点:錆発生面積60%以上99%未満。
1点:錆発生面積99%以上。
【0083】
<更に後加工された鋼材の防錆性>
樹脂コーティングされた鋼材(各3枚)に、エリクセン試験機で深さ1cmのくぼみを作った。これを後加工された鋼材とし、上記と同様にJIS Z2371に従い塩水噴霧試験を行い15時間後の外観により評価した。判定基準は上記と同様であり、3枚の評価点の算術平均値を評価結果とした。結果を表2に示す。
【0084】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明による鋼材コーティング用ポリウレタン樹脂水性分散体は自動車用、家庭用電気製品、建材用の鋼材として好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタン樹脂(U)及び層状粘土鉱物(C)を含む分散質並びに水性分散媒からなり、下記(1)〜(3)を満たすことを特徴とする、鋼材コーティング用水性分散体。
(1)ポリウレタン樹脂(U)の重量に基づくウレタン基及びウレア基の合計濃度が、1.7〜3.5mmol/gである。
(2)ポリウレタン樹脂(U)と層状粘土鉱物(C)中の無機成分(C0)の重量比(C0)/(U)が、0.01〜0.1である。
(3)鋼材コーティング用水性分散体を105℃で3時間乾燥して得られる厚さ100±10μmの皮膜が、300〜1,000%の破断伸度及び3.0×10−11cm3・cm/cm2・s・cmHg以下の酸素透過率を有する。
【請求項2】
前記層状粘土鉱物(C)が、スメクタイト系鉱物、合成マイカ及びそれらを有機化合物カチオンによってイオン交換したものからなる群から選ばれる1種以上である請求項1記載の鋼材コーティング用水性分散体。
【請求項3】
請求項1又は2記載の鋼材コーティング用水性分散体、並びに前記ポリウレタン樹脂(U)以外の樹脂、ワックス、酸化防止剤、紫外線吸収剤、防腐剤、凍結防止剤、可塑剤、消泡剤、有機溶剤、架橋剤、顔料、染料、粘弾性調整剤、湿潤剤及び防錆剤からなる群から選ばれる1種以上の添加剤を含有してなる鋼材コーティング用水性塗料組成物。
【請求項4】
請求項1若しくは2記載の鋼材コーティング用水性分散体、又は請求項3記載の水性塗料組成物を鋼材にコーティングした後、乾燥して得られる、樹脂コーティングされた鋼材。

【公開番号】特開2008−297463(P2008−297463A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−145752(P2007−145752)
【出願日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】