説明

鋼材被覆用エチレン系樹脂および樹脂被覆鋼材

【課題】直鎖状低密度ポリエチレンの有する衝撃強度を過度に低下させることなく耐熱変形性を高めた鋼材被覆用エチレン系樹脂を提供する。
【解決手段】以下の条件を全て満足する鋼材被覆用エチレン系樹脂。
(a)密度が890〜930kg/m3
(b)メルトフローレート(MFR)が0.1〜10g/10分
(c)流動の活性化エネルギー(Ea)が50kJ/mol未満
(d)Mz/Mwが3.5以上
(e)(Mz/Mw)/(Mw/Mn)≧0.9
(f)温度上昇溶離分別法によって測定される100℃以上での溶出樹脂量の割合が1重量%未満(ただし、エチレン系樹脂の重量を100重量%とする)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼材被覆用エチレン系樹脂および樹脂被覆鋼材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
天然ガスや原油等を輸送したり、通信ケーブル等を通したりするために使用される鋼管には、鋼材の防食のため、ポリオレフィン系樹脂によって被覆が施されている。被覆材には、耐衝撃性、耐熱性、耐環境応力亀裂性などが求められており、従来、エチレン−酢酸ビニル共重合体からなる鋼材被覆が提案されていたが、昨今では、該鋼材被覆よりも耐環境応力亀裂性および低温耐衝撃性に優れた鋼材被覆として、エチレン−α−オレフィン共重合体からなる鋼材被覆(例えば、特許文献1、特許文献2参照。)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−62164号公報
【特許文献2】特開平8−81522号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のエチレン−α−オレフィン共重合体による鋼材被覆は、耐衝撃性や耐熱変形性において、必ずしも十分満足のいくものではなかった。
かかる状況のもと、本発明は、上述したような問題点を解決し、直鎖状低密度ポリエチレンの有する衝撃強度を過度に低下させることなく、耐熱変形性を高めた鋼材被覆用エチレン系樹脂および該樹脂によって鋼材が被覆されてなる樹脂被覆鋼材を提供するものである。
【発明の効果】
【0005】
本発明により、直鎖状低密度ポリエチレンの有する衝撃強度を過度に低下させることなく耐熱変形性を高めた鋼材被覆用エチレン系樹脂、および、該樹脂によって鋼材が被覆されてなる樹脂被覆鋼材を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第一は、以下の条件を全て満足する鋼材被覆用エチレン系樹脂にかかるものである。
(a)密度が890〜930kg/m3
(b)メルトフローレート(MFR)が0.1〜10g/10分
(c)流動の活性化エネルギー(Ea)が50kJ/mol未満
(d)Mz/Mwが3.5以上
(e)(Mz/Mw)/(Mw/Mn)≧0.9
(f)温度上昇溶離分別法によって測定される100℃以上での溶出樹脂量の割合が1重量%未満(ただし、エチレン系樹脂の重量を100重量%とする)
【0007】
本発明の第二は、上記のエチレン系樹脂がさらに以下の条件を満足する鋼材被覆用エチレン系樹脂にかかるものである。
(g)150℃における溶融張力が4〜30cN
【0008】
本発明の第三は、鋼材が上記のエチレン系樹脂によって被覆されてなる樹脂被覆鋼材にかかるものである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のエチレン系樹脂は、エチレンに基づく単量体単位とα−オレフィンに基づく単量体単位とを含む共重合体樹脂である。該α−オレフィンとしては、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ドデセン、4−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ヘキセン等があげられ、これらは単独で用いられていてもよく、2種以上を併用されていてもよい。α−オレフィンとしては、好ましくは、炭素原子数3〜20のα−オレフィンであり、より好ましくは、炭素原子数4〜8のα−オレフィンであり、更に好ましくは、1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテンから選ばれる少なくとも1種のα−オレフィンである。
【0010】
エチレン系樹脂は、上記のエチレンに基づく単量体単位およびα−オレフィンに基づく単量体単位に加え、本発明の効果を損なわない範囲において、他の単量体に基づく単量体単位を有していてもよい。他の単量体としては、例えば、共役ジエン(例えばブタジエンやイソプレン)、非共役ジエン(例えば1,4−ペンタジエン)、アクリル酸、アクリル酸エステル(例えばアクリル酸メチルやアクリル酸エチル)、メタクリル酸、メタクリル酸エステル(例えばメタクリル酸メチルやメタクリル酸エチル)、酢酸ビニル等があげられる。
【0011】
エチレン系樹脂としては、例えば、エチレン−1−ブテン共重合体樹脂、エチレン−1−ヘキセン共重合体樹脂、エチレン−4−メチル−1−ペンテン共重合体樹脂、エチレン−1−オクテン共重合体樹脂、エチレン−1−ブテン−1−ヘキセン共重合体樹脂、エチレン−1−ブテン−4−メチル−1−ペンテン共重合体樹脂、エチレン−1−ブテン−1−オクテン共重合体樹脂等があげられる。好ましくは、エチレン−1−ブテン共重合体樹脂、エチレン−1−ヘキセン共重合体樹脂、エチレン−4−メチル−1−ペンテン共重合体樹脂、エチレン−1−ブテン−1−ヘキセン共重合体樹脂である。
【0012】
エチレン系樹脂における、エチレンに基づく単量体単位の含有量は、エチレン系樹脂の全重量(100重量%)に対して、通常、50〜99.5重量%であり、好ましくは、80〜99重量%である。また、α−オレフィンに基づく単量体単位の含有量は、エチレン系樹脂の全重量(100重量%)に対して、通常、0.5〜50重量%であり、好ましくは、1〜20重量%である。
【0013】
エチレン系樹脂の密度(単位はkg/m3である。)は、890〜930kg/m3である(条件(a))。エチレン系樹脂の密度は、剛性を高める観点から、好ましくは890kg/m3以上であり、より好ましくは900kg/m3以上である。また、衝撃強度を高める観点から、好ましくは925kg/m3以下であり、より好ましくは920kg/m3以下である。密度は、JIS K6760−1995に記載のアニーリングを行った後、JIS K7112−1980に規定された水中置換法に従って測定される。
【0014】
エチレン系樹脂のメルトフローレート(MFR;単位はg/10分である。)は、0.1〜10g/10分である(条件(b))。エチレン系樹脂のMFRは、成形加工時の押出負荷を低減する観点から、好ましくは0.5g/10分以上であり、より好ましくは0.7g/10分以上である。また、衝撃強度を高める観点から、好ましくは5g/10分以下であり、より好ましくは2g/10分以下である。メルトフローレートは、JIS K7210−1995に規定された方法に従い、温度190℃、荷重21.18Nの条件で、A法により測定される値である。
【0015】
エチレン系樹脂のメルトフローレート比(MFRR)は、好ましくは22〜55である。エチレン系樹脂のMFRRは、成形加工時の押出負荷を低減する観点から、より好ましくは24以上であり、さらに好ましくは26以上である。また、衝撃強度を高める観点から、より好ましくは45以下であり、さらに好ましくは40以下である。メルトフローレート比は、JIS K7210−1995に規定された方法に従い、温度190℃荷重211.82Nの条件で測定される値を、温度190℃荷重21.18Nの条件で測定される値で除した値である。
【0016】
エチレン系樹脂の流動の活性化エネルギー(Ea;単位はkJ/molである。)は、50kJ/mol未満である(条件(c))。エチレン系樹脂のEaは、衝撃強度を高める観点から、好ましくは40kJ/mol以下であり、より好ましくは35kJ/mol以下である。
【0017】
流動の活性化エネルギー(Ea)は、温度−時間重ね合わせ原理に基づいて、190℃での溶融複素粘度(単位:Pa・sec)の角周波数(単位:rad/sec)依存性を示すマスターカーブを作成する際のシフトファクター(aT)からアレニウス型方程式により算出される数値であって、以下に示す方法で求められる値である。すなわち、130℃、150℃、170℃、190℃、210℃の温度の中から、190℃を含む4つの温度について、夫々の温度(T、単位:℃)におけるエチレン−α−オレフィン共重合体の溶融複素粘度−角周波数曲線を、温度−時間重ね合わせ原理に基づいて、各温度(T)での溶融複素粘度−角周波数曲線毎に、190℃でのエチレン系共重合体の溶融複素粘度−角周波数曲線に重ね合わせた際に得られる各温度(T)でのシフトファクター(aT)を求め、夫々の温度(T)と、各温度(T)でのシフトファクター(aT)とから、最小自乗法により[ln(aT)]と[1/(T+273.16)]との一次近似式(下記(I)式)を算出する。次に、該一次式の傾きmと下記式(II)とからEaを求める。
ln(aT) = m(1/(T+273.16))+n (I)
Ea = |0.008314×m| (II)
T :シフトファクター
Ea:流動の活性化エネルギー(単位:kJ/mol)
T :温度(単位:℃)
上記計算は、市販の計算ソフトウェアを用いてもよく、該計算ソフトウェアとしては、Rheometrics社製 Rhios V.4.4.4などがあげられる。
【0018】
なお、シフトファクター(aT)は、夫々の温度(T)における溶融複素粘度−角周波数の両対数曲線を、log(Y)=−log(X)軸方向に移動させて(但し、Y軸を溶融複素粘度、X軸を角周波数とする。)、190℃での溶融複素粘度−角周波数曲線に重ね合わせた際の移動量であり、該重ね合わせでは、夫々の温度(T)における溶融複素粘度−角周波数の両対数曲線は、角周波数をaT倍に、溶融複素粘度を1/aT倍に移動させる。
【0019】
また、130℃、150℃、170℃、190℃、210℃の中から190℃を含む4つの温度でのシフトファクターと温度から得られる一次近似式(I)式を最小自乗法で求めるときの相関係数は、通常、0.99以上である。
【0020】
上記の溶融複素粘度−角周波数曲線の測定は、粘弾性測定装置(例えば、Rheometrics社製Rheometrics Mechanical Spectrometer RMS−800など。)を用い、通常、ジオメトリー:パラレルプレート、プレート直径:25mm、プレート間隔:1.2〜2mm、ストレイン:5%、角周波数:0.1〜100rad/秒の条件で行われる。なお、測定は窒素雰囲気下で行われ、また、測定試料には予め酸化防止剤を適量(例えば1000ppm)を配合することが好ましい。
【0021】
エチレン系樹脂のZ平均分子量(以下、「Mz」と記載することがある。)と重量平均分子量(以下、「Mw」と記載することがある。)との比(以下、「Mz/Mw」と記載することがある。)は、3.5以上である(条件(d))。衝撃強度の観点から、Mz/Mwは、好ましくは4.5以上である。また加工性や、衝撃強度の観点からMz/Mwは25以下が好ましく、20以下がより好ましく、15以下がさらに好ましい。
【0022】
エチレン系樹脂の重量平均分子量(以下、「Mw」と記載することがある。)と数平均分子量(以下、「Mn」と記載することがある。)との比(以下、「Mw/Mn」と記載することがある。)は、加工性を向上させる観点から好ましくは3以上であり、さらに好ましくは4以上である。また、該樹脂によって鋼材が被覆されてなる樹脂被覆鋼材の衝撃強度の観点から、Mw/Mnは、好ましくは15以下であり、より好ましくは10以下であり、さらに好ましくは8以下である。なお、Mw/Mn、Mz/Mwとは、ゲル・パーミエイション・クロマトグラフ(GPC)法により測定される数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)およびZ平均分子量(Mz)より求められる値である。
【0023】
エチレン系樹脂のMw/MnやMz/Mwは、次のような方法で制御することができる。例えば分子量の高い成分を製造する工程と分子量の低い成分を製造する工程とを連続して行なうことにより、本発明のエチレン系樹脂を製造する場合には、それぞれの製造工程における水素濃度または重合温度を変更する方法である。具体的には、分子量の高い成分を製造する条件を同一にした場合、分子量の低い成分を製造する際の水素濃度または重合温度を高くすると、得られるエチレン系樹脂のMw/Mnは大きくなる。同様にエチレン系樹脂のMz/Mwは、分子量の高い成分を製造する時の水素濃度を下げるか、または重合温度を低下させると、大きくすることができる。またエチレン系樹脂のMz/Mwは、分子量の高い成分を製造する工程の時間を長くし、エチレン系樹脂における超高分子量成分の含有量を増やすことによっても、大きくすることができる。
【0024】
Mz/Mwは、エチレン系樹脂に含まれる高分子量成分の分子量分布を表すものであり、Mw/Mnに比してMz/Mwが小さいことは、高分子量成分の分子量分布が狭く、非常に分子量の高い成分割合が少ないことを意味し、Mw/Mnに比してMz/Mwが大きいことは高分子量成分の分子量分布が広く、非常に分子量の高い成分割合が多いことを意味する。本発明のエチレン系樹脂は、(Mz/Mw)/(Mw/Mn)≧0.9である(条件(e))。衝撃強度および耐熱変形性を高める観点から、好ましくは(Mz/Mw)/(Mw/Mn)≧1である。さらに好ましくは(Mz/Mw)/(Mw/Mn)≧1.5である。
【0025】
本発明のエチレン系樹脂は、該エチレン系樹脂の重量を100重量%とする場合、温度上昇溶離分別法によって測定される100℃以上での溶出樹脂量の割合が1重量%未満である(ただし、140℃までに溶出したエチレン系樹脂の重量の和を100重量%とする)(条件(f))。
エチレン系樹脂における温度上昇溶離分別法における100℃以上での溶出樹脂成分とは、高密度の成分を意味する。高密度の成分は結晶の分率が高く硬いため、耐衝撃性に劣る傾向がある。耐衝撃性を向上させる観点から、温度上昇溶離分別法における100℃以上での溶出樹脂量の割合は、好ましくは0.3重量%未満であり、より好ましくは0.1重量%未満である。
【0026】
温度上昇溶離分別法によって測定されるエチレン系樹脂の100℃以上での溶出樹脂量の割合は、次のように制御することができる。例えば分子量の高い成分を製造する工程と分子量の低い成分を製造する工程とを連続して行なうことにより、本発明のエチレン系樹脂を製造する場合には、それぞれの製造工程における、エチレン濃度に対するα−オレフィン濃度を変更する方法である。具体的には、重合反応器内部において、エチレン濃度に対するα−オレフィン濃度の割合を高くすることにより、高分子鎖に導入される短鎖分岐構造の割合を高めることができる。このように短鎖分岐の割合の多い分子構造を有するポリマーは結晶厚みの薄い結晶構造であるため、より低い温度で溶解させることができる。また、エチレン濃度に対するα−オレフィン濃度の割合を制御する以外に、2種類の錯体を用いて分子量の高い成分、低い成分を製造することにより、本発明のエチレン系樹脂を製造することもできる。この場合、エチレンに対するα−オレフィンの共重合性がより高い錯体を選択することで、より低い温度で融解するエチレン系樹脂を与えることができる。
【0027】
本発明のエチレン系樹脂は、150℃における溶融張力が4〜30cNであることが好ましい(条件(g))。
エチレン系樹脂における溶融張力とは、溶融状態における分子の絡み合いの多少を意味し、絡み合いが多くなれば溶融張力が高くなる。エチレン系樹脂の分子量が大きいものは絡み合い易く、分子量が低いものは絡み合いが少なくなる。
エチレン系樹脂の溶融張力は、次のような方法で制御することができる。例えば分子量の高い成分を製造する工程と分子量の低い成分を製造する工程とを連続して行なうことにより、本発明のエチレン系樹脂を製造する場合には、それぞれの製造工程における水素濃度や重合温度、重合時間を変更する方法である。具体的には、分子量の高い成分の製造を行う際に、水素濃度を低く、重合温度を低く、重合時間を長くすることで得られるエチレン系樹脂の溶融張力を高くすることができ、分子量の低い成分の製造を行う際に、水素濃度を低く、重合温度を低く、重合時間を短くすることで得られるエチレン系樹脂の溶融張力を高くすることができる。またエチレン系樹脂に含まれる分子量の高い成分の割合を分子量の低い成分より多くすることにより、エチレン系樹脂の溶融張力を高くすることができる。
溶融張力が低すぎる場合、鋼材に溶融した樹脂を被覆する際に樹脂が垂れ下がるため成形が困難になる傾向がある。また樹脂が垂れ下がる条件で成形を行うと被覆樹脂の厚みが一定にならず、被覆の衝撃強度が低下することがある。そのため本発明のエチレン系樹脂は、150℃における溶融張力が4cN以上であることが好ましく、4.5cN以上であることがより好ましく、5cN以上であることがさらに好ましい。
一方、溶融張力が高すぎる場合、溶融した樹脂の鋼材に対する密着性が低下しやすくなり、被覆材としての機能を果たせない場合が起こりうる。そのため本発明のエチレン系樹脂は、150℃における溶融張力が30cN以下であることが好ましく、20cN以下であることがより好ましく、15cN以下であることがさらに好ましい。
【0028】
本発明のエチレン系樹脂は、チーグラー系触媒、メタロセン系触媒等の中から任意の触媒を選択し、各触媒を用いて同一重合条件下でエチレンとα−オレフィンとを重合して得られるポリマーの分子量を比較した場合に、その分子量が大きく異なるような、公知のオレフィン重合用触媒を2種以上組み合わせて製造することができる。また、高分子量のエチレン・α−オレフィン共重合体を製造することができる、公知のオレフィン重合用触媒を一つ用いて、高分子量のエチレン・α−オレフィン共重合体を製造する工程と、低分子量のエチレン・α−オレフィン共重合体を製造する工程とを含む複数の反応器を用いた液相重合法、スラリー重合法、気相重合法、高圧イオン重合法等の公知の重合方法によって、エチレンとα−オレフィンとを共重合することにより製造することもできる。これらの重合法は、回分重合法、連続重合法のいずれでもよい。
【0029】
本発明のエチレン系樹脂を、複数の反応器を用いて製造する場合には、高分子量成分と低分子量成分をそれぞれ異なる反応器で連続して製造する。このように連続プロセスで重合する場合、重合粒子の中には、一部の反応器を非常に短時間で通過してしまう重合粒子(以下、ショートパス重合粒子と呼ぶことがある。)が存在する。このようなショートパス重合粒子の発生を防ぐため、本発明のエチレン系樹脂を複数の反応器を用いて連続プロセスで製造する場合には、1つ目の重合反応器で高分子量成分を製造し、その後、2つ以上の反応器を連結して、低分子量成分を製造することが好ましい。一方、回分重合で本発明のエチレン系樹脂を製造する場合、2つの反応器でそれぞれ低分子量成分・高分子量成分を製造することができる。
【0030】
本発明のエチレン系樹脂を回分重合にて製造する場合、複数の反応器を使用せず、1つの反応器を用い、反応器内の水素濃度を経時で変化させて、高分子量成分と低分子量成分を順次製造することもできる。
【0031】
2種類以上のオレフィン重合用触媒を用いて本発明のエチレン系樹脂を製造する場合、使用するオレフィン重合用触媒としては、各触媒を用いて同一重合条件下でエチレンとα−オレフィンとを重合して得られるポリマーの分子量を比較した場合に、その分子量が大きく異なるような触媒を組み合わせて用いることが好ましい。また、重合用触媒としては、高分子量成分を製造するための触媒、低分子量成分を製造するための触媒のいずれの触媒としても、流動の活性化エネルギーが50kJ/mol未満であるような、長鎖分岐構造の少ないエチレン系樹脂を製造可能な触媒を選定することが重要である。長鎖分岐構造が多く存在すると、衝撃強度が低下する傾向がある。
【0032】
本発明のエチレン系樹脂を1種類の重合触媒で製造する場合、適切な触媒としては、例えば、0.8〜1.4重量%のチタン原子、マグネシウム原子、ハロゲン原子および15−50重量%エステル化合物を含有し、BET法による比表面積が80m2/g以下である固体触媒成分を挙げることができる。該固体触媒成分に含まれるエステル化合物としては、重合活性の観点からフタル酸ジアルキルであることが好ましい。該固体触媒成分は、Si−O結合を有する有機ケイ素化合物(i)の存在下に、下記一般式[I]で表されるチタン化合物(ii)を、有機マグネシウム化合物(iii)で還元して得られる固体成分(a)、ハロゲン化化合物(b)およびフタル酸誘導体(c)の接触生成物として得ることができる。

【0033】
また、1種類の重合触媒を用い、複数の反応器を用いて多段重合する場合には、複数の各反応器のうち、少なくとも1つの反応器での重合条件は、該反応器の重合条件で使用する触媒を用いた重合を実施したときに得られるエチレン系樹脂の極限粘度が3以上となる重合条件であることが、溶融張力、耐熱変形性および衝撃強度の観点から好ましい。また、高分子量成分を与える重合反応条件において重合された高分子量成分が、本発明のエチレン系樹脂中に占める割合が、0.5重量%以上、かつ10重量%以下となるように重合することが、耐熱変形性、衝撃強度および押出加工性の観点から好ましい。
【0034】
さらに、1種類の重合触媒を用いて多段重合する場合には、高分子量成分を与える重合槽で得られる樹脂成分の短鎖分岐度(1000炭素当たりの分岐数)は6個以上20個以下であることが、本発明のエチレン系樹脂を用いて得られる成形体の耐衝撃性の観点から好ましい。
【0035】
本発明のエチレン系樹脂を、高分子量成分を与える重合触媒と、低分子量成分を与える重合触媒を含む2種類以上の重合触媒で製造する場合、それぞれの適切な触媒としては、以下のものが挙げられる。
高分子量成分を与える重合触媒としては、例えば、下記一般式(II)で表される遷移金属化合物重合触媒などを挙げることができる。


[式中、M2は元素周期律表の第4族の遷移金属原子を表し、X2、R3およびR4は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1〜20の置換されていてもよいハイドロカルビル基、炭素原子数1〜20の置換されていてもよいハイドロカルビルオキシ基、炭素原子数1〜20の置換シリル基または炭素原子数1〜20の置換アミノ基であり、複数のX2は互いに同じであっても異なっていてもよく、複数のR3は互いに同じであっても異なっていてもよく、複数のR4は互いに同じであっても異なっていてもよく、Q2は、下記一般式(III)で表される架橋基を表す。

(式中、nは1〜5の整数であり、J2は元素周期律表の第14族の原子を表し、R5は、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1〜20の置換されていてもよいハイドロカルビル基、炭素原子数1〜20の置換されていてもよいハイドロカルビルオキシ基、炭素原子数1〜20の置換シリル基または炭素原子数1〜20の置換アミノ基であり、複数のR5は互いに同じであっても異なっていてもよい。)]
【0036】
一方、低分子量成分を与える重合触媒としては、例えば、置換基を持つシクロペンタジエン形アニオン骨格を有する基を2個有し、かつ、このシクロペンタジエン形アニオン骨格を有する基が互いに結合しておらず、中心金属が第4族の遷移金属原子である遷移金属化合物重合触媒などを挙げることができる。シクロペンタジン形アニオン骨格が互いに結合している重合触媒成分を使用すると、得られる重合体は長鎖分岐を有するものとなり、強度が低下する傾向がある。
【0037】
また、高分子量成分を与える重合触媒(Cat1)と低分子量成分を与える重合触媒(Cat2)の混合比Cat1:Cat2=x:yについては、以下の条件を満足することが好ましい。混合した触媒成分を用いて重合する重合条件と同一の重合条件下で、各触媒を単独で用いて重合を実施したときのCat1、Cat2各1gあたりの重合活性(g/g)をそれぞれACat1、ACat2とした時、得られるエチレン系樹脂の耐衝撃性、耐熱変形性および溶融張力を向上させる観点からACat1・x/ACat2・yが0.005以上であることが好ましい。また、押出加工性の観点から、ACat1・x/ACat2・yは0.12以下であることが好ましい。
【0038】
高分子量成分を与える重合触媒(Cat1)と低分子量成分を与える重合触媒(Cat2)とを用いて本発明のエチレン系樹脂を製造する際の条件は、混合した触媒成分を用いて重合する重合条件と同一の重合条件下で、Cat1を用いて重合を実施したときに得られるエチレン系樹脂の極限粘度[η]が3以上となる条件であることが好ましい。
【0039】
重合触媒成分として、メタロセン触媒を用いる場合には、公知の活性化用助触媒成分、担体などを組み合わせて使用することができる。
【0040】
本発明のエチレン系樹脂は、必要に応じて、他の樹脂とともに各種成形に使用することができる。他の樹脂としては、本発明のエチレン系樹脂とは異なるエチレン系樹脂が挙げられる。
【0041】
本発明のエチレン系樹脂には、必要に応じて、公知の添加剤を含有させてもよい。添加剤としては、例えば、酸化防止剤、耐候剤、滑剤、抗ブロッキング剤、帯電防止剤、防曇剤、無滴剤、顔料、フィラー等があげられる。
【0042】
上述した必要に応じて添加される酸化防止剤、抗ブロッキング剤、滑剤、帯電防止剤、加工性改良剤、顔料等の添加剤や他の樹脂は、本発明で用いられるエチレン系樹脂にあらかじめ溶融混練して用いてもよく、エチレン系樹脂にそれぞれをドライブレンドして成形に用いてもよく、また、一種以上のマスターバッチを用意してエチレン系樹脂にドライブレンドして成形に用いてもよい。
【0043】
本発明のエチレン系樹脂は、鋼材の被覆に用いられる。本発明において鋼材とは、本発明において鋼材とは、鉄管、鉄板などの鉄製品;ステンレス管、ステンレス板などのステンレス製品;銅管、銅板、アルミ管、アルミ板、亜鉛管、亜鉛板、鉛管、鉛板などの非鉄金属製品を含む。
【0044】
本発明のエチレン系樹脂で鋼材を被覆する方法としては、公知の方法が用いられるが、好ましくは、本発明のエチレン−α−オレフィン共重合体を含有する樹脂を、Tダイ、クロスヘッド型ダイ、サーキュラーダイなどのダイによって押出成形する方法である。このような方法で得られる、鋼材がエチレン系樹脂によって被覆されてなる本発明の樹脂被覆鋼材は、耐衝撃性と耐熱変形性に優れるものである。
【実施例】
【0045】
以下、実施例および比較例により本発明を説明する。
実施例および比較例での物性は、次の方法に従って測定した。
【0046】
(1)密度(単位:Kg/m3
JIS K7112−1980に規定された水中置換法に従い密度を測定した。なお、試料には、JIS K6760−1995に記載のアニーリングを行った。
【0047】
(2)メルトフローレート(MFR、単位:g/10分)
JIS K7210−1995に規定された方法に従い、荷重21.18Nおよび温度190℃の条件で、A法により、メルトフローレートを測定した。
【0048】
(3)メルトフローレート比(MFRR)
JIS K7210に従って測定した。試験荷重211.82N(21.60kgf)、測定温度190℃の条件で測定した値を、試験荷重21.18N(2.16kgf)、測定温度190℃の条件で測定した値で除した値をMFRRとした。
【0049】
(4)極限粘度([η]、単位:dl/g)
2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール(BHT)を0.5g/Lの濃度で溶解したテトラリン溶液(以下、ブランク溶液と記す。)と、樹脂を濃度が1mg/mlとなるようにブランク溶液に溶解した溶液(以下、サンプル溶液と記す。)とを調製した。ウベローデ型粘度計により、135℃におけるブランク溶液とサンプル溶液の降下時間を測定した。降下時間から下記式により極限粘度[η]を求めた。
[η]=23.3×log(ηrel)
ηrel=サンプル溶液の降下時間/ブランク溶液の降下時間
【0050】
(5)流動の活性化エネルギー(Ea、単位:kJ/mol)
粘弾性測定装置(Rheometrics社製Rheometrics Mechanical Spectrometer RMS−800)を用いて、下記測定条件で130℃、150℃、170℃および190℃での溶融複素粘度−角周波数曲線を測定した。次に、得られた溶融複素粘度−角周波数曲線から、Rheometrics社製計算ソフトウェア Rhios V.4.4.4を用いて、190℃での溶融複素粘度−角周波数曲線のマスターカーブを作成し、流動の活性化エネルギー(Ea)を求めた。
<測定条件>
ジオメトリー:パラレルプレート
プレート直径:25mm
プレート間隔:1.5〜2mm
ストレイン :5%
角周波数 :0.1〜100rad/秒
測定雰囲気 :窒素
【0051】
(6)分子量分布(Mw/Mn、Mz/Mw)
ゲル・パーミエイション・クロマトグラフ(GPC)法を用いて、下記の条件(1)〜(8)により、z平均分子量(Mz)、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)を測定し、Mw/MnとMz/Mwを求めた。クロマトグラム上のベースラインは、試料溶出ピークが出現するよりも十分に保持時間が短い安定した水平な領域の点と、溶媒溶出ピークが観測されたよりも十分に保持時間が長い安定した水平な領域の点とを結んでできる直線とした。
(1)装置:Waters製Waters150C
(2)分離カラム:TOSOH TSKgelGMH6−HT 2本
(3)測定温度:152℃
(4)キャリア:オルトジクロロベンゼン
(5)流量:1.0mL/分
(6)注入量:500μL
(7)検出器:示差屈折
(8)分子量標準物質:標準ポリスチレン
【0052】
(7)温度上昇溶離分別法によって測定される100℃以上の溶出樹脂量の測定
下記の装置を用いて、下記の条件で測定した。
装置:三菱化学社製 CFC T150A型
検出器:ニコレ−ジャパン(株)社製 Magna−IR550
波長:データ範囲 2982〜2842cm-1 カラム:昭和電工(株)社製 UT−806M 2本
溶媒:オルトジクロルベンゼン
流速:60ml/時間
試料濃度:100mg/25ml
試料注入量:0.8ml
担持条件:1℃/1分の速度で140℃から0℃まで降温した後、30分間放置して、0℃フラクションから溶出を開始した。
データ取得条件:85℃−105℃の温度範囲では、1℃刻みで溶出量のデータを取得し、その後は140℃まで昇温してから溶出量のデータを取得した。
【0053】
(8)熱変形性 (単位:%)
レオメトリックス製ストレス制御型レオメーターDSRを用いて、以下の条件にて試料に熱を掛けた状態で低応力から高応力まで応力を変化させてひずみ量の測定を行った。このときの応力1000Paにおけるひずみ量(%)を熱変形量とした。この値が小さいほど耐熱変形性に優れる。
測定温度:100℃
測定治具:25mmφパラレルプレート
測定厚み:0.5mm
測定モード:Dynamic Stress Sweep Test
周波数:100rad/sec
測定応力:20〜5000Pa
測定間隔:20ポイント/decade
【0054】
(9)引張衝撃強度(単位:kJ/m2
引張衝撃強度の測定は、ASTM D1822−61Tに従い、S型ダンベル形状で、23℃で行った。試料片は、150℃の熱プレスにより成型し、温度23℃、湿度50%の恒温室に24時間以上保管した後、測定に用いた。
【0055】
(10)溶融張力(MT、単位:cN)
東洋精機製作所製 メルトテンションテスターを用いて、150℃の条件で、9.5mmφのバレルに充填した溶融樹脂を、ピストン降下速度5.5mm/分で、径が2.09mmφ、長さ8mmのオリフィスから押出し、該押し出された溶融樹脂を、径が150mmφの巻き取りロールを用い、40rpm/分の巻き取り上昇速度で巻き取り、溶融樹脂が破断する直前における張力値を溶融張力の値とした。
【0056】
実施例1
(1−1)固体触媒成分の調製
窒素置換した撹拌機、邪魔板を備えた200L反応器に、ヘキサン80L、テトラエトキシシラン20.6kgおよびテトラブトキシチタン2.2kgを投入し、撹拌した。次に、前記攪拌混合物に、ブチルマグネシウムクロリドのジブチルエーテル溶液(濃度2.1モル/L)50Lを反応器の温度を5℃に保ちながら4時間かけて滴下した。滴下終了後、5℃で1時間、更に20℃で1時間撹拌し、濾過し、固体成分を得た。次に得られた固体成分をトルエン70Lで3回洗浄し、固体成分にトルエン63Lを加えて、スラリーとした。
撹拌機を備えた内容積210Lの反応器を窒素で置換し、固体成分のトルエンスラリーを該反応器に仕込み、テトラクロロシラン14.4kg、フタル酸ジ(2−エチルヘキシル)9.5kgを投入し、105℃で2時間攪拌した。次いで、固液分離し、得られた固体を、95℃にて、トルエン90Lで3回洗浄した。固体にトルエン63Lを加え、70℃に昇温し、TiCl4 13.0kgを投入し、105℃で2時間攪拌した。次いで、固液分離し、得られた固体を、95℃にて、トルエン90Lでの6回洗浄し、更に、室温にて、ヘキサン90Lで2回洗浄した。洗浄後の固体を乾燥して、固体触媒成分を得た。
【0057】
(1−2)予備重合触媒(XA−1)の調製
内容積3Lの撹拌機付きオートクレーブを十分乾燥し、オートクレーブを真空にし、ブタン490gおよび1−ブテン260gを仕込み、55℃に昇温した。次に、エチレンを分圧で1.0MPaとなるように加えた。トリエチルアルミニウム5.4ミリモル、実施例1(1)で生成した固体触媒成分326.4mgをアルゴンによって圧入して重合を開始した。圧力が一定となるようにエチレンをボンベより連続して供給し、ボンベの重量減少量が48.9gになるまで55℃で重合を行った。重合後、エチレンの供給を停止し、系内をパージした後、アルゴンガスで加圧状態にし、予備重合パウダーを窒素置換したアンプルに回収し、封入した。回収した予備重合パウダーの一部について、極限粘度[η]を測定し、短鎖分岐度をIRで調べたところ、[η]=9.1、1000炭素当たりの短鎖分岐度は10.4であった。
【0058】
(1−3)本重合
内容積3Lの撹拌機付きオートクレーブを十分乾燥し、オートクレーブを真空にし、ブタン620gおよび1−ブテン130gを仕込み、70℃に昇温した。次に、エチレンを分圧で0.6MPaとなるように、水素を分圧で0.2MPaとなるように加えた。トリエチルアルミニウム1.7ミリモル、(1−2)で生成した予備重合触媒(XA−1)を3.75g、アルゴンによって圧入して重合を開始した。圧力が一定となるようにエチレンをボンベより連続して供給し、70℃で3時間重合を行った。重合により、エチレン−1−ブテン共重合体(以下、エチレン系樹脂(A1)と記す。)を197g得た。重合体(A1)の物性値を表1および表2に示した。
【0059】
実施例2
(2−1)予備重合触媒(XA−2)の調製
内容積3Lの撹拌機付きオートクレーブを十分乾燥し、オートクレーブを真空にし、ブタン502gおよび1−ブテン262gを仕込み、70℃に昇温した。次に、エチレンを分圧で0.6MPaとなるように加えた。トリエチルアルミニウム1.7ミリモル、実施例1(1−1)で生成した固体触媒成分223.3mgをアルゴンによって圧入して重合を開始した。圧力が一定となるようにエチレンをボンベより連続して供給し、ボンベの重量減少量が65.5gになるまで70℃で重合を行った。重合後、エチレンの供給を停止し、系内をパージした後、アルゴンガスで加圧状態にし、予備重合パウダーを窒素置換したアンプルに回収し、封入した。回収した予備重合パウダーの一部について、極限粘度[η]を測定したところ、[η]=4.9であった。
【0060】
(2−2)本重合
内容積3Lの撹拌機付きオートクレーブを十分乾燥し、オートクレーブを真空にし、ブタン620gおよび1−ブテン130gを仕込み、70℃に昇温した。次に、エチレンを分圧で0.6MPaとなるように、水素を分圧で0.2MPaとなるように加えた。トリエチルアルミニウム1.7ミリモル、(2−1)で生成した予備重合触媒(XA−2)を6.9g、アルゴンによって圧入して重合を開始した。圧力が一定となるようにエチレンをボンベより連続して供給し、70℃で3時間重合を行った。重合により、エチレン−1−ブテン共重合体(以下、エチレン系樹脂(A2)と記す。)を144g得た。エチレン系樹脂(A2)の物性値を表1および表2に示した。
【0061】
比較例1
(3−1)予備重合触媒(XA−3)の調製
内容積3Lの撹拌機付きオートクレーブを十分乾燥し、オートクレーブを真空にし、ブタン750gを仕込み、70℃に昇温した。次に、エチレンを分圧で0.6MPaとなるように加えた。トリエチルアルミニウム4.6ミリモル、実施例1(1−1)で生成した固体触媒成分296.4mgをアルゴンによって圧入して重合を開始した。圧力が一定となるようにエチレンをボンベより連続して供給し、ボンベの重量減少量が36.0gになるまで70℃で重合を行った。重合後、エチレンの供給を停止し、系内をパージした後、アルゴンガスで加圧状態にし、予備重合パウダーを窒素置換したアンプルに回収し、封入した。回収した予備重合パウダーの一部について、極限粘度[η]を測定したところ、[η]=9.5であった。
【0062】
(3−2)本重合
内容積3Lの撹拌機付きオートクレーブを十分乾燥し、オートクレーブを真空にし、ブタン620gおよび1−ブテン130gを仕込み、70℃に昇温した。次に、エチレンを分圧で0.6MPaとなるように、水素を分圧で0.3MPaとなるように加えた。トリエチルアルミニウム1.7ミリモル、(3−1)で生成した予備重合触媒(XA−3)を7.95g、アルゴンによって圧入して重合を開始した。圧力が一定となるようにエチレンをボンベより連続して供給し、70℃で75分重合を行った。重合により、エチレン−1−ブテン共重合体(以下、エチレン系樹脂(A3)と記す。)を170g得た。エチレン系樹脂(A3)の物性値を表1および表2に示した。
【0063】
比較例2
直鎖状低密度ポリエチレン(住友化学(株)製 スミカセン−L FS150;以下、エチレン系樹脂(A4)と記す。)の物性値を表1および表2に示した。
【0064】
【表1】

【0065】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の条件を全て満足する鋼材被覆用エチレン系樹脂。
(a)密度が890〜930kg/m3
(b)メルトフローレート(MFR)が0.1〜10g/10分
(c)流動の活性化エネルギー(Ea)が50kJ/mol未満
(d)Mz/Mwが3.5以上
(e)(Mz/Mw)/(Mw/Mn)≧0.9
(f)温度上昇溶離分別法によって測定される100℃以上での溶出樹脂量の割合が1重量%未満(ただし、エチレン系樹脂の重量を100重量%とする)
【請求項2】
さらに以下の条件(g)を満足する請求項1に記載の鋼材被覆用エチレン系樹脂。
(g)150℃における溶融張力が4〜30cN
【請求項3】
鋼材が請求項1もしくは2に記載のエチレン系樹脂によって被覆されてなる樹脂被覆鋼材。

【公開番号】特開2010−150521(P2010−150521A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−262889(P2009−262889)
【出願日】平成21年11月18日(2009.11.18)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】