説明

鋼材防食部材及び鋼材防食方法

【課題】安価で容易に鋼材を防食することができる、鋼材防食部材及び鋼材防食方法を提供する。
【解決手段】鋼材22の表面に樹脂層11を形成する鋼材防食部材であって、樹脂層11は、ポリ塩化ビニルにより構成されるとともに内部又は表面に弾力性を付与する繊維層12を配置した樹脂シート1により形成されている。樹脂シート1は、接着剤13を介して鋼材22の表面に貼付される。繊維層12は、例えば、プラスチック繊維、ガラス繊維、カーボン繊維又は植物性繊維のいずれかの繊維によって形成される。繊維層12に替えて、スチール製又はアルミニウム製の金属線14aによって構成される金属層14を樹脂シート1に形成するようにしてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼材防食部材及び鋼材防食方法に関し、特に、橋梁、水門、建築物、海洋構造物、プラント等の鋼製構造物に使用されている鋼材の表面に配置される鋼材防食部材及び該鋼材防食部材を用いた鋼材防食方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼材(鋼製の材料)は、炭素含有量や熱処理の仕方によって、強度、耐食性、耐熱性、磁気特性、熱膨張率等を調整することができ、種々の種類のものが製造されており、橋梁、水門、建築物、海洋構造物、プラント等、様々な構造物に使用されている。これらの鋼製構造物において、鋼材は荷重を支持する部材として使用されていることが多く、一定の強度を必要とする。一方で、鋼製構造物は、野外に曝露した状態で設置されることが多く、水分の付着等によって鋼材が腐食し易い。鋼材が腐食した場合には、肉厚が部分的に薄くなってしまい、強度が低下し、座屈してしまうおそれがある。そこで、鋼材の腐食を抑制するために防食措置を講ずる必要がある。
【0003】
従来から、防食又は防錆機能を有する塗料を鋼材の表面に塗装することが一般的であるが、酸素遮断フィルム、金属箔、樹脂シート等の薄膜を鋼材の表面に貼付する方法も提案されている(例えば、特許文献1〜特許文献3参照)。
【0004】
例えば、特許文献1には、鋼材表面に、下地処理層、樹脂プライマー処理層、500μm以上の厚みによるポリオレフィン又はポリウレタンからなる防食樹脂層、接着層、及び厚み10〜500μmで酸素透過度を100cm(標準)/m・day・atm(20℃)以下に調整した酸素遮断フィルムを順次積層する防食方法が記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、鋼構造物の表面あるいは塗装した鋼構造物の表面の全部または一部に、電気絶縁性の接着剤を用いて耐食性の金属箔を接着する防食方法が記載されている。
【0006】
また、特許文献3には、ポリエチレンテレフタレート又はその誘導体を主成分とする樹脂シートの鋼材と接触させる面に、粘着性ゴム又はアクリル系粘着剤を含む粘着材層を積層する防食方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許4299575号公報
【特許文献2】特開2004−244652号公報
【特許文献3】特開2006−225573号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した塗装による防食方法では、施工が比較的簡単であるものの防食効果がそれほど高くなく、水分が溜まり易い箇所や塩分が付着し易い箇所や塗膜が薄くなり易い箇所(例えば、角部)では、腐食が早期に生じ易いという問題があった。
【0009】
また、上述した特許文献1〜特許文献3に記載したような酸素遮断フィルム、金属箔、ポリエチレンテレフタレートを主成分とする樹脂シートを使用した場合、防食性や対候性に優れるものの高価になりやすく、橋梁等の大型構造物の広い鋼材表面に使用するには不経済であるという問題があった。
【0010】
本発明は、上述した問題点に鑑み創案されたものであり、安価で容易に鋼材を防食することができる、鋼材防食部材及び鋼材防食方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、鋼材の表面に樹脂層を形成する鋼材防食部材において、前記樹脂層は、ポリ塩化ビニルにより構成されるとともに内部又は表面に弾力性を付与する繊維層又は金属層を配置した樹脂シートにより形成される、ことを特徴とする鋼材防食部材が提供される。
【0012】
前記繊維層は、プラスチック繊維、ガラス繊維、カーボン繊維又は植物性繊維のいずれかの繊維によって形成されていてもよい。また、前記繊維は、前記ポリ塩化ビニルの融点よりも高い融点を有していてもよい。また、前記繊維は、格子状、網目状、平行線状、不規則状又は分散状に配置されていてもよい。
【0013】
前記金属層は、スチール製又はアルミニウム製の金属線によって構成されていてもよい。また、前記金属線は、格子状、網目状又は平行線状に配置されていてもよい。
【0014】
前記鋼材によって形成された隅部に形成される前記樹脂層は、前記隅部に配置されるとともに隣接する前記樹脂シートと滑らかに接続される樹脂ブロックにより形成されていてもよい。また、前記樹脂ブロックは、前記隅部を構成する一方の鋼材の端部に係止可能なフック部を有していてもよい。
【0015】
また、本発明によれば、鋼材の表面に樹脂層を形成する鋼材防食方法において、ポリ塩化ビニルにより構成されるとともに内部又は表面に弾力性を付与する繊維層又は金属層を配置した樹脂シートを用意し、前記鋼材の表面に接着剤を塗布し、前記樹脂シートを前記接着剤上に展張して配置し、前記鋼材の表面を前記樹脂シートで被覆することによって前記樹脂層を形成する、ことを特徴とする鋼材防食方法が提供される。
【0016】
前記鋼材によって形成された角部又は隅部は、前記樹脂シートの面部によって被覆されるようにしてもよい。また、前記鋼材によって形成された隅部は、隣接する前記樹脂シートと滑らかに接続される樹脂ブロックによって被覆されるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0017】
上述した本発明に係る鋼材防食部材及び鋼材防食方法によれば、安価で入手し易く加工し易いポリ塩化ビニルにより樹脂シートを形成したことにより、安価に鋼材防食部材を作製することができる。また、樹脂シートに繊維層又は金属層を形成することにより、軟質性のポリ塩化ビニルに対して弾力性を付与することができ、樹脂シートに腰を持たせることができ、施工の際に取り扱い易くすることができるとともに鋼材の表面に展張し易くすることができ、容易に鋼材の表面を被覆して防食することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第一実施形態に係る鋼材防食部材を配置した鋼桁橋を示す図であり、(a)は概略全体構成図、(b)は図1(a)におけるB部拡大図、である。
【図2】本発明の実施形態に係る鋼材防食部材の断面図であり、(a)は第一実施形態、(b)は第二実施形態、を示している。
【図3】繊維層の配置構成例を示す図であり、(a)は第一例、(b)は第二例、(c)は第三例、(d)は第四例、(e)は第五例、(f)は第六例、を示している。
【図4】繊維層の形成方法を示す図であり、(a)は第一例、(b)は第二例、(c)は第三例、を示している。
【図5】本発明の第一実施形態に係る鋼材防食方法を示す図であり、(a)は第一工程、(b)は第二工程、(c)は第三工程、(d)は第四工程、(e)は第五工程、を示している。
【図6】樹脂ブロックを示す断面図であり、(a)は第一例、(b)は第二例、を示している。
【図7】本発明の第二実施形態に係る鋼材防食方法を示す図であり、(a)は第一工程、(b)は第二工程、(c)は第三工程、(d)は第四工程、を示している。
【図8】金属層の形成方法を示す図であり、(a)は第一工程、(b)は第二工程、(c)は第三工程、を示している。
【図9】金属層を有する樹脂シートを示す図であり、(a)は平面図、(b)は作用説明図、である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る鋼材防食部材及び鋼材防食方法について、図1〜図9を用いて説明する。ここで、図1は、本発明の第一実施形態に係る鋼材防食部材を配置した鋼桁橋を示す図であり、(a)は概略全体構成図、(b)は図1(a)におけるB部拡大図、である。図2は、本発明の実施形態に係る鋼材防食部材の断面図であり、(a)は第一実施形態、(b)は第二実施形態、を示している。
【0020】
本発明の第一実施形態に係る鋼材防食部材は、図1及び図2に示したように、鋼材22の表面に樹脂層11を形成する鋼材防食部材であって、樹脂層11は、ポリ塩化ビニルにより構成されるとともに内部又は表面に弾力性を付与する繊維層12を配置した樹脂シート1により形成されている。
【0021】
前記鋼材22は、例えば、図1(a)に示したように、鋼桁橋2に使用される鋼材22である。鋼桁橋2は、例えば、両端部及び中間部に配置された橋脚21と、橋脚21の上の支持された主桁を構成する鋼材22と、鋼材22の上に支持された道路や線路を構成する上部構造物23と、を有する。主桁は、鋼桁橋2の長手方向に沿って複数本平行に配置されており、主桁間には横桁(図示せず)が配置されていることが多い。主桁を構成する鋼材22は、例えば、I型鋼により構成され、長手方向に配列された複数の垂直補強鋼材24を有する。
【0022】
図1(b)に示したように、鋼材22(I型鋼)は、ウェブ22a及びフランジ22bを有し、垂直補強鋼材24は、ウェブ22a及びフランジ22bに溶接されている。鋼材22のフランジ22bは、略水平面を形成するように形成されていることから、表面に雨水等の水分が溜まり易く腐食し易い。また、図1(a)に示したB部のように、鋼桁橋2の両端部は、陰になっていることが多く、特に水分が溜まり易い。このように腐食し易い箇所に樹脂シート1を貼付して樹脂層11を形成することにより、鋼材22の腐食を効果的に抑制することができる。ただし、樹脂シート1を貼付する箇所は、B部に限定されるものではなく、樹脂シート1は鋼材を使用している全ての部分に必要に応じて貼付することができる。また、鋼材22は、I型鋼に限定されるものではなく、H型鋼、T型鋼、山形鋼、平鋼等、他の形状を有するものであってもよい。
【0023】
図1(b)に示したように、鋼材22に垂直補強鋼材24が配置されている場合には、例えば、垂直補強鋼材24の間の全面を樹脂シート1により被覆して樹脂層11を形成する。ただし、垂直補強鋼材24を有する場合であっても、垂直補強鋼材24の間の一部の面に樹脂シート1を貼付するようにしてもよいし、垂直補強鋼材24に樹脂シート1を貼付するようにしてもよい。また、図示しないが、垂直補強鋼材24を有しない鋼材22に樹脂シート1を貼付するようにしてもよい。
【0024】
前記樹脂シート1は、例えば、図2(a)に示したように、樹脂層11を形成するポリ塩化ビニル層と、樹脂層11の表面に一枚のシート部材を形成するように配置された繊維層12と、を有している。かかる樹脂シート1は、接着剤13を介して鋼材22の表面に貼付されている。ポリ塩化ビニルは、例えば、防錆用のボルトキャップとして十分な実績があり、防食効果及び耐用年数の面で十分な機能を有する樹脂材である。また、ポリ塩化ビニルは、酸素遮断フィルム、金属箔、ポリエチレンテレフタレート等の他の樹脂材や金属材と比較して安価であり、加工も容易である。そこで、本発明では、樹脂層11を形成する樹脂材として、ポリ塩化ビニルを採用している。
【0025】
接着剤13には、例えば、ポリ塩化ビニルと相性のよいエポキシ樹脂を主成分とする二液混合タイプの接着剤が使用される。接着剤13には、要求される防食効果に応じて、亜硝酸化合物等の防錆剤、ヒドラジン系や非ヒドラジン系(亜硫酸塩、糖類系、天然植物系等)の脱酸素剤、亜鉛粉等の酸化膜を形成する金属粉、耐食性に優れたガラスフレークやリーフィングアルミニウム等の機能性顔料を混合するようにしてもよい。
【0026】
ところで、図1(b)に示したように、樹脂シート1は鋼材22の形状に沿って配置されることから、例えば、鋼材22の端部において角部に沿って屈曲可能な程度の柔軟性を有している必要がある。また、樹脂シート1は鋼材22の広大な平面部に貼付可能な大きさに形成される場合もあることから、シート状に形成したときに、柔らかくなり過ぎてしまい、施工時に取り扱い難かったり、鋼材22の表面に平面状に展張し難かったりしてしまっては不都合である。そこで、樹脂層11と一体に形成される繊維層12を樹脂シート1に配置することによって、樹脂シート1に弾力性を付与するようにしている。樹脂シート1に弾力性を付与することにより、柔らかい樹脂シート1に腰を持たせるようにすることができ、樹脂シート1に追随性を付与することができ、鋼材22の表面で展張し易くすることができる。
【0027】
図2(a)に示した第一実施形態に係る樹脂シート1では、樹脂層11の片側の表面に繊維層12を形成し、表面に防食効果を有する樹脂層11を露出させるように、繊維層12側を接着剤13の上に配置して、鋼材22の表面に貼付するようにしている。また、図2(b)に示した第二実施形態に係る樹脂シート1では、繊維層12が樹脂層11の内部(中間部)に形成されている。なお、繊維層12は、複数層形成するようにしてもよいし、樹脂層11の表面及び内部の両方に形成するようにしてもよい。
【0028】
また、繊維層12は、例えば、プラスチック繊維、ガラス繊維、カーボン繊維又は植物性繊維のいずれかの繊維によって形成される。プラスチック繊維は、例えば、ポリエステル繊維、ポリウレタン繊維、アラミド繊維、ポリプロピレン繊維等の合成樹脂によって形成される繊維を意味する。ガラス繊維は、いわゆるグラスファイバーの他、有機ガラスによって形成される繊維を含む意味である。カーボン繊維は、いわゆる炭素繊維であり、アクリル繊維やピッチを原料にして炭化した繊維を意味する。植物性繊維は、植物から採取される繊維又は植物由来の合成繊維を意味する。なお、繊維層12を形成する際に、後述するようにポリ塩化ビニルの溶融液を使用することから、繊維層12に使用される繊維は、ポリ塩化ビニルの融点よりも高い融点を有するものを使用することが好ましい。
【0029】
ここで、図3は、繊維層の配置構成例を示す図であり、(a)は第一例、(b)は第二例、(c)は第三例、(d)は第四例、(e)は第五例、(f)は第六例、を示している。また、図4は、繊維層の形成方法を示す図であり、(a)は第一例、(b)は第二例、(c)は第三例、を示している。
【0030】
図3(a)に示した第一例は、線状の繊維12a(長繊維)を正方形の目を有する格子状に配置したものである。図3(b)に示した第二例は、線状の繊維12aを長方形の目を有する格子状に配置したものである。図3(c)に示した第三例は、線状の繊維12aを多角形状(ここでは三角形状)の目を有する網目状に配置したものである。図3(d)に示した第四例は、線状の繊維12aを平行線状に配置したものである。図3(e)に示した第五例は、線状の繊維12aをランダムな不規則状に配置したものである。図3(f)に示した第六例は、短繊維12bを分散状に配置したものである。どの繊維をどの構成によって配置するかは、樹脂層11を形成するポリ塩化ビニルの柔軟性、樹脂層11の厚さ、樹脂シート1に要求される弾力性(腰の強さ)等によって、適宜選択することができる。なお、図3(a)、(b)及び(d)のように、繊維12aを配列した場合におけるピッチ(間隔)は、例えば、0.5〜500mm程度の範囲内に設定される。
【0031】
上述した繊維層12は、例えば、図4(a)〜(c)に示した形成方法によって形成することができる。図4(a)に示した樹脂層11の形成方法は、下敷きにされる鉄板等の板材41と、板材41の上に配置される鉄製等の枠体42と、を使用する。具体的には、板材41に、図3(a)〜(e)に示した長繊維を使用した配置構成を有する繊維12aを固定し、その上に枠体42を配置し、枠体42の内部にポリ塩化ビニルの溶融液を流し込む。ここでは、容器43を使用してポリ塩化ビニルの溶融液を流し込んでいるが、かかる方法に限定されるものではなく、枠体42の内部にポリ塩化ビニルの溶融液を流し込むことができる方法であれば他の方法であってもよい。板材41や枠体42には、固化したポリ塩化ビニルを剥離し易い素材によって形成される。
【0032】
図4(b)に示した樹脂層11の形成方法は、板材41及び二つの枠体42を使用する。具体的には、板材41上に一段目の枠体42を配置し、その上に図3(a)〜(e)に示した長繊維を使用した配置構成を有する繊維12aを配置し、さらに、その上に二段目の枠体42を配置し、枠体42の内部にポリ塩化ビニルの溶融液を流し込む。繊維12aは、二つの枠体42に挟まれることによって固定される。ポリ塩化ビニルの溶融液は、最後に全量纏めて流し込むようにしてもよいし、一段目の枠体42を配置した後に枠体42の内部に流し込み、二段目の枠体42を配置した後に再び枠体42の内部に流し込むようにしてもよい。
【0033】
図4(c)に示した樹脂層11の形成方法は、図4(a)に示した第一例と同様に、板材41及び枠体42を使用する。具体的には、板材41上に枠体42を配置し、一定量のポリ塩化ビニルの溶融液を流し込んでから、図3(a)〜(e)に示した長繊維を使用した配置構成を有する繊維12a又は図3(f)に示した短繊維12bを枠体42内に配置し、再びポリ塩化ビニルの溶融液を流し込む。かかる第三例の形成方法によれば、短繊維12bを分散配置した繊維層12であっても容易に形成することができる。なお、板材41上に枠体42を配置した後、繊維12a又は短繊維12bを板材41上に配置した後、ポリ塩化ビニルの溶融液を流し込むようにしてもよい。
【0034】
上述した第一例〜第三例に示した樹脂層11の形成方法では、ポリ塩化ビニルの溶融液を流し込んだ後、一定時間放置又は冷却し、ポリ塩化ビニルが固化した後、板材41及び枠体42を取り外すことによって、樹脂層11及び繊維層12が一体化した樹脂シート1を得ることができる。その後、樹脂シート1は、必要に応じて、縁部を切り落としたり、必要な大きさにカットしたりすることによって、所望の形状に成形される。
【0035】
次に、上述した樹脂シート1を使用した鋼材防食方法について説明する。ここで、図5は、本発明の第一実施形態に係る鋼材防食方法を示す図であり、(a)は第一工程、(b)は第二工程、(c)は第三工程、(d)は第四工程、(e)は第五工程、を示している。
【0036】
本発明の第一実施形態に係る鋼材防食方法は、鋼材22の表面に樹脂層11を形成する鋼材防食方法であって、ポリ塩化ビニルにより構成されるとともに内部又は表面に弾力性を付与する繊維層12を配置した樹脂シート1を用意し、鋼材22の表面に接着剤13を塗布し、樹脂シート1を接着剤13上に展張して配置し、鋼材22の表面を樹脂シート1で被覆することによって樹脂層11を形成するものである。樹脂シート1を用意する工程においては、上述した第一実施形態に係る樹脂シート1の形成方法によって樹脂シート1が形成される。また、樹脂シート1を貼付する鋼材22の表面は、予めケレン処理を施して接着性を向上させるようにしてもよい。以下、図5を参照しつつ詳細に説明する。
【0037】
図5(a)に示した第一工程は、鋼材22の下側のフランジ22bの表面に接着剤13を塗布する工程である。フランジ22bに接着剤13が塗布される範囲は、次工程で貼付される樹脂シート1が鋼材22の表面を被服する範囲と略同じである。この範囲内において、接着剤13は全面に塗布されてもよいし、部分的に塗布されてもよい。
【0038】
図5(b)に示した第二工程は、樹脂シート1をフランジ22bに塗布した接着剤13上に展張して配置する工程である。樹脂シート1は、フランジ22bの両端部を構成する角部やコバ部を被覆するように、フランジ22bの片側の上面から下面を経由して反対側の上面に達するように配置される。このように、鋼材22によって形成された角部を樹脂シート1の面部によって被覆することにより、従来、塗膜が薄くなり易かった角部においても他の平面部と同様の厚さを有する樹脂層11を容易に形成することができ、防食効果を向上させることができる。
【0039】
図5(c)に示した第三工程は、鋼材22の下側のフランジ22bとウェブ22aとにより形成された隅部に接着剤13を塗布し、樹脂シート1を接着剤13上に展張して配置する工程である。樹脂シート1は、鋼材22によって形成された隅部の形状に沿って配置される。また、本工程により貼付される樹脂シート1は、前工程により貼付された樹脂シート1と重ね合わせ部を有するように配置される。このように上部に配置される樹脂シート1を下部に配置される樹脂シート1の上に重ねて配置することにより、樹脂シート1の表面を水分が流れ易くすることができるとともに、水分の樹脂シート1下への浸入を抑制することができる。なお、重ね合わせられる隣接する樹脂シート1同士は、段差が少なくなるように滑らかに接続するようにしてもよい。
【0040】
図5(d)に示した第四工程は、鋼材22のウェブ22aの表面に接着剤13を塗布し、樹脂シート1を接着剤13上に展張して配置する工程である。本工程により貼付される樹脂シート1は、前工程により貼付された樹脂シート1と重ね合わせ部を有するように配置される。重ね合わせられる隣接する樹脂シート1同士は、段差が少なくなるように滑らかに接続するようにしてもよい。
【0041】
図5(e)に示した第五工程は、鋼材22の上側のフランジ22bの表面に接着剤13を塗布し、樹脂シート1を接着剤13上に展張して配置する工程である。樹脂シート1は、鋼材22によって形成された隅部の形状に沿って配置される。また、本工程により貼付される樹脂シート1は、前工程により貼付された樹脂シート1と重ね合わせ部を有するように配置される。重ね合わせられる隣接する樹脂シート1同士は、段差が少なくなるように滑らかに接続するようにしてもよい。
【0042】
上述した第一工程〜第五工程により、鋼材22の露出した表面を樹脂シート1で被覆することができ、容易に防食効果を有する樹脂層11を形成することができる。特に、鋼材22によって形成された角部又は隅部を樹脂シート1の面部によって被覆することによって、防食効果を向上させることができる。また、上述したように、鋼材22の下側から上側に向かって樹脂シート1を貼付することによって、下側に位置する樹脂シート1の上に上側に位置する樹脂シート1を容易に重ね合わせることができる。
【0043】
上述した図5(c)に示した第三工程において、鋼材22によって形成された隅部に形成される樹脂層11は、隅部に配置されるとともに隣接する樹脂シート1と滑らかに接続される樹脂ブロック3により形成するようにしてもよい。ここで、図6は、樹脂ブロックを示す断面図であり、(a)は第一例、(b)は第二例、を示している。
【0044】
図6(a)に示した樹脂ブロック3は、鋼材22の隅部22cは、ウェブ22a及びフランジ22bによって構成されており、隅部22cには一般的に溶接部22dが形成されている。溶接部22dは、断面が略三角形状又は略扇形形状を有している。樹脂ブロック3は、略90度の開き角度を有する隅部22cに水切り用の傾斜面31を形成する部品である。したがって、樹脂ブロック3は、ウェブ22a及びフランジ22bに密着される略三角形状の断面を有する。また、樹脂ブロック3は、溶接部22dと接触する部分を切り落として、略台形状の断面を有するものであってもよい。傾斜面31は、平面状であってもよいし、曲面状であってもよい。
【0045】
樹脂ブロック3は、接着剤を使用しないで配置して隣接する樹脂シート1によって隅部22cに固定するようにしてもよいし、接着剤を使用して隅部22cに固定するようにしてもよい。また、図6(a)に示したように、樹脂ブロック3は、隣接する樹脂シート1と段差が少なくなるように滑らかに接続するようにしてもよい。このように樹脂シート1と樹脂ブロック3とを滑らかに接続することによって、水分を流し易くすることができ、水切り効果を向上させることができる。
【0046】
また、樹脂ブロック3を配置する場合には、図5(b)に示した第二工程の後に、隅部22cに樹脂ブロック3を配置して、フランジ22b上に配置する樹脂シート1を貼付するようにすればよい。なお、図5(c)に示した第三工程で貼付される樹脂シート1により樹脂ブロック3の傾斜面31の全面を被覆するようにしてもよい。
【0047】
図6(b)に示した樹脂ブロック3は、隅部22cを構成する一方の鋼材22の端部に係止可能なフック部32を有するものである。かかる樹脂ブロック3は、図6(a)に示した傾斜面31を有する樹脂ブロック3の一端をフランジ22bの形状に沿って延長したものである。かかる構成により、樹脂ブロック3により鋼材22のフランジ22bの角部を容易に被覆することができる。
【0048】
ここで、図7は、本発明の第二実施形態に係る鋼材防食方法を示す図であり、(a)は第一工程、(b)は第二工程、(c)は第三工程、(d)は第四工程、を示している。かかる第二実施形態に係る鋼材防食方法は、図6(b)に示した樹脂ブロック3を用いた鋼材防食方法である。なお、第二実施形態に係る鋼材防食方法において、樹脂シート1を用意する工程及び接着剤13を塗布してから樹脂シート1を配置する工程は、上述した第一実施形態に係る鋼材防食方法と同様であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0049】
図7(a)に示した第一工程は、鋼材22の下側のフランジ22bの下面に接着剤13を塗布し、樹脂シート1を接着剤13上に展張して配置する工程である。なお、下側のフランジ22bの下面における腐食が生じ難い場合には、かかる第一工程を省略するようにしてもよい。
【0050】
図7(b)に示した第二工程は、下側のフランジ22bの両端部に樹脂ブロック3を配置する工程である。樹脂ブロック3は、フック部32をフランジ22bの角部22eを被覆するように挿入し、傾斜面31を隅部22cに合致させる。したがって、樹脂ブロック3は、使用される鋼材22の形状に合わせてフック部32の形状を個別に形成する必要がある。樹脂ブロック3を配置する鋼材22の表面には、接着剤を塗布してもよいし、塗布しなくてもよい。
【0051】
図7(c)に示した第三工程は、鋼材22のウェブ22aの表面に接着剤13を塗布し、樹脂シート1を接着剤13上に展張して配置する工程である。本工程により貼付される樹脂シート1は、樹脂ブロック3の傾斜面31と滑らかに接続するようにしてもよい。
【0052】
図7(d)に示した第四工程は、鋼材22の上側のフランジ22bの表面に接着剤13を塗布し、樹脂シート1を接着剤13上に展張して配置する工程である。樹脂シート1は、鋼材22によって形成された隅部の形状に沿って配置される。上側の隅部には、図6(a)に示した樹脂ブロック3を配置するようにしてもよいが、その必要性は少ない。
【0053】
なお、上述した説明では、鋼材22の下側から上側に向かって樹脂シート1及び樹脂ブロック3を配置するようにしているが、フランジ22bの角部及び表面部以外の鋼材22の表面に樹脂シート1を貼付してから、最後に樹脂ブロック3を配置するようにしてもよい。
【0054】
かかる鋼材防食方法によれば、傾斜面31を有する樹脂ブロック3を容易に鋼材22に配置することができ、水分を流し易くすることができ、水切り効果を向上させることができる。また、隅部22cを構成する一方の鋼材22(フランジ22b)の端部に係止可能なフック部32を有する樹脂ブロック3を使用することにより、樹脂ブロック3を容易に位置決めすることができるとともに、樹脂シート1の折り曲げ作業を省略することができ、施工作業の簡略化を図ることもできる。
【0055】
続いて、樹脂シート1が繊維層12の替わりに金属層14を有する場合について説明する。ここで、図8は、金属層の形成方法を示す図であり、(a)は第一工程、(b)は第二工程、(c)は第三工程、を示している。図9は、金属層を有する樹脂シートを示す図であり、(a)は平面図、(b)は作用説明図、である。なお、金属層14を有する樹脂シート1の断面図は、図2に示した断面図の繊維層12が金属層14に置換されるだけであるため、金属層14を有する樹脂シート1の断面図に関する説明は省略する。
【0056】
金属層14は、例えば、スチール製又はアルミニウム製の金属線14a(例えば、ワイヤー)によって構成される。特に、アルミニウム製の金属線14aを使用することにより、軽量化を図ることができる、表面に酸化被膜を形成することから腐食が進行し難い、柔軟であるため鋼材22の形状に合わせて折り曲げ易く弛みが生じ難い等の効果を有する。金属線14aは、例えば、図3(a)〜(d)に示した配置構成と同様に、格子状、網目状又は平行線状に配置される。
【0057】
図9(a)に示したような格子状の金属層14を有する樹脂シート1は、例えば、図8(a)〜(c)に示した工程によって形成される。図8(a)に示した第一工程は、金属層14を構成する格子状の金属線14a(金属メッシュ材)を用意する工程である。
【0058】
図8(b)に示した第二工程は、金属線14aを乾燥炉81で加熱する工程である。具体的には、金属線14aは、治具を介してレール82に吊り下げられており、その状態でレール82に沿って走行させることによって乾燥炉81内に配置される。乾燥炉81では、金属線14aを所定の温度(例えば、200〜300度程度)に加熱する。この加熱温度は、樹脂層11を形成するポリ塩化ビニルの性質や要求される膜厚、次工程までに要する時間等の条件によって適宜変更される。なお、かかる第二工程の前に、樹脂の接着性を向上させるために、金属線14aをプライマー処理するようにしてもよい。
【0059】
図8(c)に示した第三工程は、加熱した金属線14aをポリ塩化ビニルの溶融液に浸漬(ディップ)させる工程である。具体的には、ポリ塩化ビニルの溶融液は、樹脂液槽83に蓄えられており、乾燥炉81から排出された金属線14aはレール82に沿って走行されて樹脂液槽83の上部に到達し、降下されることによってポリ塩化ビニルの溶融液に浸漬される。
【0060】
樹脂シート1の樹脂層11に使用されるポリ塩化ビニルは、例えば、加熱することによって、ゾルが増粘し、ゲル化を経て均一に溶融した完全溶融状態へと変化する。したがって、金属線14aをポリ塩化ビニルが完全溶融可能な温度以上に加熱しておくことによって、金属線14aを溶融液内に浸漬させたときに、周囲のポリ塩化ビニルを均一に溶融させることができ、均一な樹脂層11を形成することができる。
【0061】
浸漬された金属線14aは、樹脂液槽83から引き上げられたときに、所望の膜厚を有するだけの樹脂液を引き連れてくることができる状態になるまで、樹脂液槽83の溶融液内に浸漬される。そして、一定時間(例えば、数秒〜数分程度)を経過した金属線14aは、樹脂液槽83から引き上げられて冷却(例えば、水冷や空冷)され、ポリ塩化ビニルが固化して樹脂層11が形成され、図9(a)に示したような内部に金属層14を有する樹脂シート1が形成される。なお、樹脂液槽83から引き上げられた金属線14aを冷却する前に、後処理として熱処理を施すようにしてもよい。
【0062】
上述した説明では、金属線14aをレール82に沿って移動させながら各工程を経るように構成しているが、各工程は人手を介して処理するようにしてもよい。また、図8(b)に示した第二工程において、乾燥炉81内で金属線14aを水平に寝かした状態で配置するようにしてもよいし、図8(c)に示した第三工程において、樹脂液槽83内で金属線14aを水平に寝かした状態で浸漬させるようにしてもよい。また、樹脂液槽83は、蓄えたポリ塩化ビニルの溶融液を略全て樹脂層11とするために、樹脂シート1の型枠を構成するものであってもよい。
【0063】
かかる金属層14を有する樹脂シート1は、繊維層12を有する樹脂シート1よりも弾力性が高く(腰が強く)、形状維持力に優れている。一方で、金属特有の性質から、容易に折り曲げることができるとともに、折り曲げた状態を容易に維持することができる。したがって、図9(b)に示したように、鋼材22の角部に樹脂シート1を貼付する場合であっても、容易に鋼材22の形状に沿って樹脂シート1を折り曲げることができ、弛みの少ない状態で鋼材22の表面に樹脂シート1を貼付することができ、作業性を向上させることができる。
【0064】
金属層14を有する樹脂シート1は、繊維層12を有する樹脂シート1と同様に、例えば、図5に示した工程により、鋼材22の表面に貼付される。また、樹脂ブロック3を使用する場合には、図7に示した工程により、金属層14を有する樹脂シート1を鋼材22の表面に貼付するようにしてもよい。また、鋼材22の貼付する箇所によって、金属層14を有する樹脂シート1と繊維層12を有する樹脂シート1とを使い分けるようにしてもよく、例えば、鋼材22の角部を被覆する樹脂シート1には金属層14を有するものを使用し、他の部分を被覆する樹脂シート1には繊維層12を有するものを使用するようにしてもよい。また、樹脂ブロック3は、樹脂シート1と同様に、繊維層12や金属層14を有していてもよい。
【0065】
本発明は上述した実施形態に限定されず、鋼桁橋以外の橋梁(例えば、トラス橋)の他、橋梁以外の、水門、建築物、海洋構造物、プラント等の鋼材を使用した様々な構造物における防食部材又は防食方法として適用することができる等、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0066】
1 樹脂シート
2 鋼桁橋
3 樹脂ブロック
11 樹脂層
12 繊維層
12a 繊維
12b 短繊維
13 接着剤
14 金属層
14a 金属線
21 橋脚
22 鋼材
22a ウェブ
22b フランジ
22c 隅部
22d 溶接部
22e 角部
23 上部構造物
24 垂直補強鋼材
31 傾斜面
32 フック部
41 板材
42 枠体
43 容器
81 乾燥炉
82 レール
83 樹脂液槽


【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼材の表面に樹脂層を形成する鋼材防食部材において、
前記樹脂層は、ポリ塩化ビニルにより構成されるとともに内部又は表面に弾力性を付与する繊維層又は金属層を配置した樹脂シートにより形成される、
ことを特徴とする鋼材防食部材。
【請求項2】
前記繊維層は、プラスチック繊維、ガラス繊維、カーボン繊維又は植物性繊維のいずれかの繊維によって形成される、ことを特徴とする請求項1に記載の鋼材防食部材。
【請求項3】
前記繊維は、前記ポリ塩化ビニルの融点よりも高い融点を有する、ことを特徴とする請求項2に記載の鋼材防食部材。
【請求項4】
前記繊維は、格子状、網目状、平行線状、不規則状又は分散状に配置されている、ことを特徴とする請求項2に記載の鋼材防食部材。
【請求項5】
前記金属層は、スチール製又はアルミニウム製の金属線によって構成される、ことを特徴とする請求項1に記載の鋼材防食部材。
【請求項6】
前記金属線は、格子状、網目状又は平行線状に配置されている、ことを特徴とする請求項5に記載の鋼材防食部材。
【請求項7】
前記鋼材によって形成された隅部に形成される前記樹脂層は、前記隅部に配置されるとともに隣接する前記樹脂シートと滑らかに接続される樹脂ブロックにより形成される、ことを特徴とする請求項1に記載の鋼材防食部材。
【請求項8】
前記樹脂ブロックは、前記隅部を構成する一方の鋼材の端部に係止可能なフック部を有する、ことを特徴とする請求項7に記載の鋼材防食部材。
【請求項9】
鋼材の表面に樹脂層を形成する鋼材防食方法において、
ポリ塩化ビニルにより構成されるとともに内部又は表面に弾力性を付与する繊維層又は金属層を配置した樹脂シートを用意し、
前記鋼材の表面に接着剤を塗布し、
前記樹脂シートを前記接着剤上に展張して配置し、
前記鋼材の表面を前記樹脂シートで被覆することによって前記樹脂層を形成する、
ことを特徴とする鋼材防食方法。
【請求項10】
前記鋼材によって形成された角部又は隅部は、前記樹脂シートの面部によって被覆される、ことを特徴とする請求項9に記載の鋼材防食方法。
【請求項11】
前記鋼材によって形成された隅部は、隣接する前記樹脂シートと滑らかに接続される樹脂ブロックによって被覆される、ことを特徴とする請求項9に記載の鋼材防食方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−71267(P2013−71267A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−210028(P2011−210028)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【特許番号】特許第5059222号(P5059222)
【特許公報発行日】平成24年10月24日(2012.10.24)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【出願人】(395013212)株式会社IHIインフラ建設 (10)
【出願人】(390012689)株式会社エポゾール (1)
【Fターム(参考)】