説明

鋼板のスポット溶接方法

【課題】電極チップ脱着時の作業性低下や損傷等を生じることが無く、複雑な形状の鋼板であっても容易にスポット溶接を行うことが可能な鋼板のスポット溶接方法を提供する。
【解決手段】電極チップ4が、JIS C 9304で規定される呼び径が16(mm)のDR形、CR形、またはCF形であり、水冷端42から先端44までの電極先端部において、水冷端42から先端基部43までが同一径の円柱状に形成されており、水冷端42から後端部までの冷却接続部においては、水冷端42から後端部に向かうに従って内径aが拡開するテーパ状の嵌合穴4aが設けられるとともに、外径Dが水冷端42から後端部に向かうに従って拡大するテーパ状とされており、電極チップ4の嵌合穴4aに、JIS C 9304で規定される呼び径Dが20mmのアダプタ3の先端部3Bが挿入され、嵌合されてなるキャップ型電極1を用いて鋼板を溶接する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板のスポット溶接方法に関するものであり、特に、自動車用部品の製造や車体の組立等の工程において、キャップ型電極を用いた抵抗スポット溶接によって溶接金属部を形成する鋼板のスポット溶接方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、特に自動車分野等において、車体の組立や部品の取付け等の工程で鋼板同士を溶接する際には、主としてスポット溶接が用いられており、種々の手順や条件が提案されている(例えば、特許文献1、2を参照)。
【0003】
また、鋼板同士をスポット溶接する場合には、例えば、図3に示すように、溶接電極によって被溶接材である鋼板(符号10A、10Bを参照)を挟持し、これら鋼板を加圧しながら溶接電流を通電して溶接金属部(符号30を参照)を形成することで、鋼板同士を溶接する、所謂抵抗スポット溶接法が用いられている。このような抵抗スポット溶接法においては、溶接電極として、例えば、JIS C 9304で規定される、キャップ状の電極チップがアダプタの先端部に嵌合されてなるキャップ型電極や、これらが一体化された一体型電極が用いられる。
【0004】
ここで、スポット溶接に用いられる電極の先端部には、溶接の度に大きな加圧力が印加されることから、加圧負荷によって徐々に磨耗等が進行し、特に、自動車分野において用いられるような強度の高い鋼板をスポット溶接する場合に顕著になる。このため、自動車分野において用いられるような強度の高い鋼板をスポット溶接する場合には、先端の電極チップのみを任意に交換可能な、キャップ型電極が好適に用いられている。キャップ型電極は、上述したように、通常、アダプタの先端部に電極チップを嵌合した状態で使用される。このため、電極チップの取り外しの際は、電極チップの後端部とアダプタとの隙間に工具を差し込み、力を加えることで嵌合状態を解消し、また、取り付けの際は、新たな電極チップをアダプタの先端部に仮止めした後、荷重を加えて嵌合している。
【0005】
しかしながら、従来から用いられている、JIS C 9304で規定されるようなキャップ型電極において電極チップの取り外し作業を行った場合には、以下のような問題が生じる。
まず、電極チップは、スポット溶接時に高い圧力で鋼板を加圧することから、電極チップ内部の嵌合穴に対して、アダプタの先端部が高圧で入り込んで嵌合された状態となる。このため、電極チップの取り外しの際は、電極チップの後端部とアダプタとの隙間に工具を差し込み、大きな力を何度も加えて捻りを与えるか、あるいは、回転工具等を用いて電極チップを回転させながら取り外すことになる。このように、電極チップとアダプタとの嵌合箇所に大きな力を加えたり、あるいは捻りや回転力を加えたりした場合には、アダプタの先端部を傷めてしまい、その後のアダプタと電極チップとの嵌合性が劣化して損傷箇所から冷却水が漏れる等の問題が生じ、ひいては、溶接品質に影響が及ぶおそれがある。
【0006】
またさらに、従来の電極チップは、軸方向において外径が同一の円柱状とされていることから、複雑な溶接装置の内部における手作業の際に、作業者の手から落下し易い等、電極チップの脱着作業がし辛く取り扱い性に劣るという問題があった。
【0007】
上述のような、電極チップをアダプタから取り外す際の作業性を改善するため、アダプタの先端部が突出する基端面を当該アダプタの縦軸に対して傾斜させて形成するとともに、電極チップの後端面も、嵌合状態において、縦軸に対して直交方向へ前記基端面と前記後端面とが互に対向するように、傾斜させて形成することが提案されている。(例えば、特許文献3を参照)。特許文献3によれば、嵌合状態の電極チップを回転させることで、アダプタの基端面が電極チップの後端面に当接し、縦軸方向の反力によって嵌合状態が解除される方向へ力が生じ、回転過程において自動的に電極チップの取り外しが可能となり、作業性が向上する。
しかしながら、特許文献3に記載の電極チップを用いた場合であっても、取り外し作業の際にアダプタの先端部を傷めてしまい、その後の電極チップとアダプタとの嵌合性が劣化して損傷箇所から冷却水が漏れ、溶接品質に影響が及ぶおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−122153号公報
【特許文献2】特許第4041295号公報
【特許文献3】特開平8−197262号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のような電極チップの脱着作業性や、アダプタ先端部に痛みが発生する問題を解決することを目的として、例えば、通常使用される呼び径のものよりも大きなキャップ型電極を用いることも考えられる。このような場合には、アダプタの先端部と電極チップの嵌合穴内面との接触面積が大きくなることから、嵌合状態における面圧が低下するので、アダプタの先端部を傷めることなく、小さな力で電極チップを取り外すことができる。しかしながら、例えば、JIS C 9304で規定される呼び径で、通常16mmのキャップ型電極を用いるところを、呼び径が20mmのものに置き換えた場合には、凹凸の多い形状に加工された鋼板をスポット溶接する際に、凹部に電極チップの先端が入り込むのが困難になる。このような場合、自動車のピラー等の凹凸の多い形状とされた鋼板をスポット溶接する際の溶接品質が劣化したり、あるいは、溶接自体が不可能になってしまうという大きな問題があった。このため、鋼板をスポット溶接するにあたり、脱着作業性等に優れるとともに嵌合部分を傷めるがことなく、また、凹凸の多い複雑な形状の鋼板であっても容易にスポット溶接を行うことが可能な方法が切に求められていた。
【0010】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、キャップ型電極を用いて鋼板をスポット溶接する場合に、電極チップ脱着時の作業性低下や損傷等を生じるのが抑制され、また、複雑な形状の鋼板であっても容易にスポット溶接を行うことが可能な鋼板のスポット溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等が上記問題を解決するために鋭意研究したところ、鋼板のスポット溶接に用いるキャップ型電極に関し、電極チップの形状を最適化するとともに、呼び径が大きなアダプタを用いることにより、嵌合部分の面圧が低下して脱着が容易になることを知見した。これに加え、被溶接材である鋼板の引張強さと、鋼板に対する電極加圧力との関係を適正に制御することにより、電極チップ脱着時の作業性低下や損傷等を生じることが無く、また、複雑な形状の鋼板であっても容易にスポット溶接を行うことが可能となることを見出し、本発明を完成した。
即ち、本発明の要旨は以下のとおりである。
【0012】
[1] 被溶接材である鋼板同士を、キャップ状の電極チップがアダプタの先端部に嵌合されてなるキャップ型電極を用いて、抵抗スポット溶接法によって溶接する鋼板のスポット溶接方法であって、前記鋼板の板厚が下記(1)式を満たし、且つ、前記鋼板の引張強さTS(MPa)が下記(2)式で表される範囲の場合には、下記(3)式で表される電極加圧力P1(kN)で、前記キャップ型電極で前記鋼板を加圧する条件とするとともに、前記鋼板の引張強さTS(MPa)が下記(4)式で表される範囲の場合には、下記(4)、(5)式で表される電極加圧力P2(kN)で、前記キャップ型電極で前記鋼板を加圧する条件とし、前記電極チップは、JIS C 9304で規定される呼び径が16(mm)のDR形、CR形、またはCF形であり、軸方向で水冷端から先端までの電極先端部において、前記水冷端から先端基部までが同一径の円柱状に形成されており、前記水冷端から後端部までの冷却接続部においては、前記水冷端から前記後端部に向かうに従って内径が拡開するテーパ状の嵌合穴が設けられるとともに、外径が前記水冷端から前記後端部に向かうに従って拡大するテーパ状とされており、前記電極チップの前記嵌合穴に、JIS C 9304で規定される呼び径が20mmのアダプタの先端部が挿入され、嵌合されてなるキャップ型電極を用いて溶接することを特徴とする鋼板のスポット溶接方法。
1.8 ≦ t ≦ 3.6 ・・・・・(1)
TS ≦ 340 ・・・・・(2)
P1 = (2.0〜2.9)×t ・・・・・(3)
1180 ≧ TS > 340 ・・・・・(4)
P2 = {(2.0〜2.9)×t}+α ・・・・・(5)
α = 0.49〜0.98 ・・・・・(6)
{但し、上記(1)〜(6)式において、t:鋼板の板厚(mm)、P1、P2:鋼板に対する電極加圧力(kN)、α:付加加圧力(kN)を示す。}
【発明の効果】
【0013】
本発明の鋼板のスポット溶接方法によれば、抵抗スポット溶接法によって鋼板を溶接するにあたり、被溶接材である鋼板の引張強さと、鋼板に対する電極加圧力との関係を適正に制御し、さらに、電極チップの形状を最適化するとともに、呼び径が大きなアダプタが用いられてなるキャップ型電極を用いることにより、電極チップとアダプタとの嵌合部分の面圧が低下して脱着が容易になるので、電極チップ脱着時の作業性が低下することが無く、また、嵌合箇所が損傷して冷却水が漏れるのを防止できる。また、上記構成により、複雑な形状の鋼板であっても容易にスポット溶接を行うことが可能となる。従って、例えば、自動車用部品の製造や車体の組立等の工程において本発明の鋼板のスポット溶接方法を適用することにより、生産効率や溶接品質の向上等によるメリットを十分に享受することができ、その社会的貢献は計り知れない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る鋼板のスポット溶接方法の一例を模式的に説明する図であり、抵抗スポット溶接法に用いられるキャップ型電極を示す平面図である。
【図2】本発明に係る鋼板のスポット溶接方法の一例を模式的に説明する図であり、図1に示すキャップ型電極に備えられる電極チップを示す要部拡大図である。
【図3】本発明に係る鋼板のスポット溶接方法の一例を模式的に説明する図であり、抵抗スポット溶接方法によって溶接金属部を形成した状態を示す断面図である。
【図4】本発明に係る鋼板のスポット溶接方法の他の例を模式的に説明する図であり、キャップ型電極に用いられる電極チップの各種形状を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の鋼板のスポット溶接方法の実施の形態について、図1〜図4を参照しながら説明する。なお、本実施形態は、本発明の鋼板のスポット溶接方法の趣旨をより良く理解させるために詳細に説明するものであるから、特に指定の無い限り本発明を限定するものではない。
【0016】
本発明の鋼板のスポット溶接方法は、図1〜図3に示すように、被溶接材である鋼板10(10A、10B)同士を、キャップ状の電極チップ4がアダプタ(シャンク)3の先端部に嵌合されてなるキャップ型電極1を用いて、抵抗スポット溶接法によって溶接する方法であり、まず、鋼板10A、10Bの板厚が下記(1)式を満たし、且つ、鋼板10A、10Bの引張強さTS(MPa)が下記(2)式で表される範囲の場合には、下記(3)式で表される電極加圧力P1(kN)で、キャップ型電極1で鋼板10A、10Bを加圧する条件とするとともに、鋼板10A、10Bの引張強さTS(MPa)が下記(4)式で表される範囲の場合には、下記(4)、(5)式で表される電極加圧力P2(kN)で、キャップ型電極1で鋼板10A、10Bを加圧する条件としている。そして、電極チップ4は、JIS C 9304で規定される呼び径D1が16(mm)のDR形、CR形、またはCF形であり、軸方向で水冷端42から先端44までの電極先端部4Bにおいて、水冷端42から先端基部43までが同一径(呼び径D1)の円柱状に形成されており、水冷端42から後端部41までの冷却接続部4Aにおいては、水冷端42から後端部41に向かうに従って内径aが拡開するテーパ状の嵌合穴4aが設けられるとともに、外径(呼び径D1)が水冷端42から後端部41に向かうに従って拡大するテーパ状とされており、電極チップ4の嵌合穴4aに、JIS C 9304で規定される呼び径(D2)が20mmのアダプタ3の先端部3Bが挿入され、嵌合されてなるキャップ型電極1を用いて溶接する方法である。
1.8 ≦ t ≦ 3.6 ・・・・・(1)
TS ≦ 340 ・・・・・(2)
P = (2.0〜2.9)×t ・・・・・(3)
1180 ≧ TS > 340 ・・・・・(4)
P = {(2.0〜2.9)×t}+α ・・・・・(5)
α = 0.49〜0.98 ・・・・・(6)
但し、上記(1)〜(6)式において、t:鋼板の板厚(mm)、P1、P2:鋼板に対する電極加圧力(kN)、α:付加加圧力(kN)を示す。
【0017】
また、本実施形態において説明するキャップ型電極1(1A、1B)は、図1に示すように、さらに、アダプタ3の後端部3Aが挿入される貫通孔2aが形成されたホルダ2が備えられている。そして、本実施形態で用いられるキャップ型電極1(1A、1B)は、ホルダ2の取付部2Aが図示略のスポット溶接装置に取り付けられるように構成されている。
【0018】
「抵抗スポット溶接方法」
図3は、本発明において鋼板10A、10Bを溶接するのに用いられる抵抗スポット溶接方法を説明するための模式図である。
本発明で用いられる抵抗スポット溶接方法とは、まず、被溶接材である2枚の鋼板10A、10B同士を重ね合わせる。そして、鋼板10A、10Bの重ね合わせ部分に対して両側から、即ち、図3に示す例では上下方向から挟み込むように、銅合金からなるキャップ型電極1A、1Bの電極チップ4を押し付けつつ通電することにより、2枚の鋼板10A、10Bの間に溶融金属部30を形成させる。この溶融金属部30は、溶接通電が終了した後、水冷されたキャップ型電極1A、1Bによる抜熱や鋼板10A、10Bの熱伝導によって急速に冷却されて凝固し、2枚の鋼板10A、10Bの間に、図示例のような断面楕円形状の溶接金属部(ナゲット)30が形成される。このような溶接金属部30が形成されることにより、2枚の鋼板10A、10Bが溶接される。
【0019】
本発明に係る鋼板のスポット溶接方法においては、上述のような抵抗スポット溶接方法によって鋼板10A、10Bを溶接するにあたり、上記構成の電極チップ4が備えられたキャップ型電極1を用い、さらに、鋼板10A、10Bの引張強さTS(MPa)と、鋼板10A、10Bに対する電極加圧力P(kN)との関係を最適化している。これにより、電極チップとアダプタとの間の脱着が容易になり、電極チップ脱着時の作業性の低下や、嵌合箇所の損傷等が生じるのを防止でき、また、複雑な形状の鋼板であっても容易にスポット溶接を行うことが可能となる方法である。
【0020】
「鋼板特性の限定理由」
以下に、本発明における被溶接材である鋼板10(10A、10B)の特性の限定理由について詳述する。
【0021】
(引張強さ)
本発明では、被溶接材である鋼板10(10A、10B)の引張強さについては、特に限定されず、例えば、引張強さTSが340MPa以下の強度が比較的低いものから、引張強さTSが980MPaを超えるような高強度鋼板まで、あらゆる強度の鋼板に適用可能である。しかしながら、鋼板の引張強さが1180MPaを超える場合には、上述したような本発明による、電極チップ脱着性向上等の効果が得られ難くなるおそれがあるので、これを上限とする。また、本発明においては、詳細を後述するが、鋼板10(10A、10B)の引張強さに基づき、スポット溶接時に鋼板10A、10Bに対して印加される電極圧力P1、P2(kN)を適正範囲に制御している。
【0022】
(板厚)
本発明では、鋼板10(10A、10B)の板厚tを、上記(1)式で表されるように、1.8〜3.6mmの範囲に規定する。
一般に、鋼板の板厚tが1.8mm以上である場合には、鋼板に対する電極加圧力P(kN)を増大させることが、良好な溶接金属部を形成するうえで必須となることから、この板厚以上である鋼板が、本発明が適用される対象となる。また、高強度鋼板の板厚が3.6mmを超える場合には、鋼板に対する電極加圧力P1、P2(kN)を大幅に増大させることが必要となることから、本発明による電極チップ脱着性向上等の効果が得られ難くなるおそれがある。
【0023】
(鋼種)
本発明では、被溶接材である鋼板をなす鋼種については特に限定されず、例えば、2相組織型(例えば、フェライト中にマルテンサイトを含む組織、フェライト中にベイナイトを含む組織)、加工誘起変態型(フェライト中に残留オーステナイトを含む組織)、微細結晶型(フェライト主体組織)等、何れの型の鋼板であっても良い。何れの鋼種からなる高強度鋼板であっても、本発明の鋼板のスポット溶接方法を適用することにより、スポット溶接の際に収縮欠陥や縦割れが発生するのを防止でき、鋼板の特性を損なうことなく、信頼性の高い溶接継手(溶接金属部)が得られる。
【0024】
また、本発明のスポット溶接方法の適用は、同種同厚の鋼板の組合せに限定されるものではなく、各規定を満たす鋼板の溶接であれば、同種異厚、異種同厚、あるいは異種異厚の組合せで行うことも可能である。なお、異厚の2枚重ねや3枚以上重ねの場合には、全ての鋼板の板厚を加算し、2枚重ねとして平均した値を鋼板の板厚として、これが限定範囲内に入っているかどうかを判断すれば良い。
【0025】
(めっき)
本発明では、鋼板の表層に施されるめっき層の種類については、例えば、Zn系、Zn−Fe系、Zn−Ni系、Zn−Al系、Zn−Mg系、Pb−Sn系、Sn−Zn系、Al-Si系等、何れのめっき層であっても良い。また、めっき層の表層に無機系、有機系の皮膜(例えば、潤滑皮膜等)が施されていても良い。また、これらのめっき層の目付量についても、特に限定されないが、両面の目付け量で100g/m以下とすることが好ましい。めっきの目付け量が片面あたりで100g/mを越えると、めっき層が溶接の際の障害となる場合がある。
【0026】
「溶接条件の限定理由」
以下に、本発明において規定する抵抗スポット溶接の際の溶接条件について、その限定理由を詳述する。
【0027】
(鋼板に対する電極加圧力:P)
本発明では、キャップ型電極1A、1Bの鋼板10A、10Bに対する電極加圧力P1、P2(kN)を、下記(2)、(4)式で表される鋼板10A、10Bの引張強さTS(MPa)に応じて、下記(3)、(5)、(6)式で表される条件とする。
TS ≦ 340 ・・・・・(2)
P1 = (2.0〜2.9)×t ・・・・・(3)
1180 ≧ TS > 340 ・・・・・(4)
P2 = {(2.0〜2.9)×t}+α ・・・・・(5)
α = 0.49〜0.98 ・・・・・(6)
但し、上記(2)〜(6)式において、t:鋼板の板厚(mm)、P1、P2:鋼板に対する電極加圧力(kN)、α:付加加圧力(kN)を示す。
【0028】
本発明においては、鋼板10A、10Bの引張強さTSが上記(2)式で表される範囲、即ち340MPa以下の場合には、上記(3)式で表される電極加圧力P1(kN)で、キャップ型電極1で鋼板10A、10Bを加圧する条件とする。一方、鋼板10A、10Bの引張強さTSが上記(4)式で表される範囲、即ち340MPa超1180MPa以下である場合には、下記(4)、(5)式で表される電極加圧力P2(kN)で、キャップ型電極1で鋼板10A、10Bを加圧する条件とする。つまり、鋼板10A、10Bの引張強さTSが340MPa以下である場合に比べ、上記(6)式で表される付加加圧力α(0.49〜0.98MPa)分だけ、電極加圧力を大きくする。
【0029】
本発明においては、電極加圧力P1、P2(kN)を上記条件とすることで、被溶接材である鋼板10A、10Bの強度(引張強さTS)と電極加圧力P1、P2との関係を適正に制御し、さらに詳細を後述するように、電極チップ4の形状を最適化している。これにより、本発明では、良好な溶接品質を維持しながら、電極チップ4とアダプタ3との間の脱着が容易になり、電極チップ4脱着時の作業性の低下や、嵌合箇所の損傷等が生じるのを防止することが可能となる。
【0030】
電極加圧力P(kN)が上記規定範囲を下回る場合には、鋼板同士を良好に溶接することが困難になる。また、電極加圧力Pが上記規定範囲を超える場合には、電極チップとアダプタとの間に過度な圧力が加わり、電極チップ脱着時の作業性の低下や、電極チップとアダプタとの間の嵌合箇所、即ち、アダプタの先端部等に損傷が生じるおそれがある。
【0031】
本発明において、電極加圧力P1、P2(kN)を、鋼板10A、10Bの引張強さTS(MPa)に応じて規定したのは、強度特性等に優れた溶接金属部30を形成するためには、鋼板10A、10Bの引張強さTSが高くなるほど、電極加圧力を高くすることが求められるためである。本発明においては、鋼板10A、10Bの引張強さTSと電極加圧力P1、P2との関係を上記条件とすることにより、良好な溶接品質を維持しながら、電極チップ4脱着時の作業性の低下や損傷等が生じるのを防止できる。
【0032】
ここで、例えば、板厚tの異なる鋼板同士を2枚重ねや3枚重ね以上とした場合には、全ての鋼板の板厚を加算し、2枚重ねとして平均した値を鋼板の板厚tとして、これが上記限定範囲内に入っているかどうかを判断すれば良い。
【0033】
なお、本発明において、上記範囲の電極加圧力P1、P2(kN)でキャップ型電極1A、1Bを鋼板10A、10Bに押し付けつつ通電する溶接時間(通電時間)や溶接電流は、鋼板をスポット溶接する場合の一般的な実用の範囲内に設定すれば良い。
【0034】
「キャップ型電極」
本発明の鋼板のスポット溶接方法においては、上述したように、キャップ状の電極チップ4がアダプタ3の先端部3Bに嵌合されてなるキャップ型電極1を用いて鋼板10A、10Bを溶接する。
以下、キャップ型電極1について詳述する。
【0035】
図1(図2の電極チップ4も参照)に示す例のキャップ型電極1は、アダプタ3の先端部3Bが電極チップ4の嵌合穴4aに挿入された嵌合状態とされ、さらに、アダプタ3の後端部3Aが、ホルダ2に形成された貫通孔2aに挿入された嵌合状態とされている。
【0036】
ホルダ2は、図示略の溶接装置に取り付けるための部材であり(図3も参照)、JIS C 9304で規定される従来公知のものを何ら制限無く用いることができる。ホルダ2は、軸方向で貫通するように内部に形成された貫通孔2aに、図示略の溶接装置から冷却水が供給され、貫通孔2aを通じて後述のアダプタ3に備えられる貫通孔3aに冷却水を供給するものである。
【0037】
アダプタ(シャンク)3は、ホルダ2と電極チップ4の間に介在され、電極チップ4が先端部3Bに嵌合される部材であり、ホルダ2と同様、JIS C 9304で規定される従来公知のものを何ら制限無く用いることができる。また、本発明においては、アダプタ3として、JIS C 9304で規定される呼び径D2が20mmのものを用いる。また、アダプタ3の長さは特に限定されず、取り付けられる溶接装置や被溶接材の特性に合せて適宜採用できるが、例えば、L=65mm程度のものを使用することができる。
また、アダプタ3には、上記ホルダ2と同様、軸方向で貫通するように内部に貫通孔3aが形成されており、アダプタ3の先端部3Bに嵌合された電極チップ4の嵌合穴4aの終端である水冷端42に向けて、ホルダ2側から供給された冷却水を導入する。
【0038】
本発明の溶接方法で用いられ、キャップ型電極1に備えられる電極チップ4は、JIS C 9304で規定される呼び径D1が16(mm)のDR形(ドームラジアス形:図2の電極チップ4を参照)、CR形(円錐台ラジアス形:図4(a)の電極チップ14を参照)、またはCF形(円錐台形:図4(b)の電極チップ24を参照)のものである。本実施形態においては、主に、図2(図1も参照)に示すようなDR型の電極チップ4を例に説明する。
【0039】
電極チップ4は、電極長さ方向(軸方向)で水冷端42から先端44までの電極先端部4Bにおいて、水冷端42から先端基部43までの間が同一径(呼び径D1)の円柱状に形成されている。また、水冷端42から後端部41までの冷却接続部4Aにおいては、水冷端42から後端部41に向かうに従って内径aが拡開する、テーパ状の嵌合穴4aが設けられるとともに、外径が水冷端42から後端部41に向かうに従って拡大するテーパ状とされている。
【0040】
そして、本発明のキャップ型電極1に備えられる電極チップ4は、嵌合穴4aに、JIS C 9304で規定される呼び径(D)が20mmのアダプタ3の先端部3Bが挿入され、嵌合状態とされる。さらに、本実施形態においては、上述したように、アダプタ3の後端部3Aがホルダ2の嵌合穴2aに挿入され、嵌合状態とされ、ホルダ2の取付部2Aが図示略のスポット溶接装置に取り付けられる。
【0041】
電極チップ4をアダプタ3の先端部3Bに嵌合する際は、図3に示すように、上下方向から鋼板10A、10Bを挟み込むように配置された、キャップ型電極1A、1Bをなすアダプタ3の各々に対して、電極チップ4を嵌合させる。この場合、下側のキャップ型電極1Bをなすアダプタ3に対しては、電極チップ4の冷却接続部4A側を下向きにして、嵌合穴4aにアダプタ3の先端部3Bを挿入する。
一方、上側のキャップ型電極1Aをなすアダプタ3に対しては、テーパ状に形成された冷却接続部4A側を上向きにして、嵌合穴4aにアダプタ3の先端部3Bを挿入する。この場合、冷却接続部4Aが上側に向かうに従って拡開することになるので、作業者が指で保持し易く、作業性が向上するという効果が得られる。
【0042】
ここまでの作業において、キャップ型電極1A、1Bをなす各々のアダプタ3に取り付けられた電極チップ4は、アダプタ3に対して軽く嵌合され、仮止めされた状態となる。そして、電極チップ4がアダプタ3に対して仮止めされた状態で初回のスポット溶接を行い、後半10A、10Bを挟んで加圧することにより、電極チップ4の嵌合穴4aにアダプタの先端部3Bが高圧で入り込み、確実に嵌合された状態となる。
【0043】
そして、本発明では、電極チップ4の磨耗の進行や損傷等が生じた際には、従来と同様の方法を用いて、電極チップ4とアダプタ3との嵌合状態を解除し、電極チップ4を取り外して交換する。具体的には、例えば、ドライバ等の工具の先端を電極チップ4の後端部41とアダプタ3との隙間に差し込み、電極チップ4を軸方向でスライドさせるか、あるいは、電極チップ4の周面をモンキスパナ等の回転工具で挟持して回転させ、嵌合穴4aとアダプタ3の先端部3Bとの嵌合状態を解除することによって取り外す。
【0044】
ここで、キャップ型電極1A、1Bは、電極チップ4が、電極先端部4Bにおける水冷端42から先端基部43までの間が、呼び径D1=16(mm)で同一径の円柱状に形成されている。さらに、キャップ型電極1A、1Bは、冷却接続部4Aにおいて、水冷端42から後端部41に向かうに従って内径aが拡開するテーパ状の嵌合穴4aが設けられ、この嵌合穴4aに呼び径D2が20mmのアダプタ3の先端部3Bが挿入、嵌合されてなる構成なので、以下に説明する理由により、電極チップ4を取り外すのが容易になる。
【0045】
従来、電極チップの取り外しの際は、電極チップの後端部とアダプタとの隙間に工具を差し込んで大きな力を何度も加えて捻りを与えるか、あるいは、回転工具等を用いて電極チップを回転させながら取り外していた。このため、アダプタの先端部を傷めてしまい、その後のアダプタと電極チップとの嵌合性の劣化が生じ、損傷箇所から冷却水が漏れ、ひいては、溶接品質に影響が及ぶ等の問題があった。
【0046】
これに対し、本発明においては、被溶接材である鋼板10A、10Bの引張強さTS(MPa)と、鋼板10A、10Bに対する電極加圧力P1、P2(kN)との関係を適正に制御するとともに、電極チップ4の形状を上記構成の如く最適化し、呼び径D2が20mmと大きなアダプタ3が用いられてなるキャップ型電極1を用いている。これにより、電極チップ4とアダプタ3との嵌合部分、即ち、嵌合穴4aの内面と先端部3Bの周面との間の面圧が低下して取り外すのが容易になるので、電極チップ4の脱着時の作業性の低下や、アダプタ3に損傷が生じるのを防止できる。
【0047】
また、本発明においては、電極先端部4Bにおける水冷端42から先端基部43までの間が、呼び径D1が16(mm)で同一径とされている一方、冷却接続部4Aの外径が、水冷端42から後端部41に向かうに従って拡大するテーパ状とされている。これにより、凹凸の多い形状に加工された鋼板をスポット溶接する場合であっても、凹部に電極チップ4の電極先端部4Bが容易に入り込むので、確実にスポット溶接することが可能となる。従って、例えば、自動車のピラー等の凹凸の多い形状とされた鋼板をスポット溶接する際の溶接作業性が向上するので、生産性に優れるとともに、高い溶接品質を実現することが可能となる。
【0048】
なお、本発明においては、図2に示す例のように、電極チップ4の先端44が緩やかな曲面として形成されていることが、鋼板10A、10Bへの加圧の際の接触面積が広がり、効率良く溶接金属部30を形成することができる点からより好ましい。また、先端44を緩やかな曲面とした場合の平面視における曲面径dは、特に限定されないが、例えば、7.5〜8.5mmの範囲とすることが、上記効果が顕著に得られる点から最も好ましい。また、先端44は、例えば、R40程度の曲面として形成することができる。
また、本発明においては、例えば、図4(b)に示すCF形(円錐台形)の電極チップ24のように、先端24bを平面部として形成することも可能である。
【0049】
また、本発明では、詳細な図示を省略するが、上記構成の電極チップの周面の少なくとも一部に、回転工具の係合溝に係合するように、多角形状のフランジ部が形成された構成としても良い。このようなフランジ部を備えることにより、電極チップ取り外し時の作業性がさらに向上する。
【0050】
また、本発明に係るスポット溶接方法は、上述のように、鋼板10A、10Bに対する電極加圧力P1、P2や、キャップ型電極1A、1Bをなす電極チップ4の形状を最適化した方法なので、上記構成のキャップ型電極1A、1Bを備えていれば、従来公知の抵抗スポット溶接設備を何ら制限無く採用することが可能である。
【0051】
以上説明したように、本発明に係る鋼板のスポット溶接方法によれば、抵抗スポット溶接法によって鋼板を溶接するにあたり、被溶接材である鋼板10(10A、10B)の引張強さTS(MPa)と、鋼板10A、10Bに対する電極加圧力P1、P2(kN)との関係を適正に制御し、さらに、電極チップ4の形状を最適化するとともに、呼び径D2が大きなアダプタ3が用いられてなるキャップ型電極1を用いることにより、電極チップ4とアダプタ3との嵌合部分の面圧が低下して脱着が容易になるので、電極チップ4脱着時の作業性が低下することが無く、また、アダプタ3の先端部3B等に損傷が生じて冷却水が漏れることが無い。また、上記構成により、複雑な形状の鋼板であっても容易にスポット溶接を行うことが可能となる。従って、例えば、自動車用部品の製造や車体の組立等の工程において本発明の鋼板のスポット溶接方法を適用することにより、生産効率や溶接品質の向上等によるメリットを十分に享受することができ、その社会的貢献は計り知れない。
【実施例】
【0052】
以下、本発明に係る鋼板のスポット溶接方法の実施例を挙げ、本発明をより具体的に説明するが、本発明は、もとより下記実施例に限定されるものではなく、前、後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【0053】
[実施例1]
下記表1に示すような、板厚:2.3mm、引張強さ:270〜980MPaの軟鋼(日本鉄鋼連盟規格:270E、340W、440W)、2相複合組織型高強度鋼(同:590Y、980Y)を用い、これらの鋼板から、30mm×50mmの試験片を切り出した。
【0054】
次いで、作製した試験片を、図3に示すように同鋼種の組合せで重ね合わせ、図1に示すような本発明に係るキャップ型電極(MAφ20−DR形電極)、及び、従来から用いられているJIS−DR形電極(呼び径16mm)を使用して、下記表2に示す条件で、抵抗スポット溶接方法によって試験片同士を溶接した。
【0055】
そして、上記手順で得られた溶接試験片を、溶接部の中心点近傍の位置で直線状に切断した後、研磨加工を施し、溶接部中心を含むように面出しをして、メタルフロー腐食を行い、その後、顕微鏡を用いて溶接部のナゲット径の大きさを計測し、結果を下記表2に示した。
【0056】
下記表1に、各試験片をなす鋼板の成分並びに機械的特性の一覧を示すとともに、下記表2に、各溶接試験片の作製条件並びに評価結果の一覧を示す。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【0059】
表2の結果に示すように、本発明に係るキャップ型電極(MAφ20−DR形電極:先端の緩曲面部径8φ−40R)を使用して、270E(条件No.16、17、18)、590Y(条件No.19、20、21)、980Y(条件No.22、23、24)、340W(条件No.25、26、27)、440W(条件No.28、29、30)をスポット溶接した時のナゲット径は、従来の電極であるJIS−DRφ16(先端径8φ40R)を用いて、同一の溶接条件で270E(条件No.1、2、3)、590Y(条件No.4、5、6)、980Y(No.7、8、9)、340W(条件No.10、11、12)、440W(条件No.13、14、15)を溶接した時のナゲット径とほぼ同じ値を示した。これにより、本発明のような、電極チップの呼び径がアダプタ呼び径に比べて小径とされたキャップ型電極を使用した場合でも、ナゲット径に与える影響は認められないことが明らかとなった。
【0060】
なお、実施例1においては、さらに、表2に示す条件のスポット溶接と、アダプタからの電極チップの脱着を繰り返し行い、脱着時の作業性並びに損傷の有無を確認した。この結果、本発明のキャップ型電極(条件No.16〜30)を用いた場合には、電極チップの脱着を500回繰り返しても、アダプタの先端部における損傷はごく軽微であり、水漏れは認められなかった。
これに対し、従来の電極(条件No.1〜15)を用いた場合には、高加圧力のため、DR電極チップがアダプタと強力に密着してしまい、スパナとハンマー等で両者を強制的に分離させたところ、アダプタの電極キャップ側テーパ(先端部)に損傷が生じていた。またさらに、アダプタと電極チップとの脱着を数回繰り返したところ、アダプタ先端部の損傷がひどくなり、当該部分より水漏れを発生し、アダプタは使用不可能となった。
【0061】
[実施例2]
実施例1と同様の各種鋼板からなる試験片を用い、被溶接材の鋼種、板厚、並びに使用する電極チップ形状を変化させ、下記表3に示す条件で、抵抗スポット溶接方法によって試験片同士を溶接した。
そして、表3に示す条件のスポット溶接と、アダプタからの電極チップの脱着を繰り返し行い、脱着時の作業性並びに損傷の有無を確認し、結果を下記表3に示した。
【0062】
【表3】

【0063】
表3の結果に示すように、本発明の請求項1で規定する範囲を外れた板厚の鋼板をスポット溶接した場合には、従来のDR形電極(No.31)と本発明のキャップ型電極(No.32)とでは、対応するアダプタ寿命に差は認められなかった。
しかしながら、本発明の請求項1で規定する範囲内である板厚2.3mmの鋼板をスポット溶接した場合、従来のDR形電極(No.33)と本発明のキャップ型電極(No.34)とでは、アダプタ寿命に大きな差が認められた。
また、鋼種を980Yに変更した場合も、従来のDR形電極(No.35)と本発明のキャップ型電極(No.63)との間で同様の差が認められた。
また、鋼種を340Wや440Wに変更した場合も、従来のDR形電極(No.37、39)と本発明のキャップ型電極(No.38、40)との間で同様の差が認められた。
またさらに、電極形状をCF形やCR形にした場合でも、従来のCF形電極(No.41)並びにCR形電極(No.43)と、本発明のキャップ型電極(No.42)並びに(No.44)とでは、アダプタ寿命に大きな差が認められた。
【0064】
なお、上記実施例1、2においては、鋼板の板厚を適宜変更して実験を行った場合も、また、めっき種や目付量等を変更して実験を行った場合も、結果は上記同様であり、電極チップ脱着時の作業性の向上や、損傷を防止する本発明の効果が得られた。
【0065】
以上説明した実施例の結果より、本発明の鋼板のスポット溶接方法を用いることにより、抵抗スポット溶接方法によって各種鋼板を溶接した場合に、電極チップを交換する際の作業性が向上するとともに、アダプタを傷つけるのが抑制されることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明によれば、自動車用部品の製造や車体の組立等で用いる鋼板をスポット溶接する際、良好な溶接作業性を確保しつつ、電極チップを脱着、交換する際の作業性が向上するとともに、アダプタに損傷が生じるのを抑制することができる。従って、従って、自動車分野等で本発明の鋼板のスポット溶接方法を適用することによる、生産性の向上や溶接品質の向上等のメリットを十分に享受することができ、その社会的貢献は計り知れない。
【符号の説明】
【0067】
1、1A、1B…キャップ型電極、3…アダプタ、3B…先端部(アダプタ)、4…電極チップ、4A…冷却接続部、4B…電極先端部、41…後端部(電極チップ)、4a…嵌合穴、42…水冷端、44…先端(電極チップ)、43…先端基部(電極チップ)、10、10A、10B…高強度鋼板、30…溶接金属部、D1…呼び径(電極チップ)、D2…呼び径(アダプタ)、a…内径(嵌合穴)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被溶接材である鋼板同士を、キャップ状の電極チップがアダプタの先端部に嵌合されてなるキャップ型電極を用いて、抵抗スポット溶接法によって溶接する鋼板のスポット溶接方法であって、
前記鋼板の板厚が下記(1)式を満たし、且つ、前記鋼板の引張強さTS(MPa)が下記(2)式で表される範囲の場合には、下記(3)式で表される電極加圧力P1(kN)で、前記キャップ型電極で前記鋼板を加圧する条件とするとともに、前記鋼板の引張強さTS(MPa)が下記(4)式で表される範囲の場合には、下記(4)、(5)式で表される電極加圧力P2(kN)で、前記キャップ型電極で前記鋼板を加圧する条件とし、
前記電極チップは、JIS C 9304で規定される呼び径が16(mm)のDR形、CR形、またはCF形であり、軸方向で水冷端から先端までの電極先端部において、前記水冷端から先端基部までが同一径の円柱状に形成されており、前記水冷端から後端部までの冷却接続部においては、前記水冷端から前記後端部に向かうに従って内径が拡開するテーパ状の嵌合穴が設けられるとともに、外径が前記水冷端から前記後端部に向かうに従って拡大するテーパ状とされており、
前記電極チップの前記嵌合穴に、JIS C 9304で規定される呼び径が20mmのアダプタの先端部が挿入され、嵌合されてなるキャップ型電極を用いて溶接することを特徴とする鋼板のスポット溶接方法。
1.8 ≦ t ≦ 3.6 ・・・・・(1)
TS ≦ 340 ・・・・・(2)
P1 = (2.0〜2.9)×t ・・・・・(3)
1180 ≧ TS > 340 ・・・・・(4)
P2 = {(2.0〜2.9)×t}+α ・・・・・(5)
α = 0.49〜0.98 ・・・・・(6)
{但し、上記(1)〜(6)式において、t:鋼板の板厚(mm)、P1、P2:鋼板に対する電極加圧力(kN)、α:付加加圧力(kN)を示す。}

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−177778(P2011−177778A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−47065(P2010−47065)
【出願日】平成22年3月3日(2010.3.3)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】