説明

鋼板パネル、その集積体、これを用いたトンネルの補強構造及び補強工法

【課題】効率的な断面構成の軽量な鋼板パネルを用いて、覆工内面を傷つけることなく、トンネルを十分に補強できるようにする。
【解決手段】複数の鋼板パネル10を接合して鋼板パネル集積体22を構成し、トンネル30の損傷した覆工コンクリート内面の補強に用いるための鋼板パネル10であって、基材が薄板部材12であり、トンネル軸方向に接合させるために、薄板部材のトンネル周方向をなす2辺のうちの1辺に、薄板部材12上に厚板部材14をトンネル軸方向に突出させて配置し、他の1辺に、薄板部材12上に厚板部材14をトンネル軸方向に引き込ませて配置し、薄板部材12を突出させた鋼板パネル10を用いて、トンネル軸方向に隣り合う鋼板パネル10のそれぞれ薄板部材12の突出部と厚板部材14の突出部とを重ねて接合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板パネル、その集積体、これを用いたトンネルの補強構造及び補強工法に係り、特に、既設トンネルの補強に用いるのに好適な鋼板パネル、その集積体、これを用いたトンネルの補強構造及び補強工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
既設のトンネルにおいて、覆工コンクリートのひび割れや剥落、漏水などの変状が見られる場合には、補修・補強対策が必要となる。
【0003】
従来技術1として、図6に示す如く、既設トンネル30の変状が生じた部分の覆工内面に、単一な肉厚の鋼板32をアンカーボルト34などで固定し、裏込め材としてモルタルや樹脂等の充填材36を注入する鋼板当て板工法が挙げられる。
【0004】
更に、従来技術2(特許文献1参照)は、この鋼板当て板工法において、本体の両サイドに、本体より厚肉の厚肉部を設け、この厚肉部にアンカーボルト貫通孔を設けた板材を用いるものである。この従来技術2では、全体が単一な肉厚の鋼板を用いる場合と比較して、覆工内面に固定するアンカーボルト貫通孔の強度を十分に確保でき、厚肉部による補強効果により、全体として強靭な補修用板材となることが示されている。
【0005】
又、従来技術3(特許文献2参照)は、略矩形板状のセグメントにおけるトンネル周方向をなす各辺の複数箇所に、トンネル軸方向に隣り合うセグメントリングを相互に接合するための継手材として、周方向に間隔を置いてシアーキーがトンネル軸方向に張り出すように設けられていることを特徴とするトンネル覆工内面保護・補強用のセグメントである。
【0006】
【特許文献1】特開2001−317298号公報
【特許文献2】特開2004−150072号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来技術1及び従来技術2は、1枚、1枚の板材が独立した構造となっており、複数の板材を並べて適用する場合でも、軸力、曲げモーメント、せん断力の分担・分配効果は期待できない。又、局所的な補修を前提とした構造となっているため、変状箇所が明確でない場合には、十分な補修効果が得られない可能性がある。更に、劣化した覆工内面にアンカーボルト用の孔をあける必要があるため、安全上、あるいは作業環境上の問題を有している。
【0008】
一方、従来技術3は、セグメント本体が単一な肉厚の板状となっているため、作用する曲げモーメントに対して効率的な断面となっていない。そのため、作用する曲げモーメントに対して、セグメント本体の板厚を比較的大きくする必要がある。同様に、シアーキー近傍においても、所定の剛性を確保するために、セグメント本体の板厚を比較的大きくする必要がある。以上により、セグメント本体の厚肉化は避けられず、セグメント本体の重量が大きくなり、コスト高となる。更に、特殊なシアーキーを用いた接合方法を採用しているため、セグメント本体の重量が大きくなることと相まって、現場での作業性が悪くなり、工期が長くなる、あるいは、それをカバーするために、セグメント本体の設置に特殊な機械を必要とするなどの問題点を有している。
【0009】
更に、従来技術3におけるシアーキーを用いた接合方法は、地震などによって作用するトンネル軸方向引張力に対して、シアーキー同士の噛み合わせがずれたり、接合部が抜けてしまう可能性もある。
【0010】
本発明は、前記従来の問題点を解決するべくなされたもので、効率的な断面構成の軽量な鋼板パネルを用いて、覆工内面を傷つけることなく、トンネルを十分に補強することができるようにすることを主眼に置いている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、複数の鋼板パネルを接合して鋼板パネル集積体を構成し、トンネルの損傷した覆工コンクリート内面の補強に用いるための鋼板パネルであって、基材が薄板部材であり、トンネル軸方向に接合させるために、薄板部材のトンネル周方向をなす2辺のうちの1辺に、薄板部材上に厚板部材をトンネル軸方向に突出させて配置し、他の1辺に、薄板部材上に厚板部材をトンネル軸方向に引き込ませて配置し、薄板部材を突出させた鋼板パネルであり、トンネル軸方向に隣り合う鋼板パネルのそれぞれ薄板部材の突出部と厚板部材の突出部とが重ねて接合されることを特徴とする鋼板パネルにより、前記課題を解決したものである。
【0012】
又、前記鋼板パネルにおいて、トンネル周方向に接合させるために、薄板部材のトンネル軸方向をなす2辺のうちの1辺に、薄板部材上に継手板兼端部補強部材をトンネル周方向に突出させて配置した鋼板パネルであり、トンネル周方向に隣り合う鋼板パネルのそれぞれ継手板兼端部補強部材の突出部と薄板部材とが重ねて接合されることを特徴とするものである。
【0013】
又、前記鋼板パネルがトンネルの覆工コンクリート内面の形状にあわせて曲げ加工されていることを特徴とするものである。
【0014】
又、トンネル周方向及びトンネル軸方向に隣り合う前記鋼板パネルを順次接合して一体化させたことを特徴とする鋼板パネルの集積体を提供するものである。
【0015】
又、トンネル軸方向に隣り合う鋼板パネルが千鳥配置されたことを特徴とする鋼板パネルの集積体を提供するものである。
【0016】
又、前記鋼板パネルをボルト接合により接合することを特徴とする鋼板パネルの集積体を提供するものである。
【0017】
又、前記の鋼板パネルの集積体が用いられたことを特徴とするトンネルの補強構造を提供するものである。
【0018】
又、トンネルの覆工コンクリート内面に前記の鋼板パネルの集積体からなる新しい覆工を構築し、トンネルと前記鋼板パネルの集積体との隙間に充填材を充填して、トンネルと前記鋼板パネルの集積体とを一体化することを特徴とするトンネルの補強工法を提供するものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明における鋼板パネルは、曲げモーメントなどの外力に対して効率的な断面構成となっており、結果として、パネル1枚の重量を軽量化することができる。これにより現場での作業性が良くなる。又、本発明では、既設トンネルにアンカーボルト用の孔などをあける必要がないため、劣化した覆工内面を傷つけることがなく、安全に作業できる。更に、トンネル内面全体を覆うような設置が可能なため、変状箇所が明確でない場合でも、十分な補強効果が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0021】
図1に本実施形態の鋼板パネル10の平面図を、図2に同じく側面図を示す。前記鋼板パネル10は、基材が薄板部材12であり、トンネル軸方向に接合させるために、薄板部材12のトンネル周方向をなす図の左右2辺のうちの1辺(図では左辺)に、薄板部材12上に厚板部材14を突出させて配置し、他の1辺(図では右辺)に、薄板部材12上に厚板部材14を引き込ませて配置し、薄板部材12を突出させている。又、トンネル周方向に接合させるために、薄板部材12のトンネル軸方向をなす図1の上下2辺のうちの1辺(図1では上辺)に、薄板部材12上に継手板兼端部補強部材16を突出させて配置している。
【0022】
前記厚板部材14及び継手板兼端部補強部材16は、薄板部材12の上に、例えば溶接などにより予め工場などで設置しておくことを基本とする。
【0023】
前記鋼板パネル10の寸法は、対象となる既設トンネルの大きさ、現場での施工性、設計外力などの要因により異なるが、例えば、トンネル軸方向長さ1m程度、トンネル周方向長さ4m程度、薄板部材12の板厚は8mm程度、厚板部材14の板厚は30mm〜50mm程度とすることができる。
【0024】
図3(A)、(B)に、トンネル軸方向に隣り合う鋼板パネル10の接合方法として、ボルト接合方法の例を示す。現場での作業においては、特殊な機械を必要とせず、施工誤差の調整が容易なボルト接合方法とすることが望ましい。又、現場で迅速なボルト接合が可能となるように、図1及び図2に示した如く、予め、厚板部材14の突出部及び継手板兼端部補強部材16の突出部にボルト固定用のナット18及びボルト用の孔14a、16aを設け、対応する薄板部材12にボルト用の孔12aを設けておくことが望ましい。これにより、図3(B)に示すように、厚板部材14の突出部と薄板部材12の突出部とを重ねてボルト接合する際に、薄板部材12側からボルト20をねじ込むだけで、両者の接合が完了する。又、トンネル周方向の継手板兼端部補強部材16の突出部と薄板部材12の接合も同様な方法で行うことができる。なお、ボルト接合以外の接合方法を用いることも可能である。
【0025】
図4に、千鳥配置でボルト接合された鋼板パネル集積体22の一部の平面図を示す。トンネル周方向に隣り合う鋼板パネル10の継手板兼端部補強部材16の突出部と鋼板パネル10の薄板部材12とを重ねてボルト接合し、又、トンネル軸方向に隣り合う鋼板パネルの薄板部材12の突出部と厚板部材14の突出部とを重ねてボルト接合することより、一体化された鋼板パネル集積体22を構成する。これにより、軸力、曲げモーメント、せん断力の分担・分配効果を期待でき、局部的な応力集中を緩和することができる。又、千鳥配置とすることにより、ボルト接合部がトンネル軸方向に連なって弱点となることを防ぐことができる。なお、千鳥配置以外の配置を行うことも可能である。
【0026】
本実施形態では、トンネル周方向に隣り合う鋼板パネル10の継手板兼端部補強部材16の突出部と鋼板パネル10の薄板部材12とを重ねてボルト20により接合し、又、トンネル軸方向に隣り合う鋼板パネル10の厚板部材14の突出部と薄板部材12の突出部とを重ねてボルト20により接合することより、一体化された鋼板パネル集積体22を構成している。これにより、従来技術1及び従来技術2と異なり、軸力、曲げモーメント、せん断力の分担・分配効果を期待でき、局部的な応力集中を緩和することができる。又、従来技術1及び従来技術2と異なり、既設トンネルの覆工コンクリート内面の形状に合わせて略アーチ形状に鋼板パネル集積体を構成し、既設トンネルと鋼板パネルの隙間にモルタルなどの充填材を充填することにより、トンネル内面全体を覆うような設置が可能なため、変状箇所が明確でない場合でも、十分な補強効果が期待できる。又、本実施形態では、既設トンネルにアンカーボルト用の孔などをあける必要がないため、劣化した覆工内面を傷つけることがなく、安全に作業できる。
【0027】
更に、本実施形態における鋼板パネル10は、薄板部材12、厚板部材14、継手板兼端部補強部材16より構成されるが、1)薄板部材12は、既設トンネルからの作用力を面で受け、厚板部材14へ伝達する、2)厚板部材14は、補強部材として機能し、曲げモーメントなどの外力に効率よく抵抗する、3)継手板兼端部補強部材16は、薄板部材12の端部を補強しつつ薄板部材12どうしを接合する役目をそれぞれ持っている。これにより、本体が単一な肉厚の板状である従来技術3と比較して、本実施形態における鋼板パネルは、曲げモーメントなどの外力に対して効率的な断面構成となっており、結果として、パネル1枚の重量を軽量化することができる。これにより現場での作業性が良くなる。又、現場での接合方法はボルト接合を基本としているため、施工誤差に対する許容度が大きく、特殊なシアーキーを用いた接合方法である従来技術3と比較して、特殊な機械を必要とせず、コストを削減し、且つ、工期を短縮できる。更に、地震などによって作用する、トンネル軸方向引張力に対しても、従来技術3と異なり、十分に抵抗できる。
【実施例】
【0028】
図5にトンネルの補強工法実施例を示す。補強工法の手順の一例は、次のとおりである。
【0029】
1.予め既設トンネル30の覆工コンクリート内面の形状に合わせて曲げ加工された鋼板パネル10複数個を現場に搬入し、トンネルの外側で、トンネル周方向に鋼板パネル10を接合して一体化させ、既設トンネル30の覆工コンクリート内面の形状に合わせて略アーチ形状の鋼板パネル集積体22(1ユニット)を構築する。
【0030】
2.略アーチ形状に構築した鋼板パネル集積体22(1ユニット)を、移動台車(図示せず)などでトンネル内部に運んで支点部材24上に設置する。
【0031】
3.前記鋼板パネル集積体22(1ユニット)と既設の鋼板パネル集積体22とをトンネル軸方向に接合する。
【0032】
4.既設トンネル30と鋼板パネル集積体22の隙間にモルタルなどの充填材26を充填して一体化する。この際、隙間全体に充填してもよいが、例えば、図5に示すように、トンネル軸方向に隣り合う鋼板パネル10のボルト接合部近傍のみ、部分的に充填にすることも可能である。
【0033】
5.1〜4の作業を繰り返すことにより、トンネル周方向及びトンネル軸方向への増築が可能となる。
【0034】
以上により、本発明は覆工コンクリートのひび割れや剥落、漏水などの変状を生じた既設のトンネルを、有効に補強できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明に係る鋼板パネルの実施形態の平面図
【図2】同じく側面図
【図3】トンネル軸方向に隣り合う鋼板パネルのボルト接合方法の例を示す断面図
【図4】千鳥配置でボルト接合された鋼板パネル集積体の一部を示す平面図
【図5】本発明によるトンネルの補強工法の実施例を示す立体図
【図6】従来技術1の鋼板当て板工法を示す断面図
【符号の説明】
【0036】
10…鋼板パネル
12…薄板部材
12a、14a、16a…ボルト用の孔
14…厚板部材
16…継手板兼端部補強部材
18…ナット
20…ボルト
22…鋼板パネル集積体
24…支点部材
26…充填材
30…既設トンネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の鋼板パネルを接合して鋼板パネル集積体を構成し、トンネルの損傷した覆工コンクリート内面の補強に用いるための鋼板パネルであって、
基材が薄板部材であり、
トンネル軸方向に接合させるために、薄板部材のトンネル周方向をなす2辺のうちの1辺に、薄板部材上に厚板部材をトンネル軸方向に突出させて配置し、他の1辺に、薄板部材上に厚板部材をトンネル軸方向に引き込ませて配置し、薄板部材を突出させた鋼板パネルであり、
トンネル軸方向に隣り合う鋼板パネルのそれぞれ薄板部材の突出部と厚板部材の突出部とが重ねて接合されることを特徴とする鋼板パネル。
【請求項2】
前記鋼板パネルにおいて、トンネル周方向に接合させるために、薄板部材のトンネル軸方向をなす2辺のうちの1辺に、薄板部材上に継手板兼端部補強部材をトンネル周方向に突出させて配置した鋼板パネルであり、
トンネル周方向に隣り合う鋼板パネルのそれぞれ継手板兼端部補強部材の突出部と薄板部材とが重ねて接合されることを特徴とする請求項1記載の鋼板パネル。
【請求項3】
前記鋼板パネルがトンネルの覆工コンクリート内面の形状にあわせて曲げ加工されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の鋼板パネル。
【請求項4】
トンネル周方向及びトンネル軸方向に隣り合う前記鋼板パネルを順次接合して一体化させたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の鋼板パネルの集積体。
【請求項5】
トンネル軸方向に隣り合う鋼板パネルが千鳥配置されたことを特徴とする請求項4に記載の鋼板パネルの集積体。
【請求項6】
前記鋼板パネルをボルト接合により接合することを特徴とする請求項4又は5に記載の鋼板パネルの集積体。
【請求項7】
請求項4乃至6のいずれかに記載の鋼板パネルの集積体が用いられたことを特徴とするトンネルの補強構造。
【請求項8】
トンネルの覆工コンクリート内面に請求項4乃至6のいずれかに記載の鋼板パネルの集積体からなる新しい覆工を構築し、
トンネルと前記鋼板パネルの集積体との隙間に充填材を充填して、トンネルと前記鋼板パネルの集積体とを一体化することを特徴とするトンネルの補強工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−132118(P2007−132118A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−327413(P2005−327413)
【出願日】平成17年11月11日(2005.11.11)
【出願人】(000004123)JFEエンジニアリング株式会社 (1,044)
【Fターム(参考)】