説明

鋼構成部品を製造する方法、溶接線、溶接された鋼構成部品、および軸受構成部品

本発明は、最大で1.5重量%の炭素含量を有する第1の鋼部(7)および第2の鋼部(8)を含む鋼構成部品(6、11)を製造する方法に関する。該方法は、少なくとも部分的に第1の鋼部(7)及び少なくとも部分的に第2の鋼部(8)をα/γ変態温度を超えて加熱するステップ(1)と、α/γ変態温度を超える温度で行う溶接によって第1の鋼部(7)と第2の鋼部(8)とを接合するステップ(2)と、硬化効果が回避されるように冷却するステップ(3)と、を含む。本発明はさらに、溶接線(9)、溶接された鋼構成部品(6、11)、および軸受構成部品(11、15、20、22、26、27、31)に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
第1の態様によると、本発明は、鋼構成部品を製造する方法に関する。
【0002】
第2の態様によると、本発明は、第1の溶接線に関する。
【0003】
第3の態様によると、本発明は、第1の溶接された鋼構成部品に関する。
【0004】
第4の態様によると、本発明は、第2の溶接線に関する。
【0005】
第5の態様によると、本発明は、第2の溶接された鋼構成部品に関する。
【0006】
第6の態様によると、本発明は、第3の溶接された鋼構成部品に関する。
【0007】
第7の態様によると、本発明は、軸受構成部品を製造する方法に関する。
【0008】
第8の態様によると、本発明は、溶接線を含む軸受構成部品に関する。
【背景技術】
【0009】
溶接は、鋼構成部品を接合する効果的な方法であり得る。しかし、鋼の炭素含量が上昇すると、溶接がさらに問題となる。炭素含量の上昇に関連する公知の問題として、例えば、溶接の間、溶接のほぼ直後、または負荷に付したときのいずれかにおいて、容易に割れる脆弱な溶接部を結果として生ずる、重大な相変態があり得る。これは、溶接の間、融合領域および熱影響領域において形成される、脆弱な板状マルテンサイトを有する非常に大きな粒子に起因する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、良好な強度、ならびに良好な疲労および負荷能力を有し、生産が簡単かつ安価である、鋼構成部品を溶接する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、多くの態様を提示し、ここで、第1の態様による方法は、他の態様の基礎となるアウトプットを結果として生ずる。
【0012】
本発明の第1の態様によると、該目的は、最大で1.5重量%(wt%)の炭素含量を有する第1の鋼部および第2の鋼部を含む鋼構成部品を製造する方法によって達成される。該方法によると、第1の鋼部および第2の鋼部を、α/γ変態温度を超えて少なくとも部分的に加熱する。その後のステップにおいて、α/γ変態温度を超える温度で行う溶接によって、第1の鋼部と第2の鋼部とを接合する。その後のステップにおいて、硬化効果が回避されるように冷却する。これにより、本発明の第2の態様による第1の溶接線がもたらされる。
【0013】
αからγの変態温度(オーステナイト状態)を超える温度での溶接、ならびに制御された方法で実施される溶接部の固化およびさらなる冷却によって、相変態を制御することができ、硬く脆弱な相の形成を防止する。互いに接合すべき鋼、少なくともその部分および部を、α鉄(100Cr6の場合にはフェライト+炭化物)からγ鉄(オーステナイト)への相変態のすぐ上の温度に約750〜850℃で加熱することで、炭化物が徐々に溶解され、時間および温度と関係して、全ての炭化物が溶解されたときに粒子の成長が起こり得る。溶接が上述の温度で行われると、オーステナイト状態にある溶接領域内の全ての材料と一緒に、残された炭化物のうちの大部分、または一部の場合には、全てが溶解することとなる。液状の融合領域は、完全な溶液において得られる全ての炭素を有し得る。液状の融合領域内の全ての炭素を含む完全な溶液は、液状の溶接部の金属および隣接する熱影響領域が適切に制御されずに固化されて冷却されるときに割れるという非常に高いリスクをもたらし得る。本発明によって、従来技術において公知である溶接部と比較して、割れのリスクが低減された溶接部が得られる。
【0014】
融合領域、熱影響領域および残りの鋼の、溶接温度からの固化および冷却は、制御されている必要がある。原則として、冷却速度は、いずれの硬化相(マルテンサイトまたはベイナイト)への相変態も生じないようにすべきである。冷却がよく制御されていると、完全にまたは部分的にパーライトの構造が融合領域(溶接部)ならびに熱影響領域において形成され、溶接された構成部品の残りの部分がα/γ変態温度を超えて加熱される。ある実施形態において、融合領域(溶接部)では、粒径が制御されている粒界炭化物はほとんど形成されない。粒界炭化物の量は、冷却速度と相まって鋼の全炭素含量に依存する。
【0015】
溶接および制御された冷却の後の最終的な微細構造は、完全にまたは部分的にパーライトの構造であるはずであり、ある実施形態では、少量の非連続的な粒界炭化物および許容可能な粒径を有する。鋼で得られる炭素の総量は、制御された速度で冷却する際のパーライト、炭化物およびフェライトの発生に影響を及ぼす。これにより、従来技術において公知である溶接部と比較して、割れのリスクが低減された溶接部を生じる。
【0016】
低炭素鋼は、制御された冷却の後、微細構造においてパーライトおよびフェライトまたは完全なパーライトを有することができる。炭素含量が約0.7wt%である低炭素鋼は、完全にパーライトの微細構造を形成することができ、炭素含量が約0.7 wt%未満であると、フェライトを含むパーライトが、溶接プロセスから、制御された冷却の後に形成され得る。フェライトの量は、炭素含量が低いほど増加する。
【0017】
溶接後の制御された冷却は、以下の目標を有する。硬化などの望ましくない相変態を回避すること、溶接部およびHAZにおける内部応力の発生を回避すること、例えば球状化焼鈍/硬化などの溶接後熱処理が可能な状態にある溶接された構成部品において均一な微細構造を形成すること、溶接後熱処理がなされた構成部品を機械加工または他のプロセスが可能な状態にして、該構成部品に「ソフト機械加工による」形状および寸法を与えること、成形された構成部品を硬化して所要の微細構造特性にすること。
【0018】
制御された冷却は、溶接対象の鋼の連続冷却変態(CCT)図などの多数の因子が関係する。例えば、ある実施形態では、1%の炭素鋼について、鋼のパーライトへの変態が670度付近で始まり、冷却がCCT図のパーライト領域を通して継続されるとき、ある量の粒界炭化物を含む完全なパーライト構造が形成され得る。時間温度/サイクルは、溶接された構成部品の形状および寸法に依存する。制御された冷却の間の変態は、構成部品の断面について決定され得る。これらは、構成部品の変態が完了するまでの保護雰囲気における自然冷却とは異なり得る。例えば、構成部品の断面が大きすぎると、鋼の芯が依然として熱いままであるため変態が起こらなくなり、過剰な粒界炭化物が形成され得る。この場合には、構成部品の表面領域においてパーライトへの変態が起こった後に、高い冷却速度を適用することができる。
【0019】
例えば、ある実施形態において、溶接を保護雰囲気において860度で実施してよく、溶接プールにおける温度は1600度を超え(溶鋼)、該部分は依然として保護雰囲気内のままであり、完成部分(または予熱領域)および溶接された領域が860度に冷却されるまで冷却される。これには数分を要し得る。該部分を860度からCCT図に示す温度まで冷却することができる。上記の因子によって、さらなる冷却サイクルが決定される。ある実施形態において、構成部品を炉に移動し、炉において保護雰囲気下で冷却することで、パーライト構造を形成する。
【0020】
ある実施形態において、該方法は、軟化焼鈍ステップをさらに含む。このステップを付加することにより、本発明の第4の態様による第2の溶接線が提供され、ここで、該溶接線はフェライトおよび炭化物を含み得る。これはまた、溶接された鋼構成部品の機械加工または変形などのさらなる処理も容易にする。これにより、従来技術において公知である溶接線と比較して、割れのリスクが低減された溶接線を生じる。
【0021】
ある実施形態において、該方法は、鋼構成部品を硬化するステップをさらに含む。このステップにより、所要の機能を実現するに望ましい特性を溶接された鋼構成部品に与えることが可能になる。これは、例えば、硬化を経たマルテンサイトまたはベイナイトによって実施され得る。例えば、高周波焼入れ、レーザー焼入れなどの表面硬化を適用してもよい。
【0022】
ある実施形態において、加熱、溶接または冷却が、保護雰囲気において実施されてよい。
【0023】
ある実施形態において、溶接が、レーザー溶接または電子線溶接などの出力ビーム溶接プロセスを用いることによって実施される。
【0024】
ある実施形態において、溶接が、アーク溶接プロセスを用いることによって実施される。
【0025】
ある実施形態において、溶接が、出力ビームとアーク溶接との組合せなどのハイブリッド溶接プロセスを用いることによって実施される。このようなプロセスの例は、例えば、レーザー溶接およびGMAW(MIG)である。
【0026】
ある実施形態において、好適な充填剤を多くの公知の技術の1つによる溶接の間に用いて、該充填剤を溶接プールに添加してもよい。
【0027】
本発明の第2の態様により、最大で1.5重量%の炭素含量を有する鋼を含む第1の溶接線が提供され、第1の溶接線は、部分的にパーライトの微細構造を有する。第1の溶接線は、第1の態様による方法、より詳細には、加熱、接合、および制御された冷却の後の結果である。これにより、従来技術において公知である溶接線と比較して、割れのリスクが低減された溶接線がもたらされる。
【0028】
ある実施形態において、第1の溶接線は、少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%のパーライトを含む微細構造を有する。
【0029】
ある実施形態において、第1の溶接線は、2〜4体積%(vol%)の範囲の粒界炭化物をさらに含む。ある実施形態において、第1の溶接線は、2.50〜3.75vol%の範囲の粒界炭化物を有する。
【0030】
ある実施形態において、第1の溶接線は、2.0〜3.9vol%、2.1〜3.8vol%、2.2〜3.7vol%、2.3〜3.6vol%、2.4〜3.5vol%、2.5〜3.4vol%、2.6〜3.3vol%、2.7〜3.2vol%、2.8〜3.1vol%、または2.9〜3.0vol%の範囲の粒界炭化物を有する。
【0031】
本発明の第3の態様により、第1の鋼部と、第2の鋼部と、さらに本発明の第2の態様による第1の溶接線とを含む第1の溶接された鋼構成部品が提供される。第1の溶接線は、第1の鋼部と第2の鋼部とを接合する。これにより、従来技術において公知である溶接された鋼構成部品と比較して、割れのリスクが低減された、溶接された鋼構成部品がもたらされる。
【0032】
ある実施形態において、第1の鋼部および第2の鋼部が、同じ鋼からなる。
【0033】
ある実施形態において、第1の鋼部および第2の鋼部が、異なる鋼からなる。この利点は、例えば、負荷能力、耐久性、コスト、または加工性に関して異なる特性を有する異なる鋼を組み合わせることによって、得られる溶接された鋼構成部品をカスタマイズできることである。
【0034】
ある実施形態において、第1の鋼部と第2の鋼部とは、溶接の前に同じ鋼構成部品の部分である。
【0035】
ある実施形態において、第1の鋼部と第2の鋼部とは、溶接の前に異なる鋼構成部品の部分である。
【0036】
ある実施形態において、第1の溶接された鋼構成部品は、本発明の第2の態様による複数の溶接線を含む。
【0037】
本発明の第4の態様により、最大で1.5重量%の炭素含量を有する鋼を含む第2の溶接線が提供され、該溶接線は、平均サイズが0.2〜3μmであるフェライトの微細構造および炭化物を有する。第2の溶接線は、第1の態様による方法、より詳細には加熱、接合、冷却、および軟化焼鈍の後の結果である。これにより、従来技術において公知である溶接線と比較して、割れのリスクが低減された溶接線がもたらされる。
【0038】
ある実施形態において、炭化物は、球形炭化物または合金炭化物である。
【0039】
ある実施形態において、炭化物の含量は、最大で15体積%(vol%)であってよい。
【0040】
本発明の第5の態様により、第1の鋼部と、第2の鋼部と、さらに本発明の第4の態様による第1の溶接線とを含む第2の溶接された鋼構成部品が提供される。該溶接線は、第1の鋼部と第2の鋼部とを接合している。これにより、従来技術において公知である溶接された鋼構成部品と比較して、割れのリスクが低減された、溶接された鋼構成部品がもたらされる。
【0041】
ある実施形態において、第1の鋼部および第2の鋼部が、同じ鋼からなる。
【0042】
ある実施形態において、第1の鋼部および第2の鋼部が、異なる鋼からなる。この利点は、例えば、負荷能力、耐久性、コスト、または加工性に関して異なる特性を有する異なる鋼を組み合わせることによって、得られる溶接された鋼構成部品をカスタマイズできることである。さらに、また、溶接の前に、異なる鋼の異なる好適な熱処理を適用できることでもある。
【0043】
ある実施形態において、第1の鋼部と第2の鋼部とは、溶接の前に同じ鋼構成部品の部分である。
【0044】
ある実施形態において、第1の鋼部と第2の鋼部とは、溶接の前に異なる鋼構成部品の部分である。
【0045】
ある実施形態において、第1の溶接された鋼構成部品は、本発明の第4の態様による複数の溶接線を含む。
【0046】
本発明の第6の態様により、熱影響領域と、溶接による影響を受けない非影響領域と、溶接線とを含む第3の溶接された鋼構成部品が提供される。さらに、溶接線および熱影響領域の少なくとも一方は、非影響領域と本質的に同一の微細構造を有する。これにより、溶接線および熱影響領域の少なくとも一方の微細構造が、非影響領域の微細構造と同一または非常に類似する。非常に小さな差違または変化は、同一視されて容認されてよい。このような非常に小さな差違または変化として、例えば、炭素含量、炭化物の含量、炭化物の分布、炭化物のサイズなどが考えられ得る。例えば、粒径、材料の繊維流などの微細構造の僅かな差違を、顕微鏡検査またはX-線分析などの高度な調査技術によって当業者により観察することもできる。これは、本発明の第1の態様による方法の結果である。この利点は、溶接された鋼構成部品が良好な強度、良好な疲労および負荷能力を提示できること、ならびに生産が簡単かつ安価であることである。また、本発明方法により、良好な加工性を有する溶接された鋼構成部品ももたらされる。さらに、本発明方法により、改善された硬度、寸法安定性、耐摩耗性および転がり接触疲労耐性を有する溶接された鋼構成部品がもたらされる。これらの利点は、転がり軸受および滑り軸受の用途に特に重要である。なぜなら、非常に厳しく複雑な運転操作に付され、例えば、転がり接触および滑り接触の結果として、例えば張力、圧縮力、摩擦力などの多くの力に同時に付されるからである。軸受の適用はかなり多くの種々の負荷、力、応力、熱さ、冷たさなどに対処し、これらを吸収できなければならないという事実に起因して、溶接された軸受構成部品の溶接線の要件および仕様は、非常に厳格でなければならない。
【0047】
本発明の第7の態様により、第1の態様による軸受構成部品を製造する方法が提供される。
【0048】
本発明の第8の態様により、本発明の第2のまたは第4の態様による溶接線を含む軸受構成部品が提供される。
【0049】
ある実施形態において、軸受構成部品は、転がり軸受または滑り軸受用である。
【0050】
ある実施形態において、軸受構成部品は、内輪、外輪、ハブ、ハブ軸受ユニット、車輪ハブ、軸受ユニット、転動体、またはケージのいずれか1つである。
【0051】
ある実施形態において、内輪または外輪のいずれかが、フランジ状のリングである。
【0052】
ある実施形態において、ハブ、ハブ軸受ユニット、または車輪ハブのいずれかがフランジ状である。
【0053】
ある実施形態において、フランジが、内輪、外輪、ハブ、ハブ軸受ユニット、または車輪ハブのいずれかに、本発明の第1のまたは第7の態様のいずれかによる溶接によって接合されている。
【0054】
ある実施形態において、軸受構成部品を含む転がり軸受は、ボール軸受、ころ軸受、円筒ころ軸受、球面ころ軸受、トロイダルころ軸受、テーパころ軸受、円錐ころ軸受、ニードルころ軸受、スラスト軸受、軸受ユニット、車輪軸受、車輪ハブ軸受、ピニオン軸受、またはフランジ状の軸受のいずれかである。
【0055】
ある実施形態において、軸受構成部品は、ねじまたはボールねじもしくはローラねじ用のナットである。
【0056】
ある実施形態において、第1の鋼部、第2の鋼部、鋼構成部品、または溶接部のいずれかの炭素含量は、0.1〜1.5 wt%、0.2〜1.5 wt%、0.3〜1.5 wt%、0.4〜1.5 wt%、0.5〜1.5 wt%、0.6〜1.5 wt%、0.7〜1.5 wt%、0.8〜1.5 wt%、0.9〜1.5 wt%、1.0〜1.5 wt%、1.1〜1.5 wt%、1.2〜1.5 wt%、1.3〜1.5 wt%、または1.4〜1.5 wt%の範囲である。
【0057】
ある実施形態において、第1の鋼部、第2の鋼部、鋼構成部品、または溶接部のいずれかの炭素含量は、0.6〜1.1 wt%、0.7〜1.1 wt%、0.8〜1.1 wt%、0.9〜1.1 wt%、または1.0〜1.1 wt%の範囲である。
【0058】
ある実施形態において、溶接線の一構成が軸受の軸方向にあるような方向に、溶接線が配向される。
【0059】
ある実施形態において、軸受の回転または摺動方向と実質的に垂直であるような方向に、溶接線が配向される。
【0060】
本発明のいずれかの態様の全ての特徴および実施形態は、本発明の他の態様の全ての特徴および実施形態に適用可能であり、その逆も然りである。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の実施形態による鋼構成部品を製造する方法のフローチャートである。
【図2】本発明の実施形態による溶接線の概略図である。
【図3】本発明の実施形態による溶接線の概略図である。
【図4a】本発明の実施形態による溶接された鋼構成部品の概略図である。
【図4b】本発明の実施形態による溶接された鋼構成部品の概略図である。
【図5】本発明の実施形態による鋼リングを製造する方法の概略図である。
【図6】本発明の実施形態によるフランジ状の軸受リングの概略図である。
【図7】本発明の実施形態による軸受リングを有する転がり軸受の一部の概略図である。
【図8a】本発明の実施形態による車輪軸受ユニットの概略図である。
【図8b】本発明の実施形態による車輪軸受ユニットの概略図である。
【図9】本発明によるケージを製造する方法の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0062】
図1に、本発明の実施形態による鋼構成部品を製造する方法のフローチャートを示す。鋼構成部品6は、第1の鋼部7および第2の鋼部8を含み、第1のおよび第2の鋼部は、最大で1.5重量%(wt%)の炭素含量を有する。該方法の第1のステップ1により、第1の鋼部7および第2の鋼部8を、α/γ変態温度を超えて少なくとも部分的に加熱する。その後のステップ2において、α/γ変態温度を超える温度で行う溶接によって、第1の鋼部7と第2の鋼部8とを接合する。別のその後のステップ3において、硬化効果が回避されるように冷却ステップを適用する。冷却ステップ3の後、軟化焼鈍するステップ4を適用することによって鋼構成部品6をさらに処理することが望まれる場合もある。これにより、鋼構成部品6の機械加工または変形などのさらなる処理(図示せず)を容易にし得る。該方法の別のその後のステップにおいて、溶接された鋼構成部品6に所望の特性を付与するために、硬化プロセス5を適用する。
【0063】
図2に、本発明の実施形態による溶接線の概略図を示す。鋼構成部品6の第1の鋼部7および第2の鋼部8は、溶接線9によって接合されている。図中、溶接線を、簡素化の理由で、むしろ矩形の外形で模式的に表す。しかし、溶接線9を、他の異なる外形、例えば、より三角形の外形で表してもよいことが理解されるべきである。熱影響領域10は、溶接線9に隣接して存在し、非影響領域Aは、熱影響領域10に隣接する。この実施形態では、第1の鋼部7および第2の鋼部8は、同じ鋼からなり、同一の微細構造を有する。さらに、この実施形態では、鋼構成部品6は、本発明の方法による加熱ステップ1、溶接ステップ2および冷却ステップ3の後であるが、軟化焼鈍ステップ4などの任意のさらなる処理ステップの前に見られる。結果として、熱影響領域10は、第1の鋼部7および第2の鋼部8の非影響領域Aと比較して、いくぶん異なる微細構造を有する。溶接線9は、第1の鋼部7および第2の鋼部8の熱影響領域10および非影響領域Aの両方とは別の微細構造を有する。
【0064】
図3に、本発明の実施形態による溶接線の概略図を示す。鋼構成部品6の第1の鋼部7および第2の鋼部8は、溶接線9によって接合されている。熱影響領域10は、溶接線9に隣接して存在し、非影響領域Aは、熱影響領域10に隣接する。この実施形態において、第1の鋼部7および第2の鋼部8は、同じ鋼からなり、同一の微細構造を有する。しかし、この実施形態において、鋼構成部品6は、図2による実施形態において実施されるステップの他に、本発明の方法による軟化焼鈍ステップ4の後に見られる。その結果、熱影響領域10および溶接線9は、第1の鋼部7および第2の鋼部8の非影響領域Aと比較して、同一、または非常に類似する微細構造を有する。
【0065】
図4aに、本発明の実施形態による溶接された鋼構成部品の概略図を示す。この実施形態において、鋼構成部品は、溶接線9を含むリング11である。溶接線9は、リング11の第1の鋼部7と第2の鋼部8とを接合する。溶接線9は、本発明の第1の態様による方法を用いることによって作製される。
【0066】
図4bに、本発明の実施形態による溶接された鋼構成部品の概略図を示す。この実施形態において、鋼構成部品は、2本の溶接線9を含むリング11である。溶接線9は、リング11の第1の鋼部7と第2の鋼部8とを接合する。溶接線9は、本発明の第1の態様による方法を用いることによって作製される。
【0067】
図5に、本発明の実施形態による鋼リングを製造する方法の概略図を示す。この実施形態において、ワイヤ12または鋼ブランク12は、リング形状要素13に屈曲される。リング形状要素13は、第1の鋼部7および第2の鋼部8を有する。以下のステップ14において、リング形状要素13の第1の鋼部7および第2の鋼部8を溶接線9によって接合し、これにより、鋼リング11を作製する。発明の第1の態様による方法を用いることによって、溶接線9を作製する。
【0068】
図6に、本発明の実施形態によるフランジ状の軸受リングの概略図を示す。フランジ状の軸受リング15は、鋼リング19およびフランジ16を含む。該フランジは、フランジを別の構造体(図示せず)に締め付けるのに用いることができる複数の穴をさらに示す。鋼リング19は、ボールもしくはローラなどの転動体、または摺動リング(図示せず)を収容することを意図する配線管18を有する。鋼リング11は、第1の鋼部7をさらに有し、フランジ16は、第2の鋼部8を有し、これらは、溶接線9によって接合されている。溶接線9は、本発明の第1の態様による方法を用いることによって作製される。この実施形態は、説明目的であり、溶接線の位置は、溶接された構成部品における他のいずれの場所であってもよいことが指摘されるべきである。さらに、他の軸受構成部品は、本発明による溶接線を含んでいてよい。
【0069】
図7に、本発明の実施形態による軸受リングを含む転がり軸受の一部分の概略図を示す。この実施形態において、転がり軸受20は、球面ころ軸受である。該軸受は、内輪22、外輪23、2列の複数のローラ24、およびローラ24を適所に保持するためのケージ21を含む。外輪23は、第1の鋼部7および第2の鋼部8を有し、これらは、溶接線9によって接合されている。溶接線9は、本発明の第1の態様による方法を用いることによって作製される。この実施形態は、説明目的であり、溶接線の位置は、溶接された構成部品における他のいずれの場所であってもよいことが指摘されるべきである。さらに、他の軸受構成部品は、本発明による溶接線を含んでいてよい。
【0070】
図8aに、本発明の実施形態による車輪軸受ユニットの概略図を示す。車輪軸受ユニット26は、内輪22、又は、ハブ22、外輪23、および間に介入された複数のボール25を含む。外輪23は、車輪軸受ユニットをナックル(図示せず)などの車側の固定部に取り付けるためのフランジ(図示せず)を有していてよい。内輪22は、第1の鋼部7を有する。車輪を車輪軸受ユニット26に固定することを目的とするフランジ16は、第2の鋼部8を有する。第1の鋼部7および第2の鋼部8は、本発明による溶接線9によって接合されており、これにより、フランジ16が車輪軸受ユニット26の内輪22に接合される。溶接線9は、本発明の第1の態様による方法を用いることによって作製される。
【0071】
この実施形態では、転動体がボールであるが、テーパ状のローラまたは円筒ローラであってもよい。車輪軸受ユニットはまた、例えば、ケージ、シール、センサ、エンコーダ、潤滑剤などのさらなる軸受構成部品を含んでいてもよい。本発明は、図8aに示す車輪軸受ユニットに限定されず、他の車輪ハブおよび車輪軸受設計にも適用可能であることも理解されるべきである。この実施形態は、説明目的であり、溶接線の位置は、車輪軸受ユニットにおける他のいずれの場所であってもよいことが指摘されるべきである。さらに、他の車輪軸受構成部品は、本発明による溶接線を含んでいてよい。
【0072】
図8bに、本発明の実施形態による車輪軸受ユニットの概略図を示す。車輪軸受ユニット26は、内輪22、又は、ハブ22、外輪23、および複数のボール25を含む。この実施形態では、車輪軸受ユニットは、内輪22上に押圧固定されている別個の内輪27をさらに有する。この別個の内輪27は、第1の鋼部7を有する。外輪23は、車輪軸受ユニットをナックル(図示せず)などの車側の固定部に取り付けるためのフランジ(図示せず)を有していてよい。内輪22は、車輪を車輪軸受ユニット26に固定することを目的とするフランジ16を有する。内輪22は、第2の鋼部8をさらに有する。第1の鋼部7および第2の鋼部8は、本発明による溶接線9によって接合され、これにより、別個の内輪27が車輪軸受ユニット26の内輪22に接合されている。溶接線9は、本発明の第1の態様による方法を用いることによって作製される。
【0073】
この実施形態では、転動体がボールであるが、テーパ状のローラまたは円筒ローラであってもよい。車輪軸受ユニットはまた、例えば、ケージ、シール、センサ、エンコーダ、潤滑剤などのさらなる軸受構成部品を含んでいてもよい。本発明は、図8bに示す車輪軸受ユニットに限定されず、他の車輪ハブおよび車輪軸受設計にも適用可能であることも理解されるべきである。この実施形態は、説明目的であり、溶接線の位置は、車輪軸受ユニットにおける他のいずれの場所であってもよいことが指摘されるべきである。さらに、他の車輪軸受構成部品は、本発明による溶接線を含んでいてよい。
【0074】
車輪軸受ユニットのこれらの2つの実施形態に加えて、本発明の異なる態様による製造方法、溶接部、または溶接された構成部品が適用可能であるこのような車輪軸受ユニットの他の部分または実施形態が存在することが理解されるべきである。
【0075】
図9に、本発明の実施形態によるケージを製造する方法の概略図を示す。この実施形態では、鋼ストリップが、所望の外形28にロールされている。その後のステップにおいて、複数のポケット30を打ち抜く。得られる鋼の外形29を、リング(図示せず)に屈曲させる。鋼の外形29は、第1の鋼部7および第2の鋼部8を有する。以下のステップ14において、鋼の外形の第1の鋼部7と第2の鋼部8とを、溶接線9によって接合し、これにより、ケージ31を作製する。本発明の第1の態様による方法を用いることによって、溶接線9を作製する。
【0076】
ケージのこの実施形態に加えて、本発明の異なる態様による製造方法、溶接部、または溶接された構成部品が適用可能である他の可能な実施形態が存在することが理解されるべきである。例えば、ポケット30は、ピンまたは小さな鋼ストリップを、より大きな、打ち抜かれた鋼ストリップ29に溶接することによって作製されてもよい。
【符号の説明】
【0077】
加熱ステップ
溶接ステップ(接合ステップ)
冷却ステップ
軟化焼鈍ステップ
硬化プロセス
6 鋼構成部品
7 第1の鋼部
8 第2の鋼部
9 溶接線
10 熱影響領域
11 鋼リング
12 ワイヤまたは鋼ブランク
13 リング形状要素
15 軸受リング
16 フランジ
18 配線管
19 鋼リング
20 転がり軸受
21 ケージ
22 内輪又はハブ
23 外輪
24 ローラ
25 ボール
26 車輪軸受ユニット
27 内輪
29 ストリップ
30 ポケット
A 非影響領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
最大で1.5重量%の炭素含量を有する第1の鋼部(7)および第2の鋼部(8)を含む鋼構成部品(6、11)を製造する方法であって、
少なくとも部分的に前記第1の鋼部(7)、および少なくとも部分的に前記第2の鋼部(8)を、α/γ変態温度を超えて加熱するステップ(1)と、
α/γ変態温度を超える温度で行う溶接によって、前記第1の鋼部(7)と前記第2の鋼部(8)とを接合するステップ(2)と、
硬化効果が回避されるように冷却するステップ(3)と、
を含む方法。
【請求項2】
軟化焼鈍するステップ(4)をさらに含む、請求項1に記載の方法を含む、鋼構成部品(6、11)を製造する方法。
【請求項3】
前記鋼構成部品(6、11)を硬化するステップ(5)をさらに含む、請求項2に記載の方法を含む、鋼構成部品(6、11)を製造する方法。
【請求項4】
最大で1.5重量%の炭素含量を有する鋼を含む溶接線(9)であって、部分的にパーライトの微細構造を有している溶接線(9)。
【請求項5】
2〜4体積%の範囲の粒界炭化物をさらに含む、請求項4に記載の溶接線(9)。
【請求項6】
第1の鋼部(7)と、
第2の鋼部(8)と
前記第1の鋼部(7)と前記第2の鋼部(8)とを接合する、請求項4または5に記載の溶接線(9)と、
を含む溶接された鋼構成部品(6、11)。
【請求項7】
前記第1の鋼部(7)および前記第2の鋼部(8)が、同じ鋼からなる、請求項6に記載の溶接された鋼構成部品(6、11)。
【請求項8】
前記第1の鋼部(7)および前記第2の鋼部(8)が、異なる鋼からなる、請求項6に記載の溶接された鋼構成部品(6、11)。
【請求項9】
前記第1の鋼部(7)および前記第2の鋼部(8)が、溶接の前に同じ鋼構成部品(12)の部分である、請求項6に記載の溶接された鋼構成部品(6、11)。
【請求項10】
前記第1の鋼部(7)および前記第2の鋼部(8)が、溶接の前に異なる鋼構成部品(7、8)の部分である、請求項6に記載の溶接された鋼構成部品(6、11)。
【請求項11】
請求項4または5に記載の複数の溶接線(9)を有する、溶接された鋼構成部品(6、11)。
【請求項12】
最大で1.5重量%の炭素含量を有する鋼を含む溶接線(9)であって、平均サイズが0.2〜3μmであるフェライトの微細構造および炭化物を有している溶接線(9)。
【請求項13】
第1の鋼部(7)と、
第2の鋼部(8)と、
前記第1の鋼部(7)および前記第2の鋼部(8)を接合する、請求項12に記載の溶接線(9)と、
を含む溶接された鋼構成部品(6、11)。
【請求項14】
前記第1の鋼部(7)および前記第2の鋼部(8)が、同じ鋼を含む、請求項13に記載の溶接された鋼構成部品(6、11)。
【請求項15】
前記第1の鋼部(7)および前記第2の鋼部(8)が、異なる鋼を含む、請求項13に記載の溶接された鋼構成部品(6、11)。
【請求項16】
前記第1の鋼部(7)および前記第2の鋼部(8)が、溶接の前に同じ鋼構成部品(12、13)の部分である、請求項13に記載の溶接された鋼構成部品(6、11)。
【請求項17】
前記第1の鋼部(7)および前記第2の鋼部(8)が、溶接の前に異なる鋼構成部品(7、8)の部分である、請求項13に記載の溶接された鋼構成部品(6、11)。
【請求項18】
請求項13に記載の複数の溶接線(9)を有する溶接された鋼構成部品(6、11)。
【請求項19】
熱影響領域(10)と、
溶接による影響を受けない非影響領域(A)と、
溶接線(9)と
を有し、前記溶接線(9)および前記熱影響領域(10)の少なくとも一方が、前記非影響領域(A)と本質的に同一の微細構造を有する溶接された鋼構成部品(6、11)。
【請求項20】
前記鋼構成部品(6、11)が、軸受構成部品(11、15、20、22、26、27、31)である、請求項1に記載の鋼構成部品(6、11)を製造する方法。
【請求項21】
請求項4または5に記載の溶接線(9)を含む軸受構成部品(11、15、20、22、26、27、31)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4a】
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【図4b】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8a】
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【図8b】
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【図9】
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【公表番号】特表2011−527635(P2011−527635A)
【公表日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−517377(P2011−517377)
【出願日】平成21年7月10日(2009.7.10)
【国際出願番号】PCT/SE2009/000365
【国際公開番号】WO2010/005362
【国際公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【出願人】(508282993)アクティエボラゲット・エスコーエッフ (42)
【Fターム(参考)】