説明

鋼構造物・建築物などの塗膜剥離方法

【課題】破壊や公害につながらず、安全面や衛生面にも支障がなく、塗膜が軟化膨潤して紙と共に、手ケレンで剥離できる効率の良い鋼構造物・建築物などの塗膜剥離方法を提供する。
【解決手段】鋼構造物や建築物などの塗膜面2に、少なくとも1回剥離剤3を塗布する。その上に紙4を貼り付ける。軟化膨潤した塗膜を紙4と共に、紙ごと手ケレン5で剥離する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋梁や建物などの塗膜剥離方法に関するものであり、さらに詳しくは、剥離剤の上から紙を貼り付けて塗膜を剥離する鋼構造物・建築物などの塗膜剥離方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、橋梁や建物などは、防蝕または美観を目的に塗装が施されているが、長い年月を経過すると発錆が生じたり、汚れたりすることから、定期的に塗り替えが必要であり、その時には、旧塗膜を剥離してから新塗膜を塗装する場合と、旧塗膜を剥離せずその上から重ね塗りする場合がある。
【0003】
塗膜の剥離方法としては、ブラスト材やウォータジェットを塗膜面に吹き付けて剥離する方法があるが、ブラスト材の場合、ブラスト材が塗膜面に当り粉塵が発生し、その粉塵が飛散するため、作業環境が悪くなって作業者の健康を損なうばかりでなく、処理面に当って落下したブラスト材を回収しなければならず、この回収に多大の手間と時間を費やす問題がある。この点、処理面に当ったブラスト材を吸引装置で吸引する方法もあるが、ブラスト材を完全に吸収することができず効率が悪かった。
【0004】
ウォータジェットの場合は、高圧力で噴射されることから、大きな反力がかかり作業者は常に危険性が伴い熟練者でなければ作業に従事できないという問題がある。また、大量の高圧水を使用すると共に、現場が水浸しになるため、水処理が必要となる等、限られた場所でしか使用できないといった問題点があった。
【0005】
また、ディスクサンダーなどの機械工具を使用して塗膜を削り取る方法もあるが、大きな騒音が発生すると共に、機械工具の振動が手に伝わり作業者を疲労させることから、長時間の連続使用ができず作業効率が悪いばかりでなく、塗膜の粉塵が発生して作業現場が汚染されるといった問題点があった。
【0006】
さらに、塩化メチレンなどを主成分とする塗膜剥離剤を塗布して剥離する方法もあるが、塩化メチレンなどの塩素系溶剤は、剥離性が抜群であっても、人体や環境に悪影響を及ぼす可能性があるため、法律により排出が規制されており、使用を制限される方向にある。そのため、塩化メチレンなどの塩素系溶剤を全く含まない環境に適応する非塩素系溶剤の剥離剤が提案されている(特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−279850号公報
【特許文献2】特開2000−1637号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1,2の環境適応型塗膜剥離剤による剥離方法は、橋梁などに使用された場合に、剥離効果を上げるために剥離剤を多く塗布すると垂れ落ちることがあり現場を汚すことがあった。また、塗布された剥離剤は蒸発しやすく、結果的に剥離状態にバラツキが発生する。さらに、図12に示すように、塗膜の表面11に凸部12が発生していると、剥離剤を塗布しても、凸部12の内面が空間部13になっていることから、その下の塗膜面14に浸透しないため、剥離することができないといった問題があった。
【0009】
本発明は、上記のような問題点を解決することを課題として研究開発されたもので、環境破壊や公害につながらず、安全面や衛生面にも支障がなく、塗膜が軟化膨潤して紙と共に手ケレンで剥離できる効率の良い鋼構造物・建築物などの塗膜剥離方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決し、その目的を達成する手段として本発明は、鋼構造物や建築物などの塗膜面に、少なくとも1回剥離剤を塗布した後、その上に紙を貼り付けて軟化膨潤した塗膜を紙と共に、紙ごと手ケレンで剥離することを特徴とする鋼構造物・建築物などの塗膜剥離方法を開発し、採用した。
【0011】
上記のように構成した鋼構造物・建築物などの塗膜剥離方法において、前記紙はロール状に巻回されている薄葉紙であることを特徴とする鋼構造物・建築物などの塗膜剥離方法、および前記薄葉紙はキッチンペーパー、トイレットペーパー、ティッシュペーパーであることを特徴とする鋼構造物・建築物などの塗膜剥離方法を開発し、採用した。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、剥離剤の塗布後、その上に紙を貼ることから、剥離剤の揮発がほとんどなくなり、塗膜への浸透が長時間持続し軟化膨潤が促進される。塗膜は軟化膨潤して紙と共に、紙ごと手ケレンで剥離でき、騒音、粉塵の発生を最低限に抑えることができ、また、従来のような鱗片状に散るようなことがなく、ケレン幅で大きく剥すことができ剥離効率がよくなる。さらに、剥離剤は厚塗りしても紙で被覆されていて垂れ落ちることがない。また、リベット部などの凹凸部やコーナー部など剥離が難しかった箇所においても、薄様紙を用いるとその形態に応じて紙が馴染むことにより、剥離しにくかった部分でも容易に剥すことができる。さらに、紙の乾き具合を見て作業の進行ができ状況に応じて作業の調整ができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】基材に塗膜面が施されている断面図である。
【図2】塗膜面の上に剥離剤を塗布した状態の断面図である。
【図3】剥離剤の上に紙を貼り付けた状態の断面図である。
【図4】塗膜面が軟化膨潤した状態の断面図である。
【図5】2回目の剥離剤を塗布した状態の断面図である。
【図6】2回目の紙を貼り付けた状態の断面図である。
【図7】膜面がさらに軟化膨潤の進んだ状態の断面図である。
【図8】手ケレンで剥離する状態の断面図である。
【図9】剥離剤を塗布した状態の断面図である。
【図10】紙を貼り付ける前の断面図である。
【図11】紙を貼り付けた後の断面図である。
【図12】従来の塗膜面の説明図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明すれば、図1〜図8は基材に塗布された塗膜面を剥離する工程順序を示す説明図である。橋梁や建物などの基材1に塗料を塗布した塗膜面2が施されている(図1)。第1工程として塗膜面2の上に剥離剤3をスプレー、ローラー、刷毛などで塗布する(図2)。第2工程として剥離剤3の上にロール紙4を貼り付ける(図3)。所定の時間経過すると剥離剤3によって軟化膨潤した塗膜面2とロール紙4が一体になる(図4)。第3工程として第1工程と同じ剥離剤3を塗布する(図5)。第4工程として第2工程と同じロール紙4を貼り付ける(図6)。所定の時間経過すると剥離剤3によって軟化膨潤した塗膜面2とロール紙4が一体になる(図7)。第5工程として軟化膨潤した塗膜面2をロール紙4と共に手ケレン5によって剥離する(図8)。
【0015】
図9〜図11に示すのは、リベット継ぎ手部6の塗膜剥離について説明するもので、基材7およびリベット8に剥離剤9を塗布した後、その上にティッシュペーパー10を貼り付けたものである。ティッシュペーパー10は極めて薄い紙であるから、リベット8の形状に撓み沿わせることができ、その形態に馴染むことから適している。ティッシュペーパー10に代えてトイレットペーパーでもよいのは勿論のことである。
【0016】
ここで、剥離される塗膜面2としては、橋梁や建物などの鋼構造物に塗布された合成樹脂塗料であり、具体的には不飽和ポリエステル塗料、アルキド樹脂塗料、ポリ塩化ビニル樹脂塗料、エポキシ樹脂塗料、ウレタン樹脂塗料、アミノ樹脂塗料、アクリル樹脂塗料などが代表的なものである。
【0017】
剥離剤3としては、塩化メチレンなどの塩素系溶剤を全く含まない環境に適応する非塩素系溶剤の生分解性の剥離剤を用いる。例えば、今井美装店(IMI仕様 NETIS KK−990021−A)を用いる。この剥離剤の組成は、有機溶剤(水溶性)40〜45%、エステル系溶剤20〜25%、鉱油26%、1,3,5−トリメチルベンゼン3.0%、直鎖アルキルベンゼンスルフォン酸塩2.7%を配合したものであり、ローラー、刷毛、低圧エアレス塗装機を用いて塗布する。
【0018】
紙4としては、ロール状に巻回された薄葉紙のキッチンペーパーやトイレットペーパーなどの吸水性の良いペーパーが貼着時や切断時に際して便利であることから全体にわたって使用される。このキッチンペーパーはエンボス加工が施されたディープエンボスのものが吸収速度、吸収力のアップで好適である。また、リベット継ぎ手部やコーナー部などにおいては、キッチンペーパーより薄いティッシュペーパーを用いた方がその形態に沿ってよく馴染むのでティッシュペーパーを用いるが、トイレットペーパーでもよいのは勿論のことである。
【0019】
(実施例1)
以下に、具体的実施例について説明する。
三重県桑名市にある国道23号線の揖斐川、長良川に架かる揖斐長良大橋、1990年1月塗装された鉄橋で剥離テストを行った。
下塗りとしてハイポン20エースブラウン(商品名)を1回塗り、中塗りとしてハイラバーEスーパーP33−145(商品名)を1回塗り、上塗りとしてハイラバーEスーパーP33−145を1回塗り、いずれも日本ペイント(株)社製の塗料により9,000m(下弦材)を塗布された鉄橋の横桁塗膜面に、縦20cm、横20cmの大きさに剥離剤(今井美装店「IMI仕様 NETIS KK−990021−A」)を塗布量500〜550g/m塗布し、その上に純粋パルプ100%で作られた幅220mmの全面にエンボス加工の施されたキッチンぺーパーを貼り付けた。その後、25時間後に再び前述の剥離剤を塗布量200〜250g/m塗布し、その上に前述と同じキッチンぺーパーを貼り付けた。46時間後に手ケレンで剥離すると2種ケレン程度に剥離できた。
【0020】
(比較例1)
前記実施例1のキッチンペーパーを貼り付けることなく、他の条件は前記実施例1と同一の条件で剥離作業を行ったところ、塗膜は実施例1のようにスムーズにきれいに剥がすことができなかった。
【0021】
(実施例2)
下塗りとしてエポニックス33(商品名)を1回塗り、中塗りとしてラバータイト10033−145(商品名)を1回塗り、上塗りとしてラバータイト100上塗りP33−145を1回塗り、いずれも大日本塗料(株)社製の塗料により7,200m(下弦材)を塗布された鉄橋の横桁に、縦20cm、横20cmの大きさに剥離剤(今井美装店「IMI仕様 NETIS KK−990021−A」)を塗布量500〜550g/m塗布し、その上に純粋パルプ100%で作られた幅220mmのエンボス加工の施されたキッチンぺーパーを貼り付けた。その後、25時間後に再び同じ剥離剤を塗布量200〜250g/m塗布し、その上に前述と同じキッチンぺーパーを貼り付けた。46時間後に手ケレンで剥離すると2種ケレン程度に剥離できた。
【0022】
(比較例2)
前記実施例2のキッチンペーパーを貼り付けることなく、他の条件は前記実施例2と同一の条件で剥離作業を行ったところ、塗膜は実施例2のようスムーズにきれいに剥がすことができなかった。
【0023】
(実施例3)
下塗りとしてカラーエポシール(商品名)1回塗り、中塗りとしてラバーマリン P33−145(商品名)を1回塗り、上塗りとしてラバーマリンP33−145を1回塗り、いずれも関西ペイント(株)社製の塗料により9,000m(下弦材)を塗布された鉄橋の横桁に、縦20cm、横20cmの大きさに剥離剤(今井美装店「IMI仕様 NETIS KK−990021−A」)を塗布量500〜550g/m塗布し、その上に純粋パルプ100%で作られた幅220mmの全面にディープエンボス加工の施されたキッチンぺーパーを貼り付けた。その後、25時間後に再び同じ剥離剤を塗布量200〜250g/m塗布し、その上に前述と同じキッチンぺーパーを貼り付けた。46時間後に手ケレンで剥離すると2種ケレン程度に剥離できた。
【0024】
(比較例3)
前記実施例3のキッチンペーパーを貼り付けることなく、他の条件は前記実施例1と同一の条件で剥離作業を行ったところ、塗膜は実施例3のようスムーズにきれいに剥がすことができなかった。
【0025】
上記から明らかなように、従来の剥離方法に比べて、剥離剤の上に紙を貼ることによって剥離剤の揮散を防ぐことができ、塗膜への浸透が長時間持続し軟化膨潤が促進される。塗膜は軟化膨潤して紙と共に、紙ごと手ケレンで剥離でき、鱗片状に散るようなことがなく、ケレン幅で大きく剥すことができる。剥離剤を多く塗布しても紙で吸収されて垂れ落ちがなくなる。また、従来の塗膜面では凸部ができる場合があり、凸部ができると剥離剤が浸透しないから、剥離できなくなるが、紙を貼ることによってそのような憂いがなくなる。
【0026】
以上、本発明の主要な実施の形態においては、橋梁の塗膜を剥離する場合を説明したが、必ずしもこれに限定されるものではなく、発明の目的を達成でき、かつ発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の設計変更が可能であることは当然のことである。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、鉄道用、車道、歩道を問わず鋼製の橋梁や鋼製の建築物などの塗膜剥離に広く使用できる。
【符号の説明】
【0028】
1 基材
2 塗膜面
3 剥離剤
4 紙
5 手ケレン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼構造物や建築物などの塗膜面に、少なくとも1回剥離剤を塗布した後、その上に紙を貼り付けて軟化膨潤した塗膜を紙と共に、紙ごと手ケレンで剥離することを特徴とする鋼構造物・建築物などの塗膜剥離方法。
【請求項2】
前記紙はロール状に巻回されている薄葉紙であることを特徴とする請求項1に記載の鋼構造物・建築物などの塗膜剥離方法。
【請求項3】
前記薄葉紙はキッチンペーパーやトイレットペーパーであることを特徴とする請求項1または2に記載の鋼構造物・建築物などの塗膜剥離方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−127016(P2011−127016A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−287644(P2009−287644)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【出願人】(502119749)
【Fターム(参考)】