説明

鋼殻とRC部材との接合構造

【課題】構造物の躯体としての鋼殻に対してRC部材を接合するための有効適切な構造を提供する。
【解決手段】コンクリートを打設充填するための中空部を有する鋼殻(鋼製セグメント1)に対して、その中空部にジベルとして機能する孔明き鋼板20を取り付け、鋼殻内にコンクリートを打設充填してRC部材(躯体コンクリート10)を形成することにより、RC部材と鋼殻とを孔明き鋼板を介して一体に接合する。鋼殻が主桁とその外側に設けられたスキンプレートを有する鋼製セグメントである場合には、孔明き鋼板20をスキンプレート3に取り付ける。鋼殻が主桁とその内側に設けられた内型枠を有する鋼製セグメントである場合には、孔明き鋼板を内型枠に取り付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は構造物の躯体の構造に関わり、特に異種構造部材である鋼殻とRC部材(鉄筋コンクリート部材)を接合するための構造に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼殻とRC部材との接合構造の一例として、特許文献1にはトンネルの拡幅施工に際して鋼製セグメントに対して躯体コンクリートを接合するための構造が開示されている。これは、先行施工した鋼製セグメントに対して後行施工する躯体コンクリートを一体に接合するために、躯体コンクリート中に埋設される鉄筋を鉄筋継手を介して鋼製セグメントに接続したうえでその中空部にコンクリートを打設充填して躯体コンクリートを形成するものであって、鉄筋を介して鋼製セグメントと躯体コンクリートとを構造的に確実強固に一体化し得るものである。
【特許文献1】特開2006−97317号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1に示される構造では、鋼殻としての鋼製セグメントとRC部材としての躯体コンクリートとを構造的に一体に接合できるものではあるが、鋼製セグメントに対して鉄筋を接続するための多数の鉄筋継手を必要とし、かつそれら多数の鉄筋継手を鋼製セグメントに対して予め溶接する必要があることから、そのために少なからぬ手間と費用を要するものであるのでその点では改善の余地を残しているものである。
【0004】
なお、上記の課題はトンネルの拡幅施工に際して鋼製セグメントと躯体コンクリートとを接合する場合のみならず、各種構造物において異種構造部材である鋼殻とRC部材どうしを構造的に接合する場合全般に共通する課題でもある。
そして、いずれにしても鋼殻とRC部材とを構造的に一体化するためには、応力伝達のために多数のスタッドジベルやシアコネクタを鋼殻に対して密に溶接することが必要であるので、その点においても有効な合理化が望まれているのが実状である。
【0005】
上記事情に鑑み、本発明は鋼殻とRC部材とを接合するための有効適切な構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は構造物の躯体としての鋼殻に対してRC部材を接合するための構造であって、前記鋼殻はコンクリートを打設充填するための中空部を有するとともに、該中空部にジベルとして機能する孔明き鋼板を有し、該鋼殻内にコンクリートを打設充填してRC部材を形成することにより、該RC部材と前記鋼殻とを前記孔明き鋼板を介して一体に接合してなることを特徴とする。
【0007】
前記鋼殻が主桁とその外側に設けられたスキンプレートを有する鋼製セグメントである場合には、前記孔明き鋼板を前記スキンプレートに取り付ければ良く、前記鋼殻が主桁とその内側に設けられた内型枠を有する鋼製セグメントである場合には、前記孔明き鋼板を前記内型枠に取り付ければ良い。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、孔明き鋼板が多数のスタッドジベルやシアコネクタと同等ないしそれ以上のジベル効果を発揮して、少数の孔明き鋼板のみで鋼殻とRC部材とを構造的に確実強固に接合可能である。したがって従来のように鉄筋を鋼殻に対して直接連結する必要はないし、従来においては必要とされていた多数のスタッドジベルやシアコネクタを省略ないし大幅に軽減することも可能であり、さらにその結果として接合部の構造が簡略化されるとともに錯綜作業が軽減され、以上により施工性改善とコスト削減を充分に図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1〜図2は本発明の一実施形態である接合構造を示すものである。
これは、特許文献1の場合と同様に鋼製セグメントによる円形断面のシールドトンネルを先行構築し、それを側方に拡幅することによって大断面トンネルを施工するに際して、鋼殻としての鋼製セグメント1の外側上部に対して、拡幅部の上部床版としてのコンクリート躯体10(RC部材)を接合する場合の適用例である。
【0010】
鋼製セグメント1は、基本的には特許文献1において用いられているものと同様に、対の主桁2の外周部にスキンプレート3を溶接することで内周側が開放された中空部4を有する溝形円弧状のもので、これを周方向にリング状に連結し、かつトンネル軸方向に順次連結して全体として筒状に組み立てることにより、シールドトンネルの一次覆工を構成するものである。
本実施形態では、そのように組み立てた鋼製セグメント1の頂部に対して拡幅部の上部床版としての躯体コンクリート10を接合した状態で施工するべく、図1に示すように接合部におけるスキンプレート3を撤去して鋼製セグメント1の中空部4内と鋼製セグメント10の内側にまでコンクリートを打設することにより、この躯体コンクリート10中に鋼製セグメント1の頂部を埋設してそれらを一体化することを基本としている。
【0011】
この場合、特許文献1に示される構造では、躯体コンクリート中に配筋される鉄筋の先端を鉄筋継手を介して鋼製セグメントに対して連結するようにしており、そのための鉄筋継手を配筋に先立って鋼製セグメントに対して溶接するのであるが、本実施形態においては鉄筋11(縦筋11aおよび横筋11b)を鋼製セグメント1に対しては直接的に連結せずに接合部を跨ぐように配筋している。
そして、本実施形態では、接合部における躯体コンクリート10と鋼製セグメント1とを構造的に一体に接合するべく、鋼製セグメント1のスキンプレート3にはジベルとして機能する孔明き鋼板20を予め取り付けておくことを主眼としている。
本実施形態における孔明き鋼板20(Perfobond-Leiste:PBL)は孔を形成した長方形状の鋼板であって、その寸法・形状は適宜であるが、一例を挙げれば、25mm厚の鋼板を幅150mm×長さ600mm程度の寸法とし、75mmφの孔を300mmピッチで2つ形成したものが好適である。
【0012】
本実施形態では、図2に示すように孔明き鋼板20を主桁2の間において等間隔で2列をなすように配置してスキンプレート3の内面側に予め溶接しており、鋼製セグメント1内にコンクリートが打設充填されるとそれら孔明き鋼板20がコンクリート中に埋設されてしまい、したがって孔明き鋼板20に形成されている各孔内にもコンクリートが充填され、それによりコンクリートジベルが形成されてせん断力に抵抗するものとなり、その支圧応力を孔明き鋼板20から鋼製セグメント1(スキンプレート3および主桁2)に対して有効に伝達することができるものとなっている。
また、孔明き鋼板20の長さ方のせん断力に対しては、孔明き鋼板20の両面に対するコンクリートの付着力と、孔内に充填されたコンクリートの支圧力に加え、孔内を貫通しているコンクリートのせん断耐力で抵抗するため、多数のスタッドジベルを用いる場合と同等以上のせん断抵抗力を発揮させることができるものとなっている。
このように孔明き鋼板20は任意方向のずれに等しく抵抗できるものであって、本実施形態のように複雑な力の伝達が要求される場合に特に好適なものである。
【0013】
さらに本実施形態では、孔明き鋼板20の各孔に鉄筋11(せん断補強筋11c)を貫通させてトンネル径方向に配筋しており、それにより鋼製セグメント1の半径方向に生じるせん断力に対しても有効に抵抗することができ、かつ支圧に伴って発生する割裂引張力に対しても有効に抵抗することができるものとなっている。しかも、そのせん断補強筋11cがコンクリートの水平せん断力に対して孔明き鋼板20を拘束する効果が期待できるため、水平せん断力に対する耐力の向上と靱性の確保を充分に図ることができるものとなっている。
なお、それらのせん断補強筋11cの端部には拡頭した定着頭部を一体に設けておくことが好ましい。
また、躯体コンクリート10にはせん断補強のための鉄筋11(せん断補強筋11d)が配筋されるが、図2に示すようにそのせん断補強筋11dの一部を主桁2に形成した孔内に通すことが好ましく、それにより躯体コンクリート10に対するせん断補強効果が得られるばかりでなく鋼製セグメント1に対するジベル効果をさらに増強することができる。
【0014】
以上のように、本実施形態の構造によれば、鋼製セグメント1のスキンプレート3に対して少数の孔明き鋼板20を予め溶接して取り付けておくことのみで、その孔明き鋼板20が多数のスタッドジベルや多数のシアコネクタを取り付けた場合と同等ないしそれ以上の効果を発揮し得るものである。したがって、従来においては必要とされていた多数のスタッドジベルやシアコネクタを省略ないし大幅に軽減することが可能であり、その結果として接合部の構造が簡略化されるとともに錯綜作業が軽減され、そのことによる施工性改善と所要コスト削減を充分に図ることができる。
【0015】
なお、上記実施形態は孔明き鋼板20を鋼製セグメント1のスキンプレート3に取り付けるようにしたが、特許文献1に示される構造のように躯体コンクリート10を鋼製セグメント1の外側に接合する場合においては、図3に示すように孔明き鋼板20をスキンプレート3にではなく躯体コンクリート10を形成するための内型枠5に取り付けておくと良い。
すなわち、この場合には鋼製セグメント1の主桁2の内周側に鋼板製の内型枠5を予め取り付けておき(したがって鋼製セグメント1を組み立てる時点では中空部4の内周側は内型枠5により閉じられた状態となっている)、その内型枠5の内面に孔明き鋼板20を予め溶接して取り付けておくと良い。
そして、接合部の施工に際してスキンプレート3を撤去した後に、中空部4内にコンクリートを打設充填して躯体コンクリート10を形成すれば、上記実施形態と同様に孔明き鋼板20がコンクリート中に埋設されて優れたジベル効果を発揮し、それを介して躯体コンクリート10と鋼製セグメント1とが構造的に一体化される。
なお、この際には、躯体コンクリート10に配筋される各鉄筋11は鋼製セグメント1の中空部4に差し込むだけで鋼製セグメントに対して直接連結する必要はないが、必要であれば上記実施形態と同様にせん断補強筋11c、11dを孔明き鋼板20や主桁2の孔に通すようにしても良い。
【0016】
以上で本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものでは勿論なく、ジベルとして機能する孔明き鋼板を介して鋼殻とRC部材とを接合する構造とする限りにおいて、鋼殻およびRC部材の具体的な構造や形状、施工手順その他については何ら限定されるものではないし、本発明はトンネル拡幅に際してのみならず様々な用途、規模の構造物の施工に際して広く適用できるものであることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の接合構造の実施形態を示すもので、鋼殻としての鋼製セグメントとRC部材としてのコンクリート躯体との接合部を示す正面図である。
【図2】同、斜視図である。
【図3】本発明の接合構造の他の実施形態を示す正面図である。
【符号の説明】
【0018】
1 鋼製セグメント(鋼殻)
2 主桁
3 スキンプレート
4 中空部
5 内型枠
10 躯体コンクリート(RC部材)
11 鉄筋
11a 縦筋
11b 横筋
11c、11d せん断補強筋
20 孔明き鋼板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の躯体としての鋼殻に対してRC部材を接合するための構造であって、
前記鋼殻はコンクリートを打設充填するための中空部を有するとともに、該中空部にジベルとして機能する孔明き鋼板を有し、該鋼殻内にコンクリートを打設充填してRC部材を形成することにより、該RC部材と前記鋼殻とを前記孔明き鋼板を介して一体に接合してなることを特徴とする鋼殻とRC部材との接合構造。
【請求項2】
請求項1記載の鋼殻とRC部材との接合構造であって、
前記鋼殻は、主桁とその外側に設けられたスキンプレートを有する鋼製セグメントであり、前記孔明き鋼板を前記スキンプレートに取り付けてなることを特徴とする鋼殻とRC部材との接合構造。
【請求項3】
請求項1記載の鋼殻とRC部材との接合構造であって、
前記鋼殻は、主桁とその内側に設けられた内型枠を有する鋼製セグメントであり、前記孔明き鋼板を前記内型枠に取り付けてなることを特徴とする鋼殻とRC部材との接合構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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