説明

鋼殻コンクリートセグメントの製造方法

【課題】セグメント用鋼殻凹部を前面型枠で閉鎖して形成されるコンクリート充填用の内部空間に空気の溜まりが生じないようにすると共に、簡潔な構成で内部空間の空気を排気し、かつ排気後に水蜜的に封止できる排気機構実現すること。
【解決手段】縦置き配置のセグメント用鋼殻1の前側面に形成されたコンクリート充填用の凹部2を前面型枠3で塞ぐと共に、両部材を仮固定により一体化することでセグメント用鋼殻1内に空間28を形成し、該空間28に前面型枠3を貫通するコンクリート注入孔20からコンクリート4を充填する。上記セグメント用鋼殻1の上部に排気用のネジ切り穴23を形成し、コンクリート充填時において、ネジ切り穴23に排気ボルト24または排気栓からなる排気部材を嵌着すると共に、コンクリート硬化後において、排気ボルト24等の排気部材を脱嵌した後の上記ネジ切り穴23に、水密ボルト24を螺合してなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼殻内にコンクリート充填を充填して、円筒状トンネルの覆工体とされる鋼殻コンクリートセグメントを製造する際に好適な鋼殻コンクリートセグメントの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼殻コンクリートセグメントの製作に際しては、まず主桁と継手板とスキンプレートで内面側にコンクリート充填用の凹部を有する鋼殻を構成し、次に、上記鋼殻の凹部にコンクリートを充填して鋼殻コンクリートセグメントを構成する。
【0003】
この鋼殻凹部へのコンクリート充填方法については、コンクリート充填の効率性の観点、並びに、硬化したコンクリート中の気泡に基づく表面上の凹凸を抑制する観点から、従来において各種提案がなされている。
【0004】
このコンクリート充填方法は大きく分けて2通りある。第1の方法は、セグメント用鋼殻の内面側、つまり凹部の開口面を上向きに寝かせ、凹部内に上方からスランプ値の低いコンクリートを打設し、その表面をコテで仕上げる方法である。第2の方法は、セグメント用鋼殻を縦置きに配置して、該鋼殻の凹部の開口面を前面型枠で塞いで鋼殻内に閉鎖空間を形成すると共に、この閉鎖空間に通じるコンクリート注入孔と排気孔を設け、排気孔から閉鎖空間の空気を排気しながら注入孔から高流動性のコンクリートを閉鎖空間に充填するコンクリート注入方法である。
【0005】
しかしながら、上記の第2のコンクリート注入方法では、セグメント用鋼殻を縦置きに配置すると共に、凹部の開口面を前面型枠で閉じて閉鎖空間を形成し、内部の空気を排気しながら閉鎖空間にコンクリートを充填するため、扁平な閉鎖空間の隅々まで隙間なくコンクリートを充填することが困難であった。また、前面型枠を貫通するコンクリート注入孔から閉鎖空間へコンクリートを注入する注入機構、並びに鋼殻の上部に設ける排気機構が複雑になるという問題点があった。さらに、コンクリート中に混入した気泡が、コンクリートと前面型枠の境界面に集まり、コンクリート硬化後にその気泡の跡が微小な凹凸となってコンクリート表面に現れるため、外観が悪くなる問題があった。
【0006】
これらの問題点を解決するための技術は、例えば特許文献1、特許文献2、特許文献3等において提案されている。
【0007】
特許文献1のコンクリート充填方法を図5に示したので説明する。同図に示すように、セグメント用鋼殻1は、上部主桁5と下部主桁5aとスキンプレート10と継手部材8とで構成されている。このセグメント用鋼殻1をその円弧状の内外面が鉛直面(イ)に位置するようにして支持すると共に、セグメント用鋼殻1の内面側の凹部2の開口面を前面型枠3で閉鎖して空間28を形成する。また、前面型枠3の高さ方向の略中間部に開設されたコンクリート注入孔20aにコンクリート注入パイプ20を接続し、コンクリート注入パイプ20から空間28内に高流動性のコンクリート4を圧入充填する。そして液面レベル9が徐々に上昇し、空間28の最上面で円弧状の上部主桁5の内側面5bまで充填してコンクリート4の充填が終了する。前面型枠3の上部には、主桁5の内側面5aまで円滑にコンクリート4を充填するためにコンクリート溢出パイプ6が設けられている。上記の構成により、低コストで効率的にセグメント用鋼殻へコンクリートを充填できるという利点もある。
【0008】
特許文献2には、セグメント用鋼殻を縦置きでかつ鉛直に配置したうえ凹部の開口面を前面型枠で閉鎖空間を形成し、閉鎖空間に高流動性のコンクリートを充填する注入方法が開示されている。この特許文献2の特徴は、前面型枠のコンクリート注入孔に接続されるコンクリート圧送管に型枠内の圧力を受けるシリンダの保持手段を設けることにある。これによりコンクリート圧入口付近のコンクリート仕上がり面を容易にかつ確実に平坦にすることができる利点がある。
【0009】
特許文献3には、セグメント用鋼殻を縦置きでかつ鉛直に配置したうえ凹部の開口面を前面型枠で閉鎖空間を形成し、閉鎖空間に高流動性のコンクリートを充填する注入方法における、閉鎖空間のエア抜き装置が提案されている。この特許文献3の特徴は、セグメント用鋼殻の内部において、その上壁面に接近した位置に先端が位置したエア抜き管を設け、このエア抜き管を上記一端位置から立ち下げたうえ、さらに曲げて前面型枠に形成したコンクリート注入孔に導く。さらに前面型枠の外部からコンクリート注入孔にコンクリート圧入パイプを接続することにある。上記の構成により、エア抜き管の先端が閉鎖空間内の上部に位置し、コンクリート打設時に閉鎖空間内のエア抜きが確実に行われるから、閉鎖空間内の隅々まで円滑にコンクリートが充填できるという利点がある。
【特許文献1】特開2001−47420号公報
【特許文献2】特開平10−37463号公報
【特許文献3】特開平10−37461号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、セグメント用鋼殻の凹部を前面型枠で閉じて内部空間を形成し、この内部空間にコンクリートを充填するコンクリート注入方式において、コンクリート充填時に内部空間の空気を排気するための排気機構の改良と、コンクリート硬化後にコンクリート表面に気泡によって凸凹が形成されないようにすること、および、内部空間に確実に隙間なくコンクリート充填ができ、かつ、それの目視確認ができるようにすることである。
【0011】
上記の点につき、特許文献1〜3では未解決である。まず、特許文献1〜3では、セグメント用鋼殻は鉛直に配置してコンクリートが注入されるため、コンクリートの自重が作用する方向は鉛直下方向である。このため、充填コンクリートが主に自重作用により下方から順に充填されるため、前面型枠の内面との間に図5に示すような小さな気泡7が多数存在した状態でコンクリートが充填されることになる。コンクリートが硬化した後、前面型枠を取り外したとき、この気泡の跡がセグメント内空側のコンクリート表面に小さな凸凹となって存在し外観が見劣りする。特許文献1〜3では、この問題が解決されておらず、そのため、従来はこの凹凸部を埋める作業工程が必要となり、これが製作コストを押し上げる要因の一つになっていた。
【0012】
また、特許文献1〜3では、セグメント用鋼殻は、円弧状の内外両面が鉛直面に位置するように縦置きで設置されているので、このセグメント用鋼殻の上端部は円弧状の全長に亘り同一のレベルである。一方、コンクリートは流動性と粘性があるため、自重だけでは液面レベルが全長に亘り均一レベルにならないこともある。これらの関係で、コンクリート充填時の最終段階において、同一レベルの閉鎖空間内の最上面において、全長に亘り隙間なく均一にコンクリートを圧入するのが困難であり、コンクリートの流動性等の充填されない空間が形成されやすい。また、閉鎖空間内に隅々までコンクリートが充填されたかを目視で確認できない。
【0013】
さらに、閉鎖空間にコンクリート充填する際に、この閉鎖空間内の空気を排気するための排気機構が特許文献3のように複雑になる。特許文献3では、前面型枠に途中が屈曲したエア抜き管を取り付け、このエア抜き管を閉鎖空間内に配置しているが、その配管構造が複雑である。また、エア抜き管の吸引先端は閉鎖空間の最上部位に配置させていることが閉鎖空間に隙間なくコンクリートを充填する上で望ましいが、特許文献3では、配管構造の関係でエア抜き管の吸引先端を閉鎖空間の最上部に位置させるのは困難である。
【0014】
コンクリート充填時に閉鎖空間の空気を排気するための排気孔を閉鎖空間の最上部に設けるには、セグメント用鋼殻の上部主桁のウエブに排気孔を設けるのが構造上簡単であるが、そうすると別の問題が生じる。つまり、コンクリートを充填してこれが硬化した後、上記排気孔を水密的に封止することが必要になる。この水密的封止を最も確実かつ容易に行うには水密ボルトを用いるのがよく、そのためには排気孔を雌ネジ穴にする必要がある。しかし、そこでまた別の問題が生じる。すなわち、閉鎖空間に充填するコンクリートは最終充填段階では、排気孔からコンクリートが溢出することによって該閉鎖空間へのコンクリートの充填を止めるが、排気孔を雌ネジ穴で構成すると、この雌ネジ穴から溢出するコンクリートによって雌ネジ穴のネジ溝が埋められて、後で水密ボルトを雌ネジ穴に螺合できないことになる。
【0015】
本発明は、上記の課題を解決することによって、セグメント用鋼殻の凹部を前面型枠で閉鎖し、それによって形成される空間にコンクリートを注入する方式において、空間に空気の溜まりが極力生じないようにコンクリートを充填すること、及びそのための排気機構をできるだけ簡潔にすること、及びコンクリートの充填を目視で確認できるようにすることを可能性としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、上述した課題を解決するため、縦置き配置のセグメント用鋼殻の前側面に形成されたコンクリート充填用凹部を前面型枠で塞ぐと共に、両部材を仮固定により一体化することで上記セグメント用鋼殻の内部に空間を形成し、前面型枠を貫通する注入孔から上記空間にコンクリートを充填すると共に上記セグメント用鋼殻の上部に排気用のネジ切り穴を形成し、コンクリート充填時において、上記ネジ切り穴に排気ボルトまたは排気栓からなる排気部材を嵌着すると共に、コンクリート硬化後において、上記排気部材を脱嵌した後の上記ネジ切り穴に、水密ボルトを螺合してなるコンクリート充填鋼殻構造を発明した。
【0017】
即ち、第1の発明は、セグメント用鋼殻を鉛直面から傾斜させて立設するとともに、その前側面に形成されたコンクリート充填用凹部について、予め貫通穴を形成させた型枠で閉塞し、上記セグメント用鋼殻の上端部に予め形成されたネジ切り穴に円筒状部材の外周面を螺合させ、上記型枠を閉塞させることにより上記セグメント用鋼殻の内部に形成された空間に対し、当該型枠の貫通穴を介してコンクリートを注入し、上記コンクリートの注入を上記円筒状部材からの溢出状況に応じて停止し、上記空間内に注入されたコンクリートの硬化後に上記円筒状部材を上記ネジ切り穴から螺脱させ、上記円筒状部材が螺脱されたネジ切り穴に水密ボルトを螺合させてこれを封止する。
【0018】
また、第2の発明は、第1の発明において、上記コンクリートの注入を停止させた後、上記注入されたコンクリートから上記ネジ切り穴に至るまでの間隙にモルタルを充填する。
【0019】
また、第3の発明は、第1又は第2の発明において、上記水密ボルトとセグメント用鋼殻との間に、水膨湿潤ゴム又は水密ワッシャーを介装させる。
【0020】
また、第4の発明は、第1〜3の発明において、円筒状部材に接続した排気パイプを通して上記空間内の空気を吸引しつつ、上記コンクリートを注入する。
【0021】
また、第5の発明は、第1〜4の発明において、セグメント用鋼殻を鉛直面から20°以下の傾斜角で立設する。
【発明の効果】
【0022】
本発明によると、セグメント用鋼殻凹部を前面型枠で閉鎖し、それによって形成された空間にコンクリートを充填したコンクリート充填鋼殻構造において、空間の上部に位置するセグメント用鋼殻にネジ切り穴を形成し、このネジ切り穴にコンクリート充填時に排気ボルトまたは排気栓からなる排気部材を装着し、コンクリート硬化後において、このネジ切り穴に水密ボルトを螺合した。上記の構成により、コンクリート充填時に必要な排気機構を簡潔に構成できる。すなわち、コンクリート充填時にネジ切り穴には排気ボルトまたは排気栓が螺合されているので、空間へのコンクリート充填の最終段階でコンクリートが排気ボルトまたは排気栓の排気孔から空間への外側溢出するとき、ネジ切り穴のネジ溝がコンクリートで埋められることがなく、該ネジ切り穴に水密ボルトを確実に締結することができる。また、この水密ボルトをネジ切り穴に締結することでネジ切り穴を水密的に封止でき、このネジ切り穴からセグメント用鋼殻と充填コンクリートの境界面に水が浸入せず、長期間品質を確保できる。
【0023】
また本発明によると、排気ボルトまたは排気栓を螺合するネジ切り穴は、内部空間の最上部に形成できる。したがって、内部空間に充満したコンクリートが排気ボルトまたは排気栓の排気孔から溢出するときは、この排気孔より下のレベルに位置する内部空間の隅々には隙間なくコンクリートが行き渡っている。これによりセグメント用鋼殻の凹部に隙間なくコンクリートを充填できて高品質の鋼殻コンクリートセグメントの製作が可能となる。また、内部空間内に充填されたコンクリートの液面レベルに対して最短の場所に位置する排気ボルトまたは排気栓の排気孔からのコンクリートの溢出を目視することでコンクリートの充填状態を確認できる。これにより、コンクリート充填状態の誤認を無くし、この点でも高品質の鋼殻コンクリートセグメントの製作が可能性である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を図を参照して説明する。
【0025】
図1は、本発明のコンクリート充填鋼殻構造を用いて鋼殻コンクリートセグメントを製作する方法を説明するための概要説明図で、図1(a)は、鋼殻コンクリートセグメントの完成状態の斜視図、図1(b)は、図1(a)のA−A断面で切断した場合の、コンクリート充填時の断面説明図である。
【0026】
図1(a)、(b)において、円弧形状の鋼殻コンクリートセグメント11は、セグメント用鋼殻1と、その凹部2に充填されたコンクリート4とから構成される。セグメント用鋼殻1は、上部主桁5及び下部主桁5aと、左右両側の継手部材8と、スキンプレート10とから構成され、円弧形状に湾曲した内側にコンクリート充填用の凹部2が形成されている。また、セグメント用鋼殻1の凹部2の開口面を前面型枠3で閉鎖することで、上部主桁5及び下部主桁5aと左右両側の継手部材8とスキンプレート10と前面型枠3とで凹部2に後述する内部空間が形成される。前面型枠3はセグメント用鋼殻1に対して着脱自在に仮止め固定されるが、その固定手段は公知の技術を使用する。
【0027】
また、セグメント用鋼殻1は、図1のように縦置きに配置し、かつ上部側が鉛直面から所定の角度前傾するように配設する。セグメント用鋼殻1の傾斜角度θは、10°≦20°が望ましい。このように傾斜させることで、図1(a)に示すように、セグメント中央部の上端部位12がセグメント部材の左右両側に対して頂点部位となる。そして、この上端部位12において、上部主桁5のウエブ21に排気孔用のネジ切り穴23を設ける。これによりネジ切り穴23の位置は、セグメント用鋼殻1内に形成された内部空間28における頂上部位に位置することになる。従って、内部空間28に充填するコンクリート4が、最終の充填段階においてネジ切り穴23から溢出するとき、当該内部空間28内の隅々にまでコンクリート4が充填されたことになる。なおネジ切り穴23は、セグメント中央部の上端部位12に1個ないし複数個設けるのが望ましい。
【0028】
また、セグメント用鋼殻1の上部を前傾保持することにより、内部空間28にコンクリート4を充填するとき、該コンクリート4の自重が傾斜した前面型枠3の内面に作用する。これによりコンクリート4が前面型枠3の内面に圧接するので、コンクリート4と前面型枠3の境界面に存在する気泡が上方に効率的に追い出される。コンクリート4が硬化して前面型枠3を脱型したとき、コンクリート表面4aには気泡の存在した跡に凸凹が生じるが、前述のようにセグメント用鋼殻1の上部を前傾保持することにより、コンクリート表面4aに気泡の痕跡として生じる凸凹を少なくでき、綺麗な表面に仕上げることが可能となる。
【0029】
前面型枠3の高さ方向の略中間部には、前面型枠3を貫通するコンクリート注入孔20aが形成されており、このコンクリート注入孔20aにコンクリート注入パイプ20が接続されている。そして、コンクリート注入パイプ20から内部空間28内に高流動性のコンクリート4を圧入充填する。コンクリート4の充填に伴って内部空間28内の空気は、排気孔であるネジ切り穴23から外部に排気される。そして、コンクリート4の液面レベル9が徐々に上昇し、最終段階では図1(b)に示すように、ネジ切り穴23の直下近傍に形成された小空間28aにモルタル27を充填し、さらにコンクリート4とモルタル27が硬化した後、ネジ切り穴23を水密的に封止する。
【0030】
また、セグメント用鋼殻1と前面型枠3に振動を発生させる手段として、前面型枠3に高周波バイブレーター13を設置している。この高周波バイブレーター13は、内部空間28へのコンクリート圧入開始から圧入終了まで稼動させている。
【0031】
また、セグメント用鋼殻1と前面型枠3の上部側を前傾させて保持する手段の一例として、地面14にゴムその他の弾性支持体15を設置し、この弾性支持体15で、一端を地面14に着けた傾斜ベース枠16の先端を支持する。すなわち、平面的に見て配置角度を異にする2つの傾斜ベース枠16にセグメント用鋼殻1と前面型枠3の下端部17を載置することで、該セグメント用鋼殻1と前面型枠3を前傾して保持できる。なお、弾性支持体15以外の公知の支持手段で支持しても構わない。
【0032】
本発明は、上記の施工工程において、コンクリート充填時に、ネジ切り穴23に装着する排気部材と、コンクリートが硬化した後に、このネジ切り穴23を水密的に封止する水密ボルトに特徴があるので、これについて図2〜図4を参照して説明する。
【0033】
ネジ切り穴23は、図1で説明したように、縦置き配置したセグメント用鋼殻1の上部主桁5の中央部上端部位12においてウエブ21に設けられている。さらに、図2〜図4に拡大して図示するように、ネジ切り穴23は、上部側を前傾させたセグメント用鋼殻1におけるウエブ21の傾斜上部側の位置、つまり、図2において左側のフランジ22に近接した箇所に設けられている。このように構成することによって、ネジ切り穴23は傾斜したセグメント用鋼殻1の上辺の頂上部位に位置することになる。したがって、ネジ切り穴23の部位までコンクリート4が充填したときは、この位置よりも下側のレベルにある内部空間28内には隙間なくコンクリート4が充填されることになる。
【0034】
図2(a)には、上記のネジ切り穴23を設けた態様が示されている。図2(b)には、ネジ切り穴23に排気ボルト24を螺合した態様が示されている。この排気ボルト24は、図3(a)に拡大して示すように軸の中心を貫通する排気孔31を有している。この排気ボルトは、図3(a)に示す形態に限定されるものではなく、上記ネジ切り穴23と螺合可能な外周面を持ついかなる円筒状部材に代替してもよい。
【0035】
次に、図2(c)に示すように、ネジ切り穴23に排気ボルト24を螺合した態様で、内部空間28に高流動性のコンクリート4を注入することにより、その液面レベル9は点線と実線で示すように徐々に上昇する。コンクリート充填の最終段階において、図2(c)に示すように、コンクリート4は内部空間28から溢れ、排気ボルト24の排気孔31を通って上部主桁5のウエブ21の上面に溢出する。これにより内部空間28にコンクリート4が充満したことを目視で確認することができる。また、かかるコンクリート4の溢出を確認した後、内部空間28へのコンクリート4の注入を止める。コンクリート4が排気孔31を通って外部に溢出するとき、ネジ切り穴23には排気ボルト24が螺合されているため、該ネジ切り穴23のネジ溝が当該コンクリート4で埋まることがない。
【0036】
また、排気ボルト24に代えて、図3(b)に示すように、ゴムまたは弾性のある樹脂からなり、排気孔31を有する排気栓24aを用いてもよい。そして、排気栓24aの軸部をその材料の弾性を利用してネジ切り穴23にきつく螺合するとよい。このように構成することによっても、コンクリート4が排気栓24aの排気孔31を通って外部に溢出するとき、当該コンクリート4によりネジ切り穴23のネジ溝が埋められるのを防止することが可能となる。
【0037】
図2(d)は、内部空間28に充填されたコンクリート4が硬化した状態を示している。この時点において、ネジ切り穴23から排気ボルト24を螺脱する。このとき、ネジ切り穴23の直下近傍にコンクリート4が充填されない小空間28aが形成される場合がある。これは、コンクリート充填の最終段階において、コンクリート4が排気ボルト24の排気孔31から溢出するとき、この小空間28aは、排気孔31の部位より若干高いレベルにあるためである。また、ネジ切り穴23の直下近傍に小空間28aが形成される他の要因として、コンクリート4の硬化時においてコンクリート4に含有されている水分が蒸発することにより、当該コンクリート4の体積が減少することも挙げられる。
【0038】
そこで、図2(e)に示すように、この小空間28aにネジ切り穴23を通してモルタル27を充填して、内部空間28内の空隙を完全になくす。モルタル27が硬化した後、最後に、図2(f)に示すように、ネジ切り穴23に水密ボルト25を螺合することで、内部空間28へのコンクリート4の充填工程を終了する。ちなみに、この図2(e)に示す工程は省略するようにしてもよい。
【0039】
また、図3(c)に示すように水密ボルト25の頭部下面で、上部主桁5のウエブ21と接触する面には環状の水膨湿潤ゴム29が装着してあり、これにより、ネジ切り穴23の水密的な封止は確実となる。また直下部に、図3(d)に示すように水密ボルト25の頭部下面で、上部主桁5のウエブ21と接触する面に水密ワッシャー30を装着しても上記と同様にネジ切り穴23の水密的な封止を行うことがきる。
【0040】
上記のように、水密ボルト25をネジ切り穴23に締結したとき、環状の水膨湿潤ゴム29または、水密ワッシャー30がネジ切り穴23の周縁に密着し水分を含んで膨張することでネジ切り穴23は水密的に封止される。これによりセグメント用鋼殻1の内面とコンクリート4の境界面に水が浸入せず、鋼殻コンクリートセグメントの品質が長期間保証される。
【0041】
また、排気ボルト24の排気孔31には図4(a)に示すように、排気パイプ26を接続してもよい。その接続手段は任意であるが、例えば、図のように排気パイプ26の外周を排気孔31の内周面に接着剤で固着してもよい。また、排気パイプ26の他端には排気ポンプ(図示せず)を接続しておく。このようにして内部空間28にコンクリートを注入しながら、排気パイプ26で内部空間28の空気を強制的に排気して負圧とすることで、内部空間28内へのコンクリート4の充填を一層円滑に行うことができる。排気パイプ26による内部空間28の空気の吸引は常時でなくてもよく、例えば、高流動性のコンクリート4の注入パイプが詰まった時などに吸引を行うとコンクリートの通りがよくなる。
【0042】
以上のように、本実施形態によると、縦置きに配置したセグメント用鋼殻1の上部主桁5に排気孔用のネジ切り穴23を設け、このネジ切り穴23に排気ボルト24または、排気栓24を装着して内部空間28の空気を排気しながらコンクリート4の充填を行うことができ、かつ、排気ボルト24等の排気孔31からコンクリート4が外部に溢出するとき、ネジ切り穴23のネジ溝がコンクリート4で埋められる不具合をなくすことができる。したがって、コンクリート4の硬化後は、ネジ切り穴23に水密ボルト24を容易確実に螺合でき、セグメント用鋼殻1の内側とコンクリート4との境界面に水が浸入するのを確実に防止できる。
【0043】
また、本実施形態によると、上部側を前傾させたセグメント用鋼殻1と前面型枠3に振動を与えながら内部空間28にコンクリート4を充填し、コンクリート4が硬化した後、前面型枠3を脱型することで、図1(a)に示すようなコンクリート表面4aに凸凹の少ない高品質の鋼殻コンクリートセグメント11が製作される。さらに、コンクリート充填時においては、セグメント用鋼殻1の中央部の上端部位12における排気ボルト24の排気孔31からのコンクリート溢出状況を目視で監視していれば、内部空間28の全体にコンクリート4が隙間なく充填されたことを確認でき、品質管理の観点においてもより有用となる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の鋼殻コンクリートセグメントの製造方法を説明するための概要図で、(a)は、セグメント完成状態の斜視図、(b)は、図1(a)のA−Aで切断したコンクリート充填時の断面図である。
【図2】(a)〜(f)は、セグメント用鋼殻の内部空間へのコンクリート充填時と充填後におけるネジ切り穴への排気栓と水密ボルトとの着脱工程を示す拡大断面図である。
【図3】(a)(b)は、排気ボルトと排気栓のそれぞれの拡大断面図、(c)(d)は、水密ボルトの2例を示す側断面図である。
【図4】(a)は、排気ボルトに排気パイプを接続して内部空間にコンクリートを充填する態様を示す拡大断面図、(b)は、同図(a)のC部詳細図である。
【図5】従来の鋼殻コンクリートセグメントの製造方法を説明するための概要図で、(a)は、セグメント完成状態の斜視図、(b)は、図5(a)のB−Bで切断したコンクリート充填時の断面図である。
【符号の説明】
【0045】
1 セグメント用鋼殻
2 凹部
3 前面型枠
4 コンクリート
4a硬化したコンクリートの表面
5 上部主桁
5a 下部主桁
5b 上部主桁の内側面
6コンクリートの溢出用パイプ
7 気泡
8 継手部材
9 液面レベル
10 スキンプレート
12 中央部上端部位
13 高周波バイブレーター
14 地面
15 弾性支持体
16 傾斜ベース枠
17 下端部
18 基端
19 両端側
20 コンクリート注入パイプ
20a コンクリート注入孔
21 ウエブ
22 フランジ
23 ネジ切り穴
24 排気ボルト
24a 排気栓
25 水密ボルト
26 排気ホース
27 モルタル
28 内部空間
28a 小空間
29 環状の水膨湿潤ゴム
30 水密ワッシャー
31 排気孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セグメント用鋼殻を鉛直面から傾斜させて立設するとともに、その前側面に形成されたコンクリート充填用凹部について、予め貫通穴を形成させた型枠で閉塞し、
上記セグメント用鋼殻の上端部に予め形成されたネジ切り穴に円筒状部材の外周面を螺合させ、
上記型枠を閉塞させることにより上記セグメント用鋼殻の内部に形成された空間に対し、当該型枠の貫通穴を介してコンクリートを注入し、
上記コンクリートの注入を上記円筒状部材からの溢出状況に応じて停止し、
上記空間内に注入されたコンクリートの硬化後に上記円筒状部材を上記ネジ切り穴から螺脱させ、
上記円筒状部材が螺脱されたネジ切り穴に水密ボルトを螺合させてこれを封止すること
を特徴とする鋼殻コンクリートセグメントの製造方法。
【請求項2】
上記コンクリートの注入を停止させた後、上記注入されたコンクリートから上記ネジ切り穴に至るまでの間隙にモルタルを充填すること
を特徴とする請求項1記載の鋼殻コンクリートセグメントの製造方法。
【請求項3】
上記水密ボルトとセグメント用鋼殻との間に、水膨湿潤ゴム又は水密ワッシャーを介装させること
を特徴とする請求項1又は2記載の鋼殻コンクリートセグメントの製造方法。
【請求項4】
上記円筒状部材に接続した排気パイプを通して上記空間内の空気を吸引しつつ、上記コンクリートを注入すること
を特徴とする請求項1〜3のうち何れか1項記載の鋼殻コンクリートセグメントの製造方法。
【請求項5】
セグメント用鋼殻を鉛直面から20°以下の傾斜角で立設すること
を特徴とする請求項1〜4のうち何れか1項記載の鋼殻コンクリートセグメントの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−276293(P2007−276293A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−106343(P2006−106343)
【出願日】平成18年4月7日(2006.4.7)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】