説明

鋼片の加熱方法

【課題】鋼片の有する温度分布を求め、不要な加熱を抑制し、経済的な昇温を可能とする鋼片の加熱方法を提供する。
【解決手段】温度分布を有する鋼片10の温度分布を求め、他の箇所11より温度の高い高温領域12の位置を検出し、高温領域12の加熱を抑制しながら鋼片10を加熱するので、不要な加熱を抑制でき、経済的な昇温が可能になる。また、鋼片10の温度分布を、鋼片10の長手方向にわたって求めるのがよい。更に、鋼片10は連続鋳造により製造した鋳片であるのがよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度分布を有する鋼片(特に、連続鋳造直後の鋳片)の加熱方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、連続鋳造後の鋳片(鋼片の一例)を熱間圧延して目標とする厚み寸法と幅寸法に調整するため、加熱炉等により事前に鋳片の加熱を行っている。
この加熱方法としては、例えば、特許文献1に、加熱炉内を通過中の鋳片温度を推定すると共に、その推定値、抽出時の目標温度、加熱時間から鋳片の目標昇温パターンを決定し、この鋳片が目標昇温パターンに沿うよう、加熱炉の加熱帯及び均熱帯の雰囲気温度を設定する方法が開示されている。具体的には、分布定数系温度モデルを用いて現在の鋳片温度を推定し、このモデルで燃料原単位が最適な昇温パターンや設定炉温を求めており、この鋳片温度の推定を、鋳片の一断面(又は、スキッド断面を含む二断面)で行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−209044号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、連続鋳造では、例えば、製造する鋳片の長さや鋳造条件の変動により、主として、鋳片の長手方向(鋳造方向)にわたって温度分布が発生している。このため、前記した鋳片の加熱方法のように、鋳片温度を、その一断面(又は二断面)でのみ推定する場合には、鋳片の長手方向の温度分布が反映されることなく、加熱炉で鋳片全体が同じ条件で加熱されるため、過剰に昇温される部分が発生する。
従って、上記した方法では、加熱に要するエネルギーコストの無駄が生じて不経済であった。
【0005】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、鋼片の有する温度分布を求め、不要な加熱を抑制し、経済的な昇温を可能とする鋼片の加熱方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するためになされた本発明の要旨は、以下の通りである。
(1)温度分布を有する鋼片の温度分布を求め、他の箇所より温度の高い高温領域の位置を検出し、該高温領域の加熱を抑制しながら前記鋼片を加熱することを特徴とする鋼片の加熱方法。
【0007】
(2)前記鋼片の温度分布を、該鋼片の長手方向にわたって求めることを特徴とする(1)記載の鋼片の加熱方法。
(3)更に、前記鋼片の温度分布を、該鋼片の幅方向及び厚み方向にわたって求めることを特徴とする(2)記載の鋼片の加熱方法。
【0008】
(4)前記鋼片は連続鋳造により製造した鋳片であることを特徴とする(1)〜(3)記載の鋼片の加熱方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る鋼片の加熱方法は、鋼片の温度分布を求めることにより、他の箇所より温度の高い高温領域の位置を検出するので、高温領域の加熱を抑制しながら鋼片を加熱して、鋼片の加熱に要する総熱エネルギーの低減(省エネルギー化)が図れ、鋼片を経済的に昇温できる。
【0010】
また、鋼片の温度分布を、鋼片の長手方向にわたって求める場合、最も温度差が発生し易い方向について温度分布を得ることができるため、更なる総熱エネルギーの低減が図れる。
【0011】
そして、鋼片が連続鋳造により製造した鋳片である場合、本発明の効果を更に顕著にできる。連続鋳造で製造する鋳片は、その長さが長く、先に連続鋳造がなされた部分と、連続鋳造直後の部分とで、温度差が発生する場合や、鋳造条件の変動により部分的に温度低下や温度上昇が発生する場合が多い。このため、鋼片の温度分布を求めることで、更なる総熱エネルギーの低減が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施の形態に係る鋼片の加熱方法の説明図である。
【図2】加熱炉の炉内状況を示す説明図である。
【図3】(A)は従来例に係る鋳片の温度部分を示す説明図であり、(B)は実施例に係る鋳片の温度分布を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
図1、図2に示すように、本発明の一実施の形態に係る鋼片の加熱方法は、鋳造方向(一定方向)に温度分布を有する鋳片(鋼片の一例)10の温度分布を求め、鋳造方向下流側の箇所(他の箇所の一例)11より温度の高い鋳造方向上流側の高温領域12の位置を検出し、高温領域12の加熱を抑制しながら鋳片10を加熱する方法である。以下、詳しく説明する。
【0014】
まず、鋳片10を、連続鋳造機(図示しない)により製造する。
この鋳片10は、断面長方形であり、例えば、厚みが100〜400mm程度、幅が650〜3000mm程度、長さが3〜30m程度、である。
連続鋳造においては、図1に示すように、鋳片10の長手方向(鋳造方向)にわたって、長手方向両側の端面13、14、及び予め設定した間隔(例えば、0.5〜2mピッチ)ごとの複数(ここでは、7箇所)の鋳片断面15の各部位で、従来公知の凝固計算(例えば、特開2000−271712号公報に記載の方法)を行う。
これにより、鋳片10の長手方向のみならず、幅方向及び厚み方向についても、鋳片10の温度を推定できる。
【0015】
連続鋳造で製造された鋳片10は、図2に示すように、ウォーキングビーム式の加熱炉16に装入して、目標温度まで昇温した後、目標とする厚み寸法と幅寸法に調整するため、竪型圧延機と水平圧延機が組み込まれた圧延機(例えば、特開昭64−40101号公報に記載の圧延機)にかける。なお、鋳片10を加熱炉16に装入する直前に、放射温度計(温度測定手段の一例)を用いて、鋳片10の上面の特定位置P1〜P9における実温度を測定する。この特定位置P1〜P9は、鋳片10の端面13、14、及び各鋳片断面15の上端位置で、かつ幅方向中央位置である。
この測定温度を基準として、図1に示す各端面13、14、及び各鋳片断面15の温度分布を補正するので、鋳片10の温度分布を高精度に推定できる。
【0016】
上記した方法で、温度分布の補正が行われた鋳片10を加熱炉16に装入する。
この鋳片10は、加熱炉16に設置された複数のバーナー(図示しない)の熱で加熱されながら、鋳片10の幅方向(長手方向の直交方向)を搬送方向にあわせて、加熱炉16内を搬送される。なお、加熱炉16の天井部及び床部の縦方向及び横方向には、間隔を有して複数の温度計が設置され、各温度計が設置された領域ごとに、加熱炉16内の雰囲気温度を測定できる。この加熱炉16内は、加熱帯領域と均熱帯領域とに分かれている。
一方、加熱炉16内を搬送される鋳片10は、各領域に進入するごとに、上記した温度計で測定された温度の雰囲気に曝されることになるので、このときの入熱量から、前記補正した温度分布を基準として従来公知の差分計算を用いることで、鋳片10の温度を推定できる。
【0017】
これにより、鋳片10の各端面13、14、及び各鋳片断面15の温度分布が得られるため、鋳片の各端面13、14、及び各鋳片断面15間の温度を補間することで、図1の下図に示すように、鋳片10の長手方向、幅方向、及び厚み方向の温度分布を、連続的に三次元で推定できる。
従って、この推定される温度分布に基づいて、各バーナーの出力制御を行うことにより、各領域の雰囲気温度をそれぞれ調整し、鋳片10の長手方向、幅方向、及び厚み方向の温度分布を、目標とする温度分布に調整する。
ここで、加熱炉16内に設けられたバーナーの温度制御を行った例について、図2、図3(A)、(B)を参照しながら説明する。
【0018】
図2に示すように、加熱炉16内に装入された鋳片10の長手方向に温度分布を求めると、東側に配置された領域、即ち鋳造方向下流側の箇所11よりも、西側に配置された領域、即ち鋳造方向上流側の高温領域(点線で囲まれた領域)12の方が、温度が高くなっている。これは、鋳片10の長さが長く、西側に後に鋳造された部分が配置され、東側に先に鋳造された部分が配置されていることによる。このため、図2に示す長さや幅(更には厚み)が異なる他の鋳片17〜24(合計8本)についても、同様の傾向が現れる。
ここで、図3(A)に示すように、鋳片の長手方向の温度分布が反映されることなく鋳片全体を同じ条件で加熱すると、鋳片の西側部分の抽出温度(加熱炉16から抽出する際の温度)は、予め設定した必要抽出温度(圧延機で圧延するために必要な鋳片の温度)を大きく上回り、加熱に要するエネルギーコストの無駄が生じる。
【0019】
一方、上記した鋳片の温度分布の検出結果に基づき、西側部分の加熱を抑制しながら鋳片を加熱するために、加熱炉16内の西側に配置されたバーナーの出力を、東側に配置されたバーナーの出力よりも低下させることで、図3(B)に示すように、鋳片の西側部分の抽出温度を、東側部分と同様にできる。これにより、鋳片の西側部分の加熱に要するエネルギーコストの無駄を無くすことができる(省エネ効果が得られる)。
上記したように、高温領域12は、加熱炉16内で昇温可能な温度と必要抽出温度に基づいて特定したが、これに限定されるものではなく、例えば、鋳片の平均温度や、過去の操業実績に基づく温度、更には、操業条件による予め設定した温度等に基づいて特定できる。
以上の方法により、鋳片10全体の温度を必要抽出温度以上にできるので、この鋳片10を、加熱炉16の下流側に配置された圧延機に搬送し、目標とする厚み寸法と幅寸法に調整できる。
【0020】
従って、鋳片10の温度分布を求めることで、不要な加熱を抑制し、経済的な昇温が可能となる。なお、鋳片の温度分布の算出は、RAM、CPU、ROM、I/O、及びこれらの要素を接続するバスを備えた従来公知の演算器(即ち、コンピュータ)を用いて行うが、これに限定されるものではない。
また、上記したように、連続鋳造機で鋳片を製造する場合、製造する鋳片の長さや鋳造条件の変動により、鋳片の長手方向に温度分布を生じ易いが、特に、鋳片の長さが10m以上、更には15m以上の場合には、鋳片の長手方向の温度分布の差が大きくなるので、本発明の効果が顕著になる。
【実施例】
【0021】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実施例について説明する。
まず、連続鋳造機により、厚み282mm、幅1800mm、長さ24mの鋳片を製造した。そして、この鋳片の端面、及び複数の鋳片断面(1.8mピッチ)の部位で、従来公知の凝固計算を行った。
この結果を、表1に示す。なお、表1には、鋳片の長手方向、幅方向、及び厚み方向の各部位の温度を記載している。この表1に記載した鋳片の各部位の温度は、鋳片を、厚み方向に7分割、幅方向に12分割、長さ方向に120分割して計算した各点の代表温度の一例である。また、断面平均温度とは、上記した7×12×120点の加重平均結果であり、この加重平均は、計算セルの体積と温度の平均により得られる。従って、表1に記載した断面平均温度は、鋳片の各部位の温度を単純に平均した値ではない(以下、表2〜表4についても同様)。
【0022】
【表1】

【0023】
次に、この鋳片を加熱炉に装入する直前に、放射温度計を用いて、鋳片の各端面及び各鋳片断面の上端位置の温度を測定し、この測定温度を基準として、表1に示す各端面及び各鋳片断面の温度分布を補正した。この結果を、表2に示す。
【0024】
【表2】

【0025】
そして、鋳片の各端面及び各鋳片断面間の温度を補間し、鋳片の長手方向、幅方向、及び厚み方向の温度分布を、連続的に三次元で推定した。
次に、この鋳片を加熱炉内に装入し、加熱炉内に設置された複数のバーナーの熱で加熱しながら、鋳片の幅方向を搬送方向にあわせて加熱炉内を搬送させる。
このときの鋳片の温度分布を、鋳片全体を同じ条件で加熱した場合を比較例として表3に、また加熱炉内の各領域で、鋳片の温度分布の検出結果に基づいて鋳片の加熱を行った場合を実施例として表4に、それぞれ示す。
【0026】
【表3】

【0027】
【表4】

【0028】
表3に示す比較例から、鋳片の温度分布を反映することなく、鋳片全体を同じ条件で加熱すると、鋳片の西側部分の抽出温度(断面平均温度)は、必要抽出温度(ここでは、1080℃)を大きく上回り、加熱に要するエネルギーコストの無駄が生じた。
一方、表4の実施例に示すように、鋳片の温度分布の検出結果に基づき、西側部分の加熱を抑制しながら鋳片を加熱することで、鋳片の西側部分の抽出温度(断面平均温度)を東側部分と同程度にでき、鋳片の加熱に要するエネルギーコストの無駄を無くすことができた。
以上から、本発明の鋳片の加熱方法を使用することで、不要な加熱を抑制し、経済的な昇温ができることを確認できた。
【0029】
以上、本発明を、実施の形態を参照して説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。例えば、前記したそれぞれの実施の形態や変形例の一部又は全部を組合せて本発明の鋼片の加熱方法を構成する場合も本発明の権利範囲に含まれる。
また、前記実施の形態においては、連続鋳造後の鋳片を加熱する場合について説明したが、温度分布を有する鋼片であれば、これに限定されるものではなく、例えば、熱間圧延や厚板のような鋼片の加熱について適用することも可能である。
そして、前記実施の形態においては、鋳片の長手方向、幅方向、及び厚み方向の温度分布を求めた場合について説明したが、温度分布を有するのであれば、鋳片の長手方向、幅方向、及び厚み方向のいずれか1又は2以上の温度分布のみを求めてもよい。
【符号の説明】
【0030】
10:鋳片(鋼片)、11:鋳造方向下流側の箇所(他の箇所)、12:高温領域、13、14:端面、15:鋳片断面、16:加熱炉、17〜24:鋳片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度分布を有する鋼片の温度分布を求め、他の箇所より温度の高い高温領域の位置を検出し、該高温領域の加熱を抑制しながら前記鋼片を加熱することを特徴とする鋼片の加熱方法。
【請求項2】
請求項1記載の鋼片の加熱方法において、前記鋼片の温度分布を、該鋼片の長手方向にわたって求めることを特徴とする鋼片の加熱方法。
【請求項3】
請求項2記載の鋼片の加熱方法において、更に、前記鋼片の温度分布を、該鋼片の幅方向及び厚み方向にわたって求めることを特徴とする鋼片の加熱方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の鋼片の加熱方法において、前記鋼片は連続鋳造により製造した鋳片であることを特徴とする鋼片の加熱方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−195932(P2011−195932A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−66622(P2010−66622)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)