説明

鋼矢板打設工法及び装置

【課題】簡易な構成で、鋼矢板の打ち込みを円滑かつ良好に行うことを可能とする。
【解決手段】穿設した第1の削孔30,32,・・・内に仕切枠体31を挿入して内方領域を仕切枠体31で仕切り、その仕切枠体31の内方領域に玉石や転石が侵入しない状態を維持しながら連続ラップ孔40を形成し、その後に鋼矢板41と干渉する部分にある仕切枠体31bを抜き出してから連続ラップ孔40に鋼矢板41を容易に打ち込むように構成したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼矢板を連続させた状態で地層に打ち込む鋼矢板打設工法及び装置に関する。
【0002】
従来から、護岸や防波堤あるいは岸壁を作ったり、管路などを埋設する際の仮設の土留めとして、鋼矢板を土中に埋め込んで使用されることが行われている。鋼矢板を地層に打ち込むにあたっては、側面部分が一部重複するようにして複数の削孔を地層に連続的に穿設し、それにより形成された連続ラップ孔の内部に複数の鋼矢板を連続させた状態で打設が行われる。
【0003】
一般的な鋼矢板の打設工法としては、バイブロジェット工法、硬質地盤クリア工法、ダウンザホールプレボーリング工法、あるいはオールケーシング置換工法などが知られているが、バイブロジェット工法、及び硬質地盤クリア工法には、打ち込み可能な地層の硬さに限界があることから(N値が180まで)、玉石硬岩地層や岩盤層に対しての打設を行うことは非常に困難である。
【0004】
一方、ダウンザホールプレボーリング工法や、オールケーシング置換工法によれば、硬岩地層に対する打設も可能となるが、複数の削孔を重複させながら穿設を行うにあたって、先に掘削した削孔の内方領域に、後で掘削した削孔側の玉石や転石などが流れ込むことがあり、それが鋼矢板の打ち込みに支障を来すことがある。また、削孔の鉛直性が少しでも悪化して岩盤層が残ってしまうと、その部位における鋼矢板の打ち込み量が不十分になって、いわゆる鋼矢板の高上がり状態となるおそれがある。特に、河川などの水流がある現場では、玉石や岩石の流れ込みが顕著になることから、鋼矢板の打設を行う上で大きな問題となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−225532号公報
【特許文献2】特開2006−348471号公報
【特許文献3】特開2006−257826号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、簡易な構成によって、硬岩地層に対する鋼矢板の打ち込みを円滑かつ良好に行うことができるようにした鋼矢板打設工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため本発明では、鋼矢板を打ち込むべき地層に、複数の削孔を一部重複するようにして位置をずらしながら連続的に穿設し、それら複数の削孔により形成された連続ラップ孔の内部に、複数の鋼矢板を連続させた状態で打ち込むようにした鋼矢板打設工法において、第1の削孔を穿設する工程と、その第1の削孔内に中空筐体状をなす仕切枠体を挿入する工程と、前記仕切枠体の外方領域であって前記第1の削孔に対して側面部分が一部重複するように第2の削孔を穿設する工程と、を繰り返すことによって前記連続ラップ孔を形成し、前記連続ラップ孔の内部に挿入された前記仕切枠体のうち、打ち込むべき鋼矢板と干渉する位置にある部分を抜き出し、その後に、前記仕切枠体の内方領域に前記鋼矢板を連続させた状態で打ち込むようにしている。
【0008】
このような構成を有する鋼矢板打設工法においては、穿設された各削孔の内方領域が仕切枠体によって仕切られているため、その仕切枠体の内方領域に玉石や転石が侵入しない状態で連続ラップ孔が形成されることとなり、当該連続ラップ孔の内方空間に鋼矢板が容易に打ち込まれる。
【0009】
また、本発明においては、上述した鋼矢板打設工法に用いられる前記仕切枠体を備えた矢板打ち込み装置において、前記仕切枠体は、打ち込むべき鋼矢板と干渉しない位置に埋設される基枠板と、その基枠板に対して着脱可能に取り付けられて、打ち込むべき鋼矢板と干渉する位置に配置される引抜き板とを有し、前記引抜き板は、隣接する削孔の周壁面の外方側に沿って断面略円弧状に窪むように形成されている。
【0010】
このような構成を有する鋼矢板打ち込み装置においては、削孔内に仕切枠体が挿入された状態で、隣接する削孔が仕切枠体と干渉することなく形成されるとともに、引抜き板に形成された円弧状の湾曲分だけ隣接する削孔を重複して形成することが可能となり、連続ラップ孔の内方空間が十分に確保される。
【発明の効果】
【0011】
以上述べたように本発明にかかる鋼矢板打設工法及び装置は、穿設した削孔内に仕切枠体を挿入して内方領域を仕切枠体で仕切り、その仕切枠体の内方領域に砂や玉石が侵入しない状態を維持しながら連続ラップ孔を形成し、その後に鋼矢板と干渉する部分にある仕切枠体を抜き出してから連続ラップ孔に鋼矢板を容易に打ち込むように構成したものであるから、簡易な構成で、鋼矢板の打ち込みを円滑かつ良好に行うことができ、鋼矢板の打ち込み作業を安価かつ効率的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に用いられる掘削装置の一例を示したものであって、パイロットビットを柱状ケーシングの内部に挿入する準備段階の状態を表した部分縦断面説明図である。
【図2】図1に示された掘削装置において、パイロットビットを柱状ケーシングの内部に挿入した後の状態を表した部分断面説明図である。
【図3】図1及び図2に示された掘削装置の下端部分(ヘッド部分)を表した縦断面説明図である。
【図4】図1及び図2に示された掘削装置の上端部分に配置された第1回転止め手段を表した縦断面説明図である。
【図5】図4中のV−V線に沿った横断面説明図である。
【図6】図3中のVI−VI線に沿った横断面説明図である。
【図7】図1〜図3に示された掘削装置に用いられているパイロットビットの側面説明図である。
【図8】図7に示されたパイロットビットの正面説明図である。
【図9】図1〜図3に示された掘削装置に用いられているリングシューの側面説明図である。
【図10】図1〜図3に示された掘削装置に用いられているリングビットの側面説明図である。
【図11】図10に示されたリングビットの正面説明図である。
【図12】本発明の一実施形態にかかる鋼矢板打設工法に使用される仕切枠体の上部構造を表した外観斜視説明図である。
【図13】本発明の一実施形態にかかる鋼矢板打設工法により形成された第1の削孔内に仕切枠体を挿入した状態を表した平面説明図である。
【図14】仕切枠体を構成している対向基枠板と対向引抜き板との連結部分を拡大して表した部分拡大平面図である。
【図15】本発明の一実施形態にかかる鋼矢板打設工法により形成された第1の削孔に隣接して第2の削孔を形成した状態を表した平面説明図である。
【図16】本発明の一実施形態にかかる鋼矢板打設工法により複数の削孔を連続的に形成した状態を表した平面説明図である。
【図17】本発明の一実施形態にかかる鋼矢板打設工法により形成された連続ラップ孔を表した平面説明図である。
【図18】本発明の一実施形態にかかる鋼矢板打設工法により形成された連続ラップ孔の内方空間に鋼矢板を連続させて打ち込んだ状態を表した平面説明図である。
【図19】図18に示された状態から全ての仕切枠体が引き抜かれて鋼矢板の打設工程を終了した状態を表した平面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明するが、それに先立って、本発明にかかる鋼矢板打設工法の実施に使用する掘削装置及び工法一例を説明する。
【0014】
図1〜図11に示されている掘削装置及び工法においては、まず削孔が行われる地層Tの所定の杭芯位置に装置固定枠体11が構築され、その装置固定枠体11の内部に、長尺中空状の円形管部材からなる柱状ケーシング12が挿入されることによって、当該柱状ケーシング12が所定の杭芯位置に略鉛直方向に立てられた状態に保持されるようになっている。
【0015】
柱状ケーシング12は、削孔される地層Tの内部に向かって挿入されるものであるが、その柱状ケーシング12の下端部には、特に図3に示されているように、継手部材としてのケーシングシュー13を介してリングビット14が回転可能に取り付けられている。また、上記柱状ケーシング12の中空状内部には、当該柱状ケーシング12の略中心軸回りに回転駆動されるパイロットビット15が挿入されている。このパイロットビット15は、上述したリングビット14に対して後述するようにして回転伝達可能な状態にチャッキングされている。
【0016】
パイロットビット15の上端部には、ダウンザホールハンマ16及びオーガスクリュ17が連接されており、それらの両部材16,17を介してパイロットビット15が、回転駆動源としてのアースオーガ18の出力軸18aに連結されている。アースオーガ(回転駆動源)18は、機器枠体18bの内部に電気モータを備えたものであって、機器枠体18bから下方に延出する出力軸18aの回転駆動力によってパイロットビット15及びリングビット14が掘削方向に回転されるようになっている。
【0017】
なお、上述したように柱状ケーシング12は、長尺中空状の円形管部材から形成されているが、後述するように掘削直後の支持杭としてそのまま地層Tに立設された状態で残されたり、内部に鋼材等の本杭部材を挿入した後に引き抜かれたりするものである。
【0018】
また、その柱状ケーシング12の中空内部に挿入されるパイロットビット15は、比較的小径をなす駆動軸部15aを有しているとともに、その駆動軸部15aの下端部分に、比較的大径をなすヘッド部15bが設けられている。このヘッド部15bの先端面(下端面)には、多数の突起状部材からなる中心側ドリル片15cが点在するように設けられていて、上述した駆動軸部15aを介して伝達される所定の回転駆動力によってヘッド部15bが回転され、そのときの中心側ドリル片15cの切削作用で地層の掘削が行われて地層T内下方に向かって削孔が形成されるようになっている。
【0019】
また、当該ヘッド部15bには、上述したオーガスクリュ17及びダウンザホールハンマ16から駆動軸部15aを略中心軸方向に延びるエアー通路15dが形成されている。このエアー通路15dは、前記駆動軸部15a及びヘッド部15bの略軸中心に沿って延在しているとともに、前記ヘッド部15bの先端部分(下端部分)の近傍において複数(4体)に分岐しており、それらの各分岐路が、前記ヘッド部15bの先端面(下端面)に開口するように形成されている。
【0020】
さらに、上述したエアー通路15dの各開口部からは、排出溝15eが半径方向外方に向かって延在するように設けられている。それらの各排出溝15eは、前記ヘッド部15bの外周部まで放射状に延出した後に、そのヘッド部15bの外周部から当該ヘッド部15bの外周面上を軸方向に延びており、ヘッド部15bの反対側の上端面に開口するように設けられている。それらの各排出溝15eの上端側の開口部は、前記柱状ケーシング12の内部空間に連通しており、削孔時に生じる廃土等が、前記エアー通路15dから供給されたエアーにより各排出溝15eを通って排出されていくように構成されている。
【0021】
一方、前記柱状ケーシング12の軸方向下端部分には、継手部材としてのケーシングシュー13が溶接により固定されている。そのケーシングシュー(継手部材)13は、中空の管状部材から形成されたものであって、当該ケーシングシュー13の下端部分に、前記柱状ケーシング12の略中心軸回りに回転可能となるようにしてリングビット14が取り付けられる構成になされている。また、そのケーシングシュー13の内部側には、上述したパイロットビット15が回転可能に挿入されるようになっている。
【0022】
上述したリングビット14も、中空の管状部材から形成されており、当該リングビット14の下端面の外周部に多数の外周側ドリル片14aが突起状をなすように設けられていて、上述したパイロットビット15から、次に説明するマウント構造を介して伝達される所定の回転駆動力によって当該リングビット14が回転され、そのときの前記外周側ドリル片14aの切削作用により、前記柱状ケーシング12の外周部に相当する位置の掘削が行われるようになっている。
【0023】
このリングビット14の内部側には、上述したようにパイロットビット15が回転可能に挿入される構成になされているが、これらのリングビット14とパイロットビット15とは、いわゆるバヨネットマウントにより着脱(チャッキング)可能な構成になされている。すなわち、特に図7〜図11に示されているように、それらのパイロットビット15及びリングビット14における内周壁面には、半径方向の凹凸関係を逆にしたロック部15f,14bが設けられている。それらのロック部15f,14bは、特定の角度位置において嵌合するとともに、他の角度位置においては非嵌合状態となるように構成されたものであって、それらのロック部15f,14bどうしが非嵌合状態となる角度位置においてリングビット14とパイロットビット15とが軸方向に嵌め込まれた後、そのときの嵌め込み位置から適宜の中心角度だけ両者を相対的にずらすように回動させられることによって、前記両ロック部15f,14bどうしが、軸方向嵌合状態になされるとともに、周方向の一方に嵌合状態で他方向には非嵌合状態になされるようになっている。
【0024】
そして、パイロットビット15とリングビット14との嵌合状態から、アースオーガ18が起動され、その出力軸18aの回転駆動力によって特定の一方向にパイロットビット15が回転駆動されると、当該パイロットビット15に対して周方向に嵌合されたリングビット14が連れ回ることとなり、それらパイロットビット15及びリングビット14に設けられた中心側ドリル片15c及び外周側ドリル片14aにより地層Tの掘削が、前述したダウンザホールハンマ16からの下方向推進力が付与されつつ行われるようになっている。特に、リングビット14の外周側ドリル片14aは、削孔の外周壁面を形成するものであって、その削孔の外周壁面に沿って上述した柱状ケーシング12が挿入されるようになっている。
【0025】
また、上述したケーシングシュー(継手部材)13の上方側部分を構成している本体基部13aは、パイロットビット15のヘッド部15bの外周部分に対して軸方向移動可能かつ回転可能に装着されているとともに、その本体基部13aから下方向かって延出している支持部13bの内周側には、上述したリングビット14が回転可能に収容されている。それらケーシングシュー13の本体基部13aと、リングビット14の上端面との間には、ケーシングシュー13が軸方向に移動するための移動空間が形成されている。
【0026】
このようにケーシングシュー(継手部材)13の移動空間は、当該ケーシングシュー13の本体基部13aと、リングビット14の上端面とが軸方向に対向する面どうしの間(以下、軸方向対向面間と呼ぶ。)に形成されているが、当該移動空間を半径方向にみた場合には、半径方向内方側のパイロットビット15と、半径方向外方側のケーシングシュー13とが半径方向に対向する面どうしの間(以下、半径方向対向面間と呼ぶ。)に形成されている。
【0027】
そして、その軸方向対向面間及び半径方向対向面間に形成される移動空間の内部側には、少なくとも軸方向に弾性を有する緩衝部材19が配置されている。本実施形態における緩衝部材19としては、周方向に螺旋状に延在する環状コイルバネが採用されている。この環状コイルバネからなる緩衝部材19は、基本的には、ケーシングシュー13の本体基部13aとリングビット14の上端面との間部分において軸方向に介在して緩衝機能を発揮するように配置されたものであるが、当該緩衝部材19は、回転部材であるパイロットビット15とリングビット14との間における回転力伝達手段としての機能を有している。
【0028】
一方、前述したように回転駆動源としてのアースオーガ18の機器枠体18bは、特に図4に示されているように、第1回転止め手段としての回転止めキャップ20を介して柱状ケーシング12の上端部分に連結されている。その回転止めキャップ20は、中空円筒状部材からなるキャップ本体20aを有しており、当該キャップ本体20aの上端側の閉塞端縁部分が、前記アースオーガ18の機器枠体18bの下端側の外周面に溶接等により固定されている。そして、この回転止めキャップ20を構成しているキャップ本体20aは、当該キャップ本体20aの下端側に設けられた開口部から、前記柱状ケーシング12の上端部分の外方側を覆うように外嵌されることによって装着される構成になされている。
【0029】
このとき、図5に示されているように、上述した回転止めキャップ20を構成するキャップ本体20aの内周面には、中心軸に向かって内方側に突出するキャップ側回転係合板20bが円周方向に沿って略等間隔で4体設けられている。これに対応して、前記柱状ケーシング12の外周面には、中心軸から外方向に向かって突出するケーシング側回転係合板12aが円周方向に沿って略等間隔で4体設けられている。そして、上述したように回転止めキャップ20のキャップ本体20aが柱状ケーシング12に外方側から被せられるようにして装着されると、それらのキャップ側回転係合板20bとケーシング側回転係合板12aとが、円周方向に対向するように配置される位置関係になされている。
【0030】
そして、回転駆動源としてのアースオーガ18が僅かに回転駆動されることによって、前記両部材20a,12a同士が円周方向に当接され、その後にアースオーガ18が回転駆動されることによって、その出力軸18aからの回転駆動力が両部材20a,12aを介して柱状ケーシング12側に伝達される構成になされている。このように第1回転止め手段を、板状部材からなるキャップ側回転係合板20b及びケーシング側回転係合板12aにより構成することによって、簡易な構成としつつ、確実な回転止め作用が得られる。
【0031】
また、前述したように柱状ケーシング12は、当該柱状ケーシング12の下端部分が、地層に構築された装置固定枠体11の内部に挿入されることによって所定の杭芯位置に略鉛直方向に立てられた状態に保持されるようになっている。このときの装置固定枠体11には、特に図3に示されているように、第2回転止め手段としての一対の回転ローラ22,22が取り付けられている。それらの各回転ローラ22は、装置固定枠体11の上面に着脱自在かつ位置移動自在に配置された軸受け板22aに回転自在にそれぞれ取り付けられており、装置固定枠体11上において杭芯に相当する位置まで移動されてから、柱状ケーシング12を外方側から直径方向に挟むようにして適宜の固定手段で固定される。
【0032】
一方、図6にも示されているように、柱状ケーシング12の外周面には、上述した一対の回転ローラ(第2回転止め手段)22を受け入れるための一対の回転係合溝12b,12bが凹設されている。それらの各回転係合溝12bも、第2回転止め手段を構成するものであって、上述した回転ローラ22における半径方向の外端部分を収容可能とする溝幅及び溝深さを有しており、前述したパイロットビット15及びリングビット14を除いた柱状ケーシング12の略全長にわたって延在している。
【0033】
そして、図3に示されているように、柱状ケーシング12の回転係合溝12bの内部に回転ローラ22の一部が収容されることによって、柱状ケーシング12の回転が回転ローラ22により係止される一方、回転ローラ22が回転係合溝12bの底面を上下方向に転動することによって、柱状ケーシング12の全体が中心軸方向(上下方向)に沿って任意に往復移動可能となるように支持される構成になされている。
【0034】
このように第2回転止め手段を、回転ローラ22及び回転係合溝12bにより構成することによって、簡易な構成としつつ、確実な回転止め作用が得られる。また、削孔行程の進展により柱状ケーシング12が下降していく際に、第2回転止め手段を構成する回転ローラ22の転動によって柱状ケーシング12の下降が円滑に案内されることとなり、従来のような擦れ音等の騒音がほとんど発生しなくなって、環境上極めて良好な削孔作業が可能となる。
【0035】
このとき、上述した柱状ケーシング12に設けられた一対の回転係合溝12b,12bは、前述したパイロットビット15の排出溝15eに対応した位置に配置されており、かつその回転係合溝12bの外形状は、排出溝15eよりやや小さくなるように形成されている。これによって、柱状ケーシング12の内部をパイロットビット15が移動する際に、パイロットビット15側の排出溝15eが柱状ケーシング12側の回転係合溝12bに干渉することがない構成になされている。
【0036】
このような構成を有する掘削装置を用いた掘削によって削孔を形成するにあたっては、次のようなクリッド工法が用いられる。まず、現場に装置を搬入して、削孔を行う地層Tに装置固定枠体11を構築する一方、柱状ケーシング12の下端部にケーシングシュー(継手部材)2を溶接する。そのときのケーシングシュー13にはリングビット14が回転可能に取り付けられている。リングビット14が取り付けられた柱状ケーシング12は、装置固定枠体11に挿入されて略鉛直方向に立てた状態に保持される。このとき、柱状ケーシング12に設けられた一対の回転係合溝12b,12b内に、装置固定枠体11側に取り付けた一対の回転ローラ(第2回転止め手段)22,12がそれぞれ挿入される。
【0037】
次いで、図1に示されているように、アースオーガ18の出力軸18aにダウンザホールハンマ16及びオーガスクリュ17を介して連結されたパイロットビット15が、柱状ケーシング12の上端部から内部に挿入されて下端部分に配置されたリングビット14にチャッキングされる。そして、アースオーガ18を回転起動させてパイロットビット15及びリングビット14に回転駆動力を付与し、それによってパイロットビット15及びリングビット14の中心側ドリル片15c及び外周側ドリル片14aで地層Tの掘削を行い、削孔作業が実行される。
【0038】
その際、アースオーガ18の機器枠体18bに発生した回転駆動力は、回転止めキャップ(第1回転止め手段)20を介して柱状ケーシング12に伝達されるが、当該柱状ケーシング12は、回転ローラ(第2回転止め手段)22により回転方向に係止されるため、アースオーガ18の機器枠体18bが回転方向に係止されることなる。その結果、アースオーガ18の出力軸18a並びにパイロットビット15及びリングビット14が駆動方向に円滑に回転される。このように、アースオーガ18の機器枠体18bに対する回転止めが、柱状ケーシング12を介して簡易な構成の回転止め手段10,12により行われることから、従来のようなアースオーガ18に対する固定ワイヤーの配備や、アンカーの打ち込みなどの大がかりな作業が不要となり、工期の短縮及び安全性が高められる。
【0039】
特に、本実施形態では、第2回転止め手段を構成する回転係合溝12bが、柱状ケーシング12の外周面から内方に窪んで外方に突出することがないので、柱状ケーシングの外周面から外方に突出する従来の回転止め板のように削孔を行う際の邪魔になることがなく、削孔作業が円滑に行われる。また、削孔の進展に伴い、第2回転止め手段を構成する回転ローラ22の転動によって柱状ケーシング11が下降していくため、従来のような擦れ音等の騒音がほとんど発生しなくなり、環境上極めて良好な削孔作業が可能となる。
【0040】
また、このようなパイロットビット15及びリングビット14の回転駆動による削孔時には、柱状ケーシング12からケーシングシュー(継手部材)13を介してリングビット14に下方推進力が付与される。この下方推進力は、ハンマー装置等によって強い軸方向の押圧力として所定の周期で付与され、それによって削孔作業が迅速に行われるようになっている。
【0041】
この削孔作業時には、リングビット14に引き込まれるようにして柱状ケーシング12が地層T内に立てられることとなるが、削孔が予定の深さに達したら、パイロットビット15をリングビット14とのチャッキングから分離して上方に引き上げる。その結果、図13に示されているように第1の削孔30が穿設されることとなるが、その第1の削孔30から引き上げたパイロットビット15に替えて、後述する仕切枠体31が、柱状ケーシング12の内部に挿入される。
【0042】
すなわち、上述した柱状ケーシング12が、第1の削孔30から引き抜かれる前に、図12及び図13に示されているように、当該柱状ケーシング12の内部に仕切枠体31が挿入される。この仕切枠体31は、上述した第1の削孔30の深さとほぼ同じ長さを有する中空状の筐体から形成されていて、2体の対向基枠板31a,31aと、それらの対向基枠板31a,31a同士を掛け渡す2体の対向引抜き板31b,31bとを備えている。
【0043】
そのうちの2体の対向基枠板31a,31aは、上述した柱状ケーシング12の内周壁面の内方側に略同心状をなして延在する円弧状断面を有するように形成されており、柱状ケーシング12の内方側に仕切枠体31が挿入された際に、柱状ケーシング12の内壁面に沿って延在するように形成されている。また、これら一対の対向基枠板31a,31aにおける上下の両端縁部分には差込みピン31cがそれぞれ取り付けられている。これらの各差込みピン31cは、当該対向基枠板31aにおける円弧状断面の両端位置に上下方向に所定の長さを備えている。そして、特に図14に示されているように、その差込みピン31cの外方側には、上述した対向引抜き板31b側に設けられた軸受け部31dが遊嵌状態で嵌め込まれるようになっている。
【0044】
なお、上述した差込みピンと軸受け部との位置は、逆の関係にすることも可能であり、要するに仕切枠体31の設置後に、対向引抜き板31bを上方に引き抜くことが可能であれば良い。
【0045】
このときの対向引抜き板31b,31bは、上述した柱状ケーシング12の外周壁面の外方側に略同心状をなして延在する円弧状断面を有するように形成されており、第1の削孔30の内方側領域に向かって円弧状に張り出す形状になされている。そして、上述したように当該対向引抜き板31b,31bにおける円弧方向の両端縁部には、上下方向に所定の長さを有する軸受け部31d,31dが取り付けられており、上述した対向基枠板31a,31a側の差込みピン31cの外方に、対向引抜き板31b側の軸受け部31dが遊嵌されることによって、2体の対向基枠板31a,31a同士が、2体の対向引抜き板31b,31bによって掛け渡されて、中空状の内方領域を有する仕切枠体31が筐体状をなすように形成されている。
【0046】
なお、上述したように、仕切枠体31を構成している2体の対向引抜き板31b,31bは、2体の対向基枠板31a,31aに対して着脱自在に連結された構成になされているため、対向基枠板31aから対向引抜き板31bを容易に引き抜くことが可能となっている。
【0047】
このような2体の対向基枠板31a,31a同士を2体の対向引抜き板31b,31bで掛け渡すことによって内方側に筐体状空間が画成された仕切枠体31は、柱状ケーシング12の内方側に挿入される。そして、その仕切枠体31の外方領域及び内方領域の全体に、適宜の砂類が充填される。この充填用の砂類としては、例えばN値が10程度の土質を形成するものが採用され、後述する鋼矢板が容易に打設可能、かつ自立可能となるようにしている。
【0048】
その後、柱状ケーシング12が地層Tから引き抜かれることとなるが、当該柱状ケーシング12の引き抜き後にも、仕切枠体31の内方領域に、地層Tに含まれる硬質の玉石や転石などが流れ込むことはない(図15参照)。
【0049】
一方、その仕切枠体31を構成している対向引抜き板31bの外表面は、上述したように当該仕切枠体31の内方領域に向かって円弧状に窪んだ形状をなしているが、図15に示されているように、当該対向引抜き板31bにおける円弧状の窪み部分に沿って、次の第2の削孔32が隣接して穿設される。この第2の削孔32は、第1の削孔30に対して側面部分が一部重複するように穿設されることとなる。
【0050】
この第2の削孔32も、上述した第1の削孔30と同様にして穿設され、当該第2の削孔32の穿設に用いた柱状ケーシング12の内部に、同様な中空状筐体からなる仕切枠体31が挿入される。そして、その仕切枠体31の外方領域及び内方領域の全体に適宜の砂類が充填された後に柱状ケーシング12が地層Tから引き抜かれる。この場合においても、中空状筐体からなる仕切枠体31の内方領域に、地層Tを構成する硬質の玉石や転石などが入り込むことはない。
【0051】
このように、第1の削孔30を穿設する工程と、その第1の削孔30内に仕切枠体31を挿入する工程と、仕切枠体31の外方領域であって第1の削孔30に対して側面部分が一部重複するように隣接する第2の削孔32を穿設する工程とを、所定の回数だけ繰り返すことによって、図16に示されているように、内方領域に仕切枠体31が複数並設された状態の連続ラップ孔40が形成される。この連続ラップ孔40の内方領域には、中空状筐体からなる仕切枠体31,・・・が複数並列した状態で挿入されて仕切られた状態となされているとともに、それらの各仕切枠体31の外方領域及び内方領域の全体に、後述する鋼矢板が容易に打ち込み可能な砂類が充填された状態となる。
【0052】
次いで、図17に示されているように、上述した各仕切枠体31を構成している対向基枠板31a,31aを残して、対向引抜き板31b,31bが上方に引き抜かれ、連続ラップ孔40が長尺状に連通された状態に形成される。それらの各対向引抜き板31bが引き抜かれるのは、連続ラップ孔40の内方領域に打ち込まれる鋼矢板と干渉する位置にあるからであり、その連続ラップ孔40の長手方向両端位置に配置されて鋼矢板と干渉することのない対向引抜き板31b,31bは、引き抜かれることなくそのまま残地される。
【0053】
なお、対向引抜き板31bが引き抜かれると、仕切枠体31の外方領域及び内方領域に充填されていた砂類が、連続ラップ孔40の内方領域の全体に充填された状態となるが、前述したように充填用の砂類として、例えばN値が10程度の土質を形成するものが採用されている。すなわち、このときの連続ラップ孔40の内方領域は、鋼矢板が容易に打設可能な軟質状態になされているとともに、打ち込まれた鋼矢板の表面に対する摩擦係数が大きくなされていることから、鋼矢板が自立可能な状態になされている。従って、当該連続ラップ孔40の内方領域に対して、図18に示されているように、鋼矢板41が容易かつ確実に打設されることとなる。
【0054】
すなわち、対向引抜き板31b,31bが抜き出されて対向基枠板31a,31aが残された状態で、仕切枠体31の対向基枠板31a,31aにより挟まれた連続ラップ孔40の内方領域に、複数体の鋼矢板41が連続した状態で打ち込まれる。
【0055】
その後、図19に示されているように、全ての仕切枠体31が引き抜かれ、それによって鋼矢板41の打設工程を終了する。そして、それら既設の鋼矢板41に連続するようにして同様な打設工程を繰り返し行うことにより、更に長尺状に鋼矢板41が打設されることとなる。
【0056】
このような構成を有する鋼矢板打設工法によれば、穿設された削孔30,32,・・・の内方領域が、仕切枠体31,31,・・・によって仕切られるため、その仕切枠体31の内方領域に硬質の玉石や転石などが侵入しない状態で連続ラップ孔40が形成されることとなり、連続ラップ孔40の内方領域に連続した鋼矢板41が容易に打ち込まれる。
【0057】
また、本実施形態にかかる鋼矢板打設装置においては、例えば第1の削孔30内に仕切枠体31が挿入された状態で、隣接する第2の削孔32が仕切枠体31と干渉することなく形成されるとともに、引抜き板31bに形成された円弧状の湾曲分だけ隣接する第2の削孔32を重複して形成することが可能となり、連続ラップ孔40の内方領域の空間が十分に確保される。
【0058】
以上、本発明者によってなされた発明の実施形態を具体的に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変形可能であるというのはいうまでもない。
【符号の説明】
【0059】
T 地層
11 装置固定枠体
12 柱状ケーシング
12a ケーシング側回転係合板
12b 回転係合溝(第2回転止め手段)
13 ケーシングシュー
13a 本体基部
13b 支持部
14 リングビット
14a 外周側ドリル片
14b ロック部
15 パイロットビット
15a 駆動軸部
15b ヘッド部
15c 中心側ドリル片
15d エアー通路
15e 排出溝
15f ロック部
16 ダウンザホールハンマ
17 オーガスクリュ
18 アースオーガ
18a 出力軸
18b 機器枠体
19 緩衝部材
20 回転止めキャップ(第1回転止め手段)
20a キャップ本体
20b キャップ側回転係合板
22 回転ローラ(第2回転止め手段)
22a 軸受け板
30 第1の削孔
31 仕切枠体
31a 対向基枠板
31b 対向引抜き板
31c 差込みピン
31d 軸受け部
32 第2の削孔
40 連続ラップ孔
41 鋼矢板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼矢板を打ち込むべき地層に、複数の削孔を一部重複するようにして位置をずらしながら連続的に穿設し、それら複数の削孔により形成された連続ラップ孔の内部に、複数の鋼矢板を連続させた状態で打ち込むようにした鋼矢板打設工法において、
第1の削孔を穿設する工程と、その第1の削孔内に中空筐体状をなす仕切枠体を挿入する工程と、前記仕切枠体の外方領域であって前記第1の削孔に対して側面部分が一部重複するように第2の削孔を穿設する工程と、を繰り返すことによって前記連続ラップ孔を形成し、
前記連続ラップ孔の内部に挿入された前記仕切枠体のうち、打ち込むべき鋼矢板と干渉する位置にある部分を抜き出し、その後に、
前記仕切枠体の内方領域に前記鋼矢板を連続させた状態で打ち込むことを特徴とする鋼矢板打設工法。
【請求項2】
請求項1記載の鋼矢板打設工法に用いられる前記仕切枠体を備えた矢板打ち込み装置において、
前記仕切枠体は、打ち込むべき鋼矢板と干渉しない位置に埋設される基枠板と、その基枠板に対して着脱可能に取り付けられて、打ち込むべき鋼矢板と干渉する位置に配置される引抜き板と、を有し、
前記引抜き板は、隣接する削孔の周壁面の外方側に沿って断面略円弧状に窪むように形成されていることを特徴とする鋼矢板打ち込み装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2013−108227(P2013−108227A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−251703(P2011−251703)
【出願日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【出願人】(599040115)青葉建機株式会社 (3)
【Fターム(参考)】