説明

鋼管の内面側全長マーキング装置

【課題】簡素な構成で鋼管内面全長に亘ってムラなく明確に線引きできるマーキング装置を提供する。
【解決手段】鋼管1の内径未満且つ該内径−1mm以上の外径を有する円筒体の一部を切り欠いてなる筒状体4に油性の太字乃至極太仕様のフェルトペン5を該ペン先端部が前記筒状体の外周面から外側へ2mm±1mmだけ突出するように保持させてなるマーカー治具2と、前記鋼管1の全長超の長さを有し、前記マーカー治具2の外面と前記鋼管1の内面との摺動下で前記マーカー治具2を牽引する牽引具(バー3)とを有する装置構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼管の内面側全長マーキング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、電縫鋼管を偏平加工して自動車ドア補強材とする旨記載されている。このような偏平加工の際には、最も曲げ加工が厳しい部分がシーム位置とならないように、加工機への管のセッティングが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平05−065597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような、被加工管のシーム位置と加工機内の特定位置との位置合わせを必要とする加工機の使用者側から、シームの識別が困難な場合があるので常に明確に識別できるようにされたい旨の要望があった。
発明者は前記要望に応える為に鋭意検討し、次の知見を得た。
(a)加工機に供される管(被加工管)には、鋼管を加工機に適応した長さに切断した管が使われ、その切断長さは加工機の機種により種々異なるから、長さ方向のどの位置で切断されてもよいように、鋼管全長に亘ってシーム部識別用のマーキング(線引き)をする必要がある。
(b)前記マーキングを鋼管外面に施すとハンドリングの間に鋼管外面が擦られてマーキングがぼやけて見え難くなる可能性が高いと予想されるので、マーキングは鋼管内面に施す必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明者は、上記知見を礎に更に検討を加えた結果、簡素な構成で鋼管内面全長に亘ってムラなく明確に線引きできるマーキング装置を創案し、本発明を成した。
即ち本発明は以下の通りである。
(1) 鋼管の内径未満且つ該内径−1mm以上の外径を有する円筒体の一部を切り欠いてなる筒状体に油性の太字乃至極太仕様のフェルトペンを該ペン先端部が前記筒状体の外周面から外側へ2mm±1mmだけ突出するように保持させてなるマーカー治具と、前記鋼管の全長超の長さを有し、前記マーカー治具の外面と前記鋼管の内面との摺動下で前記マーカー治具を牽引する牽引具とを有することを特徴とする鋼管の内面側全長マーキング装置。
(2) 前記牽引具がバー又は水糸であることを特徴とする(1)に記載の鋼管の内面側全長マーキング装置。
(3) 前記マーカー治具に内視鏡を保持させたことを特徴とする(1)又は(2)に記載の鋼管の内面側全長マーキング装置。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、鋼管内面全長に亘って円周方向の特定位置(例えば鋼管が電縫鋼管である場合、そのシーム位置)を明確に識別できるマーキングを施す事ができ、このマーキング付き鋼管のどの長さ部分から採取した被加工管でも、該被加工管の加工に用いる加工機内の特定位置と前記被加工管の円周方向の特定位置との位置合わせが難なくできるようになるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の実施形態の例(牽引具にバーを使用)を示す概略図である。
【図2】本発明の実施形態の例(牽引具に水糸を使用)を示す概略図である。
【図3】本発明の実施形態の例(内視鏡を保持)を示す概略図である。
【図4】本発明の実施形態の例(錘を使用)を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1は、本発明の実施形態の例を示す概略図であり、1は鋼管、2はマーカー治具、3はバー(牽引具)、4は筒状体、5はフェルトペン、6はペン保持部、7はペン収容枠、8はスペーサー、9は止めネジ、10は牽引具継手、11はペン先通し穴、12はペン取付け作業用穴である。フェルトペン5は油性の太字乃至極太仕様のものである。
マーカー治具2は、鋼管1の内径未満且つ該内径−1mm以上の外径(即ち、鋼管1の内径Dに対し、D未満(D-1mm)以上の外径)を有する円筒体の一部を切り欠いてなる筒状体4にフェルトペン5を該ペン先端部が前記筒状体4の外周面から外側へ、ペン突出量δ=2mm±1mmだけ突出するように保持させてなる。ペン先通し穴11とペン取付け作業用穴12は、筒状体4の円周上の対向箇所に設けてある。ペン保持部6は、ペン先通し穴11を囲むように鋼管1内面側に固定したペン収容枠7と、ペン突出量δ調整用のスペーサー8と、フェルトペン5固定用の止めネジ9とを有する。筒状体4にフェルトペン5を保持させる際には、鋼管1の外側に置いた筒状体4に対し、ペン取付け作業用穴12からペン収容枠7内にスペーサー8及びフェルトペン5をペン先がペン通し穴11から出る様に収容し、ペン突出量δを2mm±1mmに調整後、止めネジ9を締めてフェルトペン5を固定する。
【0009】
牽引具であるバー3は、鋼管1の全長超の長さを有し、筒状体4の長さ方向の一端部内で円周方向位置がペン先通し穴11と同じ側となる箇所を基部として筒状体4内面側に固定された牽引具継手10と連結されて、マーカー治具2の外面と鋼管1の内面との摺動下で、マーカー治具2を牽引する。この牽引は、マーカー治具2を鋼管1内にセットし、鋼管1内面側からのバー3のはみ出し部分を手繰り寄せることにより行われる。尚、バー3の手繰り寄せ時にバー3が撓もうとするのを防止する為に、鋼管1の外側でバー3を直線姿勢となるように支持するバー支持手段(図示省略)を設ける事が好ましい。
【0010】
円筒体の外径(=筒状体4の外径)を鋼管1の内径Dに対し、D未満(D-1mm)以上の範囲としたのは、筒状体4と鋼管1内面との隙間を0超1mm以下とする為であり、これにより、鋼管1内で摺動中のマーカー治具2が揺動しようとするのを充分に抑制することができ、直線引きのマーキングが可能となる。
尚、前記摺動中のマーカー治具2の安定性を充分に確保する為に、筒状体2の長さは350mm以上とし、ペン通し穴12は筒状体4の長さ方向中央部に設ける事が好ましい。但し、筒状体4の長さは、あまり長すぎると作業性を損なう為、350mm以上700mm以下とする事がより好ましい。又、前記安定性をより一層向上させ、且つ前記摺動によって鋼管1の内面に擦り疵が付くのを防止する観点から、筒状体4の外面の少なくとも一部にテーピング(図示省略)を施す事が好ましい。このテーピングの厚みを調整する事で鋼管1の内面とマーカー治具2との間の隙間を埋めてマーカー治具2の揺動をより一段と抑制する事ができる。
【0011】
又、必要に応じて例えば図4に示す様に筒状体4内に錘20を入れる等して、鋼管1底部内面との接触側を他の側に比して重くする事により、マーカー治具2の摺動時の安定性をより一段と向上させる事ができる。
フェルトペン5を油性の太字乃至極太仕様としたのは、油性でなく水性である場合、水性は油性よりも速乾性に劣る為マーカー治具2の摺動の間に筒状体4の外面で描線が擦られて消失し或いはかすれて見え難くなるからであり、又、鋼管内面の描線は、線幅が5mm程度以上でないと判別し難く、太字より細い仕様(中字、細字、極細等)であると線幅5mm程度以上が得られないからである。尚、フェルトペン5のペン色は黒で十分である。
【0012】
フェルトペン5のペン突出量δを2mm±1mmの規定範囲内としたのは、この規定範囲を下に外れると描線がかすれ易く、一方、この規定範囲を上に外れると描線の線幅が長さ方向で一定となり難い為である。ペン突出量δ=2mm±1mmであればマーカー治具2の摺動下でフェルトペン5のペン先が鋼管2の内面によって適度に圧迫されて、鮮明で且つ線幅が長さ方向で略一定の描線が得られる。
【0013】
図1の装置を用いた電縫鋼管シーム部内面へのマーキング方法は次の通りである。
(手順1)バー3を鋼管1の管内全長に通す。
(手順2)フェルトペン5をペン保持部6に装入し、スペーサー8にてペン突出量δ調整後、止めネジ9で固定する。
(手順3)マーカー治具2をペン先がシーム部と対向するよう配位し、バー3を牽引具継手10と連結する。
(手順4)鋼管1の一端側から管内面側にマーカー治具2を挿入し、バー3を手繰り寄せてマーカー治具2を管内面との摺動下で移動させ、鋼管1の他端側から取出す。
次に、図2に示す例は、図1の例において、牽引具をバー3に代えて水糸3Aとした例である。水糸3Aは縺れ難いので扱い易い。但し、水糸は曲がり易くて単独では管内全長(約6m以上)に通し難い。そこで、ワイヤ13に結び付け、ワイヤ13の先導により水糸3Aを管内全長に通す事とした。
【0014】
図2の装置を用いた電縫鋼管シーム部内面へのマーキング方法は次の通りである。
(手順1)ワイヤ13で先導して水糸3Aを鋼管1の管内全長に通す。
(手順2)フェルトペン5をペン保持部6に装入し、スペーサー8にてペン突出量δ調整後、止めネジ9で固定する。
(手順3)マーカー治具2をペン先がシーム部と対向するよう配位し、水糸3Aを牽引具継手10と連結する。
(手順4)鋼管1の一端側から管内面側にマーカー治具2を挿入し、水糸3Aを手繰り寄せてマーカー治具2を管内面との摺動下で移動させ、鋼管1の他端側から取出す。
【0015】
次に、図3に示す例は、図2の例において、マーカー治具2に内視鏡14を保持させた例である。内視鏡14はマーカー治具2の一端部に設けた内視鏡ホルダ15で、視野に描線が入る様に支持した。これによれば、描線の描かれ具合を観察しながら作業する事ができる。
【符号の説明】
【0016】
1 鋼管
2 マーカー治具
3 バー(牽引具)
3A 水糸(牽引具)
4 筒状体
5 フェルトペン(油性の太字乃至極太仕様)
6 ペン保持部
7 ペン収容枠
8 スペーサー
9 止めネジ
10 牽引具継手
11 ペン先通し穴
12 ペン取付け作業用穴
13 ワイヤ
14 内視鏡
15 内視鏡ホルダ
20 錘

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼管の内径未満且つ該内径−1mm以上の外径を有する円筒体の一部を切り欠いてなる筒状体に油性の太字乃至極太仕様のフェルトペンを該ペン先端部が前記筒状体の外周面から外側へ2mm±1mmだけ突出するように保持させてなるマーカー治具と、前記鋼管の全長超の長さを有し、前記マーカー治具の外面と前記鋼管の内面との摺動下で前記マーカー治具を牽引する牽引具とを有することを特徴とする鋼管の内面側全長マーキング装置。
【請求項2】
前記牽引具がバー又は水糸であることを特徴とする請求項1に記載の鋼管の内面側全長マーキング装置。
【請求項3】
前記マーカー治具に内視鏡を保持させたことを特徴とする請求項1又は2に記載の鋼管の内面側全長マーキング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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