鋼管の局部座屈性能評価方法、鋼管の材質設計方法、鋼管

【課題】 降伏棚モデルの鋼管を例えばパイプラインのような局部座屈性能に優れることが要求される用途に適用できるかどうかを判定する鋼管の局部座屈性能評価方法を提供する。
【解決手段】 管径D、管厚tおよび要求局部座屈歪εreqが与えられた鋼管の局部座屈特性評価方法であって、応力歪特性上に降伏棚を有する材料の応力歪特性を取得し、取得された応力歪特性における応力歪曲線の降伏歪εy、歪硬化係数m、歪硬化開始歪εHが、縦軸をεy/m、横軸をεHとした座標面において、一定の領域内にあるかどうかを判断し、当該領域内にある場合には当該鋼管を塑性設計を前提とされる構造物に適用可能性ありと評価し、当該領域内にない場合には当該鋼管を塑性設計を前提とされる構造物に適用可能性なしと評価する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス・石油パイプライン等に用いる鋼管の局部座屈性能評価方法、鋼管の材質設計方法、鋼管に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスパイプライン、石油パイプラインはエネルギー供給の根幹として建設が進められてきている。近年では、特に天然ガス需要の増大を背景とし、消費地から遠く離れた地にガス田が開発されることが多い。このため、近年の新しいパイプラインは長距離化の傾向を呈し、大量輸送のために大径化、高圧化の傾向が強まってきている。
このような新しいパイプラインでは、高強度鋼管を適用して大口径でも薄い管厚で高い内圧に耐えられることが要求されるようになってきている。管厚を薄くすることによって、現地における溶接費やパイプの輸送費が低減されパイプラインの建設および操業のトータルコストの低減が図られるからである。
【0003】
ところで、鋼管は引張荷重に対しては材料の延性を十分に活かせるが、圧縮負荷に対しては断面形状が薄肉円筒であるため座屈が発生する。そして、一様伸びが10%前後であるのに対し、圧縮負荷による座屈歪は1〜2%程度であり、パイプラインの塑性設計では、圧縮局部座屈歪が支配因子となる可能性が高い。特に管厚の薄い鋼管では圧縮局部座屈歪が小さくなる傾向があり、圧縮局部座屈歪を大きくすることが重要となる。
【0004】
そこで、圧縮局部座屈歪を大きくして座屈性能を高めるために以下のような提案がなされている。
すなわち、試験片長手方向を鋼管の軸方向に一致させて採取した引張試験片を用いて引張試験を行い、得られた公称応力−公称歪曲線において、降伏点からオンロード歪量が5%までのいずれの歪量においても、公称応力/公称歪の勾配が正となる鋼管は、勾配が0または負となる鋼管に比較して局部座屈を起こす限界の外径/管厚比が著しく大きく、局部座屈を起こしにくいとの知見から、軸方向の引張試験により得られる公称応力−公称歪曲線において、降伏点からオンロード歪が5%までのいずれの歪においても公称応力/公称歪の勾配が正となるような鋼管とする(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平9−196243号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に示されるように、従来、鋼管の圧縮局部座屈歪を大きくするには鋼材の応力歪曲線がいわゆる連続硬化型(詳細は後述)であることが要求されていた。
近年においては、このような考え方がパイプライン業界では一般的であり、逆に連続硬化型でない降伏棚のあるものでは大きな圧縮局部座屈歪が得られないとして、そのような材料はパイプライン用の鋼管には不向きであると認識されていた。
【0006】
ここで、連続硬化型応力歪曲線とは、材料の引張試験によって得られる応力歪曲線において弾性域を超えた後に降伏棚が生じることなく、歪の増加に伴って応力が増加して滑らかな曲線となるものである(図1参照)。
また、降伏棚型応力歪曲線とは、材料の引張試験によって得られる応力歪曲線において線形域の後に降伏棚を生ずるものをいう(図1参照)。なお、降伏棚型応力歪曲線における直線で示される弾性域を線形域、応力が増加することなく歪が増加する領域を降伏棚域、降伏棚終点後の滑らかな曲線領域を歪硬化域、歪硬化域が開始する歪を歪硬化開始歪という(図2参照)。
なお、図2から分かるように、歪硬化開始歪は降伏棚終点歪に一致する。したがって、本明細書において降伏棚に着目したときには降伏棚終点歪と言い、歪硬化域に着目したときには歪硬化開始歪と言うことがあるが、これらは同一の値である。
【0007】
上記のように降伏棚型の応力歪曲線を有する鋼管(降伏棚モデルの鋼管)の圧縮局部座屈歪は、連続硬化型の応力歪曲線を有する鋼管(連続硬化モデルの鋼管)よりも小さいというのが一般的な認識である。このため、パイプラインの建設のように座屈性能が高い鋼管を得ようとする場合、降伏棚モデルの鋼管は、工学的な判断に基づいて自動的に排除されているのが現状である。
なお、連続硬化モデルの鋼管は、鋼管の化学成分や造管前の鋼板の圧延条件を制御し、あるいは造管中や造管後の鋼管に熱処理や加工処理を施すことによって得られる。
【0008】
しかしながら、鋼管の製造途中においては、連続硬化型を維持していたとしても、例えば防食のためのコーティング処理のように熱処理を加えることによって、材質が変化してしまい連続硬化型を維持できなくなってしまう場合もある。
このような場合には、降伏棚モデルとなってしまい、従来の考えであれば、このような鋼管は局部座屈性能が低いとして例えばパイプライン用の鋼管としては不向きであると判断されることになる。
しかしながら、このようなものを一律排除するのは現実的でない。かといって、従来では降伏棚モデルを一律に排除する考え方しかなかったために、どのようなものであればパイプライン用に使用できるかを判定することができなかったのである。
【0009】
本発明は係る課題を解決するためになされたものであり、降伏棚モデルのものを例えばパイプラインのような局部座屈性能に優れることが要求される用途に適用できるかどうかを判定する鋼管の局部座屈性能評価方法を提供することを目的としている。
また、上記鋼管の局部座屈性能評価方法の技術思想を用いて鋼管の材質設計をする方法を提供することを目的としている。
さらに、前記鋼管の材質設計方法によって得られる鋼管を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前述のように、降伏棚モデルの鋼管の場合、鋼管の座屈性能は低く、該鋼管は大きな変形性能が要求されるパイプラインへの適用は不適当であると考えられてきた。
つまり、従来の鋼管の評価方法を図示すると、図3(a)に示すように、連続硬化モデルかどうかのみを判定基準として、連続硬化モデルの場合にはパイプライン等への適用の可能性ありと評価し、連続硬化モデルでない、すなわち降伏棚モデルの場合にはパイプライン等への適用の可能性なしと評価していたのである。
しかしながら、このような考えに固執すると、本来的には連続硬化モデルモデルであったものが塗覆装のための熱処理などにより、降伏棚モデルへと変化したような場合には、もはやパイプラインには使用できないことになってしまう。
【0011】
そこで、発明者は従来の連続硬化モデルか降伏棚モデルかという2者択一で鋼管の局部座屈性能を峻別することに疑問を感じ、図3(b)に示すように、降伏棚モデルであっても所定の判定基準を満たす場合には連続硬化モデルと同様の局部座屈性能を発揮し、パイプライン等への適用の可能性があるものがあるのではないかとの着想のもとに、降伏棚モデルのうちどのような基準を満たすものであれば連続硬化モデルと同等の局部座屈性能を発揮できる可能性があるのかの検討を重ね、その判定方法を見出し、本発明を完成したものである。
【0012】
発明者はまず、降伏棚モデルの場合には何ゆえに局部座屈性能が低いのかを検討した。
パイプラインにおいて最も考慮すべき点は曲げ変形に対する変形性能である。しかし、曲げ変形に対する変形性能を示す曲げ座屈歪に関する理論式は存在しない。そこで、発明者は圧縮力を受ける鋼管の圧縮力に対する変形性能を示す圧縮局部座屈歪を表す基礎式である下記(1)式に着目した。
【0013】
【数1】
【0014】
(1)式において、εcrは圧縮局部座屈歪、νはポアソン比、tは管厚、Dは管径をそれぞれ示している。また、Escrは、降伏棚モデルの応力歪曲線を示した図4において、原点と座屈点とを結ぶ線の傾き(以下、「割線係数」という)を示し、ETcrは座屈点における応力歪曲線の傾き(以下、「接線係数」という)を示している。また、図中εHは歪硬化開始点における歪を表す。但し、図4において、歪硬化域における応力歪曲線は、任意の関係を表現するために曲線で描いている。
(1)式において、塑性変形する場合のポアソン比νとして0.5を代入して整理すると下記(2)式となる。
【数2】
【0015】
鋼管の圧縮局部座屈歪εcrと管径管厚比(D/t)の関係が前述の(2)式に示されている。そこで、横軸に管径管厚比(D/t)を取り、縦軸に圧縮局部座屈歪εcrを取って(2)をグラフ表示すると図5のようになる。
図5から分かるように、鋼管のD/tが小さい(厚肉鋼管)場合には圧縮局部座屈歪εcrは大きく、鋼管のD/tの増加、すなわち鋼管の薄肉化と共に圧縮局部座屈歪εcrが減少する。そして、圧縮局部座屈歪εcrが歪硬化開始歪εHと一致したところで圧縮局部座屈歪εcrは急激に減少し、以降の圧縮局部座屈歪εcrは降伏歪εyとほぼ同じ歪となる。
【0016】
図5から降伏棚モデルの鋼管の座屈性能が低い理由として、圧縮局部座屈歪εcrが歪硬化開始歪εHと一致したところで圧縮局部座屈歪は急激に減少してしまうことが上げられる。これは、降伏棚領域では、応力が増加しない状態で変形が進行するため、降伏棚領域で座屈する鋼管は降伏歪の直後に座屈波形が成長し、圧縮局部座屈歪は近似的には降伏歪となってしまうからである。
【0017】
以上検討したように、降伏棚モデルの鋼管の変形性能が低い理由として降伏棚領域で座屈する鋼管の圧縮局部座屈歪は近似的には降伏歪となってしまうことが挙げられる。このことから、降伏棚モデルの鋼管はその応力歪曲線における歪硬化開始歪εHの値、換言すれば降伏棚の長さが鋼管の変形性能に関連していると考えられる。
すなわち、歪硬化開始歪εHの値が小さい、すなわち降伏棚の長さが短い鋼管は、歪硬化開始歪εHの値が大きい、すなわち降伏棚の長さが長いものよりも変形性能に優れると考えられる。
したがって、降伏棚モデルの鋼管の変形性能を評価するのに歪硬化開始歪εHの値を指標とすることが有効である。
【0018】
発明者は降伏棚長さの他に変形性能を評価する指標についてさらに検討を重ねた。
そして、発明者は(2)式によれば、ETcr/Escrが大きくなることで圧縮局部座屈歪εcrが大きくなることに着目した。図4からわかるように、ETcrは応力歪曲線における傾きであることから、降伏棚終点近傍において応力歪曲線の傾きが大きいことが圧縮局部座屈歪εcrを大きくすることになっているとの知見を得た。
このことから、降伏棚モデルの鋼管の変形性能を評価するのに応力歪曲線の傾きを指標とすることが有効であることを見出した。
【0019】
以上のように応力歪曲線の形状に着目することで、変形性能を評価することが可能となる。ここで着目する応力歪曲線の形状とは、降伏棚の長さと、歪硬化域の接線勾配の大きさである。
【0020】
以上が応力歪曲線の形状によって鋼管の変形性能を評価できることの(2)式に基づく図式的な説明である。
発明者はこのことを数式を用いて定量的な評価方法を案出すべく、上記の基礎式を変形して降伏棚モデルの圧縮座屈歪を表す数式を案出し、さらに検討を進めた。
以下、この点につき詳細に説明する。
【0021】
図4に示す応力歪曲線の歪硬化域における応力と歪の関係を、傾きがmEの直線で表すと図6のようになり、歪硬化域における応力と歪の関係、接線係数ETおよび割線係数ESは次式のように表される。
【数3】
【0022】
(6)式の歪を圧縮局部座屈歪εcrで表して(2)式に代入すると次式が得られる。
【数4】
【0023】
(7)式を圧縮局部座屈歪εcrについて解くと、歪硬化領域における鋼管の圧縮局部座屈歪は(8)式のように表される。
【数5】
さらに、(8)式を下記(9)式のように変形し、(9)式の右辺第二項を一次近似すると、局部座屈歪εcrは(10)式のように表される。
【0024】
【数6】
【0025】
上記より降伏棚モデルの鋼管の圧縮局部座屈歪εcrは下記の数式(11)で表すことができる。
【数7】
【0026】
上記のように、降伏棚モデルの鋼管の圧縮局部座屈歪εcrを数式(11)に示すように、応力歪曲線の傾きを表す歪硬化係数mと、降伏棚の長さの指標となる歪硬化開始歪εHで表現できたので、以下においては、この数式(11)を用いて鋼管の局部座屈特性を評価する方法を具体的に説明する。
【0027】
なお、降伏棚モデルの圧縮局部座屈歪を推定する(11)式の適用範囲は、圧縮局部座屈歪と歪硬化開始歪を等値することによって、管径管厚比D/tについて次式のように表すことができる。すなわち、降伏棚型モデルの応力歪曲線の特性が与えられた場合、適用可能な鋼管の最大管径管厚比(D/t)maxは(12)式で表される。したがって、(D/t)maxよりも大きいD/tを有する鋼管については、局部座屈歪推定式である(11)式を適用できないことになる。
【数8】
【0028】
管径D、管厚t、要求局部座屈歪εreqが与えられたときに降伏棚モデルの材料を用いて鋼管を製造したときに当該鋼管が前記要求局部座屈歪εreqを満たしてパイプライン用の鋼管として適用できるためには、以下の要件を満たす必要がある。
(1)鋼管の圧縮局部座屈歪εcrが要求局部座屈歪εreqよりも大きいこと
(2)鋼管の局部座屈が降伏棚領域で生じないこと、換言すれば鋼管の局部座屈が歪硬化領域で生ずること
(3)歪硬化開始歪が降伏歪よりも大きいこと
つまり、上記の(1)〜(3)のすべての条件を満たす場合には当該鋼管はパイプライン用鋼管として適用可能と評価でき、上記の(1)〜(3)のいずれかの条件を満たさない場合には、該鋼管はパイプライン用鋼管として適用できないと評価できる。
【0029】
図7は上記の3つの条件を、縦軸がεy横軸がεHからなる座標面に領域とし表示したものである。
以下においては、上記の3つの条件についてそれが必要とされる理由を説明すると共に、その条件を図で示した図7について説明する。
【0030】
(1)鋼管の圧縮局部座屈歪εcrが要求局部座屈歪εreqよりも大きい条件
実際のパイプライン用の鋼管の設計においては、局部座屈歪の要求値(要求局部座屈歪εreq)が与えられる。
したがって、当該鋼管をパイプライン用の鋼管として用いることができるためには、当該鋼管の圧縮局部座屈歪εcrが要求局部座屈歪値εreqよりも大きいことが必要条件となる。つまり、当該鋼管をパイプライン用の鋼管として用いることができるかどうかを評価するには、当該鋼管の圧縮局部座屈歪εcrが要求局部座屈歪εreqの値よりも大きいかどうかを判定することが必要となる。
鋼管の圧縮局部座屈歪εcrが要求局部座屈歪εreqの値よりも大きいことを数式(11)を用いて表現すると、下式(13)のようになる。
【数9】
【0031】
(13)式をεy/mについて整理すると下記の(14)式が得られ、(13)式の不等号を満足するεy/mおよびεHは図7の直線(a)以下の領域となる。また、直線(a)は(14)式の不等号を等号で置き換えた(15)式で表される。直線(a)の上におけるεy/mとεHの組み合わせは、εcrとεreqが等しくなることを表している。
【0032】
【数10】
【0033】
また、安全側に考えれば、εcrはεreqよりも大きいことが要求されるから、選択されるεy/mとεHは、直線(a)と平行で下方に位置する直線上の値となる。換言すれば、直線(a)と平行で下方に位置する直線上のεy/mとεHの組み合わせを選択すると、εcrはεreqよりも大きくなる。
もっとも、εreqはεcrの最大値(最大圧縮局部座屈歪εcrmax)を超えることはできない。したがって、直線(a)と平行で下方にも限界値が存在するが、この限界値については後述する。
【0034】
(2)鋼管の局部座屈が降伏棚領域で生じないこと、換言すれば鋼管の局部座屈が歪硬化領域で生ずるための条件
鋼管が歪硬化領域で局部座屈するためには、圧縮局部座屈歪εcrが歪硬化開始歪εH以上であることが必要条件となる。この条件は、(13)式の左辺の歪硬化開始歪εreqを歪硬化開始歪εHで置き換えることによって下記の(16)式のように表すことができる。
【0035】
【数11】
【0036】
(16)式をεy/mについて整理すると下記の(17)式が得られ、(17)式の不等号を満足するεy/mおよびεHの値は図7の曲線(b)以下の領域となる。また、図7の曲線(b)は(17)式の不等号を等号で置き換えた(18)式で表される。直線(b)の上におけるεy/mとεHは、鋼管に付与できる圧縮局部座屈歪εcrと歪硬化開始歪εreqが等しくなることを表している。
【0037】
【数12】
【0038】
また、直線(a)と曲線(b)の交点Aの横軸の座標(εH)Aは、与えられた要求局部座屈歪εreqであり、縦軸の座標(εy/m)Aは上記(18)式に与えられた要求局部座屈歪εreqを代入することで下記の(19)式で示すように表される。
【数13】
【0039】
(17)式およびこれを線図で示した図7の曲線(b)からすると、歪硬化開始歪εHはどこまでも大きくなることが許容されているようにも思える。しかしながら、歪硬化開始歪εHは降伏棚の長さを規定するものであり、当然にその最大値が存在する。そこで、この最大値について検討する。
【0040】
(17)式を歪硬化開始歪εHについて整理するとεHの二次方程式である下記の(20)式が得られる。
【数14】
【0041】
(20)式の二次方程式が実根を持つためには、(21)式に示すように判別式が正である必要がある。このことから、εy/mとt/Dの関係が(22)式のように表される。(22)式が曲線(b)の定義域を縦軸について示しており、曲線(b)の縦軸に関する最小値は(23)式となる。(23)式が曲線(b)のB点の縦軸の座標である。
【数15】
【0042】
(22)式の関係が成立する場合、(20)式を満足する解の範囲は(24)式および(25)式で表される。
【数16】
【0043】
(24)式はεHが有限の値であることを表しているが、(25)式はεHが無限大となることを許容している。εHは有限の値であることから、(20)式の解として(24)式が採用され、(25)式は却下される。また、(23)式で与えられるεy/mの最小値を(24)式に代入すると、曲線(b)におけるB点の横軸の座標が(26)式のように求められる。
【数17】
【0044】
式(26)で表されるB点の横軸の座標(εH)Bは最大圧縮局部座屈歪εcrmaxを示している。したがって、前述したように直線(a)を下方に平行移動したときに、下方に平行移動できる限界値は下方に平行移動した直線がB点を通るときである。そこで、以下ではこの直線を直線(c)として、直線(c)表す式を求める。
仮にこの直線(c)を下記の式(27)のように表現する。
【数18】
【0045】
直線(c)がB点を通ることから、B点の座標を(27)式に代入することによって(27)式は(28)式のように表される。
【数19】
【0046】
(3)歪硬化開始歪が降伏歪よりも大きいこと
歪硬化開始歪が降伏歪よりも大きい条件は次式(29)で与えられる。
【数20】
【0047】
図7の直線(d)はεH=εyを表しており、歪硬化開始歪εHが降伏歪εyよりも大きいことが必要条件であるから、解の領域は直線(d)の右側となる。
【0048】
以上のように、図7に示したように解領域が求まった。したがって、管径Dと管厚tが既知の鋼管が要求局部座屈歪εreqよりも大きい圧縮局部座屈歪εcrを与えるかどうかを評価するには、応力歪曲線の降伏歪εy、歪硬化係数m、歪硬化開始歪εHが、直線(a)、(c)、(d)、曲線(b)で囲まれた領域内にあるかどうかを判断すればよいことになる。
この関係を式で表すと、下記の2式となる。
【0049】
【数21】
【0050】
なお、上記の説明では鋼管の材料における降伏歪εy、歪硬化係数m、歪硬化開始歪εHを取得して、これらが縦軸をεy/m、横軸をεHとした座標面において上記式(30)(31)で規定される特定の領域内にあるかどうかによって当該材料で鋼管を製造したときの局部座屈特性の評価方法について述べた。
しかし、ここで示した考え方は局部座屈特性の評価方法のみならず、管径D、管厚tおよび要求局部座屈歪εreqが与えられた鋼管の材質設計方法にも適用できる。つまり、管径D、管厚tおよび要求局部座屈歪εreqが与えられた鋼管の材質設計に際して、降伏歪εy、歪硬化係数m、歪硬化開始歪εHが、縦軸をεy/m、横軸をεHとした座標面において、前述の特定領域内にあるように降伏歪εy、歪硬化係数m、歪硬化開始歪εHを決定するようにすればよい。
【0051】
本発明は以上の検討を前提になされたものであり、具体的には以下の構成を有するものである。
【0052】
(1)本発明に係る鋼管の局部座屈特性評価方法は、管径D、管厚tおよび要求局部座屈歪εreqが与えられた鋼管の局部座屈特性評価方法であって、応力歪特性上に降伏棚を有する材料の応力歪特性を取得し、取得された応力歪特性における応力歪曲線の降伏歪εy、歪硬化係数m、歪硬化開始歪εHが、縦軸をεy/m、横軸をεHとした座標面において、下式で示される領域内にあるかどうかを判断し、当該領域内にある場合には当該鋼管を塑性設計を前提とされる構造物に適用可能性ありと評価し、当該領域内にない場合には当該鋼管を塑性設計を前提とされる構造物に適用可能性なしと評価することを特徴とするものである。
【数22】
【0053】
(2)また、本発明に係る鋼管の材質設計方法は、管径D、管厚tおよび要求局部座屈歪εreqが与えられた鋼管の材質設計方法であって、応力歪特性上に降伏棚を有する材料の応力歪特性を決定するに際し、設計対象の材料の応力歪曲線の降伏歪εy、歪硬化係数m、歪硬化開始歪εHが、縦軸をεy/m、横軸をεHとした座標面において、下式で示される領域内にあるように降伏歪εy、歪硬化係数m、歪硬化開始歪εHこれらの応力歪特性を決定することを特徴とするものである。
【数23】
【0054】
(3)また、本発明に係る鋼管は、上記(2)の鋼管の材質設計方法によって材質設計されたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0055】
本発明の鋼管の局部座屈特性評価方法によれば、鋼管の局部座屈性能の優劣を簡易に判定できるので、当該鋼管の用途の判別が簡易にできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0056】
[実施の形態1]
本実施の形態においては、表1に示す応力歪特性を有する9種類の材料を用いて外径D=762.0mm、管厚t=15.24mm (D/t=50)の鋼管を製造したときに、当該鋼管が局部座屈歪の要求値εreq=0.5%とされるX80グレードのラインパイプ用の鋼管として適用できるかどうかの評価を本発明に基づいて行った。そして、その評価が妥当かどうかをFEM解析によって検証した。
【0057】
【表1】
【0058】
表1にはX80グレードのラインパイプに関する9種類の材料の応力歪特性を示しており、各材料の降伏歪εyは0.0029(0.29%)、歪硬化開始歪εHは0.003(0.3%)、0.005(0.5%)、0.010(1.0%)である。また、歪硬化係数mEの係数はm=0.015、0.020、0.025とした。表1の(D/t)maxは、これらの値を(12)式に代入して求めた値である。また、P-1〜P-9に対応する応力歪曲線を図8、図9、図10に示す。
【0059】
降伏棚モデルの局部座屈特性評価方法を示す下式に、D=762.0mm、t=15.24mm、εy=0.29%、εreq=0.5%を代入し、縦軸をεy/m、横軸をεHとした座標面において、下式の示す領域を示した図11を示す。
【0060】
【数24】
【0061】
図11には表1に示した9種類の各材料について座標点(εy/m, εH)をプロットしてある。また、図11において、上式の領域内にあるものは白丸で示し、領域外のものは黒丸で示してある。
図11から分かるように、解領域の中にプロットされているのはP-2、P-3、P-5およびP-6である。このことから、P-2、P-3、P-5およびP-6が合格と評価され、これら4ケースの材質設計条件で鋼管を製造することができれば、鋼管の圧縮局部座屈歪εcrは要求局部座屈歪εreqを満足するものとされる。
【0062】
次に、上記の評価が正しいかどうかをFEM解析によって検証した。
FEMで圧縮座屈解析を行なう鋼管の外径をD=762.0mm、管厚をt=15.24mm (D/t=50)と設定して解析を実施する。圧縮座屈解析の結果を表2に示す。
【0063】
【表2】
【0064】
表2には図11の領域による判定結果を併せて記載している。
表2に示すように、P-2、P-3、P-5、P-6の4ケースについてのFEMによるこれら4つの解析モデルの圧縮局部座屈歪εcrは、それぞれ0.58%、0.82%、0.51%および0.85%である。
このように、P-2、P-3、P-5、P-6の4ケースについてはそれぞれの座屈歪が要求局部座屈歪(0.5%)よりも大きい値である。
そして、表2から明らかなように、図11の領域によってP-2、P-3、P-5、P-6の4ケースを合格と判定した結果と一致している。
したがって、本発明によって評価することがFEM解析結果と一致しており、本発明が実効性があることが検証された。
【0065】
[実施の形態2]
本実施の形態においては、表3に示す応力歪特性を有する10種類の材料を用いて外径D=762.0mm、管厚t=15.6mm (D/t=48.8)の鋼管を製造したときに、当該鋼管が局部座屈歪の要求値εreq=0.5%とされるX80グレードのラインパイプ用の鋼管として適用できるかどうかの評価を本発明に基づいて行った。
また、表3に示す同様の材料を用いて、外径D=914.4mm、管厚t=15.2mmの鋼管を製造したときに、当該鋼管が局部座屈歪の要求値εreq=0.4%とされるX80グレードのラインパイプ用の鋼管として適用できるかどうかについての評価を行った。
そして、何れのケースについてもその評価が妥当かどうかをFEM解析によって検証した。
【0066】
【表3】
【0067】
表3に示すように、応力歪曲線の降伏歪εyは0.17〜0.31%であり、歪硬化開始歪εHは0.17〜2.0%である。また、歪硬化係数mEの係数は0.006〜0.025である。また、表中の(D/t)maxはこれらの値を(12)式に代入して求めた値である。
【0068】
図12は、降伏棚モデルの局部座屈特性評価方法を示す前述の式(30)(31)に、D=762.0mm、t=15.6mm、εreq=0.5%および表3に示したεyを代入し、縦軸をεy/m、横軸をεHとした座標面において、上記3式の示す領域を示したものである。図12には表3に示した10種類の各材料について座標点(εy/m, εH)をプロットしてある。
図12を見ると、Q-1、Q-2およびQ-3が解領域(合格の範囲)にプロットされており、Q-4〜Q-10は解領域の外側(不合格の範囲)にプロットされている。
【0069】
図13は、降伏棚モデルの局部座屈特性評価方法を示す前述の式(30)(31)に、D=914.4mm、t=15.2mm、εreq=0.4%および表3に示したεyを代入し、縦軸をεy/m、横軸をεHとした座標面において、上記3式の示す領域を示したものである。図13には表3に示した10種類の各材料について座標点(εy/m, εH)をプロットしてある。
図13見ると、D=762.0mmの鋼管と同様に、Q-1、Q-2およびQ-3が解領域(合格の範囲)にプロットされており、Q-4〜Q-10は解領域の外側(不合格の範囲)にプロットされている。
【0070】
次に、上記の評価が正しいかどうかをFEM解析によって検証した。
D=762.0mmの鋼管とD=914.4mmの鋼管について、FEM解析で求めた圧縮局部座屈歪を表4に示す。D=762.0mmの鋼管の圧縮局部座屈歪は0.28〜0.63%で、D=914.4mmの鋼管では0.28〜0.50%である。
【表4】
【0071】
図12、図13のダイアグラムによる判定結果をFEMの解と比較して照査した結果をそれぞれ、表5、表6に示す。表5、表6に示す圧縮局部座屈歪は、表4の値を転記したものである。
【0072】
【表5】
【0073】
【表6】
【0074】
表5を見れば、D=762.0mmの鋼管の要求座屈歪を0.5%と設定した場合、Q-1〜Q-3が合格し、その他の材料特性は不合格となることが分かる。
また、表6を見れば、D=914.4mmの鋼管の要求座屈歪を0.4%と設定した場合、Q-1〜Q-3が合格し、その他の材料特性は不合格となることが分かる。
いずれの場合についても、図12、図13のダイアグラムによる判定結果とFEMの結果が一致しており、本発明が実効性があることが検証された。
【0075】
なお、上記の説明では鋼管材料における降伏歪εy、歪硬化係数m、歪硬化開始歪εHを取得して、これらが縦軸をεy/m、横軸をεHとした座標面において上記式(30)(31)で規定される特定の領域内にあるかどうかによって当該材料で鋼管を製造したときの局部座屈特性評価方法の具体例について述べた。
しかし、ここで示した考え方は局部座屈特性の評価方法のみならず、管径D、管厚tおよび要求局部座屈歪εreqが与えられた鋼管の材質設計方法にも適用できる。つまり、管径D、管厚tおよび要求局部座屈歪εreqが与えられた鋼管の材質設計に際して、降伏歪εy、歪硬化係数m、歪硬化開始歪εHが、縦軸をεy/m、横軸をεHとした座標面において、前述の特定領域内にあるように降伏歪εy、歪硬化係数m、歪硬化開始歪εHを決定するようにすればよい。
【0076】
具体的には、D=762.0mm、t=15.24mm、εreq=0.5%という要件を満たす鋼管の材質設計を行う場合には、前述の式(30)(31)にこれらの値を代入し、縦軸をεy/m、横軸をεHとした座標面において、式(30)(31)の示す領域を図11のように描く。そして、図11で示される解領域内になるように降伏歪εy、歪硬化係数m、歪硬化開始歪εHを決定する。このような、歪硬化係数m、歪硬化開始歪εHを有する材料であれば、D=762.0mm、t=15.24mm、εreq=0.5%という要件を満たす。このようにすれば、鋼管の材料の満たすべき材質つまり、応力歪特性を簡易に決定できるので、効率的な設計が可能となる。
【0077】
なお、上記の説明にでは圧縮局部座屈歪について説明したが、圧縮局部座屈歪と曲げ局部座屈歪とは約1対2という定量的な関係があるので、このような定量的な関係を用いれば本願の考え方は曲げ局部座屈歪にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】鋼材の応力歪曲線の説明図である。
【図2】降伏棚型の鋼材の応力歪曲線の説明図である。
【図3】本発明の考え方を説明する説明図である。
【図4】降伏棚型の鋼材により形成された鋼管の応力歪曲線の説明図である。
【図5】鋼管の座屈歪と管径/管厚の管径を示すグラフである。
【図6】歪硬化領域を直線で示した降伏棚モデルの応力歪曲線である。
【図7】本発明の局部座屈特性評価方法に係る領域を示したグラフである。
【図8】本発明の一実施形態に係る評価の対象とした材料の応力歪曲線である(その1)。
【図9】本発明の一実施形態に係る評価の対象とした材料の応力歪曲線である(その2)。
【図10】本発明の一実施形態に係る評価の対象とした材料の応力歪曲線である(その3)。
【図11】本発明の一実施形態の局部座屈特性評価方法に係る領域を示したグラフである。
【図12】本発明の他の実施形態の局部座屈特性評価方法に係る領域を示したグラフである。
【図13】本発明の他の実施形態の局部座屈特性評価方法に係る領域を示したグラフである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
管径D、管厚tおよび要求局部座屈歪εreqが与えられた鋼管の局部座屈特性評価方法であって、応力歪特性上に降伏棚を有する材料の応力歪特性を取得し、取得された応力歪特性における応力歪曲線の降伏歪εy、歪硬化係数m、歪硬化開始歪εHが、縦軸をεy/m、横軸をεHとした座標面において、下式で示される領域内にあるかどうかを判断し、当該領域内にある場合には当該鋼管を塑性設計を前提とされる構造物に適用可能性ありと評価し、当該領域内にない場合には当該鋼管を塑性設計を前提とされる構造物に適用可能性なしと評価することを特徴とする鋼管の局部座屈特性評価方法。
【数1】
【請求項2】
管径D、管厚tおよび要求局部座屈歪εreqが与えられた鋼管の材質設計方法であって、応力歪特性上に降伏棚を有する材料の応力歪特性を決定するに際し、設計対象の材料の応力歪曲線の降伏歪εy、歪硬化係数m、歪硬化開始歪εHが、縦軸をεy/m、横軸をεHとした座標面において、下式で示される領域内にあるように降伏歪εy、歪硬化係数m、歪硬化開始歪εHを決定することを特徴とする鋼管の材質設計方法。
【数2】
【請求項3】
請求項2に記載の鋼管の材質設計方法によって材質設計された鋼管。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2007−163392(P2007−163392A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
物理学 | 測定;試験 | 材料の化学的または物理的性質の決定による材料の調査または分析 | 機械的応力の負荷による固体材料の強さの調査 | 定張力または定圧縮力によるもの
【出願番号】特願2005−362651(P2005−362651)
【出願日】平成17年12月16日(2005.12.16)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社
【Fターム(参考)】
機械的応力負荷による材料の強さの調査 | 調査方法;試験の仕方 | 圧縮、耐圧試験
機械的応力負荷による材料の強さの調査 | 力を掛ける方法(時間的、空間的) | 静的負荷による試験
機械的応力負荷による材料の強さの調査 | 調査対象項目 | 強度 | 降伏点
機械的応力負荷による材料の強さの調査 | 調査対象項目 | 弾性率 | 伸び弾性率(縦弾性係数)
機械的応力負荷による材料の強さの調査 | 試験片、材料 | 金属材料
機械的応力負荷による材料の強さの調査 | 試験片、形状、構造及び部分、部品 | 中空状(中実でないもの)
機械的応力負荷による材料の強さの調査 | 試験装置;構成、部分構成(治具を含む) | シュミレーション装置を有するもの
機械的応力負荷による材料の強さの調査 | 測定された変化量の取扱い | データの電気的処理 | 演算処理
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