説明

鋼管の継手構造

【課題】基準強度を確保しつつ、継手部分の長さを短く出来る継手構造を提供する。
【解決手段】軸状継手部10及び筒状継手部20に外力が作用したときに筒側接合面23から最も離れた筒側キー溝26に発生する引張ひずみが、軸状継手部10及び筒状継手部20に前記外力が作用したときに軸側接合面13に最も近い軸側キー溝16に発生する引張ひずみよりも大きくなるように、筒側接合面23から、筒側接合面23に最も近い筒側キー溝26までの距離BL4を設定した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼管杭や鋼管矢板等に用いられる二つの鋼管を長手方向に互いに抜き差し不能に接合する鋼管の継手構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、このような鋼管の継手構造として、特許文献1に記載のようなものがあった。特許文献1に記載の鋼管の継手構造は、二つの鋼管のうちの一方の鋼管の先端部に固着された軸状継手部(文献では「ピン継手材」)と、二つの鋼管のうちの他方の鋼管の先端部に固着され、軸状継手部が挿入嵌合される筒状継手部(文献では「ボックス継手材」)と、を備えている。軸状継手部には、一方の鋼管に固着される軸側基部(文献では「基筒部」)、軸側基部から延設されると共に外径が軸側基部よりも小さい嵌挿部、軸側基部と嵌挿部との段差部である軸側接合面(文献では「係合端面」)、軸側接合面に周設された軸側凹部(文献では「係合凹部」)、及び、嵌挿部の先端部に周設された軸側凸部(文献では「係合突部」)が備えられている。
【0003】
また、筒状継手部には、他方の鋼管に固着される筒側基部、筒側基部から延設されると共に内径が筒側基部よりも大きく、嵌挿部を受け入れる嵌受部、嵌受部の先端部に設けられ、軸側接合面と接する筒側接合面(文献では「端面」)、筒側接合面に周設され、軸側凹部と係合する筒側凸部(文献では「突部」)、及び、筒側基部と嵌受部との段差部に周設され、軸側凸部と係合する筒側凹部(文献では「凹部」)が備えられている。
【0004】
さらに、嵌挿部の外周部に、一以上の軸側キー溝(文献では「外溝条」)を周設し、かつ、嵌受部の内周部に、軸状継手部を筒状継手部に挿入したときに軸側キー溝と対応する一以上の筒側キー溝(文献では「内溝条」)を周設してある。そして、少なくとも長手方向における軸状継手部と筒状継手部との相対移動を拘束する手段として、互いに対応する軸側キー溝と筒側キー溝とに跨って係合するように配設される一以上のキー部材(文献では「荷重伝達キー」)が備えられている。キー部材は筒側キー溝内に配設されており、筒状継手部の外側からの操作で径方向内側に螺進するボルトによって、軸側キー溝と筒側キー溝とに跨って係合する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−234333号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、このような鋼管の継手構造については、二つの鋼管や鋼管の接合箇所(軸状継手部及び筒状継手部)に地震力のような外力が作用したとき、先ずは鋼管自体で破壊か生じるが、さらに外力が相当大きい場合は、鋼管の接合箇所のうち肉厚の薄い箇所(軸側キー溝及び筒側キー溝)で破壊が生じる。鋼管の継手構造は鉄を主材質とするため、特に、引張による破壊が起こる。また、地震時等において構造物が損壊した場合等、鋼管杭等を引き抜いて破壊状況を検証することがあるが、この場合、特定の箇所が破壊されていると検証が行い易い。そこで、目視が行い易い等の理由により、外側に露出する筒状継手部の筒側キー溝が、軸側キー溝に先立って破壊されるように各部寸法を設計する手法が採用されていた。
【0007】
この設計手法では、以下の二つのステップにより各部寸法を決定していた。
(1)ステップ1
所定の外力の作用によって筒側キー溝に発生する引張応力を求め、筒側キー溝の基準強度を確保しつつ筒側キー溝が最も弱くなるように筒側キー溝の肉厚を決定する。
(2)ステップ2
他の部分の肉厚については、筒側キー溝よりも高強度となるように、その寸法を決定する。
【0008】
なお、軸側キー溝、筒側キー溝、及びキー部材が複数組設けられているときは、各継手部の先端部から離れれば離れるほど内部応力が高くなることから、筒側接合面から最も離れた筒側キー溝と、軸側接合面に最も近い軸側キー溝とに着目し、少なくとも筒側接合面から最も離れた筒側キー溝が軸側接合面に最も近い軸側キー溝に先立って破壊するように設計していた。
【0009】
しかしながら、このように設計された継手構造では、継手長をどのように設定するかについての基準がなく、不要に軸状継手部や筒状継手部が長くせざるを得ず、経済性が良くない継手構造となっていた。単純に嵌挿部と嵌受部との重なりを短くすると、継手部分の強度が落ちてしまうため、何の指針もなく継手部分の長さを短くすることには限界がある。
【0010】
本発明の目的は、このような実情に鑑み、基準強度を確保しつつ、継手部分の長さを短く出来る継手構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る鋼管の継手構造の特徴構成は、二つの鋼管を長手方向に互いに抜き差し不能に接合する鋼管の継手構造であって、前記二つの鋼管のうちの一方の鋼管の先端部に固着された軸状継手部と、前記二つの鋼管のうちの他方の鋼管の先端部に固着され、前記軸状継手部が挿入嵌合される筒状継手部と、を備え、前記軸状継手部に、前記一方の鋼管に固着される軸側基部、前記軸側基部から延設されると共に外径が前記軸側基部よりも小さい嵌挿部、前記軸側基部と前記嵌挿部との段差部である軸側接合面、前記軸側接合面に周設された軸側凹部、及び、前記嵌挿部の先端部に周設された軸側凸部を備え、前記筒状継手部に、前記他方の鋼管に固着される筒側基部、前記筒側基部から延設されると共に内径が前記筒側基部よりも大きく、前記嵌挿部を受け入れる嵌受部、前記嵌受部の先端部に設けられ、前記軸側接合面と接する筒側接合面、前記筒側接合面に周設され、前記軸側凹部と係合する筒側凸部、及び、前記筒側基部と前記嵌受部との段差部に周設され、前記軸側凸部と係合する筒側凹部を備え、前記嵌挿部の外周部に、一以上の軸側キー溝を周設し、かつ、前記嵌受部の内周部に、前記軸状継手部を前記筒状継手部に挿入したときに前記軸側キー溝と対応する一以上の筒側キー溝を周設すると共に、互いに対応する前記軸側キー溝と前記筒側キー溝とに跨って係合するように配設されて、少なくとも前記長手方向における前記軸状継手部と前記筒状継手部との相対移動を拘束する一以上のキー部材をさらに備え、前記軸状継手部及び前記筒状継手部に外力が作用したときに前記筒側接合面から最も離れた前記筒側キー溝に発生する引張ひずみが、前記軸状継手部及び前記筒状継手部に前記外力が作用したときに前記軸側接合面に最も近い前記軸側キー溝に発生する引張ひずみよりも大きくなるように、前記筒側接合面から、前記筒側接合面に最も近い前記筒側キー溝までの距離を設定した点にある。
【0012】
上述したように、鋼管の継手構造においては、従来は、各キー溝に発生する引張応力に着目していたが、試験、研究を重ねるうちに、発明者は、各キー溝には引張応力に基づいて曲げモーメント(二次曲げ)が発生し、キー溝の破壊にはその曲げモーメントによる影響が大きいのではないかと考えた。そして、発明者の鋭意研究により、本特徴構成のように、筒側接合面から、筒側接合面に最も近い筒側キー溝までの距離を管理することにより、軸状継手部及び筒状継手部に外力が作用したときに筒側接合面から最も離れた筒側キー溝に発生する引張ひずみを、軸側接合面に最も近い軸側キー溝に発生する引張ひずみよりも大きくすることができることが分かった。即ち、軸側接合面に最も近い軸側キー溝に先立って筒側接合面から最も離れた筒側キー溝が破壊するような継手長に関する設計基準が明確となったので、継手部分の長さを従来よりも短くすることができ、経済性の良い鋼管の継手構造を提供できる。
【0013】
本発明に係る鋼管の継手構造においては、前記筒側接合面から、前記筒側接合面に最も近い前記筒側キー溝の先端側端面までの距離を、33mm以下に設定すると好適である。
【0014】
発明者のさらなる鋭意研究により、本特徴構成のように、筒側接合面から筒側接合面に最も近い筒側キー溝の先端側端面までの距離を33mm以下にする、という具体的な設計基準が明確となって、より設計のし易い鋼管の継手構造とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る鋼管の継手構造を示す斜視図である。
【図2】本発明に係る鋼管の継手構造を示す長手方向断面図である。
【図3】BL4と基準ひずみに対するキー溝におけるひずみの比率との関係を示す図である。
【図4】一段型の継手構造における筒側キー溝の長手方向の断面図である。
【図5】一段型の継手構造における軸側キー溝の長手方向の断面図である。
【図6】二段型の継手構造における筒側キー溝の長手方向の断面図である。
【図7】二段型の継手構造における軸側キー溝の長手方向の断面図である。
【図8】鋼管SKK490に対して好適な継手の一例(直径400〜800)である。
【図9】鋼管SKK490に対して好適な継手の一例(直径900〜1200)である。
【図10】鋼管SKK400に対して好適な継手の一例(直径400〜800)である。
【図11】鋼管SKK400に対して好適な継手の一例(直径400〜800)である。
【図12】別実施形態に係る鋼管の継手構造を示す斜視図である。
【図13】別実施形態に係る鋼管の継手構造の継手要領を示す径方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る鋼管の継手構造を地中に埋設される鋼管杭(杭基礎)に適用した例を図面に基づいて説明する。
【0017】
〔鋼管杭の概要〕
鋼管杭は、複数の鋼管をほぼ同一の軸芯X上に位置させて、長手方向に互いに抜き差し不能に接合して構成する。鋼管杭の設計長さは、長いものであると数十メートルにも至るため、工場で接合してから施工現場に搬送するというのは不可能であり、通常は施工現場で打設を行いながら順次接合を行う。
【0018】
〔鋼管の継手構造の概要〕
鋼管杭が何本の鋼管から構成されていようとも、各鋼管同士の接合は全ての箇所において同一である。したがって、図1に示すごとく、上下関係にある特定の上杭2と下杭1とに着目して、鋼管の継手構造を説明する。形式的に上杭2と下杭1とに呼び分けるが、これらは実質的には同じ鋼管である。即ち、上杭2及び下杭1が、本発明に係る「二つの鋼管」に相当する。下杭1のうち上杭2の側の先端部には、工場において雄形のピン継手10が溶接により固着されている。上杭2のうち下杭1の側の先端部には、工場においてピン継手10に外嵌されるボックス継手20が溶接により固着されている。即ち、ピン継手10が本発明に係る「軸状継手部」に相当し、ボックス継手20が本発明に係る「筒状継手部」に相当する。
【0019】
ピン継手10は、図1,図2に示すごとく、下杭1と同様に筒状に形成されている。ピン継手10は、下杭1に固着される軸側基部11と、軸側基部11から延設されると共に外径が軸側基部11よりも小さい嵌挿部12と、軸側基部11と嵌挿部12との段差部である軸側接合面13と、軸側接合面13に周設された軸側凹部14と、嵌挿部12の先端部に周設された軸側凸部15と、を備えている。
【0020】
軸側基部11は、下杭1側では、下杭1と同じ内径・外径・肉厚であり、中途部分から、内径を小さくしつつ外径を大きくして肉厚を厚くしてある。嵌挿部12は、軸側基部11の内周面を同径のまま延長した内周面と、軸側基部11の外周面を段差的に縮径した外周面と、を有している。軸側凹部14は、軸側接合面13のうち内径側の部分を、軸芯X方向に沿って下杭1の側に環状に凹入して形成してある。軸側凸部15は、嵌挿部12の先端部のうち外径側の部分を、軸芯X方向に沿って先端側に環状に突出させて形成してある。
【0021】
ボックス継手20は、図1,図2に示すごとく、下杭1と同様に筒状に形成されている。ボックス継手20は、上杭2に固着される筒側基部21と、筒側基部21から延設されると共に内径が筒側基部21よりも大きく、嵌挿部12を受け入れる嵌受部22と、嵌受部22の先端部に設けられ、軸側接合面13と接する筒側接合面23と、筒側接合面23に周設され、軸側凹部14と係合する筒側凸部24と、筒側基部21と嵌受部22との段差部に周設され、軸側凸部15と係合する筒側凹部25と、を備えている。
【0022】
筒側基部21は、上杭2の側では、上杭2と同じ内径・外径・肉厚であり、中途部分から、内径を小さくしつつ外径を大きくして肉厚を厚くしてある。嵌受部22は、筒側基部21の内周面を段差的に拡径した内周面と、筒側基部21の外周面を同径のまま延長した外周面と、を有している。筒側凸部24は、筒側接合面23のうち内径側の部分を、軸芯X方向に沿って先端側に環状に突出させて形成してある。筒側凹部25は、筒側基部21と嵌受部22との段差部のうち外径側の部分を、軸芯X方向に沿って先端側に環状に凹入して形成してある。
【0023】
図2に示すごとく、嵌挿部12の外径と嵌受部22の内径とはほぼ同一に設定してあり、ピン継手10をボックス継手20に挿入すると、嵌挿部12の外周面と嵌受部22の内周面とは密接し、軸側接合面13と筒側接合面23とも密接する。軸側凹部14の軸芯X方向の断面形状は、筒側凸部24と係合可能なよう設定してある。筒側凹部25の軸芯X方向の断面形状は、軸側凸部15と係合可能なよう設定してある。また、嵌挿部12の内周面と筒側基部21の内周面とは面一となるように設定してある。
【0024】
嵌挿部12の外周部に、軸芯Xの周方向に沿って一つの軸側キー溝16を周設してある。同様に、嵌受部22の内周部に、ボックス継手20にピン継手10を挿入したときに軸側キー溝16と対応する一つの筒側キー溝26を周設してある。軸側キー溝16及び筒側キー溝26の軸芯X方向の断面形状は、軸芯X方向の長さが同じである長方形にしてある。ボックス継手20にピン継手10を挿入したとき、軸側キー溝16と筒側キー溝26とは対向し、協働して長方形断面の一つの溝を構成する。
【0025】
嵌受部22のうち筒側キー溝26が設けられた箇所には、嵌受部22の外周部から筒側キー溝26に連通するネジ孔が、周方向に沿って間隔をおいて複数穿孔されている。そして、ネジ孔には、セットボルト30を螺合させてあり、セットボルト30はボックス継手20の外側からの締め込み操作によって、径方向内側に螺進可能である。筒側キー溝26には、「キー部材」としての荷重伝達キー31が収容されている。荷重伝達キー31にはセットボルト30の先端部が固定されており、セットボルト30の締め込み操作によって、荷重伝達キー31は筒側キー溝26内から径方向内側に突出可能である。
【0026】
筒側キー溝26の溝深さは、荷重伝達キー31の径方向の長さよりも大きくしてあり、かつ、軸側キー溝16の溝深さは、荷重伝達キー31の径方向の長さの約1/2程度にしてある。また、荷重伝達キー31の形状は、筒側キー溝26に最も引退された状態で筒側キー溝26にほぼ隙間なく収容される円弧状にしてある。よって、荷重伝達キー31を筒側キー溝26に最も引退させると、荷重伝達キー31が嵌受部22の内周面から突出しない。即ち、荷重伝達キー31を筒側キー溝26に最も引退させておけば、ピン継手10をボックス継手20に円滑に挿入できる。また、ピン継手10をボックス継手20に挿入したときに、荷重伝達キー31を筒側キー溝26から最も突出させると、荷重伝達キー31は筒側キー溝26と軸側キー溝16とにほぼ均等に跨って係止する。これにより、ピン継手10とボックス継手20との軸芯X方向の相対移動が拘束される。
【0027】
なお、このように一組の軸側キー溝16、筒側キー溝26、及び、荷重伝達キー31によって、ピン継手10とボックス継手20との軸芯X方向の相対移動を拘束する継手構造を、以下、「一段型の継手構造」と称することにする。本実施形態に係る鋼管の継手構造は一段型であるので、筒側キー溝26が「筒側接合面23に最も近い筒側キー溝」及び「筒側接合面23から最も離れた筒側キー溝」に相当し、軸側キー溝16が「軸側接合面13に最も近い軸側キー溝」に相当する。
【0028】
ピン継手10とボックス継手20との周方向の相対移動の拘束は、回転止めキー32によって行う。具体的には、軸側基部11の外周部のうち軸側接合面13付近を切り欠いて第一溝17を形成し、嵌受部22の外周部のうち筒側接合面23付近を切り欠いて第二溝27を形成する。第一溝17の周方向の長さと、第二溝27の周方向の長さとは一致させてある。また、第一溝17の軸芯X方向の長さと、第二溝27の軸芯X方向の長さとも一致させてある。ピン継手10をボックス継手20に挿入した状態において、第一溝17と第二溝27とを位置合わせし、第一溝17と第二溝27とに跨るように回転止めキー32を合致させ、ボルトを回転止めキー32と第一溝17に設けたネジ孔に締め込んで固定する。これにより、ピン継手10とボックス継手20との周方向の相対移動が拘束される。
【0029】
以上のようにして、ピン継手10とボックス継手20とは挿入嵌合される。なお、軸側凹部14と筒側凸部24との係合、軸側凸部15と筒側凹部25との係合によって、ピン継手10とボックス継手20との嵌合が強化され、特に曲げに対する剛性が高まる。荷重伝達キー31の数や回転止めキー32の数は、上杭2及び下杭1の菅径等によって適宜設定すれば良い。
【0030】
〔キー溝の位置について〕
上述のような荷重伝達キー31を介しての接合において、上杭2及び下杭1に作用する引張外力は軸側キー溝16の側面又は筒側キー溝26の側面と荷重伝達キー31の側面との接触によって一方の継手から荷重伝達キー31に伝達される。即ち、軸側キー溝16、筒側キー溝26には内部せん断応力が発生する。軸側キー溝16及び筒側キー溝26には、この内部せん断応力に基づいて、継手部分を外側に開くように曲げモーメント(二次曲げ)が発生する。
【0031】
発明者は、引張応力だけでなく、この曲げモーメントにも着目して試験・研究を重ね、「筒側接合面23から筒側キー溝26までの距離」を管理することにより、「筒側キー溝26に発生する引張ひずみ」を「軸側キー溝16に発生する引張ひずみ」よりも大きく設定できることを見出した。これにより、継手部分の破壊に際して、確実に筒側キー溝26を軸側キー溝16に先立って破壊させることができる。具体的には、「筒側接合面23から筒側キー溝26の先端側端面までの距離」を33mm以下にすれば、鋼管(上杭2・下杭1)の径や肉厚等に関係なく、「筒側キー溝26に発生する引張ひずみ」は「軸側キー溝16に発生する引張ひずみ」よりも大きくなった。
【0032】
その実証結果の一例を図3に示す。この実証結果は、鋼管の径が1000mm、肉厚が10mmのときの実証結果である。図3において、縦軸は、基準としたひずみに対する軸側キー溝16におけるひずみ、又は、基準としたひずみに対する筒側キー溝26におけるひずみの比率を示し、横軸は、「筒側接合面23から筒側キー溝26の先端側端面までの距離BL4」を示す。基準ひずみは、各継手の破壊に対する安全基準であって適宜設定すれば良い。以下、便宜上、基準ひずみの値を「S」とする。即ち、図3には、「筒側接合面23から筒側キー溝26の先端側端面までの距離BL4」を変化させたときの「筒側キー溝26に発生する引張ひずみ」/Sと、同「軸側キー溝16に発生する引張ひずみ」/Sと、をプロットしている。図3から、「筒側接合面23から筒側キー溝26の先端側端面までの距離BL4」が33mm以下であれば、「筒側キー溝26に発生する引張ひずみ」は、「軸側キー溝16に発生する引張ひずみ」よりも大きいことが分かる。この結果は、他の菅径、肉厚の鋼管についても同じであった。なお、図2乃至図4から明らかなように、「筒側接合面23から筒側キー溝26の先端側端面までの距離BL4」は、「軸側接合面13から軸側キー溝16のした下杭側端面までの距離PL4」に等しい。
【0033】
〔キー溝の位置を決定する手順〕
この結果を受けてキー溝の位置を決定する手順を策定したので、以下にその手順を説明する。
(1)ステップ1
所定の外力の作用によって筒側キー溝26に発生する引張応力を求め、筒側キー溝26の基準強度を確保しつつ筒側キー溝26が最も弱くなるように筒側キー溝の肉厚を決定する。
(2)ステップ2
他の部分の肉厚については、筒側キー溝26よりも高強度となるように、その寸法を決定する。
(3)ステップ3
「筒側接合面23から筒側キー溝26の先端側端面までの距離BL4(図4参照)」(軸側接合面13から軸側キー溝16の下杭側端面までの距離PL4(図5参照)」)を33mm以下に設定する。なお、本実施形態においては、図3に示すごとく、「筒側接合面23から筒側キー溝26の先端側端面までの距離BL4」が33mm以下の範囲において、「筒側接合面23から最も離れた筒側キー溝26に発生する引張ひずみ」は基準ひずみを超えない(比率が1.0以下)が、基準ひずみの値によっては、「筒側接合面23から最も離れた筒側キー溝26に発生する引張ひずみ」が基準ひずみを超える場合もある。この場合は、「筒側接合面23から最も離れた筒側キー溝26に発生する引張ひずみ」が基準ひずみを超えない範囲で下限値を設定する。
(4)ステップ4
その他の寸法は、以下の考え方により、ほぼ一義的に決まる。筒側キー溝26及び軸側キー溝16の軸芯X方向の幅は、荷重伝達キー31の軸芯X方向の幅によって一義的に決まる。即ち、荷重伝達キー31の軸芯X方向の幅を、荷重伝達キー31に作用する軸芯X方向のせん断応力によって荷重伝達キー31がせん断破壊しない範囲で安全率を勘案して最小の値とする。これにより、「筒側接合面23から筒側キー溝26の上杭側端面までの距離BL3(図4参照)」及び「軸側接合面13から軸側キー溝16の先端側端面までの距離PL3(図5参照)」が決まる。また、「筒側キー溝26の上杭側端面から筒側基部21と嵌受部22との段差部までの距離」は、荷重伝達キー31に対する「筒側キー溝26の上杭側端面から筒側基部21と嵌受部22との段差部までの部分」の強度を確保できる範囲で安全率を勘案して最小の値とする。これにより、「嵌受部22の全長BL2(図4参照)」及び「軸側基部11の全長(PL2)」が決まる。そして、「筒側基部21の全長BL1(図4参照)」及び「軸側基部11の全長PL1」が、上杭2及び下杭1の肉厚等との関係から一義的に決まり、また、「筒側凸部24の軸芯X方向の突出長」、「筒側凹部25の軸芯X方向の凹入長」、「軸側凹部14の軸芯X方向の凹入長」、及び、「軸側凸部15の軸芯X方向の突出長」は一定の値であるので、これにより、「ボックス継手20の全長BL」及び「ピン継手10の全長PL」も決まる。
【0034】
この手順で設計した鋼管の継手構造は、基準強度が確保されつつ、継手部分の長さが従来よりも短くなっており、非常に経済性が良いものとなっている。
【0035】
上述のステップ1乃至ステップ4の手順によってキー溝の位置を決定したピン継手10及びボックス継手20の一例を図8乃至図11に示す。図8,9は、引張強さが490Mpa以上の鋼管杭に対するピン継手10及びボックス継手20を示す。このような鋼管は、一般に「SKK490」と呼ばれている。図10,11は、引張強さが400Mpa以上の鋼管杭に対するピン継手10及びボックス継手20を示す。このような鋼管は、一般に「SKK400」と呼ばれている。
【0036】
一段型の継手構造の各部の寸法の称呼については以下のように定義した。
1.ボックス継手(図4参照)について
D :筒側基部21の上杭側の外径(上杭2及び下杭1の外径に等しい)
BD1:筒側基部21の上杭側の内径
BD2:筒側基部21の先端側の内径
BD3:嵌受部22の内径
BD4:嵌受部22の第二溝27における外径
BD5:嵌受部22の外径
BL :ボックス継手20の全長
BL1:筒側基部21の全長
BL2:嵌受部22の全長
BL3:筒側接合面23から筒側キー溝26の上杭側端面までの距離
BL4:筒側接合面23から筒側キー溝26の先端側端面までの距離
2.ピン継手(図5参照)について
D :軸側基部11の下杭側の外径(上杭2及び下杭1の外径に等しい)
PD1:軸側基部11の下杭側の内径
PD2:軸側基部11の先端側の内径
PD3:嵌挿部12の軸側凸部15における内径
PD4:嵌挿部12の外径
PD5:軸側基部11の先端側の外径
PL :ピン継手10の全長
PL1:嵌挿部12の全長
PL2:軸側基部11の全長
PL3:軸側接合面13から軸側キー溝16の先端側端面までの距離
PL4:軸側接合面13から軸側キー溝16の下杭側端面までの距離
【0037】
なお、図6,図7に示すごとく、嵌挿部12の外周部に、軸芯Xの周方向に沿って二つの軸側キー溝16を周設すると共に、嵌受部22の内周部に、ボックス継手20にピン継手10を挿入したときに軸側キー溝16と対応する二つの筒側キー溝26を周設し、それぞれの軸側キー溝16と筒側キー溝26とが協働して長方形断面の二つの溝を構成する「二段型の継手構造」においては、さらに以下のように定義する。二つの軸側キー溝16とは、軸側接合面13に近い筒側キー溝16aと、軸側接合面13から離れた軸側キー溝16bとを示す(図7参照)。また、二つの筒側キー溝26とは、筒側接合面23に近い筒側キー溝26aと、筒側接合面23から離れた26bとを示す(図6参照)。二段型の継手構造においては、筒側キー溝26aが「筒側接合面23に最も近い筒側キー溝」に相当し、筒側キー溝26bが「筒側接合面23から最も離れた筒側キー溝」に相当し、軸側キー溝16aが「軸側接合面13に最も近い軸側キー溝」に相当する。
【0038】
1.ボックス継手(図6参照)について
BL3:筒側接合面23から、筒側接合面23に近い筒側キー溝26aの上杭側端面までの距離
BL4:筒側接合面23から、筒側接合面23に近い筒側キー溝26aの先端側端面までの距離
BL5:筒側接合面23から、筒側接合面23から離れた筒側キー溝26bの上杭側端面までの距離
BL6:筒側接合面23から、筒側接合面23から離れた筒側キー溝26bの先端側端面までの距離
2.ピン継手(図7参照)について
PL3:軸側接合面13から、軸側接合面13に近い軸側キー溝16aの上杭側端面までの距離
PL4:軸側接合面13から、軸側接合面13に近い軸側キー溝16aの先端側端面までの距離
PL5:軸側接合面13から、軸側接合面13から離れた軸側キー溝16bの上杭側端面までの距離
PL6:軸側接合面13から、軸側接合面13から離れた軸側キー溝16bの先端側端面までの距離
【0039】
図8乃至図11において、BL5、BL6、PL5、及び、PL6の記載があるものが二段型の継手構造であり、それ以外は一段型の継手構造である。これらに開示する一段型の継手構造及び二段型の継手構造は全て、「筒側接合面23から最も離れた筒側キー溝26に発生する引張ひずみ」が、「軸側接合面13に最も近い軸側キー溝16に発生する引張ひずみ」よりも大きくなる。
【0040】
なお、本実施形態においては、一段型の継手構造の実証結果と、一段型の継手構造及び二段型の継手構造の一例と、を示したが、軸側キー溝16及び筒側キー溝26を三組以上備えていても、同様に、筒側接合面23から、筒側接合面23に最も近い筒側キー溝26までの距離を33mm以下とすれば、「筒側接合面23から最も離れた筒側キー溝26に発生する引張ひずみ」が、「軸側接合面13に最も近い軸側キー溝16に発生する引張ひずみ」よりも大きくなることが力学的に実証されている。これにより、継手部分の破壊に際して、確実に「筒側接合面23から最も離れた筒側キー溝26」を、「軸側接合面13に最も近い軸側キー溝16」に先立って破壊させることができる。
【0041】
〔別実施形態〕
上述の実施形態においては、筒側キー溝26に配設された荷重伝達キー31が、セットボルト30の操作により軸側キー溝16と筒側キー溝26とに跨って係合し、ピン継手10とボックス継手20との相対移動が拘束される例を示したが、これに限られるものではない。ピン継手10とボックス継手20との相対移動を拘束する構成の別実施形態を、図12,図13に基づいて説明する。キー部材の構成以外は、上述の実施形態と同じ構成であるので説明はしない。また、上述の実施形態と同じ構成の箇所には同じ符号を付す。
【0042】
図12に示すごとく、ボックス継手20の外側面に、筒側キー溝26に連通するキー挿入口132を複数開口してある。左右一対の円弧状の荷重伝達キー131を軸芯Xの周方向に沿って、キー挿入口132から夫々軸芯X周りの左右方向に差し込む。荷重伝達キー131の軸芯X方向の断面形状は、軸側キー溝16と筒側キー溝26とを合わせた溝の軸芯X方向の断面形状に合わせてある。したがって、図13に示すごとく、荷重伝達キー131が軸側キー溝16と筒側キー溝26とに跨って係合する。そして、特に図示はしないが、左右一対の荷重伝達キー131同士を突っ張る等して、荷重伝達キー131が軸側キー溝16及び筒側キー溝26から抜け出さないようにする。この結果、ピン継手10とボックス継手20との相対移動が拘束される。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明に係る鋼管の継手構造は、鋼管杭だけでなく、鋼管矢板等、二つの鋼管を長手方向に互いに抜き差し自在に接合する継手構造に適用可能である。
【符号の説明】
【0044】
1 下杭(二つの鋼管)
2 上杭(二つの鋼管)
10 ピン継手(軸状継手部)
11 軸側基部
12 嵌挿部
13 軸側接合面
14 軸側凹部
15 軸側凸部
16 軸側キー溝
16a 軸側キー溝
16b 軸側キー溝
20 ボックス継手(筒状継手部)
21 筒側基部
22 嵌受部
23 筒側接合面
24 筒側凸部
25 筒側凹部
26 筒側キー溝
26a 筒側キー溝
26b 筒側キー溝
31 荷重伝達キー(キー部材)
131 荷重伝達キー(キー部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二つの鋼管を長手方向に互いに抜き差し不能に接合する鋼管の継手構造であって、
前記二つの鋼管のうちの一方の鋼管の先端部に固着された軸状継手部と、
前記二つの鋼管のうちの他方の鋼管の先端部に固着され、前記軸状継手部が挿入嵌合される筒状継手部と、を備え、
前記軸状継手部に、前記一方の鋼管に固着される軸側基部、前記軸側基部から延設されると共に外径が前記軸側基部よりも小さい嵌挿部、前記軸側基部と前記嵌挿部との段差部である軸側接合面、前記軸側接合面に周設された軸側凹部、及び、前記嵌挿部の先端部に周設された軸側凸部を備え、
前記筒状継手部に、前記他方の鋼管に固着される筒側基部、前記筒側基部から延設されると共に内径が前記筒側基部よりも大きく、前記嵌挿部を受け入れる嵌受部、前記嵌受部の先端部に設けられ、前記軸側接合面と接する筒側接合面、前記筒側接合面に周設され、前記軸側凹部と係合する筒側凸部、及び、前記筒側基部と前記嵌受部との段差部に周設され、前記軸側凸部と係合する筒側凹部を備え、
前記嵌挿部の外周部に、一以上の軸側キー溝を周設し、かつ、前記嵌受部の内周部に、前記軸状継手部を前記筒状継手部に挿入したときに前記軸側キー溝と対応する一以上の筒側キー溝を周設すると共に、
互いに対応する前記軸側キー溝と前記筒側キー溝とに跨って係合するように配設されて、少なくとも前記長手方向における前記軸状継手部と前記筒状継手部との相対移動を拘束する一以上のキー部材をさらに備え、
前記軸状継手部及び前記筒状継手部に外力が作用したときに前記筒側接合面から最も離れた前記筒側キー溝に発生する引張ひずみが、前記軸状継手部及び前記筒状継手部に前記外力が作用したときに前記軸側接合面に最も近い前記軸側キー溝に発生する引張ひずみよりも大きくなるように、前記筒側接合面から、前記筒側接合面に最も近い前記筒側キー溝までの距離を設定してある鋼管の継手構造。
【請求項2】
前記筒側接合面から、前記筒側接合面に最も近い前記筒側キー溝の先端側端面までの距離を、33mm以下に設定してある請求項1に記載の鋼管の継手構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−154048(P2012−154048A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−12216(P2011−12216)
【出願日】平成23年1月24日(2011.1.24)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】