説明

鋼管先受け工法

【課題】地山の拡幅が不要で、汎用の機械および部品を用いて容易に施工できる鋼管先受け工法を提供すること。
【解決手段】地山1を削孔して、複数の鋼管7を、トンネル3の同一断面に対して切羽方向に向かって放射状に、かつ、隣接する掘削区間の鋼管7に対して千鳥状に配置する。次に、地山1にトンネル3を掘削しつつ、その内壁面に沿って、鋼管7の打設予定位置に鋼管打設用アーチ支保工5bを、その他の支保工設置位置に通常のアーチ支保工5aを設置する。鋼管打設用アーチ支保工5bは、トンネル側の面位置29が通常のアーチ支保工5aと揃い、地山側の面位置31が通常のアーチ支保工5aより地山側となるように設置される。そして、アーチ支保工5同士の間に、吹付コンクリート9を充填し、吹付コンクリート9の表面8を防水シート35で被覆する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼管先受け工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の長尺先受け工法(AGF工法)においては、地山補強のために、切羽方向に向かって斜めに地山を削孔して鋼管を打設し、注入材を充填していた。その際、トンネル内に所定のピッチで設置したアーチ支保工に先受け用の補強鋼管が当たらないように、地山を部分的に拡幅して鋼管を打設し、先受け後にこの拡幅部を吹付けコンクリートで埋めていた(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、従来の先受け工法の改良型として、鋼管を打設する際に、地山を部分的に拡幅せず、鋼管の後端に他の管を継いで鋼管の最後端がトンネル掘削領域外に位置するまで埋設させた後、トンネル掘削領域内に位置する他の管を撤去したり切削したりする方法があった(例えば、特許文献2、特許文献3参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平10−8875号公報(2頁、図4)
【特許文献2】特開平8−121073号公報
【特許文献3】特開平11−294066号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の方法では、支保工と鋼管との干渉を避けるために地山を拡幅することにより、工費が増大し、工期が長期化していた。また、支保工と地山の突起が存在するため、トンネル内に防水シートを貼る際に、突起部での破損により漏水する不具合が生じていた。
【0006】
改良型の方法は、地山拡幅による問題点を解決するための方法であるが、施工には汎用部品以外の特殊な治具や装置が必要であった。また鋼管の後端に継いだ他の管の処理を行う必要があった。
【0007】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、地山の拡幅が不要で、汎用の機械および部品を用いて容易に施工できる鋼管先受け工法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述した目的を達成するための本発明は、トンネルの掘削時に、切羽方向に向かって放射状に鋼管を打設して地山を補強する鋼管先受け工法において、地山を掘削して通常の支保工を設置する工程(a)と、前記通常の支保工よりも背の大きい鋼管打設用支保工を、トンネル側の面位置が前記通常の支保工のトンネル側の面位置と揃い、地山側の面位置が前記通常の支保工の地山側の面位置よりも地山側に位置するように設置する工程(b)と、前記鋼管打設用支保工に配置した鋼管打設用ガイドを用いて前記地山に鋼管を打設する工程(c)と、を具備することを特徴とする鋼管先受け工法である。
【0009】
工程(c)で打設する鋼管は、例えば2本継とする。また、工程(c)では、第1の鋼管打設用支保工を用いて打設する第1の鋼管と、第1の鋼管打設用支保工よりもトンネル掘削方向前方に設置された第2の鋼管打設用支保工を用いて打設する第2の鋼管とを、千鳥状に配置するのが望ましい。
【0010】
本発明では、工程(c)の後、地山を削孔した削孔用ビットおよび鋼管を地山内に残置するのが望ましい。本発明の鋼管先受け工法は、例えば、トンネルの土被り厚さが前記トンネルの幅員以下である部分に用いられる。
【0011】
鋼管打設用支保工に配置される鋼管打設用ガイドは、例えば、鋼管打設用支保工に固定された補強プレートと、鋼管打設用支保工と補強プレートとを貫通して設けられたガイドパイプとからなる。
【0012】
本発明では、地山を掘削して通常の支保工を設置し、通常の支保工よりも背の大きい鋼管打設用支保工を、トンネル側の面位置が通常の支保工のトンネル側の面位置と揃い、地山側の面位置が通常の支保工の地山側の面位置よりも地山側に位置するように設置する作業と、鋼管打設用支保工に配置した鋼管打設用ガイドを用いて地山に鋼管を打設する作業とを繰り返す。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、地山の拡幅が不要で、汎用の機械および部品を用いて容易に工できる鋼管先受け工法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1は、トンネル3の軸方向の断面図を、図2は、トンネル3の吹付コンクリート9周辺の断面図を示す。図2は、図1の範囲Aに示す部分の拡大図である。
【0015】
図1に示すように、トンネル3を構築する際、既に掘削された掘削区間2−n、掘削区間2−(n−1)…では、各掘削区間に、地山1の補強用の先受け鋼管7−n、鋼管7−(n−1)…が打設される。また、トンネル3の壁面には、トンネル周方向に沿ってアーチ支保工5が設置される。アーチ支保工5同士の間には、吹付コンクリート9が充填される。吹付コンクリート9の表面8は、防水シート35(図2)で被覆される。
【0016】
アーチ支保工5は、H型鋼等であり、トンネル3の軸方向に所定の間隔をおいて配置される。アーチ支保工5には、通常のアーチ支保工5aと、鋼管打設用アーチ支保工5bとの2種類がある。鋼管打設用アーチ支保工5bは、鋼管7の打設予定位置に設置される。すなわち、各掘削区間のトンネル掘削方向前方側の端部付近に設置される。通常のアーチ支保工5aは、その他の支保工設置位置に設置される。
【0017】
図2に示すように、鋼管打設用アーチ支保工5bの背33bは、通常のアーチ支保工5aの背33aより大きい。鋼管打設用アーチ支保工5bの背33bと、通常のアーチ支保工5aの背33aとの差は、50mm程度とするのが望ましい。
【0018】
トンネル3では、アーチ支保工5が、トンネル側の面位置29が平滑となるように設置される。すなわち、鋼管打設用アーチ支保工5bが、トンネル側の面位置29が通常のアーチ支保工5aのトンネル側の面位置29と揃い、地山側の面位置31が通常のアーチ支保工5aの地山側の面位置45より地山1側となるように設置される。
【0019】
図3は、トンネル3の周方向の断面図を示す。図3は、図1に示す矢印B−Bによる断面図である。図3に示すように、鋼管7は、トンネル3の同一断面に対して、切羽方向に向かって放射状に打設される。トンネル3では、隣接する掘削区間2−(n−1)の地山1の補強用の鋼管7−(n−1)と、掘削区間2−nの地山1の補強用の鋼管7−nとが、千鳥状に配置される。
【0020】
図4は、鋼管打設用アーチ支保工5bの断面図を、図5は、鋼管打設用アーチ支保工5bの立面図を示す。図4は、図5に示す矢印D−Dによる断面図である。図5は、図4の矢印Cに示す方向から見た図である。
【0021】
図4、図5に示すように、鋼管打設用アーチ支保工5bは、ウェブ41に鋼管7を挿通するための孔21を有する。鋼管打設用アーチ支保工5bは、孔21の近辺に鋼管打設用ガイド37を有する。鋼管打設用ガイド37は、補強プレート15と、ガイドパイプ17とからなる。
【0022】
補強プレート15は、鋼管打設用アーチ支保工5bに固定される。補強プレート15は、鋼管打設用アーチ支保工5bの孔21と重なる位置に孔19を有する。ガイドパイプ17は、鋼管打設用アーチ支保工5bの孔21と補強プレート15の孔19とを貫通する。ガイドパイプ17は、鋼管打設用アーチ支保工5bの孔21および補強プレート15の孔19の縁に固定される。
【0023】
鋼管7は、鋼管打設用ガイド37のガイドパイプ17に、図3の矢印Cに示す側から挿入される。ガイドパイプ17の鋼管打設用アーチ支保工5bに対する設置角度は、鋼管7の打設角度に応じて決定される。ガイドパイプ17の長さは、トンネル掘削方向後方の端部16aが鋼管打設用アーチ支保工5bのフランジ39のトンネル内側面39aから、トンネル掘削方向前方の端部16bがフランジ39のトンネル外側面39bからはみ出さないように決定される。
【0024】
以下に、図1において、掘削区間2−(n+1)を掘削して掘削区間2−nと同様の状態とする手順について説明する。掘削区間2−(n+1)を掘削するには、まず、切羽10に鏡吹付コンクリート11を吹き付けた状態で、地山1の補強用の鋼管7−(n+1)を打設する。
【0025】
図6は、鋼管7の軸方向の断面図である。図6に示すように、鋼管7は、先頭管23と端末管25とを継いだ、2本継の中尺(6.5m程度)のものである。鋼管7は、先頭管23の先端部に削孔用ビット27が固定される。鋼管7の径は、汎用機械であるドリルジャンボ(図示せず)の削岩機13を用いて削孔および打設できる程度に小さいものとする。
【0026】
鋼管7−(n+1)を打設するには、まず、図1に示す削岩機13に鋼管7−(n+1)を取り付ける。そして、鋼管7−(n+1)を図3および図4に示す鋼管打設用アーチ支保工5bの鋼管打設用ガイド37のガイドパイプ17に挿入して位置決めを行いつつ、削孔用ビット27(図6)で地山1を削孔し、鋼管7−(n+1)を削孔した孔内に押し入れて設置する。鋼管7−(n+1)は、後端部43(図2)が、鋼管打設用アーチ支保工5bのトンネル側の面位置29よりも地山1側に到達した時点で設置完了とする。
【0027】
掘削区間2−(n+1)では、複数の鋼管7−(n+1)を、トンネル3の同一断面に対して、切羽方向に向かって放射状に打設する。また、鋼管7−(n+1)を、隣接する掘削区間2−nの地山1の補強用の鋼管7−nに対して千鳥状に配置する。
【0028】
そして、鋼管7−(n+1)内および鋼管7−(n+1)と地山1との隙間に注入材を充填し、掘削区間2−(n+1)の周辺の地山1の補強を完了する。次に、掘削機(図示せず)を用いて掘削区間2−(n+1)を掘削しつつ、トンネル3の内壁面に沿ってアーチ支保工5を設置する。
【0029】
掘削区間2−(n+1)においても、鋼管打設用アーチ支保工5bを、鋼管7の打設予定位置(すなわち、掘削区間2−(n+1)のトンネル掘削方向前方側の端部付近)に設置し、通常のアーチ支保工5aを、その他の支保工設置位置に設置する。また、図2に示すように、鋼管打設用アーチ支保工5bを、トンネル側の面位置29が通常のアーチ支保工5aのトンネル側の面位置29と揃い、地山側の面位置31が通常のアーチ支保工5aの地山側の面位置45より地山1側となるように設置する。
【0030】
次に、アーチ支保工5同士の間に、吹付コンクリート9を充填する。さらに、図2に示すように、吹付コンクリート9の表面8を、防水シート35で被覆する。掘削区間2−(n+1)の全長を掘削した後、切羽10に鏡吹付コンクリート11を吹付ける。
【0031】
トンネル3は、各掘削区間について、上述した手順を繰り返すことにより、構築される。なお、鋼管7は、削孔用ビット27とともに、地山1に埋設される。
【0032】
このように、本実施の形態では、通常のアーチ支保工5aの背33aよりも背33bの大きい鋼管打設用アーチ支保工5bを、トンネル側の面位置29が通常のアーチ支保工5aのトンネル側の面位置29と揃い、地山側の面位置31が通常のアーチ支保工5aの地山側の面位置45よりも地山1側に位置するように設置する。また、鋼管7の後端部43を、鋼管打設用アーチ支保工5bのトンネル側の面位置29よりも地山1側に到達させる。
【0033】
これにより、吹付コンクリート9の表面8が平滑となり、防水シート35を隙間なく貼ることができるので、防水シート35が破損せず、漏水がなくなる。また、鋼管打設用アーチ支保工5bに通常のH型鋼等を用いるので、他の工法で用いられる汎用の鋼管打設用ガイド37を転用し、容易に取り付けることができる。
【0034】
本実施の形態では、鋼管7の径を小さくすることで、汎用機械であるドリルジャンボ(図示せず)による地山1内への削孔および打設が可能である。さらに、先受け用の鋼管7に2本継の中尺のものを用いるので、施工サイクルが早い。
【0035】
また、鋼管7を、削孔用ビット27とともに地山1に埋設するため、鋼管7を切除する際の過剰な振動および打撃を与えることがなく、鋼管7と地山1との間の固化部が乱れずに品質が確保される。さらに、鋼管7を千鳥状に打設するので、隣接する鋼管7同士が干渉して地山1を乱すことがない。
【0036】
なお、本実施の形態において述べた方法は、トンネル3の土被り厚さがトンネル幅員以下(トンネル3の坑口等)である部分に用いることが望ましい。また、鋼管打設用ガイド37や鋼管7の構成は、図3から図5に述べたものに限らない。
【0037】
以上、添付図面を参照しながら本発明にかかる鋼管先受け工法の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】トンネル3の軸方向の断面図
【図2】トンネル3の吹付コンクリート9周辺の断面図
【図3】トンネル3の周方向の断面図
【図4】鋼管打設用アーチ支保工5bの断面図
【図5】鋼管打設用アーチ支保工5bの立面図
【図6】鋼管7の軸方向の断面図
【符号の説明】
【0039】
1………地山
3………トンネル
5………アーチ支保工
5a………通常のアーチ支保工
5b………鋼管打設用アーチ支保工
7………鋼管
15………補強プレート
17………ガイドパイプ
19、21………孔
23………先頭管
25………端末管
29………トンネル側の面位置
31………地山側の面位置
33a、33b………背
37………鋼管打設用ガイド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネルの掘削時に、切羽方向に向かって放射状に鋼管を打設して地山を補強する鋼管先受け工法において、
地山を掘削して通常の支保工を設置する工程(a)と、
前記通常の支保工よりも背の大きい鋼管打設用支保工を、トンネル側の面位置が前記通常の支保工のトンネル側の面位置と揃い、地山側の面位置が前記通常の支保工の地山側の面位置よりも地山側に位置するように設置する工程(b)と、
前記鋼管打設用支保工に配置した鋼管打設用ガイドを用いて前記地山に鋼管を打設する工程(c)と、
を具備することを特徴とする鋼管先受け工法。
【請求項2】
前記鋼管を、2本継とすることを特徴とする請求項1記載の鋼管先受け工法。
【請求項3】
前記工程(c)の後、前記地山を削孔した削孔用ビットおよび前記鋼管を前記地山内に残置することを特徴とする請求項1記載の鋼管先受け工法。
【請求項4】
トンネルの土被り厚さが前記トンネルの幅員以下である部分に用いることを特徴とする請求項1記載の鋼管先受け工法。
【請求項5】
前記工程(c)で、第1の鋼管打設用支保工を用いて打設する第1の鋼管と、前記第1の鋼管打設用支保工よりもトンネル掘削方向前方に設置された第2の鋼管打設用支保工を用いて打設する第2の鋼管とを、千鳥状に配置することを特徴とする請求項1記載の鋼管先受け工法。
【請求項6】
前記鋼管打設用ガイドが、
前記鋼管打設用支保工に固定された補強プレートと、
前記鋼管打設用支保工と前記補強プレートとを貫通して設けられたガイドパイプと、
からなることを特徴とする請求項1記載の鋼管先受け工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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