説明

鋼管杭の挿入方法、支持杭、摩擦杭

【課題】狭隘かつ地盤が強固であり、又は地中に障害物がある敷地であっても、適用可能な鋼管杭の挿入方法を提供する。
【解決手段】圧入装置10のロッド70に接続された掘削ビット80に起振力を加えながら回転させることで地盤1を掘削して掘削孔4を形成するとともに、地盤1を掘削して生じた土砂とセメントミルクを攪拌することで掘削孔4内にソイルセメントを形成し、掘削孔4内に鋼管杭100を、起振力及び回転力を加えながら圧入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬質な地盤に好適な鋼管杭の挿入方法及びこの方法により構築された支持杭、摩擦杭に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、地盤耐力が小さい敷地において住宅等の建築物を構築する場合には、建築物を強固に支持できるように、建築物の下部に杭基礎が設けられている。住宅地等において施工する際には、周囲への騒音、振動が問題となるため、杭基礎として周囲にスパイラルウイングを取り付けた鋼管杭が用いられている(例えば、特許文献1参照)。かかる鋼管杭によれば、鋼管杭を地盤に回転圧入することで施工時の騒音、振動を抑えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許2592079号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、鋼管杭により十分な支持力を得るためには、鋼管杭の下端を支持層内に挿入しなければならない。支持層が硬質な場合や地中に障害物がある場合には、上記のような鋼管の周囲にスパイラルウイングを取り付けた鋼管杭であっても、支持層内に下端を挿入する際に、大きな回転トルクを鋼管杭にかける必要があり、大型の回転圧入機を用いなければならず、狭隘な敷地における施工に適さない。
【0005】
また、予め、支持層に到達するような孔を掘削しておき、この孔内に鋼管杭を挿入することも考えられるが、強固な地盤を掘削するためには大型な掘削装置が必要となり、狭隘な敷地における施工に適さない。
【0006】
本発明は、上記の問題に鑑みなされたものであり、狭隘かつ地盤が強固な敷地であっても適用可能な鋼管杭の挿入方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の鋼管杭挿入方法は、地盤に鋼管杭を挿入する方法であって、セメントミルクを噴射するとともに掘削ビットを振動させながら回転させることで地盤を削孔攪拌する削孔攪拌ステップと、前記削孔攪拌した部分に鋼管を挿入する鋼管挿入ステップとを備えることを特徴とする。
なお、上記の「セメントミルクを噴射するとともに掘削ビットを振動させながら回転させることで地盤を削孔攪拌する」とは、地盤にセメントミルクを噴射するとともに地盤を削孔攪拌する場合、及び、地盤を削工攪拌した後、セメントミルクを噴射しながら掘削土とセメントミルクを攪拌する場合を含む。
【0008】
上記の鋼管杭挿入方法において、前記削孔攪拌ステップでは、セメントミルクを噴射しながら地盤を削孔攪拌してもよい。また、前記鋼管挿入ステップでは、前記鋼管を振動させながら又は回転させながら挿入してもよい。
【0009】
また、前記鋼管は外周から突出する突出部を備えてもよく、前記地盤は下方に支持層を備え、前記鋼管挿入ステップでは、前記突出部が前記支持層の上部に当接し、又は、前記支持層内に埋設されるように鋼管を圧入してもよい。なお、本発明の支持杭は、上記の鋼管杭挿入方法により鋼管が地盤内に挿入されてなることを特徴とする。
また、上記の鋼管杭挿入方法において、前記鋼管は、突出部を複数備えてもよい。なお、本発明の摩擦杭は、上記の鋼管杭挿入方法により鋼管が地盤内に挿入されてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、掘削ビットに起振力を加えながら回転させることで地盤を掘削することで掘削孔を形成するため、小型の掘削装置であっても強固な地盤や地中に障害物がある地盤に掘削孔を形成することができ、さらに、掘削孔内に鋼管を挿入することとしたため、小型の圧入装置であっても鋼管を挿入することができる。このように小型の装置で施工可能であるため、狭隘であるとともに、地盤が強固であり又は地中に障害物があるような敷地であっても鋼管杭を挿入することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】圧入装置を示す図であり、(A)は地盤を掘削する際の状態を示し、(B)は鋼管杭を圧入する際の状態を示す。
【図2】掘削ビットの詳細な構成を示し、(A)は正面図、(B)は側面図、(C)は見上げ図である。
【図3】本実施形態で用いられる鋼管杭を示す図であり、(A)は正面図、(B)は見上げ図である。
【図4A】本実施形態の鋼管杭の挿入方法を説明するための図(その1)である。
【図4B】本実施形態の鋼管杭の挿入方法を説明するための図(その2)である。
【図4C】本実施形態の鋼管杭の挿入方法を説明するための図(その3)である。
【図4D】本実施形態の鋼管杭の挿入方法を説明するための図(その4)である。
【図5】本発明の鋼管杭の挿入方法により構築した摩擦杭を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の鋼管杭の挿入方法の一実施形態を図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本実施形態では、例えば、既存の鉄道の駅のホームなどの狭隘な敷地において施工する場合を例として説明する。
まず、本実施形態の鋼管杭の挿入方法において用いられる圧入装置について説明する。図1は圧入装置10を示す図であり、(A)は地盤を掘削する際の状態を示し、(B)は鋼管杭100を圧入する際の状態を示す。同図に示すように、圧入装置10はキャタピラからなる移動機構20と、移動機構20に載置された台座部30と、台座部30により鉛直に延びるように支持された案内部40と、案内部40に取り付けられた起振装置50と、起振装置50に接続されたロッド70と、ロッド70を回転させる回転装置60とを備える。
【0013】
起振装置50は、例えば、偏芯重錘を回転させることにより生じた起振力をロッド70に伝達する装置である。ロッド70に伝達する起振力は、上下方向又は横方向のうち少なくとも何れかの成分を含んでいればよいが、起振装置50を用いた場合には両方の成分を含むことになる。起振装置50は、ロッド70及び回転装置60とともに案内部40に沿って移動可能である。
回転装置60は、ロッド70にその軸を中心とした回転力を加える装置である。
【0014】
図1(A)に示すように、地盤を掘削する際には、起振装置50のロッド70の先端に掘削ビット80が取り付けられ、また、外部からロッド70の内部を通じて掘削ビット80の先端からセメントミルクを排出するセメントミルク供給装置90が接続される。
【0015】
図2は、掘削ビット80の詳細な構成を示し、(A)は正面図、(B)は側面図、(C)は見上げ図である。同図に示すように、掘削ビット80は、ロッド70に接続される軸部81と、軸部81の先端部に側方に延びるように取り付けられた掘削翼本体83と、掘削翼本体83に取り付けられたビット84と、外周に向かって延びるように軸部81に接続された複数の攪拌翼82と、軸部81の先端に取り付けられたビット85とを備える。セメントミルク供給装置90によりロッド70を通じて供給されたセメントミルクは、軸部81の先端から排出される。
【0016】
圧入装置10は、ロッド70の先端に掘削ビット80を取り付けた状態で、回転装置60によりロッド70を介して、掘削ビット80を回転させることで、掘削翼本体83に取り付けられたビット84により地盤を掘削することができる。また、セメントミルク供給装置90により、掘削孔内にセメントミルクを噴射するとともに、掘削ビット80が回転することで、攪拌翼82がセメントミルクと掘削土とを混合攪拌し、ソイルセメントを形成することができる。
【0017】
また、図1(B)に示すように、鋼管杭100を圧入する際には、ロッド70の先端にアタッチメント95を取り付ける。このアタッチメント95は、ロッド70の先端に着脱可能であるとともに、鋼管杭100の上部をロッド70と同軸上に保持可能なものである。
【0018】
図3は、本実施形態で用いられる鋼管杭100を示す図であり、(A)は正面図、(B)は下面図である。同図に示すように、鋼管杭100は、円筒状の鋼管杭本体105と、鋼管杭本体105の下端部に外周に沿って取り付けられた円環状の環状部120とを備えてなる。また、鋼管杭本体105は、複数の鋼管110が接続されてなる。
【0019】
図4A〜図4Dは、本実施形態の鋼管杭100の挿入方法を説明するための図である。
本実施形態では下部に強度の高い支持層3を備えた地盤1において鋼管杭100を圧入する場合について説明する。
まず、図4Aに示すように、圧入装置10のロッド70の先端に掘削ビット80を取り付けるとともに、セメントミルク供給装置90を圧入装置10に接続する。そして、回転装置60によりロッド70を介して掘削ビット80を毎分20〜60回転の速度で回転させながら、下端が支持層3の上部に到達するまで地盤1を掘削して掘削孔4を形成する。この際、起振装置50によりロッド70を介して掘削ビット80に例えば、20〜50Hz程度の起振力を加える。これにより、掘削ビット80が回転力及び起振力により地盤を掘削するため、掘削ビット80の切削効率が向上する。また、掘削ビット80から起振力が地盤1に伝達されることで、地盤1中の大きな礫や岩が振動により移動するため、地盤内に礫やコンクリートなど固化体といった障害物がある場合であっても容易に掘削を行える。
【0020】
また、上記の掘削作業と平行して、セメントミルク供給装置90により、ロッド70の内部を通じて掘削孔4内にセメントミルクを噴射する。掘削ビット80の下方の地盤1にはロッド70の先端からセメントミルクが噴射されるとともに掘削ビット80から起振力が伝達されることで、地盤1がセメントミルクを含んだ状態で振動することで液状化して軟化するため、掘削ビット80により容易に切削することができる。このように、圧入装置10によれば、起振装置50により起振力が加えられることで掘削孔4の掘削効率が向上する。
【0021】
そして、掘削ビット80により切削された土砂とロッド70の先端から噴射されたセメントミルクとが、攪拌翼82により攪拌されることで掘削孔4内にソイルセメントが形成される。
【0022】
次に、図4Bに示すように、圧入装置10から掘削ビット80及びセメントミルク供給装置90を撤去する。そして、ロッド70の先端にアタッチメント95を接続し、このアタッチメント95に鋼管杭100を構成する最下段の鋼管110を取り付ける。そして、圧入装置10によりソイルセメント5が満たされた掘削孔4内に最下段の鋼管110を圧入する。
【0023】
さらに、圧入した鋼管110の上部に新たに鋼管110を接続し、接続した鋼管110を圧入する。この際、圧入装置10の起振装置50により鋼管110に振動を加えるとともに、回転装置60によりロッド70を介して回転を加える。これにより、鋼管110の周囲のソイルセメントが液状化するため、鋼管110をスムーズに圧入することができる。
【0024】
次に、図4Cに示すように、鋼管杭100の下端が支持層3の上部まで達した後、さらに、環状部120が支持層3の上部に達するまで鋼管杭100を圧入する。この際、鋼管110の環状部120よりも下方の部分を支持層3に挿入するため、鋼管杭100の下端のビット120により支持層3の土砂を掘削しながら鋼管杭100を圧入する必要がある。これに対して、起振装置50により上下振動を加えるとともに回転装置60により回転力を加えながら鋼管110を圧入することで、上記の掘削ビット80により地盤1を掘削する場合と同様に掘削効率が向上するため、鋼管110の下部に設けられた掘削ビット80により強固な支持層3を掘削することができる。
そして、図4Dに示すように、環状部120が支持層3の上部に達するまで鋼管杭100を圧入した後、掘削孔4内に満たされたソイルセメント5が硬化することで、鋼管杭100の圧入作業が完了する。
【0025】
このようにして圧入された鋼管杭100によれば、支持層3の上部に環状部120が当接することで、鋼管杭本体105に作用する鉛直荷重に対して、鋼管杭本体105の下端に作用する支圧力及び鋼管杭本体105の周面摩擦力に加えて、環状部120に支持層3から作用する支圧力により抵抗する。このため、鋼管杭100の支持力が向上する。
【0026】
以上説明したように、本実施形態によれば、狭隘かつ、地盤が強固であり又は地中に障害物があるような敷地であっても、予め、掘削孔4を形成し、この掘削孔4内に鋼管杭100を挿入することとしたため、大型な圧入装置がなくても鋼管杭100を圧入することができる。
【0027】
また、掘削孔4を形成する際には、掘削ビット80を回転させるとともに、起振装置50により掘削ビット80に起振力を加えながら地盤1を掘削することしたため、小型の掘削装置であっても地盤が強固であり又は地中に障害物があるような敷地であっても、容易に地盤を掘削することができる。このため、地盤が強固な、あるいは地中に障害物がある狭隘な敷地であっても鋼管杭を圧入することができる。
【0028】
また、鋼管杭100を挿入する際、環状部120が支持層3の上部に達するように、鋼管杭100を圧入する必要があるが、この際、起振装置50により起振力を加えるとともに回転装置60により回転力を加えることで、掘削孔4を形成する際と同様にスムーズに鋼管杭100を挿入することができる。
【0029】
また、鋼管杭100として鋼管杭本体105の周囲に円環状の環状部120が設けられたものを用い、環状部120が支持層3の上部に当接するように鋼管杭100を埋設したため、図3(B)において斜線を付して示す環状部120の面積が支持面積となり、支持杭としての支持力を向上することができる。
【0030】
なお、本実施形態では、鋼管杭100を圧入する際に、回転力及び起振力を加えることとしたが、これに限らず、回転力又は起振力の何れかのみを加えることとしてもよいし、回転力及び起振力を加えずに圧入することとしてもよい。
また、本実施形態では、地盤改良装置10によりセメントミルクを噴射しながら、掘削ビット80を振動させながら回転させて地盤に掘削孔5を形成したが、これに限らず、水を噴射しながら掘削ビット80を振動させながら回転させて地盤を所定の深さまで削工攪拌した後、掘削ビット80を引き上げながらセメントミルクを掘削土内に噴射するとともに掘削ビット80を回転させて掘削土とセメントミルクとを攪拌することとしてもよい。
【0031】
また、本実施形態では、鋼管杭100として周囲に環状部120が取り付けられたものを用いたが、これに限らず、スパイラルウイングが取り付けられたものを用いてもよいし、要するに、鋼管本体から外周に向かって突出する突出部を備えた鋼管であればよい。さらに、環状部やスパイラルウイングが取り付けられていない鋼管杭を用いてもよい。また、鋼管杭100として鋼管杭本体105が複数の鋼管110が接続されてなるものを用いたが、これに限らず、一体のものを用いてもよい。
【0032】
また、本実施形態では、下端が支持層3の上部に到達するような掘削孔を形成するものとしたが、これに限らず、下端が支持層3まで到達していなくてもよく、また、下端が支持層3の内部まで到達していてもよい。
【0033】
また、本実施形態では、支持層3を備える地盤1において鋼管杭100を圧入する場合について説明したが、これに限らず、いかなる地盤であっても本発明を適用することができる。
例えば、図5に示すように、支持層が非常に深い場合には、上記の実施形態と同様に、地盤を削孔攪拌して掘削孔4内にセメントミルク5を形成した後、掘削孔5内に鋼管杭本体220の周囲に複数の環状部210が取り付けられた鋼管杭230を挿入する。そして、セメントミルク5が硬化することで、摩擦杭200を構築することができる。なお、かかる場合も鋼管杭本体220を複数の鋼管により構成してもよい。鋼管杭本体220を複数の鋼管により構成する場合には各鋼管の端部に環状部210を設けるとよい。
【符号の説明】
【0034】
1 地盤 3 支持層
4 掘削孔 5 ソイルセメント
10 圧入装置 20 移動機構
30 台座部 40 案内部
50 起振装置 60 回転装置
70 ロッド 80 掘削ビット
90 セメントミルク供給装置 95 アタッチメント
100 鋼管杭 105 鋼管杭本体
110 鋼管 120 環状部
130 ビット 200 摩擦杭

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤に鋼管杭を挿入する方法であって、
セメントミルクを噴射するとともに掘削ビットを振動させながら回転させることで地盤を削孔攪拌する削孔攪拌ステップと、
前記削孔攪拌した部分に鋼管を挿入する鋼管挿入ステップとを備えることを特徴とする鋼管杭挿入方法。
【請求項2】
請求項1記載の鋼管杭挿入方法であって、
前記削孔攪拌ステップでは、
セメントミルクを噴射しながら地盤を削孔攪拌することを特徴とする鋼管杭挿入方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の鋼管杭挿入方法であって、
前記鋼管挿入ステップでは、前記鋼管を振動させながら又は回転させながら挿入することを特徴とする鋼管杭挿入方法。
【請求項4】
請求項1から3のうち何れか1項に記載の鋼管杭挿入方法であって、
前記鋼管は外周から突出する突出部を備えることを特徴とする鋼管杭挿入方法。
【請求項5】
請求項4記載の鋼管杭挿入方法であって、
前記地盤は下方に支持層を備え、
前記鋼管挿入ステップでは、前記突出部が前記支持層の上部に当接し、又は、前記支持層内に埋設されるように鋼管を圧入することを特徴とする鋼管杭挿入方法。
【請求項6】
請求項4記載の鋼管杭挿入方法であって、
前記鋼管は、突出部を複数備えることを特徴とする鋼管挿入方法。
【請求項7】
請求項5記載の鋼管杭挿入方法により鋼管が地盤内に挿入されてなることを特徴とする支持杭。
【請求項8】
請求項6記載の鋼管杭挿入方法により鋼管が地盤内に挿入されてなることを特徴とする摩擦杭。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−74726(P2011−74726A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−229906(P2009−229906)
【出願日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【出願人】(507234357)立正工業株式会社 (12)
【出願人】(509235545)株式会社SEET (7)
【出願人】(504365799)株式会社特殊構工法計画研究所 (26)
【Fターム(参考)】