鋼管杭の接続構造
【課題】ねじ込み式鋼管杭の接続構造に好適で溶接作業が困難な場所で鋼管杭同士を接続する鋼管杭の接続構造を提供する。
【解決手段】上下鋼管杭の接続端部の夫々に同一寸法形状となる略レ型の切欠き部を一方向に連続して複数設け、前記複数の切欠き部の長片に取り付けた板状部材をフランジとしてボルト結合する。
【解決手段】上下鋼管杭の接続端部の夫々に同一寸法形状となる略レ型の切欠き部を一方向に連続して複数設け、前記複数の切欠き部の長片に取り付けた板状部材をフランジとしてボルト結合する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は施工時間の短縮が可能で、かつ溶接作業が困難な場所で鋼管杭同士を接続する鋼管杭の接続構造に関し、特にねじ込み式鋼管杭の接続構造に好適なものに関する。
【背景技術】
【0002】
軟弱地盤で支持層が深い場所において大きな支持力を確保しようとする場合、支持層まで貫入した杭基礎を用いることが多い。杭体としてはコンクリート杭や鋼管などが用いられるが、輸送や施工上の制約から1本の杭あたり15m程度の長さが限度であり、それ以上まで深く施工する場合には杭同士を杭軸方向に接合する必要がある。
【0003】
鋼管杭同士を接合する場合、接合部外周を溶接することが多いが、その場合、杭の施工現場での溶接作業が必要となるため溶接工の確保、溶接時間によるコストアップ、溶接部の品質管理が問題となることがある。また、メタンガスなど可燃性ガスが発生する工事現場では溶接は禁止される。そのため溶接を行わずに鋼管杭同士を接続する様々な機械式継手が開発されている。
【0004】
例えば、特許文献1は鋼管端部に鋼管径より大径の円板を取り付け、杭周囲からはみ出るフランジ部分をボルト結合し、更に、フランジと嵌合する断面がコの字の外嵌リングの締付により鋼管同士を結合する構造を提案している。
【0005】
特許文献2は鋼管端部のフランジ同士を付きあわせた後、フランジ同士の突き合わせ部をその外周側からテーパ面で内接する内リングと外リングで締め付けて、上下杭の芯合わせ、及び係合を容易に行う接合構造を提案している。
【0006】
特許文献3は接続する鋼管端部の夫々に、キー機構で結合して一体となる円筒を雄または雌円筒に分けて取り付け、先端側の嵌合面に円弧板状突起からなるキー部材を設けた雄円筒を、雌円筒に挿入後鋼管を回動させて前記キー部材を雌円筒のキー溝形成部に挿入させて接続する接合構造を提案している。
【0007】
杭の継手に要求される機械的な性能は、軸圧縮力、引張力、曲げ、せん断を十分に伝達することであるが、基礎用杭の施工法として回転貫入工法を用いる場合、地上部においてねじ込み式鋼管杭(回転貫入杭と言う場合がある。)の端部に回転トルクをかけるため、継手には、杭長方向を接続する他に、当該回転トルクを十分に伝達する機能が要求される。
【0008】
特許文献4は、回転押圧式に打設する鋼管杭の継手構造に関し、接合部において上下の鋼管の端部間に隙間を設け、当該接合部を覆うスリーブの外側から円周方向等間隔にボルトを隙間内に挿入し、上下の鋼管に亘る長さを有する支持ブロックに前記ボルトを螺着させて前記支持ブロックとスリーブを締結して上下の鋼管を接続することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平08−41871号公報
【特許文献2】特開2009−191522公報
【特許文献3】特開2006−28913号公報
【特許文献4】特開2006−299665公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1、特許文献2記載の方法では継手を介して回転トルクを十分に伝達することができないため、過大なトルクの作用する回転貫入鋼管杭に用いることはできない。更に、特許文献1記載の方法においてフランジ継手はフランジ部が杭径よりも大きくなるため貫入時の抵抗となり、施工性が悪くなる。またフランジ部がフリクションカットの役割を果すので、杭の周面摩擦力が低下し、供用時の支持力が低下する問題がある。特許文献3記載の継手は嵌合部の構造が複雑で、継手部の加工コストが大きくなる。
【0011】
特許文献4の方法では順方向の回転に対してはトルクを伝達するが、逆方向の回転(引きぬき方向)に対してはトルクを伝達するのに十分な継手性能ではなく、逆回転による引抜きを考慮した回転貫入に対して適した継手とは言えない。
【0012】
そこで、本発明は上記問題点を解決した鋼管杭継手を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題は以下の手段で達成可能である。
1.上下鋼管杭の接続端部に設けたフランジ同士をボルト結合する鋼管杭の接続構造であって、前記上下鋼管杭の接続端部の夫々には同一寸法形状となる略レ型の切欠き部が一方向に連続して複数設けられ、前記上下鋼管杭の接続端部に設けたフランジは前記複数の切欠き部の長片に取り付けられた板状部材よりなることを特徴とする鋼管杭の接続構造。
2.前記板状部材は、円板を前記接続端部における略レ型の切欠き部の数で分割した形状で、複数の略レ型の切欠き部の長辺に、板状部材で上下鋼管杭の外周側となる外縁が上下鋼管杭の接続構造の径方向において、略円形の一部となるように取り付けられていることを特徴とする1記載の鋼管杭の接続構造。
3.前記円板が、管内土が通過できる中心部を有する環状の円板であることを特徴とする2記載の鋼管杭の接続構造。
4.上下鋼管杭の接続端部に設けたフランジ同士をボルト結合する鋼管杭の接続構造であって、前記上下鋼管杭の接続端部の夫々は互いに噛み合う螺旋状で、前記上下鋼管杭の接続端部に設けたフランジは前記螺旋状の接続端部に沿って取り付けられた板状部材よりなることを特徴とする鋼管杭の接続構造。
5.上下鋼管杭の径が異なることを特徴とする1乃至4の何れか一つに記載の鋼管杭の接続構造。
6.上下鋼管杭の接続端部に設けたフランジ同士を沈頭構造でボルト結合することを特徴とする1乃至5の何れか一つに記載の鋼管杭の接続構造。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば以下の効果が得られ、産業上極めて有用である。
1.フランジ部が傾斜しているので、施工時には回転貫入杭の回転翼のように周辺地盤をらせん状に切り進み、推進力を発生させる。
2.回転貫入杭の回転翼の切進みピッチと傾斜したフランジの切り進みピッチを同じとすれば回転貫入時にフランジ部への抵抗が小さくなり、施工性への影響も小さい。
3.また、地盤を押し分けるのではなく切り進むため、周辺地盤との付着切れは少なく、周面摩擦も十分に確保できる。
4.さらに基礎杭としての供用時、地震などで支持力の発揮が必要な際にはフランジ部が抵抗して鉛直荷重を周面地盤に伝達するため、大きな支持力を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施例に係る鋼管杭の接続構造における鋼管杭の端部の形状を示す図。
【図2】本発明の一実施例に係る鋼管杭の接続構造における鋼管杭の端部の形状を示す図。
【図3】本発明の一実施例に係る鋼管杭の接続構造における板状部材を説明する図。
【図4】本発明の一実施例に係る鋼管杭の接続構造における板状部材を説明する図。
【図5】本発明の一実施例に係る鋼管杭の接続構造で上方の鋼管杭の端部の構造を説明する図。
【図6】本発明の一実施例に係る鋼管杭の接続構造で上方と下方の鋼管杭の端部を対向配置した状態を説明する図。
【図7】図6で対向配置した上方と下方の鋼管杭の端部を接続した状態を示す図。
【図8】螺旋状とした鋼管杭の端部に板状部材を取り付けて、対向配置した状態を示す図。
【図9】本発明の一実施例に係る鋼管杭の接続構造を下方の鋼管杭がねじ込み式鋼管杭の場合に適用した図。
【図10】図6に示した鋼管杭の接続構造の側面図。
【図11】図7に示した鋼管杭の接続構造でボルト接合した場合の側面図。
【図12】枕頭構造としてボルト結合したフランジ部を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る鋼管杭の接続構造は、フランジ部を杭軸に対して斜めに構成することを特徴とする。以下、図面を用いて本発明を詳細に説明する。
【0017】
図1は本発明の一実施例に係る鋼管杭の接続構造における鋼管杭1の端部の形状を示し、同一寸法形状となる略レ型の切欠き部が一方向に連続して2つ設けられている場合、図2は略レ型の切欠き部が一方向に連続して4つ設けられている場合を示す。
【0018】
図示した鋼管杭1の端部において切欠き部は短辺4a(4b、4c、4d)は杭軸方向、長辺3a(3b、3c、3d)は杭軸方向に対して斜めに加工されている。
【0019】
本発明に係る鋼管杭の接続構造では、フランジ部を、杭軸方向に対して斜めに加工されている切欠き部の長片に板状部材を溶接などで取り付けて構成する。板状部材の形状は、鋼管杭を地中にねじ込む際の抵抗が少ない形状であれば良く特に規定しない。
【0020】
鋼管杭の端部における切欠き部の数で円板を分割した形状とすると鋼管杭を地中にねじ込む際の抵抗が少なくなり好ましい。図4(a)に接続端部における略レ型の切欠き部が2つの場合(図1の鋼管の場合)に、フランジとして用いる半円状の板状部材5a、5bを示す。板状部材5a,5bにはフランジ同士をボルト結合するためのボルト孔8a,8bを複数設ける。
【0021】
図は板状部材5a、5bを略レ型の切欠き部の長辺(図示しない)に取り付けた状態を示し、板状部材5a、5bは杭軸方向で交差している。
【0022】
図4(b)に接続端部における略レ型の切欠き部が4つの場合(図2の鋼管の場合)に、フランジとして用いる扇状の板状部材5c、5d、5e、5fを示す。板状部材5c、5d、5e、5fにはフランジ同士をボルト結合するためのボルト孔8c、8d、8e、8fを複数設ける。
【0023】
図は板状部材5c、5d、5e、5fを略レ型の切欠き部の長辺(図示しない)に取り付けた状態を示し、板状部材5c、5d、5e、5fは杭軸方向で交差している。
杭先端が開放されている場合には、施工時に鋼管内に土砂が入り込むが、施工性を向上させるため管内土が継手部を通過できるようにする場合は、板状部材5a、5bに分割する円板を管内土が通過できる中心部を有する環状の円板とする(図3)。
【0024】
板状部材を鋼管杭端部の切欠き部の長辺に取り付ける場合は、取り付けられた複数の板状部材の外側(鋼管杭の外周側となる外縁)を結ぶ仮想線が上下鋼管杭の接続構造の径方向において、略円形を描くように取り付ける。個々の板状部材の外縁は、上記略円形の一部となる。
【0025】
図5〜7に本発明に係る鋼管杭の接続構造を構成する手順を上下鋼管杭の径が異なる拡頭継手の場合について示す。まず、ボルト孔8a,8bを有する半円状の板状部材5a、5bを上述した方法で鋼管杭1の鋼管端部の切欠き部の長辺に取り付ける(図5)。
【0026】
上下鋼管杭の径が異なる場合、半円状の板状部材5a、5bを切欠き部に取り付けると、段差部(切欠き部の短辺側)に杭径差に応じた開口部ができるので、フランジを強固に接着するには開口部に閉塞板7を取り付け、板状部材5a、5bを鋼管杭内側で結合することが好ましい。但し、上下鋼管杭をボルト結合で接続する段階では切欠き部の噛み合せが重要となるので、閉塞板7が悪影響を及ぼす場合には取り付けない。
【0027】
次に、フランジとして半円状の板状部材5a、5bを取り付けた鋼管杭1を上の鋼管杭とし、同様の方法で、半円状の板状部材6a、6bを取り付けた鋼管杭2を下の鋼管杭として、夫々の杭端部に加工された切欠き部が噛み合うように対向配置後(図6)、半円状の、板状部材5a、5bと板状部材6a、6bを重ね合わせてフランジ部とし、ボルト9でボルト結合する(図7)。図10に、図6に示した対向配置した上下の鋼管杭の側面図を、図11に、図7に示したフランジをボルト結合した上下の鋼管杭の側面図を示す。
【0028】
本発明に係る鋼管杭の接続構造では、フランジ部を構成する板状部材がプロペラ状に、杭軸方向に対して斜めで、互いに交差するように杭端部に取り付けられるので鋼管杭を地中にねじ込んだ場合、フランジ部が周面地盤を切り進む推進力を作用させる翼としての役割を果す。
【0029】
図9は上下鋼管杭のうち、下方となる鋼管杭2がねじ込み式鋼管杭の場合を示し、ねじ込み式鋼管杭2の回転翼10a,10bの回転ピッチと切欠き部に取り付けた板状部材5a,5bの回転ピッチが同じとなるように、切欠き部の形状を選定すると、鋼管杭2のねじ込み貫入がスムーズとなり好ましい。杭の途中に推進用の翼を別途設けてもよい。
【0030】
拡頭継手の場合、フランジ部で切欠き部の杭軸方向の短辺が段差部となるので、鋼管杭が周面地盤で支持される。そのため、順回転方向(フランジ部を右ねじとなるように構成した場合の時計方向でねじ込み貫入方向)に回転トルクを負荷させても杭軸が鉛直方向から傾かず、鋼管杭を地中にねじ込む回転駆動装置からの回転トルクが鋼管杭に良好に伝達される。
【0031】
なお、フランジをボルト結合する際に用いるボルト9の本数、呼び径、締め付け力は上下鋼管杭の接続部に作用する軸引張力、せん断、曲げ、回転トルクに対して十分な強度を有するように選定する。例えばφ600×t12(mm)の鋼管杭同士を接合する場合、M18のボルトを両方のフランジに等間隔で6本ずつ、計12本を締め付けることで接合すると良い。フランジの面には摩擦力を増大させるような加工を施すのも良い。
【0032】
フランジ部は回転貫入時に回転翼として作用するので、フランジ部のボルト孔8は座ぐり孔とし、ボルト9の頭部のナット10を埋め込む構造(沈頭構造)とすると、フランジ周辺の土砂の流動がスムーズとなり好ましい(図12)。
【0033】
以上の説明は、上下の鋼管杭端部に切欠き部を複数設ける場合について行ったが、杭端部を螺旋状としても良い。但し、杭端部の螺旋は上下の鋼管杭端部を接続した場合、上下の鋼管杭の杭軸が直線となるように設ける。図8に上方の鋼管杭1と下方の鋼管杭2の端部を螺旋状とし、それぞれの端部に螺旋状の板状部材5、6を取り付けた接続構造を示す。
下方の鋼管杭2がねじ込み式鋼管杭の場合、鋼管端部の螺旋のピッチとねじ込み式鋼管杭のピッチを同じとすると、ねじ込み貫入がスムーズで望ましい。
【0034】
尚、本発明に係る鋼管杭の接続構造は、回転杭のみならず、中堀杭やプレボーリング杭などにも適用できる。
【符号の説明】
【0035】
1 鋼管杭(上方)
2 鋼管杭(下方)
3a、3b、3c、3d 長辺
4a、4b、4c、4d 短辺
5、5a、5b 板状部材(上方)
6、6a、6b 板状部材(下方)
7 閉塞板
8、8a,8b ボルト孔
9 ボルト
10 ナット
10a,10b 回転翼
【技術分野】
【0001】
本発明は施工時間の短縮が可能で、かつ溶接作業が困難な場所で鋼管杭同士を接続する鋼管杭の接続構造に関し、特にねじ込み式鋼管杭の接続構造に好適なものに関する。
【背景技術】
【0002】
軟弱地盤で支持層が深い場所において大きな支持力を確保しようとする場合、支持層まで貫入した杭基礎を用いることが多い。杭体としてはコンクリート杭や鋼管などが用いられるが、輸送や施工上の制約から1本の杭あたり15m程度の長さが限度であり、それ以上まで深く施工する場合には杭同士を杭軸方向に接合する必要がある。
【0003】
鋼管杭同士を接合する場合、接合部外周を溶接することが多いが、その場合、杭の施工現場での溶接作業が必要となるため溶接工の確保、溶接時間によるコストアップ、溶接部の品質管理が問題となることがある。また、メタンガスなど可燃性ガスが発生する工事現場では溶接は禁止される。そのため溶接を行わずに鋼管杭同士を接続する様々な機械式継手が開発されている。
【0004】
例えば、特許文献1は鋼管端部に鋼管径より大径の円板を取り付け、杭周囲からはみ出るフランジ部分をボルト結合し、更に、フランジと嵌合する断面がコの字の外嵌リングの締付により鋼管同士を結合する構造を提案している。
【0005】
特許文献2は鋼管端部のフランジ同士を付きあわせた後、フランジ同士の突き合わせ部をその外周側からテーパ面で内接する内リングと外リングで締め付けて、上下杭の芯合わせ、及び係合を容易に行う接合構造を提案している。
【0006】
特許文献3は接続する鋼管端部の夫々に、キー機構で結合して一体となる円筒を雄または雌円筒に分けて取り付け、先端側の嵌合面に円弧板状突起からなるキー部材を設けた雄円筒を、雌円筒に挿入後鋼管を回動させて前記キー部材を雌円筒のキー溝形成部に挿入させて接続する接合構造を提案している。
【0007】
杭の継手に要求される機械的な性能は、軸圧縮力、引張力、曲げ、せん断を十分に伝達することであるが、基礎用杭の施工法として回転貫入工法を用いる場合、地上部においてねじ込み式鋼管杭(回転貫入杭と言う場合がある。)の端部に回転トルクをかけるため、継手には、杭長方向を接続する他に、当該回転トルクを十分に伝達する機能が要求される。
【0008】
特許文献4は、回転押圧式に打設する鋼管杭の継手構造に関し、接合部において上下の鋼管の端部間に隙間を設け、当該接合部を覆うスリーブの外側から円周方向等間隔にボルトを隙間内に挿入し、上下の鋼管に亘る長さを有する支持ブロックに前記ボルトを螺着させて前記支持ブロックとスリーブを締結して上下の鋼管を接続することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平08−41871号公報
【特許文献2】特開2009−191522公報
【特許文献3】特開2006−28913号公報
【特許文献4】特開2006−299665公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1、特許文献2記載の方法では継手を介して回転トルクを十分に伝達することができないため、過大なトルクの作用する回転貫入鋼管杭に用いることはできない。更に、特許文献1記載の方法においてフランジ継手はフランジ部が杭径よりも大きくなるため貫入時の抵抗となり、施工性が悪くなる。またフランジ部がフリクションカットの役割を果すので、杭の周面摩擦力が低下し、供用時の支持力が低下する問題がある。特許文献3記載の継手は嵌合部の構造が複雑で、継手部の加工コストが大きくなる。
【0011】
特許文献4の方法では順方向の回転に対してはトルクを伝達するが、逆方向の回転(引きぬき方向)に対してはトルクを伝達するのに十分な継手性能ではなく、逆回転による引抜きを考慮した回転貫入に対して適した継手とは言えない。
【0012】
そこで、本発明は上記問題点を解決した鋼管杭継手を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題は以下の手段で達成可能である。
1.上下鋼管杭の接続端部に設けたフランジ同士をボルト結合する鋼管杭の接続構造であって、前記上下鋼管杭の接続端部の夫々には同一寸法形状となる略レ型の切欠き部が一方向に連続して複数設けられ、前記上下鋼管杭の接続端部に設けたフランジは前記複数の切欠き部の長片に取り付けられた板状部材よりなることを特徴とする鋼管杭の接続構造。
2.前記板状部材は、円板を前記接続端部における略レ型の切欠き部の数で分割した形状で、複数の略レ型の切欠き部の長辺に、板状部材で上下鋼管杭の外周側となる外縁が上下鋼管杭の接続構造の径方向において、略円形の一部となるように取り付けられていることを特徴とする1記載の鋼管杭の接続構造。
3.前記円板が、管内土が通過できる中心部を有する環状の円板であることを特徴とする2記載の鋼管杭の接続構造。
4.上下鋼管杭の接続端部に設けたフランジ同士をボルト結合する鋼管杭の接続構造であって、前記上下鋼管杭の接続端部の夫々は互いに噛み合う螺旋状で、前記上下鋼管杭の接続端部に設けたフランジは前記螺旋状の接続端部に沿って取り付けられた板状部材よりなることを特徴とする鋼管杭の接続構造。
5.上下鋼管杭の径が異なることを特徴とする1乃至4の何れか一つに記載の鋼管杭の接続構造。
6.上下鋼管杭の接続端部に設けたフランジ同士を沈頭構造でボルト結合することを特徴とする1乃至5の何れか一つに記載の鋼管杭の接続構造。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば以下の効果が得られ、産業上極めて有用である。
1.フランジ部が傾斜しているので、施工時には回転貫入杭の回転翼のように周辺地盤をらせん状に切り進み、推進力を発生させる。
2.回転貫入杭の回転翼の切進みピッチと傾斜したフランジの切り進みピッチを同じとすれば回転貫入時にフランジ部への抵抗が小さくなり、施工性への影響も小さい。
3.また、地盤を押し分けるのではなく切り進むため、周辺地盤との付着切れは少なく、周面摩擦も十分に確保できる。
4.さらに基礎杭としての供用時、地震などで支持力の発揮が必要な際にはフランジ部が抵抗して鉛直荷重を周面地盤に伝達するため、大きな支持力を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施例に係る鋼管杭の接続構造における鋼管杭の端部の形状を示す図。
【図2】本発明の一実施例に係る鋼管杭の接続構造における鋼管杭の端部の形状を示す図。
【図3】本発明の一実施例に係る鋼管杭の接続構造における板状部材を説明する図。
【図4】本発明の一実施例に係る鋼管杭の接続構造における板状部材を説明する図。
【図5】本発明の一実施例に係る鋼管杭の接続構造で上方の鋼管杭の端部の構造を説明する図。
【図6】本発明の一実施例に係る鋼管杭の接続構造で上方と下方の鋼管杭の端部を対向配置した状態を説明する図。
【図7】図6で対向配置した上方と下方の鋼管杭の端部を接続した状態を示す図。
【図8】螺旋状とした鋼管杭の端部に板状部材を取り付けて、対向配置した状態を示す図。
【図9】本発明の一実施例に係る鋼管杭の接続構造を下方の鋼管杭がねじ込み式鋼管杭の場合に適用した図。
【図10】図6に示した鋼管杭の接続構造の側面図。
【図11】図7に示した鋼管杭の接続構造でボルト接合した場合の側面図。
【図12】枕頭構造としてボルト結合したフランジ部を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る鋼管杭の接続構造は、フランジ部を杭軸に対して斜めに構成することを特徴とする。以下、図面を用いて本発明を詳細に説明する。
【0017】
図1は本発明の一実施例に係る鋼管杭の接続構造における鋼管杭1の端部の形状を示し、同一寸法形状となる略レ型の切欠き部が一方向に連続して2つ設けられている場合、図2は略レ型の切欠き部が一方向に連続して4つ設けられている場合を示す。
【0018】
図示した鋼管杭1の端部において切欠き部は短辺4a(4b、4c、4d)は杭軸方向、長辺3a(3b、3c、3d)は杭軸方向に対して斜めに加工されている。
【0019】
本発明に係る鋼管杭の接続構造では、フランジ部を、杭軸方向に対して斜めに加工されている切欠き部の長片に板状部材を溶接などで取り付けて構成する。板状部材の形状は、鋼管杭を地中にねじ込む際の抵抗が少ない形状であれば良く特に規定しない。
【0020】
鋼管杭の端部における切欠き部の数で円板を分割した形状とすると鋼管杭を地中にねじ込む際の抵抗が少なくなり好ましい。図4(a)に接続端部における略レ型の切欠き部が2つの場合(図1の鋼管の場合)に、フランジとして用いる半円状の板状部材5a、5bを示す。板状部材5a,5bにはフランジ同士をボルト結合するためのボルト孔8a,8bを複数設ける。
【0021】
図は板状部材5a、5bを略レ型の切欠き部の長辺(図示しない)に取り付けた状態を示し、板状部材5a、5bは杭軸方向で交差している。
【0022】
図4(b)に接続端部における略レ型の切欠き部が4つの場合(図2の鋼管の場合)に、フランジとして用いる扇状の板状部材5c、5d、5e、5fを示す。板状部材5c、5d、5e、5fにはフランジ同士をボルト結合するためのボルト孔8c、8d、8e、8fを複数設ける。
【0023】
図は板状部材5c、5d、5e、5fを略レ型の切欠き部の長辺(図示しない)に取り付けた状態を示し、板状部材5c、5d、5e、5fは杭軸方向で交差している。
杭先端が開放されている場合には、施工時に鋼管内に土砂が入り込むが、施工性を向上させるため管内土が継手部を通過できるようにする場合は、板状部材5a、5bに分割する円板を管内土が通過できる中心部を有する環状の円板とする(図3)。
【0024】
板状部材を鋼管杭端部の切欠き部の長辺に取り付ける場合は、取り付けられた複数の板状部材の外側(鋼管杭の外周側となる外縁)を結ぶ仮想線が上下鋼管杭の接続構造の径方向において、略円形を描くように取り付ける。個々の板状部材の外縁は、上記略円形の一部となる。
【0025】
図5〜7に本発明に係る鋼管杭の接続構造を構成する手順を上下鋼管杭の径が異なる拡頭継手の場合について示す。まず、ボルト孔8a,8bを有する半円状の板状部材5a、5bを上述した方法で鋼管杭1の鋼管端部の切欠き部の長辺に取り付ける(図5)。
【0026】
上下鋼管杭の径が異なる場合、半円状の板状部材5a、5bを切欠き部に取り付けると、段差部(切欠き部の短辺側)に杭径差に応じた開口部ができるので、フランジを強固に接着するには開口部に閉塞板7を取り付け、板状部材5a、5bを鋼管杭内側で結合することが好ましい。但し、上下鋼管杭をボルト結合で接続する段階では切欠き部の噛み合せが重要となるので、閉塞板7が悪影響を及ぼす場合には取り付けない。
【0027】
次に、フランジとして半円状の板状部材5a、5bを取り付けた鋼管杭1を上の鋼管杭とし、同様の方法で、半円状の板状部材6a、6bを取り付けた鋼管杭2を下の鋼管杭として、夫々の杭端部に加工された切欠き部が噛み合うように対向配置後(図6)、半円状の、板状部材5a、5bと板状部材6a、6bを重ね合わせてフランジ部とし、ボルト9でボルト結合する(図7)。図10に、図6に示した対向配置した上下の鋼管杭の側面図を、図11に、図7に示したフランジをボルト結合した上下の鋼管杭の側面図を示す。
【0028】
本発明に係る鋼管杭の接続構造では、フランジ部を構成する板状部材がプロペラ状に、杭軸方向に対して斜めで、互いに交差するように杭端部に取り付けられるので鋼管杭を地中にねじ込んだ場合、フランジ部が周面地盤を切り進む推進力を作用させる翼としての役割を果す。
【0029】
図9は上下鋼管杭のうち、下方となる鋼管杭2がねじ込み式鋼管杭の場合を示し、ねじ込み式鋼管杭2の回転翼10a,10bの回転ピッチと切欠き部に取り付けた板状部材5a,5bの回転ピッチが同じとなるように、切欠き部の形状を選定すると、鋼管杭2のねじ込み貫入がスムーズとなり好ましい。杭の途中に推進用の翼を別途設けてもよい。
【0030】
拡頭継手の場合、フランジ部で切欠き部の杭軸方向の短辺が段差部となるので、鋼管杭が周面地盤で支持される。そのため、順回転方向(フランジ部を右ねじとなるように構成した場合の時計方向でねじ込み貫入方向)に回転トルクを負荷させても杭軸が鉛直方向から傾かず、鋼管杭を地中にねじ込む回転駆動装置からの回転トルクが鋼管杭に良好に伝達される。
【0031】
なお、フランジをボルト結合する際に用いるボルト9の本数、呼び径、締め付け力は上下鋼管杭の接続部に作用する軸引張力、せん断、曲げ、回転トルクに対して十分な強度を有するように選定する。例えばφ600×t12(mm)の鋼管杭同士を接合する場合、M18のボルトを両方のフランジに等間隔で6本ずつ、計12本を締め付けることで接合すると良い。フランジの面には摩擦力を増大させるような加工を施すのも良い。
【0032】
フランジ部は回転貫入時に回転翼として作用するので、フランジ部のボルト孔8は座ぐり孔とし、ボルト9の頭部のナット10を埋め込む構造(沈頭構造)とすると、フランジ周辺の土砂の流動がスムーズとなり好ましい(図12)。
【0033】
以上の説明は、上下の鋼管杭端部に切欠き部を複数設ける場合について行ったが、杭端部を螺旋状としても良い。但し、杭端部の螺旋は上下の鋼管杭端部を接続した場合、上下の鋼管杭の杭軸が直線となるように設ける。図8に上方の鋼管杭1と下方の鋼管杭2の端部を螺旋状とし、それぞれの端部に螺旋状の板状部材5、6を取り付けた接続構造を示す。
下方の鋼管杭2がねじ込み式鋼管杭の場合、鋼管端部の螺旋のピッチとねじ込み式鋼管杭のピッチを同じとすると、ねじ込み貫入がスムーズで望ましい。
【0034】
尚、本発明に係る鋼管杭の接続構造は、回転杭のみならず、中堀杭やプレボーリング杭などにも適用できる。
【符号の説明】
【0035】
1 鋼管杭(上方)
2 鋼管杭(下方)
3a、3b、3c、3d 長辺
4a、4b、4c、4d 短辺
5、5a、5b 板状部材(上方)
6、6a、6b 板状部材(下方)
7 閉塞板
8、8a,8b ボルト孔
9 ボルト
10 ナット
10a,10b 回転翼
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下鋼管杭の接続端部に設けたフランジ同士をボルト結合する鋼管杭の接続構造であって、前記上下鋼管杭の接続端部の夫々には同一寸法形状となる略レ型の切欠き部が一方向に連続して複数設けられ、前記上下鋼管杭の接続端部に設けたフランジは前記複数の切欠き部の長片に取り付けられた板状部材よりなることを特徴とする鋼管杭の接続構造。
【請求項2】
前記板状部材は、円板を前記接続端部における略レ型の切欠き部の数で分割した形状で、複数の略レ型の切欠き部の長辺に、板状部材で上下鋼管杭の外周側となる外縁が上下鋼管杭の接続構造の径方向において、略円形の一部となるように取り付けられていることを特徴とする請求項1記載の鋼管杭の接続構造。
【請求項3】
前記円板が、管内土が通過できる中心部を有する環状の円板であることを特徴とする請求項2記載の鋼管杭の接続構造。
【請求項4】
上下鋼管杭の接続端部に設けたフランジ同士をボルト結合する鋼管杭の接続構造であって、前記上下鋼管杭の接続端部の夫々は互いに噛み合う螺旋状で、前記上下鋼管杭の接続端部に設けたフランジは前記螺旋状の接続端部に沿って取り付けられた板状部材よりなることを特徴とする鋼管杭の接続構造。
【請求項5】
上下鋼管杭の径が異なることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一つに記載の鋼管杭の接続構造。
【請求項6】
上下鋼管杭の接続端部に設けたフランジ同士を沈頭構造でボルト結合することを特徴とする請求項1乃至5の何れか一つに記載の鋼管杭の接続構造。
【請求項1】
上下鋼管杭の接続端部に設けたフランジ同士をボルト結合する鋼管杭の接続構造であって、前記上下鋼管杭の接続端部の夫々には同一寸法形状となる略レ型の切欠き部が一方向に連続して複数設けられ、前記上下鋼管杭の接続端部に設けたフランジは前記複数の切欠き部の長片に取り付けられた板状部材よりなることを特徴とする鋼管杭の接続構造。
【請求項2】
前記板状部材は、円板を前記接続端部における略レ型の切欠き部の数で分割した形状で、複数の略レ型の切欠き部の長辺に、板状部材で上下鋼管杭の外周側となる外縁が上下鋼管杭の接続構造の径方向において、略円形の一部となるように取り付けられていることを特徴とする請求項1記載の鋼管杭の接続構造。
【請求項3】
前記円板が、管内土が通過できる中心部を有する環状の円板であることを特徴とする請求項2記載の鋼管杭の接続構造。
【請求項4】
上下鋼管杭の接続端部に設けたフランジ同士をボルト結合する鋼管杭の接続構造であって、前記上下鋼管杭の接続端部の夫々は互いに噛み合う螺旋状で、前記上下鋼管杭の接続端部に設けたフランジは前記螺旋状の接続端部に沿って取り付けられた板状部材よりなることを特徴とする鋼管杭の接続構造。
【請求項5】
上下鋼管杭の径が異なることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一つに記載の鋼管杭の接続構造。
【請求項6】
上下鋼管杭の接続端部に設けたフランジ同士を沈頭構造でボルト結合することを特徴とする請求項1乃至5の何れか一つに記載の鋼管杭の接続構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−112953(P2013−112953A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−258437(P2011−258437)
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】
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