説明

鋼管杭の溶接装置

【課題】鋼管杭の自動溶接装置において、アーク発生部材を備えた自走装置を、鋼管杭の周面に沿って円滑に移動させること。
【解決手段】ノズル322を備えた自走装置3のガイドロールGR3は、鋼管杭KP1に取付けたガイドレール2の凹状部211に沿って移動する。また自走装置3は、車輪TR21,TR22とサポートアーム341の端部の補助車輪TR3により鋼管杭KP1を挟むように鋼管杭KP1に移動可能に取付けてある。自走装置3は、モータを駆動すると車輪TR21,TR22が回転して鋼管杭KP1の周面を移動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、鋼管杭の溶接装置に関し、特に埋設した鋼管杭に別の鋼管杭を継ぎ足して接続する作業に適した鋼管杭の溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来埋設した鋼管杭に別の鋼管杭を継ぎ足す場合、アーク溶接によって両鋼管杭を接続する方法が採られている。その溶接の際、アーク発生部材、例えばトーチ、ノズル等を備えた自走装置を溶接線に沿って自走させる、いわゆる自走型の溶接装置が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
図7により従来の鋼管杭の溶接装置を説明する。
図7(a)は、側面図、図7(b)は、図7(a)のX1部分の断面図である。
図7は、自走型の溶接装置により地中に埋設した鋼管杭112に鋼管杭111をアーク溶接する例である。
溶接装置は、鋼管杭112の周囲に装着した円筒状のガイドレール121、ガイドレール121に沿って自走する自走装置13からなる。
【0004】
ガイドレール121は、図7(b)のように、複数のスポーク123により鋼管杭112の外周面に取付けた円筒状のハブ122に取付けてある。またガイドレール121の表面には、チエン124を固定してある。自走装置13は、トーチ支持装置14、ガイドレール121に係合する上下1対のローラ1311,1312、自走用のスプロケット132を備えている。ローラ1311,1312は、自走装置13の進行方向の前後に2対設けてある(他の1対は図示せず)。
【0005】
ローラ1311,1312は、周面に凹状部(溝)を円形状に形成してり、その凹状部がガイドレール121の上下に係合している。即ち自走装置13は、2対のローラによってガイドレール121に支持されている。スプロケット132は、チエン124に係合しており、モータ133によって回転する。スプロケット132が回転すると、自走装置13は、チエン124に沿って移動する。その際ローラ1311,1312は、自走装置13とともにガイドレール121に沿って移動し、トーチ支持装置14も自走装置13とともに移動する。
【0006】
トーチ支持装置14は、トーチ141を取付けた支柱142の上下前後等の位置を調節するボルト等の調節手段143を備えている。調節手段143は、鋼管杭111,112の溶接線113に対するトーチ141の位置を調節することができる。
鋼管杭111,112を溶接するときは、調節手段143によりトーチ141の位置を所定の位置に設定し、電源(図示せず)から自走装置13に電力を供給すると、モータ133が駆動してスプロケット132が回転し、自走装置13はガイドレール121に沿って移動する。同時にトーチ141と鋼管杭112,111の間にアークが発生して溶接層が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−212964号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の溶接装置の自走装置13は、ローラ1311,1312によりガイドレール121に支持されているだけであるから、支持が不十分なため円滑に移動しないことがあり、またガタの生じることがある。また自走装置13の移動には、スプロケット132とチエン124が必要になるから装置が複雑になる。またトーチ141は、溶接作業中、予め設定した位置を維持するから、鋼管杭111,112の対向面が水平でない、或いは自走装置13のガタ等によりトーチ141と溶接線113の位置関係がずれても修正することができない。また溶接作業中モータの速度を調節することもできない。
本願発明は、従来の溶接装置の前記問題点に鑑み、自走装置は鋼管杭の周面を直接移動することができ、装置が簡単で鋼管杭への取付け取外しも容易で、かつ溶接作業中にトーチ(ノズル)の位置やモータの回転速度を遠隔制御で調節できる自走型の溶接装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明は、その目的を達成するため、請求項1に記載の鋼管杭の溶接装置は、鋼管杭の周面に取付けるガイドレールと自走装置からなり、自走装置は、ガイドレールのレールに沿って移動するガイドロール、モータにより駆動する車輪、補助車輪を有するサポートアーム及びアーク発生部材を備え、車輪と補助車輪は、鋼管杭を挟むことができる位置に配置してあることを特徴とする。
請求項2に記載の鋼管杭の溶接装置は、請求項1に記載の鋼管杭の溶接装置において、前記アーク発生部材の位置と前記モータの回転速度を制御できる遠隔制御装置を備えていることを特徴とする。
請求項3に記載の鋼管杭の溶接装置は、請求項1叉は請求項2に記載の鋼管杭の溶接装置において、前記サポートアームの補助輪を車輪側へ回動する力を加える部材を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本願発明の自走装置は、自走装置の駆動部に設けた車輪とサポートアームの補助車輪とによって鋼管杭を囲む(挟む)ように鋼管杭に直接取付けることができ、かつ車輪によって鋼管杭の周面を移動するから、自走装置の移動は、安定している。また本願発明の自走装置は、特別の工具を用いることなく簡単に鋼管杭に取付けることができ、かつ簡単に取外すことができるから、杭打ち現場における鋼管杭の溶接作業が容易になる。
本願発明の溶接装置は、自走型であるが、遠隔制御で自走装置の移動速度やアーク発生部材の位置等を調節することにより、溶接層の成層状態を監視しながら、成層条件に適した条件で溶接することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本願発明の実施例に係る鋼管杭の溶接装置の側面図である。
【図2】図2は、本願発明の実施例に係る鋼管杭の溶接装置の側面図である(図1と見る位置が相違している)。
【図3】図3は、図1、図2のガイドレールとサポートアームの詳細図である。
【図4】図4は、図1、図2の自走装置の支持部材の詳細図である。
【図5】図5は、本願発明の溶接装置を用いて溶接するときの手順を説明する図である。
【図6】図6は、自走装置へ電力を供給する手段の変形例を示す図である。
【図7】図7は、従来の鋼管杭の自走型溶接装置の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1〜6により本願発明の実施例に係る鋼管杭の溶接装置を説明する。
なお図1〜6において、各図に共通の部分は、同じ符号を使用している。
【実施例】
【0013】
まず図1、図2、図3(a)について説明する。図1は、鋼管杭に溶接装置を取付けた状態の側面図、図2は、図1において、X2方向から見た側面図、図3(a)は、図1、図2の平面図(ガイドレール2は省略してある)である。
図1,図2は、地中に埋設した鋼管杭KP2に鋼管杭KP1を溶接する例である。
鋼管杭KP1の周面には、円形のガイドレール2を取付け、自走装置3を移動可能に取付けてある。また自走装置3は、支持部材33によりガイドレール2に移動可能に取付けてある。支持部材33の一端は、自走装置3に取付け、他端には、ガイドロールGR1,GR2,GR3を取付けてある。
【0014】
ガイドレール2は、半円形の部材2a,2bからなり、両部材は、蝶番221によって連結し、フランジ222をボルトとナット等の結合手段により結合してある。ガイドレール2の周面には、凹状部(溝)211を円形状に形成してある。凹状部211には、ガイドロールGR1〜GR3を挿入してある。ガイドロールGR1〜GR3は、凹状部211の底面(レール)212を回転しながら移動する。
【0015】
自走装置3の駆動部311は、4個の車輪TR11、TR12,TR21,TR22とサポートアーム341を備え、サポートアーム341は、フランジ342の軸(図示せず)に回動自在に取付けてある。サポートアーム341の1端には、補助車輪TR3を取付け、他端には、バネ35(図3(a))を取り付けてある。バネ35は、サポートアーム341をフランジ342の軸を中心に回転(回動)して補助車輪TR3を鋼管杭KP1に押付けるように(図3(a)においてサポートアーム341を反時計方向へ回転するように)作用する。即ちサポートアーム341の補助車輪TR3には、バネ35により車輪TR11〜TR22側へ回動する力が加っている。バネ35は、サポートアーム341の一端部と駆動部311に取り付けた支持部材343(図3(a))の間に取付けてある。また駆動部311は、車輪TR11〜TR22を駆動するモータ312と、アーク溶接用のノズル322の支持部材321の上下の位置等を調整するアクチュエータ313を備えている。
なおサポートアーム341は、フランジ342と補助車輪TR3の間の長さを調節できるように構成し、自走装置3を装着する鋼管杭の太さ(径)に合わせてその長さを調節できるように構成してもよい。
駆動部311には、電源41からアーク溶接用電力、モータ312とアクチュエータ313の駆動電力が供給される。また駆動部311は、遠隔制御装置42の操作によりモータ312とアクチュエータ313を制御する制御回路(図示せず)を備えている。
【0016】
自走装置3の駆動部311は、図3(a)において、車輪TR11〜TR22とサポートアーム341の補助車輪TR3により鋼管杭KP1を囲む或いは挟む(挟持する)ように、鋼管杭KP1の周面に移動可能に取付ける。その際、サポートアーム341を時計方向へ回転して開き、車輪TR11〜TR22と車輪TR3の間隔を広くした状態で鋼管杭KP1に取付け、サポートアーム341を反時計方向へ戻すと、駆動部311は、図3(a)の状態に取付けられる。なお支持部材33のガイドロールGR1〜GR3は、サポートアーム341を時計方向へ開いたとき、ガイドレール2の凹状部211に挿入する。
【0017】
車輪TR11〜TR22は、駆動部311の両側(自走装置3の移動方向の両側)に2個ずつ計4個設けてあるから、補助輪TR3と相まって鋼管杭KP1の周面にぴったり接触する。したがって自走装置3は、鋼管杭KP1の周面をガタツクことなく移動するから、ノズル322は、溶接線WLに沿って移動する。
以上のように自走装置3は、ガイドレール2を鋼管杭KP1に簡単に取付けることができ、特別の工具を用いることなく鋼管杭KP1とガイドレール2に取付けることができる。また駆動部311は、車輪TR11〜TR22と補助車輪TR3によって鋼管杭KP1に直接取付けることができ、車輪TR11〜TR22により鋼管杭KP1の周面を移動するから、その移動は安定している。
【0018】
図1、図2、図3(a)の状態において、モータ312を駆動すると車輪TR11〜TR22が回転し、自走装置3は、ガイドロールロールGR1〜GR3に案内されてガイドレール2の凹状部211に沿って移動する。自走装置3が移動すると、ノズル322も溶接線WLに沿って移動する。
【0019】
次に、図3(b1),(b2)によりガイドレール2について説明する。
図3(b1)は、平面図、図3(b2)は、図3(b1)においてX3方向から見たガイドレール2の部材2aの側面図である(部材2bは図示せず)。
ガイドレール2は、2つの部材2a,2bからなり、両部材は、蝶番221によって連結し、フランジ222をボルトとナット等の結合手段により結合してある。ガイドレール2の周面には、凹状部211を円形状に形成してある。
【0020】
次に図4により、自走装置3の支持部材33について説明する。
図4(a)は、側面図、図4(b)は、図4(a)においてX4方向から見た平面図である。
支持部材33は、支持部331、ガイドロールGR1〜GR3の取り付部3321,3322,3323、駆動部311に取り付ける取り付部333からなり、それらは、一体的に形成してある。取り付部3321,3323は、取り付部3322に対してガイドレール2側へ屈曲させて、ガイドロールGR1〜GR3が、ガイドレール2の凹状部211の底面212に同時に接触するように形成してある。ガイドロールGR1〜GR3は、ガイドレール2の凹状部211の底面212に沿って3個並べてあるから、ガイドレール2の部材2a,2bの接触部分等に段差があっても3個の内2個は必ず底面212に接触する。したがって支持部材33は、ガイドレール2の凹状部211に沿って円滑に移動する。
【0021】
次に図5により鋼管杭の溶接手順について説明する。
図5は、鋼管杭と裏当金のみ断面で示してある。
まず予め鋼管杭KP1,KP2の内面に、裏当金IPの端部が接触する位置決め用のピースSP1,SP2を所定個数溶接する。ピースSP1,SP2の取付け位置は、後述するように、裏当金IPにより両鋼管杭の間隔が所定の大きさになるように設定する。
次に鋼管杭KP2に裏当金IPを挿入し、その裏当金IPを内挿するように鋼管杭KP1を設置する。即ち鋼管杭KP1,KP2と裏当金IPは、図5の状態に設置される。鋼管杭KP1と鋼管杭KP2の間隔は、ピースSP1,SP2の取付け位置と裏当金IPの高さ(軸方向の大きさ)により決まる。
【0022】
次に鋼管杭KP1にガイドレール2を取付け、ガイドレール2の凹状部211にガイドロールGR1〜GR3を挿入するとともに、駆動部311を、駆動部31の車輪TR11〜TR22とサポートアーム341の補助車輪TR3により鋼管杭KP1を囲む(挟む)ように鋼管杭KP1に取付ける。その際ガイドレール2の軸方向の位置は、ノズル322が溶接線WLと対向する高さに設定する。
次に電源41から駆動部311へ電力を供給すると、ノズル322は、アーク放電を開始するとともにモータ312が始動して車輪TR11〜TR22を駆動する。自走装置3は、車輪TR11〜TR22により鋼管杭KP1の周面を自走する。その際自走装置3は、ガイドロールGR1〜GR3に案内されて、ガイドレール2の凹状部211に沿って移動する。
【0023】
溶接装置の操作者は、形成される溶接層を目視して、成層状態に応じて遠隔装置42によりモータ312の回転速度やノズル322の位置を調節する。また操作者は、遠隔装置42によりモータ312を停止したり、逆転させて自走装置3を戻したり、ノズル322の方向等を変えたりすることもできる。
したがって自走装置3は、ガイドレール2の凹状部211に沿って自走するが、操作者は、溶接層の成層状態に応じて自走装置3の移動速度やノズル322の位置等を調節できるから、高品質の溶接層を形成することができる。
図5は、ガイドレール2を鋼管杭KP1に取付け、車輪TR11〜TR22が鋼管杭KP1の周面を移動する例について説明したが、ガイドレール2を鋼管杭KP2に取付け、車輪TR11〜TR22が鋼管杭KP2の周面を移動するように構成することも可能である。
【0024】
図6は、駆動部311へ電力を供給する手段の変形例を示す。
図6(a)は、ガイドレール2の側面図、図6(b)は、ガイドレール2の平面図(一部分のみ示す)である。
図1の場合、駆動部311と電源41は、電線により直接接続してあるが、図6の場合には、駆動部311と電源41は、ガイドレール2に設けたコネクタ25、ブラシBLを介して接続してある。ガイドレール2の側面には、絶縁層ISを形成し、その絶縁層の上に2個の円環状の導体層KRを形成してあり、導体層KRには、2個のブラシBLが接触している。コネクタ25と導体層KRの間は、2個の穴Hに挿入した導線(図示せず)により接続する。ブラシBLは、ブラシ支持部材35に取付け、導線(図示せず)を介して駆動部311に接続している。ブラシBLは、導体層KRに接触した状態で駆動部311とともにガイドレール2の周囲を回転する。なお導体は、周囲を絶縁したものを用いる。
【0025】
図6の場合、電源41と駆動部311の間には電線がないから、自走装置3が鋼管杭KP1の周囲を回転しても電線が鋼管杭KP1,KP2に巻きつくことがない。
遠隔装置42とアクチュエータ313の間は、ブラシBLと同様の手段によって接続してもよいし、無線送受信機を用いて無線で接続してもよい。無線の場合、モータ312の速度やノズル322の位置等は、無線遠隔制御で調節できる。
【0026】
前記実施例は、ノズルを用いた例について説明したが、本願発明は、従来アーク溶接に用いているアーク発生部材を用いることができる。
【符号の説明】
【0027】
2 ガイドレール
211 凹状部
25 コネクタ
3 自走装置
311 駆動部
312 モータ
313 アクチュエータ
33 駆動部311の支持部材
3321,3322,3323 ガイドロールの取付け部
341 サポートアーム
35 ブラシ支持部材
41 電源
42 遠隔制御装置
BL ブラシ
GR1,GR2,GR3 ガイドロール
IS 絶縁層
KP1,KP2 鋼管杭
KR 導体層
SP1,SP2 位置決め用のピース
TR11,TR12,TR21,TR22 車輪
TR3 補助車輪
WL 溶接線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼管杭の周面に取付けるガイドレールと自走装置からなり、自走装置は、ガイドレールのレールに沿って移動するガイドロール、モータにより駆動する車輪、補助車輪を有するサポートアーム及びアーク発生部材を備え、車輪と補助車輪は、鋼管杭を挟むことができる位置に配置してあることを特徴とする鋼管杭の溶接装置。
【請求項2】
請求項1に記載の鋼管杭の溶接装置において、前記アーク発生部材の位置と前記モータの回転速度を制御できる遠隔制御装置を備えていることを特徴とする鋼管杭の溶接装置。
【請求項3】
請求項1叉は請求項2に記載の鋼管杭の溶接装置において、前記サポートアームの補助輪を車輪側へ回動する力を加える部材を備えていることを特徴とする鋼管杭の溶接装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−35309(P2012−35309A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−179071(P2010−179071)
【出願日】平成22年8月9日(2010.8.9)
【出願人】(595071036)株式会社三誠 (11)
【Fターム(参考)】