鋼管矢板壁構造
【課題】壁構造としての必要性能を満足しつつ、材料コストや施工コスト、輸送コスト、現場での作業手間を抑制した合理的な自立式鋼管矢板壁構造を提供する。
【解決手段】長尺鋼管矢板1aおよび短尺鋼管矢板1bを交互に嵌合することで、断面性能を期待する鋼管矢板本体の断面や長さが過度に大きくなることを抑制する。十分な断面性能を有しつつも、長尺・短尺を合わせた地中への総打設長さを低減することができ、材料コストや施工コストを低減することが可能となる。短尺鋼管矢板1bは、施工時のガイド的役割を果たすとともに、壁背面地盤の前面側への流出を抑止する。
【解決手段】長尺鋼管矢板1aおよび短尺鋼管矢板1bを交互に嵌合することで、断面性能を期待する鋼管矢板本体の断面や長さが過度に大きくなることを抑制する。十分な断面性能を有しつつも、長尺・短尺を合わせた地中への総打設長さを低減することができ、材料コストや施工コストを低減することが可能となる。短尺鋼管矢板1bは、施工時のガイド的役割を果たすとともに、壁背面地盤の前面側への流出を抑止する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、護岸や擁壁の土留め壁などとして用いられる自立式構造の鋼管矢板壁構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
護岸や擁壁といった土留め壁には、土圧や水圧によって土留め部材を曲げようとする力が作用し、その結果、土留め壁は力の作用方向へ曲げ変形が生じ、場合によっては滑動や転倒が生じることが危惧される。
【0003】
土留め壁の設計では、上述の滑動や転倒を生じないよう、十分な深度まで根入れを行い、壁の変形量を構造物に規定される許容値以下に抑えるため、十分な断面剛性を有する壁部材を適用し、経済性の観点から、これらを満たす範囲内で最適な部材、断面、長さを決定する。また、壁高や地盤条件、地震時の震度によっては、地盤への壁部材の貫入長さが長くなるため、十分に施工性に優れる部材であることが重要である。
【0004】
一般的に、土留め壁としては図19に示すような(a)自立式構造、(b)控え式構造、(c)切梁式構造があり、用途によって使い分けられている。特に、背面用地に制約があり、十分なスペースが確保できない場合などは自立式構造が適用される。
【0005】
自立式構造としては、一般的に図20(a)、(b)に示すような鋼矢板が用いられるが、壁高が高い護岸・擁壁や、壁に許容される変形量が小さく十分な壁剛性が必要な場合などには、図21に示すような鋼管に嵌合用の継手が設けられた断面剛性に優れる鋼管矢板が多く用いられている。
【0006】
鋼管矢板は、地盤への貫入性にも優れ、施工方法も現場のニーズに合わせて種々存在する。例えば、急速施工が求められる場合には、バイブロハンマ工法などが用いられ、また、近隣に民家などが存在する都市部では、低振動・低騒音施工が可能な油圧圧入工法が適用できるなど施工性に優れた壁部材である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4231429号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】「鋼管矢板基礎 −その設計と施工−」、鋼管杭協会、平成11年10月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
自立式壁構造の設計の一例を図22に基づいて説明する。
【0010】
設計は、自立式壁構造を梁構造とみなし、土圧や水圧、その他の壁に作用する外力を算出し、作用側の外力と受働側の抵抗力が釣り合う位置(以下、設計地盤面と称する)を算出する。
【0011】
この設計地盤面より深部は、地盤の抵抗が期待でき、この抵抗を地盤の強度に見合ったバネ(以下、地盤バネと称する)とみなす。この作用側の外力と地盤バネより、梁の構造計算を行う。これにより、梁部材に必要な断面や強度、部材長さが決定される。
【0012】
鋼管矢板自立式構造を例にとると、まず、鋼管矢板断面を仮定し、その断面を元に必要部材長さを算出し、その後、鋼管矢板壁に発生する曲げモーメントを算出し、部材の応力度照査を行う。この段階で、部材の発生応力度が、設定した許容応力度を超えると、鋼管矢板の径や板厚を大きくするなど部材断面を大きくして同様の照査を行う。
【0013】
次に、鋼管矢板壁に発生する変位量に対する照査を行う。ここで、鋼管矢板壁の発生変位量が、設定した許容変位量を超えると、再度、鋼管矢板の径や板厚を大きくするなど部材断面を大きくして同様の照査を行う。これらを満たす部材の中で、最も経済性に優れる部材が採用される。
【0014】
ここで、必要部材長さに着目すると、部材長さは、(a)前述の設計地盤面から壁天端までの上部と、(b)設計地盤面から壁下端までの下部(以下、根入れ部と称する)の和と考えられる。(a)については、壁構造としての壁高さと、壁に対する外力および抵抗力の釣り合いから算出され、与えられる設計条件より決まるものである。
【0015】
一方、(b)については、地盤条件や部材の剛性が大きく影響するものであり、式(1)に示す杭の特性値βを用いてX/βとして求められることが多い。ここで、Xは2〜πの値が用いられることが多い。
【0016】
【数1】
【0017】
E:鋼材のヤング係数(=2.0×108kN/m2)
I:鋼管矢板壁の断面2次モーメント(m4)
Es:地盤のバネ反力係数(kN/m2)
β:杭の特性値(m-1)
【0018】
上述のように、根入れ部の必要部材長さがX/βで求められることから、βが大きければ部材は短く、逆にβが小さければ部材は長くなる。
【0019】
部材の断面が大きくなると、式(1)中のIが大きくなり、βは小さくなることで必要部材長さは長くなる。また、地盤が軟弱な場合には、式(1)中のEsが小さくなり、βは小さくなることで必要部材長さは長くなる。
【0020】
一般的に、壁高さが高く、かつ地盤が軟弱な場合は、壁に作用する外力は大きくなる反面、地盤からの抵抗力は小さく、壁構造に求められる部材断面は大きくなる。部材断面の小さい鋼矢板壁では発生応力度や発生変位量が大きくなり、必要性能を満足できないことから、部材断面の大きい鋼管矢板壁が用いられることが多い。そのため、式(1)から部材長さを決めるβ値は小さくなり、必要部材長さは長くなる。これにより、材料コストは増大し、必要性能は満足するが不経済となる場合がある。
【0021】
また、部材長さが長くなると、現場での作業手間が増えることに加え、輸送可能長さが規定されているため、これを超える長さの鋼管矢板を輸送する場合は、分割する必要がある。この分割された鋼管矢板は、現場での施工時に、例えば溶接などで縦継ぎ連結する必要があり、加工コストや溶接材料コスト、施工コストが増大し、工期も長くなり不経済である。
【0022】
なお、非特許文献1には、脚付き鋼管矢板井筒基礎構造が記載されており、鋼管矢板井筒基礎を構成する鋼管矢板の中で、鉛直荷重への抵抗を期待する鋼管矢板の長さを支持層まで長くすることが知られている。
【0023】
この構造は、図23(a)〜(d)に示すように、鋼管矢板を連続して設置し閉塞断面を形成することで一つの基礎構造を成し、鉛直荷重や水平荷重に抵抗し得るものである。
【0024】
この井筒基礎を形成する鋼管矢板の長さは同一ではないが、これは鉛直荷重に対して抵抗を期待する分について、支持層まで長さを延長するものであり、本発明とは構造や期待される効果は違うものである。
【0025】
本発明は、壁構造としての必要性能を満足しつつ、上述の課題である材料コストや施工コスト、輸送コストや現場での作業手間を抑制した合理的な自立式鋼管矢板壁構造を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0026】
請求項1に係る発明は、鋼管矢板本体と該鋼管矢板本体の両側に設けた継手部材とからなる鋼管矢板を、前記継手部材により多数連結してなる鋼管矢板壁において、少なくとも2種類以上の長さを有する鋼管矢板で構成され、最も短い鋼管矢板の長さが壁構造としての壁高よりも長く、かつ鋼管矢板壁に作用する主働側の荷重に対して十分に抵抗が期待できるだけの断面および長さを有する長尺の鋼管矢板が壁構造としての機能を発揮し得るように配置されていることを特徴とするものである。
【0027】
ここで、長尺の鋼管矢板に関し、「鋼管矢板壁に作用する主働側の荷重に対して十分に抵抗が期待できるだけの断面および長さを有する」というのは、設計上、主働側の荷重に対し従来の全て同一長さの鋼管矢板で構成される鋼管矢板壁で要求される耐力的性能と同等以上の性能が得られることを意味する。
【0028】
鋼管矢板自立式壁構造の断面性能は、鋼管どうしの嵌合用に設けられた継手部分は考慮されず、鋼管矢板本体が持つ断面性能を壁奥行き方向の単位長さあたりに換算した値が適用されている。そのため、この時の継手の役割としては、施工時のガイド用部材であることに加え、壁背面地盤の前面側への流出を抑止することが挙げられる。
【0029】
従来の鋼管矢板壁は、全て同一長さで形成されてきたが、断面性能を期待する鋼管矢板本体以外の鋼管矢板本体は、必ずしも断面性能を期待する鋼管矢板本体と同一長さにする必要がなく、できる限り短い方が経済的となると考えられるため、本発明は、長さが異なる鋼管矢板本体を連結し、鋼管矢板壁構造とするものである。
【0030】
長さを短くする短尺鋼管矢板は、施工時のガイド用としての役割を果たすと共に、壁背面地盤の前面側への流出を抑止できれば良く、最も短い鋼管矢板長さは、少なくとも壁構造としての壁高よりも長ければ良い。なお、ここでいう壁構造としての壁高は、前述した設計地盤面から壁天端に相当するものである。
【0031】
この時の短尺の鋼管矢板には断面性能を期待しないことから、必ずしも径や板厚が同一である必要はなく、少なくとも背面地盤からの土圧や水圧で壁が崩壊しない程度の部材強度があれば良い。
【0032】
また、径や板厚が同一の鋼管矢板を用いても良く、このとき径が同じであれば、油圧圧入施工時など同一の施工機械で打設が可能となり施工コストが低減できる。
【0033】
長さの組み合わせは制限されず、地盤条件や構造条件により最適な形態を選択すれば良い。例えば、施工が困難な硬質地盤が斜面状に形成される場合には階段状に設置するも可能であり、施工コストが縮減される。また、地中部に配管類など障害物が存在する場合は、その箇所を避けるよう長さを決定すればよく、施工時に配管の移設手間や破損させてしまうなどの危険性も低減できる。
【0034】
請求項2に係る発明は、鋼管矢板本体と該鋼管矢板本体の両側に設けた継手部材とからなる鋼管矢板を、前記継手部材により多数連結してなる鋼管矢板壁において、前記鋼管矢板の長さが長尺および短尺の2種類で構成され、短尺の鋼管矢板の長さが壁構造としての壁高よりも長く、長尺の鋼管矢板は鋼管矢板壁に作用する主働側の荷重に対して十分に抵抗が期待できるだけの断面および長さを有することを特徴とするものである。
【0035】
鋼管矢板本体の長さを、断面性能を期待する長尺の鋼管矢板とそれ以外の短尺の鋼管矢板の2種類とすることで、製造および施工時の管理が行いやすくなる。
【0036】
この時の短尺鋼管矢板は、施工時のガイド的役割を果たすとともに、少なくとも壁構造としての壁高よりも長いことで、壁背面地盤の前面側への流出を抑止できる。
【0037】
短尺の鋼管矢板の径や板厚は、長尺の鋼管矢板のそれと必ずしも同一である必要はなく、構造条件や施工条件にあわせて自由に設定しても良い。その中でも、施工性などを考慮すると、長尺の鋼管矢板と径が同じで、施工に耐え得る程度の板厚を有する短尺の鋼管矢板を用いることが望ましい。
【0038】
また、長尺の鋼管矢板および短尺の鋼管矢板で径が異なると、施工方法によっては1つの施工機械での施工が不可となる場合もあり、施工機械を2台以上準備することで施工コストが増大し不経済となる場合がある。
【0039】
これらのことから、短尺の鋼管矢板の径や板厚を設定する際は、必要断面性能や材料コスト、施工性を考慮した上で経済性比較を行い、最適なスペックを設定することが重要である。
【0040】
請求項3は、請求項2に係る鋼管矢板壁構造において、前記長尺の鋼管矢板と短尺の鋼管矢板が管軸直角方向に交互に嵌合されていることを特徴とするものである。
【0041】
壁に作用する土圧や水圧など主働側の荷重に対して抵抗が期待できる長尺の鋼管矢板が、壁方向に疎に配置されれば1本が負担する荷重が増加し必要断面や長さが過度に大きくなり不経済となることや製造可能範囲を越えてしまうことが懸念される。
【0042】
一方、長尺の鋼管矢板を壁方向に密に配置されると、1本が負担する荷重が低減され、断面や長さが比較的小さく抑えることが可能となるが、長尺の鋼管矢板の本数が増えるため、材料コストや施工コストが増加することが懸念される。
【0043】
これに対し、長尺および短尺の鋼管矢板を交互に嵌合することで、断面性能を期待する鋼管矢板本体の断面や長さが過度に大きくなることを抑制でき、かつ、十分な断面性能を有しつつも、長尺・短尺を合わせた地中への総打設長さを低減することができ、材料コストや施工コストを低減することが可能となる。
【0044】
請求項4は、請求項1、2または3に係る鋼管矢板壁構造において、長尺の鋼管矢板の管軸方向に対して、前記鋼管矢板壁に生じる曲げモーメントが大きくなる範囲近傍の鋼管矢板本体の曲げ剛性を部分的に高くしてあることを特徴とするものである。
【0045】
従来の鋼管矢板壁では、壁の変形量が許容値を超えることが予想される場合、鋼管本体に径を大きいものや鋼管厚の厚いものを使用して対応してきた。しかし、用いる鋼管の径や板厚を大きくすることは、材料費が増加し、経済性の面で問題があった。
【0046】
これに対し、鋼管矢板壁に生じる曲げモーメントが大きくなる範囲近傍の鋼管矢板本体の曲げ剛性を部分的に高くすることで、材料費のコストアップを抑えながら、壁の変形量を許容値以内にすることが可能となる。
【0047】
鋼管矢板壁を部分的に補剛する形態としては、鋼管の板厚を厚くする方法、鋼管内部にコンクリートを充填する方法、鋼管をSC杭(外殻鋼管付きコンクリート杭)で置き換える方法、鋼管を形鋼材(例えばH形鋼)で補剛する方法などが考えられる。
【0048】
請求項5は、請求項4に係る鋼管矢板壁構造において、前記鋼管矢板本体の曲げ剛性を部分的に高くしてある範囲が、鋼管矢板壁に生じる曲げモーメントが最大となる位置を略中心として、壁構造としての壁高の0.5倍以上、1.5倍以内の長さであることを特徴とするものである。
【0049】
発明を実施するための形態の項で詳述するように、鋼管矢板を全長補剛しなくても、曲げモーメント最大点を中心とし、その上下方向に壁高さの0.5倍以上の長さを補剛することで、鋼管矢板全長の板厚を上げる場合と同等の壁上端変位抑制効果を維持しながらコスト的にメリットがある構造が提供できる。
【0050】
一方、補剛長さの壁高さの1.5倍以上としても効果はほとんど飽和している。これは、壁高さや地盤条件、補剛方法が変わっても同様の傾向である。
【0051】
請求項6は、請求項1〜5に係る鋼管矢板壁構造において、壁構造の天端部付近が結合されていることを特徴とするものである。
【0052】
非常に軟弱な地盤に構築された異長鋼管矢板壁構造では、地震時に短尺の鋼管矢板が沈下することも考えられる。そのため、壁構造の天端部付近を長尺の鋼管矢板と結合することでこれらを抑止することが可能となる。このとき、結合する範囲は、短尺の鋼管矢板の全長に渡る必要はなく、想定される沈下が抑止される程度で十分である。
【0053】
結合方法も、長尺の鋼管矢板の継手部と短尺の鋼管矢板の継手部を溶接する方法や、H形鋼などの部材を鋼管矢板頭部付近に軸直角方向(施工延長方向)に渡し、H形鋼と各鋼管矢板の接触部を溶接する方法など種々考えられ限定はされない。
【0054】
また、鋼管矢板にアンカーなどを付加することで、壁に作用する荷重に対する鋼管矢板壁の抵抗力を向上させることも可能である。
【0055】
請求項7は、請求項1〜6に係る鋼管矢板壁構造において、長尺の鋼管矢板の管軸方向に排水部材が設けられていることを特徴とするものである。
【0056】
壁に作用する荷重に抵抗が期待できる長尺の鋼管矢板に排水部材を設け、地震時に鋼管矢板近傍地盤に発生する過剰間隙水圧を消散させることで、地盤の有効応力の低下、すなわち地盤の強度低下を抑制し、鋼管矢板に発生する応力や変位を緩和させることが可能となる。これにより、鋼管矢板の部材断面を低減させ、重量が低減されることで材料コストの縮減が可能となり合理的である。
【発明の効果】
【0057】
鋼管矢板壁を少なくとも2種類以上の長さを有する鋼管矢板で構成し、最も短い鋼管矢板の長さが壁構造としての壁高よりも長く、かつ鋼管矢板壁に作用する主働側の荷重に対して十分に抵抗が期待できるだけの断面および長さを有する長尺の鋼管矢板が壁構造としての機能を発揮し得るように配置することで、部材断面で見ると、径、板厚それぞれが増加し、長尺鋼管矢板は長さが増加する傾向にあるものの、短尺鋼管矢板の長さが短くなることで、結果的に壁構造に使用される鋼管矢板の総量を大幅に低減することが可能となり、材料コストおよび施工コストが縮減される。
【0058】
また、短尺鋼管矢板は長さが短く、運搬も容易であり、輸送手間が緩和されるとともに、現場での溶接などによる縦継ぎ連結が不必要となる。その分、全体の加工コストや溶接コスト、さらには施工コストや工期が縮減・短縮され、非常に合理的となる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】(a)〜(d)は、それぞれ本発明の一実施形態を示す正面図である。
【図2】鋼管矢板の長さが長尺および短尺の2種類で構成され、長尺の鋼管矢板と短尺の鋼管矢板が管軸直角方向に交互に嵌合されている場合の一実施形態を示す正面図である。
【図3】図2の実施形態の変形例として、短尺の鋼管矢板の径が長尺の鋼管矢板の径より大きい場合の実施形態を示す平面図である。
【図4】図2の実施形態の変形例として、短尺の鋼管矢板の径が長尺の鋼管矢板の径より小さい場合の実施形態を示す平面図である。
【図5】試設計における構造条件および地盤条件を示す図である。
【図6】試設計で想定した小径鋼管タイプのP−P型継手の平面図である。
【図7】従来の鋼管矢板壁構造と本発明の長尺の鋼管矢板と短尺の鋼管矢板が交互に嵌合された異長鋼管矢板壁構造を対比した説明図であり、(a)従来の鋼管矢板壁構造の平面図、(b)は本発明の鋼管矢板壁構造の平面図である。
【図8】従来の鋼管矢板壁構造と本発明の長尺の鋼管矢板と短尺の鋼管矢板が交互に嵌合された異長鋼管矢板壁構造についての、各鋼管径での断面性能分布を示すグラフである。
【図9】本発明の鋼管矢板壁構造において、長尺の鋼管矢板の管軸方向に対して、鋼管矢板壁に生じる曲げモーメントが大きくなる範囲近傍の鋼管矢板本体の曲げ剛性を部分的に高くした場合の実施形態を概略的に示した正面図である。
【図10】長尺鋼管矢板本体の曲げ剛性を部分的に高くした場合の一実施形態を示す断面図である。
【図11】長尺鋼管矢板本体の曲げ剛性を部分的に高くした場合の他の実施形態を示す断面図である。
【図12】長尺鋼管矢板本体の曲げ剛性を部分的に高くした場合のさらに他の実施形態を示す断面図である。
【図13】長尺鋼管矢板本体の曲げ剛性を部分的に高くした場合のさらに他の実施形態を示したもので、(a)は断面図、(b)は平面図である。
【図14】長尺鋼管矢板本体の曲げ剛性を部分的に高くした場合の効果を検証するための設計条件を示す図である。
【図15】鋼管矢板壁に生じる曲げモーメント分布である。
【図16】鋼管矢板壁上端に生じる変位量を算定したグラフである。
【図17】鋼管矢板壁の天端部付近を結合した場合の実施形態を概略的に示した斜視図である。
【図18】管軸方向に排水部材を設ける場合の長尺鋼管矢板についての概要図である。
【図19】(a)〜(c)は従来の一般的な土留め構造の例を示したものであり、(a)は自立式構造の断面図、(b)は控え式構造の断面図、(c)は切梁式構造の斜視図である。
【図20】自立式構造で一般的な鋼矢板壁の例を示したもので、(a)はU形鋼矢板を用いた鋼矢板壁の断面図、(b)はハット形鋼矢板をを用いた鋼矢板壁の断面図である。
【図21】自立式構造で用いられる鋼管矢板壁の例を示す断面図である。
【図22】自立式壁構造の設計方法の例を説明するための説明図である。
【図23】非特許文献1に示されている脚付き鋼管矢板井筒基礎構造の図であり、(a)は鉛直断面図、(b)〜(d)はそれぞれ円形、矩形、小判型の水平断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0060】
以下、本発明を添付した図面に基づいて説明する。なお、本発明は以下に示される実施形態に限定されるものではない。
【0061】
図1(a)〜(d)は、それぞれ本発明の一実施形態を示す正面図である。
【0062】
従来の鋼管矢板壁は、全て同一長さで形成されてきたが、断面性能を期待する鋼管矢板本体以外の鋼管矢板本体は、必ずしも断面性能を期待する鋼管矢板本体と同一長さにする必要がなく、できる限り短い方が経済的となると考えられるため、本発明では、図1(a)〜(d)に示すように、長さが異なる鋼管矢板本体1どうしを連結し、鋼管矢板壁構造とするものである。
【0063】
長さを短くする短尺鋼管矢板は、施工時のガイド用としての役割を果たすと共に、壁背面地盤の前面側への流出を抑止できれば良く、最も短い鋼管矢板長さは、少なくとも壁構造としての壁高よりも長ければ良い。
【0064】
この時の短尺鋼管矢板には断面性能を期待しないことから、必ずしも径や板厚が同一である必要はなく、少なくとも背面地盤からの土圧や水圧で壁が崩壊しない程度の部材強度があれば良い。
【0065】
また、径や板厚が同一の鋼管矢板を用いても良く、このとき径が同じであれば、油圧圧入施工時など同一の施工機械で打設が可能となり施工コストが低減できる。
【0066】
長さの組み合わせは制限されず、地盤条件や構造条件により最適な形態を選択刷れば良い。例えば、施工が困難な硬質地盤が斜面状に形成される場合には階段状に設置するも可能であり、施工コストが縮減される。
【0067】
また、地中部に配管類など障害物10が存在する場合は、図1(d)に示すように、その箇所を避けるよう長さを決定すればよく、施工時に配管の移設手間や破損させてしまうなどの危険性も低減できる。
【0068】
図2は、鋼管矢板の長さが長尺および短尺の2種類で構成され、長尺の鋼管矢板1aと短尺の鋼管矢板1bが管軸直角方向に交互に嵌合されている場合の一実施形態を示したものである。
【0069】
鋼管矢板本体の長さを、断面性能を期待する長尺鋼管矢板1aとそれ以外の短尺鋼管矢板1bの2種類とすることで、製造および施工時の管理が行いやすくなる。
【0070】
壁に作用する土圧や水圧など主働側の荷重に対して抵抗が期待できる長尺鋼管矢板1aが、壁方向に疎に配置されれば1本が負担する荷重が増加し必要断面や長さが過度に大きくなり不経済となることや製造可能範囲を越えてしまうことが懸念される。
【0071】
一方、長尺鋼管矢板1aを壁方向に密に配置されると、1本が負担する荷重が低減され、断面や長さが比較的小さく抑えることが可能となるが、長尺鋼管矢板1aの本数が増えるため、材料コストや施工コストが増加することが懸念される。
【0072】
図2に示すように、長尺鋼管矢板1aおよび短尺鋼管矢板1bを交互に嵌合することで、断面性能を期待する鋼管矢板本体の断面や長さが過度に大きくなることを抑制でき、かつ、十分な断面性能を有しつつも、長尺・短尺を合わせた地中への総打設長さを低減することができ、材料コストや施工コストを低減することが可能となる。
【0073】
この時の短尺鋼管矢板1bは、施工時のガイド的役割を果たすとともに、少なくとも壁構造としての壁高よりも長いことで、壁背面地盤の前面側への流出を抑止できる。
【0074】
短尺鋼管矢板1bの径や板厚は、長尺鋼管矢板1aのそれと必ずしも同一である必要はなく、構造条件や施工条件にあわせて自由に設定しても良い。その中でも、施工性などを考慮すると、長尺鋼管矢板1aと径が同じで、施工に耐え得る程度の板厚を有する短尺鋼管矢板1bを用いることが望ましい。
【0075】
図3に示すように、短尺鋼管矢板1bの径を大きくすれば、その分、長尺鋼管矢板1aの設置間隔が長くなり、長尺鋼管矢板1aおよび短尺鋼管矢板1bの本数が低減でき、材料コストおよび施工コストが縮減できる。
【0076】
しかしながら、断面性能は同一径の短尺鋼管矢板1bを用いた場合に比べて小さくなる。このとき、必要断面性能を下回ると、長尺鋼管矢板1aの径や板厚を向上させる必要があり、材料コストが増大し不経済となる場合がある。
【0077】
一方、図4に示すように、短尺鋼管矢板1bの径を小さくすれば、その分、長尺鋼管矢板1aの設置間隔が短くなり、断面性能は同一径の短尺鋼管矢板1bを用いた場合に比べて大きく、従来の鋼管矢板壁構造の断面性能に近づく。
【0078】
しかしながら、鋼管矢板壁構造は計画された施工延長に対して設置されるものであり、短尺鋼管矢板1bの径が小さくなり長尺鋼管矢板1aの間隔が狭くなるということは、長尺鋼管矢板1aおよび短尺鋼管矢板1bの本数が増加し材料コストおよび施工コストの増加により不経済となる場合がある。
【0079】
また、長尺鋼管矢板1aおよび短尺鋼管矢板1bで径が異なると、施工方法によっては1つの施工機械での施工が不可となる場合もあり、施工機械を2台以上準備することで施工コストが増大し不経済となる場合がある。
【0080】
これらのことから、短尺鋼管矢板1bの径や板厚を設定する際は、必要断面性能や材料コスト、施工性を考慮した上で経済性比較を行い、最適なスペックを設定することが重要である。
【0081】
本発明の効果を検証すべく、図5に示す壁高5mの河川護岸を想定した構造条件および地盤条件を設定し、試設計を実施した結果を以下に示す。ここでは、短尺鋼管矢板の部材断面を、長尺鋼管矢板と同一の径、板厚としている。
【0082】
また、鋼材の許容応力度として、常時:140N/mm2、地震時:210N/mm2、許容変位として、常時:5cm、地震時:7.5cmとして、発生応力、変位に対する照査を実施し、鋼管矢板の径、板厚および長さを決定した。
【0083】
なお、鋼管矢板の継手には、一般的に用いられる図6に示す小径鋼管タイプのP−P型継手2を用い、鋼管矢板本体の板厚の制限値としては、板厚t/径D≧1.1%とし、t/D≧1.1%を満たす板厚の中で、一般的に市販されている最も薄い板厚を適用した。
【0084】
図7(a)、(b)は、この試設計に関し、従来の鋼管矢板壁構造Bと本発明の長尺の鋼管矢板1aと短尺の鋼管矢板1bが交互に嵌合された異長鋼管矢板壁構造Aを平面図として対比して示したものである。
【0085】
長尺鋼管矢板1aの必要長さ(根入れ長)は、作用力に対する抵抗を期待する鋼管矢板なので、この部分については従来同等(X/β)の長さが必要と考え、断面については、短尺鋼管矢板1bには抵抗を期待しないため、長尺鋼管矢板1aが負担する作用荷重が増加すると考え、その分も考慮して抵抗が可能な断面を選定することとした。
【0086】
図8に、従来の鋼管矢板壁と、今回提供する長尺鋼管矢板と短尺鋼管矢板が交互に嵌合された異長鋼管矢板壁について、各鋼管径での断面性能分布を示す。
【0087】
図8に示すように、異長鋼管矢板壁では、断面性能を期待する鋼管矢板の本数が低減される分、断面性能は低下する。そのため、従来と同程度の壁としての断面性能を発揮するには、断面性能を期待する長尺鋼管矢板の径や板厚を向上させる必要がある。
【0088】
図5に示す断面を対象とした試設計では、従来鋼管矢板壁構造での部材断面は、径900mm、板厚12mm、長さ18mとなった。これに対して、異長鋼管矢板壁構造での部材断面は、長尺鋼管矢板が、径1200mm、板厚14mm、長さ20m、短尺鋼管矢板が、径1200mm、板厚14mm、長さ7mとなった。ここでの短尺鋼管矢板の長さは、設計地盤面+1.0mと仮定したものである。
【0089】
結果として、異長鋼管矢板の長尺鋼管矢板は、長さが約10%増加しており、その分の重量が増加することにより材料コストが増加する。さらに、部材断面で見ると、径、板厚それぞれが増加することにより、単位長さあたりの重量が約70%増加し、この分の材料コストも増加する。その反面、短尺鋼管矢板については、部材断面が大きくなることで単位長さあたりの重量は増加するも長さが約60%低減される。
【0090】
壁奥行き方向を見ると、異長鋼管矢板壁は1本あたりの径が大きくなることで、1本あたりの施工延長方向奥行き長さが約25%増加する。これは、壁構造は計画された施工延長に対して設置されるものであり、部材の施工延長方向の奥行き長さが増加する分施工本数を低減することが可能となり、材料コストに加え施工コストも縮減される。
【0091】
このことと、前述の短尺鋼管矢板の長さが約60%短くなることを合わせると、壁構造に使用される鋼管矢板の総長さを約40%程度低減することが可能となり、材料コストおよび施工コストが縮減される。
【0092】
さらに、短尺鋼管矢板は長さが短く、運搬も容易であり、輸送手間が緩和されるとともに、現場での溶接などによる縦継ぎ連結が不必要となる。その分の加工コストや溶接コスト、さらには施工コストや工期が縮減・短縮され、非常に合理的となる。仮に、従来鋼管矢板および異長鋼管矢板の長尺鋼管矢板が、現場で1箇所の縦継ぎ連結作業が必要とすると、短尺の効果と径が大きくなり本数が低減されることをあわせて縦継ぎ箇所を約60%程度低減することが可能となる。
【0093】
これらを総合すると、材料コストだけで見ても、従来鋼管矢板壁構造に比べて、今回提供する異長鋼管矢板壁構造を適用することで約20%のコスト縮減に繋がり、これに加えて、加工・溶接コストの低減、施工コストの低減と工期の短縮、現場での作業手間の緩和が期待され、非常に合理的な構造であることが確認された。
【0094】
なお、ここでの試設計は短尺鋼管矢板の径、板厚を長尺鋼管矢板のそれと同一としたが、必ずしも同一でなくても良い。ただし、同一とすることで1台の施工機械で施工が可能となり施工コストは低減が可能であるため、短尺鋼管矢板の断面は長尺鋼管矢板の断面と同程度であることが望ましい。
【0095】
図9は、本発明の鋼管矢板壁構造において、長尺の鋼管矢板の管軸方向に対して、鋼管矢板壁に生じる曲げモーメントが大きくなる範囲近傍の鋼管矢板本体の曲げ剛性を部分的に高くした場合の実施形態を概略的に示したものである。図中、ハッチングを付した符号3が高剛性部分である。
【0096】
鋼管矢板壁に生じる曲げモーメントが大きくなる範囲近傍の鋼管矢板本体の曲げ剛性を部分的に高くすることで、材料費のコストアップを抑えながら、壁の変形量を許容値以内にすることが可能となる。
【0097】
鋼管矢板壁を部分的に補剛する形態としては、鋼管の板厚を厚くする方法、鋼管内部にコンクリートを充填する方法、鋼管をSC杭(外殻鋼管付きコンクリート杭)で置き換える方法、鋼管を形鋼材(例えばH形鋼)で補剛する方法などが考えられる。
【0098】
図10は、長尺鋼管矢板1a本体の曲げ剛性を部分的に高くした場合の一実施形態を示したものである。本実施形態は、鋼管矢板壁を構成する長尺鋼管矢板について、壁に生じる曲げモーメントの最大位置(図中の破線)を中心として、その上下方向区間(図では壁高さHと同等の長さ)の長尺鋼管矢板の板厚を他の部分よりも厚くすることで当該部の補剛を図ったものである。異なる板厚の鋼管継ぎは、工場で通常行われる方法でよい。図中、符号3aが板厚の増大による高剛性部分である。
【0099】
図11は、長尺鋼管矢板1a本体の曲げ剛性を部分的に高くした場合の他の実施形態を示したものである。本実施形態では、壁に生じる曲げモーメントの最大位置を中心として、その上下方向区間(図では壁高Hの0.5倍と同等の長さ)の鋼管内にコンクリートを充填することで当該部の補剛を図ったものである。鋼管矢板施工後、鋼管内の土砂をグラブハンマー等により取り除き、当該部にバケットやポンプ車を利用してコンクリートを打設することで補剛できる。図中、符号3bがコンクリートの充填による高剛性部分である。
【0100】
図12は、長尺鋼管矢板1a本体の曲げ剛性を部分的に高くした場合のさらに他の実施形態として、鋼管矢板壁の補剛区間に用いるSC杭3c(外殻鋼管付きコンクリート杭)を示している。SC杭3cは、工場で製造される既製杭であり、外殻鋼管の内側に高強度のコンクリートを配したものである。
【0101】
図13(a)、(b)は、長尺鋼管矢板本体の曲げ剛性を部分的に高くした場合のさらに他の実施形態を示したものである。本実施形態では、壁に生じる曲げモーメントの最大位置を中心として、その上下方向区間(図では壁高さHの0.5倍と同等の長さ)の鋼管外面に形鋼材3dを溶接等により固定して当該部の補剛を図ったものである。
【0102】
補剛する形鋼材3dとしては、H形鋼等を用いることができる。H形鋼は建設資材として一般に広く流通しており、調達面でメリットがあるほか、とくに開先加工せずにH形鋼フランジと鋼管との隙間を利用して溶接接合できる利点もある。
【0103】
以下、鋼管矢板本体の曲げ剛性を部分的に高くすることの意義についてについて解析例を交えて説明する。なお、以下は、鋼管矢板の長さが同一として解析した例であるが、異長鋼管矢板壁においても同様の考え方を適用することができる。
【0104】
図14に示すような鋼管矢板の構造条件及び地盤条件、土圧強度を仮定し、種々の計算を行った。
【0105】
壁に生じる曲げモーメントの分布を図15に示す。壁下端の深度を0mとして深度(壁下端からの深さ)2.0mで曲げモーメントはピークを示し、その上下方向では曲げモーメントが大きく減少している。図15の曲げモーメント分布は、地盤条件であるN値が10と15の2ケースについて示しているが、地盤条件が変わっても、曲げモーメントのピーク位置など、分布形状はほとんど変わらない。
【0106】
次に、曲げモーメントがピークを示した深度2.0mを中心とし、その上下方向を部分的に補剛した場合の、補剛区間長と鋼管矢板壁上端の変位量との関係を図16に示す。図16には、地盤条件であるN値が10、15の場合と、補剛区間の曲げ剛性EI(E:ヤング係数、I:断面2次モーメント)が補剛前の1.5倍、2.0倍とした場合の組み合わせで計4ケースの結果を示した。なお、EIが補剛前の1.5倍となる補剛は、概ね鋼管内にコンクリートを充填する場合に相当する。
【0107】
図16に示されるように、いずれのケースも、補剛する前の変形量(すなわち補剛区間長0m)に比べて部分補剛することで壁上端の変位が抑えられる。壁高さHの0.5倍の長さ(すなわち補剛区間長4m)を補剛することで、壁上端の変位を補剛前のものから約1〜2割減少させることができる。補剛される区間をHの1.0倍の長さ(補剛区間長8m)とすると補剛前のものから約2〜3割減少させることができる。補剛区間をHの1.5倍の長さ(補剛区間長12m)とすれば、鋼管全長を補剛した場合とほぼ同等の変位量となることがわかる。
【0108】
図17は、本願発明のさらに他の実施形態を示したものである。非常に軟弱な地盤に構築された異長鋼管矢板壁構造では、地震時に短尺鋼管矢板が沈下することも考えられる。
【0109】
そのため、壁構造の天端部付近を長尺鋼管矢板と結合することでこれらを抑止することが可能となる。このとき、結合する範囲は、短尺鋼管矢板の全長に渡る必要はなく、想定される沈下が抑止される程度で十分である。
【0110】
結合方法も、長尺鋼管矢板の継手部と短尺鋼管矢板の継手部を溶接する方法や、図17に示すように、H形鋼4などの部材を鋼管矢板頭部付近に軸直角方向(施工延長方向)に渡し、H形鋼4と各鋼管矢板1a、1bの接触部を溶接する方法など種々考えられ限定はされない。
【0111】
また、長尺鋼管矢板1aにアンカー5などを付加することで、壁に作用する荷重に対する鋼管矢板壁の抵抗力を向上させることも可能である。
【0112】
図18は、長尺鋼管矢板1aの管軸方向に排水部材6を設ける場合の概要図である。壁に作用する荷重に抵抗が期待できる長尺の鋼管矢板1aに排水部材6を設け、地震時に鋼管矢板壁近傍地盤に発生する過剰間隙水圧を消散させることで、液状化等を防止し、鋼管矢板に発生する応力や変位を緩和させることが可能となる。
【符号の説明】
【0113】
1…鋼管矢板、1a…長尺鋼管矢板、1b…短尺鋼管矢板、2…P−P型継手、3…高剛性部分、3a…板厚の増大による高剛性部分、3b…コンクリートの充填による高剛性部分、3c…SC杭、3d…形鋼材、4…H形鋼、5…アンカー、6…排水部材、
10…障害物
【技術分野】
【0001】
本発明は、護岸や擁壁の土留め壁などとして用いられる自立式構造の鋼管矢板壁構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
護岸や擁壁といった土留め壁には、土圧や水圧によって土留め部材を曲げようとする力が作用し、その結果、土留め壁は力の作用方向へ曲げ変形が生じ、場合によっては滑動や転倒が生じることが危惧される。
【0003】
土留め壁の設計では、上述の滑動や転倒を生じないよう、十分な深度まで根入れを行い、壁の変形量を構造物に規定される許容値以下に抑えるため、十分な断面剛性を有する壁部材を適用し、経済性の観点から、これらを満たす範囲内で最適な部材、断面、長さを決定する。また、壁高や地盤条件、地震時の震度によっては、地盤への壁部材の貫入長さが長くなるため、十分に施工性に優れる部材であることが重要である。
【0004】
一般的に、土留め壁としては図19に示すような(a)自立式構造、(b)控え式構造、(c)切梁式構造があり、用途によって使い分けられている。特に、背面用地に制約があり、十分なスペースが確保できない場合などは自立式構造が適用される。
【0005】
自立式構造としては、一般的に図20(a)、(b)に示すような鋼矢板が用いられるが、壁高が高い護岸・擁壁や、壁に許容される変形量が小さく十分な壁剛性が必要な場合などには、図21に示すような鋼管に嵌合用の継手が設けられた断面剛性に優れる鋼管矢板が多く用いられている。
【0006】
鋼管矢板は、地盤への貫入性にも優れ、施工方法も現場のニーズに合わせて種々存在する。例えば、急速施工が求められる場合には、バイブロハンマ工法などが用いられ、また、近隣に民家などが存在する都市部では、低振動・低騒音施工が可能な油圧圧入工法が適用できるなど施工性に優れた壁部材である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4231429号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】「鋼管矢板基礎 −その設計と施工−」、鋼管杭協会、平成11年10月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
自立式壁構造の設計の一例を図22に基づいて説明する。
【0010】
設計は、自立式壁構造を梁構造とみなし、土圧や水圧、その他の壁に作用する外力を算出し、作用側の外力と受働側の抵抗力が釣り合う位置(以下、設計地盤面と称する)を算出する。
【0011】
この設計地盤面より深部は、地盤の抵抗が期待でき、この抵抗を地盤の強度に見合ったバネ(以下、地盤バネと称する)とみなす。この作用側の外力と地盤バネより、梁の構造計算を行う。これにより、梁部材に必要な断面や強度、部材長さが決定される。
【0012】
鋼管矢板自立式構造を例にとると、まず、鋼管矢板断面を仮定し、その断面を元に必要部材長さを算出し、その後、鋼管矢板壁に発生する曲げモーメントを算出し、部材の応力度照査を行う。この段階で、部材の発生応力度が、設定した許容応力度を超えると、鋼管矢板の径や板厚を大きくするなど部材断面を大きくして同様の照査を行う。
【0013】
次に、鋼管矢板壁に発生する変位量に対する照査を行う。ここで、鋼管矢板壁の発生変位量が、設定した許容変位量を超えると、再度、鋼管矢板の径や板厚を大きくするなど部材断面を大きくして同様の照査を行う。これらを満たす部材の中で、最も経済性に優れる部材が採用される。
【0014】
ここで、必要部材長さに着目すると、部材長さは、(a)前述の設計地盤面から壁天端までの上部と、(b)設計地盤面から壁下端までの下部(以下、根入れ部と称する)の和と考えられる。(a)については、壁構造としての壁高さと、壁に対する外力および抵抗力の釣り合いから算出され、与えられる設計条件より決まるものである。
【0015】
一方、(b)については、地盤条件や部材の剛性が大きく影響するものであり、式(1)に示す杭の特性値βを用いてX/βとして求められることが多い。ここで、Xは2〜πの値が用いられることが多い。
【0016】
【数1】
【0017】
E:鋼材のヤング係数(=2.0×108kN/m2)
I:鋼管矢板壁の断面2次モーメント(m4)
Es:地盤のバネ反力係数(kN/m2)
β:杭の特性値(m-1)
【0018】
上述のように、根入れ部の必要部材長さがX/βで求められることから、βが大きければ部材は短く、逆にβが小さければ部材は長くなる。
【0019】
部材の断面が大きくなると、式(1)中のIが大きくなり、βは小さくなることで必要部材長さは長くなる。また、地盤が軟弱な場合には、式(1)中のEsが小さくなり、βは小さくなることで必要部材長さは長くなる。
【0020】
一般的に、壁高さが高く、かつ地盤が軟弱な場合は、壁に作用する外力は大きくなる反面、地盤からの抵抗力は小さく、壁構造に求められる部材断面は大きくなる。部材断面の小さい鋼矢板壁では発生応力度や発生変位量が大きくなり、必要性能を満足できないことから、部材断面の大きい鋼管矢板壁が用いられることが多い。そのため、式(1)から部材長さを決めるβ値は小さくなり、必要部材長さは長くなる。これにより、材料コストは増大し、必要性能は満足するが不経済となる場合がある。
【0021】
また、部材長さが長くなると、現場での作業手間が増えることに加え、輸送可能長さが規定されているため、これを超える長さの鋼管矢板を輸送する場合は、分割する必要がある。この分割された鋼管矢板は、現場での施工時に、例えば溶接などで縦継ぎ連結する必要があり、加工コストや溶接材料コスト、施工コストが増大し、工期も長くなり不経済である。
【0022】
なお、非特許文献1には、脚付き鋼管矢板井筒基礎構造が記載されており、鋼管矢板井筒基礎を構成する鋼管矢板の中で、鉛直荷重への抵抗を期待する鋼管矢板の長さを支持層まで長くすることが知られている。
【0023】
この構造は、図23(a)〜(d)に示すように、鋼管矢板を連続して設置し閉塞断面を形成することで一つの基礎構造を成し、鉛直荷重や水平荷重に抵抗し得るものである。
【0024】
この井筒基礎を形成する鋼管矢板の長さは同一ではないが、これは鉛直荷重に対して抵抗を期待する分について、支持層まで長さを延長するものであり、本発明とは構造や期待される効果は違うものである。
【0025】
本発明は、壁構造としての必要性能を満足しつつ、上述の課題である材料コストや施工コスト、輸送コストや現場での作業手間を抑制した合理的な自立式鋼管矢板壁構造を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0026】
請求項1に係る発明は、鋼管矢板本体と該鋼管矢板本体の両側に設けた継手部材とからなる鋼管矢板を、前記継手部材により多数連結してなる鋼管矢板壁において、少なくとも2種類以上の長さを有する鋼管矢板で構成され、最も短い鋼管矢板の長さが壁構造としての壁高よりも長く、かつ鋼管矢板壁に作用する主働側の荷重に対して十分に抵抗が期待できるだけの断面および長さを有する長尺の鋼管矢板が壁構造としての機能を発揮し得るように配置されていることを特徴とするものである。
【0027】
ここで、長尺の鋼管矢板に関し、「鋼管矢板壁に作用する主働側の荷重に対して十分に抵抗が期待できるだけの断面および長さを有する」というのは、設計上、主働側の荷重に対し従来の全て同一長さの鋼管矢板で構成される鋼管矢板壁で要求される耐力的性能と同等以上の性能が得られることを意味する。
【0028】
鋼管矢板自立式壁構造の断面性能は、鋼管どうしの嵌合用に設けられた継手部分は考慮されず、鋼管矢板本体が持つ断面性能を壁奥行き方向の単位長さあたりに換算した値が適用されている。そのため、この時の継手の役割としては、施工時のガイド用部材であることに加え、壁背面地盤の前面側への流出を抑止することが挙げられる。
【0029】
従来の鋼管矢板壁は、全て同一長さで形成されてきたが、断面性能を期待する鋼管矢板本体以外の鋼管矢板本体は、必ずしも断面性能を期待する鋼管矢板本体と同一長さにする必要がなく、できる限り短い方が経済的となると考えられるため、本発明は、長さが異なる鋼管矢板本体を連結し、鋼管矢板壁構造とするものである。
【0030】
長さを短くする短尺鋼管矢板は、施工時のガイド用としての役割を果たすと共に、壁背面地盤の前面側への流出を抑止できれば良く、最も短い鋼管矢板長さは、少なくとも壁構造としての壁高よりも長ければ良い。なお、ここでいう壁構造としての壁高は、前述した設計地盤面から壁天端に相当するものである。
【0031】
この時の短尺の鋼管矢板には断面性能を期待しないことから、必ずしも径や板厚が同一である必要はなく、少なくとも背面地盤からの土圧や水圧で壁が崩壊しない程度の部材強度があれば良い。
【0032】
また、径や板厚が同一の鋼管矢板を用いても良く、このとき径が同じであれば、油圧圧入施工時など同一の施工機械で打設が可能となり施工コストが低減できる。
【0033】
長さの組み合わせは制限されず、地盤条件や構造条件により最適な形態を選択すれば良い。例えば、施工が困難な硬質地盤が斜面状に形成される場合には階段状に設置するも可能であり、施工コストが縮減される。また、地中部に配管類など障害物が存在する場合は、その箇所を避けるよう長さを決定すればよく、施工時に配管の移設手間や破損させてしまうなどの危険性も低減できる。
【0034】
請求項2に係る発明は、鋼管矢板本体と該鋼管矢板本体の両側に設けた継手部材とからなる鋼管矢板を、前記継手部材により多数連結してなる鋼管矢板壁において、前記鋼管矢板の長さが長尺および短尺の2種類で構成され、短尺の鋼管矢板の長さが壁構造としての壁高よりも長く、長尺の鋼管矢板は鋼管矢板壁に作用する主働側の荷重に対して十分に抵抗が期待できるだけの断面および長さを有することを特徴とするものである。
【0035】
鋼管矢板本体の長さを、断面性能を期待する長尺の鋼管矢板とそれ以外の短尺の鋼管矢板の2種類とすることで、製造および施工時の管理が行いやすくなる。
【0036】
この時の短尺鋼管矢板は、施工時のガイド的役割を果たすとともに、少なくとも壁構造としての壁高よりも長いことで、壁背面地盤の前面側への流出を抑止できる。
【0037】
短尺の鋼管矢板の径や板厚は、長尺の鋼管矢板のそれと必ずしも同一である必要はなく、構造条件や施工条件にあわせて自由に設定しても良い。その中でも、施工性などを考慮すると、長尺の鋼管矢板と径が同じで、施工に耐え得る程度の板厚を有する短尺の鋼管矢板を用いることが望ましい。
【0038】
また、長尺の鋼管矢板および短尺の鋼管矢板で径が異なると、施工方法によっては1つの施工機械での施工が不可となる場合もあり、施工機械を2台以上準備することで施工コストが増大し不経済となる場合がある。
【0039】
これらのことから、短尺の鋼管矢板の径や板厚を設定する際は、必要断面性能や材料コスト、施工性を考慮した上で経済性比較を行い、最適なスペックを設定することが重要である。
【0040】
請求項3は、請求項2に係る鋼管矢板壁構造において、前記長尺の鋼管矢板と短尺の鋼管矢板が管軸直角方向に交互に嵌合されていることを特徴とするものである。
【0041】
壁に作用する土圧や水圧など主働側の荷重に対して抵抗が期待できる長尺の鋼管矢板が、壁方向に疎に配置されれば1本が負担する荷重が増加し必要断面や長さが過度に大きくなり不経済となることや製造可能範囲を越えてしまうことが懸念される。
【0042】
一方、長尺の鋼管矢板を壁方向に密に配置されると、1本が負担する荷重が低減され、断面や長さが比較的小さく抑えることが可能となるが、長尺の鋼管矢板の本数が増えるため、材料コストや施工コストが増加することが懸念される。
【0043】
これに対し、長尺および短尺の鋼管矢板を交互に嵌合することで、断面性能を期待する鋼管矢板本体の断面や長さが過度に大きくなることを抑制でき、かつ、十分な断面性能を有しつつも、長尺・短尺を合わせた地中への総打設長さを低減することができ、材料コストや施工コストを低減することが可能となる。
【0044】
請求項4は、請求項1、2または3に係る鋼管矢板壁構造において、長尺の鋼管矢板の管軸方向に対して、前記鋼管矢板壁に生じる曲げモーメントが大きくなる範囲近傍の鋼管矢板本体の曲げ剛性を部分的に高くしてあることを特徴とするものである。
【0045】
従来の鋼管矢板壁では、壁の変形量が許容値を超えることが予想される場合、鋼管本体に径を大きいものや鋼管厚の厚いものを使用して対応してきた。しかし、用いる鋼管の径や板厚を大きくすることは、材料費が増加し、経済性の面で問題があった。
【0046】
これに対し、鋼管矢板壁に生じる曲げモーメントが大きくなる範囲近傍の鋼管矢板本体の曲げ剛性を部分的に高くすることで、材料費のコストアップを抑えながら、壁の変形量を許容値以内にすることが可能となる。
【0047】
鋼管矢板壁を部分的に補剛する形態としては、鋼管の板厚を厚くする方法、鋼管内部にコンクリートを充填する方法、鋼管をSC杭(外殻鋼管付きコンクリート杭)で置き換える方法、鋼管を形鋼材(例えばH形鋼)で補剛する方法などが考えられる。
【0048】
請求項5は、請求項4に係る鋼管矢板壁構造において、前記鋼管矢板本体の曲げ剛性を部分的に高くしてある範囲が、鋼管矢板壁に生じる曲げモーメントが最大となる位置を略中心として、壁構造としての壁高の0.5倍以上、1.5倍以内の長さであることを特徴とするものである。
【0049】
発明を実施するための形態の項で詳述するように、鋼管矢板を全長補剛しなくても、曲げモーメント最大点を中心とし、その上下方向に壁高さの0.5倍以上の長さを補剛することで、鋼管矢板全長の板厚を上げる場合と同等の壁上端変位抑制効果を維持しながらコスト的にメリットがある構造が提供できる。
【0050】
一方、補剛長さの壁高さの1.5倍以上としても効果はほとんど飽和している。これは、壁高さや地盤条件、補剛方法が変わっても同様の傾向である。
【0051】
請求項6は、請求項1〜5に係る鋼管矢板壁構造において、壁構造の天端部付近が結合されていることを特徴とするものである。
【0052】
非常に軟弱な地盤に構築された異長鋼管矢板壁構造では、地震時に短尺の鋼管矢板が沈下することも考えられる。そのため、壁構造の天端部付近を長尺の鋼管矢板と結合することでこれらを抑止することが可能となる。このとき、結合する範囲は、短尺の鋼管矢板の全長に渡る必要はなく、想定される沈下が抑止される程度で十分である。
【0053】
結合方法も、長尺の鋼管矢板の継手部と短尺の鋼管矢板の継手部を溶接する方法や、H形鋼などの部材を鋼管矢板頭部付近に軸直角方向(施工延長方向)に渡し、H形鋼と各鋼管矢板の接触部を溶接する方法など種々考えられ限定はされない。
【0054】
また、鋼管矢板にアンカーなどを付加することで、壁に作用する荷重に対する鋼管矢板壁の抵抗力を向上させることも可能である。
【0055】
請求項7は、請求項1〜6に係る鋼管矢板壁構造において、長尺の鋼管矢板の管軸方向に排水部材が設けられていることを特徴とするものである。
【0056】
壁に作用する荷重に抵抗が期待できる長尺の鋼管矢板に排水部材を設け、地震時に鋼管矢板近傍地盤に発生する過剰間隙水圧を消散させることで、地盤の有効応力の低下、すなわち地盤の強度低下を抑制し、鋼管矢板に発生する応力や変位を緩和させることが可能となる。これにより、鋼管矢板の部材断面を低減させ、重量が低減されることで材料コストの縮減が可能となり合理的である。
【発明の効果】
【0057】
鋼管矢板壁を少なくとも2種類以上の長さを有する鋼管矢板で構成し、最も短い鋼管矢板の長さが壁構造としての壁高よりも長く、かつ鋼管矢板壁に作用する主働側の荷重に対して十分に抵抗が期待できるだけの断面および長さを有する長尺の鋼管矢板が壁構造としての機能を発揮し得るように配置することで、部材断面で見ると、径、板厚それぞれが増加し、長尺鋼管矢板は長さが増加する傾向にあるものの、短尺鋼管矢板の長さが短くなることで、結果的に壁構造に使用される鋼管矢板の総量を大幅に低減することが可能となり、材料コストおよび施工コストが縮減される。
【0058】
また、短尺鋼管矢板は長さが短く、運搬も容易であり、輸送手間が緩和されるとともに、現場での溶接などによる縦継ぎ連結が不必要となる。その分、全体の加工コストや溶接コスト、さらには施工コストや工期が縮減・短縮され、非常に合理的となる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】(a)〜(d)は、それぞれ本発明の一実施形態を示す正面図である。
【図2】鋼管矢板の長さが長尺および短尺の2種類で構成され、長尺の鋼管矢板と短尺の鋼管矢板が管軸直角方向に交互に嵌合されている場合の一実施形態を示す正面図である。
【図3】図2の実施形態の変形例として、短尺の鋼管矢板の径が長尺の鋼管矢板の径より大きい場合の実施形態を示す平面図である。
【図4】図2の実施形態の変形例として、短尺の鋼管矢板の径が長尺の鋼管矢板の径より小さい場合の実施形態を示す平面図である。
【図5】試設計における構造条件および地盤条件を示す図である。
【図6】試設計で想定した小径鋼管タイプのP−P型継手の平面図である。
【図7】従来の鋼管矢板壁構造と本発明の長尺の鋼管矢板と短尺の鋼管矢板が交互に嵌合された異長鋼管矢板壁構造を対比した説明図であり、(a)従来の鋼管矢板壁構造の平面図、(b)は本発明の鋼管矢板壁構造の平面図である。
【図8】従来の鋼管矢板壁構造と本発明の長尺の鋼管矢板と短尺の鋼管矢板が交互に嵌合された異長鋼管矢板壁構造についての、各鋼管径での断面性能分布を示すグラフである。
【図9】本発明の鋼管矢板壁構造において、長尺の鋼管矢板の管軸方向に対して、鋼管矢板壁に生じる曲げモーメントが大きくなる範囲近傍の鋼管矢板本体の曲げ剛性を部分的に高くした場合の実施形態を概略的に示した正面図である。
【図10】長尺鋼管矢板本体の曲げ剛性を部分的に高くした場合の一実施形態を示す断面図である。
【図11】長尺鋼管矢板本体の曲げ剛性を部分的に高くした場合の他の実施形態を示す断面図である。
【図12】長尺鋼管矢板本体の曲げ剛性を部分的に高くした場合のさらに他の実施形態を示す断面図である。
【図13】長尺鋼管矢板本体の曲げ剛性を部分的に高くした場合のさらに他の実施形態を示したもので、(a)は断面図、(b)は平面図である。
【図14】長尺鋼管矢板本体の曲げ剛性を部分的に高くした場合の効果を検証するための設計条件を示す図である。
【図15】鋼管矢板壁に生じる曲げモーメント分布である。
【図16】鋼管矢板壁上端に生じる変位量を算定したグラフである。
【図17】鋼管矢板壁の天端部付近を結合した場合の実施形態を概略的に示した斜視図である。
【図18】管軸方向に排水部材を設ける場合の長尺鋼管矢板についての概要図である。
【図19】(a)〜(c)は従来の一般的な土留め構造の例を示したものであり、(a)は自立式構造の断面図、(b)は控え式構造の断面図、(c)は切梁式構造の斜視図である。
【図20】自立式構造で一般的な鋼矢板壁の例を示したもので、(a)はU形鋼矢板を用いた鋼矢板壁の断面図、(b)はハット形鋼矢板をを用いた鋼矢板壁の断面図である。
【図21】自立式構造で用いられる鋼管矢板壁の例を示す断面図である。
【図22】自立式壁構造の設計方法の例を説明するための説明図である。
【図23】非特許文献1に示されている脚付き鋼管矢板井筒基礎構造の図であり、(a)は鉛直断面図、(b)〜(d)はそれぞれ円形、矩形、小判型の水平断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0060】
以下、本発明を添付した図面に基づいて説明する。なお、本発明は以下に示される実施形態に限定されるものではない。
【0061】
図1(a)〜(d)は、それぞれ本発明の一実施形態を示す正面図である。
【0062】
従来の鋼管矢板壁は、全て同一長さで形成されてきたが、断面性能を期待する鋼管矢板本体以外の鋼管矢板本体は、必ずしも断面性能を期待する鋼管矢板本体と同一長さにする必要がなく、できる限り短い方が経済的となると考えられるため、本発明では、図1(a)〜(d)に示すように、長さが異なる鋼管矢板本体1どうしを連結し、鋼管矢板壁構造とするものである。
【0063】
長さを短くする短尺鋼管矢板は、施工時のガイド用としての役割を果たすと共に、壁背面地盤の前面側への流出を抑止できれば良く、最も短い鋼管矢板長さは、少なくとも壁構造としての壁高よりも長ければ良い。
【0064】
この時の短尺鋼管矢板には断面性能を期待しないことから、必ずしも径や板厚が同一である必要はなく、少なくとも背面地盤からの土圧や水圧で壁が崩壊しない程度の部材強度があれば良い。
【0065】
また、径や板厚が同一の鋼管矢板を用いても良く、このとき径が同じであれば、油圧圧入施工時など同一の施工機械で打設が可能となり施工コストが低減できる。
【0066】
長さの組み合わせは制限されず、地盤条件や構造条件により最適な形態を選択刷れば良い。例えば、施工が困難な硬質地盤が斜面状に形成される場合には階段状に設置するも可能であり、施工コストが縮減される。
【0067】
また、地中部に配管類など障害物10が存在する場合は、図1(d)に示すように、その箇所を避けるよう長さを決定すればよく、施工時に配管の移設手間や破損させてしまうなどの危険性も低減できる。
【0068】
図2は、鋼管矢板の長さが長尺および短尺の2種類で構成され、長尺の鋼管矢板1aと短尺の鋼管矢板1bが管軸直角方向に交互に嵌合されている場合の一実施形態を示したものである。
【0069】
鋼管矢板本体の長さを、断面性能を期待する長尺鋼管矢板1aとそれ以外の短尺鋼管矢板1bの2種類とすることで、製造および施工時の管理が行いやすくなる。
【0070】
壁に作用する土圧や水圧など主働側の荷重に対して抵抗が期待できる長尺鋼管矢板1aが、壁方向に疎に配置されれば1本が負担する荷重が増加し必要断面や長さが過度に大きくなり不経済となることや製造可能範囲を越えてしまうことが懸念される。
【0071】
一方、長尺鋼管矢板1aを壁方向に密に配置されると、1本が負担する荷重が低減され、断面や長さが比較的小さく抑えることが可能となるが、長尺鋼管矢板1aの本数が増えるため、材料コストや施工コストが増加することが懸念される。
【0072】
図2に示すように、長尺鋼管矢板1aおよび短尺鋼管矢板1bを交互に嵌合することで、断面性能を期待する鋼管矢板本体の断面や長さが過度に大きくなることを抑制でき、かつ、十分な断面性能を有しつつも、長尺・短尺を合わせた地中への総打設長さを低減することができ、材料コストや施工コストを低減することが可能となる。
【0073】
この時の短尺鋼管矢板1bは、施工時のガイド的役割を果たすとともに、少なくとも壁構造としての壁高よりも長いことで、壁背面地盤の前面側への流出を抑止できる。
【0074】
短尺鋼管矢板1bの径や板厚は、長尺鋼管矢板1aのそれと必ずしも同一である必要はなく、構造条件や施工条件にあわせて自由に設定しても良い。その中でも、施工性などを考慮すると、長尺鋼管矢板1aと径が同じで、施工に耐え得る程度の板厚を有する短尺鋼管矢板1bを用いることが望ましい。
【0075】
図3に示すように、短尺鋼管矢板1bの径を大きくすれば、その分、長尺鋼管矢板1aの設置間隔が長くなり、長尺鋼管矢板1aおよび短尺鋼管矢板1bの本数が低減でき、材料コストおよび施工コストが縮減できる。
【0076】
しかしながら、断面性能は同一径の短尺鋼管矢板1bを用いた場合に比べて小さくなる。このとき、必要断面性能を下回ると、長尺鋼管矢板1aの径や板厚を向上させる必要があり、材料コストが増大し不経済となる場合がある。
【0077】
一方、図4に示すように、短尺鋼管矢板1bの径を小さくすれば、その分、長尺鋼管矢板1aの設置間隔が短くなり、断面性能は同一径の短尺鋼管矢板1bを用いた場合に比べて大きく、従来の鋼管矢板壁構造の断面性能に近づく。
【0078】
しかしながら、鋼管矢板壁構造は計画された施工延長に対して設置されるものであり、短尺鋼管矢板1bの径が小さくなり長尺鋼管矢板1aの間隔が狭くなるということは、長尺鋼管矢板1aおよび短尺鋼管矢板1bの本数が増加し材料コストおよび施工コストの増加により不経済となる場合がある。
【0079】
また、長尺鋼管矢板1aおよび短尺鋼管矢板1bで径が異なると、施工方法によっては1つの施工機械での施工が不可となる場合もあり、施工機械を2台以上準備することで施工コストが増大し不経済となる場合がある。
【0080】
これらのことから、短尺鋼管矢板1bの径や板厚を設定する際は、必要断面性能や材料コスト、施工性を考慮した上で経済性比較を行い、最適なスペックを設定することが重要である。
【0081】
本発明の効果を検証すべく、図5に示す壁高5mの河川護岸を想定した構造条件および地盤条件を設定し、試設計を実施した結果を以下に示す。ここでは、短尺鋼管矢板の部材断面を、長尺鋼管矢板と同一の径、板厚としている。
【0082】
また、鋼材の許容応力度として、常時:140N/mm2、地震時:210N/mm2、許容変位として、常時:5cm、地震時:7.5cmとして、発生応力、変位に対する照査を実施し、鋼管矢板の径、板厚および長さを決定した。
【0083】
なお、鋼管矢板の継手には、一般的に用いられる図6に示す小径鋼管タイプのP−P型継手2を用い、鋼管矢板本体の板厚の制限値としては、板厚t/径D≧1.1%とし、t/D≧1.1%を満たす板厚の中で、一般的に市販されている最も薄い板厚を適用した。
【0084】
図7(a)、(b)は、この試設計に関し、従来の鋼管矢板壁構造Bと本発明の長尺の鋼管矢板1aと短尺の鋼管矢板1bが交互に嵌合された異長鋼管矢板壁構造Aを平面図として対比して示したものである。
【0085】
長尺鋼管矢板1aの必要長さ(根入れ長)は、作用力に対する抵抗を期待する鋼管矢板なので、この部分については従来同等(X/β)の長さが必要と考え、断面については、短尺鋼管矢板1bには抵抗を期待しないため、長尺鋼管矢板1aが負担する作用荷重が増加すると考え、その分も考慮して抵抗が可能な断面を選定することとした。
【0086】
図8に、従来の鋼管矢板壁と、今回提供する長尺鋼管矢板と短尺鋼管矢板が交互に嵌合された異長鋼管矢板壁について、各鋼管径での断面性能分布を示す。
【0087】
図8に示すように、異長鋼管矢板壁では、断面性能を期待する鋼管矢板の本数が低減される分、断面性能は低下する。そのため、従来と同程度の壁としての断面性能を発揮するには、断面性能を期待する長尺鋼管矢板の径や板厚を向上させる必要がある。
【0088】
図5に示す断面を対象とした試設計では、従来鋼管矢板壁構造での部材断面は、径900mm、板厚12mm、長さ18mとなった。これに対して、異長鋼管矢板壁構造での部材断面は、長尺鋼管矢板が、径1200mm、板厚14mm、長さ20m、短尺鋼管矢板が、径1200mm、板厚14mm、長さ7mとなった。ここでの短尺鋼管矢板の長さは、設計地盤面+1.0mと仮定したものである。
【0089】
結果として、異長鋼管矢板の長尺鋼管矢板は、長さが約10%増加しており、その分の重量が増加することにより材料コストが増加する。さらに、部材断面で見ると、径、板厚それぞれが増加することにより、単位長さあたりの重量が約70%増加し、この分の材料コストも増加する。その反面、短尺鋼管矢板については、部材断面が大きくなることで単位長さあたりの重量は増加するも長さが約60%低減される。
【0090】
壁奥行き方向を見ると、異長鋼管矢板壁は1本あたりの径が大きくなることで、1本あたりの施工延長方向奥行き長さが約25%増加する。これは、壁構造は計画された施工延長に対して設置されるものであり、部材の施工延長方向の奥行き長さが増加する分施工本数を低減することが可能となり、材料コストに加え施工コストも縮減される。
【0091】
このことと、前述の短尺鋼管矢板の長さが約60%短くなることを合わせると、壁構造に使用される鋼管矢板の総長さを約40%程度低減することが可能となり、材料コストおよび施工コストが縮減される。
【0092】
さらに、短尺鋼管矢板は長さが短く、運搬も容易であり、輸送手間が緩和されるとともに、現場での溶接などによる縦継ぎ連結が不必要となる。その分の加工コストや溶接コスト、さらには施工コストや工期が縮減・短縮され、非常に合理的となる。仮に、従来鋼管矢板および異長鋼管矢板の長尺鋼管矢板が、現場で1箇所の縦継ぎ連結作業が必要とすると、短尺の効果と径が大きくなり本数が低減されることをあわせて縦継ぎ箇所を約60%程度低減することが可能となる。
【0093】
これらを総合すると、材料コストだけで見ても、従来鋼管矢板壁構造に比べて、今回提供する異長鋼管矢板壁構造を適用することで約20%のコスト縮減に繋がり、これに加えて、加工・溶接コストの低減、施工コストの低減と工期の短縮、現場での作業手間の緩和が期待され、非常に合理的な構造であることが確認された。
【0094】
なお、ここでの試設計は短尺鋼管矢板の径、板厚を長尺鋼管矢板のそれと同一としたが、必ずしも同一でなくても良い。ただし、同一とすることで1台の施工機械で施工が可能となり施工コストは低減が可能であるため、短尺鋼管矢板の断面は長尺鋼管矢板の断面と同程度であることが望ましい。
【0095】
図9は、本発明の鋼管矢板壁構造において、長尺の鋼管矢板の管軸方向に対して、鋼管矢板壁に生じる曲げモーメントが大きくなる範囲近傍の鋼管矢板本体の曲げ剛性を部分的に高くした場合の実施形態を概略的に示したものである。図中、ハッチングを付した符号3が高剛性部分である。
【0096】
鋼管矢板壁に生じる曲げモーメントが大きくなる範囲近傍の鋼管矢板本体の曲げ剛性を部分的に高くすることで、材料費のコストアップを抑えながら、壁の変形量を許容値以内にすることが可能となる。
【0097】
鋼管矢板壁を部分的に補剛する形態としては、鋼管の板厚を厚くする方法、鋼管内部にコンクリートを充填する方法、鋼管をSC杭(外殻鋼管付きコンクリート杭)で置き換える方法、鋼管を形鋼材(例えばH形鋼)で補剛する方法などが考えられる。
【0098】
図10は、長尺鋼管矢板1a本体の曲げ剛性を部分的に高くした場合の一実施形態を示したものである。本実施形態は、鋼管矢板壁を構成する長尺鋼管矢板について、壁に生じる曲げモーメントの最大位置(図中の破線)を中心として、その上下方向区間(図では壁高さHと同等の長さ)の長尺鋼管矢板の板厚を他の部分よりも厚くすることで当該部の補剛を図ったものである。異なる板厚の鋼管継ぎは、工場で通常行われる方法でよい。図中、符号3aが板厚の増大による高剛性部分である。
【0099】
図11は、長尺鋼管矢板1a本体の曲げ剛性を部分的に高くした場合の他の実施形態を示したものである。本実施形態では、壁に生じる曲げモーメントの最大位置を中心として、その上下方向区間(図では壁高Hの0.5倍と同等の長さ)の鋼管内にコンクリートを充填することで当該部の補剛を図ったものである。鋼管矢板施工後、鋼管内の土砂をグラブハンマー等により取り除き、当該部にバケットやポンプ車を利用してコンクリートを打設することで補剛できる。図中、符号3bがコンクリートの充填による高剛性部分である。
【0100】
図12は、長尺鋼管矢板1a本体の曲げ剛性を部分的に高くした場合のさらに他の実施形態として、鋼管矢板壁の補剛区間に用いるSC杭3c(外殻鋼管付きコンクリート杭)を示している。SC杭3cは、工場で製造される既製杭であり、外殻鋼管の内側に高強度のコンクリートを配したものである。
【0101】
図13(a)、(b)は、長尺鋼管矢板本体の曲げ剛性を部分的に高くした場合のさらに他の実施形態を示したものである。本実施形態では、壁に生じる曲げモーメントの最大位置を中心として、その上下方向区間(図では壁高さHの0.5倍と同等の長さ)の鋼管外面に形鋼材3dを溶接等により固定して当該部の補剛を図ったものである。
【0102】
補剛する形鋼材3dとしては、H形鋼等を用いることができる。H形鋼は建設資材として一般に広く流通しており、調達面でメリットがあるほか、とくに開先加工せずにH形鋼フランジと鋼管との隙間を利用して溶接接合できる利点もある。
【0103】
以下、鋼管矢板本体の曲げ剛性を部分的に高くすることの意義についてについて解析例を交えて説明する。なお、以下は、鋼管矢板の長さが同一として解析した例であるが、異長鋼管矢板壁においても同様の考え方を適用することができる。
【0104】
図14に示すような鋼管矢板の構造条件及び地盤条件、土圧強度を仮定し、種々の計算を行った。
【0105】
壁に生じる曲げモーメントの分布を図15に示す。壁下端の深度を0mとして深度(壁下端からの深さ)2.0mで曲げモーメントはピークを示し、その上下方向では曲げモーメントが大きく減少している。図15の曲げモーメント分布は、地盤条件であるN値が10と15の2ケースについて示しているが、地盤条件が変わっても、曲げモーメントのピーク位置など、分布形状はほとんど変わらない。
【0106】
次に、曲げモーメントがピークを示した深度2.0mを中心とし、その上下方向を部分的に補剛した場合の、補剛区間長と鋼管矢板壁上端の変位量との関係を図16に示す。図16には、地盤条件であるN値が10、15の場合と、補剛区間の曲げ剛性EI(E:ヤング係数、I:断面2次モーメント)が補剛前の1.5倍、2.0倍とした場合の組み合わせで計4ケースの結果を示した。なお、EIが補剛前の1.5倍となる補剛は、概ね鋼管内にコンクリートを充填する場合に相当する。
【0107】
図16に示されるように、いずれのケースも、補剛する前の変形量(すなわち補剛区間長0m)に比べて部分補剛することで壁上端の変位が抑えられる。壁高さHの0.5倍の長さ(すなわち補剛区間長4m)を補剛することで、壁上端の変位を補剛前のものから約1〜2割減少させることができる。補剛される区間をHの1.0倍の長さ(補剛区間長8m)とすると補剛前のものから約2〜3割減少させることができる。補剛区間をHの1.5倍の長さ(補剛区間長12m)とすれば、鋼管全長を補剛した場合とほぼ同等の変位量となることがわかる。
【0108】
図17は、本願発明のさらに他の実施形態を示したものである。非常に軟弱な地盤に構築された異長鋼管矢板壁構造では、地震時に短尺鋼管矢板が沈下することも考えられる。
【0109】
そのため、壁構造の天端部付近を長尺鋼管矢板と結合することでこれらを抑止することが可能となる。このとき、結合する範囲は、短尺鋼管矢板の全長に渡る必要はなく、想定される沈下が抑止される程度で十分である。
【0110】
結合方法も、長尺鋼管矢板の継手部と短尺鋼管矢板の継手部を溶接する方法や、図17に示すように、H形鋼4などの部材を鋼管矢板頭部付近に軸直角方向(施工延長方向)に渡し、H形鋼4と各鋼管矢板1a、1bの接触部を溶接する方法など種々考えられ限定はされない。
【0111】
また、長尺鋼管矢板1aにアンカー5などを付加することで、壁に作用する荷重に対する鋼管矢板壁の抵抗力を向上させることも可能である。
【0112】
図18は、長尺鋼管矢板1aの管軸方向に排水部材6を設ける場合の概要図である。壁に作用する荷重に抵抗が期待できる長尺の鋼管矢板1aに排水部材6を設け、地震時に鋼管矢板壁近傍地盤に発生する過剰間隙水圧を消散させることで、液状化等を防止し、鋼管矢板に発生する応力や変位を緩和させることが可能となる。
【符号の説明】
【0113】
1…鋼管矢板、1a…長尺鋼管矢板、1b…短尺鋼管矢板、2…P−P型継手、3…高剛性部分、3a…板厚の増大による高剛性部分、3b…コンクリートの充填による高剛性部分、3c…SC杭、3d…形鋼材、4…H形鋼、5…アンカー、6…排水部材、
10…障害物
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼管矢板本体と該鋼管矢板本体の両側に設けた継手部材とからなる鋼管矢板を、前記継手部材により多数連結してなる鋼管矢板壁において、少なくとも2種類以上の長さを有する鋼管矢板で構成され、最も短い鋼管矢板の長さが壁構造としての壁高よりも長く、かつ鋼管矢板壁に作用する主働側の荷重に対して十分に抵抗が期待できるだけの断面および長さを有する長尺の鋼管矢板が壁構造としての機能を発揮し得るように配置されていることを特徴とする鋼管矢板壁構造。
【請求項2】
鋼管矢板本体と該鋼管矢板本体の両側に設けた継手部材とからなる鋼管矢板を、前記継手部材により多数連結してなる鋼管矢板壁において、前記鋼管矢板の長さが長尺および短尺の2種類で構成され、短尺の鋼管矢板の長さが壁構造としての壁高よりも長く、長尺の鋼管矢板は鋼管矢板壁に作用する主働側の荷重に対して十分に抵抗が期待できるだけの断面および長さを有することを特徴とする鋼管矢板壁構造。
【請求項3】
請求項2記載の鋼管矢板壁構造において、前記長尺の鋼管矢板と短尺の鋼管矢板が管軸直角方向に交互に嵌合されていることを特徴とする鋼管矢板壁構造。
【請求項4】
請求項1、2または3記載の鋼管矢板壁構造において、長尺の鋼管矢板の管軸方向に対して、前記鋼管矢板壁に生じる曲げモーメントが大きくなる範囲近傍の鋼管矢板本体の曲げ剛性を部分的に高くしてあることを特徴とする鋼管矢板壁構造。
【請求項5】
請求項4記載の鋼管矢板壁構造において、前記鋼管矢板本体の曲げ剛性を部分的に高くしてある範囲が、鋼管矢板壁に生じる曲げモーメントが最大となる位置を略中心として、壁構造としての壁高の0.5倍以上、1.5倍以下の長さであることを特徴とする鋼管矢板壁構造。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の鋼管矢板壁構造において、壁構造の天端部付近が結合されていることを特徴とする鋼管矢板壁構造。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の鋼管矢板壁構造において、長尺の鋼管矢板の管軸方向に排水部材が設けられていることを特徴とする鋼管矢板壁構造。
【請求項1】
鋼管矢板本体と該鋼管矢板本体の両側に設けた継手部材とからなる鋼管矢板を、前記継手部材により多数連結してなる鋼管矢板壁において、少なくとも2種類以上の長さを有する鋼管矢板で構成され、最も短い鋼管矢板の長さが壁構造としての壁高よりも長く、かつ鋼管矢板壁に作用する主働側の荷重に対して十分に抵抗が期待できるだけの断面および長さを有する長尺の鋼管矢板が壁構造としての機能を発揮し得るように配置されていることを特徴とする鋼管矢板壁構造。
【請求項2】
鋼管矢板本体と該鋼管矢板本体の両側に設けた継手部材とからなる鋼管矢板を、前記継手部材により多数連結してなる鋼管矢板壁において、前記鋼管矢板の長さが長尺および短尺の2種類で構成され、短尺の鋼管矢板の長さが壁構造としての壁高よりも長く、長尺の鋼管矢板は鋼管矢板壁に作用する主働側の荷重に対して十分に抵抗が期待できるだけの断面および長さを有することを特徴とする鋼管矢板壁構造。
【請求項3】
請求項2記載の鋼管矢板壁構造において、前記長尺の鋼管矢板と短尺の鋼管矢板が管軸直角方向に交互に嵌合されていることを特徴とする鋼管矢板壁構造。
【請求項4】
請求項1、2または3記載の鋼管矢板壁構造において、長尺の鋼管矢板の管軸方向に対して、前記鋼管矢板壁に生じる曲げモーメントが大きくなる範囲近傍の鋼管矢板本体の曲げ剛性を部分的に高くしてあることを特徴とする鋼管矢板壁構造。
【請求項5】
請求項4記載の鋼管矢板壁構造において、前記鋼管矢板本体の曲げ剛性を部分的に高くしてある範囲が、鋼管矢板壁に生じる曲げモーメントが最大となる位置を略中心として、壁構造としての壁高の0.5倍以上、1.5倍以下の長さであることを特徴とする鋼管矢板壁構造。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の鋼管矢板壁構造において、壁構造の天端部付近が結合されていることを特徴とする鋼管矢板壁構造。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の鋼管矢板壁構造において、長尺の鋼管矢板の管軸方向に排水部材が設けられていることを特徴とする鋼管矢板壁構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
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【図8】
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【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【公開番号】特開2012−7325(P2012−7325A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−142468(P2010−142468)
【出願日】平成22年6月23日(2010.6.23)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月23日(2010.6.23)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】
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