説明

鋼管鉄塔の補強装置

【課題】送電用鉄塔等の鋼管鉄塔を補強するにあたって、圧縮および引張りの両方の荷重に対して、高い補強強度を確保しつつ、施工性を向上させる。
【解決手段】フランジ部12に取付ける一対の端部支持部材51,52を、第1及び第2補強フランジ61,62と、それらを連結する連結片63と、第2補強フランジ62に設けられ、補強材53を連結する連結片64と、第1補強フランジ61に設けられ、フランジ部12上のボルトナットなどを避けた位置に立設される脚部65と、長軸ボルト66とを備えて構成する。したがって、フランジ部12間を締結するボルトを1本ずつ、差し替えおよび再締結を行うことができ、強度低下を最小限に止め、施工時の仮補強を不要にできる。また、圧縮荷重は脚部65から内側のフランジ部12aに、引張荷重は長軸ボルト66から外側のフランジ部12bに伝播させることができ、両方の荷重に対応できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送電用鉄塔や通信用鉄塔等の鋼管鉄塔を補強するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
全国には、送電用鉄塔や通信用鉄塔等、鋼管を主たる構造材とする数多くの鉄塔が建造されている。これらの鉄塔は、建造後に当該鉄塔部材に想定外の荷重がかかることが予想される場合や、経年劣化による強度低下が予想される場合に、補強が必要となることがある。特に、送電用鉄塔の建て替え工事の際の送電線の移設時や、送電線の張り替え時には、左右のアームの荷重に大きな差が生じることがある。ここで、鉄塔の主柱材としては、山形鋼を用いるものと、鋼管を用いるものとに大別され、前者は比較的低電圧で小型の鉄塔で多く用いられ、後者は比較的高電圧で大型の鉄塔で多く用いられる。その内、本発明は、後者の鋼管鉄塔を対象とする。
【0003】
図6は、本発明の一適用例である送電用の鋼管鉄塔1の模式的構造を示す正面図である。図6(a)は全体を示し、図6(b)は一部を拡大して示す。この図に示す鋼管鉄塔1は、正方形基礎面の四隅部から高さ方向に延びる主柱材2と、隣接する主柱材2の間に設けられる補強用の腹材3と、主柱材2の上部付近で水平方向に延設され、送電線や架空地線を支持するアーム4とを含む。この図に示す鋼管鉄塔1では、前記腹材3としては、斜め方向に延びる斜材のみを示しているが、水平方向に延びる水平材が設けられることもある。
【0004】
主柱材2は、図6(b)に示すように、複数の主柱材鋼管10がその長手方向に互いに連結されることにより構成されている。これらの主柱材鋼管10は、図7に示すように、鋼管本体部11と、その長手方向の両端部に一体に設けられるフランジ部12とを有しており、上下方向に並ぶ各主柱材鋼管10のフランジ部12同士が、図略のボルトナットで締結されることによって、主柱材2が構築されている。なお、各主柱材鋼管10内には、圧縮荷重に対する強度向上を図るために、コンクリートが充填されていることがある。
【0005】
図7は、主柱材鋼管10のフランジ部12付近を示す図である。図7(a)および図7(b)は、前記フランジ部12として、鍛造フランジが用いられる場合の側面図および軸直角断面図をそれぞれ示し、図7(c)および図7(d)は、比較的小径の主柱材鋼管に用いられ、前記フランジ部12として、リブ付きフランジが用いられる場合の側面図および軸直角断面図をそれぞれ示す。隣接の主柱材鋼管10同士の接合のため、負荷が掛かるフランジ部12において、鍛造フランジは、該フランジ部12自体の強度がアップされ、鋼管本体部11にフランジ部12が溶接されているだけであるのに対して、リブ付きフランジでは、フランジ部12の強度を補うために、鋼管本体部11の外周面とフランジ部12との間に、略三角形のリブ13がさらに溶接されている。
【0006】
また、主柱材鋼管10の鋼管本体部11の途中部分には、溶接等の手段によりガセットプレート(図示省略)が一体に設けられており、前記腹材3の末端部分がこのガセットプレートに固定されている。なお、腹材3にも、鋼管本体部の両端にフランジ部が設けられた構造のものもあるが、本発明は、主柱材2を構成する主柱材鋼管10を対象とする。
【0007】
このように構成される鋼管鉄塔1において、たとえば工事中に送電線を1条移設する場合、部材位置によっては、送電線による荷重のアンバランスのため、圧縮または引張荷重が増減することがある。そこで、そのような圧縮荷重および引張荷重に対応するために、図6(b)で示すような補強装置20が設けられることになる。ここで、前記補強装置20として、鋼管本体部11と平行に、実質的に該鋼管本体部11の径を大きくしたのと同様な効果を得ることができる装置を用いた場合は、圧縮荷重に対する強度は向上することができる。しかしながら、引張荷重に対する強度を向上するためには、フランジ部12に取り付いて、該フランジ部12間を接続する構造が必要となる。
【0008】
そのような構造の従来技術は、特許文献1や特許文献2で提案されている。図8は、特許文献1の補強装置30の構造を示す図である。図8(a)および図8(b)は側面図であり、図8(c)は図8(a)の切断面線A−Aから見た断面図であり、図8(d)は図8(a)の切断面線B−Bから見た断面図である。この補強装置30は、一対の端部支持部材31,32と、それらの間を連結する補強材33とを備えて構成される。
【0009】
図8(a)は圧縮荷重に対応する場合であり、この場合は、補強すべき主柱材鋼管10aの両端に設けられる一対のフランジ部12aに対して、端部支持部材31,32は、内側、すなわち補強すべき主柱材鋼管10aのフランジ部12aに設けられる。これに対して、引張荷重に対応する場合には、前記端部支持部材31,32は、図8(b)で示すように外側、すなわち補強すべき主柱材鋼管10aの隣の主柱材鋼管10bのフランジ部12bに設けられる。
【0010】
図8(c)および図8(d)で示すように、端部支持部材31,32は、前記鋼管本体部11を周方向から取り囲み、着脱のために前記周方向に2つの部材31a,31b;32a,32bに分割形成され、その中央には鋼管本体部11に対応した半円弧状の凹部31c,32cが形成され、その凹部31c,32cを囲む仮想円31d,32d上には、周方向に等間隔にボルト穴(図8の例では全周で14個)が形成されている。
【0011】
また、図9は、特許文献2の補強装置40の構造を示す図である。図9(a)は斜視図であり、図9(b)は側面図であり、図9(c)は図9(b)の切断面線C−Cから見た断面図であり、図9(d)は端部支持部材41a,41bの底面図である。この補強装置40は、一対の端部支持部材41,42と、それらの間を連結する補強材43とを備えて構成される。
【0012】
図9は圧縮荷重に対応する場合であり、図8の補強装置30と同様に、この場合は、補強すべき主柱材鋼管10aの両端に設けられる一対のフランジ部12aに対して、端部支持部材41,42は、内側、すなわち補強すべき主柱材鋼管10aのフランジ部12aに設けられる。これに対して、図示していないが、引張荷重に対応する場合には、前記端部支持部材41,42は、外側、すなわち補強すべき主柱材鋼管10aの隣の主柱材鋼管10bのフランジ部12bに設けられる。
【0013】
端部支持部材41,42は、前記鋼管本体部11の周方向の対向位置に取付けられる2つの部材41a,41b;42a,42bから構成される。図9(d)で示すように、部材41a,41bの円弧の長さは短く、図9(c)では、周方向に前記14個設けられるボルト45の3個分の長さである。そして、図9(d)で示すように、それら2つの部材41a,41bの中央には、鋼管本体部11に対応した半円弧状の凹部41cが形成されており、その凹部41cを囲む仮想円41d(図9(c))上で、該部材41a,41bの周方向の両端部付近には、ボルト穴41eが形成されている。また、2つのボルト穴41e間には、逃げ穴41hが形成されており、フランジ部12の接合に用いられるボルト45の頭部またはナットが嵌り込む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2005−248487号公報
【特許文献2】特開2005−282339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
送電用鉄塔等の補強工事は、山中等、周辺環境が悪く、高所での作業が多いために、施工性が良いものであることが望ましい。しかしながら、特許文献1の従来技術では、鋼管本体部11の全周を囲む端部支持部材31,32は、半割れの2つの部材31a,31b;32a,32bに分割形成されており、そのためフランジ部12への取付けには、フランジ部12a,12b同士を固定しているボルト35の半分、すなわち部材31aと31bおよび32aと32bの一方に関するボルトの総て(図8の例では7個)を、同時に取り外す必要がある。その後、これらの部材31aと31bおよび32aと32bの一方を前記フランジ部12aまたは12bに重ねた上で、新しい長軸のボルトとナットで、部材31a,31b;32a,32bとフランジ部12a,12bとを共締めする。同様のことを、部材31aと31bおよび32aと32bの他方についても行い、フランジ部12aまたは12bに、部材31a,31b;32a,32bを固定する。
【0016】
したがって、ボルト35の半分を同時に緩めるので、事前に、補強対象の鋼管本体部11aの上下端のフランジ部12aに掛かる荷重を移しておくために、仮支持材で仮補強を行う必要がある。すなわち、補強のための補強を行う必要があるという問題がある。このため、コストおよび工期が嵩む。この点、特許文献2では、同時に外すボルト45を、2本にまで削減することができるが、それでも強度が不足する可能性がある。
【0017】
また、特許文献1において、引張荷重に対応するために、端部支持部材31,32は、補強すべき主柱材鋼管10aの隣の主柱材鋼管10bのフランジ部12bに設けられることもあるので、該端部支持部材31,32は、組み上げた状態の平面視で、楕円状、或いは小判状に形成され、長径部分に補強材33のための取付け片31f,32fが設けられ、補強材33は鋼管本体部11から離間して、フランジ部12bの外方を大きく迂回する。したがって、圧縮荷重および引張荷重の伝播経路としては、側面視でコの字状となり、補強材33が負担する荷重の伝達性が悪いという問題もある。すなわち、主柱材鋼管10aの伸縮開始直後には補強材33に荷重が掛かからず、また部材31a,31b;32a,32b内でモーメントが掛かるので、該部材31a,31b;32a,32bには高い強度が必要になる。
【0018】
特許文献2でも同様に、補強材43は、部材41a,41b;42a,42bの半径方向外方に飛び出した連結片41gに連結される。したがって、一方のフランジ部から他方のフランジ部の間で、荷重の伝播経路はクランク状に向きを変え、荷重の伝達性が悪い。さらに特許文献2では、その端部支持部材41,42と、特許文献1の端部支持部材31,32とを比べて、フランジ部12a,12bに固定するボルト45の本数を削減した分、荷重の伝播経路の強度が低く、上記の問題は顕著である。
【0019】
本発明の目的は、コストおよび工期を削減することができるとともに、荷重に対する応答性を向上することができる鋼管鉄塔の補強装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の鋼管鉄塔の補強装置は、鋼管本体部の両端にフランジ部が一体形成されて成る主柱材鋼管が、前記フランジ部でボルトおよびナットによってその長手方向に互いに連結されることで主柱材が構成された鋼管鉄塔における前記主柱材の補強装置において、前記両端のフランジ部にそれぞれ搭載されて前記鋼管本体部を周方向から取り囲み、着脱のために前記周方向に複数に分割形成される一対の端部支持部材と、前記鋼管本体部に沿って延び、前記一対の端部支持部材間を連結する補強材と、を備え、前記各端部支持部材は、前記フランジ部と平行に配置されて、円弧状に前記周方向に複数に分割形成され、前記フランジ部における前記ボルトが挿通されるボルト穴に対応した位置にボルト穴を有するとともに、一方の面側に前記補強材が連結される第1補強フランジと、前記第1補強フランジの他方の面側において、前記フランジ部の少なくとも前記ボルトまたはナットの締結位置を回避して複数配置され、その部材先端縁が前記フランジ部に接触し、かつ前記ボルトまたはナットの取り外し用の空間を形成するための高さを有する脚部と、前記第1補強フランジ及び前記フランジ部のボルト穴に挿通され、前記ボルトに置き換えて使用される長軸ボルトと、を含むことを特徴とする。
【0021】
上記の構成によれば、一対の端部支持部材と鋼管本体部の両端に形成されているフランジ部とが各々長軸ボルトによって固定され、さらに、一対の端部支持部材間が補強材で連結されることになる。また、鋼管本体部のフランジ部と第1補強フランジとの間には脚部が介在する。そして、鋼管本体部の長手方向における圧縮荷重については、前記フランジ部、脚部、第1補強フランジ及び補強材という経路で直線的に伝達される。また、引張荷重についても、前記フランジ部、長軸ボルト、第1補強フランジ及び補強材という経路で直線的に伝達される。従って、圧縮荷重及び引張荷重の双方に対応できるだけでなく、圧縮又は引張荷重が加わったときの荷重伝達性を良好とすることができる。
【0022】
さらに、圧縮荷重について、上記の構成によれば鋼管本体部の周囲に補強材が配置された補強構造体が構築されることから強度補強を行うことができる。しかも、上述の通り荷重の伝達経路が直線的であるため荷重伝達性が良好となり、圧縮荷重に対して効率良い補強を達成できる。
【0023】
なお、引張荷重に対しては、それまでフランジ部を連結していたボルトに代わって前記長軸ボルトが当該引張荷重を負担することになる。このため、例えば長軸ボルトとして強度が前記ボルトよりも高いもの(例えばボルト断面積が大きいもの)を選択することによって、引張荷重に対する強度を向上させることも可能となる。つまり、上記補強装置を用いることによって、引張荷重について強度向上を図る機会を提供することができる。
【0024】
また、第1補強フランジは、前記フランジ部に直接取付けられるのではなく、前記脚部によって、前記フランジ部に対して前記長手方向に間隔を置いて取り付けられる。そして、前記脚部は、前記フランジ部の締結用のボルトおよびナットの締結位置を回避して立設されている。従って、フランジ部を連結していたボルトの取り外し、及び長軸ボルトの締結の一連の差し替え作業をスムースに行わせることができる。
【0025】
特に、ボルトを1本ずつ長軸ボルトへ差し替えることが可能となるので、フランジ連結部分の強度低下を最小限に抑制することができる。このため、従来の補強装置では必要であった仮補強作業を不要にすることができる。
【0026】
また、本発明の鋼管鉄塔の補強装置では、前記第1補強フランジの前記一方の面側に平行に配置される第2補強フランジと、前記第1および第2補強フランジ間を連結する連結片とをさらに備え、前記補強材は、前記第2補強フランジの第1補強フランジとは反対側に連結されることを特徴とする。
【0027】
上記の構成によれば、長軸ボルトの挿通のためのボルト穴を設ける必要がある第1補強フランジではなく、この第1補強フランジに連結片を介して連結される第2補強フランジに補強材が取り付けられる。従って、ボルト穴(長軸ボルト)の配置位置に特段影響されることなく、補強材の数や取付け位置を任意に定めることができる。
【0028】
さらにまた、本発明の鋼管鉄塔の補強装置では、前記各端部支持部材において、前記補強材が連結される連結片は、半径方向に延びる板状の部材から成り、その複数が周方向に等間隔に設けられ、前記補強材は、軸直角断面がL字状のアングル材から成り、各連結片には、2つの前記アングル材が、その背面を対向させて取付けられることを特徴とする。
【0029】
上記の構成によれば、前記補強材が連結される連結片を複数として、それらを端部支持部材の周方向に等間隔な位置に設けることで、前記圧縮の荷重を、バランス良く受けることができる。さらに、前記連結片を半径方向に延びた板状に形成し、前記補強材を、軸直角断面がL字状のアングル材とするとともに、それを2つ、背面を対向させて前記連結片に取付けることで、前記周方向における時計回りおよび反時計回りの両方の方向の荷重(鋼管本体部の捻り方向の荷重)に対して、等しい強度を得ることができる。
【0030】
また、本発明の鋼管鉄塔の補強装置では、前記周方向に複数に分割形成され、前記鋼管本体部に取付けられ、相互に組合せられる固定部材(以下、バンドという)をさらに備え、前記バンドは、前記鋼管本体部の外周を囲むバンド筒部と、前記バンド筒部の外周面において、前記連結片に対応した位置から半径方向に延びて形成され、前記補強材を支持する支持片と、を含むことを特徴とする。
【0031】
上記の構成によれば、前記鋼管本体部の長手(軸)方向の1または複数箇所に、上記の構成から成るバンドを設けて、前記補強材の鋼管本体部に対する長手(軸)方向および周方向のずれを抑える。したがって、前記補強材の、特に圧縮荷重に対する変形(屈曲)を阻止し、強度を向上することができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明の鋼管鉄塔の補強装置によれば、圧縮荷重及び引張荷重の双方に対応できる補強装置を提供できる。すなわち、圧縮荷重については、鋼管本体部のフランジ部から端部支持部材の脚部及び第1補強フランジを介して補強材に伝達できるので対応可能であり、しかも荷重の伝達経路が直線的であるため荷重伝達性が良好となり、圧縮荷重に対する補強を好適に達成できる。また、引張荷重については、鋼管本体部のフランジ部を連結していたボルトに代わる長軸ボルトによって従前通りに対応することができ、当該長軸ボルトとして強度に優れるものを選択することで引張荷重に対する補強を達成することも可能となる。
【0033】
さらに、鋼管本体部のフランジ部を連結しているボルトを1本ずつ外し、長軸ボルトに差し替えることができるので、当該補強装置の組み付け時における強度低下を最小限に抑制することができる。従って、従来は必要とされていた仮補強作業を省くことができ、工事コスト及び工期の短縮化に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の実施の一形態に係る補強装置を鋼管鉄塔における主柱材の主柱材鋼管に取付けた状態を模式的に示す図である。
【図2】前記補強装置を構成する端部支持部材の斜視図である。
【図3】図2で示す端部支持部材の六面図である。
【図4】前記補強装置を構成する補強材の一構成例を示す軸直角断面図である。
【図5】前記補強装置を構成するバンド付近を拡大して示す側面図である。
【図6】本発明の一適用例である送電用の鋼管鉄塔の模式的構造を示す正面図である。
【図7】前記鋼管鉄塔を構成する主柱材鋼管のフランジ部付近を示す図である。
【図8】典型的な従来技術の鋼管鉄塔の補強装置の構造を示す図である。
【図9】他の従来技術の鋼管鉄塔の補強装置の構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
図1は、本発明の実施の一形態に係る補強装置50を、前述の鋼管鉄塔1における主柱材2の主柱材鋼管10に取付けた状態を模式的に示す図である。図1(a)と図1(b)とは、90°見る角度が異なっている。すなわち、たとえば図1(a)を正面図または背面図とすれば、図1(b)は右側面図または左側面図である。前記主柱材鋼管10は、鋼管本体部11の長手方向の両端部に、フランジ部12が一体に設けられて構成されている。この図1の例では、主柱材鋼管10のフランジ部12は、前記図7(c)および図7(d)で示すリブ13付きのフランジである。
【0036】
そして、この補強装置50は、一対の端部支持部材51,52と、補強材53とを備えて構成される。前記端部支持部材51,52は、補強すべき主柱材鋼管10aのフランジ部12aにそれぞれ搭載されて、前記鋼管本体部11を周方向から取り囲み、着脱のために前記周方向に複数、本実施の形態では2つの部材51a,51b;52a,52bに分割形成される。
【0037】
図2は、そのうちの1つの部材52aの斜視図であり、図3は六面図である。部材52aは、半円弧状に形成され、前記フランジ部12と平行に配置される第1補強フランジ61及び第2補強フランジ62と、これら第1及び第2補強フランジ61,62間を連結する複数の連結片63と、前記補強材53を連結するための連結片64と、前記フランジ部12上にその先端縁が当接する脚部65と、長軸ボルト66とを備えて構成される。第1及び第2補強フランジ61,62、連結片63、64及び脚部65は、いずれも所定の肉厚を有する金属の平板部材から形成されている。
【0038】
第1補強フランジ61は、半円弧状に形成され、前記フランジ部12における前記締結用のボルト35,45のボルト穴に対応した位置に、ボルト穴611を有するとともに、その中心に前記鋼管本体部11が収容される円弧状の凹部612を有する。また、この第1補強フランジ61のフランジ部12側の面には、前記脚部65が立設される。脚部65は、前記フランジ部12の締結用のボルト35,45およびナットの締結位置ならびにリブ13の位置を回避して、鋼管本体部11の外周面にその先端縁が密着するように複数立設される。さらに、前記脚部65は、ボルト35,45またはナットの取り外し用の空間を形成するための高さを有する。
【0039】
第2補強フランジ62も、半円弧状に形成され、その中心に前記鋼管本体部11が収容される円弧状の凹部622を有する。この第2補強フランジ62は、前記第1補強フランジ61よりも大径に形成されている。そのため、これらのダミーフランジ61,62間を連結する連結片63も、第1補強フランジ61側から第2補強フランジ62側になるにつれて、径方向の幅が幅広に形成される。
【0040】
図2および図3の例では、連結片63は、円弧状の凹部612、622の円弧中心(鋼管本体部11の軸心)を中心軸とする周方向でみて60°毎に均等な間隔で、前記円弧中心から延びる半径線上に設けられている。この連結片63および上述の脚部65の凹部612、622側の端縁は、鋼管本体部11の外周面に沿うように直線状に形成されている。なお、連結片63および脚部65の前記端縁は、鋼管本体部11の外周面に密着させても良いし、或いは所定のギャップを置いて対向させてもよい。
【0041】
前記脚部65は、前記締結用のボルト35,45およびナットの締結位置ならびにリブ13の位置を回避するために不均一な間隔で設けられる可能性がある。一方、この連結片63も任意の位置に設けられてもよいが、図2および図3に示すように少なくとも一部の連結片63が、好ましくは全部の連結片63が、前記脚部65と同じ位置に設けられると、圧縮荷重を直線的にフランジ部12に伝達させることができるので好ましい。
【0042】
前記第2補強フランジ62の連結片63が設けられる面とは反対側の面には、前記補強材53の連結片64が立設される。本実施の形態では、前記連結片64は、第2補強フランジ62の半径方向に延びる板状の部材から成り、4つが周方向に均等な間隔(90°毎)で立設される。したがって、前記圧縮の荷重を、バランス良く受けることができる。この連結片64に形成された取付け穴641に、前記補強材53の端部がボルト69によって固定される。前記補強材53は、アングル材、丸棒、角棒、円筒、角筒等の任意の形状に形成されればよく、前記連結片64は、そのような補強材53の形状に合わせて形成されればよい。残余の部材51a,51b;52bも、この部材52aと同様に形成される。
【0043】
図4は、前記補強材53の一構成例を示す軸直角断面図である。この図4の例では、前記各補強材53は、軸直角断面がL字状の2つのアングル材53a,53bから成り、前記半径方向に延びる板状の各連結片64には、前記2つのアングル材53a,53bが、その背面を対向させて取付けられている。したがって、対向する片53a1,53b1とは別の片53a2,53b2は、前記鋼管本体部11の接線方向に延び、したがって前記周方向における時計回りおよび反時計回りの両方の方向の荷重(鋼管本体部11の捻り方向の荷重)に対して、等しい強度を得ることができる。
【0044】
さらにまた、前記補強材53は、前記鋼管本体部11の長手方向の複数箇所(図1では4箇所)において、バンド67(固定部材)によって鋼管本体部11に固定されている。バンド67は、前記周方向に分割形成された2つの部材67a,67bから構成されている。部材67a,67bは、半円筒状のバンド筒部67a1,67b1と、前記バンド筒部67a1,67b1の周方向の両端から直径線方向に延びて形成されるバンド連結部67a2,67b2と、前記バンド筒部67a1,67b1の外周面において、半径方向に延びて形成される補強材支持片67a3,67b3とを備えて構成される。
【0045】
前記バンド筒部67a1,67b1が鋼管本体部11の外周を囲むように相互に組み付けられ、バンド連結部67a2,67b2がボルト68によって相互に組合せられることで、このバンド67が鋼管本体部11に固定される。前記補強材支持片67a3,67b3は、前記端部支持部材51,52の連結片64に対応した位置から半径方向に延びて形成され、図5で示すように、前記アングル材53a,53bの取付け部分は幅広に形成される。なお、図5では、図面の簡略化のために、バンド連結部67a2,67b2を省略している。
【0046】
この補強材支持片67a3,67b3にアングル材53a,53bの片53a1,53b1が前記ボルト69によって固定されることで、前記補強材53(アングル材53a,53b)の鋼管本体部11に対する長手(軸)方向および周方向のずれを抑えることができる。また、前記バンド67を設けることで、補強材53の、特に圧縮荷重に対する変形(屈曲)を阻止する補強効果により、強度を向上することができる。このバンド67は、前記鋼管本体部11の長手(軸)方向の1または複数箇所に、必要に応じて設けることができる。
【0047】
上述のように構成される補強装置50の主柱材鋼管10への取付けは、以下の通りである。図1において、先ず、上下のフランジ部12a,12bにおいて、2つに分割形成された部材51a,52aと51b,52bとの内、一方が取付けられる取付け範囲で、前記3つのボルト穴611の内で、中央のボルト穴に対応したボルト35,45が外され、長軸ボルト66に取り替えて締結され、該部材51a,52aと51b,52bとの一方が仮止めされる。その後、仮止めされた部材の左右のボルト穴に対応したボルト35,45が外され、長軸ボルト66に取り替えられて締結されることが1本ずつ行われ、前記部材51a,52aと51b,52bとの一方が本固定される。上方側のフランジ部と下方側のフランジ部とで、或る時点で、外されているボルト35,45は1本であるので、上方側の部材51aまたは51bと、下方側の部材52aまたは52bとの取付けが、同時に行われてもよい。こうして、部材51a,52aと51b,52bとの内、一方の取付けが完了すると、他方の取付けが同様にして行われる。
【0048】
ここで、長軸ボルト66は引張荷重を負担する部材となる。従って、上記のボルトの取り替えの際、引張荷重に対する補強が必要な場合は、長軸ボルト66として、ボルト35,45よりも強度が高いもの、例えばボルト断面積が大きいもの、或いは高強度の材質のものが選択される。
【0049】
なお、前記端部支持部材51,52は、鋼管本体部11の周囲に後付けで取付けられるために、前述のように周方向に2つの部材51a,51b;52a,52bに分割して形成されている。前記フランジ部12aに取付けられた後、2つに分割された部材51a,51b;52a,52bをそれぞれ互いに連結し、周方向に相互に締結されて、前記補強フランジ61,62を環状の形態としてもよい。また、端部支持部材51,52の分割数は、3つ以上であってもよく、或いは側部が蝶番などで連結されていて、鋼管本体部11の外周を挟み込むように構成されていてもよい。
【0050】
前記端部支持部材51,52の取付けが終了すると、必要な数のバンド67がボルト68で仮止めされて鋼管本体部11の外周に取付けられる。その後、アングル材53a,53bの両端部がボルト69によって端部支持部材51,52の連結片64に取付けられ、同時にバンド67の支持片67a3,67b3に、ボルト69によって固定される。その後、バンド67が前記鋼管本体部11の外周に、ボルト68によって本固定される。 このように本実施の形態の補強装置50では、鋼管鉄塔1における主柱材2の補強を行うにあたって、着脱のために複数に分割形成されてフランジ部12に取付けられる端部支持部材51,52が、従来はボルト穴611が形成された円弧状の板であったのを、本実施の形態では、その円弧状の板である第1補強フランジ61に複数の脚部65を取付け、長軸ボルト66を使用して、該第1補強フランジ61をフランジ部12と平行に、長手方向に間隔を開けて支持するようにする。そして、前記脚部65を、前記フランジ部12の締結用のボルト35,45およびナットの締結位置や、主柱材鋼管10がリブ付きフランジである場合にはそのリブ13を回避して、かつ前記ボルト35,45またはナットの取り外しのための空間を形成する高さに形成しておく。
【0051】
したがって、該第1補強フランジ61を内側のフランジ部12aに取付けても、圧縮荷重については前記脚部65を通して内側のフランジ部12aから直線的に補強材53へ伝達させることができる。一方、引張荷重については前記長軸ボルト66によって外側のフランジ部12bに伝達させることができる。従って、圧縮及び引張の両方の荷重に対応可能になる。また、前記フランジ部12a,12b間の締結用のボルト35,45を、1本ずつ差し替えし、前記長軸ボルト66に交換して再締結を行うことができる。これによって、該補強装置50の取付け時におけるフランジ締結部の強度低下を最小限に止め、従来のようにボルト35,45を複数本纏めて外す場合に必要となる仮の補強を不要にすることができる。こうして、安全性および施工性を向上することができるとともに、コストおよび工期を短縮することができる。
【0052】
また、前記端部支持部材51,52間を連結する補強材53は、前記第1補強フランジ61において、前記脚部65が立設される側とは反対側で、かつ前記長軸ボルト66またはナットと干渉しない位置に設けられればよい。このため、従来のようにボルトまたはナットを回避するためにフランジ部12の外周側まで荷重の伝達経路が大きく迂回するようなことはなく、強度を向上することができるとともに、荷重に対する応答性を向上することができる。
【0053】
すなわち、本実施の形態では、図1で示すように、長軸ボルト66の軸線と、補強材53を連結するボルト69の配列方向の軸線69aとの主柱材鋼管10の半径方向の位置がほぼ一致する。一方、本実施の形態では、図3(b)などから理解されるように、前記脚部65−連結片63−連結片64間で、周方向に位置ずれが生じる可能性がある。しかしながら、その周方向のずれは、従来技術のようにフランジ部12を大きく迂回する距離に比べて短く、これによって荷重の伝達経路を短縮することができる。また、従来技術の荷重の伝達経路は、クランク状に折れ曲がったアングル材などで構成されるのに対して、本実施の形態では、第1および第2補強フランジ61,62は、連結片63とともに、箱形に形成され、極めて剛性が高い。したがって、本実施の形態では、前記脚部65または長軸ボルト66から、補強材53への荷重の伝達を速やかに行うことができる。
【0054】
また、本実施の形態の補強装置50では、前記第1補強フランジ61に直接前記補強材53を取付ける場合、ボルト穴611を避けて補強材53を取付ける必要があるのに対して、第2補強フランジ62を介在して、それに補強材53を取付けているので、補強材53の数や取付け位置を任意に定めることができる。
【符号の説明】
【0055】
1 鋼管鉄塔
2 主柱材
3 腹材
4 アーム
10 主柱材鋼管
11 鋼管本体部
12;12a,12b フランジ部
13 リブ
50 補強装置
51,52 端部支持部材
51a,51b;52a,52b 部材
53 補強材
53a,53b アングル材
61 第1補強フランジ
611 ボルト穴
612 凹部
62 第2補強フランジ
622 凹部
63 連結片
64 連結片
641 取付け穴
65 脚部
66 長軸ボルト
67 バンド
67a,67b 部材
67a1,67b1 バンド筒部
67a2,67b2 バンド連結部
67a3,67b3 補強材支持片
68,69 ボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼管本体部の両端にフランジ部が一体形成されて成る主柱材鋼管が、前記フランジ部でボルトおよびナットによってその長手方向に互いに連結されることで主柱材が構成された鋼管鉄塔における前記主柱材の補強装置において、
前記両端のフランジ部にそれぞれ搭載されて前記鋼管本体部を周方向から取り囲み、着脱のために前記周方向に複数に分割形成される一対の端部支持部材と、
前記鋼管本体部に沿って延び、前記一対の端部支持部材間を連結する補強材と、を備え、
前記各端部支持部材は、
前記フランジ部と平行に配置されて、円弧状に前記周方向に複数に分割形成され、前記フランジ部における前記ボルトが挿通されるボルト穴に対応した位置にボルト穴を有するとともに、一方の面側に前記補強材が連結される第1補強フランジと、
前記第1補強フランジの他方の面側において、前記フランジ部の少なくとも前記ボルトまたはナットの締結位置を回避して複数配置され、その部材先端縁が前記フランジ部に接触し、かつ前記ボルトまたはナットの取り外し用の空間を形成するための高さを有する脚部と、
前記第1補強フランジのボルト穴及び前記フランジ部のボルト穴に挿通され、前記ボルトに置き換えて使用される長軸ボルトと、を含むことを特徴とする鋼管鉄塔の補強装置。
【請求項2】
前記第1補強フランジの前記一方の面側に平行に配置される第2補強フランジと、
前記第1および第2補強フランジ間を連結する連結片と、をさらに備え、
前記補強材は、前記第2補強フランジの第1補強フランジとは反対側に連結されることを特徴とする請求項1記載の鋼管鉄塔の補強装置。
【請求項3】
前記各端部支持部材において、前記補強材が連結される連結片は、半径方向に延びる板状の部材から成り、その複数が周方向に等間隔に設けられ、
前記補強材は、軸直角断面がL字状のアングル材から成り、
各連結片には、2つの前記アングル材が、その背面を対向させて取付けられることを特徴とする請求項1または2記載の鋼管鉄塔の補強装置。
【請求項4】
前記周方向に複数に分割形成され、前記鋼管本体部に取付けられ、相互に組合せられる固定部材をさらに備え、
前記固定部材は、
前記鋼管本体部の外周を囲むバンド筒部と、
前記バンド筒部の外周面において、前記連結片に対応した位置から半径方向に延びて形成され、前記補強材を支持する支持片と、を含むことを特徴とする請求項3記載の鋼管鉄塔の補強装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−64230(P2013−64230A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−201807(P2011−201807)
【出願日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【出願人】(000145323)株式会社酒井鉄工所 (3)
【Fターム(参考)】