説明

鋼製エレメント施工方法及び施工装置

【課題】鋼製エレメントの高速施工を可能にする。
【解決手段】地盤中に鋼製エレメントを施工する方法において、上床版に施工する鋼製エレメントを複数本同時にけん引または推進して施工する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鉄道線路等の下方地盤中に鋼製エレメントを施工する方法及び施工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄道線路等の下方地盤中に鋼製エレメントを施工し非開削方式で地下構造物を構築する工法が知られている。この工法の概略を図7〜図9により説明すると、図7(a)に示すように、鉄道線路1の下方の構造物構築箇所、作業用の発進立坑と到達立坑を掘削する箇所を挟むようにして、地盤Gに土留工4をそれぞれ施工し、その内側を掘削して発進立坑2、到達立坑3を施工する。土留工としては、鋼矢板、H形鋼と土留め板と切梁と腹起こし等などが用いられる。次いで、図7(b)に示すように、鋼製のエレメントPを発進立坑2側から推進、又は到達立坑3側から引き込むことによるけん引のいずれか又はその双方により、構造物構築箇所の地盤G内に水平に挿入する。エレメントPの先端には、オーガ等の掘削機構(図示せず)が設けられ、掘削機構によりエレメントPの先端部の土砂を掘削・除去しながら推進又はけん引する。こうして、複数の鋼製エレメントPを順次、構造物構築箇所を囲むように箱型に地盤中に施工する。
【0003】
鋼製エレメントの施工は、図8に示すように、最初に上床版の中心の基準エレント10を発進立坑2から到達立坑3へ向けて施工する。図9(a)に示すように、基準エレメント10は、断面「ロ」字状の管状の鋼製エレメントで、両端に継手13を有する平板状の2個の鋼矢板11と、2個の鋼板12をそれぞれ略四角形状に組み合わせて溶接したものである。基準エレメント10を施工した後、一般部エレメント20を基準エレメント10の左右両側にそれぞれ施工していく。図9(b)に示すように、一般部エレメント20は、両端に継手23を有する平板状の2個の鋼矢板21と、1個の鋼板12が「コ」字状に組み合わせて溶接したものである。基準エレメント10に隣接する一般部エレメント20は、継手23を基準エレメント10の継手13に図させ、これをガイドとして発進立坑2から到達立坑3へ向けて施工する。次いで、一般部エレメント20の継手23同士を連結させ、これをガイドとして順次一般部エレメント20を施工していく。
【0004】
上床版の両端部には隅角部エレメント30を施工する。図9(c)に示すように、隅角部エレメント30は、断面「ロ」字状の管状の鋼製エレメントであり、端部に継手33を有する4個の鋼板31を溶接したものである。継手33を一般部エレメント20の継手23と連結させ、これをガイドとして発進立坑2から到達立坑3へ向けて施工する。この後、同様にして、既に挿入した隅角部エレメント30の下方の隣接箇所に、また、一般部エレメント20の下方の隣接箇所に、順次新たな一般部エレメント20を挿入設置して、鉛直壁状の左右側壁エレメント列を施工する。次いで、鉛直側壁エレメントの下端の隅角部エレメント30の継手33に一般部エレメント20の継手23を連結させて、下床版エレメント列を形成し、下床版エレメント列の中央で閉合することにより、全体として鋼製箱型を地中に構築する。
【特許文献1】特開2005−282115号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に示す従来の鋼製エレメント施工法は、エレメントを1本づつ掘進して施工しているため、作業に手間がかかり、特に、上床版の施工に多くの時間を要していた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記課題を解決しようとするものであり、鋼製エレメントの高速施工、特に上床版エレメントの高速施工を可能にすることを目的とする。
本発明は、地盤中に鋼製エレメントを施工する方法において、上床版に施工する鋼製エレメントを複数本同時にけん引または推進して施工することを特徴とする。
また、本発明は、上床版に施工する鋼製エレメントを継手で連結して発進立坑側に並べ、基準管を発進立坑側から到達立坑側まで施工した後、基準管の両側の鋼製エレメントを複数本同時に施工することを特徴とする。
また、本発明は、基準管の両側の鋼製エレメントを対とし、各対の複数の鋼製エレメントを交互にけん引または推進して施工することを特徴とする。
また、本発明は、上床版に施工する鋼製エレメントを継手で連結して発進立坑側に並べ、複数の鋼製エレメントを対とし、各対の鋼製エレメントを交互にけん引または推進して施工することを特徴とする。
また、本発明は、対をなす鋼製エレメントは相互に隣接していないことを特徴とする。
また、本発明は、発進立坑と到達立坑の土留め間の地盤中を通して鋼製エレメント設置箇所の上下に設けたタイロッドと、タイロッドを挿通した発進立坑側に設けた支圧板と、支圧板を反力材として鋼製エレメント後端を推進するジャッキとを備えたことを特徴とする。
また、本発明は、前記エレメント上端に地盤との摩擦力を低減する部材を配置したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、複数のエレメントを同時に掘進施工することにより、特に上床版エレメントの高速施工が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について説明する。本発明のエレメント施工は、発進立坑、到達立坑を施工し、発進立坑側から到達立坑側へ向けて鋼製の基準エレメント、一般部エレメント、隅角部エレメントを使用して順次施工し、鋼製箱型を地中に構築することは図7〜図9の場合と同様であり、その際にエレメントの施工、特に上床版エレメントの施工を高速化するためにエレメントを複数同時に施工する以外は図7〜図9の場合と同じであるので、以下では重複する詳しい説明は省略する。
【0009】
図1は複数のエレメントを同時に掘進施工する方法の一例を説明する図である。
図8で説明したように、発進立坑、到達立坑を掘削し、それぞれ土留工4を施工する。次いで、図1(a)に示すように、発進立坑側に複数の鋼製エレメント、ここでは、説明の便宜上、基準エレメントAの両側に4本の一般部エレメントB、C、D、Eを並べる。このとき、各エレメントの継手を相互に連結させて併置する。次に、図1(b)の矢印で示すように、基準エレメントAを到達立坑側まで高い位置精度で掘進施工する。発進立坑から到達立坑までの長さが長い場合には、途中でエレメントを継ぎ足して施工する。次いで、図1(c)の矢印で示すように、基準エレメントAの両側で互いに離れた位置の一般部エレメントD、Eを対として同時に所定長さまで掘進施工する。後述するように、エレメントの施工にはジャッキ等を備えた推進用治具を必要とし、複数のエレメントを同時に掘進する場合、各推進用治具の設置スペースを確保して相互に干渉しないようにする必要があるとともに、地盤へのストレスが局部的に加わらず、分散させることが可能な離れた位置のエレメントを同時に施工するのが望ましい。もちろん、現場の状況によっては、隣接したエレメント同士を複数本同時に施工するようにしてもよい。
【0010】
次いで、図1(d)の矢印に示すように、基準エレメントAに隣接し、基準エレメントAと一般部エレメントD、Eに挟まれた一般部エレメントB、Cを対として一般部エレメントD、Eと同じ程度の長さまで掘進施工する。以後、図1(e)の矢印に示すように、一般部エレメントD、Eを同時施工し、次いで一般部エレメントB、Cを同時施工することを交互に行い、発進立坑から到達立坑までの長さが長い場合には、それぞれ途中でエレメントを継ぎ足して到達立坑まで施工する。こうして、2本のエレメントを同時に施工することで、特に上床版のエレメント施工を高速化することができる。なお、上記では一般部エレメントB、C、D、Eをそれぞれ1本として説明したが、B、C、D、Eそれぞれが2本を対にしたダブルエレメントであってもよい。また、上記では5本のエレメントを施工する例について説明したが、より多くの本数のエレメントを施工する場合には、上記と同じ施工法を繰り返すようにしてもよく、或いは、図1(a)において必要とする本数分だけ並べ、図1(d)の状態で、さらにその両側の2本のエレメントを順次同時施工することで全てのエレメントを同程度の長さまで掘進施工し、以後、これを繰り返すことでより多くの本数のエレメントを施工するようにしてもよい。
【0011】
図2は複数の鋼製エレメントを同時に施工する方法の他の例を説明する図である。
図2(a)に示すように、土留工4が施工された発進立坑側に鋼製のエレメントA(基準エレメント)、一般部エレメントB、C、D、Eを相互に継手を連結させて並べるのは図1の場合と同様である。次に、図2(b)の矢印で示すように、基準エレメントA、基準エレメントの両側で1つ離れた一般部エレメントD、Eを対にして同時に所定長さまで掘進施工する。1つおきに3本のエレメントを同時に施工するのは、図1の場合と同様に、各推進用治具の設置スペースを確保して相互に干渉しないようにすることと、地盤へのストレスを分散させるためである。もちろん、現場の状況によっては、隣接したエレメント同士を複数本同時に施工するようにしてもよい。
【0012】
次いで、図2(c)の矢印に示すように、基準エレメントAと一般部エレメントD、Eに挟まれた一般部エレメントB、Cを対にして一般部エレメントD、Eと同じ程度の長さまで掘進施工する。以後、図2(d)の矢印に示すように、基準エレメントA、一般部エレメントD、Eを同時施工し、次いで一般部エレメントB、Cを同時施工することを交互に行い、発進立坑から到達立坑までの長さが長い場合には、それぞれ途中でエレメントを継ぎ足して到達立坑まで施工する。こうして、2本のエレメント、3本のエレメントを同時に施工することで、特に上床版のエレメント施工を高速化することができる。なお、上記では一般部エレメントB、C、D、Eをそれぞれ1本として説明したが、B、C、D、Eそれぞれが2本を対にしたダブルエレメントであってもよい。また、上記では5本のエレメントを施工する例について説明したが、より多くの本数のエレメントを施工する場合には、上記と同じ施工法を繰り返すようにしてもよく、或いは、図2(a)において必要とする本数分だけ並べ、図2(c)の状態で、さらにその両側の2本のエレメントを順次同時施工することで全てのエレメントを同程度の長さまで掘進施工し、以後、3本と2本の掘進を繰り返すことで施工するようにしてもよい。
【0013】
次に、図3〜図6によりダブルエレメントの施工装置について説明する。
図3は施工装置の一例の概略説明図で、図3(a)は装置の概念を示す正面図、図3(b)はダブルエレメントをセットした状態を示す正面図である。本装置は掘削施工した発進立坑と到達立坑間に鋼製のタイロッドを地盤中を通して張り、タイロッドで各立坑の土留め間を圧接して締め付け、鋼製エレメントを掘進する構成をとっている。この例では2本のエレメントを対にしたダブルエレメントを推進する装置であるが、もちろんシングルエレメントを推進する構成であってよい。図3(a)に示すように、鋼製のタイロッド100はエレメントの上下に1本づつ張架し、ここではダブルエレメント120としているので上下に4本のタイロッドを設けてそれぞれエレメント推進用の支圧板110に挿通する。そして、図3(b)に示すように、ダブルエレメント120は、継手121を隣接のエレメントと連結させて発進立坑側に設けたH型鋼からなる受桁130上に載せ、後述するように、支圧板110を反力材として推進施工する。
【0014】
図4はジャッキにより支圧板を反力材としてエレメントを推進するを示す図で、図4(a)は正面図、図4(b)は側断面図である。
鋼製のダブルエレメント120は、その継手121を隣接エレメントの継手に連結させて受桁130上に載置し、上下4本のタイロッド100を挿通した支圧板110により、各タイロッドの位置に配置した4台のジャッキ140で後端を押すことで推進される。
【0015】
図5は支圧板を反力材としてエレメントを推進する他の例を示す図で、図5(a)は正面図、図5(b)は側断面図である。
鋼製のダブルエレメント120は、その継手121を隣接エレメントの継手に連結させて受桁130上に載置し、上下4本のタイロッド100は挿通した支圧板110に固定される。ジャッキ140は支圧板110とダブルエレメント120の後端間に設けられ、支圧板110を反力材とすることで、ダブルエレメント120を推進する。
【0016】
図6はエレメントを推進する例を説明する側断面図である。
腹起こし151で補強された土留め150を通して鋼製のエレメントの上下にタイロッド100が張架される。タイロッド100は支圧板110、ジャッキ140を挿通しており、受桁130上に載置したダブルエレメント120の後端を支圧板110を反力材としてジャッキ140で押すことで土留め4を通して推進する。ダブルエレメント120の先端には刃口部125が設けられ、先端の地盤を掘削・排土しながら推進される。支圧板110のストロークは土留め4までであり、推進距離が長い場合には、エレメントを継ぎ足し、支圧板110の位置を元に戻して掘削推進を行う。なお、エレメントを同時に複数本けん引または推進するため、エレメントと地盤との摩擦力で軌道の横移動(エレメント方向に軌道が移動)が起こる可能性がある。そのため、エレメントと地盤の摩擦を低減するため、例えば、薄い鋼板などの摩擦低減部材120aをエレメント上面に片側を土留めに固定して配置するのが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】複数のエレメントを同時に掘進施工する方法の一例を説明する図である。
【図2】複数のエレメントを同時に掘進施工する方法の他の例を説明する図である。
【図3】施工装置の例の概略説明図である。
【図4】支圧板を反力材としてエレメントを推進する例を示す図である。
【図5】支圧板を反力材としてエレメントを推進する他の例を示す図である。
【図6】支圧板を反力材としてエレメントを推進する例を説明する側断面である。
【図7】非開削方式で地下構造物を構築する工法を説明する図である。
【図8】鋼製エレメントの施工を説明する図である。
【図9】鋼製エレメントの例を説明する図である。
【符号の説明】
【0018】
A,B,C,D,E…鋼製エレメント、4…土留工、100…タイロッド、110…支圧板、120…ダブルエレメント、121…継手、125…刃口部、130…受桁、140…ジャッキ、150…土留め、151…腹起こし。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤中に鋼製エレメントを施工する方法において、
上床版に施工する鋼製エレメントを複数本同時にけん引または推進して施工することを特徴とする鋼製エレメント施工方法。
【請求項2】
上床版に施工する鋼製エレメントを継手で連結して発進立坑側に並べ、基準管を発進立坑側から到達立坑側まで施工した後、基準管の両側の鋼製エレメントを複数本同時に施工することを特徴とする請求項1記載の鋼製エレメント施工方法。
【請求項3】
基準管の両側の鋼製エレメントを対とし、各対の複数の鋼製エレメントを交互にけん引または推進して施工することを特徴とする請求項2記載の鋼製エレメント施工方法。
【請求項4】
上床版に施工する鋼製エレメントを継手で連結して発進立坑側に並べ、複数の鋼製エレメントを対とし、各対の鋼製エレメントを交互にけん引または推進して施工することを特徴とする請求項1記載の鋼製エレメント施工方法。
【請求項5】
前記対をなす鋼製エレメントは相互に隣接していないことを特徴とする請求項1乃至4いずれか記載の鋼製エレメント施工方法。
【請求項6】
発進立坑と到達立坑の土留め間の地盤中を通して鋼製エレメント設置箇所の上下に設けたタイロッドと、タイロッドを挿通した発進立坑側に設けた支圧板と、支圧板を反力材として鋼製エレメント後端を推進するジャッキとを備えた鋼製エレメント施工装置。
【請求項7】
前記エレメント上端に地盤との摩擦力を低減する部材を配置したことを特徴とする請求項6記載の鋼製エレメント施工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−197394(P2009−197394A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−37135(P2008−37135)
【出願日】平成20年2月19日(2008.2.19)
【出願人】(000221616)東日本旅客鉄道株式会社 (833)
【Fターム(参考)】