説明

鋼製ブロックの立て起こし用治具

【課題】ブロックの立て起こし作業時に風の影響を受けにくく、1基のクレーンで立て起こしができるブロックの立て起こし用治具を提供する。
【解決手段】鋼製セルのブロック1の立て起こしに用いられる立て起こし用治具11であって、一側方が開口されてブロック1を案内し得る案内凹部14を有する治具本体12と、この治具本体12の上記案内凹部に案内されるブロック1を治具本体12側に保持する接合板31およびボルトナット33とを具備するとともに、上記治具本体12の案内凹部の開口側とは反対側の下コーナ部の外面を円弧形状に形成したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼製ブロックの立て起こし用治具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、港湾構造物や橋梁などの現地据付工事においては、鉄骨構造物である各ブロックを施工場所へ搬入し、据付作業に用いるまで安定した姿勢で保管する。そして、保管の姿勢と据付の姿勢が異なるブロックについては、据付作業の際にクレーン等により立て起こす必要がある。
【0003】
具体例としては、護岸の建設に用いられる鋼製セル(例えば、特許文献1)では、鋼製セルを構成するブロックを立て起こす作業がクレーンにより行われている。この場合、1基のみのクレーンで立て起こし作業を行えば、ブロックの下端は立て起こしの支点となり、ブロックの荷重を集中的に受けて破損するおそれがあるので、2基のクレーンにより相吊りする工法が広く用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭61−130512号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記の工法によると、クレーンにより相吊りされたブロックは、風の影響を受けやすく不安定であり、強風が発生すれば作業を中断しなければならなかった。さらに、2基のクレーンを使用するので、工事費が高くつくという問題もあった。
【0006】
そこで、本発明は、ブロックの立て起こし作業時に風の影響を受けにくくし、1基のクレーンで立て起こしができる鋼製ブロック用治具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の請求項1に係る鋼製ブロックの立て起こし用治具は、鋼製ブロックの立て起こしに用いられる治具であって、
一側方が開口されて鋼製ブロックを案内し得る案内凹部を有する治具本体と、この治具本体の上記案内凹部に案内される鋼製ブロックを治具本体側に保持する保持具とを具備するとともに、
上記治具本体の案内凹部の開口側とは反対側の下コーナ部の外面を円弧形状に形成したものである。
【0008】
また、請求項2に係る鋼製ブロックの立て起こし用治具は、請求項1に記載の鋼製ブロックの立て起こし用治具において、案内凹部に案内される鋼製ブロックを載置する台座部が治具本体に設けられたものである。
【0009】
さらに、請求項3に係る鋼製ブロックの立て起こし用治具は、請求項2に記載の鋼製ブロックの立て起こし用治具において、案内凹部に案内される鋼製ブロックと台座部の間に、当該鋼製ブロックを保護する保護板を設けたものである。
【発明の効果】
【0010】
上記鋼製ブロックの立て起こし用治具によると、ブロックの立て起こし作業時に風の影響を受けにくくし、1基のクレーンでブロックの立て起こし作業を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施例1に係る鋼製ブロックの立て起こし用治具の側面図である。
【図2】同立て起こし用治具の図1におけるA−A断面図である。
【図3】同立て起こし用治具の平面図である。
【図4】同立て起こし用治具を用いてブロックを立て起こす動作説明図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0012】
以下に、本発明の実施例1に係る鋼製ブロックの立て起こし用治具を図1〜図4に基づき説明する。本発明に係る鋼製ブロックの立て起こし用治具は、立て起こしが必要な鋼製ブロックの一端部に取り付けられて、他端部をクレーン等で吊り上げることにより、当該鋼製ブロックを立て起こすためのものである。以下に、鋼製ブロックが鋼製セルのブロックである場合を、実施例1として説明する。
【0013】
まず、鋼製セルについて簡単に説明する。
鋼製セルは、円筒形状の鋼構造物であり、護岸の建設に用いられるものである。具体的には、多数の鋼製セルが海底地盤に一定間隔で順次打ち込まれ、各鋼製セルの内部に土砂を充填して護岸が構築される。
【0014】
一般的に、鋼製セルは直径20〜25m、高さ20〜30m程度の大きさであるから、一体物としてではなく、円周方向において複数に分割したブロックが据付現地の作業ヤードで製作され、各ブロックの組立ておよび溶接により鋼製セルが完成する。ブロックの組立ての際には、ブロックは、製作された姿勢である伏した状態から、鋼製セルを組み立てるための姿勢である立ち上げた状態にする必要があるので、ブロックの立て起こし作業が必要となる。
【0015】
図1〜図3に示すように、上記鋼製セルの各ブロック1は、円筒を周方向に複数に分割した(図3では周方向に5等分した)樋形状(竹を割った形状)の鋼殻板2と、この鋼殻板2の内周面に所定間隔で軸方向に取り付けられて鋼殻板2を補強する縦補強材3と、これら縦補強材3と直交して取り付けられた横補強材4とから構成され、各縦補強材3の両端部には、吊り具を接合するためのボルト穴5が円周方向に形成される。
【0016】
次に、本発明の要旨である立て起こし用治具11について図1〜図3に基づき説明する。なお、立て起こしが行われる鋼製セルのブロック1を伏した状態において、このブロック1の吊り上げを行う側を前方向、治具を取り付ける側(接地側)を後方向、この前後方向に直交する水平面上の方向を左右方向として説明する。
【0017】
図1に示すように、立て起こし用治具11は、ブロック1の後端部を案内し得る案内凹部14を有する側面視C字形状の治具本体12と、この治具本体12の上記案内凹部14に案内されるブロック1の後端部を治具本体12側に保持する保持具13と、左右方向に配置された一対の上記治具本体12を接続する接続部材41とを具備し、前方が開口されている。
【0018】
上記治具本体12は、地面上において前後方向へ配置されて上記側面視C字形状の下辺を構成するとともにブロック1を載置する直方形状の台座部24が上面に取り付けられた下部水平材22と、この下部水平材22の上方に略平行に配置されて上記側面視C字形状の上辺を構成する上部水平材21と、この上部水平材21および下部水平材22を接続する垂直材23とから構成され、垂直材23の後側面から下部水平材22の下面(接地面)にかけての面(治具本体12の下コーナ部の外面)を円弧形状に形成し、治具本体12を垂直材23が接地する方向へ転動させやすい形状としている。また、上記治具本体12を構成する下部水平材22および上部水平材21と垂直材23は、いずれもボルトで接合されているため着脱自在であり、治具本体12は異なるサイズの構成材(上部水平材21、下部水平材22および垂直材23)を組み合わせることで、案内保持するブロック1のサイズや重量に応じて案内凹部14や構成材の大きさを自在に変更できる構造である。なお、ブロック1は台座部24との接触により傷付くおそれがあるので、台座部24とブロック1の鋼殻板2との間に、木製の保護板25を挿入してブロック1を保護する構成とする。
【0019】
一方、上記保持具13は、治具本体12の上部水平材21の下面に取り付けられて案内凹部14へ突出する接合板31からなり、この接合板31には、案内凹部14に案内されて台座部24に載置されたブロック1の縦補強材3を連結して保持するためのボルト穴32が形成されている。
【0020】
そして、左右方向に配置された一対の上記治具本体12が、4つの接続部材41により、上部水平材21の前部および後部ならびに下部水平材22の前部および後部で接続されて、立て起こし用治具11を構成する。
【0021】
以下に、この立て起こし用治具11を用いたブロック1の立て起こし作業について、図4に基づき説明する。
予め、立て起こしを行うブロック1のサイズに適した構成材を選択し、各構成材をボルトで接合して、当該ブロック1に適した立て起こし用治具11を組み立てる。
【0022】
次に、据付現地に伏した状態で置かれたブロック1の後端部を、立て起こし用治具11の案内凹部14へ案内して台座部24へ載置する。具体的には、ブロック1は鋼殻板2の外周面を下にして仮置台に載置されており、このブロック1の鋼殻板2の後端部が案内凹部14へ案内されるように立て起こし用治具11を前方へ移動させる。そして、ブロック1の縦補強材3のボルト穴5と接合板31のボルト穴32が一致する位置まで移動させた後は、縦補強材3と接合板31をボルトナット33で接合してブロック1を保持する。ここで、鋼殻板2と台座部24に生ずる隙間には木製の保護板25を挿入し、鋼殻板2を保護する。このボルトナット33は、接合板31とともに保持具13を構成する。
【0023】
上記の通り、立て起こし用治具11でブロック1を保持した後は、ブロック1の縦補強材3の前端部に形成されたボルト穴5により吊り具を接合し、クレーンで吊持されたリフティングビームにワイヤーを介して当該吊り具を接続する(図4(a)参照)。
【0024】
そして、クレーンでブロック1を吊り上げてブロック1の前端部を持ち上げると、後端側の立て起こし用治具11が支点となり、ブロック1が立て起こされる(図4(b)参照)。ブロック1が垂直に立て起こされた後は(図4(c)参照)、立て起こし用治具11をブロック1から取り外すとともに仮置台も撤去し、立て起こされたブロック1を地面へ降ろして、立て起こし作業が完了する。
【0025】
上記説明においては、2基の治具本体12を接続部材41で接続した構成としたが、実際の製作に際しては、予め一対の下部水平材22を2つの接続部材41で接続し、同様に一対の上部水平材21を他の2つの接続部材41で接続した上で、これらを垂直材23で接合する構成とする。
【0026】
なお、ブロック1の重量や大きさによっては、立て起こし用治具11を2基用いてもよい。ブロック1は、後端部の左右位置で2基の立て起こし用治具11により保持されるので、立て起こされる際に立て起こし用治具11を介して2箇所で接地し、さらにブロック1の立て起こし作業が安定する。
【0027】
このように、ブロック1の立て起こし作業に用いるクレーンは1基で足りるので、工事費を低くすることができる。また、立て起こし作業の際には、ブロック1は一端部が立て起こし用治具11を介して接地しているため、風による影響を受けにくく、工程が天候に左右されにくくなる。さらに、立て起こし用治具11の構造が簡素であり、自在に構成材を組み合わせることができるため、多様な大きさの鋼製セルのブロック1に対応することができる。
【0028】
ところで、上記実施例においては、立て起こし用治具11は一対の治具本体12を接続部材41で接続したものとして説明したが、1基の治具本体12からなるものであってもよい。
【0029】
また、上記実施例においては、ブロック1を載置する台座部24が下部水平材22に取り付けられたものとして説明したが、台座部24を有しない構成であってもよい。
なお、上記実施例においては、保護板25は木製として説明したが、木製に限定されるものではなく、ゴム製や他の材質であってもよい。また、保護板25を用いなくてもよい。
【符号の説明】
【0030】
1 ブロック
2 鋼殻板
3 縦補強材
11 立て起こし用治具
12 治具本体
13 保持具
14 案内凹部
21 上部水平材
22 下部水平材
24 台座部
25 保護板
31 接合板
41 接続部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼製ブロックの立て起こしに用いられる治具であって、
一側方が開口されて鋼製ブロックを案内し得る案内凹部を有する治具本体と、この治具本体の上記案内凹部に案内される鋼製ブロックを治具本体側に保持する保持具とを具備するとともに、
上記治具本体の案内凹部の開口側とは反対側の下コーナ部の外面を円弧形状に形成したことを特徴とする鋼製ブロックの立て起こし用治具。
【請求項2】
案内凹部に案内される鋼製ブロックを載置する台座部が治具本体に設けられたことを特徴とする請求項1に記載の鋼製ブロックの立て起こし用治具。
【請求項3】
案内凹部に案内される鋼製ブロックと台座部の間に、当該鋼製ブロックを保護する保護板を設けたことを特徴とする請求項2に記載の鋼製ブロックの立て起こし用治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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