鋼製歯車およびその製造方法
【課題】従来より高い寸法精度を有する鋼製歯車を提供する。
【解決手段】鋼製歯車1は、外周面20aに歯形10が形成された外周リング部2、内周面20bから内方に延設されたフランジ部3を有する。外周リング部2は、フランジ部3との連結部Lよりも軸方向一方側に突出する第1突出部21、他方側に突出する第2突出部22を備える。第1突出部21と第2突出部22の軸方向長さは略同等である。外周リング部2には、歯形10の表層の浸炭層4と、浸炭層4を含み外周面20aから内方に向かう深さが浸炭層4の深さよりも深い領域であって高周波誘導加熱によりオーステナイトになるまで加熱された履歴を有する熱履歴層5とが形成されている。歯底104から内方に向かう熱履歴層5の深さTは、フランジ部3との連結部Lよりも第1突出部21及び第2突出部22の方が深く、第1突出部21と第2突出部22とにおいて略同等である。
【解決手段】鋼製歯車1は、外周面20aに歯形10が形成された外周リング部2、内周面20bから内方に延設されたフランジ部3を有する。外周リング部2は、フランジ部3との連結部Lよりも軸方向一方側に突出する第1突出部21、他方側に突出する第2突出部22を備える。第1突出部21と第2突出部22の軸方向長さは略同等である。外周リング部2には、歯形10の表層の浸炭層4と、浸炭層4を含み外周面20aから内方に向かう深さが浸炭層4の深さよりも深い領域であって高周波誘導加熱によりオーステナイトになるまで加熱された履歴を有する熱履歴層5とが形成されている。歯底104から内方に向かう熱履歴層5の深さTは、フランジ部3との連結部Lよりも第1突出部21及び第2突出部22の方が深く、第1突出部21と第2突出部22とにおいて略同等である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼製歯車およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、多くの産業分野において鋼製歯車が用いられている。例えば、自動車分野で使用される差動装置等は、多数の鋼製歯車を有している。鋼製歯車には種々の形状がある。例えば、外周面に歯形が形成された円筒状の外周リング部と、該外周リング部の内周面における軸方向の中央位置に連結されたフランジ部とを備えた歯車が広く知られている。
【0003】
鋼製歯車は、高強度、耐摩耗性が要求される部材である。そのため、鋼製歯車には、靱性を維持しつつ表面硬度を高めるための処理として浸炭処理および焼入れ処理が施されることが多い。浸炭処理は、鋼をオーステナイト化温度以上に加熱した状態で表面の炭素濃度を増大させる処理である。通常、この浸炭処理を施した直後に焼入れ処理が行われる。鋼製歯車の歯形面に浸炭処理と焼入れ処理とを実施することにより、歯車内部の靱性を確保するとともに、歯形面の表面硬度を高めることができる。
【0004】
上記浸炭処理および焼入れ処理としては、従来、出側に油焼入れ槽を備えた大型の熱処理炉を用いてガス浸炭処理を長時間行った直後に油焼入れする方法が知られている。最近では、特許文献1に開示されるように、真空浸炭処理を行った後、一旦徐冷し、高周波誘導加熱によって鋼製部材の所望部分を再加熱した後に焼入れ処理を行う方法も提案されている(以下、高周波誘導加熱を利用した焼入れを、「高周波焼入れ」ということがある。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2007/034911号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
浸炭処理後に一旦徐冷し、その後、所望部分を高周波誘導加熱した直後に急冷して焼入れるという「浸炭・徐冷・高周波焼入れ処理」は、ガス浸炭処理後に油焼入れする従来の「浸炭油焼入れ処理」に比較して、火炎や油を使わずに済み、熱処理時間も短縮することができる。そのため、CO2排出量の低減を図ることができ、地球環境に優しい熱処理技術であるといえる。
【0007】
しかしながら、外周リング部の内周面における軸方向の中央位置にフランジ部が連結されている鋼製歯車材に対して、単純に従来の「浸炭・徐冷・高周波焼入れ処理」を適用した場合、外周リング部に熱処理による歪変形が生じ、十分な寸法精度を有する鋼製歯車が得られない場合があるという問題がある。特に、鋼製歯車の互いに向かいあった2つの歯溝にボールを入れ、その外周寸法を評価するOBD評価において、歯幅方向の中央部のOBD値と両端部OBD値のうち大きい方との差であるOBDテーパーが悪化するという問題がある。
【0008】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、従来より高い寸法精度を有する鋼製歯車を提供しようとするものである。また、従来よりも高い寸法精度を有する鋼製歯車を得ることが可能な製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明は、外周面に歯形が形成された略円筒状の外周リング部と、該外周リング部の内周面から径方向内方に延設されたフランジ部とを有し、
上記外周リング部は、上記フランジ部との連結部よりも軸方向一方側に突出する第1突出部と軸方向他方側に突出する第2突出部とを備えるとともに、上記第1突出部の軸方向長さと上記第2突出部の軸方向長さとが略同等に設けられており、
上記外周リング部には、上記歯形の表層に形成された浸炭層と、該浸炭層を含み上記外周面から内方に向かう深さが上記浸炭層の深さよりも深い領域であって高周波誘導加熱によりオーステナイトになるまで加熱された履歴を有する熱履歴層とが形成されており、
上記外周面の歯形の歯底から内方に向かう上記熱履歴層の深さは、上記フランジ部との連結部よりも上記第1突出部および上記第2突出部の方が深く、かつ、上記第1突出部と上記第2突出部とにおいて略同等であることを特徴とする鋼製歯車にある(請求項1)。
【0010】
第2の発明は、外周面に歯形が形成された略円筒状の外周リング部と、該外周リング部の内周面から径方向内方に延設されたフランジ部とを有し、上記外周リング部は、上記フランジ部との連結部よりも軸方向一方側に突出する第1突出部と軸方向他方側に突出する第2突出部とを備えるとともに、上記第1突出部の軸方向長さと上記第2突出部の軸方向長さとが略同等に設けられている鋼製歯車材を準備する準備工程と、
上記鋼製歯車材を減圧下の浸炭ガス中においてオーステナイト化温度以上に加熱し、上記歯形の表層に浸炭層を形成する浸炭工程と、
該浸炭工程に引き続き、マルテンサイト変態する冷却速度よりも遅い冷却速度により上記鋼製歯車材を冷却し、かつ、冷却による組織変態が完了する温度以下まで上記鋼製歯車材を冷却する冷却工程と、
上記鋼製歯車材における上記浸炭層を含み上記外周面から内方に向かう深さが上記浸炭層の深さよりも深い領域を、高周波誘導加熱によりオーステナイトになるまで加熱した後、マルテンサイト変態する冷却速度以上の冷却速度により上記鋼製歯車材を冷却する焼入れ工程とを有し、
該焼入れ工程において、上記外周面の歯形の歯底から内方に向かう上記高周波誘導加熱による加熱深さを、上記フランジ部との連結部よりも上記第1突出部および上記第2突出部の方が深く、かつ、上記第1突出部と上記第2突出部とにおいて略同等になるよう調整することを特徴とする鋼製歯車の製造方法にある(請求項4)。
【発明の効果】
【0011】
第1の発明の鋼製歯車は、外周リング部に形成された上記熱履歴層を有し、外周面の歯形の歯底から内方に向かう熱履歴層の深さは、フランジ部との連結部よりも第1突出部および第2突出部の方が深く、かつ、第1突出部と第2突出部とにおいて略同等である。上記鋼製歯車は、このような構成の熱履歴層を採用したことにより、その製造方法として上記「浸炭・徐冷・高周波焼入れ処理」が適用された場合であっても、上記構成の熱履歴層を実現する限り、高い寸法精度を有する。
【0012】
第2の発明の製造方法は、上記の鋼製歯車を好適に製造することができる方法である。この製造方法では、準備工程において、外周面に歯形が形成された略円筒状の外周リング部と、外周リング部の内周面から径方向内方に延設されたフランジ部とを有する鋼製歯車材を準備する。ここで、この鋼製歯車材の外周リング部は、フランジ部との連結部よりも軸方向一方側に突出する第1突出部と軸方向他方側に突出する第2突出部とを備えるとともに、上記第1突出部の軸方向長さと上記第2突出部の軸方向長さとが略同等に設けられている。つまり、上記鋼製歯車材は、外周リング部の内周面における軸方向の略中央位置にフランジ部が連結されているといえる。上記製造方法では、このような形状の鋼製歯車材に対して「浸炭・徐冷・高周波焼入れ処理」が適用される。
【0013】
すなわち、浸炭工程では、上記鋼製歯車材を減圧下の浸炭ガス中においてオーステナイト化温度以上に加熱し、歯形の表層に浸炭層を形成する。これにより、母材よりも高い炭素濃度を有する浸炭層が歯形の輪郭に沿って導入される。この浸炭工程に引き続き、冷却工程では、マルテンサイト変態する冷却速度よりも遅い冷却速度により鋼製歯車材を冷却し、かつ、冷却による組織変態が完了する温度以下まで鋼製歯車材を冷却する。これにより、外周リング部にマルテンサイト組織を実質的に含まない鋼製歯車材が得られる。
【0014】
その後、焼入れ工程では、上記鋼製歯車材における浸炭層を含み外周面から内方に向かう深さが浸炭層の深さよりも深い領域を、高周波誘導加熱によりオーステナイトになるまで加熱した後、マルテンサイト変態する冷却速度以上の冷却速度により鋼製歯車材を冷却する。これにより浸炭層がマルテンサイト組織となり、歯形の表層が高硬度化される。また、浸炭層を含み外周面から内方に向かう深さが浸炭層の深さよりも深い領域に、高周波誘導加熱によりオーステナイトになるまで加熱された履歴を有する熱履歴層が形成される。
【0015】
上記焼入れ工程において注目すべき点は、外周面の歯形の歯底から内方に向かう高周波誘導加熱による加熱深さを、フランジ部との連結部よりも第1突出部および第2突出部の方が深く、かつ、第1突出部と第2突出部とにおいて略同等になるよう調整する点である。
【0016】
従来、上記形状の鋼製歯車材に対して高周波焼入れを適用する場合、外周面の歯形の歯底から内方に向かう高周波誘導加熱による加熱深さを、外周リング部の軸方向全域にわたって均一な深さとなるように調整するのが通常である。しかし、このような調整を行うと、外周リング部に熱処理による歪変形が生じ、十分な寸法精度が得られない。特に、外周リング部のOBDテーパーが悪化してしまうことが多い。
【0017】
ところが、上述したように、外周面の歯形の歯底から内方に向かう高周波誘導加熱による加熱深さを、フランジ部との連結部よりも第1突出部および第2突出部の方が深く、かつ、第1突出部と第2突出部とにおいて略同等になるよう調整した場合には、焼入れ工程を経た後の鋼製歯車の寸法精度を向上させることができる。特に、外周リング部のOBDテーパーを小さくすることが可能になる。このような知見は、本発明によって初めて見出されたものである。この理由は、以下によるものと推察される。
【0018】
従来のように、外周リング部の外周面の歯形の歯底から内方に向かう高周波誘導加熱による加熱深さを、外周リング部の軸方向全域にわたって均一な深さとなるように調整した場合には、次のようなメカニズムが考えられる。すなわち、外周リング部におけるフランジ部との連結部は、フランジ部による拘束力が大きい。一方、第1突出部および第2突出部の先端部は、フランジ部から離れているために連結部に比べてフランジ部による拘束力が小さい。そのため、高周波誘導加熱時に、第1突出部および第2突出部の先端部側は、熱膨張により径方向外方へ同等程度だけ少し変形する一方、連結部は、上記先端部側に比べ熱膨張による径方向外方へ変形し難いと考えられる。そして、この状態から焼入れにより冷却がなされると、フランジ部があるために連結部は径方向内方に変形し難いが、フランジ部がない第1突出部および第2突出部の先端部側は径方向内方に大きく変形する。そのため、従来の製造方法では、OBDテーパーが大きい状態に歪んだ形状の鋼製歯車が得られるものと考えられる。
【0019】
これに対し、外周面の歯形の歯底から内方に向かう高周波誘導加熱による加熱深さを、フランジ部との連結部よりも第1突出部および第2突出部の方が深く、かつ、第1突出部と第2突出部とにおいて略同等になるよう調整した場合には、次のようなメカニズムが考えられる。すなわち、高周波誘導加熱時に上記加熱深さの調整を行うと、加熱深さを均一に調整した場合に比べて、第1突出部の先端部側と第2突出部の先端部側とが径方向外方へ同等程度だけ大きく変形すると考えられる。そして、この状態から焼入により冷却がなされると、第1突出部の先端部側および第2突出部の先端部側は、高周波誘導加熱時と同等程度だけ径方向内方へ変形すると考えられる。これにより最終的にはOBDテーパーが小さな形状の鋼製歯車が得られるものと考えられる。
【0020】
また、上記製造方法によれば、浸炭層を含み外周面の歯形の歯底から内方に向かう深さが浸炭層の深さよりも深い領域についても部分的に高周波焼入れされるので、内部の硬度が増加する。そのため、高い寸法精度が要求され、かつ、歯形の表層だけでなくその内部まで応力が掛かるディファレンシャルギヤのような高トルク伝達歯車等に好適な、高寸法精度かつ高強度を有する鋼製歯車を得ることができる。また、従来のガス浸炭処理後に油焼入れする「浸炭油焼入れ処理」による同形状の鋼製歯車に比べ、ショットピーニング処理を施さなくとも、同等程度の高強度化を図ることができる。
【0021】
また、上記製造方法は、従来の「浸炭油焼入れ処理」に比較して、火炎や油を使わずに済み、熱処理時間も短縮することができる。そのため、CO2排出量の低減を図ることができ、地球環境にも優しい。また、熱処理ライン長を短くできる。そのため、コンパクトな鋼製歯車の製造ラインを構築することができる。
【0022】
以上、第1の発明によれば、従来より高い寸法精度を有する鋼製歯車を提供することができる。また、第2の発明によれば、従来よりも高い寸法精度を有する鋼製歯車を得ることが可能な製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施例1に係る鋼製歯車(ディファレンシャルギヤ)を示す説明図であり、(a)は平面図、(b)はA−A断面図である。
【図2】実施例1に係る鋼製歯車の外周リング部を示す説明図であり、(a)は歯底に沿った切断面を模式的に示した断面図、(b)はB−B断面の一部を模式的に示した断面図である。
【図3】(a)は実施例1に係る鋼製歯車の製造方法におけるヒートパターンの一例を示す説明図、(b)は従来の浸炭油焼入れによる鋼製歯車の製造方法におけるヒートパターンの一例を示す説明図である。
【図4】実施例1に係る鋼製歯車の製造方法における高周波誘導加熱時の状況を示す説明図である。
【図5】実施例における、T/W(%)とOBD変化量との関係を示す説明図である。
【図6】比較例1に係る鋼製歯車の製造方法における高周波誘導加熱時の状況を示す説明図である。
【図7】実施例1、比較例1に係る鋼製歯車の製造方法における各工程後の鋼製歯車材、実施例1、比較例1に係る鋼製歯車の歪発生状況を示す説明図である。
【図8】比較例1に係る鋼製歯車の製造方法において、OBDテーパーが大きな形状の鋼製歯車が得られる推定メカニズムを示す説明図であり、(a)は浸炭工程前の状態、(b)は焼入れ工程における高周波誘導加熱時の状態、(c)は焼入れ工程における冷却後の状態を示したものである。
【図9】実施例1に係る鋼製歯車の製造方法において、OBDテーパーが小さな形状の鋼製歯車が得られる推定メカニズムを示す説明図であり、(a)は浸炭工程前の状態、(b)は焼入れ工程における高周波誘導加熱時の状態、(c)は焼入れ工程における冷却後の状態を示したものである。
【図10】実施例1に係る鋼製歯車の切断面の写真および金属組織の写真であり、(a)は浸炭層、(b)は熱履歴層、(c)は熱履歴層よりも内部における金属組織の写真である。
【図11】実施例1に係る鋼製歯車の硬度分布を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
上記鋼製歯車において、外周リング部の第1突出部の軸方向長さと第2突出部の軸方向長さとは略同等に形成されている。ここで、上記「第1突出部の軸方向長さ」とは、外周リング部の内周面に連結するフランジ部の第1突出部側の連結位置から第1突出部の先端部までの距離をいう。また、上記「第2突出部の軸方向長さ」とは、外周リング部の内周面に連結するフランジ部の第2突出部側の連結位置から第2突出部の先端部までの距離をいう。なお、上記「軸方向の長さが略同等」とは、第1突出部および第2突出部の軸方向長さが完全に同一である場合だけではなく、歯車設計上は各軸方向長さが同じ長さとされているが、製造上のバラつきなどによって各軸方向長さがわずかに異なる場合、つまり、実質的に同じ長さであるとみなせる場合も含む意味である。
【0025】
上記鋼製歯車を構成する鋼材の基本化学成分は、好ましくは、C含有量が0.1〜0.4質量%の範囲内、より好ましくは、0.15〜0.25質量%の範囲内であるとよい。上記「基本化学成分」とは、浸炭処理によって表層の炭素濃度が増える前の母材、つまり鋼そのものの基本的な化学成分を意味する。C含有量の下限が0.15質量%以上であると、歯車内部の強度を確保しやすくなる。一方、C含有量の上限が0.25質量%以下であると、鋼製歯車の靱性、切削性を良好な範囲にしやすくなる。他の化学成分については、浸炭に最適な成分を種々選択すればよい。
【0026】
上記鋼製歯車を構成する母材としての鋼材は、具体的には、SCM420(JIS)や、C含有量が上記範囲内にある各種の公知の浸炭用鋼などを例示することができる。
【0027】
上記外周リング部の浸炭層は、例えば、外周面に形成された歯形の輪郭に沿って存在させることができる。浸炭層は、後述する高周波誘導加熱の後に焼入れされ、母材よりも高い硬度を有している。浸炭層の炭素濃度は、鋼製歯車を構成する鋼材の母材の炭素濃度よりも高くなっている。浸炭層の炭素濃度は、ディファレンシャルギヤ等の自動車部品として望ましい表面硬度を得る、耐摩耗性、ピッチング強度などの観点から、好ましくは、0.50〜0.90%、より好ましくは、0.50〜0.70%であるとよい。
【0028】
上記外周リング部の熱履歴層は、浸炭層を含み、外周面から内方に向かう深さが浸炭層の深さよりも深い領域に存在する層である。上記熱履歴層は、外周面に形成された歯形の歯の部分については、歯の表面に形成された浸炭層を含み、歯先から歯底円までの間の領域に存在していてもよいし、さらに歯底円よりも径方向内方の領域に存在していてもよい。一方、上記熱履歴層は、外周面に形成された歯形の歯と歯の間である歯溝の部分については、歯底の表面に形成された浸炭層を含み、歯底から内方に向かう深さが浸炭層の深さよりも深い領域に存在している。
【0029】
上記熱履歴層は、高周波誘導加熱によりオーステナイトになるまで加熱された履歴を有する層である。したがって、この熱履歴層よりも内部の領域であって高周波誘導加熱によりオーステナイトになるまで加熱されていない領域とは、金属組織が異なっている。そのため、歯底に沿って切断した場合、簡易には切断面における金属組織の違いに起因する色の付き方から、詳細には切断面における金属組織観察から、歯底よりも内側に存在する熱履歴層と熱履歴層より内部の領域とを区別することが可能である。同様に、軸方向と垂直な方向に歯を切断すれば、歯先から歯底までの間に存在する熱履歴層や、さらには歯底よりも内部に存在しうる熱履歴層を確認することが可能である。
【0030】
ここで、上記鋼製歯車は、外周面の歯形の歯底から内方に向かう上記熱履歴層の深さが、フランジ部との連結部よりも第1突出部および第2突出部の方が深く、かつ、第1突出部と第2突出部とにおいて略同等にされている。つまり、上記鋼製歯車の歯底に沿って切断し、その切断面を確認した場合、上記鋼製歯車は、フランジ部との連結部よりも第1突出部および第2突出部の方が熱履歴層の深さが深いという深さ分布を有している。そして、この深さ分布において、第1突出部側と第2突出部側の両方に熱履歴層の深さのピークが存在しており、2つの深さピークが略同等の大きさになっている。
【0031】
ここで、上記鋼製歯車は、外周面の歯形の歯底から内方に向かう上記熱履歴層の深さをT、外周面の歯形の歯底から内周面までの距離をWとした場合、フランジ部との連結部におけるT/Wよりも第1突出部におけるT/Wおよび第2突出部におけるT/Wの方が大きく、かつ、第1突出部におけるT/Wと第2突出部におけるT/Wとは略同等であることが好ましい(請求項2)。
【0032】
この場合には、外周面の歯形の歯底から内周面までの距離を考慮して、第1突出部および第2突出部における熱履歴層の深さが調整されている。そのため、この鋼製歯車は、外周リング部のOBDテーパーが小さく、高い寸法精度を有する。さらに、浸炭層だけでなく、浸炭層より内部も高硬度化されているので、高い強度を有する。
【0033】
この場合も上記と同様に、上記鋼製歯車は、フランジ部との連結部におけるT/Wよりも第1突出部におけるT/Wおよび第2突出部におけるT/Wの方が大きく、かつ、第1突出部におけるT/Wと第2突出部におけるT/Wとは略同等の大きさである深さ分布とすることができる。つまり、この深さ分布において、第1突出部側と第2突出部側の両方にT/Wのピークを存在させ、2つの深さピークを略同等の大きさとすることができる。
【0034】
なお、上述の熱履歴層に関して「深さやT/Wが略同等」とは、第1突出部と第2突出部における熱履歴層の深さやT/Wが完全に一致している場合だけではなく、製造上のバラつきなどによって第1突出部と第2突出部における熱履歴層の深さやT/Wが多少異なっているが、本発明と同じ効果が得られ、実質的に同じ深さ、同じ大きさのT/Wであるとみなせる場合も含む意味である。後述する高周波誘導加熱に関して「加熱深さやT/Wが略同等」という場合も同様である。
【0035】
寸法精度の向上効果と内部硬度の上昇による高強度化とのバランスなどの観点から、第1突出部および第2突出部におけるT/Wは、好ましくは、30〜60%、より好ましくは、35〜55%、さらに好ましくは、40〜50%の範囲内にあるとよい。一方、フランジ部との連結部におけるT/Wは、好ましくは、10〜35%、より好ましくは、15〜30%の範囲内にあるとよい。なお、第1突出部および第2突出部におけるT/Wとフランジ部との連結部におけるT/Wとを重複する範囲から選択する場合には、フランジ部との連結部におけるT/Wよりも第1突出部および第2突出部におけるT/Wが大きくなるように選択することになる。
【0036】
また、上記鋼製歯車において、外周リング部は、浸炭層がマルテンサイト組織からなり、熱履歴層のうち浸炭層を除いた部分がフェライト・マルテンサイト組織からなり、熱履歴層より内部がフェライト・パーライト組織からなることが好ましい(請求項3)。
【0037】
この場合には、寸法精度と強度とのバランスに優れる。そのため、高い寸法精度が要求され、かつ、歯形の表層だけでなくその内部まで応力が掛かるディファレンシャルギヤのような高トルク伝達歯車等として好適に用いることができる。
【0038】
次に、上記鋼製歯車の製造方法における各工程は、以下のようにすることが好ましい。
すなわち、上記浸炭工程は、具体的には、大気圧よりも低く減圧した減圧下の浸炭ガス中において行うことが有効である。この場合には、高温の浸炭炉の内部を減圧状態に維持しながら比較的少量の浸炭ガスによって浸炭処理を行うことができるので、従来よりも効率よく浸炭処理を行うことができる。また、従来の大型の熱処理炉を用いた長時間の加熱処理が不要となるので、処理時間の短縮および消費エネルギーの低減、さらには、浸炭焼入れ設備そのものの小型化を図ることができる。
【0039】
また、上記浸炭工程は、1〜100hPaの減圧条件下において行うことが好ましい。浸炭時の減圧が1hPa以上の場合には真空度維持のために高価な設備を不要にできるという利点がある。一方、100hPa以下の場合には浸炭中にススが発生し難く、浸炭濃度ムラが生じ難いという利点がある。上記浸炭ガスとしては、例えば、アセチレン、プロパン、ブタン、メタン、エチレン、エタン等の炭化水素系のガスを適用することができる。
【0040】
また、上記浸炭工程は、浸炭処理後における上記鋼製歯車材の歯面の表面炭素濃度が0.50%〜0.70%の範囲となる条件で行うことが好ましい。この場合には、浸炭層を共析鋼以下の炭素量とすることとなり、焼入れ時の加熱により、オーステナイト変態させ、その後の急冷にて、セメンタイトを析出させずにマルテンサイト組織としやすくなる。
【0041】
また、上記冷却工程は、少なくとも上記鋼製歯車材が冷却中にマルテンサイト変態する冷却速度よりも遅い徐冷条件で行う。これにより、マルテンサイト変態に伴う歪みの発生を抑制することができ、形状精度に優れた状態で浸炭処理を終えることができる。
【0042】
より具体的には、上記冷却工程は、少なくとも上記鋼製歯車材の温度がA1変態点温度以上にある間の冷却速度が0.1℃/秒〜3.0℃/秒となる徐冷条件で行うことが好ましい。上記冷却速度が3.0℃/秒以下である場合には、冷却時の歪み発生抑制効果を十分に得やすくなる。一方、上記冷却工程の冷却速度が0.1℃/秒以上である場合には、A1変態点温度へ到達するまでの時間が長時間となり難い。そのため、浸炭した炭素の鋼中における拡散スピードにバラツキが生じ難く、結果的に炭素濃度のバラツキを抑制しやすくなる。
【0043】
また、上記冷却工程は、冷却ガス中において、該冷却ガスを大気圧よりも低く減圧した状態で行うことが好ましい。これにより、冷却時の歪み発生をよりいっそう抑制することができる。
【0044】
このような冷却ガスの減圧による効果を利用した冷却工程を採用した場合には、鋼製歯車材の歪み発生を抑制した状態で次の焼き入れ工程に進めることができる。この効果は、冷却速度を遅くした徐冷を採用し、減圧徐冷とした場合に最も高くなる。そして、これに加え、上述した高周波誘導加熱を利用した焼入れ工程によるメリットも活かせば、焼入れ後の鋼製歯車の寸法精度を歪みの少ない高精度のものとしやすくなる。
【0045】
また、上記浸炭工程において減圧浸炭を採用し、冷却工程において減圧冷却を採用し、これらを連続で行うようにした場合には、実際の設備では、減圧浸炭室と減圧冷却室とを直接繋ぐことができる。そのため、両室の間に減圧度を調整するような予備室等を設ける必要がない。すなわち、この場合には、浸炭工程と冷却工程とが両方とも減圧状態で行われるので、両工程間の圧力差を小さくすることができる。そのため、減圧浸炭処理を終えた鋼製歯車材を常圧状態にさらすことなく減圧冷却処理することができ、歪み発生を抑制した効率のよい処理が可能となる。
【0046】
また、上記冷却工程の冷却ガスの減圧条件は、より具体的には、100hPa〜650hPaであることが好ましい。上記の減圧冷却処理は、この場合の圧力が100〜650hPaの範囲よりも高い場合には、減圧による効果が十分に得られない場合があり、一方、この範囲よりも低くすることは設備構成上困難となるおそれがある。そのため、より好ましくは、上記冷却ガスの減圧状態は、100hPa〜300hPaの範囲とするのがよい。
【0047】
また、上記焼入れ工程では、鋼のオーステナイト化温度としては比較的低い範囲の温度(例えば750℃〜950℃)を選択し、高周波誘導加熱時の投入エネルギーも比較的小さくして、加熱時間を比較的長い時間とすることが好ましい。具体的には、上記加熱時間の下限は、好ましくは、10秒、より好ましくは、15秒、さらに好ましくは、20秒であるとよい。生産性などを考慮すると、上記加熱時間の上限は、好ましくは、35秒、より好ましくは、30秒、さらに好ましくは、25秒であるとよい。
【0048】
このように加熱時間を比較的長い時間とした場合には、伝熱によって表面から深さ1mm以上の深い部分まで加熱しやすい。つまり、高周波誘導加熱の条件をこのような低温長時間加熱とした場合には、浸炭層の領域だけでなく、その内部奥深くまで加熱が可能になる。この際、外周リング部のおける内周面の略中央位置にはフランジ部が存在しているため、外周リング部のフランジ部との連結部では熱が奪われる。一方、外周リング部の第1突出部および第2突出部では、フランジ部により熱が奪われ難いので、連結部に比べてより内部奥深くまで加熱しやすくなる。したがって、加熱時間を上記範囲とした場合には、高周波誘導加熱による加熱深さを、フランジ部との連結部よりも第1突出部および第2突出部の方が深く、かつ、第1突出部と第2突出部とにおいて略同等になるよう調整しやすくなる。
【0049】
また、上記焼入れ工程では、外周面の歯形の歯底から内方に向かう高周波誘導加熱による加熱深さをT、外周面の歯形の歯底から内周面までの距離をWとした場合、高周波誘導加熱による加熱深さの調整を、フランジ部との連結部におけるT/Wよりも第1突出部におけるT/Wおよび第2突出部におけるT/Wの方が大きく、かつ、第1突出部におけるT/Wと第2突出部におけるT/Wとが略同等になるよう調整することが好ましい(請求項5)。
【0050】
この場合には、外周面の歯形の歯底から内周面までの距離を考慮して、第1突出部、第2突出部および連結部における上記高周波誘導加熱による加熱深さを調整することができる。そのため、外周リング部のOBDテーパーが小さく、高い寸法精度を有する鋼製歯車が得られる。さらに、浸炭層だけでなく、浸炭層より内部も高硬度化することができるので、高い強度を有する鋼製歯車が得られる。なお、高周波誘導加熱手段には、公知のものを適用することができる。
【0051】
第1突出部、第2突出部および連結部における高周波誘導加熱による加熱深さを、上記のように調整する方法は、特に限定されるものではない。具体的な調整方法としては、例えば、高周波誘導加熱による加熱時間や投入するエネルギーを可変させたり、高周波誘導加熱手段のコイルの内径と歯車の歯先大径とのクリアランスを可変させたり、コイルの軸方向の幅を可変させたり、コイルの巻き数を調整し、連結部よりも第1突出部および第2突出部の方がより加熱されるように設定したり、高周波誘導加熱時にフランジ部を冷却して連結部だけを優先的に冷却したりするなどの方法を例示することができる。
【0052】
また、上記高周波誘導加熱時には、第1突出部の先端部および第2突出部の先端部を治具により把持することが好ましい。上記の各先端部は、高周波誘導加熱時に過度に加熱されやすい箇所である。そのため、これら各先端部を治具にて把持すれば、治具により各先端部が抜熱されるので、各先端部が溶融するのを回避しやすくなる。フランジ部との連結部よりも第1突出部および第2突出部において高周波誘導加熱による加熱深さを深く調整する必要のある上記製造方法では、特に有効である。
【0053】
また、上記高周波誘導加熱後における鋼製歯車材の冷却は、水冷により行うことが好ましい。すなわち、高周波誘導加熱を利用すれば、鋼製歯車材の全体ではなく歯形面側の加熱を精度よく行うことができる。そのため、その後、非常に冷却効果の高い水を用いて水焼入れしても、従来の「浸炭油焼入れ処理」を施す場合に比べて焼入れ歪みの発生を抑制しやすい。そして、水冷による優れた急冷効果によって、焼入れ特性を高くすることができ、焼入れ部分のさらなる高強度化を図ることができる。また、この高強度化を利用して、浸炭処理の簡易化(処理時間の短縮)、つまり、浸炭層の薄肉化をしても要求強度を具備することができる場合があり、この場合には熱処理工程全体のさらなる時間短縮を図ることも可能である。
【0054】
また、上記高周波誘導加熱による加熱は、上記鋼製歯車材を1個流しで処理し、加熱後の冷却時には、鋼製歯車材を回転させながら、周囲から冷却水を鋼製歯車材に向かって噴射して冷却することが好ましい。この場合には、冷却時に均一に冷やすことができ、さらに歪みの発生を抑えることができる。
【実施例】
【0055】
以下、実施例に係る鋼製歯車およびその製造方法につき、図面を用いて具体的に説明する。なお、本例の鋼製歯車は、ディファレンシャルギヤに適用したものである。また、符号は、適宜使用する。
【0056】
先ず、実施例1に係る鋼製歯車の概略構成を説明する。図1に示すように、鋼製歯車1は、外周面20aに歯形10が形成された略円筒状の外周リング部2と、外周リング部2の内周面20bから径方向内方に延設されたフランジ部3とを有している。外周リング部2は、フランジ部3との連結部Lよりも軸方向一方側に突出する第1突出部21と、フランジ部3との連結部Lよりも軸方向他方側に突出する第2突出部22とを備えている。そして、第1突出部21の軸方向長さと第2突出部22の軸方向長さとは略同等に設けられている。本例では、外周リング部2の外周面20aの歯形10を、はすば形状とした。なお、歯形10は、図2(b)に示すように、複数の歯101から構成される。歯101の先端が歯先102である。歯101と歯101との間が歯溝103である。歯溝103の底部が歯底104である。各歯底104を結んだ円が歯底円である。
【0057】
図2(a)(b)に拡大して示すように、外周リング部2には、浸炭層4と熱履歴層5とが形成されている。浸炭層4は、歯形10の表層に歯形10の輪郭に沿って形成されている。また、熱履歴層5は、浸炭層4を含み、外周面20aから内方に向かう深さTが浸炭層4の深さよりも深い領域に存在する層である。また、熱履歴層5は、高周波誘導加熱によりオーステナイトになるまで加熱された履歴を有する層である。
【0058】
本例の鋼製歯車1では、図2(a)に示すように、熱履歴層5は、歯底104よりも径方向内方については、歯底104の表層に形成された浸炭層4を含み、かつ、歯底104から内方に向かう深さTが浸炭層4の深さよりも深い領域に存在している。一方、図2(b)に示すように、熱履歴層5は、歯形10の歯101の部分については、歯101の表層に形成された浸炭層4を含み、かつ、歯先102からほぼ歯底円近傍までにわたる領域に存在している。
【0059】
また、本例の鋼製歯車1では、図2(a)に示すように、歯形10の歯底104から内方に向かう熱履歴層5の深さTが、フランジ部3との連結部Lよりも第1突出部21および第2突出部22の方が深く、かつ、第1突出部21と第2突出部22とにおいて略同等とされている。より具体的には、外周面20aの歯形10の歯底104から内方に向かう熱履歴層5の深さをT、外周面20aの歯形10の歯底104から内周面20bまでの距離をWとした場合、フランジ部3との連結部LにおけるT/Wよりも第1突出部21におけるT/Wおよび第2突出部22におけるT/Wの方が大きく、かつ、第1突出部21におけるT/Wと第2突出部22におけるT/Wとは略同等の大きさとされている。つまり、鋼製歯車1は、フランジ部3との連結部Lよりも第1突出部21および第2突出部22の方が熱履歴層5の深さが深いという深さ分布を有している。そして、この深さ分布において、第1突出部21側と第2突出部22側の両方に熱履歴層5の深さのピークが存在しており、2つの深さピークが略同等の大きさになっている。
【0060】
次に、実施例1に係る鋼製歯車の製造方法と、この製造方法により得られた実施例1に係る鋼製歯車についての評価結果について説明する。
【0061】
初めに、浸炭に適したSCM420(JIS)を素材として用い、熱間鍛造によって図1に示した形状を有する鋼製歯車材を準備した。鋼製歯車材の第1突出部21の軸方向長さ(フランジ部3の第1突出部21側の連結位置L1から第1突出部21の先端部までの距離)は、11mm、第2突出部22の軸方向長さ(フランジ部3の第2突出部22側の連結位置L2から第2突出部22の先端部までの距離)は、11mmの設定とした。フランジ部3の肉厚は、8mmの設定とした。なお、フランジ部3は、ボルト等の締結部材を挿通するための挿通孔31を周方向に複数有している。また、本例では、鋼製歯車材の外周リング部2における上記Wの値は、軸方向全長において一定の8.88mmの設定とした。
【0062】
次いで、上記準備した鋼製歯車材に対して「浸炭・徐冷・高周波焼入れ処理」を行った。以下、具体的に説明する。
【0063】
図3は、横軸に時間を、縦軸に温度を取り、熱処理中における鋼製歯車材の温度をヒートパターンとして示したものである。実施例1に係る鋼製歯車の製造方法は、図3(a)のヒートパターンAに示すように、浸炭温度である950℃まで70分かけて加熱し、その温度で80分間保持して浸炭工程a1を行った後、この浸炭工程a1に引き続いて、40分かけて150℃以下の温度まで徐冷する冷却工程a2を行い、その後、再度焼入れ温度である950℃まで高周波誘導加熱により急速加熱した後に水焼入れする焼入れ工程a3を行うというものである。
【0064】
実施例1に係る鋼製歯車の製造方法は、浸炭工程a1の前に鋼製歯車材を洗浄するための前洗槽と、加熱室、減圧浸炭室、および減圧冷却室を備えた減圧浸炭徐冷装置と、高周波焼入れ装置と、欠陥を検査するための磁気探傷装置とを備えた熱処理設備を用いて行った。
【0065】
なお、従来広く知られる鋼製歯車の製造方法は、例えば、図3(b)のヒートパターンBに示すように、浸炭温度である950℃まで70分かけて加熱し、その温度で220分間保持する浸炭工程b1を行い、その後、焼入れ温度である850℃に保持した後、油焼入れする工程b2を行い、さらに、油焼入れ時に付着した冷却油を洗い落とす後洗工程b3と焼き戻し工程b4を行うといったものである。
【0066】
図3(b)のヒートパターンBを有する従来の鋼製歯車の製造方法は、浸炭工程b1の前に鋼製歯車材を洗浄するための前洗槽と、加熱・浸炭を行うための浸炭炉および焼入れ油槽とを備えた長大な浸炭炉と、浸炭油焼入れ後に鋼製歯車材を洗浄するための後洗槽と、焼戻し処理を行う焼戻し炉とを備えた熱処理設備を用いて行われる。したがって、この「浸炭油焼入れ処理」による従来の鋼製歯車の製造方法に比較して、実施例1の鋼製歯車の製造方法は、火炎や油を使わず、熱処理時間も短縮することができる点で、CO2排出量の低減でき、地球環境にも優しいといえる。また、熱処理ライン長を短くできるため、コンパクトな鋼製歯車の製造ラインを構築することができるといえる。
【0067】
実施例1に係る鋼製歯車の製造方法は、上記熱処理設備を用いて以下のように行った。すなわち、本例の製造方法では、具体的には、図3(a)のヒートパターンAに示すように、大気圧よりも低く減圧した減圧下の浸炭ガス中において準備した鋼製歯車材を浸炭処理する浸炭工程a1と、この浸炭工程a1に引き続き、鋼製歯車材を冷却ガス中において冷却するに当たり、冷却ガスを大気圧よりも低く減圧した状態で冷却する冷却工程a2と、冷却された鋼製歯車材を再度高周波誘導加熱によって加熱した後に水焼入れする焼入れ工程a3とを行った。
【0068】
上記浸炭工程a1は、浸炭期および拡散期からなる浸炭処理として鋼製歯車材をオーステナイト化温度以上の温度である950℃で80分間保持することによって行った。この際の減圧浸炭室の減圧条件は、1〜3.5hPaとし、浸炭ガスとしてはアセチレンを用いた。
【0069】
上記冷却工程a2における冷却には減圧徐冷を採用した。この際の減圧条件は600hPaとした。また、冷却雰囲気ガスは窒素(N2)とした。また、鋼製歯車材の冷却速度は、浸炭処理直後のオーステナイト化温度以上の温度からA1変態点よりも低い150℃の温度となるまで、0.1〜3.0℃/秒の範囲内とした。
【0070】
上記焼入れ工程a3は、図3(a)に示すように、鋼製歯車材における外周リング部2の歯形面側を高周波誘導加熱によってオーステナイト化温度以上の温度に加熱する昇温手順a31と、その後、浸炭層4においてマルテンサイト変態する急冷臨界冷却速度以上の冷却速度が容易に得られるように、水を噴射して水焼入れする急冷手順a32とを含んでいる。
【0071】
また、昇温手順a31は、高周波誘導加熱におけるエネルギー投入量を約1800kJとするとともに、比較的長時間の25秒かけて行った。一方、急冷手順a32は、14秒で行い、その冷却速度は、50〜60℃/秒とした。
【0072】
この際、外周リング部2における歯形面側の加熱は、図4に示すように、外周リング部2の第1突出部21の先端部と第2突出部22の先端部とを治具9a、9bにて把持しつつ行った。この治具9a、9bによって各先端部の熱を奪うことにより、各先端部の過熱による溶融を簡易に回避することができる。また、高周波誘導加熱手段のコイル8は、鋼製歯車材の軸方向の幅が同じものを用い、歯形10が形成された外周面20aと離間させた状態で対向させた。上記離間距離は2mmとした。
【0073】
上記高周波誘導加熱時の冷却により、外周面20aの歯形10の歯底104から内方に向かう高周波誘導加熱による加熱深さTを、フランジ部3との連結部Lよりも第1突出部21および第2突出部22の方が深く、かつ、第1突出部21と第2突出部22とにおいて略同等になるよう調整した。より具体的には、外周面20aの歯形10の歯底104から内方に向かう高周波誘導加熱による加熱深さをT、外周面20aの歯形10の歯底104から内周面20bまでの距離をWとした場合、高周波誘導加熱による加熱深さの調整を、フランジ部3との連結部LにおけるT/Wよりも第1突出部21におけるT/Wおよび第2突出部22におけるT/Wの方が大きく、かつ、第1突出部21におけるT/Wと第2突出部22におけるT/Wとが略同等になるよう調整した。このようにして実施例1に係る鋼製歯車1の製造を行い、実施例1に係る鋼製歯車1を得た。
【0074】
ここで、上記焼入れ工程a3において、外周面20aの歯形10の歯底104から内方に向かう高周波誘導加熱による加熱深さTを、フランジ部3との連結部Lよりも第1突出部21および第2突出部22の方が深く、かつ、第1突出部21と第2突出部22とにおいて略同等になるよう調整したのは、次の試験結果に基づくものである。すなわち、図5は、高周波誘導加熱時における加熱条件を種々変更することによってT/W(%)を種々の割合に調整した場合における、外周リング部2の所定位置のOBD変化量(μm)をプロットしたものである。
【0075】
外周リング部2の所定位置は、図2(a)に示すように、第1突出部21の先端部からフランジ部3側に3mm内側の位置(以下、Fr位置という。)、外周リング部2の軸方向の中央(歯幅の中点であり、フランジ部3との連結部L)の位置(以下、Mid位置という。)、第2突出部22の先端部からフランジ部3側に3mm内側の位置(以下、Rr位置という。)とした。また、上記OBD変化量は、焼入れ工程a3後の鋼製歯車1の各所定位置におけるOBD値と、冷却工程a2後の鋼製歯車材の各所定位置におけるOBD値との差より求めた。なお、上記OBD値は、図1に示すように、互いに向かいあった2つの歯溝にボールOB1、OB2を入れ、各位置における外周寸法を専用のOBD測定器を用いて全周について測定し、その結果得られた各測定値の平均値である。
【0076】
この図5からわかるように、T/W(%)とOBD変化量(μm)との関係には、相関関係があることがわかる。また、Fr位置およびRr位置におけるOBD変化量とMid位置におけるOBD変化量とを同等程度とするには、Mid位置におけるT/WよりもFr位置およびRr位置におけるT/Wを大きくするとよいことがわかる。また、Fr位置およびRr位置におけるOBD変化量を同等程度とするには、Fr位置およびRr位置におけるT/Wを同等程度とするとよいことがわかる。つまり、この試験結果から、高周波誘導加熱による加熱深さの調整を、フランジ部3との連結部LにおけるT/Wよりも第1突出部21におけるT/Wおよび第2突出部22におけるT/Wの方が大きく、かつ、第1突出部21におけるT/Wと第2突出部22におけるT/Wとが略同等になるよう調整することにより、OBDテーパーの小さな鋼製歯車1が得られることがわかる。また、OBD変化量を一定値(例えば、図の横線)とするには、第1突出部21および第2突出部22におけるT/Wは、好ましくは、30〜60%、より好ましくは、35〜55%、さらに好ましくは、40〜50%の範囲内に調整するとよいことがわかる。一方、フランジ部3との連結部LにおけるT/Wは、好ましくは、10〜35%、より好ましくは、15〜30%の範囲内に調整するとよいことがわかる。
【0077】
また、上述した実施例1に係る鋼製歯車1の製造方法の比較例として、図6に示すように、外周面20aの歯形10の歯底104から内方に向かう高周波誘導加熱による加熱深さTを、外周リング部2の軸方向全域にわたってほぼ等しくなるように調整した以外は同様にして、比較例1に係る鋼製歯車の製造を行い、比較例1に係る鋼製歯車を得た。なお、この際の加熱深さTの調整は、本例の製造方法における昇温手順a31において、高周波誘導加熱におけるエネルギー投入量を約1400kJ、加熱時間を13秒とした点以外は同様にして調整を行った。
【0078】
次に、実施例1、比較例1に係る鋼製歯車の製造方法における各工程を経た後の鋼製歯車材、これら製造方法によって得られた実施例1、比較例1に係る鋼製歯車についての歪発生状況を調べた。その結果を図7に示す。なお、図7のOBD値は、上述した方法で測定した値である。OBDテーパーは、Mid位置のOBD値と、Fr位置のOBD値およびRr位置のOBD値のうち大きい方との差の絶対値である。また、図7の各欄に示した表記において、Fr位置、Mid位置、Rr位置の3か所についてそれぞれ最大値、最小値、平均値がプロットされ、最大値と最小値とが線で結ばれている。また、3か所の位置の各平均値の間が線で結ばれている。
【0079】
図7からわかるように、比較例1によれば、寸法精度が悪く、OBDテーパーが大きい状態に歪んだ形状の鋼製歯車しか得られないことがわかる。これに対して、実施例1によれば、高い寸法精度を有し、OBDテーパーが小さな形状の鋼製歯車が得られることがわかる。この理由は、以下によるものと推察される。
【0080】
図8に示す比較例1のように、歯底104から内方に向かう高周波誘導加熱による加熱深さTを、外周リング部2の軸方向全域にわたって均一な深さとなるように調整した場合には、次のようなメカニズムが考えられる。すなわち、外周リング部2におけるフランジ部3との連結部Lは、フランジ部3による拘束力が大きい。一方、第1突出部21および第2突出部22の先端部は、フランジ部3から離れているために連結部Lに比べてフランジ部3による拘束力が小さい。そのため、高周波誘導加熱時に、第1突出部21および第2突出部22の先端部側は、熱膨張により径方向外方へ同等程度だけ少し変形する一方(矢印R)、連結部Lは、上記先端部側に比べ熱膨張による径方向外方への変形し難いと考えられる。そして、この状態から焼入れにより冷却がなされると、フランジ部3があるために連結部Lは径方向内方に変形し難いが、フランジ部3がない第1突出部21および第2突出部22の先端部側は径方向内方に大きく変形する(矢印r)。そのため、比較例1では、OBDテーパーが大きい状態に歪んだ形状の鋼製歯車が得られたものと考えられる。
【0081】
これに対し、図9に示す実施例1のように、歯底104から内方に向かう高周波誘導加熱による加熱深さTを、フランジ部3との連結部Lよりも第1突出部21および第2突出部22の方が深く、かつ、第1突出部21と第2突出部22とにおいて略同等になるよう調整した場合には、次のようなメカニズムが考えられる。すなわち、高周波誘導加熱時に上記加熱深さTの調整を行うと、加熱深さTを均一に調整した場合に比べて、第1突出部21の先端部側と第2突出部22の先端部側とが径方向外方へ同等程度だけ大きく変形すると考えられる(矢印R1)。そして、この状態から焼入れにより冷却がなされると、第1突出部21の先端部側および第2突出部22の先端部側は、高周波誘導加熱時と同等程度だけ径方向内方へ変形すると考えられる(矢印r1)。これにより最終的にはOBDテーパーが小さな形状の鋼製歯車が得られるものと考えられる。
【0082】
次に、実施例1に係る鋼製歯車について、歯形10の歯底104に沿って切断し、その切断面の金属組織観察を行った。具体的には、上記切断面を硝酸3〜5%のアルコール溶液で腐食し、光学顕微鏡にて観察を行った。図10に、実施例1に係る鋼製歯車の切断面の写真とともに金属組織の写真を示す。図10に示すように、上記切断面によれば、歯底104の表層に浸炭層4が形成されていることが確認できる。図10(a)に示すように、浸炭層4は、マルテンサイト組織を主体とする層であった。
【0083】
また、上記切断面によれば、浸炭層4を含み、外周リング部2の外周面20a(この場合、歯底104)から内方に向かう深さが浸炭層4よりも深い部分に、フランジ部3との連結部Lよりも第1突出部21および第2突出部22の方が深さの深い層が存在することがわかる。そしてこの層は、第1突出部21および第2突出部22における軸方向の略中央部に略同等の深さの深さピークを有していることが確認できる。また、この層は、この層よりも内部と色の付き方が異なっており、境界線が存在していることも確認できる。外周リング部2の外周面20aから上記境界線までの間の領域であって浸炭層4以外の領域について、金属組織を確認したところ、図10(b)に示すように、フェライト組織とマルテンサイト組織とを主体とすることが確認された。本例では、この層が熱履歴層5に該当する。なお、Fr位置における熱履歴層5の深さは約5.3mm、Mid位置における熱履歴層5の深さは約3.4mm、Rr位置における熱履歴層5の深さは約5.3mmであった。
【0084】
また、図10(c)に示すように、熱履歴層5よりも内部は、フェライト組織とパーライト組織とを主体とすることがわかった。上記結果から、熱履歴層5は、高周波誘導加熱によりオーステナイトになるまで加熱された履歴を有する層であり、この熱履歴層よりも内部は、高周波誘導加熱によりオーステナイトになるまで加熱されていない層であるといえる。上記のように境界線を確認することができるのは、境界線の外方と内方において金属組織、結晶粒度等が異なるためであると考えられる。また、本例において、熱履歴層5はフェライト組織とマルテンサイト組織とを含んでいる。そのため、熱履歴層5の深さT、T/Wの大きさを調整することにより、鋼製歯車1の内部硬度を調整することが可能であることがわかる。なお、外周面20aの表面から50μmの位置における浸炭層4の表面炭素濃度を、X線マクロアナライザーにて測定した。上記表面炭素濃度は、0.6%であった。
【0085】
次に、実施例1に係る鋼製歯車の硬度分布を測定した。具体的には、実施例1に係る鋼製歯車の歯底104の表面からの距離に対するビッカース硬さ(Hv、試験荷重0.3kgf)を測定した。その結果を図11に示す。なお、図11中には、浸炭層4の深さおよびFr位置、Mid位置、Rr位置における熱履歴層5の深さをそれぞれ矢印により併記した。
【0086】
図11によれば、浸炭層4の深さまでは、Fr位置、Mid位置、Rr位置における硬さがほぼ同じであり、歯形面に対して均一な表面硬度を付与できていることがわかる。また、熱履歴層5は、浸炭層4より深い内部の領域では、Fr位置、Mid位置、Rr位置における硬さに差が生じていることがわかる。具体的には、Fr位置、Rr位置における硬さがほぼ同じであり、Mid位置における硬さが低くなっている。これは、高周波誘導加熱による加熱深さを、フランジ部3との連結部Lよりも第1突出部21および第2突出部22の方が深く、かつ、第1突出部21と第2突出部22とにおいて略同等になるよう調整したためである。また、この結果から、熱履歴層5の深さT、T/Wの大きさを調整することにより、有効ハダ焼深さを確保しつつ、高周波誘導加熱によって鋼製歯車の寸法精度を調整することが可能であるといえる。
【0087】
以上、実施例について説明したが、本発明は、上記実施例により限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能なものである。
【符号の説明】
【0088】
1 鋼製歯車
10 歯形
101 歯
102 歯先
103 歯底
104 歯溝
2 外周リング部
20a 外周面
20b 内周面
21 第1突出部
22 第2突出部
L 連結部
3 フランジ部
4 浸炭層
5 熱履歴層
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼製歯車およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、多くの産業分野において鋼製歯車が用いられている。例えば、自動車分野で使用される差動装置等は、多数の鋼製歯車を有している。鋼製歯車には種々の形状がある。例えば、外周面に歯形が形成された円筒状の外周リング部と、該外周リング部の内周面における軸方向の中央位置に連結されたフランジ部とを備えた歯車が広く知られている。
【0003】
鋼製歯車は、高強度、耐摩耗性が要求される部材である。そのため、鋼製歯車には、靱性を維持しつつ表面硬度を高めるための処理として浸炭処理および焼入れ処理が施されることが多い。浸炭処理は、鋼をオーステナイト化温度以上に加熱した状態で表面の炭素濃度を増大させる処理である。通常、この浸炭処理を施した直後に焼入れ処理が行われる。鋼製歯車の歯形面に浸炭処理と焼入れ処理とを実施することにより、歯車内部の靱性を確保するとともに、歯形面の表面硬度を高めることができる。
【0004】
上記浸炭処理および焼入れ処理としては、従来、出側に油焼入れ槽を備えた大型の熱処理炉を用いてガス浸炭処理を長時間行った直後に油焼入れする方法が知られている。最近では、特許文献1に開示されるように、真空浸炭処理を行った後、一旦徐冷し、高周波誘導加熱によって鋼製部材の所望部分を再加熱した後に焼入れ処理を行う方法も提案されている(以下、高周波誘導加熱を利用した焼入れを、「高周波焼入れ」ということがある。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2007/034911号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
浸炭処理後に一旦徐冷し、その後、所望部分を高周波誘導加熱した直後に急冷して焼入れるという「浸炭・徐冷・高周波焼入れ処理」は、ガス浸炭処理後に油焼入れする従来の「浸炭油焼入れ処理」に比較して、火炎や油を使わずに済み、熱処理時間も短縮することができる。そのため、CO2排出量の低減を図ることができ、地球環境に優しい熱処理技術であるといえる。
【0007】
しかしながら、外周リング部の内周面における軸方向の中央位置にフランジ部が連結されている鋼製歯車材に対して、単純に従来の「浸炭・徐冷・高周波焼入れ処理」を適用した場合、外周リング部に熱処理による歪変形が生じ、十分な寸法精度を有する鋼製歯車が得られない場合があるという問題がある。特に、鋼製歯車の互いに向かいあった2つの歯溝にボールを入れ、その外周寸法を評価するOBD評価において、歯幅方向の中央部のOBD値と両端部OBD値のうち大きい方との差であるOBDテーパーが悪化するという問題がある。
【0008】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、従来より高い寸法精度を有する鋼製歯車を提供しようとするものである。また、従来よりも高い寸法精度を有する鋼製歯車を得ることが可能な製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明は、外周面に歯形が形成された略円筒状の外周リング部と、該外周リング部の内周面から径方向内方に延設されたフランジ部とを有し、
上記外周リング部は、上記フランジ部との連結部よりも軸方向一方側に突出する第1突出部と軸方向他方側に突出する第2突出部とを備えるとともに、上記第1突出部の軸方向長さと上記第2突出部の軸方向長さとが略同等に設けられており、
上記外周リング部には、上記歯形の表層に形成された浸炭層と、該浸炭層を含み上記外周面から内方に向かう深さが上記浸炭層の深さよりも深い領域であって高周波誘導加熱によりオーステナイトになるまで加熱された履歴を有する熱履歴層とが形成されており、
上記外周面の歯形の歯底から内方に向かう上記熱履歴層の深さは、上記フランジ部との連結部よりも上記第1突出部および上記第2突出部の方が深く、かつ、上記第1突出部と上記第2突出部とにおいて略同等であることを特徴とする鋼製歯車にある(請求項1)。
【0010】
第2の発明は、外周面に歯形が形成された略円筒状の外周リング部と、該外周リング部の内周面から径方向内方に延設されたフランジ部とを有し、上記外周リング部は、上記フランジ部との連結部よりも軸方向一方側に突出する第1突出部と軸方向他方側に突出する第2突出部とを備えるとともに、上記第1突出部の軸方向長さと上記第2突出部の軸方向長さとが略同等に設けられている鋼製歯車材を準備する準備工程と、
上記鋼製歯車材を減圧下の浸炭ガス中においてオーステナイト化温度以上に加熱し、上記歯形の表層に浸炭層を形成する浸炭工程と、
該浸炭工程に引き続き、マルテンサイト変態する冷却速度よりも遅い冷却速度により上記鋼製歯車材を冷却し、かつ、冷却による組織変態が完了する温度以下まで上記鋼製歯車材を冷却する冷却工程と、
上記鋼製歯車材における上記浸炭層を含み上記外周面から内方に向かう深さが上記浸炭層の深さよりも深い領域を、高周波誘導加熱によりオーステナイトになるまで加熱した後、マルテンサイト変態する冷却速度以上の冷却速度により上記鋼製歯車材を冷却する焼入れ工程とを有し、
該焼入れ工程において、上記外周面の歯形の歯底から内方に向かう上記高周波誘導加熱による加熱深さを、上記フランジ部との連結部よりも上記第1突出部および上記第2突出部の方が深く、かつ、上記第1突出部と上記第2突出部とにおいて略同等になるよう調整することを特徴とする鋼製歯車の製造方法にある(請求項4)。
【発明の効果】
【0011】
第1の発明の鋼製歯車は、外周リング部に形成された上記熱履歴層を有し、外周面の歯形の歯底から内方に向かう熱履歴層の深さは、フランジ部との連結部よりも第1突出部および第2突出部の方が深く、かつ、第1突出部と第2突出部とにおいて略同等である。上記鋼製歯車は、このような構成の熱履歴層を採用したことにより、その製造方法として上記「浸炭・徐冷・高周波焼入れ処理」が適用された場合であっても、上記構成の熱履歴層を実現する限り、高い寸法精度を有する。
【0012】
第2の発明の製造方法は、上記の鋼製歯車を好適に製造することができる方法である。この製造方法では、準備工程において、外周面に歯形が形成された略円筒状の外周リング部と、外周リング部の内周面から径方向内方に延設されたフランジ部とを有する鋼製歯車材を準備する。ここで、この鋼製歯車材の外周リング部は、フランジ部との連結部よりも軸方向一方側に突出する第1突出部と軸方向他方側に突出する第2突出部とを備えるとともに、上記第1突出部の軸方向長さと上記第2突出部の軸方向長さとが略同等に設けられている。つまり、上記鋼製歯車材は、外周リング部の内周面における軸方向の略中央位置にフランジ部が連結されているといえる。上記製造方法では、このような形状の鋼製歯車材に対して「浸炭・徐冷・高周波焼入れ処理」が適用される。
【0013】
すなわち、浸炭工程では、上記鋼製歯車材を減圧下の浸炭ガス中においてオーステナイト化温度以上に加熱し、歯形の表層に浸炭層を形成する。これにより、母材よりも高い炭素濃度を有する浸炭層が歯形の輪郭に沿って導入される。この浸炭工程に引き続き、冷却工程では、マルテンサイト変態する冷却速度よりも遅い冷却速度により鋼製歯車材を冷却し、かつ、冷却による組織変態が完了する温度以下まで鋼製歯車材を冷却する。これにより、外周リング部にマルテンサイト組織を実質的に含まない鋼製歯車材が得られる。
【0014】
その後、焼入れ工程では、上記鋼製歯車材における浸炭層を含み外周面から内方に向かう深さが浸炭層の深さよりも深い領域を、高周波誘導加熱によりオーステナイトになるまで加熱した後、マルテンサイト変態する冷却速度以上の冷却速度により鋼製歯車材を冷却する。これにより浸炭層がマルテンサイト組織となり、歯形の表層が高硬度化される。また、浸炭層を含み外周面から内方に向かう深さが浸炭層の深さよりも深い領域に、高周波誘導加熱によりオーステナイトになるまで加熱された履歴を有する熱履歴層が形成される。
【0015】
上記焼入れ工程において注目すべき点は、外周面の歯形の歯底から内方に向かう高周波誘導加熱による加熱深さを、フランジ部との連結部よりも第1突出部および第2突出部の方が深く、かつ、第1突出部と第2突出部とにおいて略同等になるよう調整する点である。
【0016】
従来、上記形状の鋼製歯車材に対して高周波焼入れを適用する場合、外周面の歯形の歯底から内方に向かう高周波誘導加熱による加熱深さを、外周リング部の軸方向全域にわたって均一な深さとなるように調整するのが通常である。しかし、このような調整を行うと、外周リング部に熱処理による歪変形が生じ、十分な寸法精度が得られない。特に、外周リング部のOBDテーパーが悪化してしまうことが多い。
【0017】
ところが、上述したように、外周面の歯形の歯底から内方に向かう高周波誘導加熱による加熱深さを、フランジ部との連結部よりも第1突出部および第2突出部の方が深く、かつ、第1突出部と第2突出部とにおいて略同等になるよう調整した場合には、焼入れ工程を経た後の鋼製歯車の寸法精度を向上させることができる。特に、外周リング部のOBDテーパーを小さくすることが可能になる。このような知見は、本発明によって初めて見出されたものである。この理由は、以下によるものと推察される。
【0018】
従来のように、外周リング部の外周面の歯形の歯底から内方に向かう高周波誘導加熱による加熱深さを、外周リング部の軸方向全域にわたって均一な深さとなるように調整した場合には、次のようなメカニズムが考えられる。すなわち、外周リング部におけるフランジ部との連結部は、フランジ部による拘束力が大きい。一方、第1突出部および第2突出部の先端部は、フランジ部から離れているために連結部に比べてフランジ部による拘束力が小さい。そのため、高周波誘導加熱時に、第1突出部および第2突出部の先端部側は、熱膨張により径方向外方へ同等程度だけ少し変形する一方、連結部は、上記先端部側に比べ熱膨張による径方向外方へ変形し難いと考えられる。そして、この状態から焼入れにより冷却がなされると、フランジ部があるために連結部は径方向内方に変形し難いが、フランジ部がない第1突出部および第2突出部の先端部側は径方向内方に大きく変形する。そのため、従来の製造方法では、OBDテーパーが大きい状態に歪んだ形状の鋼製歯車が得られるものと考えられる。
【0019】
これに対し、外周面の歯形の歯底から内方に向かう高周波誘導加熱による加熱深さを、フランジ部との連結部よりも第1突出部および第2突出部の方が深く、かつ、第1突出部と第2突出部とにおいて略同等になるよう調整した場合には、次のようなメカニズムが考えられる。すなわち、高周波誘導加熱時に上記加熱深さの調整を行うと、加熱深さを均一に調整した場合に比べて、第1突出部の先端部側と第2突出部の先端部側とが径方向外方へ同等程度だけ大きく変形すると考えられる。そして、この状態から焼入により冷却がなされると、第1突出部の先端部側および第2突出部の先端部側は、高周波誘導加熱時と同等程度だけ径方向内方へ変形すると考えられる。これにより最終的にはOBDテーパーが小さな形状の鋼製歯車が得られるものと考えられる。
【0020】
また、上記製造方法によれば、浸炭層を含み外周面の歯形の歯底から内方に向かう深さが浸炭層の深さよりも深い領域についても部分的に高周波焼入れされるので、内部の硬度が増加する。そのため、高い寸法精度が要求され、かつ、歯形の表層だけでなくその内部まで応力が掛かるディファレンシャルギヤのような高トルク伝達歯車等に好適な、高寸法精度かつ高強度を有する鋼製歯車を得ることができる。また、従来のガス浸炭処理後に油焼入れする「浸炭油焼入れ処理」による同形状の鋼製歯車に比べ、ショットピーニング処理を施さなくとも、同等程度の高強度化を図ることができる。
【0021】
また、上記製造方法は、従来の「浸炭油焼入れ処理」に比較して、火炎や油を使わずに済み、熱処理時間も短縮することができる。そのため、CO2排出量の低減を図ることができ、地球環境にも優しい。また、熱処理ライン長を短くできる。そのため、コンパクトな鋼製歯車の製造ラインを構築することができる。
【0022】
以上、第1の発明によれば、従来より高い寸法精度を有する鋼製歯車を提供することができる。また、第2の発明によれば、従来よりも高い寸法精度を有する鋼製歯車を得ることが可能な製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施例1に係る鋼製歯車(ディファレンシャルギヤ)を示す説明図であり、(a)は平面図、(b)はA−A断面図である。
【図2】実施例1に係る鋼製歯車の外周リング部を示す説明図であり、(a)は歯底に沿った切断面を模式的に示した断面図、(b)はB−B断面の一部を模式的に示した断面図である。
【図3】(a)は実施例1に係る鋼製歯車の製造方法におけるヒートパターンの一例を示す説明図、(b)は従来の浸炭油焼入れによる鋼製歯車の製造方法におけるヒートパターンの一例を示す説明図である。
【図4】実施例1に係る鋼製歯車の製造方法における高周波誘導加熱時の状況を示す説明図である。
【図5】実施例における、T/W(%)とOBD変化量との関係を示す説明図である。
【図6】比較例1に係る鋼製歯車の製造方法における高周波誘導加熱時の状況を示す説明図である。
【図7】実施例1、比較例1に係る鋼製歯車の製造方法における各工程後の鋼製歯車材、実施例1、比較例1に係る鋼製歯車の歪発生状況を示す説明図である。
【図8】比較例1に係る鋼製歯車の製造方法において、OBDテーパーが大きな形状の鋼製歯車が得られる推定メカニズムを示す説明図であり、(a)は浸炭工程前の状態、(b)は焼入れ工程における高周波誘導加熱時の状態、(c)は焼入れ工程における冷却後の状態を示したものである。
【図9】実施例1に係る鋼製歯車の製造方法において、OBDテーパーが小さな形状の鋼製歯車が得られる推定メカニズムを示す説明図であり、(a)は浸炭工程前の状態、(b)は焼入れ工程における高周波誘導加熱時の状態、(c)は焼入れ工程における冷却後の状態を示したものである。
【図10】実施例1に係る鋼製歯車の切断面の写真および金属組織の写真であり、(a)は浸炭層、(b)は熱履歴層、(c)は熱履歴層よりも内部における金属組織の写真である。
【図11】実施例1に係る鋼製歯車の硬度分布を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
上記鋼製歯車において、外周リング部の第1突出部の軸方向長さと第2突出部の軸方向長さとは略同等に形成されている。ここで、上記「第1突出部の軸方向長さ」とは、外周リング部の内周面に連結するフランジ部の第1突出部側の連結位置から第1突出部の先端部までの距離をいう。また、上記「第2突出部の軸方向長さ」とは、外周リング部の内周面に連結するフランジ部の第2突出部側の連結位置から第2突出部の先端部までの距離をいう。なお、上記「軸方向の長さが略同等」とは、第1突出部および第2突出部の軸方向長さが完全に同一である場合だけではなく、歯車設計上は各軸方向長さが同じ長さとされているが、製造上のバラつきなどによって各軸方向長さがわずかに異なる場合、つまり、実質的に同じ長さであるとみなせる場合も含む意味である。
【0025】
上記鋼製歯車を構成する鋼材の基本化学成分は、好ましくは、C含有量が0.1〜0.4質量%の範囲内、より好ましくは、0.15〜0.25質量%の範囲内であるとよい。上記「基本化学成分」とは、浸炭処理によって表層の炭素濃度が増える前の母材、つまり鋼そのものの基本的な化学成分を意味する。C含有量の下限が0.15質量%以上であると、歯車内部の強度を確保しやすくなる。一方、C含有量の上限が0.25質量%以下であると、鋼製歯車の靱性、切削性を良好な範囲にしやすくなる。他の化学成分については、浸炭に最適な成分を種々選択すればよい。
【0026】
上記鋼製歯車を構成する母材としての鋼材は、具体的には、SCM420(JIS)や、C含有量が上記範囲内にある各種の公知の浸炭用鋼などを例示することができる。
【0027】
上記外周リング部の浸炭層は、例えば、外周面に形成された歯形の輪郭に沿って存在させることができる。浸炭層は、後述する高周波誘導加熱の後に焼入れされ、母材よりも高い硬度を有している。浸炭層の炭素濃度は、鋼製歯車を構成する鋼材の母材の炭素濃度よりも高くなっている。浸炭層の炭素濃度は、ディファレンシャルギヤ等の自動車部品として望ましい表面硬度を得る、耐摩耗性、ピッチング強度などの観点から、好ましくは、0.50〜0.90%、より好ましくは、0.50〜0.70%であるとよい。
【0028】
上記外周リング部の熱履歴層は、浸炭層を含み、外周面から内方に向かう深さが浸炭層の深さよりも深い領域に存在する層である。上記熱履歴層は、外周面に形成された歯形の歯の部分については、歯の表面に形成された浸炭層を含み、歯先から歯底円までの間の領域に存在していてもよいし、さらに歯底円よりも径方向内方の領域に存在していてもよい。一方、上記熱履歴層は、外周面に形成された歯形の歯と歯の間である歯溝の部分については、歯底の表面に形成された浸炭層を含み、歯底から内方に向かう深さが浸炭層の深さよりも深い領域に存在している。
【0029】
上記熱履歴層は、高周波誘導加熱によりオーステナイトになるまで加熱された履歴を有する層である。したがって、この熱履歴層よりも内部の領域であって高周波誘導加熱によりオーステナイトになるまで加熱されていない領域とは、金属組織が異なっている。そのため、歯底に沿って切断した場合、簡易には切断面における金属組織の違いに起因する色の付き方から、詳細には切断面における金属組織観察から、歯底よりも内側に存在する熱履歴層と熱履歴層より内部の領域とを区別することが可能である。同様に、軸方向と垂直な方向に歯を切断すれば、歯先から歯底までの間に存在する熱履歴層や、さらには歯底よりも内部に存在しうる熱履歴層を確認することが可能である。
【0030】
ここで、上記鋼製歯車は、外周面の歯形の歯底から内方に向かう上記熱履歴層の深さが、フランジ部との連結部よりも第1突出部および第2突出部の方が深く、かつ、第1突出部と第2突出部とにおいて略同等にされている。つまり、上記鋼製歯車の歯底に沿って切断し、その切断面を確認した場合、上記鋼製歯車は、フランジ部との連結部よりも第1突出部および第2突出部の方が熱履歴層の深さが深いという深さ分布を有している。そして、この深さ分布において、第1突出部側と第2突出部側の両方に熱履歴層の深さのピークが存在しており、2つの深さピークが略同等の大きさになっている。
【0031】
ここで、上記鋼製歯車は、外周面の歯形の歯底から内方に向かう上記熱履歴層の深さをT、外周面の歯形の歯底から内周面までの距離をWとした場合、フランジ部との連結部におけるT/Wよりも第1突出部におけるT/Wおよび第2突出部におけるT/Wの方が大きく、かつ、第1突出部におけるT/Wと第2突出部におけるT/Wとは略同等であることが好ましい(請求項2)。
【0032】
この場合には、外周面の歯形の歯底から内周面までの距離を考慮して、第1突出部および第2突出部における熱履歴層の深さが調整されている。そのため、この鋼製歯車は、外周リング部のOBDテーパーが小さく、高い寸法精度を有する。さらに、浸炭層だけでなく、浸炭層より内部も高硬度化されているので、高い強度を有する。
【0033】
この場合も上記と同様に、上記鋼製歯車は、フランジ部との連結部におけるT/Wよりも第1突出部におけるT/Wおよび第2突出部におけるT/Wの方が大きく、かつ、第1突出部におけるT/Wと第2突出部におけるT/Wとは略同等の大きさである深さ分布とすることができる。つまり、この深さ分布において、第1突出部側と第2突出部側の両方にT/Wのピークを存在させ、2つの深さピークを略同等の大きさとすることができる。
【0034】
なお、上述の熱履歴層に関して「深さやT/Wが略同等」とは、第1突出部と第2突出部における熱履歴層の深さやT/Wが完全に一致している場合だけではなく、製造上のバラつきなどによって第1突出部と第2突出部における熱履歴層の深さやT/Wが多少異なっているが、本発明と同じ効果が得られ、実質的に同じ深さ、同じ大きさのT/Wであるとみなせる場合も含む意味である。後述する高周波誘導加熱に関して「加熱深さやT/Wが略同等」という場合も同様である。
【0035】
寸法精度の向上効果と内部硬度の上昇による高強度化とのバランスなどの観点から、第1突出部および第2突出部におけるT/Wは、好ましくは、30〜60%、より好ましくは、35〜55%、さらに好ましくは、40〜50%の範囲内にあるとよい。一方、フランジ部との連結部におけるT/Wは、好ましくは、10〜35%、より好ましくは、15〜30%の範囲内にあるとよい。なお、第1突出部および第2突出部におけるT/Wとフランジ部との連結部におけるT/Wとを重複する範囲から選択する場合には、フランジ部との連結部におけるT/Wよりも第1突出部および第2突出部におけるT/Wが大きくなるように選択することになる。
【0036】
また、上記鋼製歯車において、外周リング部は、浸炭層がマルテンサイト組織からなり、熱履歴層のうち浸炭層を除いた部分がフェライト・マルテンサイト組織からなり、熱履歴層より内部がフェライト・パーライト組織からなることが好ましい(請求項3)。
【0037】
この場合には、寸法精度と強度とのバランスに優れる。そのため、高い寸法精度が要求され、かつ、歯形の表層だけでなくその内部まで応力が掛かるディファレンシャルギヤのような高トルク伝達歯車等として好適に用いることができる。
【0038】
次に、上記鋼製歯車の製造方法における各工程は、以下のようにすることが好ましい。
すなわち、上記浸炭工程は、具体的には、大気圧よりも低く減圧した減圧下の浸炭ガス中において行うことが有効である。この場合には、高温の浸炭炉の内部を減圧状態に維持しながら比較的少量の浸炭ガスによって浸炭処理を行うことができるので、従来よりも効率よく浸炭処理を行うことができる。また、従来の大型の熱処理炉を用いた長時間の加熱処理が不要となるので、処理時間の短縮および消費エネルギーの低減、さらには、浸炭焼入れ設備そのものの小型化を図ることができる。
【0039】
また、上記浸炭工程は、1〜100hPaの減圧条件下において行うことが好ましい。浸炭時の減圧が1hPa以上の場合には真空度維持のために高価な設備を不要にできるという利点がある。一方、100hPa以下の場合には浸炭中にススが発生し難く、浸炭濃度ムラが生じ難いという利点がある。上記浸炭ガスとしては、例えば、アセチレン、プロパン、ブタン、メタン、エチレン、エタン等の炭化水素系のガスを適用することができる。
【0040】
また、上記浸炭工程は、浸炭処理後における上記鋼製歯車材の歯面の表面炭素濃度が0.50%〜0.70%の範囲となる条件で行うことが好ましい。この場合には、浸炭層を共析鋼以下の炭素量とすることとなり、焼入れ時の加熱により、オーステナイト変態させ、その後の急冷にて、セメンタイトを析出させずにマルテンサイト組織としやすくなる。
【0041】
また、上記冷却工程は、少なくとも上記鋼製歯車材が冷却中にマルテンサイト変態する冷却速度よりも遅い徐冷条件で行う。これにより、マルテンサイト変態に伴う歪みの発生を抑制することができ、形状精度に優れた状態で浸炭処理を終えることができる。
【0042】
より具体的には、上記冷却工程は、少なくとも上記鋼製歯車材の温度がA1変態点温度以上にある間の冷却速度が0.1℃/秒〜3.0℃/秒となる徐冷条件で行うことが好ましい。上記冷却速度が3.0℃/秒以下である場合には、冷却時の歪み発生抑制効果を十分に得やすくなる。一方、上記冷却工程の冷却速度が0.1℃/秒以上である場合には、A1変態点温度へ到達するまでの時間が長時間となり難い。そのため、浸炭した炭素の鋼中における拡散スピードにバラツキが生じ難く、結果的に炭素濃度のバラツキを抑制しやすくなる。
【0043】
また、上記冷却工程は、冷却ガス中において、該冷却ガスを大気圧よりも低く減圧した状態で行うことが好ましい。これにより、冷却時の歪み発生をよりいっそう抑制することができる。
【0044】
このような冷却ガスの減圧による効果を利用した冷却工程を採用した場合には、鋼製歯車材の歪み発生を抑制した状態で次の焼き入れ工程に進めることができる。この効果は、冷却速度を遅くした徐冷を採用し、減圧徐冷とした場合に最も高くなる。そして、これに加え、上述した高周波誘導加熱を利用した焼入れ工程によるメリットも活かせば、焼入れ後の鋼製歯車の寸法精度を歪みの少ない高精度のものとしやすくなる。
【0045】
また、上記浸炭工程において減圧浸炭を採用し、冷却工程において減圧冷却を採用し、これらを連続で行うようにした場合には、実際の設備では、減圧浸炭室と減圧冷却室とを直接繋ぐことができる。そのため、両室の間に減圧度を調整するような予備室等を設ける必要がない。すなわち、この場合には、浸炭工程と冷却工程とが両方とも減圧状態で行われるので、両工程間の圧力差を小さくすることができる。そのため、減圧浸炭処理を終えた鋼製歯車材を常圧状態にさらすことなく減圧冷却処理することができ、歪み発生を抑制した効率のよい処理が可能となる。
【0046】
また、上記冷却工程の冷却ガスの減圧条件は、より具体的には、100hPa〜650hPaであることが好ましい。上記の減圧冷却処理は、この場合の圧力が100〜650hPaの範囲よりも高い場合には、減圧による効果が十分に得られない場合があり、一方、この範囲よりも低くすることは設備構成上困難となるおそれがある。そのため、より好ましくは、上記冷却ガスの減圧状態は、100hPa〜300hPaの範囲とするのがよい。
【0047】
また、上記焼入れ工程では、鋼のオーステナイト化温度としては比較的低い範囲の温度(例えば750℃〜950℃)を選択し、高周波誘導加熱時の投入エネルギーも比較的小さくして、加熱時間を比較的長い時間とすることが好ましい。具体的には、上記加熱時間の下限は、好ましくは、10秒、より好ましくは、15秒、さらに好ましくは、20秒であるとよい。生産性などを考慮すると、上記加熱時間の上限は、好ましくは、35秒、より好ましくは、30秒、さらに好ましくは、25秒であるとよい。
【0048】
このように加熱時間を比較的長い時間とした場合には、伝熱によって表面から深さ1mm以上の深い部分まで加熱しやすい。つまり、高周波誘導加熱の条件をこのような低温長時間加熱とした場合には、浸炭層の領域だけでなく、その内部奥深くまで加熱が可能になる。この際、外周リング部のおける内周面の略中央位置にはフランジ部が存在しているため、外周リング部のフランジ部との連結部では熱が奪われる。一方、外周リング部の第1突出部および第2突出部では、フランジ部により熱が奪われ難いので、連結部に比べてより内部奥深くまで加熱しやすくなる。したがって、加熱時間を上記範囲とした場合には、高周波誘導加熱による加熱深さを、フランジ部との連結部よりも第1突出部および第2突出部の方が深く、かつ、第1突出部と第2突出部とにおいて略同等になるよう調整しやすくなる。
【0049】
また、上記焼入れ工程では、外周面の歯形の歯底から内方に向かう高周波誘導加熱による加熱深さをT、外周面の歯形の歯底から内周面までの距離をWとした場合、高周波誘導加熱による加熱深さの調整を、フランジ部との連結部におけるT/Wよりも第1突出部におけるT/Wおよび第2突出部におけるT/Wの方が大きく、かつ、第1突出部におけるT/Wと第2突出部におけるT/Wとが略同等になるよう調整することが好ましい(請求項5)。
【0050】
この場合には、外周面の歯形の歯底から内周面までの距離を考慮して、第1突出部、第2突出部および連結部における上記高周波誘導加熱による加熱深さを調整することができる。そのため、外周リング部のOBDテーパーが小さく、高い寸法精度を有する鋼製歯車が得られる。さらに、浸炭層だけでなく、浸炭層より内部も高硬度化することができるので、高い強度を有する鋼製歯車が得られる。なお、高周波誘導加熱手段には、公知のものを適用することができる。
【0051】
第1突出部、第2突出部および連結部における高周波誘導加熱による加熱深さを、上記のように調整する方法は、特に限定されるものではない。具体的な調整方法としては、例えば、高周波誘導加熱による加熱時間や投入するエネルギーを可変させたり、高周波誘導加熱手段のコイルの内径と歯車の歯先大径とのクリアランスを可変させたり、コイルの軸方向の幅を可変させたり、コイルの巻き数を調整し、連結部よりも第1突出部および第2突出部の方がより加熱されるように設定したり、高周波誘導加熱時にフランジ部を冷却して連結部だけを優先的に冷却したりするなどの方法を例示することができる。
【0052】
また、上記高周波誘導加熱時には、第1突出部の先端部および第2突出部の先端部を治具により把持することが好ましい。上記の各先端部は、高周波誘導加熱時に過度に加熱されやすい箇所である。そのため、これら各先端部を治具にて把持すれば、治具により各先端部が抜熱されるので、各先端部が溶融するのを回避しやすくなる。フランジ部との連結部よりも第1突出部および第2突出部において高周波誘導加熱による加熱深さを深く調整する必要のある上記製造方法では、特に有効である。
【0053】
また、上記高周波誘導加熱後における鋼製歯車材の冷却は、水冷により行うことが好ましい。すなわち、高周波誘導加熱を利用すれば、鋼製歯車材の全体ではなく歯形面側の加熱を精度よく行うことができる。そのため、その後、非常に冷却効果の高い水を用いて水焼入れしても、従来の「浸炭油焼入れ処理」を施す場合に比べて焼入れ歪みの発生を抑制しやすい。そして、水冷による優れた急冷効果によって、焼入れ特性を高くすることができ、焼入れ部分のさらなる高強度化を図ることができる。また、この高強度化を利用して、浸炭処理の簡易化(処理時間の短縮)、つまり、浸炭層の薄肉化をしても要求強度を具備することができる場合があり、この場合には熱処理工程全体のさらなる時間短縮を図ることも可能である。
【0054】
また、上記高周波誘導加熱による加熱は、上記鋼製歯車材を1個流しで処理し、加熱後の冷却時には、鋼製歯車材を回転させながら、周囲から冷却水を鋼製歯車材に向かって噴射して冷却することが好ましい。この場合には、冷却時に均一に冷やすことができ、さらに歪みの発生を抑えることができる。
【実施例】
【0055】
以下、実施例に係る鋼製歯車およびその製造方法につき、図面を用いて具体的に説明する。なお、本例の鋼製歯車は、ディファレンシャルギヤに適用したものである。また、符号は、適宜使用する。
【0056】
先ず、実施例1に係る鋼製歯車の概略構成を説明する。図1に示すように、鋼製歯車1は、外周面20aに歯形10が形成された略円筒状の外周リング部2と、外周リング部2の内周面20bから径方向内方に延設されたフランジ部3とを有している。外周リング部2は、フランジ部3との連結部Lよりも軸方向一方側に突出する第1突出部21と、フランジ部3との連結部Lよりも軸方向他方側に突出する第2突出部22とを備えている。そして、第1突出部21の軸方向長さと第2突出部22の軸方向長さとは略同等に設けられている。本例では、外周リング部2の外周面20aの歯形10を、はすば形状とした。なお、歯形10は、図2(b)に示すように、複数の歯101から構成される。歯101の先端が歯先102である。歯101と歯101との間が歯溝103である。歯溝103の底部が歯底104である。各歯底104を結んだ円が歯底円である。
【0057】
図2(a)(b)に拡大して示すように、外周リング部2には、浸炭層4と熱履歴層5とが形成されている。浸炭層4は、歯形10の表層に歯形10の輪郭に沿って形成されている。また、熱履歴層5は、浸炭層4を含み、外周面20aから内方に向かう深さTが浸炭層4の深さよりも深い領域に存在する層である。また、熱履歴層5は、高周波誘導加熱によりオーステナイトになるまで加熱された履歴を有する層である。
【0058】
本例の鋼製歯車1では、図2(a)に示すように、熱履歴層5は、歯底104よりも径方向内方については、歯底104の表層に形成された浸炭層4を含み、かつ、歯底104から内方に向かう深さTが浸炭層4の深さよりも深い領域に存在している。一方、図2(b)に示すように、熱履歴層5は、歯形10の歯101の部分については、歯101の表層に形成された浸炭層4を含み、かつ、歯先102からほぼ歯底円近傍までにわたる領域に存在している。
【0059】
また、本例の鋼製歯車1では、図2(a)に示すように、歯形10の歯底104から内方に向かう熱履歴層5の深さTが、フランジ部3との連結部Lよりも第1突出部21および第2突出部22の方が深く、かつ、第1突出部21と第2突出部22とにおいて略同等とされている。より具体的には、外周面20aの歯形10の歯底104から内方に向かう熱履歴層5の深さをT、外周面20aの歯形10の歯底104から内周面20bまでの距離をWとした場合、フランジ部3との連結部LにおけるT/Wよりも第1突出部21におけるT/Wおよび第2突出部22におけるT/Wの方が大きく、かつ、第1突出部21におけるT/Wと第2突出部22におけるT/Wとは略同等の大きさとされている。つまり、鋼製歯車1は、フランジ部3との連結部Lよりも第1突出部21および第2突出部22の方が熱履歴層5の深さが深いという深さ分布を有している。そして、この深さ分布において、第1突出部21側と第2突出部22側の両方に熱履歴層5の深さのピークが存在しており、2つの深さピークが略同等の大きさになっている。
【0060】
次に、実施例1に係る鋼製歯車の製造方法と、この製造方法により得られた実施例1に係る鋼製歯車についての評価結果について説明する。
【0061】
初めに、浸炭に適したSCM420(JIS)を素材として用い、熱間鍛造によって図1に示した形状を有する鋼製歯車材を準備した。鋼製歯車材の第1突出部21の軸方向長さ(フランジ部3の第1突出部21側の連結位置L1から第1突出部21の先端部までの距離)は、11mm、第2突出部22の軸方向長さ(フランジ部3の第2突出部22側の連結位置L2から第2突出部22の先端部までの距離)は、11mmの設定とした。フランジ部3の肉厚は、8mmの設定とした。なお、フランジ部3は、ボルト等の締結部材を挿通するための挿通孔31を周方向に複数有している。また、本例では、鋼製歯車材の外周リング部2における上記Wの値は、軸方向全長において一定の8.88mmの設定とした。
【0062】
次いで、上記準備した鋼製歯車材に対して「浸炭・徐冷・高周波焼入れ処理」を行った。以下、具体的に説明する。
【0063】
図3は、横軸に時間を、縦軸に温度を取り、熱処理中における鋼製歯車材の温度をヒートパターンとして示したものである。実施例1に係る鋼製歯車の製造方法は、図3(a)のヒートパターンAに示すように、浸炭温度である950℃まで70分かけて加熱し、その温度で80分間保持して浸炭工程a1を行った後、この浸炭工程a1に引き続いて、40分かけて150℃以下の温度まで徐冷する冷却工程a2を行い、その後、再度焼入れ温度である950℃まで高周波誘導加熱により急速加熱した後に水焼入れする焼入れ工程a3を行うというものである。
【0064】
実施例1に係る鋼製歯車の製造方法は、浸炭工程a1の前に鋼製歯車材を洗浄するための前洗槽と、加熱室、減圧浸炭室、および減圧冷却室を備えた減圧浸炭徐冷装置と、高周波焼入れ装置と、欠陥を検査するための磁気探傷装置とを備えた熱処理設備を用いて行った。
【0065】
なお、従来広く知られる鋼製歯車の製造方法は、例えば、図3(b)のヒートパターンBに示すように、浸炭温度である950℃まで70分かけて加熱し、その温度で220分間保持する浸炭工程b1を行い、その後、焼入れ温度である850℃に保持した後、油焼入れする工程b2を行い、さらに、油焼入れ時に付着した冷却油を洗い落とす後洗工程b3と焼き戻し工程b4を行うといったものである。
【0066】
図3(b)のヒートパターンBを有する従来の鋼製歯車の製造方法は、浸炭工程b1の前に鋼製歯車材を洗浄するための前洗槽と、加熱・浸炭を行うための浸炭炉および焼入れ油槽とを備えた長大な浸炭炉と、浸炭油焼入れ後に鋼製歯車材を洗浄するための後洗槽と、焼戻し処理を行う焼戻し炉とを備えた熱処理設備を用いて行われる。したがって、この「浸炭油焼入れ処理」による従来の鋼製歯車の製造方法に比較して、実施例1の鋼製歯車の製造方法は、火炎や油を使わず、熱処理時間も短縮することができる点で、CO2排出量の低減でき、地球環境にも優しいといえる。また、熱処理ライン長を短くできるため、コンパクトな鋼製歯車の製造ラインを構築することができるといえる。
【0067】
実施例1に係る鋼製歯車の製造方法は、上記熱処理設備を用いて以下のように行った。すなわち、本例の製造方法では、具体的には、図3(a)のヒートパターンAに示すように、大気圧よりも低く減圧した減圧下の浸炭ガス中において準備した鋼製歯車材を浸炭処理する浸炭工程a1と、この浸炭工程a1に引き続き、鋼製歯車材を冷却ガス中において冷却するに当たり、冷却ガスを大気圧よりも低く減圧した状態で冷却する冷却工程a2と、冷却された鋼製歯車材を再度高周波誘導加熱によって加熱した後に水焼入れする焼入れ工程a3とを行った。
【0068】
上記浸炭工程a1は、浸炭期および拡散期からなる浸炭処理として鋼製歯車材をオーステナイト化温度以上の温度である950℃で80分間保持することによって行った。この際の減圧浸炭室の減圧条件は、1〜3.5hPaとし、浸炭ガスとしてはアセチレンを用いた。
【0069】
上記冷却工程a2における冷却には減圧徐冷を採用した。この際の減圧条件は600hPaとした。また、冷却雰囲気ガスは窒素(N2)とした。また、鋼製歯車材の冷却速度は、浸炭処理直後のオーステナイト化温度以上の温度からA1変態点よりも低い150℃の温度となるまで、0.1〜3.0℃/秒の範囲内とした。
【0070】
上記焼入れ工程a3は、図3(a)に示すように、鋼製歯車材における外周リング部2の歯形面側を高周波誘導加熱によってオーステナイト化温度以上の温度に加熱する昇温手順a31と、その後、浸炭層4においてマルテンサイト変態する急冷臨界冷却速度以上の冷却速度が容易に得られるように、水を噴射して水焼入れする急冷手順a32とを含んでいる。
【0071】
また、昇温手順a31は、高周波誘導加熱におけるエネルギー投入量を約1800kJとするとともに、比較的長時間の25秒かけて行った。一方、急冷手順a32は、14秒で行い、その冷却速度は、50〜60℃/秒とした。
【0072】
この際、外周リング部2における歯形面側の加熱は、図4に示すように、外周リング部2の第1突出部21の先端部と第2突出部22の先端部とを治具9a、9bにて把持しつつ行った。この治具9a、9bによって各先端部の熱を奪うことにより、各先端部の過熱による溶融を簡易に回避することができる。また、高周波誘導加熱手段のコイル8は、鋼製歯車材の軸方向の幅が同じものを用い、歯形10が形成された外周面20aと離間させた状態で対向させた。上記離間距離は2mmとした。
【0073】
上記高周波誘導加熱時の冷却により、外周面20aの歯形10の歯底104から内方に向かう高周波誘導加熱による加熱深さTを、フランジ部3との連結部Lよりも第1突出部21および第2突出部22の方が深く、かつ、第1突出部21と第2突出部22とにおいて略同等になるよう調整した。より具体的には、外周面20aの歯形10の歯底104から内方に向かう高周波誘導加熱による加熱深さをT、外周面20aの歯形10の歯底104から内周面20bまでの距離をWとした場合、高周波誘導加熱による加熱深さの調整を、フランジ部3との連結部LにおけるT/Wよりも第1突出部21におけるT/Wおよび第2突出部22におけるT/Wの方が大きく、かつ、第1突出部21におけるT/Wと第2突出部22におけるT/Wとが略同等になるよう調整した。このようにして実施例1に係る鋼製歯車1の製造を行い、実施例1に係る鋼製歯車1を得た。
【0074】
ここで、上記焼入れ工程a3において、外周面20aの歯形10の歯底104から内方に向かう高周波誘導加熱による加熱深さTを、フランジ部3との連結部Lよりも第1突出部21および第2突出部22の方が深く、かつ、第1突出部21と第2突出部22とにおいて略同等になるよう調整したのは、次の試験結果に基づくものである。すなわち、図5は、高周波誘導加熱時における加熱条件を種々変更することによってT/W(%)を種々の割合に調整した場合における、外周リング部2の所定位置のOBD変化量(μm)をプロットしたものである。
【0075】
外周リング部2の所定位置は、図2(a)に示すように、第1突出部21の先端部からフランジ部3側に3mm内側の位置(以下、Fr位置という。)、外周リング部2の軸方向の中央(歯幅の中点であり、フランジ部3との連結部L)の位置(以下、Mid位置という。)、第2突出部22の先端部からフランジ部3側に3mm内側の位置(以下、Rr位置という。)とした。また、上記OBD変化量は、焼入れ工程a3後の鋼製歯車1の各所定位置におけるOBD値と、冷却工程a2後の鋼製歯車材の各所定位置におけるOBD値との差より求めた。なお、上記OBD値は、図1に示すように、互いに向かいあった2つの歯溝にボールOB1、OB2を入れ、各位置における外周寸法を専用のOBD測定器を用いて全周について測定し、その結果得られた各測定値の平均値である。
【0076】
この図5からわかるように、T/W(%)とOBD変化量(μm)との関係には、相関関係があることがわかる。また、Fr位置およびRr位置におけるOBD変化量とMid位置におけるOBD変化量とを同等程度とするには、Mid位置におけるT/WよりもFr位置およびRr位置におけるT/Wを大きくするとよいことがわかる。また、Fr位置およびRr位置におけるOBD変化量を同等程度とするには、Fr位置およびRr位置におけるT/Wを同等程度とするとよいことがわかる。つまり、この試験結果から、高周波誘導加熱による加熱深さの調整を、フランジ部3との連結部LにおけるT/Wよりも第1突出部21におけるT/Wおよび第2突出部22におけるT/Wの方が大きく、かつ、第1突出部21におけるT/Wと第2突出部22におけるT/Wとが略同等になるよう調整することにより、OBDテーパーの小さな鋼製歯車1が得られることがわかる。また、OBD変化量を一定値(例えば、図の横線)とするには、第1突出部21および第2突出部22におけるT/Wは、好ましくは、30〜60%、より好ましくは、35〜55%、さらに好ましくは、40〜50%の範囲内に調整するとよいことがわかる。一方、フランジ部3との連結部LにおけるT/Wは、好ましくは、10〜35%、より好ましくは、15〜30%の範囲内に調整するとよいことがわかる。
【0077】
また、上述した実施例1に係る鋼製歯車1の製造方法の比較例として、図6に示すように、外周面20aの歯形10の歯底104から内方に向かう高周波誘導加熱による加熱深さTを、外周リング部2の軸方向全域にわたってほぼ等しくなるように調整した以外は同様にして、比較例1に係る鋼製歯車の製造を行い、比較例1に係る鋼製歯車を得た。なお、この際の加熱深さTの調整は、本例の製造方法における昇温手順a31において、高周波誘導加熱におけるエネルギー投入量を約1400kJ、加熱時間を13秒とした点以外は同様にして調整を行った。
【0078】
次に、実施例1、比較例1に係る鋼製歯車の製造方法における各工程を経た後の鋼製歯車材、これら製造方法によって得られた実施例1、比較例1に係る鋼製歯車についての歪発生状況を調べた。その結果を図7に示す。なお、図7のOBD値は、上述した方法で測定した値である。OBDテーパーは、Mid位置のOBD値と、Fr位置のOBD値およびRr位置のOBD値のうち大きい方との差の絶対値である。また、図7の各欄に示した表記において、Fr位置、Mid位置、Rr位置の3か所についてそれぞれ最大値、最小値、平均値がプロットされ、最大値と最小値とが線で結ばれている。また、3か所の位置の各平均値の間が線で結ばれている。
【0079】
図7からわかるように、比較例1によれば、寸法精度が悪く、OBDテーパーが大きい状態に歪んだ形状の鋼製歯車しか得られないことがわかる。これに対して、実施例1によれば、高い寸法精度を有し、OBDテーパーが小さな形状の鋼製歯車が得られることがわかる。この理由は、以下によるものと推察される。
【0080】
図8に示す比較例1のように、歯底104から内方に向かう高周波誘導加熱による加熱深さTを、外周リング部2の軸方向全域にわたって均一な深さとなるように調整した場合には、次のようなメカニズムが考えられる。すなわち、外周リング部2におけるフランジ部3との連結部Lは、フランジ部3による拘束力が大きい。一方、第1突出部21および第2突出部22の先端部は、フランジ部3から離れているために連結部Lに比べてフランジ部3による拘束力が小さい。そのため、高周波誘導加熱時に、第1突出部21および第2突出部22の先端部側は、熱膨張により径方向外方へ同等程度だけ少し変形する一方(矢印R)、連結部Lは、上記先端部側に比べ熱膨張による径方向外方への変形し難いと考えられる。そして、この状態から焼入れにより冷却がなされると、フランジ部3があるために連結部Lは径方向内方に変形し難いが、フランジ部3がない第1突出部21および第2突出部22の先端部側は径方向内方に大きく変形する(矢印r)。そのため、比較例1では、OBDテーパーが大きい状態に歪んだ形状の鋼製歯車が得られたものと考えられる。
【0081】
これに対し、図9に示す実施例1のように、歯底104から内方に向かう高周波誘導加熱による加熱深さTを、フランジ部3との連結部Lよりも第1突出部21および第2突出部22の方が深く、かつ、第1突出部21と第2突出部22とにおいて略同等になるよう調整した場合には、次のようなメカニズムが考えられる。すなわち、高周波誘導加熱時に上記加熱深さTの調整を行うと、加熱深さTを均一に調整した場合に比べて、第1突出部21の先端部側と第2突出部22の先端部側とが径方向外方へ同等程度だけ大きく変形すると考えられる(矢印R1)。そして、この状態から焼入れにより冷却がなされると、第1突出部21の先端部側および第2突出部22の先端部側は、高周波誘導加熱時と同等程度だけ径方向内方へ変形すると考えられる(矢印r1)。これにより最終的にはOBDテーパーが小さな形状の鋼製歯車が得られるものと考えられる。
【0082】
次に、実施例1に係る鋼製歯車について、歯形10の歯底104に沿って切断し、その切断面の金属組織観察を行った。具体的には、上記切断面を硝酸3〜5%のアルコール溶液で腐食し、光学顕微鏡にて観察を行った。図10に、実施例1に係る鋼製歯車の切断面の写真とともに金属組織の写真を示す。図10に示すように、上記切断面によれば、歯底104の表層に浸炭層4が形成されていることが確認できる。図10(a)に示すように、浸炭層4は、マルテンサイト組織を主体とする層であった。
【0083】
また、上記切断面によれば、浸炭層4を含み、外周リング部2の外周面20a(この場合、歯底104)から内方に向かう深さが浸炭層4よりも深い部分に、フランジ部3との連結部Lよりも第1突出部21および第2突出部22の方が深さの深い層が存在することがわかる。そしてこの層は、第1突出部21および第2突出部22における軸方向の略中央部に略同等の深さの深さピークを有していることが確認できる。また、この層は、この層よりも内部と色の付き方が異なっており、境界線が存在していることも確認できる。外周リング部2の外周面20aから上記境界線までの間の領域であって浸炭層4以外の領域について、金属組織を確認したところ、図10(b)に示すように、フェライト組織とマルテンサイト組織とを主体とすることが確認された。本例では、この層が熱履歴層5に該当する。なお、Fr位置における熱履歴層5の深さは約5.3mm、Mid位置における熱履歴層5の深さは約3.4mm、Rr位置における熱履歴層5の深さは約5.3mmであった。
【0084】
また、図10(c)に示すように、熱履歴層5よりも内部は、フェライト組織とパーライト組織とを主体とすることがわかった。上記結果から、熱履歴層5は、高周波誘導加熱によりオーステナイトになるまで加熱された履歴を有する層であり、この熱履歴層よりも内部は、高周波誘導加熱によりオーステナイトになるまで加熱されていない層であるといえる。上記のように境界線を確認することができるのは、境界線の外方と内方において金属組織、結晶粒度等が異なるためであると考えられる。また、本例において、熱履歴層5はフェライト組織とマルテンサイト組織とを含んでいる。そのため、熱履歴層5の深さT、T/Wの大きさを調整することにより、鋼製歯車1の内部硬度を調整することが可能であることがわかる。なお、外周面20aの表面から50μmの位置における浸炭層4の表面炭素濃度を、X線マクロアナライザーにて測定した。上記表面炭素濃度は、0.6%であった。
【0085】
次に、実施例1に係る鋼製歯車の硬度分布を測定した。具体的には、実施例1に係る鋼製歯車の歯底104の表面からの距離に対するビッカース硬さ(Hv、試験荷重0.3kgf)を測定した。その結果を図11に示す。なお、図11中には、浸炭層4の深さおよびFr位置、Mid位置、Rr位置における熱履歴層5の深さをそれぞれ矢印により併記した。
【0086】
図11によれば、浸炭層4の深さまでは、Fr位置、Mid位置、Rr位置における硬さがほぼ同じであり、歯形面に対して均一な表面硬度を付与できていることがわかる。また、熱履歴層5は、浸炭層4より深い内部の領域では、Fr位置、Mid位置、Rr位置における硬さに差が生じていることがわかる。具体的には、Fr位置、Rr位置における硬さがほぼ同じであり、Mid位置における硬さが低くなっている。これは、高周波誘導加熱による加熱深さを、フランジ部3との連結部Lよりも第1突出部21および第2突出部22の方が深く、かつ、第1突出部21と第2突出部22とにおいて略同等になるよう調整したためである。また、この結果から、熱履歴層5の深さT、T/Wの大きさを調整することにより、有効ハダ焼深さを確保しつつ、高周波誘導加熱によって鋼製歯車の寸法精度を調整することが可能であるといえる。
【0087】
以上、実施例について説明したが、本発明は、上記実施例により限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能なものである。
【符号の説明】
【0088】
1 鋼製歯車
10 歯形
101 歯
102 歯先
103 歯底
104 歯溝
2 外周リング部
20a 外周面
20b 内周面
21 第1突出部
22 第2突出部
L 連結部
3 フランジ部
4 浸炭層
5 熱履歴層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に歯形が形成された略円筒状の外周リング部と、該外周リング部の内周面から径方向内方に延設されたフランジ部とを有し、
上記外周リング部は、上記フランジ部との連結部よりも軸方向一方側に突出する第1突出部と軸方向他方側に突出する第2突出部とを備えるとともに、上記第1突出部の軸方向長さと上記第2突出部の軸方向長さとが略同等に設けられており、
上記外周リング部には、上記歯形の表層に形成された浸炭層と、該浸炭層を含み上記外周面から内方に向かう深さが上記浸炭層の深さよりも深い領域であって高周波誘導加熱によりオーステナイトになるまで加熱された履歴を有する熱履歴層とが形成されており、
上記外周面の歯形の歯底から内方に向かう上記熱履歴層の深さは、上記フランジ部との連結部よりも上記第1突出部および上記第2突出部の方が深く、かつ、上記第1突出部と上記第2突出部とにおいて略同等であることを特徴とする鋼製歯車。
【請求項2】
請求項1に記載の鋼製歯車において、
上記外周面の歯形の歯底から内方に向かう上記熱履歴層の深さをT、上記外周面の歯形の歯底から上記内周面までの距離をWとした場合、
上記フランジ部との連結部におけるT/Wよりも上記第1突出部におけるT/Wおよび上記第2突出部におけるT/Wの方が大きく、かつ、上記第1突出部におけるT/Wと上記第2突出部におけるT/Wとは略同等であることを特徴とする鋼製歯車。
【請求項3】
請求項1または2に記載の鋼製歯車において、
上記外周リング部は、上記浸炭層がマルテンサイト組織からなり、上記熱履歴層のうち上記浸炭層を除いた部分がフェライト・マルテンサイト組織からなり、上記熱履歴層より内部がフェライト・パーライト組織からなることを特徴とする鋼製歯車。
【請求項4】
外周面に歯形が形成された略円筒状の外周リング部と、該外周リング部の内周面から径方向内方に延設されたフランジ部とを有し、上記外周リング部は、上記フランジ部との連結部よりも軸方向一方側に突出する第1突出部と軸方向他方側に突出する第2突出部とを備えるとともに、上記第1突出部の軸方向長さと上記第2突出部の軸方向長さとが略同等に設けられている鋼製歯車材を準備する準備工程と、
上記鋼製歯車材を減圧下の浸炭ガス中においてオーステナイト化温度以上に加熱し、上記歯形の表層に浸炭層を形成する浸炭工程と、
該浸炭工程に引き続き、マルテンサイト変態する冷却速度よりも遅い冷却速度により上記鋼製歯車材を冷却し、かつ、冷却による組織変態が完了する温度以下まで上記鋼製歯車材を冷却する冷却工程と、
上記鋼製歯車材における上記浸炭層を含み上記外周面から内方に向かう深さが上記浸炭層の深さよりも深い領域を、高周波誘導加熱によりオーステナイトになるまで加熱した後、マルテンサイト変態する冷却速度以上の冷却速度により上記鋼製歯車材を冷却する焼入れ工程とを有し、
該焼入れ工程において、上記外周面の歯形の歯底から内方に向かう上記高周波誘導加熱による加熱深さを、上記フランジ部との連結部よりも上記第1突出部および上記第2突出部の方が深く、かつ、上記第1突出部と上記第2突出部とにおいて略同等になるよう調整することを特徴とする鋼製歯車の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の鋼製歯車の製造方法において、
上記外周面の歯形の歯底から内方に向かう上記高周波誘導加熱による加熱深さをT、上記外周面の歯形の歯底から上記内周面までの距離をWとした場合、
上記高周波誘導加熱による加熱深さの調整を、上記フランジ部との連結部におけるT/Wよりも上記第1突出部におけるT/Wおよび上記第2突出部におけるT/Wの方が大きく、かつ、上記第1突出部におけるT/Wと上記第2突出部におけるT/Wとが略同等になるよう調整することにより行うことを特徴とする鋼製歯車の製造方法。
【請求項1】
外周面に歯形が形成された略円筒状の外周リング部と、該外周リング部の内周面から径方向内方に延設されたフランジ部とを有し、
上記外周リング部は、上記フランジ部との連結部よりも軸方向一方側に突出する第1突出部と軸方向他方側に突出する第2突出部とを備えるとともに、上記第1突出部の軸方向長さと上記第2突出部の軸方向長さとが略同等に設けられており、
上記外周リング部には、上記歯形の表層に形成された浸炭層と、該浸炭層を含み上記外周面から内方に向かう深さが上記浸炭層の深さよりも深い領域であって高周波誘導加熱によりオーステナイトになるまで加熱された履歴を有する熱履歴層とが形成されており、
上記外周面の歯形の歯底から内方に向かう上記熱履歴層の深さは、上記フランジ部との連結部よりも上記第1突出部および上記第2突出部の方が深く、かつ、上記第1突出部と上記第2突出部とにおいて略同等であることを特徴とする鋼製歯車。
【請求項2】
請求項1に記載の鋼製歯車において、
上記外周面の歯形の歯底から内方に向かう上記熱履歴層の深さをT、上記外周面の歯形の歯底から上記内周面までの距離をWとした場合、
上記フランジ部との連結部におけるT/Wよりも上記第1突出部におけるT/Wおよび上記第2突出部におけるT/Wの方が大きく、かつ、上記第1突出部におけるT/Wと上記第2突出部におけるT/Wとは略同等であることを特徴とする鋼製歯車。
【請求項3】
請求項1または2に記載の鋼製歯車において、
上記外周リング部は、上記浸炭層がマルテンサイト組織からなり、上記熱履歴層のうち上記浸炭層を除いた部分がフェライト・マルテンサイト組織からなり、上記熱履歴層より内部がフェライト・パーライト組織からなることを特徴とする鋼製歯車。
【請求項4】
外周面に歯形が形成された略円筒状の外周リング部と、該外周リング部の内周面から径方向内方に延設されたフランジ部とを有し、上記外周リング部は、上記フランジ部との連結部よりも軸方向一方側に突出する第1突出部と軸方向他方側に突出する第2突出部とを備えるとともに、上記第1突出部の軸方向長さと上記第2突出部の軸方向長さとが略同等に設けられている鋼製歯車材を準備する準備工程と、
上記鋼製歯車材を減圧下の浸炭ガス中においてオーステナイト化温度以上に加熱し、上記歯形の表層に浸炭層を形成する浸炭工程と、
該浸炭工程に引き続き、マルテンサイト変態する冷却速度よりも遅い冷却速度により上記鋼製歯車材を冷却し、かつ、冷却による組織変態が完了する温度以下まで上記鋼製歯車材を冷却する冷却工程と、
上記鋼製歯車材における上記浸炭層を含み上記外周面から内方に向かう深さが上記浸炭層の深さよりも深い領域を、高周波誘導加熱によりオーステナイトになるまで加熱した後、マルテンサイト変態する冷却速度以上の冷却速度により上記鋼製歯車材を冷却する焼入れ工程とを有し、
該焼入れ工程において、上記外周面の歯形の歯底から内方に向かう上記高周波誘導加熱による加熱深さを、上記フランジ部との連結部よりも上記第1突出部および上記第2突出部の方が深く、かつ、上記第1突出部と上記第2突出部とにおいて略同等になるよう調整することを特徴とする鋼製歯車の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の鋼製歯車の製造方法において、
上記外周面の歯形の歯底から内方に向かう上記高周波誘導加熱による加熱深さをT、上記外周面の歯形の歯底から上記内周面までの距離をWとした場合、
上記高周波誘導加熱による加熱深さの調整を、上記フランジ部との連結部におけるT/Wよりも上記第1突出部におけるT/Wおよび上記第2突出部におけるT/Wの方が大きく、かつ、上記第1突出部におけるT/Wと上記第2突出部におけるT/Wとが略同等になるよう調整することにより行うことを特徴とする鋼製歯車の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図10】
【公開番号】特開2012−211367(P2012−211367A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−77746(P2011−77746)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】
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