説明

錆び発生抑制装置及び方法

【課題】例えば屋外構造物を締結する締結部材などを長期間に亙って錆の発生を抑制する錆び発生抑制装置及び方法を提供する。
【解決手段】保護部材である締結ボルト20の周囲を外部環境から隔離する保護容器11と、前記保護容器11内を真空状態とする真空装置である真空ポンプ13と、前記保護容器11内を真空状態とした後、保護容器内に不活性ガス(N2)を導入して内部を加圧状態とする不活性ガス供給装置である窒素(N2)ボンベ12と、前記保護容器11内の圧力を監視する圧力計Pと、前記圧力計Pでの計測の結果、閾値(1.1気圧)以下となった際に、前記保護容器11内に不活性ガスを導入して所定の圧力状態を維持するように制御する制御装置14とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば屋外構造物を締結する締結部材などを長期間に亙って錆の発生を抑制する錆び発生抑制装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば橋梁や屋外構造物を締結するような構造物のボルト・ナット、アンカーボルト等の締結部材は、長期間に亙って屋外環境に晒されており、経年変化により腐食されることがある。
特に、海岸付近又は海洋上において用いられる例えばアンカーボルト等では、さらに長期間にわたる耐用年数が求められている。
【0003】
ところで、海岸付近や洋上において設置される海洋構造物は、錆び発生要因のひとつである塩分の堆積が通常よりも多く、しかも晴天と雨天とが繰り返され、海水成分が濃縮されることで、ステンレス部材であっても腐食開始の要因となる。
【0004】
従来の防錆対策は、ボルトなどの締結部材の外部露出部分の塗装構造を厚くしたり、所定年数経過後に、再塗装を行うようにしたりすることで対応していた(特許文献1、2等参照)。
【0005】
また、塗装を施す代わりに、又は塗装と共に、ボルト頭部を保護する防錆用のキャップを用いて、キャップとボルトとの隙間に充填材を用いてシールして、耐用年数をもたせる提案もある(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平03−117713号公報
【特許文献2】特開平09−195272号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「ボルトアイキャップ」(商品名)株式会社イスミック http://www.ismic.co.jp/technic/boltcap.htm
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、錆びは一度発生するとたとえ小さな錆びであっても、それが見えないところで拡大し、腐食の要因となるので、確実な保護対策が切望されているが、上述した対策以外、いまだ良好な解決手段は出現されていないのが現状である。
【0009】
また、キャップを用いての保護では、キャップや充填材の隙間から塩分が浸入した場合に、対応するのは充填のやり直しと再塗装のみである。
特に、構造物をささえるアンカーボルトにおいて塩害が過酷な外洋の構造物においては、長期間に亙っての防錆が確実であることが求められている。
【0010】
本発明は、前記問題に鑑み、例えば屋外構造物を締結する締結部材などを長期間に亙って錆の発生を抑制する錆び発生抑制装置及び方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決するための本発明の第1の発明は、被保護部材の周囲を外部環境から隔離する保護容器と、前記保護容器内を真空状態とする真空装置と、前記保護容器内を真空状態とした後、保護容器内に不活性ガスを導入して内部を加圧状態とする不活性ガス供給装置と、保護容器内の圧力を監視する圧力計と、圧力計の計測の結果、閾値以下となった際に、保護容器内に不活性ガスを導入して所定の圧力状態を維持するように制御する制御装置とを具備することを特徴とする錆び発生抑制装置にある。
【0012】
第2の発明は、第1の発明において、不活性ガスの代わりに空気を導入する空気導入装置を設け、圧力計の計測の結果、閾値以下となった際に、保護容器内に乾燥状態の空気であることを確認しつつ乾燥空気を導入して所定の圧力状態を維持することを特徴とする錆び発生抑制装置にある。
【0013】
第3の発明は、第1又は2の発明において、内部湿度状態を監視する湿度計を設け、内部の湿度が50%を超える場合に、保護容器内を真空手段で内部ガスを外部に排出し、その後、保護容器内に不活性ガス又は空気を導入して所定の圧力状態を維持することを特徴とする錆び発生抑制装置にある。
【0014】
第4の発明は、第1乃至3のいずれか一つの発明において、保護容器内の腐食状態を監視する腐食センサを設け、腐食センサの腐食電流の計測結果が閾値以上となった際に、保護容器内を真空手段で内部ガスを外部に排出し、その後、保護容器内に不活性ガス又は空気を導入して所定の圧力状態を維持することを特徴とする錆び発生抑制装置にある。
【0015】
第5の発明は、第1乃至3のいずれか一つの発明において、保護容器内の腐食状態を監視する腐食計を設け、腐食センサの腐食電流による海塩付着結果が閾値を超えた際に、保護容器内を真空手段で内部ガスを外部に排出し、その後、保護容器内に不活性ガス又は空気を導入して所定の圧力状態を維持することを特徴とする錆び発生抑制装置にある。
【0016】
第6の発明は、第1乃至5のいずれか一つの発明において、不活性ガス又は乾燥空気と共に、ガス状防錆剤を導入することを特徴とする錆び発生抑制装置にある。
【0017】
第7の発明は、第4又は5の発明において、揮発性防錆剤を内部に充填する防錆剤保管容器と、保管容器とシャッタで仕切られ、保管容器から防錆剤を所定量供給する供給通路と、供給される防錆剤を揮発させる揮発容器と、揮発した防錆剤を保護容器内に導入する導入通路と、腐食センサの計測結果に応じて、揮発させた防錆剤を所定量供給する指令を行う制御手段と、を具備することを特徴とする錆び発生抑制装置にある。
【0018】
第8の発明は、被保護部材の周囲を外部環境から保護容器で隔離し、前記保護容器内を真空状態した後に、保護容器内に不活性ガス又は乾燥空気を導入し、保護容器内の圧力を監視し、保護容器内の圧力が閾値以下となった際に、保護容器内に不活性ガス又は乾燥空気を導入して所定の圧力状態を維持し、被保護部材の錆発生を抑制することを特徴とする錆び発生抑制方法にある。
【0019】
第9の発明は、第8の発明において、内部湿度状態を監視し、内部の湿度が50%を超える場合に、保護容器内をガスを追い出した後、保護容器内に不活性ガス又は乾燥空気を導入して所定の圧力状態を維持することを特徴とする錆び発生抑制方法にある。
【0020】
第10の発明は、第8又は9の発明において、保護容器内の腐食状態を腐食センサで監視し、腐食センサの腐食電流の計測結果が閾値以上、又は腐食センサの腐食電流による海塩付着結果が閾値を超えた際に、保護容器内をガスを追い出した後、保護容器内に不活性ガス又は乾燥空気を導入して所定の圧力状態を維持することを特徴とする錆び発生抑制方法にある。
【0021】
第11の発明は、第9又は10の発明において、不活性ガス又は乾燥空気と共に、ガス状防錆剤を導入することを特徴とする錆び発生抑制方法にある。
【0022】
第12の発明は、第10の発明において、揮発性の防錆剤を用いて、腐食センサの計測結果に応じて、揮発させた防錆剤を所定量供給することを特徴とする錆び発生抑制方法にある。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る錆び発生抑制装置及び方法によれば、圧力計で所定の圧力状態を監視し、閾値以下となった際に、保護容器内に不活性ガスを導入して所定の圧力状態を維持するので、所定の防錆環境を長期間に亙って保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、実施例1に係る錆び発生抑制装置の概略図である。
【図2−1】図2−1は、基台と構造物のフランジ部とを締結する場合の一例を示す図である。
【図2−2】図2−2は、基台と構造物のフランジ部とを締結する場合の他の一例を示す図である。
【図3】図3は、実施例2に係る錆び発生抑制装置の概略図である。
【図4】図4は、実施例3に係る錆び発生抑制装置の概略図である。
【図5】図5は、実施例4に係る錆び発生抑制装置の概略図である。
【図6】図6は、実施例5に係る錆び発生抑制装置の概略図である。
【図7】図7は、複数の被保護部材を保護する様子を示す図である。
【図8】図8は、複数の被保護部材を保護する他の様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施例における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【実施例1】
【0026】
本発明による実施例1に係る錆び発生抑制装置及び方法について、図面を参照して説明する。図1は、実施例1に係る錆び発生抑制装置の概略図である。
図1に示すように、実施例1に係る錆び発生抑制装置10Aは、保護部材である締結ボルト20の周囲を外部環境から隔離する保護容器11と、前記保護容器11内を真空状態とする真空装置である真空ポンプ13と、前記保護容器11内を真空状態とした後、保護容器内に不活性ガス(N2)を導入して内部を加圧状態とする不活性ガス供給装置である窒素(N2)ボンベ12と、前記保護容器11内の圧力を監視する圧力計Pと、前記圧力計Pでの計測の結果、閾値(1.1気圧)以下となった際に、前記保護容器11内に不活性ガスを導入して所定の圧力状態を維持するように制御する制御装置14とを具備するものである。
なお、V1、V2は、開閉バルブ、L1、L2は、ガスラインを図示する。
【0027】
保護容器11は、例えば締結ボルト20を外部環境から遮断するものであり、その一端が開口している円筒状の容器としている。
【0028】
図2−1、図2−2は、例えば基台22と構造物のフランジ部21とを締結する場合の一例を示す概略図である。先ず図2−1に示すように、保護容器11の底部側開口部とフランジ部21の溝部との接触部分は、容器側面端部に形成された溝11aに嵌合されるOリング23及びメタルパッキン24によりその密閉性を保持するようにしている。
さらには、図2−2に示すように、保護容器11の底部分に内向きフランジ11bを設け、その内向きフランジ11bの下面に介装したメタルパッキン24を締結手段25で締め付け、その密閉性をより強固となるようにしてもよい。
なお、本実施例では、メタルパッキンを用いて、密閉性の向上を図るようにしたが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0029】
真空ポンプ13は、締結ボルト20を保護容器11で覆った後、その内部を真空状態として、水分を含む内部気体を外部へ吸引している。その後、その内部には、不活性ガスである窒素(N2)を窒素ボンベ12から供給している。
【0030】
圧力計Pは、内部の圧力状態を監視するものであり、窒素を供給した際には、圧力を1.5気圧程度に保持するのを常に監視するようにしている。
【0031】
そして、内部圧力が所定の閾値(例えば1.1気圧)になったときに、制御装置14の指令により不活性ガスである窒素を内部に供給して、内部を所定圧力状態に維持するようにしている。
【0032】
このように、本実施例によれば、保護容器11で被保護部材である締結ボルト20の周囲を外部環境から隔離すると共に、その内部を真空にして水分を除去した後、保護容器内に不活性ガス(N2)を導入して内部を加圧状態としているので、内部環境は常に防錆発生の要因がない状態とし、締結ボルト20の腐食防止を長期間に亙って維持することができる。
【0033】
また、圧力計Pで所定の圧力状態を監視し、閾値(例えば1.1気圧)以下となった際に、前記保護容器11内に不活性ガスを導入して所定の圧力状態を維持するように制御装置14で制御するので、所定の防錆環境を長期間に亙って保持することができる。
【0034】
被保護部材の周辺の状態を良好に維持することができるので、長期間に亙防錆が可能となる。
【0035】
図7は複数の被保護部材を保護する様子を示す図である。図7では、保護容器を2つ以上(本実施例では2つ11A、11B)設ける場合である。先ず、前述したように、バルブV12、V14を開けて、一箇所の真空ポンプ13で保護容器11A、11Bの内部を真空にした後、窒素ボンベ12により窒素ガスを容器内部へ供給して、所定の圧力状態を維持して、締結ボルト20A、20Bを保護するようにしている。
そして、各保護容器内の圧力を圧力計P1、P2で監視し、必要に応じてバルブV11、V13を開けて、窒素ボンベ12より窒素を供給し、所定圧力を維持するようにしている。このように、保護容器を複数用いて、締結部材等の被保護部材を長期間に亙って保護することができる。
【0036】
図8は複数の被保護部材を保護する様子を示す図である。図8では、保護容器を複数(本実施例では2つ11−1〜11−8)設ける場合である。本例では、複数の容器に対して、1の真空ポンプ13と1つ窒素ボンベ12を設け、構成を簡易にしている。そして、真空ポンプ13で複数の容器内を真空とした後、窒素ガスを容器内部へ供給して、所定の圧力状態を維持して、容器内に保護される保護部材(図示せず)を保護するようにしている。
【実施例2】
【0037】
本発明による実施例2に係る錆び発生抑制装置及び方法について、図面を参照して説明する。図3は、実施例2に係る錆び発生抑制装置の概略図である。なお、実施例1に係る錆び発生抑制装置10Aと同一部材については、同一符号を付して重複した説明は省略する。
図3に示すように、実施例2に係る錆び発生抑制装置10Bは、実施例1の装置において、不活性ガスの代わりに空気を導入する空気導入装置15を設けている。
そして、圧力計Pの計測の結果、閾値以下となった際に、保護容器11内に乾燥状態の空気であることを確認しつつ空気を導入して所定の圧力状態を維持するようにしている。
【0038】
本実施例で乾燥空気を用いているのは、不活性ガスを充填している窒素ボンベ12は、陸地ではその交換は容易であるが、海洋における屋外構造物の被保護部材を保護する場合には、その補給が容易ではない場合がある。
そこで、屋外構造物の内部の空気を保護容器11内に供給するようにしている。
ただし、海洋に存在する屋外構造物の内部の空気は湿度の変化がある。
よって、保護容器11内に空気を供給するのは、図示しない湿度計を用い、その計測結果より、内部空気が乾燥状態(湿度30%−RH以下)の空気であることを確認してから供給するようにしている。
なお、前記空気導入装置15には、屋外構造物内の空気を押し込むコンプレッサ、及び空気中の煤塵や海塩を捕集するフィルタを設けるようにしている。
【0039】
さらに、空気取り入れ部近傍に、例えばACMセンサ等の腐食センサ(図示せず)を設け、腐食電流の平均値を求め、閾値(例えば一週間の腐食電気量:0.1クーロン(C))以下の場合に、腐食環境でないと判断し、空気を供給するようにしてもよい。
【0040】
この腐食センサは、「大気腐食モニタ」(Atmospheric Corrosion Monitor)あるいはACM型腐食センサと一般に称されている(特開2008−157647号公報参照)。湿度や海塩(塩化物イオン等)等の水膜により、導電部と基板とが短絡し、これに起因するFe−Agのガルバニック対の腐食電流を電流計で計測するものである。この腐食センサとしては、例えば「ACMデータロガー」(商品名:株式会社シュリンクス)等を例示することができる。
【0041】
本実施例によれば、窒素ボンベの交換が不要となり、しかも乾燥空気を供給するので、内部環境は常に防錆発生の要因がない状態とし、締結ボルト20の腐食防止を長期間に亙って維持することができる。
【実施例3】
【0042】
本発明による実施例3に係る錆び発生抑制装置及び方法について、図面を参照して説明する。図4は、実施例3に係る錆び発生抑制装置の概略図である。なお、実施例1に係る錆び発生抑制装置10Aと同一部材については、同一符号を付して重複した説明は省略する。
図4に示すように、実施例3に係る錆び発生抑制装置10Cは、実施例1(又は実施例2)の装置において、さらに内部湿度状態を監視する湿度計16を設け、内部の湿度が50%を超える場合に、保護容器内を真空手段で内部ガスを外部に排出し、その後、保護容器内に不活性ガス(又は空気)を導入して所定の圧力状態を維持するものである。
【0043】
一般に湿度が70%を超えると、錆びの発生が誘引される。仮に保護容器11内が何らかの要因によって、内部湿度が50%を超えることを確認したら、保護容器11内部のガスを交換する処置を行うようにしている。
【0044】
本実施例では、保護容器11内の湿度を計測することで、錆発生の予兆を事前に把握し、その対策を講じることができる。
【実施例4】
【0045】
本発明による実施例4に係る錆び発生抑制装置及び方法について、図面を参照して説明する。図5は、実施例4に係る錆び発生抑制装置の概略図である。なお、実施例1に係る錆び発生抑制装置10Aと同一部材については、同一符号を付して重複した説明は省略する。図5に示すように、実施例4に係る錆び発生抑制装置10Dは、実施例1乃至3のいずれか一つの装置において、さらに保護容器内の腐食状態を監視する腐食センサ17を設け、例えば前述したACMセンサ等の腐食センサ17の腐食電流の計測結果が閾値(例えば0.1クーロン(C):例えば一週間で0.1Cの腐食電気量)以下となった際に、保護容器内を真空手段で内部ガスを外部に排出し、その後、保護容器内に不活性ガス又は空気を導入して所定の圧力状態を維持する。
【0046】
本実施例では、保護容器11内の雰囲気環境が腐食性を帯びる状態を常に確認し、腐食要因を迅速に排除して、防錆対策を講じることができる。
【0047】
また、腐食状態の把握として、電気量以外に、腐食センサの腐食電流による海塩付着結果が閾値(50mg/m2)を超えた際に、防錆対策を講じるようにしてもよい。
【0048】
海塩の付着が予見される場合には、図示しない散水手段により保護容器内部を線上し、その後乾燥(ヒータ又は乾燥空気)し、次いで、保護容器11内を真空ポンプ13で内部ガスを外部に排出し、その後、保護容器内に不活性ガス又は空気を導入して所定の圧力状態を維持するようにしている。
【実施例5】
【0049】
本発明による実施例6に係る錆び発生抑制装置及び方法について、図面を参照して説明する。図6は、実施例5に係る錆び発生抑制装置の概略図である。なお、実施例1に係る錆び発生抑制装置10Aと同一部材については、同一符号を付して重複した説明は省略する。
図6に示すように、実施例5に係る錆び発生抑制装置10Eは、実施例1乃至4のいずれか一つの装置において、さらに揮発性防錆剤18を内部に充填する防錆剤容器19Aと、防錆剤容器19Aとシャッタ19aで仕切られ、防錆剤容器19Aから防錆剤18を所定量供給する供給通路L3と、供給される防錆剤18を揮発させる揮発容器19Bと、揮発した防錆剤18を保護容器内に導入する導入通路L4と、保護容器内の腐食状態を計測する腐食センサ17と、腐食センサ17の計測結果に応じて、揮発させた防錆剤ガスを所定量供給する指令を行う制御手段(図示せず)とを設けている。なお、図6中、符号Tは温度計である。
【0050】
揮発性防錆剤18を用いることで、窒素ガス又は乾燥状態の空気を内部に供給する際の保護容器11内を防錆雰囲気とすることができる。
【0051】
ここで、本発明で揮発性防錆剤としては、例えばMEA−BA(モノエタノールアミンベンゾエート)、DICHA−SA(ジシクロヘキシルアンモニウムサリシレート)等を例示することができ、溶融亜鉛めっき等の防錆に好適である。
また、ペレット型の防錆剤の他に、液体の防錆剤を用いるようにしてもよい。この場合には揮発容器は不要となる。
【0052】
本実施例では、前述したように、保護容器11内を窒素ガスにて加圧状態とする。
次いで、例えば一ヶ月の間、腐食センサ17で内部腐食環境を監視する。
そして、腐食センサ17での計測の結果、計測値が0.5Cを超えるような腐食環境の場合には、揮発性防錆剤を供給する。
これに対し、計測値が0.5C以下の場合には、窒素ガスのみを供給して、所定の圧力(例えば1.5気圧)を維持する。
これにより、内部環境が腐食環境であることを事前に把握して、揮発性防錆剤18を用いて、窒素ガス又は乾燥状態の空気と共に内部に供給することで、防錆雰囲気とすることができる。
【0053】
本発明では、被保護部材は特に限定されるものではなく、例えば橋梁や屋外構造物を締結するような構造物のボルト・ナット、アンカーボルト等の締結部材を例示できるが、それ以外の物品においても、長期間に亙って屋外環境に晒され、経年変化により腐食されるおそれがある対象物の保護に適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
以上のように、本発明に係る錆び発生抑制装置及び方法によれば、圧力計で所定の圧力状態を監視し、閾値以下となった際に、保護容器内に不活性ガスを導入して所定の圧力状態を維持するので、所定の防錆環境を長期間に亙って保持することができ、被保護部材の長期間に亙っての錆の発生を抑制することができる。
【符号の説明】
【0055】
10A〜10E 錆び発生抑制装置
11 保護容器
12 窒素(N2)ボンベ
13 真空ポンプ
14 制御装置
15 空気導入装置
16 湿度計
17 腐食センサ
20 締結ボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被保護部材の周囲を外部環境から隔離する保護容器と、
前記保護容器内を真空状態とする真空装置と、
前記保護容器内を真空状態とした後、保護容器内に不活性ガスを導入して内部を加圧状態とする不活性ガス供給装置と、
保護容器内の圧力を監視する圧力計と、
圧力計の計測の結果、閾値以下となった際に、保護容器内に不活性ガスを導入して所定の圧力状態を維持するように制御する制御装置とを具備することを特徴とする錆び発生抑制装置。
【請求項2】
請求項1において、
不活性ガスの代わりに空気を導入する空気導入装置を設け、
圧力計の計測の結果、閾値以下となった際に、保護容器内に乾燥状態の空気であることを確認しつつ空気を導入して所定の圧力状態を維持することを特徴とする錆び発生抑制装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、
内部湿度状態を監視する湿度計を設け、
内部の湿度が50%を超える場合に、
保護容器内を真空手段で内部ガスを外部に排出し、その後、
保護容器内に不活性ガス又は乾燥空気を導入して所定の圧力状態を維持することを特徴とする錆び発生抑制装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一つにおいて、
保護容器内の腐食状態を監視する腐食センサを設け、
腐食センサの腐食電流の計測結果が閾値以上となった際に、
保護容器内を真空手段で内部ガスを外部に排出し、その後、
保護容器内に不活性ガス又は空気を導入して所定の圧力状態を維持することを特徴とする錆び発生抑制装置。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれか一つにおいて、
保護容器内の腐食状態を監視する腐食計を設け、
腐食センサの腐食電流による海塩付着結果が閾値を超えた際に、
保護容器内を真空手段で内部ガスを外部に排出し、その後、
保護容器内に不活性ガス又は空気を導入して所定の圧力状態を維持することを特徴とする錆び発生抑制装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一つにおいて、
不活性ガス又は乾燥空気と共に、ガス状防錆剤を導入することを特徴とする錆び発生抑制装置。
【請求項7】
請求項4又は5において、
揮発性防錆剤を内部に充填する防錆剤保管容器と、
保管容器とシャッタで仕切られ、保管容器から防錆剤を所定量供給する供給通路と、
供給される防錆剤を揮発させる揮発容器と、
揮発した防錆剤を保護容器内に導入する導入通路と、
腐食センサの計測結果に応じて、揮発させた防錆剤を所定量供給する指令を行う制御手段と、
を具備することを特徴とする錆び発生抑制装置。
【請求項8】
被保護部材の周囲を外部環境から保護容器で隔離し、
前記保護容器内を真空状態した後に、保護容器内に不活性ガス又は乾燥空気を導入し、 保護容器内の圧力を監視し、
保護容器内の圧力が閾値以下となった際に、保護容器内に不活性ガス又は乾燥空気を導入して所定の圧力状態を維持し、被保護部材の錆発生を抑制することを特徴とする錆び発生抑制方法。
【請求項9】
請求項8において、
内部湿度状態を監視し、内部の湿度が50%を超える場合に、保護容器内をガスを追い出した後、保護容器内に不活性ガス又は乾燥空気を導入して所定の圧力状態を維持することを特徴とする錆び発生抑制方法。
【請求項10】
請求項8又は9において、
保護容器内の腐食状態を腐食センサで監視し、
腐食センサの腐食電流の計測結果が閾値以上、又は腐食センサの腐食電流による海塩付着結果が閾値を超えた際に、保護容器内のガスを追い出した後、保護容器内に不活性ガス又は乾燥空気を導入して所定の圧力状態を維持することを特徴とする錆び発生抑制方法。
【請求項11】
請求項9又は10において、
不活性ガス又は乾燥空気と共に、ガス状防錆剤を導入することを特徴とする錆び発生抑制方法。
【請求項12】
請求項10において、
揮発性の防錆剤を用いて、腐食センサの計測結果に応じて、揮発させた防錆剤を所定量供給することを特徴とする錆び発生抑制方法。

【図1】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−122231(P2011−122231A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−283282(P2009−283282)
【出願日】平成21年12月14日(2009.12.14)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】