説明

錆味の評価方法

【課題】従来、二価の鉄イオン由来の錆味を評価する方法としては、服用による官能評価しかないのが現状である。しかしながら官能評価の場合、連続して評価することが困難であり、通常一度評価を行った後、30分程度間隔を空けないと次の評価を行うことができないなど、必ずしも簡便とは言えなかった。
本発明は、二価の鉄イオン由来の不快な錆味を簡便に評価する方法を提供することを目的とする。
【解決手段】(1)鉄成分配合液剤に表皮脂質成分を添加し、発生する臭いを評価することを特徴とする鉄成分配合液剤における錆味の評価方法。
(2)鉄成分が二価の鉄成分であることを特徴とする(1)に記載の評価方法。
(3)表皮脂質成分がスクアレンである(1)又は(2)に記載の評価方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二価の鉄イオン由来の不快な錆味の評価方法に関する。さらに詳しくは、二価の鉄イオンに表皮脂質成分を配合することを特徴とする錆味の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、二価の鉄イオンは三価の鉄イオンに比べて吸収性がよいことが知られているが、二価の鉄イオンには不快な錆味があり、二価の鉄イオンを配合して内服液剤を調製した場合、服用性が著しく悪くなるという問題があった。
【0003】
従来、飲料の風味を評価する方法としては、渋味を有する食品とペプチドとを反応させ複合体の生成量で渋味を評価する方法(特許文献1)、高分子材などで味の成分を分離し機械的に渋味や苦味を評価する方法(特許文献2、3)などが知られているが、二価の鉄イオン由来の錆味を評価する方法としては、服用による官能評価しかないのが現状である。しかしながら官能評価の場合、連続して評価することが困難であり、通常一度評価を行った後、30分程度間隔を空けないと次の評価を行うことができないなど、必ずしも簡便とは言えなかった。
【0004】
また、ヒトの表皮脂質の組成はおよそ平均値でトリアシルグリセリン40%、脂肪酸15%、スクアレン10%、ワックス25%程度であることが知られている(非特許文献1)。
【0005】
【特許文献1】特開2002−286710
【特許文献2】特開2002−107338
【特許文献3】特開2002−107339
【非特許文献1】J.Invest.Dermatol,53(5),322-327(1969).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、二価の鉄イオン由来の不快な錆味を簡便に評価する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、二価の鉄イオンを服用すると不快な錆味を感じるが、これは溶液のままでは感じず、一旦唇や皮膚に付着すると感じることを見出した。さらにその原因を探求したところ、二価の鉄イオン由来の不快な錆味は表皮脂質成分と接触することにより発現することが分かった。そのことから、二価の鉄イオン配合液剤に表皮脂質成分を添加することにより発生する臭いから錆味の評価ができることを見出し本発明を完成した。
【0008】
すなわち本発明は
(1)鉄成分配合液剤に表皮脂質成分を添加し、発生する臭いを評価することを特徴とする鉄成分配合液剤における錆味の評価方法。
(2)鉄成分が二価の鉄成分であることを特徴とする(1)に記載の評価方法。
(3)表皮脂質成分がスクアレンである(1)又は(2)に記載の評価方法。
である。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、二価の鉄イオン由来の不快な錆味を簡便に評価することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明で鉄成分とは液剤に溶解した際に鉄イオンを生じる成分である。鉄成分としては二価の鉄イオンを生じる成分が好ましいが、三価の鉄化合物と還元性物質を共存させた場合でも錆味が発生するため本発明で評価することができる。二価の鉄イオンを生じる成分としてはフマル酸第一鉄、硫酸第一鉄、クエン酸第一鉄ナトリウムなどが挙げられる。また、三価の鉄化合物と還元性物質を共存させる場合の還元性物質としては還元糖、アスコルビン酸などの還元性有機酸などが挙げられる。これらは単独で配合してもよく、また2種以上を組み合わせて配合することもできる。
【0011】
本発明で表皮脂質成分としてはスクアレンが最も好ましい。本発明に使用するスクアレンとは、イソプレン残基6個からなる鎖状構造を持つイソプレン系化合物であり、多くのサメ、特にフジクジラ、カラスザメ、カスミザメなどの深海性のサメの肝油の不ケン化物や諸動物の肝臓や人の皮脂、オリーブ油、ゴマ油、小麦胚油、米糠油などに存在し、それらより分離精製された不飽和炭化水素である。なおこれらのスクアレン以外に合成品を使用することもできる。
【0012】
本発明は、鉄成分配合液剤に表皮脂質成分を添加し、発生する臭いを評価する。臭いの評価は、臭いを官能的に評価するのが最も簡便であるが、ガスクロマトグラフィーなどを用いて機械的に評価することも可能である。臭いを官能的に評価する場合、従来行われていた服用しての評価と異なり、嗅覚を用いて評価できるので連続して多くのサンプルを評価することが可能である。
【0013】
本発明の錆味の評価方法を使用して、例えば鉄剤を配合したシロップ剤、ドリンク剤などの医薬品や医薬部外品などの各種製剤、健康飲料などの各種飲料の錆味の評価を行なうことができる。
【0014】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。
【実施例1】
【0015】
表皮脂質の構成成分の内、不飽和結合を有することから反応性が高いことが予想されるスクアレン、オレイン酸、パルミトレイン酸について検討を行った。
【0016】
試験方法
(1)希釈液の調製
クエン酸100mgを適量の水に溶解し、1mol/L水酸化ナトリウムでpHを3.0に調整し、精製水で100mLとした。
(2)鉄イオン溶液の調製
フマル酸第一鉄150mgにクエン酸100mgを加え、それを適量の精製水に溶解し、1mol/L塩酸及び1mol/L水酸化ナトリウムでpHを3.0に調整し、精製水で100mLとした。
(3)ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)溶液の調製
SDS 10gにクエン酸100mgを加え、それを適量の精製水に溶解し、1mol/L塩酸及び1mol/L水酸化ナトリウムでpHを3.0に調整し、精製水で100mLとした。
(4)SDS-脂質可溶化溶液の調製
(3)項のSDS溶液30mLに、各脂質(スクアレン、オレイン酸、パルミトレイン酸)0.15mLを添加し、30分間攪拌した後30分間静置し、各SDS-脂質可溶化溶液を得た。
(5)錆味の評価
(2)項の鉄イオン溶液5mLにSDS-脂質可溶化溶液0.2mLを加え、希釈液でそれぞれ全量を22mLとした。これを5分間静置した後、サンプルの臭いについて専門パネル4名により嗅覚による官能評価を行った。なお官能評価は、錆味(臭い)が強く許容できない場合を6点、許容できる範囲をその錆味の強さに応じて5点〜2点とし、錆味を全く感じない場合を1点とする6段階の評価点で行った。
【0017】
結果
結果を平均値で求め、図1に示した。図1から明らかなように、表皮脂質成分であるスクアレンに二価の鉄イオン溶液を添加したときに、二価の鉄イオンを服用した時と同じような臭いを確認することができた。なお、オレイン酸及びパルミトレイン酸については、油の酸化臭であり、錆味とは質の異なる臭いであった。
【0018】
よって錆味の発生原因の一つとして表皮脂質成分であるスクアレンが示唆され、スクアレンを用いた錆味を擬似的に再現可能な評価方法を確立することができた。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明の評価方法により、液剤の錆味を簡便に評価できるので、鉄成分を配合したシロップ剤、ドリンク剤などの医薬品や医薬部外品などの各種製剤、健康飲料などの各種飲料の風味検討に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】各表皮脂質成分を配合した際に発生する錆味を評価した結果を示した図であり、縦軸に錆味の点数、横軸に各表皮脂質成分名を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄成分配合液剤に表皮脂質成分を添加し、発生する臭いを評価することを特徴とする鉄成分配合液剤における錆味の評価方法。
【請求項2】
鉄成分が二価の鉄成分であることを特徴とする請求項1に記載の評価方法。
【請求項3】
表皮脂質成分がスクアレンである請求項1又は2に記載の評価方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−107240(P2008−107240A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−291403(P2006−291403)
【出願日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【出願人】(000002819)大正製薬株式会社 (437)