説明

錆転換剤含有ウレタンフォームと中空鋼材の防錆方法

【課題】中空鋼材内面の防錆作業を容易に行うことができ、しかも長期的に防錆効果が得られる防錆方法の提供を目的とする。
【解決手段】赤錆15が発生した中空鋼材11の側面に穴13を形成し、錆転換剤を含有させたウレタン原料21を穴13から中空鋼材11内に注入し、中空鋼材11の内部でウレタン原料21を発泡させることにより、中空鋼材11内の空気を追い出して錆転換剤含有ウレタンフォーム25を中空鋼材11内に充填すると共に錆転換剤含有ウレタンフォーム25を中空鋼材11の内面に密着・接着し、その後に中空鋼材11の側面の穴13を閉鎖部材31で閉鎖する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、錆転換剤含有ウレタンフォームとそれを用いる中空鋼材の防錆方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図3の(3A)に示すように、橋の主構などに使用されている中空鋼材51の内面に赤錆55を生じた場合、(3B)及び(3C)に示すように、中空鋼材51の側面に形成した穴53を利用してショットブラスト、ケレン、金属ブラシ等で鋼材内面の赤錆55を落とし、赤錆55を落とした鋼材51の内面に防錆塗装やメッキ等により(3D)のように皮膜57を形成し、その後に(3E)のように穴53の部分を鉄板59で溶接して塞ぐことが行われている。
【0003】
しかし、中空鋼材51に形成する作業用の穴53は、中空鋼材51の強度等の点から小さく、しかも数が少ないことが好ましいため、中空鋼材51に形成した穴53を利用して中空鋼材内の赤錆を落とす作業をする際に、錆び落としの器具が届かない等によって赤錆を落とせない場所がある。さらに、中空鋼材51に形成した穴53を利用して中空鋼材51の内面に満遍なく均一に塗装やメッキを施すのも難しく、充分な防錆効果が得られない場合がある。
【0004】
また、地中に埋設されて老朽化した配管の更生方法として、配管の内部にチューブを反転させつつ挿入し、配管の内面とチューブとの間に樹脂を介在させてチューブを配管の内面に固定する管内ライニング工法がある(特許文献1)。
【0005】
しかし、管内ライニング工法は、円筒形状以外の中空鋼材、例えば角形状の中空鋼材に適用する場合には、角部で鋼材の内面とチューブとの間に隙間を生じやすく、防錆効果が低下するおそれがある。
【0006】
また、中空鋼材の内面の赤錆を落とした後、中空鋼材内でウレタンフォームを発泡させて中空鋼材内にウレタンフォームを充填する補修方法が提案されている(特許文献2)。
ウレタンフォームを充填する防錆方法は、中空鋼材の外部からの空気及び水をウレタンフォームで遮断できるため防錆効果を得られるが、前記の防錆塗装やメッキ等を施す場合と同様に中空鋼材に形成した穴を利用して中空鋼材内の赤錆を落とす作業をするため、錆び落としの器具が届かない等によって赤錆を落とせない場所がある。
【0007】
また、熱可塑性樹脂に金属防錆剤を含有させた金属樹脂組成物を溶剤などで希釈して、スプレーなどで金属製品に塗布する方法が提案されている(特許文献3の段落0042参照)。
しかし、前記金属樹脂組成物の塗布を、中空鋼材の内面の防錆に適用する場合には、中空鋼材に形成した穴を利用して金属樹脂組成物を中空鋼材の内面にスプレーなどで塗装することになるため、前記の防錆塗装やメッキ等を施す場合と同様の問題、すなわち中空鋼材に形成する作業用の穴の大きさや数の制約から、錆び落としの器具が届かない等によって赤錆を落とせない場所があり、しかも中空鋼材の内面に満遍なく均一に金属樹脂組成物を塗布するのが難しく、充分な防錆効果が得られない問題がある。
【0008】
また、鉄鋼材料の補修方法として、錆転換型の防錆剤を含む防錆塗料を鉄鋼材料に塗布する方法が提案されている(特許文献4、5)。錆転換型の防錆剤は、赤錆(三二酸化鉄、ヘマタイト)を、緻密で防錆性のある安定な黒錆(四三酸化鉄、マグネタイト)に転換する作用を有しており、錆の進行抑制に効果がある。
しかし、錆転換型の防錆剤を含む防錆塗料の塗布を中空鋼材内面の防錆に適用する場合、中空鋼材に形成した穴を利用して錆転換型の防錆剤を含む防錆塗料を中空鋼材の内面にスプレーなどで塗装することになるため、前記の防錆塗装やメッキ等を施す場合と同様の問題、すなわち中空鋼材に形成する作業用の穴の大きさや数の制約から、塗装器具が届かず、塗布できない場所が残ったり、均一に塗装できなかったりして充分な防錆効果が得られない問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−4090号公報
【特許文献2】特開2010−48000号公報
【特許文献3】特開2009−102692号公報
【特許文献4】特開2000−140746号公報
【特許文献5】特開2009−40929号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は前記の点に鑑みなされたものであって、鋼材表面に対する防錆効果を有する錆転換剤含有ウレタンフォームと、中空鋼材内面の防錆作業を容易、かつ満遍なく行うことができ、しかも高い防錆効果が得られる中空鋼材の防錆方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1の発明は、ポリオール類、触媒、整泡剤、発泡剤を含むレジン原料と、ポリイソシアネートを含むイソシアネート原料を混合し、発泡させたウレタンフォームにおいて、少なくとも前記レジン原料に錆転換剤を混入したことを特徴とする錆転換剤含有ウレタンフォームに係る。
【0012】
請求項2の発明は、中空鋼材の内面を防錆する方法において、前記中空鋼材に穴を開け、ポリオール類、触媒、整泡剤、発泡剤、錆転換剤及びイソシアネート原料を含む錆転換剤含有ウレタン原料を、前記穴から前記中空鋼材内に注入して、前記錆転換剤含有ウレタン原料を発泡させることにより錆転換剤含有ウレタンフォームを前記中空鋼材内に充填し、その後に前記穴を塞ぐことを特徴とする中空鋼材の防錆方法に係る。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明によれば、コンクリートや岩、礫等の隙間の奥に鋼材が存在するような場所に錆転換剤含有ウレタンフォームを充填すれば、鋼材に錆転換剤含有ウレタンフォームが密着していなくても、その隙間をウレタンフォームで密閉させることができ、錆転換剤含有ウレタンフォームに含まれる錆転換剤が気化することにより、鋼材表面に発生していた赤錆を黒錆に転換して錆の進行(赤錆の発生および侵食)を抑えることができ、鋼材表面の赤錆を除去することなく防錆効果を得ることができる。
【0014】
請求項2の発明によれば、中空鋼材に注入された錆転換剤含有ウレタン原料は、中空鋼材内で発泡して錆転換剤含有ウレタンフォームとなって中空鋼材内に充填される際に、中空鋼材内の空気が錆転換剤含有ウレタンフォームによって中空鋼材外へ追い出されて中空鋼材の内面に錆転換剤含有ウレタンフォームが密着して接着するため、空気及び水を鋼材の内面に対して絶縁することができ、防錆効果が得られる。さらに、中空鋼材内に充填された錆転換剤含有ウレタンフォームに含まれる錆転換剤によって、中空鋼材内面に発生していた赤錆を黒錆に転換して錆の進行(赤錆の発生および侵食)を抑えることができる。しかも、中空鋼材内面の赤錆を除去することなく錆転換剤含有ウレタン原料を中空鋼材内に注入し、錆転換剤含有ウレタンフォームを発泡させることによって、中空鋼材内の防錆処理を行うことができるため、容易に中空鋼材の防錆作業を行うことができる。
【0015】
さらに請求項2の発明によれば、中空鋼材内に錆転換剤含有ウレタン原料を注入して中空鋼材内で発泡させることにより、錆転換剤含有ウレタンフォームを中空鋼材内に充填するため、現場施工が容易であり、しかも中空鋼材の形状にかかわらず、錆転換剤含有ウレタンフォームを中空鋼材内に充填することができ、良好な防錆効果が得られる。さらに、防錆塗料を塗装する場合に生じやすい塗りムラ、塗り残しが、本発明の防錆方法では生じることがなく、良好な防錆効果が得られる。また、赤錆落としのための作業が不要なため、中空鋼材に形成する作業穴は、錆転換剤含有ウレタン原料を注入することが可能な小さなもので済み、工期を短縮することができる。
【0016】
しかも、錆転換剤は気化性であり、ウレタン発泡時の反応熱により気化が促進されるため、万一、錆転換剤含有ウレタンフォームの充填時に、中空鋼材の内面と錆転換剤含有ウレタンフォームとの間に空隙を生じたとしても、気化した錆転換剤が空隙部分の鋼材内面に付着して赤錆を黒錆に転換し、錆の進行を抑えることができる。また、錆転換剤含有ウレタンフォームの発泡後においても、錆転換剤含有ウレタンフォーム中の錆転換剤が気化するため、鋼材の赤錆を黒錆に転換し、錆の進行を抑えることができる。
【0017】
さらに、作業用穴が塞がれた中空鋼材内の閉鎖空間に錆転換剤含有ウレタンフォームが充填されているため、錆転換剤含有ウレタンフォーム中の気化性の錆転換剤は、半永久的に錆防止効果が持続する。
また、錆転換剤含有ウレタンフォームの充填後、中空鋼材に穴を生じた場合にも、中空鋼材内に充填されている錆転換剤含有ウレタンフォームによって、外部から中空鋼材内に発錆因子が侵入するのを防ぐことができる。
これらによって、本発明の防錆方法によれば、従来の方法と比較して長期的に赤錆の発生及び進行を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の中空鋼材の防錆方法における一実施形態の概略工程図である。
【図2】防錆効果の確認実験方法を示す図である。
【図3】従来の防錆方法における概略工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の錆転換剤含有ウレタンフォームとそれを用いる中空鋼材の防錆方法の一実施形態について説明する。
錆転換剤含有ウレタンフォームは、ポリオール類、触媒、整泡剤、発泡剤を含むレジン原料と、ポリイソシアネートを含むイソシアネート原料を混合し、発泡させたウレタンフォームにおいて、少なくとも前記レジン原料に錆転換剤を混入したものからなる。
【0020】
本発明における錆転換剤含有ウレタンフォームは、例えば後述の中空鋼材の防錆作業終了後に中空鋼材に穴を生じた場合、錆転換剤が中空鋼材の穴を介して短期間で揮発せず、長期に亘って良好な防錆効果が得られるようにするため、JIS K 6400−7の通気性測定では測定下限以下からなる、通気性のほとんどないものが好ましい。また、中空鋼材内等に充填された錆転換剤含有ウレタンフォーム中を気化性の錆転換剤が緩やかに移動できることが好ましい為、錆転換剤含有ウレタンフォームにおける独立気泡率の適正範囲は錆転換剤含有ウレタンフォーム内平均で、30%〜90%(JIS K 7138)が好ましい。
【0021】
ポリオール類は、ウレタンフォーム用の公知のポリオールが用いられ、エーテル系、エステル系のいずれでもよい。より好ましくは、硬質ウレタンフォーム用のポリオールが好ましい。ポリオールは一種類に限られず、複数種類を組み合わせて使用してもよい。特に前記のようにウレタンフォームの通気性がほとんど無く、かつ独立気泡率を30%〜90%にできるものが好ましい。
【0022】
触媒は、ウレタンフォーム用のアミン系触媒、金属触媒(有機金属化合物系触媒)が単独又は併用される。アミン系触媒としては、モノアミン化合物、ジアミン化合物、トリアミン化合物、ポリアミン化合物、環状アミン化合物、アルコールアミン化合物、エーテルアミン化合物等が挙げられ、これらの1種類でもよく、2種類以上併用してもよい。金属触媒としては、有機錫化合物、有機ビスマス化合物、有機鉛化合物、有機亜鉛化合物等を挙げることができ、これらの1種類でもよく、あるいは2種類以上用いてもよい。触媒の量はポリオール100質量部当たり0.05〜10質量部が一般的である。
整泡剤としては、シリコーン系化合物、カチオン系、アニオン系、非イオン系界面活性剤等を用いることができる。
【0023】
発泡剤は、水、炭化水素、ハロゲン系化合物等を挙げることができ、これらの中から1種類でもよく、又2種類以上でもよい。発泡剤の量はポリオール100質量部当たり1〜70質量部が一般的である。
【0024】
錆転換剤は、リン酸塩、亜リン酸塩、キレート剤、フッ素化合物、ポリフェノール誘導体、金属硫化物等を挙げることができる。リン酸塩としては、正リン酸、リン酸ナトリウム、リン酸カルシウム、リン酸亜鉛、リン酸ニッケル、重合リン酸等、亜リン酸塩としては、亜リン酸カルシウム、亜リン酸マグネシウム等、キレート剤としては、クエン酸、酒石酸、エチレンジアミン四酢酸、タンニン酸、フィチン酸等、フッ素化合物としては、フッ酸、フッ化ナトリウム、珪フッ酸、珪フッ化カリウム等、ポリフェノール誘導体としては、タンニン酸、没食子酸、プロトカテチュ酸、ピロガロール等を挙げることができる。前記錆転換剤は、単体として、または揮発性溶剤などに希釈されて、揮発性を有することが好ましい。前記錆転換剤から1種類あるいは複数種類が選択される。錆転換剤は、ポリオール類、触媒、整泡剤、発泡剤を含むレジン原料側に添加するのが好ましいが、レジン原料側とイソシアネート原料側の両方に分けて添加してもよい。錆転換剤の量は、ウレタンフォームの物理的特性、機械的特性に影響を与えない範囲の量が好ましい。例として、前記錆転換剤含有ウレタン原料のポリオール100質量部に対して1〜100質量部、より好ましくは20〜80質量部を挙げる。含有量が少なければ防錆性能(錆転換効果及び赤錆発生防止効果)が低下し、多くすれば防錆効果はあるが経済性に劣るようになる。このように汎用の錆転換剤が使用できるが、ウレタン樹脂化反応や泡化反応、および発泡後の物理的特性や機械的特性に影響がある場合は、ポリオール類、イソシアネート原料、発泡剤、整泡剤、触媒等の各原料の添加量を増減して、各反応や発泡後の各特性を調整することができる。
【0025】
イソシアネート原料は、ウレタンフォーム用の公知のポリイソシアネートが用いられる。ポリイソシアネートは、イソシアネート基を2以上有する化合物であれば、特に限定されるものではなく、ウレタンフォーム用に用いられるものが使用可能であり、1種類の単独でも2種類以上の併用であってもよい。前記ポリイソシアネートとして、芳香族系、脂肪族系、脂環族系のイソシアネート化合物、及びこれらの変性物を挙げることができる。ポリイソシアネートの含有量は、イソシアネートインデックスが90〜130となるように調整されるのが好ましい。イソシアネートインデックスは、ポリウレタンの分野で使用される指数であって、原料中の活性水素基(例えばポリオール類の水酸基及び発泡剤としての水等の活性水素基等に含まれる活性水素基)に対するポリイソシアネート類のイソシアネート基の当量比を百分率で表した数値である。
【0026】
前記ポリオール類、触媒、整泡剤、発泡剤、錆転換剤及びイソシアネート原料を含む錆転換剤含有ウレタン原料は、公知の原料供給装置(注入装置とも称される)で混合し、鋼材が存在する空間や中空鋼材内に注入されることにより、反応・発泡して錆転換剤含有ウレタンフォームを形成し、前記空間や中空鋼材内に充填される。なお、原料供給装置内の錆転換剤含有ウレタン原料は、レジン原料とイソシアネート原料が別々に収容され、吐出時に混合される。
【0027】
本発明の中空鋼材の防錆方法は、橋の主構などに使用されている中空鋼材の内面に錆(赤錆)を生じた場合の防錆方法であり、穴形成工程、ウレタン充填工程、穴閉鎖工程よりなる。
穴形成工程では、図1の(1A)、(1B)のように中空鋼材11の側面12に作業用の穴13を形成する。中空鋼材11の内面の赤錆15を除去する作業が不要なため、穴13の大きさは錆転換剤含有ウレタン原料の注入ガンノズルを挿入可能な大きさであればよく、直径2〜5cm程度の大きさでよい。穴13の位置は、高い位置が好ましい。例えば中空鋼材11の下端から50cm以上の位置を挙げる。穴13の個数は、複数個でもよい。また、穴13の形成は、公知の方法、例えばドリル等によって行うことができる。
【0028】
ウレタン充填工程では、図1の(1C)に示すように、前記作業用の穴13から中空鋼材11内に錆転換剤含有ウレタン原料21を注入し、発泡硬化させて図1の(1D)に示すように錆転換剤含有ウレタンフォーム25を中空鋼材11内に充填する。前記中空鋼材11内への錆転換剤含有ウレタン原料21の注入は、中空鋼材11の側面の穴13から中空鋼材11内に公知のウレタン原料供給装置の注入ガンノズル41を挿入して行う。錆転換剤含有ウレタン原料21の発泡時、該発泡により形成される錆転換剤含有ウレタンフォーム25が中空鋼材11内の空気を追い出しながら中空鋼材11内に充填され、中空鋼材11の内面に錆転換剤含有ウレタンフォーム25が密着して接着する。なお、中空鋼材11内への錆転換剤含有ウレタン原料21の注入量は、錆転換剤含有ウレタン原料21から発泡形成される錆転換剤含有ウレタンフォーム25が中空鋼材11内に隙間無く形成されることとなる量である。錆転換剤含有ウレタン原料21は、前記ポリオール類、触媒、整泡剤、発泡剤、錆転換剤、イソシアネート原料、その他適宜配合される添加剤を含むものからなる。
【0029】
穴閉鎖工程では、図1の(1E)に示すように、前記中空鋼材11の側面に形成した穴13をボルトや金属板等の閉鎖部材31で閉鎖する。なお、ボルトの場合は前記穴13に螺着することにより、又金属板の場合は溶接等で固定する。この穴閉鎖工程の完了によって、中空鋼材11の防錆作業が終了する。
【0030】
防錆作業後の中空鋼材11は、中空鋼材11内の空気が錆転換剤含有ウレタンフォーム25により中空鋼材外へ追い出されて中空鋼材11の内面に錆転換剤含有ウレタンフォーム25が密着して接着した状態になっているため、空気及び水を中空鋼材11の内面に対して絶縁することができ、錆の発生及び進行を防ぐことができる。また、中空鋼材11に穴を生じた場合にも、中空鋼材11内に充填されている錆転換剤含有ウレタンフォーム25によって、外部から中空鋼材11内に発錆因子が侵入するのを防ぐことができる。さらに、中空鋼材11内に充填された錆転換剤含有ウレタンフォーム25に含まれる錆転換剤によって、中空鋼材11の内面の赤錆15を防錆性のある黒錆に転換して錆の進行を抑えることができる。
【実施例】
【0031】
本発明の中空鋼材の防錆方法で形成する錆転換剤含有ウレタンフォームによる防錆効果を以下の方法で確認した。
図2の(2−1)に示すように赤錆が表面に発生した1×4cmの鉄板2枚を、1枚(A)は鉄板の下端が直径10cm×高さ20cmの容器の底面から15cmの位置となるように吊し、もう1枚(B)は鉄板の下端が前記容器の底面から2cmの位置となるように吊した。前記鉄板(A)、(B)を吊した容器を実験例1〜5用に5セット容易した。
【0032】
次に、以下の原料から、表1に示す実験例1〜5の配合で調製したウレタン原料を、前記容器に80ml充填してウレタンフォームを発泡形成し、図2の(2−2)に示すように、下側の鉄板(B)をウレタンフォーム内に埋もれさせ、上側の鉄板(A)をウレタンフォーム上方の空中に位置させた。
【0033】
・ポリエーテルポリオール#5000:グリセリンにプロピレンオキシドとエチレンオキシドとを付加反応させたポリエーテルポリオール、官能基数3、水酸基価33(mgKOH/g)、分子量5000
・ポリエーテルポリオール:グリセリンにプロピレンオキシドとエチレンオキシドとを付加反応させたポリエーテルポリオール、官能基数3、水酸基価250(mgKOH/g)、分子量670
・フタル酸グリコールエステル:無水フタル酸にジエチレングリコールを付加させたポリエステルポリオール、官能基数2、水酸基価260(mgKOH/g)、分子量430
・EDP300:エチレンジアミンにプロピレンオキシドを付加したポリオール、官能基数4、水酸基価740(mgKOH/g)、分子量300、旭電化工業(株)製
・ポリメリックMDI:ポリフェニルポリメチレンポリイソシアネート70質量%、ジフェニルメタンジイソシアネート30質量%の化合物
・KAO−25(触媒):N,N-ジメチルアミノヘキサノール、花王(株)製
・整泡剤:ポリオキシアルキレン・ジメチルポリシロキサン、硬質ウレタン発泡体用で連通タイプの整泡剤、東レ・ダウコーニング社製(品番;SZ1949)
・錆転換剤:主成分が硫化バリウム混合物(金属硫化物:還元剤)と、芳香族オキシム(防錆剤)からなる気化性錆転換剤
【0034】
【表1】

【0035】
容器に蓋をした状態で1週間放置した後、鉄板(B)が埋もれたウレタンフォームと空中の鉄板(A)を容器から取り出し、さらにウレタンフォームを割って、ウレタンフォームの中から鉄板(B)を取り出した。
・目視試験
取り出した鉄板(A)、(B)の表面の色を目視で観察し、明確に黒色(黒錆)に変化した場合には◎、僅かに黒色(黒錆)に変化した場合に○、褐色(赤錆)から変化がない場合に×とした。結果を表2に示す。
【0036】
【表2】

【0037】
錆転換剤を含まない実験例1(比較例)は、空中の鉄板(A)及びウレタン中の鉄板(B)の何れも、黒錆化せず赤錆のまま(×)であった。一方、錆転換剤を20質量部含む実験例2(実施例)は、空中の鉄板(A)については黒錆化せず赤錆のまま(×)であったが、ウレタン中の鉄板(B)については僅かに黒錆化した(○)。また、錆転換剤を40質量部含む実験例3(実施例)は、空中の鉄板(A)については僅かに黒錆化し(○)、ウレタン中の鉄板(B)については明確に黒錆化した(◎)。錆転換剤を60質量部含む実験例4(実施例)及び80質量部含む実験例5(実施例)は、空中の鉄板(A)及びウレタン中の鉄板(B)の何れも、明確に黒錆化した(◎)。
【0038】
・磁性試験
次に、目視後の鉄板(A)、(B)の表面の付着物をカッターナイフで擦り取って採集した。採集した付着物に磁石を近付けて付着物の磁性の度合いを調べた。なお、黒錆は磁石に吸着される程度の磁性を有し、赤錆は磁石に吸着するほどの磁性が無いことが分かっている。明らかに磁性があった場合に◎、若干の磁性があった場合に○、磁性がなかった場合に×とした。結果を表3に示す。
【0039】
【表3】

【0040】
錆転換剤を含まない実験例1(比較例)は、空中の鉄板(A)及びウレタン中の鉄板(B)の何れも、磁性がなく(×)赤錆のままであった。一方、錆転換剤を20質量部含む実験例2(実施例)は、空中の鉄板(A)については磁性がなく(×)赤錆のままであったが、ウレタン中の鉄板(B)については僅かに磁性があり(○)若干黒錆化した。また、錆転換剤を40質量部含む実験例3(実施例)は、空中の鉄板(A)及びウレタン中の鉄板(B)の何れも僅かに磁性があり(○)、若干黒錆化した。錆転換剤を60質量部含む実験例4(実施例)及び80質量部含む実験例5(実施例)は、空中の鉄板(A)及びウレタン中の鉄板(B)の何れも、明確に磁性があり(◎)、黒錆化した。
【0041】
・浸水試験
磁性試験後の鉄板(A)、(B)を水に完全に漬けて30℃で24時間放置した後、鉄板の表面に赤錆が発生したかを目視で確認した。新たな赤錆びの発生無しの場合に◎、新たな赤錆が僅かに発生した場合に○、新たな赤錆が明確に発生した場合に×とした。各試験結果を表4に示す。
【0042】
【表4】

【0043】
錆転換剤を含まない実験例1(比較例)は、空中の鉄板(A)及びウレタン中の鉄板(B)の何れも、新たな赤錆が明確に発生した(×)。また、錆転換剤を20質量部含む実験例2(実施例)は、空中の鉄板(A)及びウレタン中の鉄板(B)の何れも、新たな赤錆が明確に発生した(×)。一方、錆転換剤を40質量部含む実験例3(実施例)は、空中の鉄板(A)については新たな赤錆が明確に発生し(×)、ウレタン中の鉄板(B)については新たな赤錆が僅かに発生した(○)。錆転換剤を60質量部含む実験例4(実施例)は、空中の鉄板(A)については新たな赤錆が僅かに発生し(○)、ウレタン中の鉄板(B)については新たな赤錆が発生しなかった(◎)。錆転換剤を80質量部含む実験例5(実施例)は、空中の鉄板(A)及びウレタン中の鉄板(B)の何れも新たな赤錆が発生しなかった(◎)。
【0044】
これらの実験例から、錆転換剤を含まないウレタンフォームの場合、鉄板表面の赤錆を黒錆に転換する効果が得られないが、錆転換剤を含有するウレタンフォームの場合は、鉄板表面の赤錆を黒錆に転換して錆の進行を抑制できることがわかる。特に、錆転換剤を含有するウレタンフォームの発泡時にウレタンフォーム内に鉄板が埋もれた状態となる場合には、錆転換剤の含有量が20質量部でも鉄板表面の赤錆を黒錆に転換することができる。さらに、錆転換剤の含有量が40質量部以上の場合には、錆転換剤を含有するウレタンフォームの発泡時にウレタンフォーム内に埋もれた鉄板のみならず、ウレタンフォーム内に埋もれることなくウレタンフォーム外の空中に位置していた鉄板も、表面の赤錆を黒錆に転換させることができる。このことから、ウレタンフォームの発泡時に気化した錆転換剤によって、ウレタンフォームと接触していない鉄板についても表面の赤錆を黒錆に転換させ、赤錆の発生を抑えることができることがわかる。また、錆転換剤の含有量が60質量部以上の場合には、錆転換剤を含有するウレタンフォームの発泡時にウレタンフォーム内に埋もれた鉄板のみならず、ウレタンフォーム内に埋もれることなくウレタンフォーム外の空中に位置していた鉄板も、その後に水に漬かることがあっても、赤錆の発生を抑えることができることがわかる。
【0045】
従って、内面に赤錆が発生した中空鋼材内に、錆転換剤を含有させた錆転換剤含有ウレタン原料を注入し、錆転換剤含有ウレタンフォームを中空鋼材内で発泡させることによって、中空鋼材の内面の赤錆を黒錆に転換して赤錆の発生を抑えることができる。さらに、錆転換剤含有ウレタンフォームの充填時に、中空鋼材内に空隙を生じたとしても、気化した錆転換剤が、空隙部分における中空鋼材内面の赤錆を黒錆に転換し、赤錆の発生を抑えることができる。また、錆転換剤含有ウレタンフォームを充填した中空鋼材に穴が開いて、中空鋼材内に水が侵入して中空鋼材の内面に接触することがあっても、錆転換剤含有ウレタンフォームの発泡時に気化して中空鋼材の内面に付着している錆転換剤によって、赤錆の発生を抑えることができ、長期的に赤錆の進行を抑えることができる。
【0046】
このように、本発明の錆転換剤含有ウレタンフォームは、コンクリートや岩、礫等の隙間の奥に鋼材が存在するような場所に充填することにより、鋼材表面の赤錆を除去することなく防錆効果を得ることができる。
また、本発明の中空鋼材の防錆方法は、中空鋼材内面の赤錆を除去することなく、錆転換剤含有ウレタン原料を中空鋼材内に注入して発泡させることにより、防錆処理を行うことができ、容易に防錆作業を行うことができる。しかも長期的に赤錆の発生及び進行を抑えることができる。
【符号の説明】
【0047】
11 中空鋼材
13 穴
15 錆
21 錆転換剤含有ウレタン原料
25 錆転換剤含有ウレタンフォーム
31 閉鎖部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオール類、触媒、整泡剤、発泡剤を含むレジン原料と、ポリイソシアネートを含むイソシアネート原料を混合し、発泡させたウレタンフォームにおいて、
少なくとも前記レジン原料に錆転換剤を混入したことを特徴とする錆転換剤含有ウレタンフォーム。
【請求項2】
中空鋼材の内面を防錆する方法において、前記中空鋼材に穴を開け、ポリオール類、触媒、整泡剤、発泡剤、錆転換剤及びイソシアネート原料を含む錆転換剤含有ウレタン原料を、前記穴から前記中空鋼材内に注入して、前記錆転換剤含有ウレタン原料を発泡させることにより錆転換剤含有ウレタンフォームを前記中空鋼材内に充填し、その後に前記穴を塞ぐことを特徴とする中空鋼材の防錆方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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