説明

錆転換用水系塗料

【課題】浮き錆を簡易に除去する程度の素地調整で鉄被塗物の錆面に塗装可能で、しかも優れた防錆性と耐候性を有する錆転換用水系塗料を提供すること。
【解決手段】アクリル変性複合エマルジョンの固形分100重量部に対してタンニン酸、没食子酸、プロトカテチュ酸、ピロガロール等のポリフェノール誘導体2〜20重量部、亜リン酸カルシウム、亜リン酸マグネシウム等の亜リン酸塩2〜20重量部、ステンレス合金粉末5〜20重量部及びアクリル変性複合エマルジョンを含有してなる錆転換用水系塗料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】

本発明は鉄被塗物の錆面への塗装が可能であって、優れた防錆性と耐候性を賦与出来る錆転換用水系塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、鉄被塗物の錆面への塗装は錆を完全に取り除く素地調製(ケレン)をして、初めて防錆力のある溶剤系の下塗り塗料を塗布し、次いで耐候性のある溶剤系の上塗り塗料を塗布することができ、この結果鉄被塗物に防錆力と耐候性を付与することができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし乍ら、近年環境保護の面で溶剤を使用しない下塗り塗料や上塗り塗料が要求されており、無溶剤系や水系の下塗り塗料や上塗り塗料が検討されている。
【0004】
一方鉄被塗物の錆面への塗装については、鉄被塗物の錆面の錆を完全に取り除く素地調整(ケレン)がおこなわれていない状態では、優れた防錆性と耐候性とを有する塗料が全く開発されておらず、水系の塗料でしかも鉄被塗物の錆面の錆を完全に取り除く素地調整(ケレン)がおこなわれていない条件でも、優れた防錆性を有する塗料が現在強く望まれている。
【0005】
したがって、本発明は鉄被塗物の錆面の錆を完全に取り除く素地調整(ケレン)がおこなわれていない場合、即ち浮き錆を簡易に除去する程度の素地調整で鉄被塗物の錆面に塗装可能で、しかも優れた防錆性と耐候性を有する錆転換用水系塗料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、斯かる現状に鑑み、浮き錆を簡易に除去する程度の素地調整で、鉄被塗物の錆面に塗装可能で、しかも優れた防錆性と耐候性を有する錆転換用水系塗料を開発すべく研究を重ねてきた。この結果、ポリフェノール誘導体、亜リン酸塩、及びステンレス合金粉末を、アクリル変性複合エマルジョンに含有せしめた水系組成物が、従来の塗料の上記問題点を解消しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【発明の効果】
【0007】
本発明は初めて浮き錆を簡易に除去する程度の素地調整で錆面に塗装可能でしかも水系塗料を開発したものであり、しかもその防錆性と耐候性は、優れたものとなるという効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明はポリフェノール誘導体、亜リン酸塩、及びステンレス合金粉末を含有するアクリル変性複合エマルジョンを鉄錆転換用水系塗料として使用することを主な目的としている。
【0009】
本発明に於いて使用するポリフェノール誘導体、亜リン酸塩、及びステンレス合金粉末をアクリル変性複合エマルジョンに混合、分散することにより、浮き錆を簡易に除去する程度の素地調製で鉄被塗物の錆面に塗装可能で、しかも優れた防錆性と耐候性を有する錆転換用水系塗料が得られる。
【0010】
本発明に於いて使用するポリフェノール誘導体は、タンニン酸、没食子酸、プロトカテチュ酸、ピロガロールをあげることができ、タンニン酸、没食子酸、プロトカテチュ酸、ピロガロールから選ばれる少なくとも1種又はこれ等の2種以上の組み合わせで使用できる。これらの中でも特に没食子酸およびタンニン酸が防錆性の点で好ましい。
【0011】
本発明に於いて使用する亜リン酸塩は、亜リン酸カルシウムと亜リン酸マグネシウムであり、これ等は単独でまたは併用して使用することができる。
【0012】
本発明のステンレス合金粉末は公知のステンレス鋼の粉末状及びフレーク状のものである。例えばステンレス鋼は、オーステナイト系、フェライト系、マルテンサイト系などのステンレス鋼が例示できる。粉末の大きさは5〜100μ、フレーク状の大きさは5〜100μのものが好ましい。
【0013】
本発明に於いて使用するアクリル変性複合エマルジョンは、アクリル樹脂エマルジョン、アクリル−酢酸ビニル樹脂エマルジョン、アクリル−エチレン酢酸ビニル樹脂エマルジョン、シリコンアクリル樹脂エマルジョン、アクリルニトリル−塩化ビニル−塩化ビニリデン共重合体エマルジョン、アクリルウレタン樹脂エマルジョン、およびアクリルエポキシ樹脂エマルジョン等が例示できる。
【0014】
アクリル変性複合エマルジョンの最低造膜温度(MFT)は、錆への浸透性や作業性の点で、0〜40℃が好ましい。これらの中でも、アクリル樹脂エマルジョン、アクリルウレタン樹脂エマルジョン、シリコンアクリル樹脂エマルジョン、アクリルニトリル−塩化ビニル−塩化ビニリデン共重合体エマルジョンが好ましい。これらの樹脂は単独或いは2種以上の混合系で用いることができる。
【0015】
本発明に於いて使用するアクリル変性複合エマルジョンとポリフェノール誘導体、亜リン酸塩、及びステンレス合金粉末との使用割合は特に限定されないが、アクリル変性複合エマルジョンの固形分100重量部に対してポリフェノール誘導体2〜20重量部、亜リン酸塩2〜20重量部、ステンレス合金粉末5〜50重量部が好ましい。
【0016】
ポリフェノール誘導体2重量部未満では、錆への密着性が低下し、防錆性も低する。20重量部を超えると耐水性が低下する。
【0017】
亜リン酸塩が2重量部未満では防錆性が低下し、20重量部を超えると耐水性が低下する。
【0018】
ステンレス合金粉末が5重量部未満では耐候性が低下し、逆に50重量部を超えると作業性が低下し密着性が低下する。
【0019】
本発明の錆転換用水系塗料には、必要に応じて、塗料特性や接着特性を向上させるために、公知の各種の添加剤を使用することができる。例えば、界面活性剤等の分散剤、レベリング剤、カップリング剤、増粘剤、顔料、可塑剤、充填剤、架橋剤などの添加剤を適宜に混ぜることができる。
【0020】
本発明の錆転換用水系塗料はポリフェノール誘導体、亜リン酸塩、及びステンレス合金粉末をアクリル変性複合エマルジョンに公知の方法で混合、分散することにより容易に製造することができる。本発明の錆転換用水系塗料のPHは7.0〜10.0の範囲に調整され、必要に応じ水で希釈して使用される。
【0021】
本発明の錆転換用水系塗料が、水系の塗料でしかも鉄被塗物の錆面の錆を完全に取り除く素地調製(ケレン)がおこなわれていない条件でも、優れた防錆性と耐候性を有する機能は、本発明者らによると次のように考察される。即ち、鉄被塗物の錆面の錆(酸化鉄)を、ポリフェノール誘導体と亜リン酸塩により安定で緻密で防錆性のある四三酸化鉄に転換し、しかもステンレス合金粉末とアクリル変性複合エマルジョンに併用することにより、塗料の安定性と優れた耐候性が得られる。
【0022】
本発明の錆転換用水系塗料の使用方法は、鉄被塗物の錆面の錆を完全に取り除く素地調製(ケレン)がおこなわれていない条件、即ち浮き錆を簡易に除去する程度の素地調製で鉄被塗物の錆面に従来どおり塗装すればよく、その結果優れた防錆性と耐候性を有する錆転換用水系塗料を提供することができる。また、本発明の錆転換用水系塗料の使用は錆の発生していない鉄被塗物や錆を完全に取り除いた鉄被塗物へも使用することができる。
【0023】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明する。但し、部とあるは重量部を示す。
【実施例1】
【0024】
アクリル樹脂エマルジョンEM−1(「アクロナールYJ1210DA」BASF製、MFT24℃)217部、没食子酸7部、亜りん酸カルシウム8部、ステンレス合金粉末(「ステンレスペーストRFA4500」東洋アルミニウム(株)製、ステンレス316L 85%含有品)16部、さらに表1に示される所定量のタルク、ハイドロオキシエチルセルロース3%水溶液、イオン交換水を加えて混合分散して、実施例1の水系塗料を得た。この水系塗料のPHは8.6である。
【0025】
浮き錆を除いた鋼板(4種ケレン処理)に、この水系塗料を塗布量200g/mで塗布し7日間25℃で乾燥して試験片とした。耐水性は試験片を40℃の温水中に7日間浸漬し、取り出して塗膜の外観の異常の有無を観察すると共に、碁盤目付着性試験をおこなった。また、防錆性はこの試験片を5%の食塩水、35℃中で72時間噴霧し錆の発生の有無を観察する。さらに耐候性はサンシャインウエザオメーター試験1000時間後の塗膜の外観の異常の有無を観察する。その結果を表1に示す。
【実施例2】
【0026】
没食子酸7部、亜りん酸カルシウム8部をタンニン酸7部、亜りん酸カルシウム4部亜りん酸マグネシウム4部に代えた以外は実施例1と同様の組成で、実施例2の水系塗料を得た。この水系塗料のPHは8.4である。そして実施例1と同様に試験し結果を表1に示す。
【実施例3】
【0027】
没食子酸7部、亜りん酸カルシウム8部を没食子酸4部タンニン酸3部、亜りん酸マグネシウム8部に代えた以外は実施例1と同様の組成で、実施例3の水系塗料を得た。この水系塗料のPHは8.2である。そして実施例1と同様に試験し結果を表1に示す。
【実施例4】
【0028】
没食子酸7部、亜りん酸カルシウム8部を没食子酸15部、亜りん酸カルシウム20部に代えた以外は実施例1と同様の組成で、実施例4の水系塗料を得た。この水系塗料のPHは8.4である。そして実施例1と同様に試験し結果を表1に示す。
【実施例5】
【0029】
没食子酸7部、ステンレス合金粉末16部をタンニン酸7部、ステンレス合金粉末32部に代えた以外は実施例1と同様の組成で、実施例5の水系塗料を得た。この水系塗料のPHは8.6である。そして実施例1と同様に試験し結果を表1に示す。
【比較例1】
【0030】
没食子酸7部、亜りん酸カルシウム8部ステンレス合金粉末16部を没食子酸7部、亜りん酸カルシウム0部ステンレス合金粉末0部に代えた以外は実施例1と同様の組成で、比較例1の水系塗料を得た。この水系塗料のPHは5.0である。そして実施例1と同様に試験し結果を表2に示す。
【比較例2】
【0031】
没食子酸7部、亜りん酸カルシウム8部ステンレス合金粉末16部を没食子酸7部、亜りん酸カルシウム8部ステンレス合金粉末0部に代えた以外は実施例1と同様の組成で、比較例2の水系塗料を得た。この水系塗料のPHは8.6である。そして実施例1と同様に試験し結果を表2に示す。
【比較例3】
【0032】
没食子酸7部、亜りん酸カルシウム8部ステンレス合金粉末16部を没食子酸0.5部、亜りん酸カルシウム25部ステンレス合金粉末1部に代えた以外は実施例1と同様の組成で、比較例3の水系塗料を得た。この水系塗料のPHは10.0である。そして実施例1と同様に試験し結果を表2に示す。
【比較例4】
【0033】
没食子酸7部、亜りん酸カルシウム8部ステンレス合金粉末16部を没食子酸30部、亜りん酸カルシウム5部ステンレス合金粉末10部に代えた以外は実施例1と同様の組成で、比較例4の水系塗料を得た。この水系塗料のPHは5.0である。そして実施例1と同様に試験し結果を表2に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】

【実施例6】
【0036】
アクリルウレタン樹脂エマルジョンEM−2(「ポリゾールAP−3840」昭和高分子(株)製、MFT26℃)200部、没食子酸7部、亜りん酸カルシウム8部、ステンレス合金粉末(「ステンレスペーストRFA4500」東洋アルミニウム(株)製、ステンレス316L 85%含有品)16部、さらに表1に示される所定量のタルク、ハイドロオキシエチルセルロース3%水溶液、イオン交換水を加えて混合分散して、実施例6の水系塗料を得た。この水系塗料のPHは8.1である。この結果を表3に示す。
【実施例7】
【0037】
シリコンアクリル樹脂エマルジョンEM−3(「ロイシール6312」昭和子分子(株)製、MFT19℃)130部、アクリル樹脂エマルジョンEM−1(「アクロナールYJ1210DA」BASF製、MFT24℃)110部、没食子酸7部、亜りん酸カルシウム10部、ステンレス合金粉末(「ステンレスペーストRFA4500」東洋アルミニウム(株)製、ステンレス316L 85%含有品)16部、さらに表1に示される所定量のタルク、ハイドロオキシエチルセルロース3%水溶液、イオン交換水を加えて混合分散して、実施例7の水系塗料を得た。この水系塗料のPHは7.5である。この結果を表3に示す。
【実施例8】
【0038】
アクリルウレタン樹脂エマルジョンEM−2(「ポリゾールAP−3840」昭和高分子(株)製、MFT26℃)100部、アクリル樹脂エマルジョンEM−1(「アクロナールYJ1210DA」BASF製、MFT24℃)110部、没食子酸4部、タンニン酸3部、亜りん酸マグネシウム3部、ステンレス合金粉末(「ステンレスペーストRFA4500」東洋アルミニウム(株)製、ステンレス316L 85%含有品)16部、さらに表1に示される所定量のタルク、ハイドロオキシエチルセルロース3%水溶液、イオン交換水を加えて混合分散して、実施例8の水系塗料を得た。この水系塗料のPHは8.1である。この結果を表3に示す。
【比較例5】
【0039】
ステンレス合金粉末16部をステンレス合金粉末0部に代えた以外は実施例6と同様の組成で、比較例5の水系塗料を得た。この水系塗料のPHは8.0である。この結果を表3に示す。
【比較例6】
【0040】
ステンレス合金粉末16部をステンレス合金粉末0部に代えた以外は実施例7と同様の組成で、比較例6の水系塗料を得た。この水系塗料のPHは7.6である。この結果を表3に示す。
【0041】
【表3】


上記表1、2及び表3の結果から、浮き錆を簡易に除去する程度の素地調整で鉄
被塗物の錆面に従来どおり塗装可能で、本発明品である実施例1〜8の錆転換
用水系塗料は比較例1〜6に比べて、いずれも耐水性、防錆性、耐候性に優れ
ていることがわかる。

















【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリフェノール誘導体、亜リン酸塩、ステンレス合金粉末及びアクリル変性複合エマルジョンを含有してなることを特徴とする錆転換用水系塗料。
【請求項2】
ポリフェノール誘導体が、タンニン酸、没食子酸、プロトカテチュ酸、ピロガロールから選ばれる少なくとも1種のポリフェノール誘導体である請求項1に記載の錆転換用水系塗料。
【請求項3】
亜リン酸塩が亜リン酸カルシウム及び/または亜リン酸マグネシウムである請求項1又は2に記載の錆転換用水系塗料。
【請求項4】
アクリル変性複合エマルジョンの固形分100重量部に対してポリフェノール誘導体2〜20重量部、亜リン酸塩2〜20重量部、ステンレス合金粉末5〜50重量部を混合し、分散した請求項1〜3に記載の錆転換用水系塗料。




















【公開番号】特開2009−40929(P2009−40929A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−208998(P2007−208998)
【出願日】平成19年8月10日(2007.8.10)
【出願人】(591093025)ダイユーペイント株式会社 (2)
【出願人】(000104205)カナヱ化学工業株式会社 (2)
【Fターム(参考)】