説明

錠剤、およびその製造方法

【課題】 薬物の溶出性に優れるとともに、同組成の従来品よりも強度の高い錠剤と、そのような錠剤の製造方法を提供すること。
【解決手段】 シリカと、薬物または賦形剤を、あらかじめ複合化して複合化粒子を形成するとともに、その複合化粒子と複合化粒子以外の残りの成分とを混合して、その混合物を打錠して、錠剤を製する。このような手法で製造された錠剤は、同じ配合比の組成物であっても、複合化することなく単に混合してから打錠してなる錠剤に比べ、機械的強度が著しく向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、錠剤、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリカを含有する錠剤は公知である(例えば、特許文献1参照)。
この特許文献1には、分散剤としてシリカを配合することにより、薬物の溶出性を改善できる旨が開示されている。
【0003】
また、同特許文献には、背景技術として、錠剤の高温での貯蔵安定性の改善や顆粒コーティング前の接着防止処理等を目的としてシリカを配合する技術が公知であることも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第97/40828号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1には、シリカを利用して錠剤の硬度を改善するための具体的手法については何ら記載されておらず、また、シリカを担体として他の成分との複合化を図る技術についても何ら開示されていない。
【0006】
本件発明者らは、シリカを利用して薬物の溶出性を改善する技術を検討する中で、錠剤硬度の低下を招きやすい糖類を賦形剤として用いた場合でも、特定の方法でシリカを配合することにより、錠剤の機械的強度を著しく向上させることができることを、新たに見いだした。
【0007】
本発明は、上記知見に基づいて完成されたものであり、その目的は、薬物の溶出性に優れるとともに、同組成の従来品よりも強度の高い錠剤と、そのような錠剤の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、本発明の特徴的構成について説明する。
本発明の錠剤は、シリカと、前記シリカ以外の1または2以上の成分とを、あらかじめ複合化して複合化粒子を形成するとともに、前記複合化粒子と前記複合化粒子以外の成分とを混合して、その混合物を打錠してなることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の錠剤の製造方法は、シリカと、前記シリカ以外の1または2以上の成分とを、あらかじめ複合化して複合化粒子を形成するとともに、前記複合化粒子と前記複合化粒子以外の成分とを混合して、その混合物を打錠することを特徴とする。
【0010】
このように構成された錠剤は、同じ配合比の組成物であっても、複合化することなく単に混合してから打錠してなる錠剤に比べ、機械的強度が著しく向上する。この事実は、本件発明者らの研究の中で行われた実験結果から確認されたものである。
【0011】
この錠剤において、シリカと複合化される1または2以上の成分は、錠剤を製する上で必要となる成分の中から任意の成分を選定できるが、具体例を挙げれば、例えば、薬物、
賦形剤などをシリカと複合化すると好ましい。これら薬物や賦形剤などの成分は、錠剤中に含まれる全量をシリカと複合化してもよいが、一部をシリカと複合化して残りの一部をシリカと複合化することなく配合してもよく、どの程度の量を複合化するかについては、目標とする錠剤の機械的強度に応じて適宜調整すればよい。
【0012】
また、これらの成分をシリカと複合化する方法は任意であるが、特に、複合化粒子が、噴霧乾燥法によって複合化された複合化粒子であると、錠剤の機械的強度が改善されるので好ましい。噴霧乾燥法以外には、例えば、流動層造粒法、攪拌造粒法などを利用しても、所期の複合化粒子を形成することができる。
【0013】
シリカと薬物とを複合化してなる複合化粒子を形成する場合、薬物としては、インドメタシン、または、アセトアミノフェンを用いることができる。また、この他、薬物としては、ファモチジン、シメチジン、塩酸ラニチジン、塩酸ロキサチジンアセタート、ニザチジン、ラフチジン、オメプラゾール、オメプラゾールナトリウム、ランソプラゾール、ラベプラゾールナトリウム、塩酸ピレンゼピン、プログルミド、ウガストロン、フェニトイン、フェノバルビタール、フェノバルビタールナトリウム、プリミドン、バルプロ酸ナトリウム、カルバマゼピン、トリメタジオン、ゾーミッグ、塩酸グラニセトロン、塩酸アゼセトロン、塩酸オンダセトロン、塩酸ラモセトロン、塩酸トロピセトロン、トリアゾラム、プロチゾラム、塩酸リルマザホン、ロルメタゼパム、トルブタミド、グリベンクラミド、グリミクロン、グリメピリド、グリブゾール、塩酸ブホルミン、塩酸メトホルミンなどを用いることもできる。
【0014】
これらの薬物の中でも、薬物が、溶解度1mg/ml以下の難水溶性薬物である場合には、錠剤の機械的強度が改善される効果に加え、難水溶性薬物の溶解性が向上するという効果も得られるので好ましい。
【0015】
また、シリカと賦形剤とを複合化してなる複合化粒子を形成する場合、賦形剤としては、マンニトール、エリスリトール、トレハロースなどの糖類を用いることができる。また、この他、賦形剤としては、キシリトール、乳糖、グルコース、ショ糖、マルトース、ソルビトール、マルチトールなどを用いることもできる。
【0016】
これら糖類を賦形剤として用いて錠剤を製すると、選択する糖類の種類、あるいは、その配合比によって、錠剤の機械的強度が十分に得られないことがあり、その場合、錠剤の機械的強度を確保するためには、従来は別の賦形剤を利用するなどの対策をとらざるを得ず、適切な賦形剤を選定することが困難になるといった問題を招くことがあった。
【0017】
しかし、本発明によれば、糖類を賦形剤として用いて錠剤を製する場合でも、賦形剤の一部または全部を事前にシリカと複合化することにより、錠剤の機械的強度を向上させることができるので、従来以上に錠剤の機械的強度を確保することが容易になる。
【0018】
また、本発明は口腔内速崩壊錠を設計する際に採用すると特に好適な技術である。より詳しく説明すると、一般に、上記糖類を賦形剤とする口腔内速崩壊錠の設計において、溶解特性に優れた糖類を用いる場合、通常の打錠方法では実用上の錠剤硬度を得ることは極めて困難である。そのため、従来は、水、アルコール水溶液等で湿潤状態として成形後乾燥する技術や、打錠後に加湿乾燥、加熱処理を行い賦形剤として用いた糖類の結晶形制御を行う技術など、相応に手間のかかる工程を経て実用硬度を有する錠剤を設計していた。
【0019】
この点、本発明においては、錠剤の賦形剤として用いる糖類のごく一部をあらかじめシリカ粒子と複合化して混合するだけで、これらの既存の口腔内速崩壊錠と同等の錠剤硬度を得ることができるのである。すなわち、本発明のシリカ複合粒子含有錠剤は、局方崩壊
試験法により約20秒という崩壊特性を示し、口腔内速崩壊錠の製造技術としても充分に応用が可能である。
【0020】
また、難溶性薬物を速崩壊錠に処方する場合においては、あらかじめシリカ粒子と複合化することによりその溶解速度が著しく上昇するため、既存の技術と比較して、さらに、好ましいといえる。
【0021】
シリカと糖類を複合化して薬物はそのまま加えて速崩壊錠を製する場合、好適な薬物としては、インドメタシン、アセトアミノフェン、ファモチジン、シメチジン、塩酸ラニチジン、塩酸ロキサチジンアセタート、ニザチジン、ラフチジン、オメプラゾール、オメプラゾールナトリウム、ランソプラゾール、ラベプラゾールナトリウム、塩酸ピレンゼピン、プログルミド、ウガストロン、フェニトイン、フェノバルビタール、フェノバルビタールナトリウム、プリミドン、バルプロ酸ナトリウム、カルバマゼピン、トリメタジオン、ゾーミッグ、塩酸グラニセトロン、塩酸アゼセトロン、塩酸オンダセトロン、塩酸ラモセトロン、塩酸トロピセトロン、トリアゾラム、プロチゾラム、塩酸リルマザホン、ロルメタゼパム、トルブタミド、グリベンクラミド、グリミクロン、グリメピリド、グリブゾール、塩酸ブホルミン、塩酸メトホルミンなどを挙げることができる。なお、シリカと糖類を事前に複合化する場合、薬物をそのまま加えるか、シリカと薬物をも事前に複合化してから加えるかは任意であり、必要に応じて薬物はその全部あるいは一部をシリカと複合化して加えることもできる。すでに記載したように、特に、薬物の溶解性が低い場合、溶解性の改善を図るには、シリカと薬物を事前に複合化しておく手法が有効である。
【0022】
さらに、本発明において、シリカとしては、多孔質のものも多孔質でないものも利用できるが、錠剤の機械的強度を向上させるという観点からは、多孔質シリカである方が有利であり、より具体的には、シリカとしては、細孔容積が0.3−2.0ml/g、比表面積が50−800m2/g、平均細孔径が2−500nm、平均粒子径が1−100μm
の多孔質シリカを用いることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施例1で示した各錠剤の引張強度を示すグラフである。
【図2】実施例2で示した各錠剤の引張強度を示すグラフである。
【図3】実施例3で示した各錠剤の引張強度を示すグラフである。
【図4】実施例4で示した各錠剤の引張強度を示すグラフである。
【図5】実施例5で示した各錠剤の引張強度を示すグラフである。
【図6】実施例6で示した各錠剤の引張強度を示すグラフである。
【図7】実施例7で示した各錠剤の引張強度を示すグラフである。
【図8】実施例8で示した各錠剤の引張強度を示すグラフである。
【図9】実施例9で示した各錠剤の引張強度を示すグラフである。
【図10】実施例10で示した各錠剤の引張強度を示すグラフである。
【図11】実施例11で示した各錠剤の崩壊時間を示すグラフである。
【図12】実施例11で示した各錠剤の引張強度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
次に、本発明の実施形態について、いくつかの具体的な例を挙げて説明する。
[実施例1]
モデル難水溶性薬物としてインドメタシン(IMC)を用い、このインドメタシンと複合化粒子を形成する担体として、多孔質シリカ粉末(商品名:サイリシア350、富士シリシア化学株式会社製、細孔容積:1.6ml/g、比表面積:300m2/g、平均細
孔径:21nm、平均粒子径:3.8μm)を用いた。また、錠剤の賦形剤としてマンニトール、崩壊剤として低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(L‐HPC)を用い、滑
沢剤としてステアリン酸マグネシウム(Mg‐st)を選択した。
【0025】
まず、インドメタシン1gをエタノール100ml中に溶解させ、そこへ上記多孔質シリカ粉末1gを分散させ、スプレードライヤで噴霧乾燥することにより、インドメタシン−シリカ複合化粒子を調製した。
【0026】
次に、マンニトール、上記「インドメタシン−シリカ複合化粒子(以下、単に複合化粒子とも称する。)」または「インドメタシンとシリカの混合物(複合化するための処理を施していない単なる混合物;以下、物理混合物とも称する。)」のいずれかと、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを3分間混合し、さらに、ステアリン酸マグネシウムを加えて3分間混合し、下記表1に示す処方にて5種の打錠用試料(試料1−1〜試料1−5)を調製した。
【0027】
【表1】

【0028】
以上、5種の打錠用試料について、単発打錠機を用いて、充填量200mgとし、8mmφの杵を用い、圧縮圧100MPaで圧縮を行った。
得られた各錠剤の引張強度を評価するため、次の手順で引張強度を算出した。
【0029】
デシケータ中に24時間以上錠剤を保存した後、硬度測定装置(製品名:GRANO、岡田精工株式会社製)を用いて、錠剤を直径方向に一定速度で圧裂破断して硬度Fを測定し、下記数式(1)により、引張強度TSを算出した。なお、下記数式(1)中、Dは錠剤の直径、Lは錠剤の厚みである。
【0030】
【数1】

【0031】
算出した各錠剤の引張強度を、図1のグラフに示す。
試料1−1と試料1−2との比較から、インドメタシン−シリカ複合化粒子を約10%添加することにより、錠剤の引張強度が格段に改善されることがわかる。また、試料1−2と試料1−3との比較から、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを約10%添加すると、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースが結合剤として機能し、錠剤の引張強度がさらに改善されることがわかる。
【0032】
さらに、試料1−2と試料1−4との比較から、配合される成分の組成比は同じであっても、インドメタシンとシリカを配合するに当たっては、両成分を事前に複合化粒子としておく方が、両成分の単なる物理混合物を配合するよりも、錠剤の引張強度が格段に改善
されることがわかる。この傾向は、試料1−3と試料1−5との比較から、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを約10%添加した場合も同様であることがわかる。
【0033】
[実施例2]
次に、上記実施例1では、インドメタシンとシリカを複合化したが、実施例2では、賦形剤であるマンニトールとシリカを複合化し、錠剤の機械的強度に与える影響を調べた。
【0034】
具体的には、(a)マンニトールのみを含む打錠用試料(試料2−1)、(b)打錠用試料全体に対する重量比で、約5%のシリカと約5%のマンニトールとを、実施例1と同様の手法で事前に複合化し、残り約90%のマンニトールと混合した打錠用試料(試料2−2)、(c)打錠用試料全体に対する重量比で、約5%のシリカと約95%のマンニトールとを混合した打錠用試料(試料2−3)、以上3種の打錠用試料を用意し、実施例1と同様の手法で引張強度を算出した。なお、いずれの処方も、実施例1と同様に1%のステアリン酸マグネシウムを含有する。
【0035】
算出した各錠剤の引張強度を、図2のグラフに示す。
試料2−1と試料2−2との比較から、マンニトール−シリカ複合化粒子を約10%添加することにより、錠剤の引張強度が格段に改善されることがわかる。また、試料2−2と試料2−3との比較から、配合される成分の組成比は同じであっても、マンニトールとシリカを配合するに当たっては、両成分を事前に複合化粒子としておく方が、両成分の単なる物理混合物を配合するよりも、錠剤の引張強度が格段に改善されることがわかる。
【0036】
[実施例3]
次に、実施例3では、シリカ複合粒子化の圧縮成形性への効果を明らかにするために、成形性に劣る薬物の一つであるアセトアミノフェン(APAP)を用いて同様な実験を行った。なお、いずれの処方も、実施例1と同様に1%のステアリン酸マグネシウムを含有する。
【0037】
具体的には、(a)アセトアミノフェンのみを含む打錠用試料(試料3−1)、(b)打錠用試料全体に対する重量比で、約5%のシリカと約5%のアセトアミノフェンとを、実施例1と同様の手法で事前に複合化し、残り約90%のアセトアミノフェンと混合した打錠用試料(試料3−2)、(c)打錠用試料全体に対する重量比で、約5%のシリカと約95%のアセトアミノフェンとを混合した打錠用試料(試料3−3)、以上3種の打錠用試料を用意し、実施例1と同様の手法で引張強度を算出した。
【0038】
算出した各錠剤の引張強度を、図3のグラフに示す。
試料3−1と試料3−2との比較から、アセトアミノフェン−シリカ複合化粒子を約10%添加することにより、錠剤の引張強度が格段に改善されることがわかる。また、試料3−2と試料3−3との比較から、配合される成分の組成比は同じであっても、アセトアミノフェンとシリカを配合するに当たっては、両成分を事前に複合化粒子としておく方が、両成分の単なる物理混合物を配合するよりも、錠剤の引張強度が格段に改善されることがわかる。
【0039】
[実施例4]
次に、実施例1で検証したインドメタシン−シリカ複合化粒子(複合化粒子中のインドメタシン含量50%)を用いて、錠剤中の複合化粒子含量を4通り(0%、4.0%、9.1%、18.2%)に変化させた4種の打錠用試料を調製し、実施例1と同様の手法で引張強度を算出した。結果を、図4のグラフに示す。なお、試料1−3,1−5と同様に、賦形剤としてはマンニトール、崩壊剤としてL−HPC(LH−21)を含む。
【0040】
図4に示したグラフから、複合化粒子含量10%までは、含量の増大にともなって錠剤の引張強度が上昇することがわかる。また、含量を20%にまで増大させると、錠剤の引張強度が減少に転じることもわかる。このことから、インドメタシン−シリカ複合化粒子には、錠剤中の結合力を増大させる作用があるものの、過剰な量を配合すると圧縮特性を低下させる要因となるおそれがあると言える。従って、実際に打錠を行うに当たっては、例えば、実験的に複合化粒子の配合量と錠剤の機械的強度との関係を検証し、複合化粒子の配合量を最適化することが望ましいものと考えられる。
【0041】
[実施例5]
次に、インドメタシン−シリカ複合化粒子中のインドメタシン含量を4通り(0%、25%、50%、75%)に変化させて、それら4種の複合化粒子を、いずれも錠剤中のシリカ含量が5%となるように配合した4種の打錠用試料を調製し、実施例1と同様の手法で引張強度を算出した。結果を、図5のグラフに示す。
【0042】
図5に示したグラフから、錠剤の引張強度は、インドメタシン含量の増大に伴って上昇することがわかる。
[実施例6]
次に、実施例5において、最も錠剤の引張強度が高くなったインドメタシン含量75%のインドメタシン−シリカ複合化粒子を用い、錠剤中のインドメタシン含量を5通り(0%、9.1%、18.2%、27.3%、36.4%)に変化させた5種の打錠用試料を調製し、実施例1と同様の手法で引張強度を算出した。結果を、図6のグラフに示す。
【0043】
図5に示したグラフから、錠剤の引張強度は、複合化粒子含量の増大に伴って上昇することがわかる。特に、実施例4のインドメタシン含量50%の複合化粒子の場合とは異なり、複合化粒子含量を増大させても引張強度が減少に転じないことがわかる。複合化粒子含量40%の錠剤は、引張強度3MPa以上という非常に高い値を示しており、最適な量の複合化粒子を添加することで錠剤の機械的強度を格段に改善できることがわかる。
【0044】
[実施例7]
次に、実施例2に示したマンニトール錠剤について、マンニトール−シリカ複合化粒子(複合化粒子中のマンニトール含量50%)を用いて、錠剤中の複合化粒子含量を4通りに変化させた4種の打錠用試料(複合化粒子以外の成分はマンニトール)を調製した。これら4種の打錠用試料中の複合化粒子含量は、それぞれ錠剤中のシリカ含量換算で0%、5%、10%、15%となるように調製した。これら4種の打錠用試料を用いて錠剤を製し、実施例1と同様の手法で引張強度を算出した。また、比較のため、上記4種の打錠用試料それぞれと同じ組成比となるようにマンニトールとシリカとを単に混合した物理混合物を用意し、これも実施例1と同様の手法で引張強度を算出した。結果を、図7のグラフに示す。
【0045】
図7に示したグラフから、同じ配合比の打錠用試料であっても、マンニトールとシリカとを複合化粒子としておくことにより、錠剤の引張強度が著しく向上することがわかる。特に、マンニトールとシリカとを単に混合した物理混合物は、シリカ含量5%の場合をピークにして、それ以上シリカを配合すると急激に錠剤の引張強度が低下することがわかるが、マンニトール−シリカ複合化粒子の場合は、シリカ含量5%を超えても、さらに錠剤の引張強度が向上することがわかる。したがって、この結果から、賦形剤であるマンニトールとシリカとを事前に複合化して添加することは、錠剤の機械的強度を改善するためにきわめて有効な手段であることがわかる。
【0046】
[実施例8]
次に、実施例3に示したアセトアミノフェン錠剤についても、アセトアミノフェン−シ
リカ複合化粒子(複合化粒子中のアセトアミノフェン含量50%)を用いて、錠剤中の複合化粒子含量を5通り(0%、5%、10%、20%、30%)に変化させた5種の打錠用試料を調製し、実施例1と同様の手法で引張強度を算出した。結果を、図8のグラフに示す。
【0047】
図8に示したグラフから、複合化粒子含量を増大させると、概ね含量の増大にともなって錠剤の引張強度が上昇することがわかる。ただし、複合化粒子含量が20%を超えると、錠剤の引張強度がごく僅かに減少に転じることもわかる。
【0048】
[実施例9]
次に、実施例9では、実施例7で用いたマンニトールに代えて、別の糖類であるエリスリトールを用いて、実施例7と同様の試験を実施した。すなわち、エリスリトール−シリカ複合化粒子(複合化粒子中のエリスリトール含量50%)を用いて、錠剤中の複合化粒子含量を4通りに変化させた4種の打錠用試料(複合化粒子以外の成分はエリスリトール)を調製した。これら4種の打錠用試料中の複合化粒子含量は、それぞれ錠剤中のシリカ含量換算で0%、5%、10%、15%となるように調製した。これら4種の打錠用試料を用いて錠剤を製し、実施例1と同様の手法で引張強度を算出した。また、比較のため、上記4種の打錠用試料それぞれと同じ組成比となるようにエリスリトールとシリカとを単に混合した物理混合物を用意し、これも実施例1と同様の手法で引張強度を算出した。結果を、図9のグラフに示す。
【0049】
図9に示したグラフから、同じ配合比の打錠用試料であっても、エリスリトールとシリカとを複合化粒子としておくことにより、錠剤の引張強度が著しく向上することがわかる。特に、エリスリトールとシリカとを単に混合した物理混合物は、シリカ含量5%の場合をピークにして、それ以上シリカを配合すると急激に錠剤の引張強度が低下することがわかるが、エリスリトール−シリカ複合化粒子の場合は、シリカ含量5%を超えても、さらに錠剤の引張強度が向上することがわかる。また、実施例7との比較から、エリスリトールの場合、マンニトールの場合以上に錠剤の機械的強度を改善できるものと期待できる。したがって、この結果から、賦形剤であるエリスリトールとシリカとを事前に複合化して添加することは、錠剤の機械的強度を改善するためにきわめて有効な手段であることがわかる。
【0050】
[実施例10]
次に、実施例10では、実施例7で用いたマンニトール、実施例9で用いたエリスリトールに代えて、別の糖類であるトレハロースを用いて、実施例7,9と同様の試験を実施した。すなわち、トレハロース−シリカ複合化粒子(複合化粒子中のトレハロース含量50%)を用いて、錠剤中の複合化粒子含量を3通りに変化させた3種の打錠用試料(複合化粒子以外の成分はトレハロース)を調製した。これら3種の打錠用試料中の複合化粒子含量は、それぞれ錠剤中のシリカ含量換算で0%、5%、15%となるように調製した。これら3種の打錠用試料を用いて錠剤を製し、実施例1と同様の手法で引張強度を算出した。また、比較のため、上記3種の打錠用試料それぞれと同じ組成比となるようにトレハロースとシリカとを単に混合した物理混合物を用意し、これも実施例1と同様の手法で引張強度を算出した。結果を、図10のグラフに示す。
【0051】
図10に示したグラフから、同じ配合比の打錠用試料であっても、トレハロースとシリカとを複合化粒子としておくことにより、錠剤の引張強度が著しく向上することがわかる。特に、エリスリトールとシリカとを単に混合した物理混合物は、シリカ含量が増大するほど錠剤の引張強度が低下することがわかるが、トレハロース−シリカ複合化粒子の場合は、シリカ含量が増大するほど錠剤の引張強度が向上することがわかる。したがって、これら実施例7,実施例9,実施例10の結果から、賦形剤として用いられる糖類全般の傾
向として、シリカとを事前に複合化して添加することが、錠剤の機械的強度を改善するためにきわめて有効な手段であるものと推察される。具体的には、キシリトール、乳糖、グルコース、ショ糖、マルトース、ソルビトール、マルチトールなどの糖類を賦形剤として用いる場合にも、これら糖類とシリカとを事前に複合化して添加することにより、錠剤の機械的強度を改善できるものと考えられる。
【0052】
[実施例11]
次に、実施例11では、実施例9で調製したシリカ含量10%の錠剤に対して崩壊剤を添加して、得られた錠剤の崩壊性を評価した。
【0053】
具体的には、エリスリトールに、エリスリトール−シリカ複合化粒子(複合化粒子中のエリスリトール含量50%)と崩壊剤としてクロスポビドンを、打錠用試料全体に対する重量比でそれぞれ20%、5%となるように添加した(試料11−1)。そして、調製した錠剤の日本薬局方崩壊試験法における崩壊時間および錠剤の引張強度を評価した。また、対照として、クロスポビドンを未添加の場合(試料11−2)についても、同様の評価を行った。結果を図11、12に示す。
【0054】
図11に示すグラフから明らかなように、複合化粒子を添加した錠剤(試料11−2)は、2分程度の比較的速い崩壊時間を示すものであったが、崩壊剤を添加した錠剤(試料11−1)は、さらに崩壊時間が速く、20秒程度の極めて速い崩壊時間を示すものであった。
【0055】
また、錠剤の引張強度は、図12から明らかなように、崩壊剤の添加にかかわらず1.3MPa程度と取扱い上十分な値であった。したがって、この実施例11は、賦形剤であるエリスリトールとシリカを事前に複合化し、適切な崩壊剤とともに錠剤中に処方することで、極めて速い崩壊性と高い機械的強度を兼ね備えた錠剤を調製できることを示している。
【0056】
これらの錠剤に目的とする薬物を処方すれば、崩壊試験において20秒程度で崩壊する錠剤を設計することが可能であり、これは、新たな口腔内速崩壊錠の設計方法を提示するものである。
【0057】
このように速やかに崩壊する錠剤の設計を目指した場合、これら糖類を賦形剤とする錠剤処方に加えうる薬物としては、インドメタシン、アセトアミノフェンの他、ファモチジン、シメチジン、塩酸ラニチジン、塩酸ロキサチジンアセタート、ニザチジン、ラフチジン、オメプラゾール、オメプラゾールナトリウム、ランソプラゾール、ラベプラゾールナトリウム、塩酸ピレンゼピン、プログルミド、ウガストロン、フェニトイン、フェノバルビタール、フェノバルビタールナトリウム、プリミドン、バルプロ酸ナトリウム、カルバマゼピン、トリメタジオン、ゾーミッグ、塩酸グラニセトロン、塩酸アゼセトロン、塩酸オンダセトロン、塩酸ラモセトロン、塩酸トロピセトロン、トリアゾラム、プロチゾラム、塩酸リルマザホン、ロルメタゼパム、トルブタミド、グリベンクラミド、グリミクロン、グリメピリド、グリブゾール、塩酸ブホルミン、塩酸メトホルミンなどがある。
【0058】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の具体的な一実施形態に限定されず、この他にも種々の形態で実施することができる。
例えば、上記実施形態では、シリカと複合化する薬物として、インドメタシン、アセトアミノフェンを例示したが、これら以外の薬物であってもよい。特に、インドメタシンの如き難水溶性の薬物の場合、シリカと複合化することにより、錠剤の機械的強度の改善に加え、薬物の溶解性を改善することもできるので好ましい。
【0059】
また、上記実施形態では、シリカと複合化する賦形剤として、マンニトール、エリスリトール、トレハロースなどの糖類を例示したが、賦形剤として利用されている公知の他の糖類を複合化してもよく、さらに他の賦形剤を複合化してもよい。
【0060】
さらに、上記実施形態では、薬物や賦形剤をシリカと複合化する例を示したが、薬物や賦形剤以外にも、錠剤中に配合される各種成分の中には成形性に劣る成分が含まれている場合があるので、その場合、その成形性に劣る成分をシリカと複合化することにより、錠剤の成形性を改善することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカと、前記シリカ以外の1または2以上の成分とを、あらかじめ複合化して複合化粒子を形成するとともに、前記複合化粒子と前記複合化粒子以外の成分とを混合して、その混合物を打錠してなる
ことを特徴とする錠剤。
【請求項2】
前記複合化粒子が、噴霧乾燥法によって複合化された複合化粒子である
ことを特徴とする請求項1に記載の錠剤。
【請求項3】
前記複合化粒子として、前記シリカと薬物とを複合化してなる複合化粒子を含有する
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の錠剤。
【請求項4】
前記薬物が、インドメタシン、またはアセトアミノフェンである
ことを特徴とする請求項3に記載の錠剤。
【請求項5】
前記薬物が、溶解度1mg/ml以下の難水溶性薬物である
ことを特徴とする請求項3または請求項4に記載の錠剤。
【請求項6】
前記複合化粒子として、前記シリカと賦形剤とを複合化してなる複合化粒子を含有する
ことを特徴とする請求項1−請求項5のいずれかに記載の錠剤。
【請求項7】
前記賦形剤が、糖類である
ことを特徴とする請求項6に記載の錠剤。
【請求項8】
前記糖類が、マンニトール、エリスリトール、またはトレハロースである
ことを特徴とする請求項7に記載の錠剤。
【請求項9】
前記シリカは、細孔容積が0.3−2.0ml/g、比表面積が50−800m2/g
、平均細孔径が2−500nm、平均粒子径が1−100μmである
ことを特徴とする請求項1−請求項8のいずれかに記載の錠剤。
【請求項10】
さらに、崩壊剤または滑沢剤のいずれか一方または両方を含有する
ことを特徴とする請求項1−請求項9のいずれかに記載の錠剤。
【請求項11】
口腔内速崩壊錠である
ことを特徴とする請求項1−請求項10のいずれかに記載の錠剤。
【請求項12】
シリカと賦形剤を、あらかじめ複合化して複合化粒子を形成するとともに、複合化粒子と薬物とを混合して、その混合物を打錠してなる口腔内速崩壊錠である
ことを特徴とする錠剤。
【請求項13】
シリカと賦形剤を、あらかじめ複合化して複合化粒子を形成するとともに、複合化粒子と薬物と崩壊剤とを混合して、その混合物を打錠してなる口腔内速崩壊錠である
ことを特徴とする錠剤。
【請求項14】
シリカと、前記シリカ以外の1または2以上の成分とを、あらかじめ複合化して複合化粒子を形成するとともに、前記複合化粒子と前記複合化粒子以外の成分とを混合して、その混合物を打錠する
ことを特徴とする錠剤の製造方法。

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2012−12414(P2012−12414A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−220492(P2011−220492)
【出願日】平成23年10月4日(2011.10.4)
【分割の表示】特願2005−64247(P2005−64247)の分割
【原出願日】平成17年3月8日(2005.3.8)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年9月17日 第42回粉体に関する討論会発行の「第42回 粉体に関する討論会 講演論文集」に発表
【出願人】(504124370)
【出願人】(000237112)富士シリシア化学株式会社 (38)
【Fターム(参考)】