説明

錠剤およびその製造方法

【課題】サツマイモ(茎葉)やエンサイ等のヒルガオ科の植物について、有用成分を十二分に利用できる、実用性も高い製剤を得ることをその課題とするものである。
【解決手段】ヒルガオ科植物粉末とアルギン酸またはその塩を含有する錠剤およびヒルガオ科植物粉末に、結合剤成分としてアルギン酸またはその塩を加えて造粒し、次いで得られた造粒物を打錠することを特徴とする錠剤の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は錠剤およびその製造方法に関し、更に詳細には、無機あるいは有機の添加剤成分をほとんど利用することなくヒルガオ科植物粉末を主成分として製造される錠剤に関する。
【背景技術】
【0002】
日本人の平均寿命は年々延び続け、現代日本社会は超高齢化社会を迎えようとしている。一方で、超高齢化に伴う身体機能の低下やこれまでの食生活に起因する肥満、糖尿病をはじめとする生活習慣病は、もはや単独の疾病ではなく、1人が複数の疾病を併発する傾向にあり、それによって伴う医療費の増大などの問題が大きくクローズアップされている。また、これら疾病に用いる化学合成された薬剤は、強力な阻害作用や副作用等の観点から、医師の管理下で使用する必要があり、予防・遅延を目的として日常的に摂取することは非常に困難である。
【0003】
従って、強力な効果と副作用のバランスのうえに成り立つ化学合成薬剤ではなく、逆にマイルドな効果を示しつつ、日常的に摂取できる天然起源由来の健康食品の提供は現代社会の切なる要望である。
【0004】
上記のような背景の下、本発明者らはこれまでに種々の植物について、機能性素材の探索を行い、血糖且つ血圧上昇抑制を有する生物素材として、サツマイモ(茎葉)等を、また、二糖類分解酵素阻害活性を有する素材としてエンサイ等を見出し、特許出願を行なった(特許文献1および2)。
【0005】
これらの素材は、共にヒルガオ科の植物であるが、これを実際の製品とするに当たっては、第一に食品として安心・安全な素材であることが最も市場において要求される。次に健康食品の利点となるサプリメント性や、誰でも簡単にいつでも摂取でき、たとえ風味に問題があっても摂取可能である等の点から、顆粒・錠剤形態であることが、市場において要求される。
【0006】
ヒルガオ科植物を原料として錠剤を調製することに関しては、すでに特許文献3に開示がある。しかしながら、ここに記載された錠剤は、乳糖、結晶セルロース等の添加剤を用いるものであり、素材以外の物質を多く混合させるものである。このような添加剤を用いた錠剤では、自ずと有用成分の配合量が低下することになり、素材が持つ有用性を十二分に引き出すことができないという問題があった。
【特許文献1】特開2004−75638
【特許文献2】特開2005−213221
【特許文献3】特開平8−252079
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って本発明は、サツマイモ(茎葉)やエンサイ等のヒルガオ科の植物について、有用成分を十二分に利用できる、実用性の高い製剤を得ることをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、特にサツマイモやエンサイ等のヒルガオ科植物の利用について、上記課題を解決すべく造粒・打錠技術に関し鋭意研究を行っていたところ、特定の結合剤を利用することにより、添加剤をほとんど利用しなくても実製造スケールで一定の品質の保証ができる、十分な実用性のある錠剤が得られることを見出した。そして、この錠剤は、素材成分を99%程度まで含有させたものとすることまで可能であることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち本発明は、ヒルガオ科植物粉末と、アルギン酸またはその塩とを含有する錠剤である。
【0010】
また本発明は、ヒルガオ科植物粉末に、結合剤成分としてアルギン酸またはその塩を加えて造粒し、次いで得られた造粒物を打錠することを特徴とする錠剤の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明により得られた錠剤は、無機あるいは有機の添加剤成分をほとんど利用することなく製造されるものであり、有用成分であるヒルガオ科植物の粉末を、95ないし99.5質量%(以下、単に「%」で示す)、好ましくは、99ないし99.5%と高濃度で含有するものとして得ることができるものである。
【0012】
従って、ヒルガオ科植物の有する有効成分、例えばエンサイが含む有用成分の一つであるイソクロロゲン酸等を1回の服用でより多く摂取可能であり、より高い機能が期待できる。
【0013】
また、本発明の錠剤は、滑沢剤を使用しない長時間の連続打錠においても、特段打錠障害は生じることなく、しかも硬度の高い錠剤が得られるため、工業的にも有利な点が多いものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明で利用するヒルガオ科植物としては、沖縄で伝統的に食されているウンチェー(エンサイ;Ipomea aquatica)やカンダバー(甘藷の葉;Ipomea Batatas)等を挙げることができる。カンダバーは一般的にはサツマイモであるが、紫芋または紅芋(ベニイモ)と言われるアヤムラサキ、備瀬、沖夢紫、ベニアズマも含まれる。これら植物には、α-アミラーゼ阻害活性、α-グルコシダーゼ阻害活性、ACE阻害活性およびインスリン分泌促進活性を有する成分が含まれていることが知られている。またエンサイは、ヨウサイとも呼ばれ、沖縄県で夏野菜として知られているが、このものは、二糖類分解酵素阻害活性およびインスリン分泌促進活性を有する成分が含まれていることが知られている。
【0015】
上記ヒルガオ科植物を用いて、本発明の製剤を製造するには、まず、これら植物の茎葉部を入手し、粉末を得ることが必要である。これらの茎葉部の粉砕に当たっては、公知の方法を利用することができ、例えば、これら植物の茎葉部を乾燥した後、平均粒径10ないし120μm程度、好ましくは、20ないし60μm程度まで、粉砕ないしは磨砕すればよい。
【0016】
上記のようにして得られたヒルガオ科植物粉末は、次に、アルギン酸またはその塩を結合剤として造粒され、顆粒物とされる。結合剤として利用されるアルギン酸の塩としては、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム等が好ましい。また、この結合剤の使用量は、全成分に対し、0.5ないし5.0%であり、好ましくは0.75ないし1.25%、より好ましくは1.0%である。
【0017】
上記の造粒で用いる方法には特に制約はないが、流動層造粒法によることが好ましい。この流動層造粒法での好ましい造粒条件の一例を示せば次の通りである。すなわち、アルギン酸またはその塩(以下、「アルギン酸等」という)を、0.5ないし1%程度となる濃度で水に溶解させ、結合液を調製する。次いでこの結合液を、ヒルガオ科植物粉末と、必要により他の任意成分を含む粉末成分に対し、噴霧しながら20ないし120分、好ましくは約30ないし50分程度造粒し、その後20ないし50分間、好ましくは、約20〜30分程度乾燥させることにより、造粒物を得ることができる。
【0018】
また、処理量を1kgとしたときの造粒条件は、給気温度が、70ないし80℃程度、好ましくは75℃程度であり、スプレー速度は、平均7ないし16g/min、好ましくは平均9ないし13g/min程度である。更に、アトマイズ空気量は、10ないし50NL/min、好ましくは、15ないし20NL/min程度であり、給気風量は、0.2〜1.0m/min、好ましくは、0.3ないし0.6m/min程度とすればよい。もちろんこれらの条件は、スケールが変わった場合は、それに応じて適宜変更することが好ましいことはいうまでもない。
【0019】
最後に上記のようにして得られた造粒物は、常法に従い打錠される。この打錠において利用される装置には、特に制約はなく、単発式打錠機、ロータリー式連続打錠機等が利用できる。また、打錠に当たっては、特段滑沢剤を利用する必要はない。更に、得られる錠剤の崩壊速度は、結合剤の使用量や、打錠圧力により調整できるが、ヒルガオ科植物粉末からの有効成分の溶出性を考慮すれば、崩壊時間を30分以内、好ましくは、20分以内、更に好ましくは10分以内とすることが望ましい。なお、ここでいう崩壊時間は、日本薬局方13改正の錠剤の項目に準拠して測定したものである。
【0020】
本発明の錠剤は、上記したヒルガオ科植物粉末とアルギン酸等のみで構成しても良いが
、必要により、公知の任意成分を添加することもできる。このような任意成分としては
、ヒドロキシプロピルセルロース、コラーゲン、各種ガム、各種デキストリン等が挙げ
られる。また、本発明の錠剤は、コーティングしなくても良いが、必要であれば、シェ
ラック、ヒドロキシプロピルセルロース、トウモロコシタンパク質等でコーティングし
ても良い。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明で得られる錠剤は、そのほとんどを有効成分であるヒルガオ科植物粉末で製造することができるものであり、滑沢剤なしでも工業生産スケールで一定の品質の保証ができるものである。
【0022】
従って、本発明の錠剤は、老化により身体機能が低下している高齢者や、血糖値や血圧が高めの予備軍、更には日頃から健康維持を心がけている健常者向けの製剤および健康食品を含む食品として最適であり、医薬、健康食品、お菓子として、肥満、糖尿病やその合併症予防・遅延、高血圧症の予防・遅延に極めて有効である。
【実施例】
【0023】
次に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例により何ら制約されるものではない。
【0024】
実 施 例 1
錠剤の製造(1):
まず、エンサイ(Ipomea aquatica)の茎葉の乾燥物を入手し、これを粗粉砕機(1003:吉田製作所)の約3mmのスクリーンを用いて一次粉砕した。更に摩砕粉砕機(MKCA10−20J:増幸産業)にて微粉砕を行い、63μm以下(平均粒径=25.1μm)の微粉末とした。
【0025】
上記エンサイ粉末と、アルギン酸ナトリウムを原料として用い、流動層造粒装置(FD−MP−01S:(株)パウレック製)を用いて0.6kgスケールでの造粒試験を数回行った。アルギン酸ナトリウムは、0.5%水溶液とし、造粒条件は、給気温度が75℃、スプレー速度が平均9.9〜10.2g/min、アトマイズ空気量が30NL/min、給気風量が0.33〜0.67m/minとした。造粒は、噴霧、造粒時間が約60〜120分とし、次いで乾燥温度75℃で、約24〜45分間乾燥を行った。なお、結合剤のコントロールとして蒸留水を用いる以外は上記と同様にして比較造粒を行った。
【0026】
原料および造粒物の電子顕微鏡写真は、Keyence社製(VE7800)を用いて撮影し、粒度分布測定は、ふるい振とう機(AS200DIGIT:Retsch)を用いて行った。その結果、電子顕微鏡下での所見では、アルギン酸ナトリウムの添加割合を0.5%、0.75%および1%に変えた何れの場合でも、造粒よる粒子成長は認められ(図1参照)、粒度分布もアルギン酸ナトリウムの添加割合に関わらず、同様な粒子成長が認められた。(図2参照)この事から、流動層造粒によりシャープな粒度分布の粒子径へと変化することが分かった。これらの結果より、上記の造粒条件で作成された造粒物は、いずれも流動性の良い顆粒物であることが判明した。
【0027】
そこで次に、ハンドプレス機器を用いて錠剤の作製を行った。すなわち、油圧プレスと打錠用の金型を用いて、打錠圧は1,500kgf、打錠時間5秒で打錠し、錠剤径8mm、12R、重量200mgの錠剤を作製した。その結果、アルギン酸ナトリウムの添加割合と錠剤硬度の関係は比例関係を示し(図3参照)、添加割合が1%時の錠剤硬度(Creep meter RE2−33005:山電社製)は4.3kgfとなった。
【0028】
実 施 例 2
錠剤の製造(2):
実施例1の結果を基に、63μm以下(平均粒径=13.5μm、レーザー回析散乱法 LMS−300:(株)セイシン企業)にしたエンサイ原料粉末と、結合剤であるアルギン酸ナトリウムを用いた、35kgスケールでの造粒試験を数回行った。アルギン酸ナトリウムは、1.0%の水溶液として利用した。
【0029】
造粒装置としては、流動層造粒装置(WSG−60:(株)パウレック製)を用い、造粒条件は給気温度75℃、スプレー速度平均400g/min、アトマイズ空気量400NL/min、給気風量9.5−18m/minとした。噴霧造粒時間は、約90〜110分とし、次いで乾燥温度90℃(給気風量18m/min)で、約45分間乾燥を行った。
【0030】
原料および得られた造粒物の電子顕微鏡写真は、Keyence社製(VE7800)を用いて撮影し、粒度分布測定は、ふるい振とう機(AS200DIGIT:Retsch)を用いて行った。その結果、電子顕微鏡下での所見では、造粒による粒子成長は認められ、粒度分布も同様な粒子成長が認められた(図4参照)。この事から、流動層造粒によりシャープな粒度分布の粒子径へと変化することが分かった。これらの結果より、35kgスケールでも上記の造粒条件で作成された造粒物は、いずれも流動性の良い顆粒物であることが判明した。
【0031】
このように、流動性に適した粒度分布の顆粒物が得られたので、ロータリー式連続打錠試験機(AQU3 0512SW2AIII:(株)菊水製作所)を用いて連続打錠試験を行った。12本立てで、フィードシューは強制型とし、回転盤回転数および撹拌羽回転数は共に30rpmとした。試験は35kgfスケールで作成した造粒物を用いて連続打錠7時間試験を行った。錠剤の崩壊試験は、日本薬局方13改正の錠剤の項目に準拠して、崩壊試験器(NT−1HM:富山産業)を用いて測定した。試験液は蒸留水を用い、温度37±0.5℃、30往復/min、振幅55mm、補助盤を使用して測定した。
【0032】
その結果、連続打錠7時間内でも、滑沢剤無しで打錠障害はなく(図5参照)、直径8mm、12R、重量200mgの錠剤(図6参照)で、充填の深さ13.76mm、予圧厚み2.80mm、本圧厚み1.31mmにした場合、打錠圧力は予圧215kgf、本圧約1,800kgfとなり、錠剤硬度は平均5.61kgf(造粒物の水分2.4%)であり、またその試験打錠の崩壊時間は5分33秒±41秒となった。
【0033】
また本発明で開発した錠剤は、有用成分の一つであるイソクロロゲン酸の溶出も確認できた事から、より科学的にその作用が期待できる製剤の提供ができる製法であることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】エンサイ粉末と、これをアルギン酸ナトリウムで造粒した造粒物の外観を示す電子顕微鏡写真である。図中、Aは原料エンサイ粉末、Bは0.5%アルギン酸ナトリウムでの造粒物、Cは0.75%アルギン酸ナトリウムでの造粒物、Dは1%アルギン酸ナトリウムでの造粒物である。
【図2】エンサイ粉末を異なる濃度のアルギン酸ナトリウムで造粒した造粒物の粒度分布を示す図面である。
【図3】エンサイ粉末をアルギン酸ナトリウムで造粒し、打錠して得た錠剤のアルギン酸ナトリウム添加量と錠剤硬度の関係を示す図面である。
【図4】エンサイ粉末を1%アルギン酸ナトリウムで造粒した造粒物の粒度分布を示す図面である。
【図5】エンサイ粉末−1%アルギン酸ナトリウム造粒物を、7時間連続打錠した後の下杵および上杵の状態を示す写真である。図中、Aは開始前の下杵、Bは7時間連続打錠終了後の上杵、Cは7時間連続打錠終了後の下杵の状態である。
【図6】エンサイ粉末−1%アルギン酸ナトリウム造粒物を打錠して得た錠剤の外観を示す写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒルガオ科植物粉末と、アルギン酸またはその塩とを含有する錠剤。
【請求項2】
ヒルガオ科植物が、エンサイまたは甘藷の葉茎である請求項1記載の錠剤。
【請求項3】
アルギン酸またはその塩を0.5から5質量%含有する請求項1または2記載の錠剤。
【請求項4】
ヒルガオ科植物粉末に、結合剤成分としてアルギン酸またはその塩を加えながら造粒し、次いで得られた造粒物を打錠することにより得られる錠剤。
【請求項5】
錠剤中のアルギン酸またはその塩の添加量が、0.5から5質量%である請求項4記載の錠剤。
【請求項6】
崩壊時間が30分以内である請求項1ないし5の何れかの項記載の錠剤。
【請求項7】
造粒が流動層造粒法により行われる請求項4ないし6の何れかの項記載の錠剤。
【請求項8】
ヒルガオ科植物粉末に、結合剤成分としてアルギン酸またはその塩を加えながら造粒し、次いで得られた造粒物を打錠することを特徴とする錠剤の製造方法。
【請求項9】
アルギン酸またはその塩の添加量が、0.5から5質量%である請求項8記載の錠剤の製造方法。
【請求項10】
造粒を流動層造粒法により行なう請求項7ないし9の何れかの項記載の錠剤の製造方法。


【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図1】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−184995(P2009−184995A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−28857(P2008−28857)
【出願日】平成20年2月8日(2008.2.8)
【出願人】(595102178)沖縄県 (36)
【Fターム(参考)】