説明

錠剤用賦形剤及び錠剤

【課題】 糖アルコールを原料とした粉末で、吸湿安定性が良く、直接圧縮による錠剤の成形に適しており、錠剤として高い硬度を得ることが可能となる、従来の糖アルコールが有していた錠剤成形にとって好ましくない性質を持たない、新しい錠剤用賦形剤及びそれを用いて製造された錠剤を提供する。
【解決手段】 直接圧縮による錠剤の成形が可能であり、錠剤用賦形剤中にセロビトールを60.0重量%以上、好ましくは80.0重量%以上、さらに好ましくは90.0重量%以上含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、錠剤用賦形剤及び錠剤に関し、詳細には、直接圧縮により錠剤の成形が可能なセロビトールを主成分とした錠剤用賦形剤及びそれを用いて製造された錠剤に関する。
【背景技術】
【0002】
錠剤は取扱いが容易なこと、服用し易いこと、携帯しやすいこと、などの利便性を兼ね備えており、医薬品、食品の分野において広範囲に使用される形態である。
【0003】
通常、錠剤を製造するには、圧縮成形によって錠剤の形状を維持できる硬度を有する必要があるため、主薬以外に各種添加物を使用することが一般的である。
【0004】
錠剤の成形に用いられる添加物としては、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤などが挙げられる。これらの添加物の一つである賦形剤は、主薬の量が少ない時、または主薬のみでは圧縮成形によって錠剤に成形できない時など、錠剤に大きさや重量を与えたり、錠剤成形を可能にするために用いられる。
【0005】
このように、賦形剤は錠剤の形成において必要不可欠な要素であり、使用量が主薬より多くなることもあるため、錠剤そのものの物性を決める要因となる。よって賦形剤には、錠剤の成形性の他に、錠剤の硬度付与性、化学的安定性、低吸湿性なども要求されていた。
【0006】
一方、錠剤原料から錠剤を形成させる代表的な方法として、湿式顆粒圧縮法、乾式顆粒圧縮法、直接粉末圧縮法などが挙げられる。
【0007】
この中でも直接粉末圧縮法は、主薬と錠剤用添加物を混合したものを、そのまま直接圧縮することで錠剤に成形する方法であり、錠剤の原料となる粉末の2次的加工を必要としないため、顆粒状に造粒する必要が無いこと、水や熱などの影響を受けないので、錠剤成分の安定性を損なわない等の利点を有している。
【0008】
また直接粉末圧縮法は、造粒や乾燥といった工程を必要としないため、湿式顆粒圧縮法や乾式顆粒圧縮法と比較して、製造方法が容易であり、製造コストの低減が可能であるといった特徴も有している。
【0009】
さらに、この方法で得られる錠剤は、粉末状で崩壊するため、迅速な崩壊及び速溶性が期待できる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、直接粉末圧縮法は、その他の錠剤成形法と比較して錠剤に成形することが難しく、賦形剤の物性が圧縮成形性に影響しやすいため、この方法によって錠剤の成形が可能となるような、新しい賦形剤が求められていた。
【0011】
従来、錠剤の賦形剤として、乳糖、澱粉、ブドウ糖、結晶セルロースなどが使用されていた。しかしながら、結晶セルロースは流動性が悪いこと、また、乳糖、澱粉、ブドウ糖は、直接圧縮しても錠剤に成形することができないことから、これらの物質は直接圧縮による錠剤の製造に適した賦形剤として利用できなかった。
【0012】
最近では、ソルビトール、キシリトール、エリスリトール、マンニトール、マルチトール、ラクチトール、等の糖アルコールの粉末を賦形剤として使用することが多い(特開平3−209336号公報)。これは糖アルコールが、虫歯になりにくい、砂糖よりもカロリーが低い、酸に安定である、メイラード反応が起りにくく着色が少ない、などの特徴を有していることに起因している。
【0013】
しかしながら、これらの糖アルコール粉末を用いた直接圧縮による錠剤の製造は、キャッピングやスティッキングなどの打錠性の欠点や、成形後の錠剤硬度が低いこと、吸湿性が高いことなど、錠剤にとって好ましくない性質も有している。
【0014】
例えば、ソルビトールやキシリトールについては吸湿性が高いという欠点を有しており、吸湿安定性という点で、これらを賦形剤とした錠剤は好ましくなかった。また、キシリトール、エリスリトール、マンニトール、マルチトール、ラクチトールを賦形剤とした場合、直接圧縮によって得られる錠剤の硬度が低いため、錠剤の保型性や食感において、好ましくなかった。
【0015】
従来、直接圧縮で十分な硬度が得られにくい糖アルコールを錠剤の賦形剤として用いる場合、粉末を造粒するかバインダーを添加するなどして圧縮成形性の改善を試みる必要があったが、粉末の造粒は容易に行なえるものではなく、また、バインダーの添加は錠剤の味質を損なう原因となってしまう。
【0016】
一方、吸湿性の高い糖アルコールを錠剤の賦形剤として用いる場合、直接圧縮によって製造された錠剤は長期保存に適さず、保型性も良くなかった。このため、吸湿を抑えるような物質と併用して使用する必要があった。
【0017】
以上のことから、直接粉末圧縮法によって錠剤の製造が可能であり、吸湿性が低く、糖アルコールによってもたらされる好ましい特徴を有した、新しい錠剤用賦形剤の開発が切望されていた。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本願発明者等は、上記課題を解決するため鋭意研究し、糖アルコールの中でもセロビトールの物性に着目した。
【0019】
セロビトールは2糖類の糖アルコールであり、1,4−β−グルコシド結合したβ−D−グルコピラノース2分子から成るセロビオースを、ラネー触媒などを用いた公知の水素化方法によって製造される。β−1,4−グルコシド結合したグルコース分子で構成される最も代表的な多糖類として、植物細胞壁の主成分であるセルロースがあり、自然界において最も多量に存在する糖類である。
【0020】
本願発明者等は、セロビトールを主成分とする錠剤用賦形剤としての検討を行なったところ、意外なことに造粒工程やバインダーの添加など、従来までの糖アルコールを賦形剤とした錠剤製造において必須とも言える2次的加工を必要とせず、単純に直接圧縮することにより、錠剤の製造が可能となる錠剤用賦形剤を見出した。
【0021】
さらに、セロビトールは従来の糖アルコールと同様、虫歯になりにくい、砂糖よりも低カロリーである、メイラード反応が起りにくい、着色しにくい等の好ましい特徴を有しているだけでなく、吸湿性が低く、直接圧縮により錠剤として十分な硬度を有し、圧縮成形性が良く、吸湿安定性に優れており、耐酸及び耐熱性能も従来の糖アルコールよりも優れていることを見出した。
【0022】
このような特徴を有した錠剤用賦形剤となるのは、錠剤用賦形剤中のセロビトールが60.0重量%以上、好ましくは80.0重量%以上、さらに好ましくは90.0重量%以上含有した場合である。さらに特異なことに、実質セロビトールのみを圧縮成形しても十分な硬度を有した錠剤として成形可能であり、錠剤用途の賦形剤として、従来の糖アルコールにはない非常に好ましい特徴を有していることが解った。
【0023】
即ち、本発明の課題を解決する手段は以下の通りである。
【0024】
第1に、直接圧縮によって成形が可能であり、セロビトールを60.0重量%以上含有する、錠剤用賦形剤。
第2に、直接圧縮によって成形が可能であり、セロビトールを60.0重量%以上含有し、残部にソルビトール、キシリトール、マンニトール、エリスリトール、ラクチトール、マルチトール、還元パラチノース、還元麦芽糖水飴、還元澱粉糖化物、結晶セルロース、乳糖、澱粉糖化物、澱粉からなる群から選ばれるいずれか1種又は2種以上の糖、糖アルコール及び糖質を含有する、錠剤用賦形剤。
第3に、セロビトールが結晶性粉末であり、直接圧縮による錠剤の成形において、2次的加工を必要としない請求項1又は2に記載の錠剤用賦形剤。
第4に、セロビトールを60.0重量%以上含有した錠剤用賦形剤を用いた、錠剤。
【0025】
本願発明に係る錠剤用賦形剤は、直接粉末圧縮法によって錠剤に成形することが可能であり、圧縮工程前に錠剤の原料となる粉末の2次的加工を行なうこと無く、錠剤の成形ができるという特徴を有している。
【0026】
本願発明に係る2次的加工とは、圧縮成形工程に供して錠剤とする前に、予め錠剤の原料となる粉末に、何らかの加工を加えることを指す。
代表的な2次的加工の例としては、湿式顆粒圧縮法において行われる、錠剤の原料となる粉末にバインダー溶液を添加したり、水、有機溶媒などを加えた後、各成分を練合し、各種造粒機によって錠剤の原料である粉末を顆粒状にすることが挙げられる。また、乾式顆粒圧縮法において行われる、一旦、錠剤の原料となる粉末を、高い圧力を加えて錠剤に成形した後、その錠剤を粉砕し粒度調整することが挙げられる。
【0027】
本願発明で用いられるセロビトールの種類や品質については、経口摂取した場合に人体に害の無い物であれば、その品質について特に制約されるものではなく、一般的にはセルロース由来のセロビオースを、ラネーニッケル触媒などを用いた公知の水素化方法によって水素添加したものを使用することができる。
【0028】
セロビトールの形態については、粉末状又は結晶性粉末状であることが好ましいが、その由来について格別の制約は無く、マスキット状のものを乾燥したものや、結晶及びその含蜜結晶を粉砕し篩い分けしたもの、など何れも問題なく使用できる。また、セロビトール粉末の粒子サイズについても格別の制約は無いが、通常の直接圧縮による錠剤成形工程に供される賦形剤として、粉末が扱い易いことや入手し易いという理由から、20メッシュパス、300メッシュオンの範囲に含まれる粒径の粉末が好ましい。
【0029】
本願発明を好適に実施するためには、錠剤用賦形剤中に占めるセロビトールの含有量を60.0重量%以上、好ましくは80.0重量%以上、さらに好ましくは90.0重量%以上とすることが好ましい。錠剤用賦形剤中に占めるセロビトールの含有量が60.0重量%未満の場合には、本発明の特色である、直接圧縮によって成形される錠剤の硬度、吸湿安定性、圧縮成形性、耐酸性、耐熱性、等の効果が損なわれてしまうため好ましくない。
【0030】
本願発明を実施して錠剤を製造する際、錠剤用賦形剤以外の成分については特に制限はなく、一般的に錠剤の原料として使用されている物質であれば問題なく使用できる。また、本願発明にかかる錠剤用賦形剤は、滑沢剤、崩壊剤、結合剤など、錠剤の成形に用いられる各種添加剤と併用して用いても、問題なく錠剤の製造が可能である。
【0031】
セロビトールは虫歯になりにくい性質を持っているので、錠剤用賦形製剤が本質的にセロビトールのみで構成されている場合や、錠剤用賦形剤中のセロビトール以外の成分として糖アルコールが用いられた場合、虫歯になりにくい性質を併せ持った錠剤用賦形剤として使用することができる。
【0032】
本願発明の錠剤用賦形剤は、耐酸性に優れているため、着色や分解が殆ど生じない。よって、アスコルビン酸やクエン酸などを主薬とした錠剤の賦形剤として好適に使用できる。
【0033】
本願発明の錠剤用賦形剤は、主薬の成分が複数であってもよく、主薬の種類は、錠剤の成分に使われるものであれば、何れも問題なく使用できる。
【0034】
本願発明の錠剤用賦形剤は、単独で用いて圧縮成形して錠剤とすることも可能である。
【0035】
本願発明に係る錠剤用賦形剤は、顆粒状に造粒するなどの、錠剤硬度を増強させるために一般的に行われている、これら公知の手段を組み合わせても問題なく実施できる。
【発明の効果】
【0036】
本願発明に係る錠剤用賦形剤を用いることにより、直接圧縮によって錠剤に成形することが可能であり、錠剤として高い硬度を得ることが可能であり、吸湿安定性が良好であり、耐酸性に優れ、錠剤の賦形剤として好ましいものである。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下に、実施例、試験例などにより、具体的に本願発明を説明するが、本願発明の技術的範囲は以下の例に制限されるものではない。
【実施例1】
【0038】
(錠剤用賦形剤の製造)
セロビトールの結晶(セロビトール純度99.0%)を、スピードカッター(MK−K70、ナショナル製)で微粉砕した。
粉砕後、セロビトール粉末を、24メッシュパス、48メッシュオンに分級し、平均粒径300μm(最大粒径:700μm、最小粒径:140μm)となるように粒度調整を行ない、セロビトール含有率99.0%の錠剤用賦形剤を製造した。
【実施例2】
【0039】
(錠剤の製造)
実施例1により製造した錠剤用賦形剤95.05重量部、クエン酸1.2重量部、オレンジフレーバー1.5重量部、アスパルテーム0.2重量部、リボフラビン0.05重量部、滑沢剤2.0重量部を良く混合し、錠剤原料とした。
なお、滑沢剤としては、第一工業製薬株式会社製のDKS F−20Wを用いた(以下の例も同様)。
混合した錠剤原料を、回転式打錠機8F−3型(菊水製作所製)を用いて、15mmφ×19mm(R型)の杵により、打錠速度12rpmで圧縮成形を行ない、1錠の重量が1.0gとなるように錠剤を製造した。
【0040】
上述の構成で調製された錠剤原料は、2次的加工を行なわず粉体状態で直接圧縮成形する工程に供して、錠剤に成形することが可能であった。
また、得られた錠剤は、適度な噛み応えを有し、オレンジ味であった。
【実施例3】
【0041】
実施例1で得た錠剤用賦形剤のみを用いてそのまま錠剤原料とし、実施例2と同様、粉末を直接圧縮成形する製造方法で錠剤を製造した。
得られた錠剤は、本質的にセロビトールのみからなり、バインダーの添加や造粒など、錠剤原料の2次的加工を行なっていないが、粉体状態で直接圧縮成形する工程に供して、錠剤に成形することが可能であり、適度な噛み応えを有していた。
【実施例4】
【0042】
実施例1と同様の方法によりセロビトールを粉砕後、ふるいにより、24メッシュパス、48メッシュオンに分級し、粒度調整を行なったセロビトール粉末58.0重量部と、同じく24メッシュパス、48メッシュオンに分級し、粒度調整を行なったキシリトール粉末5.0重量部を良く混合し、セロビトールの含有率が91.1%の錠剤用賦形剤を製造した。
なお、キシリトール粉末としては、東和化成工業株式会社製のキシリット(商品名)を用いた(以下の例も同様)。
上述の錠剤用賦形剤63.0重量部に、水溶性コーンファイバー(商品名:セルエース、日本食品化工株式会社製)30.0重量部、ココアパウダー5.0重量部、滑沢剤2.0重量部を良く混合し、錠剤原料とした。
混合した錠剤原料を用いて、実施例2と同様の粉末圧縮による製造方法により、1錠の重量が1.0gとなるように錠剤を製造した。
上述の構成で調製された錠剤原料は、2次的加工を行なわず粉体状態で直接圧縮成形する工程に供して、錠剤に成形することが可能であった。
また、得られた錠剤は、適度な噛み応えを有し、ココア味であった。
【実施例5】
【0043】
実施例1と同様の方法によりセロビトールを粉砕後、ふるいにより、24メッシュパス、48メッシュオンに分級し、粒度調整を行なったセロビトール粉末43.0重量部と、同じく24メッシュパス、48メッシュオンに分級し、粒度調整を行なったキシリトール粉末10.0重量部を良く混合し、セロビトールの含有率が80.3%の錠剤用賦形剤を製造した。
上述の錠剤用賦形剤53.0重量部に、アスコルビン酸42.0重量部、オレンジフレーバー1.5重量部、アスパルテーム1.5重量部、滑沢剤2.0重量部を良く混合し、錠剤原料とした。
混合した錠剤原料を用いて、実施例2と同様の粉末圧縮による製造方法により、1錠の重量が1.0gとなるように錠剤を製造した。
上述の構成で調製された錠剤原料は、2次的加工を行なわず粉体状態で直接圧縮成形する工程に供して、錠剤に成形することが可能であった。
また、得られた錠剤は、適度な噛み応えを有し、オレンジ味であった。
【実施例6】
【0044】
実施例1と同様の方法によりセロビトールを粉砕後、ふるいにより、24メッシュパス、48メッシュオンに分級し、粒度調整を行なったセロビトール粉末32.0重量部と、同じく24メッシュパス、48メッシュオンに分級し、粒度調整を行なったキシリトール粉末20.0重量部を良く混合し、セロビトールの含有率が60.9%の錠剤用賦形剤を製造した。
上述の錠剤用賦形剤52.0重量部に、アスコルビン酸43.0重量部、オレンジフレーバー1.5重量部、アスパルテーム1.5重量部、滑沢剤2.0重量部を良く混合し、錠剤原料とした。
混合した錠剤原料を用いて、実施例2と同様の粉末圧縮による製造方法により、1錠の重量が1.0gとなるように錠剤を製造した。
上述の構成で調製された錠剤原料は、2次的加工を行なわず粉体状態で直接圧縮成形する工程に供して、錠剤に成形することが可能であった。
また、得られた錠剤は、適度な噛み応えを有し、オレンジ味であった。
【0045】
[試験例1](硬度及び吸湿安定性試験)
対照区として、ソルビトール(商品名:ソルビットWP、東和化成工業株式会社製)を賦形剤として用いて、次の方法で錠剤を製造した。
まず、ソルビトールの結晶を粉砕し、粉砕した結晶を24メッシュパス48メッシュオンに分級し、平均粒径300μm(最大粒径:700μm、最小粒径:140μm)となるように粒度調整を行ない、これを錠剤用賦形剤とした。
ソルビトールを用いた錠剤用賦形剤95.05重量部、クエン酸1.2重量部、オレンジフレーバー1.5重量部、アスパルテーム0.2重量部、リボフラビン0.05重量部、滑沢剤2.0重量部を良く混合し、錠剤原料とした。
得られた錠剤原料を用いて、実施例2と同様の製造方法により、1錠の重量が1.0gとなるように錠剤を製造した。
また、他の対照区として、ソルビトールに代えて、キシリトール粉末、マンニトール(商品名:マンニット、東和化成工業株式会社製)、エリスリトール(日研化学株式会社製)、マルチトール(商品名:レシス、東和化成工業株式会社製)、ラクチトール(商品名:ミルヘン、東和化成工業株式会社製)、還元パラチノース[商品名:パラチニット(登録商標)、三井製糖株式会社製]を用い、ソルビトールの場合と同様に、各糖アルコールを粉砕し、粒度調整したものを賦形剤として錠剤を製造した。
なお、対照区で用いた糖アルコールは、スプレードライ製法等の造粒品など、一般品と結晶形の異なるものは除いた。
【0046】
各対照区の錠剤と実施例2で得られた錠剤について、錠剤の硬度を測定した。
錠剤の硬度は、錠剤破壊強度測定器TH−203CP(富山産業株式会社製)を用い、加圧円柱により次のように測定した。
錠剤を、錠剤の圧縮面に対して垂直方向に加圧するように試料台に設置した後、試料台に向かって加圧円柱を一定の速度で降下させて、錠剤に荷重をかけた。
そして、錠剤が破壊されるまで荷重を与え続け、最終的に錠剤が破壊した時に加えられた力を錠剤硬度として、kgf単位で表した。
また、錠剤硬度が20kgfを超える場合は、木屋式硬度計(木屋製作所)を用いて、同様に測定を行ない、錠剤硬度を求めた。
【0047】
次に、対照区の各錠剤及び実施例2で製造した錠剤について、吸湿安定性の試験を行なった。
吸湿安定性の試験では、各錠剤を予め80℃で24時間減圧乾燥した後、塩化アンモニウム飽和溶液(相対湿度80%)の入ったデシメータ中に入れ、37℃の恒温器中に5日間放置した。
吸湿安定性については、錠剤の吸湿が殆ど見られず、吸湿安定性の良かったものについては「○」で、また、錠剤が吸湿してしまい、潮解の傾向が見られたり、潮解してしまったものについては「×」として、それぞれの錠剤を評価した。
各錠剤の硬度及び吸湿安定性についての結果を表1に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
試験結果を考察すると、本願発明に係るセロビトールを用いた錠剤用賦形剤で製造された錠剤は、ソルビトールに次いで高い硬度を有していた。
吸湿安定性については、ソルビトールとキシリトールを除いた、その他の糖アルコールについて、錠剤が潮解することなく安定であった。
この結果から、セロビトールを用いた錠剤用賦形剤を用いて製造された錠剤は、糖アルコールを原料とした錠剤の中で、錠剤硬度と吸湿性の両面において、優れた性質を持ち、バランスのとれた錠剤であることが解る。
【0050】
[試験例2](耐酸性安定試験)
セロビトールの耐酸性を評価するため、セロビトールと同じ二糖類の糖アルコールであるマルチトールを比較サンプルとして、以下の手順に従って耐酸性試験を行なった。
まず、セロビトールを水に溶かして、固形分濃度10%の水溶液を調製し、該水溶液に25%濃度の塩酸を滴下し、pH2.5に調整した。
pH調整後の水溶液を120℃に加熱して、水溶液中のセロビトールの分解量の経時変化を測定した。
同様の手順により、マルチトールについても、水溶液中のマルチトールの分解量の経時変化を測定した。
セロビトールの結果を表2に、マルチトールの結果を表3に示す。
【0051】
【表2】

【0052】
【表3】

【0053】
試験結果を考察すると、セロビトールはマルチトールよりも分解が起りにくく、分解によって生じるグルコースとソルビトールの生成量も少ない。
このことから、本願発明に係るセロビトールは、糖アルコールの中でも高い耐酸性を有していることが解る。
【0054】
[試験例3](吸湿の経時変化)
実施例3で得られた錠剤について、吸湿の経時変化を下記の手順で測定した。
まず、実施例3で得られた錠剤を、予め80℃、24時間減圧乾燥し、該乾燥後のものを吸湿性測定用試料として用いた。
次に、該試料を秤量瓶に入れ秤量し、塩化コバルト飽和溶液(相対湿度59%)及び塩化アンモニウム飽和溶液(相対湿度80%)の入ったデシケータに秤量瓶を2個ずつ入れ、37℃の恒温器に放置した。
この際、経時的に重量測定を行ない、重量変化率(%)を求めた。
その結果を表4に示す。
【0055】
【表4】

【0056】
試験結果を考察すると、相対湿度59%の条件では約0.55%前後の重量変化が見られ、相対湿度80%の条件では約0.65%前後の重量変化が見られた。
しかし、吸湿が起っていたのは、測定開始から4時間の間のみであり、それ以降は吸湿による重量変化が殆ど見られなかった。
このことから、本願発明に係る錠剤用賦形剤は、初期の段階で若干の吸湿が見られるものの、吸湿による重量変化はすぐに停止し、その後は吸湿することなく安定な状態を保ち続け、錠剤としての好ましい食感を損なわずに、長期間の保存に適した性質を有することが解る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0057】
【特許文献1】特開平3−209336号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直接圧縮によって成形が可能であり、セロビトールを60.0重量%以上含有する、錠剤用賦形剤。
【請求項2】
直接圧縮によって成形が可能であり、セロビトールを60.0重量%以上含有し、残部にソルビトール、キシリトール、マンニトール、エリスリトール、ラクチトール、マルチトール、還元パラチノース、還元麦芽糖水飴、還元澱粉糖化物、結晶セルロース、乳糖、澱粉糖化物、澱粉からなる群から選ばれるいずれか1種又は2種以上の糖、糖アルコール及び/又は糖質を含有する、錠剤用賦形剤。
【請求項3】
セロビトールが結晶性粉末であり、直接圧縮による錠剤の成形において、2次的加工を必要としない請求項1又は2に記載の錠剤用賦形剤。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一つに記載の錠剤用賦形剤を用いた、錠剤。

【公開番号】特開2010−189447(P2010−189447A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−131773(P2010−131773)
【出願日】平成22年6月9日(2010.6.9)
【分割の表示】特願平11−262206の分割
【原出願日】平成11年9月16日(1999.9.16)
【出願人】(000230582)日本化学機械製造株式会社 (16)
【出願人】(000188227)松谷化学工業株式会社 (102)
【出願人】(000223090)三菱商事フードテック株式会社 (25)
【Fターム(参考)】