説明

錫ドープ酸化インジウム粒子

【課題】微粒でかつ分散性の高い錫ドープ酸化インジウム粒子を提供すること。
【解決手段】本発明の錫ドープ酸化インジウム粒子は、第四級アンモニウムイオンの水酸化物が還元性有機溶媒に溶解してなる溶液に、インジウム源及び錫源を添加し反応を行い、次いでオートクレーブ内において加熱して自生圧力下に熟成を行うことで得られたものである。この錫ドープ酸化インジウム粒子は、第四級アンモニウムイオンの水酸化物としてテトラメチルアンモニウムヒドロキシドを用いて得られたものであることが好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、錫ドープ酸化インジウム粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
錫ドープ酸化インジウム(以下「ITO」ともいう。)微粒子の製造方法に関する従来の技術としては、例えば特許文献1に記載の技術が知られている。同文献においては、塩化インジウム及び塩化錫の混合水溶液を、アンモニウム炭酸塩中に滴下し、温度5℃〜95℃、最終pH2〜8の条件下でインジウムと錫の水酸化物を共沈させ、該沈殿を加熱分解する方法が提案されている。
【0003】
ITO微粒子の製造方法の別法として、特許文献2に記載の方法も知られている。同文献に記載の方法では、重炭酸アンモニウム水溶液等の塩基性水溶液を激しく攪拌しながら、そこにインジウム化合物と錫化合物との混合水溶液を滴下してゲルを生成させている。次いで生成したゲルを溶媒置換して有機溶媒中に分散させ、この有機分散液を加熱処理してITO分散液を得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開1993−201731号公報
【特許文献2】特開2004−123403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の記載によれば、前記の製造方法を採用することで、超微粒でかつ低抵抗のITOが得られるとされている。しかし前記の製造方法においては、インジウム及び錫の加水分解によって生成した水酸化物が凝集しやすい傾向にある。それに起因して、分散性の高いITO微粒を得ることが容易でない場合がある。また、特許文献2に記載の方法によれば、液中に錫含有のオキシ水酸化インジウムを含む水酸化インジウムの粒子が生成するが、オキシ水酸化インジウムのみの微粒子とはならない。更には、いずれの方法も、均一なITO粒子のサイズを、数nmから数十nm程度まで自由に制御することができない。
【0006】
したがって本発明の課題は、前述した従来技術が有する欠点を解消し得るITO粒子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、第四級アンモニウムイオンの水酸化物が還元性有機溶媒に溶解してなる溶液に、インジウム源及び錫源を添加し反応を行い、次いでオートクレーブ内において加熱して自生圧力下に熟成を行うことで得られた錫ドープ酸化インジウム粒子を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の錫ドープ酸化インジウム粒子は、微粒で分散性が高く、かつサイズ制御されているものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、実施例1で得られたITO粒子のXRD回折図である。
【図2】図2は、実施例1で得られたITO粒子の透過型電子顕微鏡像である。
【図3】図3は、実施例5で得られたITO粒子の透過型電子顕微鏡像である。
【図4】図4は、比較例1で得られた粒子の透過型電子顕微鏡像である。
【図5】図5は、比較例2で得られた粒子の透過型電子顕微鏡像である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明のITO粒子は、微粒でかつ分散性が高いという二律背反の要求を同時に満たすことによって特徴付けられる。また本発明のITO粒子は、数nmから100nmまで粒径が制御されていることによっても特徴付けられる。詳細には、本発明のITO粒子は、その一次粒子の平均粒径が2.0〜10.0nm、特に3.0〜8.0nmという極めて微粒のものから、10.0〜50.0nmまでのものである。一次粒子の平均粒径は、本発明のITO粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)像に基づき、粒子を横切る最大長さを測定し、測定値を平均したものである。測定数はN=50とする。
【0011】
本発明のITO粒子は、上述のとおり微粒なものであることに加えて粒径が均一なものである。粒径の均一性に関しては、変動係数を尺度として表すことができる。本発明のITO粒子は、その変動係数が好ましくは10〜30%、更に好ましくは10〜20%である。変動係数は、(粒径の標準偏差/平均粒径)×100で算出される。標準偏差及び平均粒径は、50個以上のITO粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)像に基づいて測定された粒子の粒径に基づき算出することができる。
【0012】
本発明のITO粒子の形状に特に制限はないが、後述する製造方法に従い得られるITO粒子の場合には、形状は一般に立方体状、球状又はそれらの混合物である。しかし、ITOの生成条件や熟成の条件によっては他の形状となることもある。
【0013】
本発明のITO粒子が、上述のとおりの粒径や形状を有する場合、その比表面積は30〜80m2/g、特に40〜70m2/gとなることが好ましい。
【0014】
本発明のITO粒子における錫のドープ量は、Sn/Inのモル比で表して0.03〜0.15、特に0.04〜0.10であることが、導電性や透明性等のITOに要求される種々の特性が高くなる点から好ましい。Sn/Inのモル比は、例えばITO粒子を鉱酸に溶解し、その溶液を対象としてICP発光分析装置を用いて測定することができる。
【0015】
本発明のITO粒子は、これを公知の溶媒及びバインダ等と混合することで、導電性インクとなる。この導電性インクを基材に塗布し塗膜を形成し、該塗膜を所定温度で焼成することで、透明性及び導電性が高い薄膜電極や電磁波シールドを得ることができる。上述したとおり、本発明のITO粒子は微粒でかつ分散性の高いものなので、これを用いて得られた薄膜電極や電磁波シールドは、全光線透過率が高く、かつ導電性の高いものとなる。
【0016】
上述の物性を有する本発明のITO粒子は、好適には以下に説明する還元性有機溶媒を用いた方法で得ることができる。詳細には、反応の出発物質として、還元性有機溶媒に溶解した第四級アンモニウムイオンの水酸化物の溶液(以下、この溶液を「塩基性有機溶液」ともいう。)並びにインジウム源及び錫源を用いる。そして、この塩基性有機溶液中にインジウム源及び錫源を添加する。つまり、塩基性有機溶液中に、反応の出発物質を添加して反応を起こさせる。このような添加の方法を採用し、かつ後述する特定条件下での熟成工程を行うことで、意外にも、微粒でかつ分散性の高いITO粒子が生成することが判明した。また、数nmから100nmまでの範囲で均一な粒径を制御できることが判明した。この製造方法に対し、塩基性有機溶液に代えて塩基性水溶液を用いた場合には、ITOではなく、錫ドープ水酸化インジウムが主生成物となってしまう(後述する比較例2参照)。
【0017】
本発明のITO粒子を製造するために用いる塩基性有機溶液に含まれる第四級アンモニウムイオンの水酸化物としては、テトラアルキルアンモニウムイオンの水酸化物を用いることが好ましく、その具体例としては、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAOH)、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド(TEAOH)、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド(TBAOH)、テトラヘキシルアンモニウムヒドロキシド(THAOH)などが挙げられる。これらの化合物は1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。特に、テトラアルキルアンモニウムイオンの水酸化物としてTMAOHを用いることが、微粒で、かつ分散性の高いITO粒子を容易に得ることができる点から好ましい。第四級アンモニウムイオンの水酸化物に代えて、他の塩基性化合物、例えば水酸化ナトリウムを用いても、微粒でかつ分散性の高いITO粒子を得ることはできない(後述する比較例1参照)。
【0018】
塩基性有機溶液中における第四級アンモニウムイオンの水酸化物の濃度は、該塩基性有機溶液に添加されるインジウム源及び錫源の加水分解が生じ、目的とするITOが首尾良く生成する範囲であれば特に制限はない。具体的には、第四級アンモニウムイオンの水酸化物の濃度は0.4〜2.0mol/L、特に0.8〜1.2mol/Lとすることが好ましい。
【0019】
還元性有機溶媒は、インジウム源及び錫源を容易に溶解させる観点から、水に可溶であることが好ましい。また、還元性有機溶媒は、インジウム源及び錫源に対して還元作用を有するものである。該有機溶媒が還元作用を有することで、反応によって生成するITO中に酸素欠損を生じさせることができる。この観点から、還元性有機溶媒は還元性の水酸基を有していることが好ましい。
【0020】
上述の各観点から、還元性有機溶媒としては、ポリオール系化合物又はモノアルコール系化合物からなる有機溶媒を用いることが好ましい。ポリオール系の有機溶媒を用いると、一次粒子の平均粒径が2.0〜10.0nm、特に3.0〜8.0nmという極めて微粒のITO粒子が得られやすい。一方、モノアルコール系の有機溶媒を用いると、10.0〜50.0nm程度のITO粒子が得られやすい。ポリオール系の有機溶媒としては、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールなどが挙げられる。特にエチレングリコールを用いることが、微粒でかつ分散性の高いITO粒子を容易に得ることができる点から好ましい。また、モノアルコール系の有機溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、ブタノールなどが挙げられる。特にメタノールを用いることが、粒子径制御の観点から好ましい。
【0021】
このようにして調製された塩基性有機溶液中に、インジウム源及び錫源を添加する。インジウム源及び錫源は、これらを有機溶媒に溶解してなる溶液の状態で用いることが好ましい。この有機溶媒としては、塩基性有機溶液に含まれている有機溶媒と同様に、ポリオール系あるいはアルコール系有機溶媒等の還元性有機溶媒を用いることが好ましい。この場合、塩基性有機溶液に含まれている還元性有機溶媒と、インジウム源及び錫源を溶解するために用いられる還元性有機溶媒とは同種のものであってもよく、あるいは異種のものであってもよい。好ましくは同種のものを用いる。
【0022】
インジウム源及び錫源は、これらを有機溶媒に溶解した溶液が、同時に塩基性有機溶液中に添加されることが好ましい。同時添加を行うには、例えば(イ)インジウム源及び錫源の双方を含む有機溶液を、塩基性有機溶液中に添加する方法、及び(ロ)インジウム源を含む有機溶液と錫源を含む有機溶液を別個にかつ同時に塩基性有機溶液中に添加する方法が挙げられる。(イ)及び(ロ)のいずれの方法を採用する場合であっても、インジウム源及び錫源は、一括添加でもよく、あるいはある一定の時間にわたって添加してもよい。後者の場合には、添加の速度は一定でもよく、あるいは反応の進行に応じて添加の速度を変化させてもよい。この添加によって、液中にはITOが生成する。
【0023】
塩基性有機溶液中に添加されるインジウム源及び錫源の量は、インジウム源中のインジウムモル数及び錫源の中の錫のモル数の合計量に対する、塩基性有機溶液中の第四級アンモニウムイオンの水酸化物のモル数の比率が、2〜8、特に4〜8となるような量とすることが好ましい。また、インジウム源と錫源との比率は、モル比で表してSn/Inが0.03〜0.15、特に0.04〜0.10であることが好ましい。このような量のインジウム源及び錫源を添加することで、目的とするITO粒子を首尾良く生成させることができる。
【0024】
塩基性有機溶液中にインジウム源及び錫源を添加するに際しての温度は一般に室温とすることができる。具体的には10〜50℃の温度範囲において、塩基性有機溶液中にインジウム源及び錫源を添加することが好ましい。この温度範囲を採用することで、生成したITO粒子の成長反応が過度に進行しなくなり、微粒のITO粒子を容易に得ることができる。尤も、塩基性有機溶液を加熱した状態下に、インジウム源及び錫源を添加しても差し支えない。塩基性有機溶液の加熱温度は、50〜250℃、特に100〜200℃に設定することが好ましい。塩基性有機溶液を加熱した状態下に、インジウム源及び錫源を添加する場合には、反応系の雰囲気を、アルゴンガス雰囲気等の不活性雰囲気とすることが、溶媒の分解やインジウム源及び錫源の酸化を防ぐための点から好ましい。
【0025】
このようにしてITO粒子が生成したら、反応生成物の液を熟成工程に付す。熟成は、反応生成物の液をオートクレーブ内において自生圧力下に加熱することで行われる。この熟成を行うことでITO粒子の結晶性を高め、また所望の粒径に調整する。
【0026】
熟成工程における加熱温度は、190〜270℃、特に200〜250℃に設定することが、結晶性の高いITO粒子を容易に得ることができる観点から好ましい。熟成工程は、上述のとおりオートクレーブ内で行われるので、熟成工程における圧力は自生圧力となる。
【0027】
熟成工程は、所望の粒径を有するITO粒子が得られるまで継続すればよい。例えば、例えばITO粒子が生成した反応生成物の液をオートクレーブ内に設置してから起算して3〜96時間、特に12〜24時間にわたり加熱することが好ましい。熟成は、静置状態で行ってもよく、あるいは撹拌下に行ってもよい。
となるので好ましい。
【0028】
このようにして熟成工程が終了したら、オートクレーブ内から反応生成物の液を取り出し、液中の沈殿物をエタノール等の有機溶媒で1回又は2回以上洗浄した後、水で1回又は2回以上洗浄する。このようにして目的とするITO粒子が得られる。
【0029】
このようにして得られたITO粒子は、上述のとおり微粒かつ分散性の高いものである。このITO粒子は、インクやペーストの原料として用いることができる。これらのインクやペーストを基板等に塗布し加熱処理を行うことで、導電性及び透明性の高い透明導電膜を得ることができる。
【実施例】
【0030】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。
【0031】
〔実施例1〕
0.8mol/Lテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAOH、東京化成工業T0676、10%メタノール溶液)のエチレングリコール(EG、和光純薬工業、試薬特級)溶液200mLを、500mLの四ツ口フラスコに入れた。TMAOHは、予めエバポレータを用いてメタノールを除去して使用した。これとは別に、塩化インジウム(和光純薬工業、試薬特級)を0.09mol/L含み、かつ塩化第二スズ(和光純薬工業、試薬特級)を0.01mol/L含む混合EG溶液を調製した。このIn/Sn混合EG溶液200mLを、撹拌下にあるTMAOHのEG溶液200mL中に、40mL/minの速度で室温(25℃)下に連続添加してITOの生成を行った。添加完了後の液12mLをオートクレーブに移した。このオートクレーブを、予め250℃に加熱しておいた電気炉内に載置し、24時間静置して熟成を行った。熟成の終了後、オートクレーブから取り出した液を遠心分離機に設置して遠心分離を行い、沈殿物を分離採集した。採集した沈殿物をエタノールで分散させ、その後再び遠心分離機で固液分離した。得られた沈殿物に対して、更に水を用いた分散と固液分離を2回繰り返すことで沈殿物の洗浄を行い、実施例1に係るITO粉末を得た。
【0032】
実施例1に係るITO粒子のX線回折(XRD)測定結果を図1に示す。得られた回折パターンは、酸化インジウムの回折パターンと一致しており、立方晶系酸化インジウムの単一組成であることが判明した。
【0033】
このITO粒子をTEM観察した。得られたTEM像を図2に示す。生成したITO粒子は、立方体に近い形状の粒子であった。またTEM像から測定した一次粒子の平均粒径、標準偏差及び変動係数を、以下の表1に示す。図2に示すTEM像から明らかなように、このITO粒子は凝集の程度が低く、分散性の高いものであることが判る。
【0034】
〔実施例2〕
本実施例は、実施例1においてオートクレーブ内での熟成温度を低くした例である。具体的には、熟成時間を220℃とした。これ以外は実施例1と同様にしてITO粒子を得た。生成したITO粒子(一次粒子)は立方体に近い形状の粒子であった。更に、XRDパターンを測定したところ、酸化インジウムの単一組成であった。TEM像から測定した一次粒子の平均粒径、標準偏差及び変動係数を、以下の表1に示す。
【0035】
〔実施例3〕
本実施例は、実施例1において用いたTMAOHのEG溶液の濃度を0.4mol/Lに低くした例である。これ以外は実施例1と同様にしてITO粒子を得た。生成したITO粒子(一次粒子)のXRDパターンを測定したところ、酸化インジウムの単一組成であった。TEM像から測定した一次粒子の平均粒径、標準偏差及び変動係数を、以下の表1に示す。
【0036】
〔実施例4〕
本実施例では、実施例1において用いたTMAOHのEG溶液に代えて、TMAOHのジエチレングリコール(DEG)溶液を用いた。また、TMAOHのDEG溶液と、In/Sn混合DEG溶液との混合温度を100℃に高めた。詳細には、TMAOHのDEG溶液を撹拌しながら100℃まで昇温し、そこに室温(25℃)のIn/Sn混合DEG溶液を添加した。このとき、系中をアルゴンガス雰囲気に保った。これら以外は実施例1と同様にしてITO粒子を得た。生成したITO粒子(一次粒子)は立方体状であった。更に、XRDパターンを測定したところ、酸化インジウムの単一組成であった。TEM像から測定した一次粒子の平均粒径、標準偏差及び変動係数を、以下の表1に示す。
【0037】
〔実施例5〕
本実施例では、実施例1において用いたTMAOHのEG溶液に代えて、TMAOHのメタノール(MeOH)溶液を用いた。また、オートクレーブ内での熟成温度を低くした。具体的には、熟成温度を200℃とした。詳細には、TMAOHのMeOH溶液を撹拌しながら、そこに室温(25℃)のIn/Sn混合MeOH溶液を添加した。これら以外は実施例1と同様にしてITO粒子を得た。得られたITO粒子のTEM観察結果を図3に示す。生成したITO粒子(一次)は立方体状であった。更に、XRDパターンを測定したところ、酸化インジウムの単一組成であった。TEM像から測定した一次粒子の平均粒径、標準偏差及び変動係数を、以下の表1に示す。
【0038】
〔実施例6〕
本実施例では、実施例5におけるオートクレーブ内での熟成温度を190℃まで下げた。それ以外は実施例5と同様にしてITO粒子を得た。生成したITO粒子(一次)は立方体状であった。更に、XRDパターンを測定したところ、酸化インジウムの単一組成であった。TEM像から測定した一次粒子の平均粒径、標準偏差及び変動係数を、以下の表1に示す。
【0039】
〔実施例7〕
本実施例では、実施例5において用いたTMAOHのMeOH溶液に代えて、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド(TBAOH)のMeOH溶液を用いた。それ以外は実施例5と同様にしてITO粒子を得た。生成したITO粒子(一次)は立方体状であった。更に、XRDパターンを測定したところ、酸化インジウムの単一組成であった。TEM像から測定した一次粒子の平均粒径、標準偏差及び変動係数を、以下の表1に示す。
【0040】
〔比較例1〕
本比較例では、実施例1において用いたTMAOHのEG溶液に代えて、0.8mol/LのNaOHのEG溶液を用いた。また、TMAOHのEG溶液と、In/Sn混合EG溶液との混合温度を100℃に高めた。詳細には、NaOHのEG溶液を撹拌しながら100℃まで昇温し、そこに、室温(25℃)のIn/Sn混合EG溶液を添加した。このとき、系中をアルゴンガス雰囲気に保った。これら以外は実施例1と同様にしてITO粒子を得た。得られたITO粒子のTEM像を図4示す。生成したITO粒子(一次粒子)は、凝集が激しく、その一次粒子の平均粒径を測定することができなかった。二次粒子径は100nm以上の不定形であった。XRDパターンを測定したところ、酸化インジウムの単一組成であった。
【0041】
〔比較例2〕
本実施例は、実施例1において、TMAOHのEG溶液に代えて、TMAOHの水溶液を用いた例である。これ以外は実施例1と同様にした。得られた粒子のTEM像を図5示す。生成した粒子(一次粒子)は100nm程度の直方体状に近い形状であった。XRDパターンを測定したところ、この粒子は水酸化インジウムの単一組成であった。
【0042】
〔評価〕
実施例で得られたITO粒子及び比較例で得られた粒子についてインク通過性を以下の方法で評価した。その結果を以下の表1に示す。
【0043】
〔インク通過性の評価〕
ITO粒子10gとエチレングリコール40gとを混合した液に、ジルコニアビーズ(φ0.3mm)300gを加え、ペイントシェイカーを用いて3時間分散処理を行った。分散によって得られたスラリーを、加圧濾過器を使用して、0.8μmと0.45μmのメンブレンフィルターをそれぞれ通過させた。そのときのITO粒子の通過量及び時間を測定した。ITO粒子の通過量は、全量通過したときを「○」、50%以上90%未満の粒子が通過したときを「△」、50%未満の粒子しか通過しないときを「×」とした。
【0044】
【表1】

【0045】
表1及び図2〜図5に示す結果から明らかなように、各実施例で得られたITO粒子は、比較例1で得られたITO粒子よりもインク通過性が良好であることから、分散性が高く、粒径も制御されたものであることが判る。また、実施例1ないし4と、実施例5ないし7との対比から明らかなように、ポリオール系の有機溶媒を用いると、微粒のITO粒子が得られる一方、モノアルコール系の有機溶媒を用いると、それよりも大きな粒径のITO粒子が得られることが判る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第四級アンモニウムイオンの水酸化物が還元性有機溶媒に溶解してなる溶液に、インジウム源及び錫源を添加し反応を行い、次いでオートクレーブ内において加熱して自生圧力下に熟成を行うことで得られた錫ドープ酸化インジウム粒子。
【請求項2】
第四級アンモニウムイオンの水酸化物としてテトラメチルアンモニウムヒドロキシドを用いて得られた請求項1記載の錫ドープ酸化インジウム粒子。
【請求項3】
還元性有機溶媒としてポリオール系化合物又はモノアルコール系化合物を用いて得られた請求項1又は2記載の錫ドープ酸化インジウム粒子。
【請求項4】
ポリオール系化合物としてグリコール又はジエチレングリコールを用いるか、又はモノアルコール系化合物としてメタノールを用いて得られた請求項3記載の錫ドープ酸化インジウム粒子。
【請求項5】
オートクレーブ内における熟成温度を190〜270℃に設定して得られた請求項1ないし4のいずれかに記載の錫ドープ酸化インジウム粒子。
【請求項6】
前記の溶液に、インジウム塩及び錫源を室温下に添加して反応させて得られたものである請求項1ないし5のいずれかに記載の錫ドープ酸化インジウム粒子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2013−87027(P2013−87027A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−230582(P2011−230582)
【出願日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成20年度経済産業省委託研究「希少金属代替材料開発プロジェクト」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】